【文献】
FREDERICTK T. WALL,The Structure of Copolymers. 11,J. Am. Chem. Soc.,1944年,66(12),pages 2050-2057
【文献】
Robert Z. Greenley,Q and e Values for Free Radical Copolymerizations of Vinyl Monomers and Telogens,POLYMER HANDBOOK,1999年,FOURTH EDITION,pages II/309-319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重合工程において、前記式(1)で表される含フッ素オレフィンと、前記式(2)で表されるビニルエーテルとのモル比である(含フッ素オレフィン)/(ビニルエーテル)が45/55〜55/45である請求項1〜3のいずれかに記載の含フッ素オレフィン/ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の含フッ素オレフィン/ビニルアルコール共重合体(以下、「共重合体(A)」という。)の製造方法は、下記工程を有する。
重合工程:下式(1)で表される含フッ素オレフィン(以下、「含フッ素オレフィン(a)」という。)と、下式(2)で表されるビニルエーテル(以下、「ビニルエーテル(b)」という。)とを共重合させる工程。
脱保護工程:前記重合工程で得られた共重合体におけるビニルエーテル(b)に基づく重合単位のR
1を水素原子に置換し、水酸基を生じさせる工程。
CF
2=CFX (1)
CH
2=CHOR
1 (2)
(ただし、前記式中、Xはフッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、または−OC
aF
2a+1(aは1〜3の整数である。)である。また、R
1は脱保護反応により水素原子に置換される保護基である。)
【0011】
つまり、本発明の製造方法は、重合工程において含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位と、ビニルエーテル(b)に基づく重合単位を有する含フッ素オレフィン/ビニルエーテル共重合体(以下、「共重合体(B)」という。)を得た後、共重合体(B)におけるビニルエーテル(b)に基づく重合単位のR
1を脱保護反応により水素原子に置換することで、含フッ素オレフィンに基づく重合単位と、ビニルアルコールに基づく重合単位とを有する共重合体(A)を得る方法である。
【0012】
重合工程:
重合工程では、前記式(1)で表される含フッ素オレフィン(a)と、前記式(2)で表されるビニルエーテル(b)とを共重合させることにより、含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位とビニルエーテル(b)に基づく重合単位を有する共重合体(B)を得る。
含フッ素オレフィン(a)の具体例としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられる。なかでも、含フッ素オレフィン(a)としては、耐熱性に優れることから、テトラフルオロエチレン、またはクロロトリフルオロエチレンが好ましく、テトラフルオロエチレンが特に好ましい。
含フッ素オレフィン(a)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ビニルエーテル(b)は、ビニルアルコールの水酸基の水素原子が脱保護可能な保護基で置換されているビニルエーテルである。
R
1は、水酸基をエーテルとして保護し、脱保護反応により水素原子に置換されて水酸基を生じる保護基であり、有機化学分野で通常用いられる保護基が使用でき、入手容易性の点から、−CR
2R
3R
4(R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基である。)、炭素数1〜6のアルコキシメチル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、またはトリアルキルシリル基(−Si(R
5)
3、R
5は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基である。)が好ましく、−CR
2R
3R
4がより好ましい。
【0014】
ビニルエーテル(b)としては、t−ブチルビニルエーテル、1,1−ジメチルプロピルビニルエーテル、メトキシメチルビニルエーテル、テトラヒドロフリルビニルエーテル、テトラヒドロピラニルビニルエーテル、ビニロキシトリメチルシラン、またはビニロキシジメチルフェニルシランが好ましく、入手容易性の点から、t−ブチルビニルエーテルが特に好ましい。
ビニルエーテル(b)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
含フッ素オレフィン(a)とビニルエーテル(b)とは、交互共重合性が高いため、得られる共重合体(B)の交互共重合比率は両単量体の共重合反応性比から確率計算して95%以上となる。前記交互共重合比率とは、隣り合う2つの重合単位の組み合わせ数の合計に対する、異なる単量体に基づく重合単位が隣り合っている組み合わせ数の比率である。例えば、共重合体(B)がababbabababで表される共重合体(ただし、aは含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位を示し、bはビニルエーテル(b)に基づく重合単位を示す。)である場合、隣り合う2つの重合単位の組み合わせ数は10であり、異なる単量体に基づく重合単位が隣り合っている組み合わせ数が9であるので、交互共重合比率は90%である。
