特許第5796598号(P5796598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796598
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】凹凸パターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20151001BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20151001BHJP
   G03F 1/26 20120101ALI20151001BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20151001BHJP
【FI】
   C03C15/00 D
   H01L21/30 502D
   G03F1/26
   G03F1/60
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-100281(P2013-100281)
(22)【出願日】2013年5月10日
(62)【分割の表示】特願2008-558998(P2008-558998)の分割
【原出願日】2007年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-199425(P2013-199425A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2013年5月15日
(31)【優先権主張番号】11/514,997
(32)【優先日】2006年9月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】生田 順亮
(72)【発明者】
【氏名】菊川 信也
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−088743(JP,A)
【文献】 特開2003−176143(JP,A)
【文献】 特開2000−054169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00
C03C 19/00
C03C 3/06
C03B 20/00
G03F 1/26
G03F 1/60
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)仮想温度分布が40℃以下であり、かつハロゲン濃度が400ppm未満の石英ガラス基板を用意する工程と、
(b)前記石英ガラス基板の表面に感光性有機膜を形成する工程と、
(c)前記感光性有機膜に凹凸パターンを形成する工程と、
(d)前記石英ガラス基板表面の感光性有機膜の凹パターンが形成された部分をエッチングする工程と、
(e)前記石英ガラス基板表面の凸パターンの感光性有機膜を除去する工程と、
を有する石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項2】
(a)仮想温度分布が40℃以下であり、ハロゲン濃度が400ppm以上であり、かつ当該ハロゲン濃度の分布が400ppm以下の石英ガラス基板を用意する工程と、
(b)前記石英ガラス基板の表面に感光性有機膜を形成する工程と、
(c)前記感光性有機膜に凹凸パターンを形成する工程と、
(d)前記石英ガラス基板表面の感光性有機膜の凹パターンが形成された部分をエッチングする工程と、
(e)前記石英ガラス基板表面の凸パターンの感光性有機膜を除去する工程と、
を有する石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項3】
前記ハロゲンが塩素またはフッ素である請求項1または2に記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項4】
前記(d)工程において、フッ化水素酸溶液、フッ化アンモニウム溶液または水酸化カリウム溶液のいずれかによって石英ガラス基板のエッチングを行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項5】
前記(d)工程において、F、SF、CHF、CF、NFまたはCHClのいずれかのガスによって石英ガラス基板のエッチングを行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項6】