【0016】
共重合体(B)の交互共重合比率が95%以上であるので、共重合体(B)から得られる共重合体(A)は、含フッ素オレフィン(a)とビニルアルコールの交互共重合比率が95%以上のとなる。該交互共重合比率の高い共重合体(A)は、含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位と、ビニルアルコールに基づく重合単位が均一に配置されているため、耐候性および耐水性が向上する。また、例えば、共重合体(A)が有する水酸基に硬化剤を反応させて硬化物を形成する場合には、水酸基が均一に分布しているために、水酸基の反応性がより安定する。
【0017】
共重合体(B)を得る重合工程においては、含フッ素オレフィン(a)およびビニルエーテル(b)に加えて、下式(3)で表されるビニルエーテル(c)をさらに共重合させてもよい。
CH
2=CHOR
3 (3)
(ただし、前記式(3)中、R
3は脱保護工程において脱保護反応しない基である。)
【0018】
ビニルエーテル(c)は、脱保護工程においてR
3が脱保護反応しないビニルエーテルである。脱保護工程においてR
3が脱保護反応しないとは、ビニルエーテル(b)のR
1を脱保護反応により水素原子に置換する反応条件においてR
3が脱保護反応しないことを意味する。つまり、R
3は、R
1を脱保護反応により水素原子に置換する反応条件以外の条件であれば、脱保護反応する基であってもよい。
ビニルエーテル(c)を用いれば、脱保護工程において、共重合体(B)におけるビニルエーテル(c)に基づく重合単位のR
3は脱離せず、得られる共重合体(A)においてビニルエーテル(c)に基づく重合単位がそのまま維持される。
ビニルエーテル(c)におけるR
3は、炭素数1〜6の第1級もしくは第2級アルキル基、該アルキル基の水素原子の1個以上が置換基で置換された基が好ましい。前記置換基としては、水酸基、アミノ基、グリシジル基等の官能基、フッ素原子等が挙げられる。
【0019】
ビニルエーテル(c)の具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等の官能基含有ビニルエーテル;ヘプタフルオロペンチルビニルエーテル等の含フッ素ビニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
ビニルエーテル(c)を用いる場合、ビニルエーテル(b)及びビニルエーテル(c)のいずれかのビニルエーテルと、含フッ素オレフィン(a)が交互に共重合して共重合体(B)が得られる。ビニルエーテル(b)とビニルエーテル(c)の重合反応性はほぼ等しいため、共重合体(B)における含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位の両側が、ビニルエーテル(b)に基づく重合単位とビニルエーテル(c)に基づく重合単位のいずれになるかは確率の問題となる。
ビニルエーテル(c)を用いる場合、共重合体(B)におけるビニルエーテル(c)に基づく重合単位では脱保護反応が起きない。そのため、ビニルエーテル(b)とビニルエーテル(c)の比率を調節することにより、脱保護工程後の共重合体(A)におけるビニルアルコールに基づく重合単位の比率を調節できる。これにより、共重合体(A)における水酸基の量を調節することで、共重合体(A)の親水性を調節できる。
【0021】
前記含フッ素オレフィン(a)、ビニルエーテル(b)、および必要に応じて用いるビニルエーテル(c)をラジカル重合させることにより、共重合体(B)が得られる。ビニルエーテル基を有する単量体(ビニルエーテル(b)およびビニルエーテル(c))は、酸性条件下において、異性化、分解あるいは単独カチオン重合を起こすおそれがある。そのため、重合を安定に進行させる点から、塩基性条件下でラジカル重合を行うことが好ましく、pHを8〜9とすることがより好ましい。重合におけるpHを塩基性条件に調節する方法としては、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等を重合媒体中に加える方法が好ましい。
【0022】
ビニルエーテル(c)を用いない場合、共重合に用いる含フッ素オレフィン(a)とビニルエーテル(b)のモル比(a/b)は、40/60〜60/40が好ましく、45/55〜55/45がより好ましく、50/50が特に好ましい。モル比(a/b)が前記範囲内であれば、含フッ素オレフィン(a)とビニルエーテル(b)が交互に共重合した交互共重合体が得られやすい。
【0023】
また、ビニルエーテル(c)を用いる場合、共重合に用いる含フッ素オレフィン(a)と、ビニルエーテル(b)およびビニルエーテル(c)の合計のモル比(a/(b+c))は、40/60〜60/40が好ましく、45/55〜55/45がより好ましく、50/50が特に好ましい。モル比(a/(b+c))が前記範囲内であれば、含フッ素オレフィン(a)と、ビニルエーテル(b)またはビニルエーテル(c)とが交互に共重合した交互共重合体が得られやすい。