前記(e)工程において、アルカリ性溶液、オゾンガスまたは硫酸と過酸化水素水との混合液のいずれかを用いて感光性有機膜を除去する請求項1〜5のいずれか1項に記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【請求項7】
前記(c)工程において
(c1)凹パターンに該当する領域の感光性有機膜にのみ電子線、X線または波長180〜400nmの紫外線を照射して感光性有機膜を露光する工程と、
(c2)アルカリ性溶液または酸素ガスを用いて露光された感光性有機膜を除去する工程と
を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凹凸パターンを有する基板用石英ガラス基板に関するものである。より具体的には、例えば、ナノインプリント用テンプレート基板、レベンソン型位相シフトフォトマスクやクロムレス位相シフトフォトマスクなどの半導体リソグラフィ用フォトマスクの基板、またはマイクロリアクターやバイオチップなどのMEMS基板として用いられる石英ガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板表面に形成される凹凸パターンの形状としては、その用途に応じて、線状凹凸、円状凹凸など様々な種類が考えられる。代表的なパターンを図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示す。これら凹凸パターンの形成方法としては感光性有機膜とエッチングを利用した方法、いわゆるフォトリソグラフィプロセスが一般的である。たとえばポジ型感光性有機膜を用いたフォトリソグラフィプロセスによる製法について、以下に簡単に説明する。
【0003】
1)表面が平滑かつ平坦なガラス基板を準備。
2)該ガラス基板の表面に感光性有機膜(いわゆるフォトレジスト)を形成。
3)最終的な基板の凹パターンに該当する領域の感光性有機膜にのみ電子線、X線や紫外線(波長180〜400nm)などの高エネルギー線を照射し、所望の領域の有機膜を露光する。続いてアルカリ性溶液や酸素ガスなどを用いて露光された有機膜を除去することにより、ガラス上の有機膜に凹凸パターンを形成する(最終的な基板の凹パターンに該当する領域にはガラスが露出し、凸パターンに該当する領域は有機膜で覆われている)。
【0004】
4)ガラス基板をエッチングすることが可能な薬液(たとえばフッ化水素酸、フッ化アンモニウム、水酸化カリウムなど)あるいはガス(たとえばF、SF、CHF、CF若しくはNFなどのフッ素化合物ガス、又はCHClなどの塩素系ガス)雰囲気中に同基板を放置することにより、有機膜に覆われておらずガラスが露出した領域のみガラスが侵食(エッチング)され、有機膜の凹凸パターンがガラス基板表面に転写される。
5)ガラス基板表面の凸部領域上の有機膜をアルカリ性溶液、オゾンガス、又は硫酸と過酸化水素水との混合液などを用いて除去する。
【0005】
このような方法で作製されるガラス基板上の凹凸パターンの寸法は、期待する設計寸法に限りなく近いことが望ましく、かつガラス基板上に複数の同一形状のパターンが形成される場合、そのパターン寸法はガラス基板内において極力均一であることが望ましい。このような所望の寸法精度を有する凹凸パターンを有するガラス基板を作製するためには、前記工程3)における有機膜へ精度良くパターンを形成すること、前記工程4)におけるガラス基板のエッチング速度の制御およびその均一性、の2点が重要である。ここで凹凸パターンの寸法精度は3方向について考慮する必要がある。腐食性ガスを用いたガラス基板のドライエッチングの場合、水平方向の寸法精度(図1(a)に示したX方向およびY方向の寸法精度)は前者(前記工程3))のプロセス制御が特に重要であり、垂直方向の寸法精度(図1(a)に示したZ方向の寸法精度)は後者(前記工程4))のプロセス制御が特に重要である。また腐食性薬液を用いたウェットエッチングの場合は、前記工程4)のプロセス制御は3方向のパターン寸法精度に影響を及ぼす。
【0006】
従来、エッチング速度を均一にする様々な試みがなされている。たとえば、特許文献1は、プラズマエッチングにおいて、エッチング部と非エッチング部(エッチングマスク部)との界面付近に生じる基板の表面電位のシフトに起因するエッチング速度の不均一性を薄い板厚の基板を使用することにより解消することを開示するものである。また特許文献2は、エッチング部と非エッチング部の表面の材質の違いに起因する基板の表面電位の不均一性により損なわれるエッチング速度の均一性を改善すべく、基板と同じ材質のエッチングマスクを使用することを提案するものである。しかしながら、いずれの方法においても材料固有のエッチング速度の不均一性により、エッチング速度を均一にすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特許第3684206号公報