また、この場合、ビニルエーテル(b)とビニルエーテル(c)とのモル比(b/c)は、45/5〜10/40が好ましく、40/10〜25/25が特に好ましい。
【0024】
ラジカル重合開始源としては、ラジカル重合開始剤あるいは電離性放射線が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、重合形式あるいは重合媒体に応じて水溶性開始剤あるいは油溶性開始剤を適宜使用できる。
水溶性開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩と、過酸化水素、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤との組み合わせからなるレドックス開始剤;前記レドックス開始剤に少量の鉄、第一鉄塩、硝酸銀等を共存させた無機系開始剤;またはジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド等の2塩基酸過酸化物;アゾビスイソブチルアミジン等の2塩基酸塩等の有機系開始剤が挙げられる。
油溶性開始剤としては、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル型過酸化物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシジカーボネート;ベンゾイルパーオキシド;アゾビスイソブチルニトリル等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、取り扱いの容易性等の点から、t−ブチルパーオキシピバレート等が好ましい。
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ラジカル重合開始剤の使用量は、その種類、重合条件等に応じて適宜変更でき、共重合に用いる単量体の全量に対して、0.005〜5質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。
【0026】
共重合形式としては、特に限定されず、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が採用できる。なかでも、キシレン、トルエン等の芳香族化合物、t−ブチルアルコール等のアルコール類、エステル類、フロロクロロカーボン類等を重合媒体とする溶液重合が好ましい。
重合媒体の量は、共重合に用いる単量体の全量に対して、10〜200質量%が好ましく、50〜100質量%が特に好ましい。
また、共重合方式としては、回分式、連続式、半連続式のいずれの形式で行ってもよい。
【0027】
共重合温度は、重合開始源、重合媒体等に応じて適宜最適値が選択でき、−30℃以上150℃以下が好ましく、0℃以上100℃以下がより好ましく、20℃以上70℃以下が最も好ましい。
共重合圧力も同様に、重合開始源、重合媒体等に応じて適宜選択でき、0.1〜10MPaが好ましく、0.2〜2MPaが特に好ましい。
共重合時間は、4〜24時間が好ましく、6〜12時間がより好ましい。
共重合体(B)の分子量は、単量体と重合媒体の比率の制御、あるいは連鎖移動剤の採用により調節できる。
【0028】
共重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、3,000〜300,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましい。共重合体(B)のMnが3,000以上であれば、コーティング膜の堅牢性が維持されやすい。共重合体(B)のMnが300,000以下であれば、フィルムやシートの成形が容易となる。
また、用途がコーティング分野である場合、共重合体(B)のMnは、3,000〜30,000が好ましい。フィルムやシートとして用いられる場合、共重合体(B)のMnは、10,000〜100,000がより好ましい。
【0029】
共重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。共重合体(B)のMw/Mnが3以下であれば、塗装生産性の向上やフィルム強度の向上が期待される。
【0030】
脱保護工程:
脱保護工程では、前記重合工程で得られた共重合体(B)におけるビニルエーテル(b)に基づく重合単位のR
1を脱保護反応により水素原子に置換し、水酸基を生じさせる。これにより、ビニルエーテル(b)に基づく重合単位がビニルアルコールに基づく重合単位に変換され、含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位とビニルアルコールに基づく重合単位を有する共重合体(A)が得られる。共重合体(B)にビニルエーテル(c)に基づく重合単位が含まれている場合は、該ビニルエーテル(c)に基づく重合単位のR
3は脱保護反応せずそのまま維持されるので、含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位、ビニルアルコールに基づく重合単位、およびビニルエーテル(c)に基づく重合単位を有する共重合体(A)が得られる。
【0031】
共重合体(B)のビニルエーテル(b)に基づく重合単位におけるR
1を脱保護反応により水素原子に置換する方法としては、通常行われる、酸、熱あるいは光による、保護化したアルコールの脱保護反応が採用できる。なかでも、得られる共重合体(A)が着色することを抑制しやすい点から、酸によってR
1を水素原子に置換することが好ましい。
脱保護反応に用いる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸、酪酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸等が挙げられる。
【0032】
酸による脱保護反応は、(1)硫酸/エタノール/水の混合溶液中での脱保護反応、(2)塩酸/ジオキサンの混合溶液中での脱保護反応、(3)トリフルオロ酢酸/塩化メチレンの混合溶液中での脱保護反応が好ましい。ただし、酸による脱保護反応は、前記(1)〜(3)の反応系には限定されず、水系で行ってもよく、非水系で行ってもよい。
また、酸による脱保護反応は、光の照射により酸を発生する光酸発生剤を用いて行ってもよい。光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ハロゲン含有化合物、ジアゾケトン化合物、スルホン化合物、スルホン酸化合物等が挙げられる。具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムトリフレート、フェニル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、メトキシフェニル−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、4−トリスフェナシルスルホン、1,8−ナフタレンジカルボン酸イミドトリフレート等が挙げられる。
【0033】
脱保護工程においては、共重合体(A)に求められる用途に応じて、共重合体(B)が有する全ての保護基が脱保護される前に脱保護反応を途中で終了することにより、含フッ素オレフィン(a)に基づく重合単位と、ビニルエーテル(b)に基づく重合単位と、ビニルアルコールに基づく重合単位とを有する共重合体(A)としてもよい。脱保護反応を途中で終了させて、ビニルエーテル(b)に基づく重合単位とビニルアルコールに基づく重合単位との比率を調節することにより、得られる共重合体(A)の親水性、結晶性等を調節できる。
【0034】
以上説明した本発明の製造方法によれば、従来の含フッ素オレフィンと酢酸ビニルを共重合させて得た含フッ素オレフィン/酢酸ビニル共重合体を加水分解する方法とは異なり、共重合体(B)のビニルエーテル(b)に基づく重合単位における脱保護において、着色が抑制される。また、酸による脱保護であっても充分な反応速度が得られる。そのため、高品質な含フッ素オレフィン/ビニルアルコール共重合体を充分に高い生産性で製造できる。本発明において酸による脱保護が充分な反応速度で進行する要因としては、ビニルエーテル(b)のエーテル性酸素原子の方が、酢酸ビニルの酢酸基よりもプロトネーションしやすいためであると推定される。
【0035】
また、従来の含フッ素オレフィンと酢酸ビニルとの共重合では含フッ素オレフィンと酢酸ビニルとがランダムに共重合するため、両単量体の交互共重合性が低い。そして、該含フッ素オレフィン/酢酸ビニル共重合体から得られる含フッ素オレフィン/ビニルアルコール共重合体内における水酸基の位置もランダムであった。そのため、該含フッ素オレフィン/ビニルアルコール共重合体には、含フッ素オレフィンに基づく重合単位の割合が高い部分と、ビニルアルコールに基づく重合単位の割合が高い部分によって特性にばらつきがあり、耐水性、耐熱性が低下する。
これに対し、本発明の製造方法によれば、含フッ素オレフィン(a)と、ビニルエーテル(b)及びビニルエーテル(c)が実質的に交互に重合するために、高分子鎖中に水酸基が均一に分布する。そのため、水酸基が特定の場所に集中しないので、高分子鎖の特定の部分の親水性が極端に高くなることを抑制でき、共重合体(A)は、優れた耐水性を発現する。また、共重合体(A)は、ビニルアルコールに基づく重合単位が特定の場所に集中しないので、優れた耐熱性が得られやすい。
共重合体(A)の耐熱性は、後述する10質量%熱分解開始温度(以下、「Td
10[℃]」ともいう。)によって評価できる。本発明で得られる共重合体(A)の10質量%熱分解開始温度は、340℃以上が好ましく、360〜400℃がより好ましい。
【0036】
例えば、共重合体(A)を塗料用途とする場合は、水酸基を均一に配列させた塗膜を形成できる。さらに、共重合体(A)と、水酸基と反応するメラミン、イソシアネート等の硬化剤等との組成物から、架橋構造を有する硬化物からなる塗膜やフィルム等を形成することもできる。この場合には、ビニルエーテル(c)を用いずに水酸基が均一に分布することで、水酸基の反応性が安定して得られるという効果も得られる。また、前記のように硬化剤を用いる場合等においては、脱保護工程を行うタイミングは特に限定されず、例えば、共重合体(B)、脱保護反応に用いる酸等の成分、および硬化剤等を混合して得た組成物を、フィルムあるいはシートに成形した後に、光あるいは熱を加えることにより水酸基を生じさせて架橋構造を有する硬化物からなるフィルムあるいはシートとすることもできる。すなわち、この場合には、共重合体(B)におけるビニルエーテル部位を潜在的硬化部位として使用してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[測定方法]