【特許文献2】日本特許第3319568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
石英ガラス基板のエッチング速度は必ずしも均一ではなく、基板内、基板間でのエッチング速度バラツキのために、ガラス基板上に形成した凹凸パターンの寸法がばらつき、特にエッチング方法として現在主流であるドライエッチングの場合は垂直方向の寸法精度がばらつく問題があった。このような凹凸パターンの垂直方向寸法のバラツキについては、たとえば半導体フォトリソグラフィ用レベンソン型位相シフトフォトマスクやクロムレス位相シフトフォトマスクなどに用いられる基板の場合、リソグラフィプロセスにおける解像性能に影響を及ぼす位相シフト量は垂直方向の凹パターン寸法(凹深さ)に依存する。
【0009】
このため、垂直方向の凹凸パターンの寸法を極力精度良くかつ基板全面にわたり均一に制御することが望ましい。従ってガラス基板のエッチング速度の不均一性に起因する凹凸パターンの垂直方向寸法のバラツキは大きな問題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、
(a)仮想温度分布が40℃以下であり、かつハロゲン濃度が400ppm未満の石英ガラス基板を用意する工程と、
(b)前記石英ガラス基板の表面に感光性有機膜を形成する工程と、
(c)前記感光性有機膜に凹凸パターンを形成する工程と、
(d)前記石英ガラス基板表面の感光性有機膜の凹パターンが形成された部分をエッチングする工程と、
(e)前記石英ガラス基板表面の凸パターンの感光性有機膜を除去する工程と、
を有する石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する。
本発明の態様2は、
(a)仮想温度分布が40℃以下であり、ハロゲン濃度が400ppm以上であり、かつ当該ハロゲン濃度の分布が400ppm以下の石英ガラス基板を用意する工程と、
(b)前記石英ガラス基板の表面に感光性有機膜を形成する工程と、
(c)前記感光性有機膜に凹凸パターンを形成する工程と、
(d)前記石英ガラス基板表面の感光性有機膜の凹パターンが形成された部分をエッチングする工程と、
(e)前記石英ガラス基板表面の凸パターンの感光性有機膜を除去する工程と、
を有する石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する。
本発明の態様3は、本発明の態様1または2において、ハロゲンが塩素またはフッ素である石英ガラス基板の凹凸パターンの形成方法を提供する。
【0011】
本発明の態様4は、上記(d)工程において、フッ化水素酸溶液、フッ化アンモニウム溶液または水酸化カリウム溶液のいずれかによって石英ガラス基板のエッチングを行う本発明の態様1〜3のいずれかに記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する。
本発明の態様5は、上記(d)工程において、F、SF、CHF、CF、NFまたはCHClのいずれかのガスによって石英ガラス基板のエッチングを行う石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する。
本発明の態様6は、上記(e)工程において、アルカリ性溶液、オゾンガスまたは硫酸と過酸化水素水との混合液のいずれかを用いて感光性有機膜を除去する本発明の態様1〜5のいずれかに記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する
【0012】
本発明の態様7は、上記(c)工程において、
(c1)凹パターンに該当する領域の感光性有機膜にのみ電子線、X線または波長180〜400nmの紫外線を照射して感光性有機膜を露光する工程と、
(c2)アルカリ性溶液または酸素ガスを用いて露光された感光性有機膜を除去する工程と、
を有する本発明の態様1〜6のいずれかに記載の石英ガラス基板の凹凸パターン形成方法を提供する


【発明の効果】
【0013】
本発明による凹凸パターン形成方法によれば、垂直方向の凹凸パターンの寸法を極力精度良くかつ基板全面にわたり均一に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)、図(b)及び図(c)はガラス基板表面に形成される代表的な凹凸パターンを示す。
図2】はエッチング速度(HF39wt%、室温)の仮想温度依存性を示す。