(数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn))
各例で得られた共重合体の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8220GPC」を使用し、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)で測定した。それらの値は、標準物質をポリスチレンとする換算値である。溶離液はテトラヒドロフランを用いた。
【0038】
(ガラス転移温度)
共重合体のガラス転移温度は、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製「DSC Q−100」を使用し、N
2ガス雰囲気下で昇温速度10℃/分で測定した。
【0039】
(10質量%熱分解開始温度)
共重合体の10質量%熱分解開始温度は、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製TGA Q−500を使用し、空気中、昇温速度10℃/分で測定した。
【0040】
(共重合組成)
共重合体の共重合組成は、共重合体のフッ素質量分析値から算出した。ただし、実施例6では、さらに
13C−NMR測定結果と組み合せて算出した。
【0041】
(共重合体の構造)
共重合体の構造については、IRスペクトル、
1H−NMRおよび
13C−NMRスペクトルの測定から同定した。
【0042】
[実施例1]
重合工程:
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、t−ブチルアルコールの79.0g、ビニルエーテル(b)であるt−ブチルビニルエーテル(以下、「TBVE」という。)の26.7g、炭酸カリウムの0.48g、およびパーブチルパーピバレート(以下、「PBPV」という。)の70%イソオクタン溶液の0.46gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返して系内の酸素を除去した。次いで、含フッ素オレフィン(a)であるテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」という。)の26.7gをオートクレーブ中に導入し、55℃まで加熱した。この時点での圧力は1.56MPaを示した。その後、7時間重合を続行し、圧力が1.12MPaまで低下したところでオートクレーブを水冷し、未反応TFEをパージして重合を停止させた。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した共重合体B1を析出させた後、真空乾燥を行った。共重合体B1の収量は22.0g、単量体の反応率は41%であった。共重合体B1の
13C−NMRスペクトルを
図1(A)、IRスペクトルを
図2(A)に示す。
フッ素質量分析の結果、共重合体B1の共重合組成比はTFE/TBVE=51/49(モル%)であった。また両単量体の共重合反応性比からの計算で実質的に交互構造(交互共重合比率95%以上)を有していることが分かった。
【0043】
脱保護工程:
前記共重合体B1の2.0g、濃硫酸の0.5mL、エタノールの50mL、水の1mLを100mLフラスコに入れ、90℃で加熱攪拌し、脱保護反応を行った。この反応系は3〜4時間で均一溶液となった。反応を合計12時間続行した後、反応液を水中に滴下し、共重合体を析出させ、水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.42gの白色の共重合体A1を単離した。共重合体A1の
13C−NMRスペクトルを
図1(B)、IRスペクトルを
図2(B)に示す。
13C−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A1においては、加水分解により97%以上の保護基(t−ブチル基)が脱離して水酸基が生成していることを確認した。
【0044】
[実施例2]
実施例1で得られた共重合体B1を用いた。
脱保護工程:
前記共重合体B1の2.0g、4規定の塩酸の50mL、1,4−ジオキサンの1mLを100mLフラスコに入れ、90℃で加熱攪拌し、脱保護反応を行った。この反応系は次第に均一溶液となった。反応を合計12時間続行した後、反応液を水中に滴下し、共重合体A2を析出させ、水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.49gの共重合体A2を単離した。
1H−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A2においては、97%以上の保護基(t−ブチル基)が脱離していることを確認した。
【0045】
[実施例3]
実施例1で得られた共重合体B1を用いた。
脱保護工程:
前記共重合体B1の2.0g、トリフルオロ酢酸の50mL、塩化メチレンの1mLを100mLフラスコに入れて溶解させた後、室温で攪拌した。合計48時間反応を続行した後、析出した共重合体を水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.33gの共重合体A3を単離した。