図3】はエッチング速度(HF39wt%、室温)のハロゲン濃度依存性を示す。
図4】は例1〜3におけるガラスブロックの熱処理条件を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、石英ガラスのエッチング速度に影響を与える石英ガラスの組成及び因子について詳細に検討を行った結果、石英ガラス中のハロゲン濃度および石英ガラスの仮想温度が石英ガラスのエッチング速度を左右する重要なパラメータであることを突き止めた。すなわち、石英ガラス中の仮想温度は石英ガラスのエッチング速度に影響し、仮想温度が高いほどエッチング速度は大きくなることを見出した。
【0016】
完全に同一の条件(ガスもしくは液体の種類、濃度、圧力、温度、時間などのエッチングパラメータ)でエッチングを行ったとしても、これら石英ガラスの仮想温度あるいはハロゲンの濃度が異なると、エッチング速度は同一ではなく、エッチングパラメータの制御だけでなく、石英ガラスの前記2因子を配慮することが不可欠である。
かかる点から、本発明の石英ガラスでは、仮想温度分布が40℃以下かつハロゲン濃度分布が400ppm以下とした。
【0017】
石英ガラス基板の仮想温度とエッチング速度との関係を調べるために、火炎加水分解法により合成した石英ガラスブロック(ハロゲン濃度:10ppm未満、OH基濃度:30ppm)を窒素ガス雰囲気中にて異なる数種類の温度にて所定時間保持することにより、異なる仮想温度を有する合成石英ガラスブロックを準備した。該石英ガラスブロックの中央からサンプルを切り出し、39重量%フッ化水素水溶液を用いて石英ガラスサンプルを室温にてエッチングする試験を行った。この場合のエッチング速度の仮想温度依存性を図2に示す。
【0018】
図2のデータより、石英ガラスのエッチング速度は仮想温度に依存し、均一なエッチング速度を得るためには、石英ガラスの仮想温度分布は極力小さい方が好ましいことが明らかである。室温の39重量%フッ化水素水溶液を用いた図2の場合、エッチング速度の仮想温度依存性は3.7×10−4μm/min/℃である。同条件における石英ガラスのエッチング速度は約0.7〜0.8μm/minであり、石英ガラスのエッチング速度分布を±1%以下に抑えるためには、石英ガラスの仮想温度分布は、好ましくは40℃以内であり、より好ましくは20℃以内であり、さらに好ましくは10℃以内であることが判明した。仮想温度分布を制御する方法としては、石英ガラスを800〜1400℃の範囲内で所定の温度にて1時間以上保持し石英ガラスの仮想温度を保持温度にほぼ等しくした後、保持温度から200〜400℃程度低い温度まで、石英ガラス内に温度分布が生じないよう、15℃/hr以下のゆっくりした速度で徐冷し、その後15℃/hr以上の比較的速い速度で急冷すればよい。
【0019】
ここで石英ガラスの仮想温度は文献(A.Agarwal、K.M.Dabis and M.Tomozawa、”A simple IR spectroscopic method for determining fictive temperature of silica glass”、J.Non−Cryst.Solids.、185、191−198 (1995))に従って、赤外分光光度計を用いて波数2,260cm−1付近の吸収ピークの位置により求めた。
【0020】
また本発明において、石英ガラス中のハロゲン濃度は石英ガラスのエッチング速度に影響し、ハロゲン濃度が高いほどエッチング速度は高くなる。ここでハロゲンとしては、フッ素、塩素又は臭素を指す。石英ガラス中のハロゲン濃度のエッチング速度依存性を調べるため、以下の方法によりフッ素含有合成石英ガラスブロックを得た。
【0021】
四塩化珪素を火炎加水分解法により多孔質石英ガラス体を作製した。次いで得られた多孔質石英ガラス体を四フッ化珪素/酸素=10/90vol%雰囲気下で室温〜1200℃の温度にて2時間保持した。その後、1.3kPaの減圧雰囲気下で1500℃に昇温し透明ガラス化することにより、フッ素を0重量ppm〜15000重量ppm含有する合成石英ガラスブロックを得た。
該石英ガラスブロックの中央からサンプル片を切り出し、39重量%フッ化水素水溶液を用いて石英ガラスをエッチングした場合のエッチング速度のハロゲン濃度依存性を調べた。
【0022】