1H−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A3においては、97%以上の保護基(t−ブチル基)が脱離していることを確認した。
【0046】
[実施例4]
重合工程:
内容積30mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、t−ブチルアルコールの8.97g、ビニルエーテル(b)であるテトラヒドロピラニルビニルエーテル(以下、「THPVE」という。)の7.74g、炭酸カリウムの0.124g、およびPBPVの70%イソオクタン溶液の0.298gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返し、系内の酸素を除去した。次いで、TFEの6.1gをオートクレーブ中に導入し、65℃まで加熱した。この時点で圧力は1.75MPaを示した。その後、5時間重合を続行し、圧力が0.59MPaまで低下したところでオートクレーブを水冷し、未反応TFEをパージして重合を停止した。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した共重合体B2を析出させた。共重合体B2の収量は9.04g、単量体の反応率は65.3%であった。
フッ素質量分析の結果、共重合体B2の共重合組成比はTFE/THPVE=47/53(モル%)であった。両単量体の共重合反応性比からの計算で実質的に交互構造(交互共重合比率95%以上)を有していることが分かった。
【0047】
脱保護工程:
共重合体B2を用いた以外は実施例1と同様にして脱保護工程を行い、共重合体A4を得た。
13C−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A4においては、95%以上の保護基(テトラヒドロピラニル基)が脱離していることを確認した。
【0048】
[実施例5]
重合工程:
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)にt−ブチルアルコールの79.0g、TBVEの26.7g、炭酸カリウムの0.52g、およびPBPVの70%イソオクタン溶液の0.47gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返し、系内の酸素を除去した。次いで、含フッ素オレフィン(a)であるクロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」という。)の31.1gをオートクレーブ中に導入し、55℃まで加熱し、7時間重合を続行した。その後、オートクレーブを水冷し、未反応CTFEをパージして重合を停止した。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した共重合体B3を析出させた。共重合体B3の収量は10.22g、単量体の反応率は17.7%であった。
フッ素質量分析の結果、共重合体B3の共重合組成比はCTFE/TBVE=49/51(モル%)であった。
【0049】
脱保護工程:
共重合体B3を用いた以外は実施例1と同様にして脱保護工程を行い、共重合体A5を得た。
13C−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A5においては、95%以上の保護基(t−ブチル基)が脱離していることを確認した。共重合体A5のガラス転移温度は不鮮明であった。
【0050】
[実施例6]
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、t−ブチルアルコールの79.0g、TBVEの13.4g、ビニルエーテル(c)であるシクロヘキシルビニルエーテル(以下、「CHVE」という。)の16.8g、炭酸カリウムの0.52g、およびPBPVの70%イソオクタン溶液の0.51gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返し系内の酸素を除去した。次いで、CTFEの26.7gをオートクレーブ中に導入し、55℃まで加熱し、7時間重合を続行した。その後、オートクレーブを水冷し、未反応CTFEをパージして重合を停止した。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した共重合体B4を析出させ、真空乾燥を行った。共重合体B4の収量は30.1g、単量体の反応率は53%であった。
フッ素質量分析および
13C−NMR測定の結果、共重合体B4の共重合組成比はCTFE/TBVE/CHVE=51/24/25(モル%)であった。また単量体の共重合反応性比からの計算で実質的に交互構造(交互共重合比率95%以上)を有していることが分かった。
【0051】
脱保護工程:
共重合体B4を用いた以外は実施例1と同様にして脱保護工程を行い、共重合体A6を得た。
1H−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体A6においては、95%以上の保護基(t−ブチル基)が脱離していることを確認した。また、CHVEに基づく重合単位は、フッ素質量分析からそのまま残存していることが確認された。
【0052】
[比較例1]
重合工程:
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、酢酸メチルの61.9g、酢酸ビニル(以下、「VAc」という。)の9.1g、およびPBPVの70%イソオクタン溶液の0.39gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返し、系内の酸素を除去した。次いで、TFEの20.9gをオートクレーブ中に導入した後、55℃まで加熱した。この時点で圧力は1.23MPaを示した。その後、1時間重合を続行し、圧力が0.75MPaまで低下したところでオートクレーブを水冷し、未反応TFEをパージして重合を停止させた。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、共重合体C1を析出させ、真空乾燥を行った。共重合体C1の収量は18.5g、単量体の反応率は62%であった。
フッ素質量分析の結果、共重合体C1の共重合組成比はTFE/VAc=49/51(モル%)であった。共重合体C1の交互共重合比率は、両単量体の共重合反応性比からの計算で80〜85%であった。
【0053】
脱保護工程:
前記共重合体C1の2.0g、濃硫酸の0.5mL、エタノールの50mL、水の1mLを100mLフラスコに入れ、90℃で加熱攪拌しながら24時間反応を行った。反応後、フッ素質量分析値より脱保護率を算出したところ、約50%であった。さらに加熱を続けると反応系は次第に均一溶液となった。合計72時間反応を続行した後、反応液を水中に滴下し、共重合体D1を析出させ、水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.42gの共重合体D1を単離した。
13C−NMRスペクトルとIRスペクトルの測定により、共重合体D1においては、97%以上の保護基(アセチル基)が脱離して水酸基が生成したことを確認した。
【0054】
[比較例2]
比較例1で得られた共重合体C1を用いた。
脱保護工程:
前記共重合体C1の2.0g、エタノールの50mL、30質量%の苛性ソーダ水の3.5mLを100mLフラスコに入れ、90℃で加熱攪拌しながら24時間反応を行ったところ、反応系が赤褐色となった。反応液を水中に滴下し、共重合体D2を析出させ、水で洗浄した後、40℃で真空乾燥を行い、1.46gの共重合体D2を単離した。共重合体D2は黄色に着色していた。
【0055】
[比較例3]
重合工程:
内容積200mLのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧3MPa)に、t−ブチルアルコールの79.0g、CHVEの33.6g、炭酸カリウムの0.54g、およびPBPVの70%イソオクタン溶液の0.46gを仕込み、N
2ガスで加圧パージを繰り返し、系内の酸素を除去した。次いで、TFEの26.7gをオートクレーブ中に導入した後、55℃まで加熱した。この時点で圧力は1.54MPaを示した。その後、6時間重合を続行し、圧力が0.75MPaまで低下したところでオートクレーブを水冷し、未反応TFEをパージして重合を停止させた。得られた重合体溶液をメタノール中に投入し、生成した共重合体C2を析出させた後、真空乾燥を行った。共重合体D2の収量は42.2g、単量体の反応率は70%であった。
フッ素質量分析の結果、得られた共重合体C2の共重合組成比はTFE/CHVE=50/50(モル%)であった。
【0056】
脱保護工程:
共重合体C2を用いて、実施例1と同じ条件で脱保護反応を試みた。48時間の加熱攪拌後、共重合体D3を回収し、真空乾燥を行った。共重合体D3をIRスペクトルにて分析したところ、反応前後でスペクトルに全く変化がなく、脱保護反応が進行していないことが分かった。すなわち、共重合体D3は、共重合体C2と同じ共重合体であった。
実施例および比較例で得られた共重合体の数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)、10質量%熱分解開始温度(Td
10)および融点(Tm)の測定結果、ならびに脱保護工程後の着色の有無を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、ビニルエーテル(b)を用いて製造した実施例1〜4の共重合体(A1〜A4)は、着色もなく、高品質であった。加えて、実施例1〜6で得られた共重合体(A1〜A6)は、10質量%熱分解開始温度が高く、耐熱性が優れていた。
【0059】
一方、酢酸ビニルを用いて製造した比較例1および2の共重合体(D1及びD2)は、実施例1〜4の共重合体(A1〜A4)に比べ、10質量%熱分解開始温度が低く、耐熱性が劣っていた。これは、酢酸ビニルに基づく重合単位が連続したことにより、ビニルアルコールに基づく重合単位が連続する部分が生じ、その部分が熱により切断されやすいためであると考えられる。
また、比較例1の酸による脱保護工程には72時間を要し、実施例1の同じ条件の酸による脱保護工程の所要時間である12時間と比較して生産性が劣っていた。
また、酢酸ビニルを用いて製造した共重合体C1を塩基性条件下で加水分解することにより製造した比較例2の共重合体D2は、黄色の着色が見られ、品質が劣っていた。
また、ビニルエーテル(b)を用いずにビニルエーテル(c)のみを用いた比較例3(共重合体C2)では、脱保護工程において脱保護反応が進行せず、目的の共重合体(A)が得られなかった。