エッチング速度は石英ガラス中のハロゲン濃度に依存する。図3にその一例としてエッチング速度のフッ素濃度依存性を示す。尚、図3では、実際の測定サンプルの仮想温度を図2に示すエッチング速度の仮想温度依存性を用いて1120℃に補正した。ハロゲン濃度が高いほどエッチング速度は高くなる。室温の39重量%フッ化水素水溶液を用いた図2の場合、エッチング速度のフッ素濃度依存性は1.9×10−5μm/min/wtppm−Fである。このため、均一なエッチング速度を得るためには、石英ガラス中のハロゲン濃度を極力均一にする必要があり、たとえば同条件における石英ガラスのエッチング速度分布を±1%以下に抑えるためには、石英ガラスのハロゲン濃度分布を±400ppm以下にする必要がある。従って石英ガラスの優れたエッチング速度均一性を得るためには、石英ガラス中のハロゲン濃度分布は400ppm以下にすべきであり、好ましくは200ppm以下であり、更に好ましくは100ppm以下であることが判明した。
【0023】
ここで、合成石英ガラス中のフッ素含有量はフッ素イオン電極法により分析した。フッ素含有量の分析方法は下記の通りである。日本化学会誌、1972(2)、350に記載された方法に従って、合成石英ガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水および塩酸(体積比で1:1)を加えて試料液を得た。試料液の起電力をフッ素イオン選択性電極および比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945−220およびNo.945−468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、フッ素イオン標準溶液を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、フッ素含有量を求めた。
【0024】
本発明は、ここでは石英ガラスに対して腐食性を有する弗化水素酸を用いたウェットエッチングを例に挙げた。しかし、石英ガラスに対して腐食性を有する液体又は気体を用いてエッチングを行う場合には、石英ガラスとエッチング媒体との間の何らかの化学的作用に基づきエッチングが進行し、石英ガラスのハロゲン濃度及び仮想温度がその化学的作用に影響を及ぼす。このため、その程度は異なるが、弗化水素酸を用いたウェットエッチングの場合と同様に、エッチング速度は、ハロゲン濃度依存性及び仮想温度依存性を有する。このため、石英ガラスのエッチング方法としては、ウエットエッチングに限らず、ドライエッチングも適用できる。ドライエッチングの例としては、イオンビームエッチング、反応性イオンエッチング、プラズマエッチング、ガスクラスターイオンビームエッチング、中性ビームアシストエッチング、電子ビームエッチングを含む各種ドライエッチング法を挙げることができる。
【0025】
本発明の石英ガラスは、直接法、スート法(VAD法、OVD法)又はプラズマ法により製造できる。合成石英ガラス中のOH基濃度を比較的容易に制御でき、合成時の温度が低いため塩素や金属などの不純物の混入を避けるうえで有利なことから、スート法が特に好ましい。
【0026】
ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されない。例えば、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiCHClなどの塩化物、SiF、SiHF、SiHなどの弗化物、SiBr、SiHBrなどの臭化物、SiIなどの沃化物といったハロゲン化珪素化合物、またはRSi(OR)4−n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられる。エッチング速度に影響を及ぼすハロゲンを含有しないアルコキシシランが特に好ましい。
【0027】
本発明の石英ガラスは、仮想温度分布を均一化するために、製造した石英ガラスブロックを電気炉にて800〜1400℃の範囲の温度にて1時間以上保持する。この場合、電気炉内の温度分布は好ましくは40℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下がよい。
【0028】
保持温度は好ましくは800℃以上1400℃以下がよい。ただし、高い温度ほど加熱中の雰囲気から石英ガラス中へ不純物(アルカリ金属(Na,Kなど)、アルカリ土類金属(Mg,Caなど)、遷移金属(Fe、Ti、Ni、Al、Zn、Ce、Cuなど)など)が拡散し、混入する。このため、900〜1200℃のレベルの温度が好ましい。
【0029】
保持時間は、保持温度に依存し、高い温度ほど石英ガラスの構造緩和は早く、比較的短時間で仮想温度が保持温度に等しくなる。具体的には、1400℃で保持した場合の最低保持時間は約1時間、1300℃で保持した場合の最低保持時間は約5時間、1200℃で保持した場合の最低保持時間は約20時間、1000℃で保持した場合の最低保持時間は約100時間である。
徐冷時間は、仮想温度が所定の温度に達し、かつその分布が均一になるために要する最低時間が好ましい。
【0030】
石英ガラス中のハロゲン濃度が高いほど高温における石英ガラスの粘度は下がる。このため、石英ガラス中のハロゲン濃度は高いほど該徐冷時間は短時間で済ませることができる。この意味で石英ガラスへのハロゲン元素の添加は、加熱処理中の石英ガラスの純度低下を防ぐことができるため、好ましい。
【0031】
このように一定温度にて所定時間石英ガラスブロックを加熱処理することにより、石英ガラスブロックの構造を緩和させブロック全体の仮想温度をほぼ保持温度近くに調整することができ、また電気炉内の温度分布と同程度の仮想温度分布を有する石英ガラスブロックを得ることができる。さらに石英ガラスブロックを一定温度にて所定時間保持した後、保持温度より200℃低い温度まで、石英ガラスブロック内の温度分布が常に50℃以下となるようなゆっくりとした速度、具体的には15℃/hr以下の速度で徐冷することが望ましい。急激に冷却すると冷却中に石英ガラスブロックの温度分布が生じ、石英ガラスブロックの仮想温度分布が悪化する場合があるため、好ましくない。
【0032】
本発明の石英ガラスは、前記石英ガラスを作製する合成工程と前記石英ガラスを加熱処理して仮想温度を調整する工程の間に、石英ガラス中のハロゲン化物濃度を均一に処理するプロセスを加えることができる。ハロゲン化物濃度を均一化するプロセスとしては、水平フロート帯域法(FZ法)により1500〜1700℃に加熱して混練する、あるいは1500〜1700℃の温度に加熱して所定方向に自重変形させて所望の形状に成形するなどの方法を挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に、例を参照に用いて本発明を更に詳細に説明するが、そのような特定の例によって本発明が制限して解釈されるべきものではない。例1は比較例であり、例2〜5は実施例である。
【0034】
(例1〜3)
四塩化珪素を原料とした火炎加水分解法(VAD法)により石英ガラス微粒子を基材に堆積及び成長させ多孔質合成石英ガラスをまず作製した。次いで、得られた多孔質合成石英ガラスを減圧雰囲気下で1450℃に加熱して透明な合成石英ガラス(OH濃度:30ppm)を得た。得られた合成石英ガラスを7.5inch型枠にセットし、窒素雰囲気下1800℃に加熱して7.5inch角×45cmの石英ガラスブロックに成型した。
得られた石英ガラスブロックを同じく窒素雰囲気中にて、図4に示すそれぞれ異なる条件(例1、2及び3)で熱処理を行った。ついで、石英ガラスブロックの4側面を研削して6inch角×45cmブロックとし、中央部分、上端部分及び下端部分からそれぞれ0.25inch厚の基板を各1枚スライスして得た。
【0035】
得られた各々の基板を、酸化セリウムを用いて鏡面が得られるまで(表面粗さ(RMS)が0.5nm以下になるまで)研磨した。次いで、基板中央140mm角エリア内、35mm間隔、計25点における仮想温度を前記の方法により赤外線分光光度計を用いて測定し、同エリア内、計25点の最高仮想温度と最低仮想温度の差(PV値)および平均値を算出した。このPV値によって仮想温度分布の値とした。
続いて同エリア内の39重量%フッ化水素酸水溶液によるエッチング速度分布を求めた。得られた結果を表1に示す。
この例の場合、石英ガラス中に含有される可能性のあるハロゲン元素は塩素のみである。しかし、蛍光X線分析により石英ガラス中の塩素濃度を測定したところ、検出限界(10ppm)以下であった。
【0036】
(例4)
多孔質合成石英ガラスの合成においてヘキサメチルジシロキサンを原料とする以外は、例3と全く同じ方法で石英ガラスブロックを作製する。得られるブロックの中央部分から0.25inch厚の基板を1枚スライスして、例3と同様の方法により研磨、仮想温度およびその分布を測定し、同エリア内の39重量%フッ化水素水溶液によるエッチング速度分布を求める。得られる結果を表1に示す。
本例の場合、石英ガラス中に含有される可能性のあるハロゲン元素は塩素のみである。
しかし、蛍光X線分析により石英ガラス中の塩素濃度を測定したところ、検出限界(10ppm)以下である。
【0037】
(例5)
四塩化珪素を原料とした火炎加水分解法(VAD法)により多孔質合成石英ガラスをまず作製した。得られた多孔質合成石英ガラスを室温、四フッ化珪素/ヘリウム=5/95体積%の雰囲気下で1時間保持した後、減圧雰囲気下で1,450℃に加熱して透明なフッ素含有合成石英ガラス(OH濃度:30ppm)を得た。
得られた合成石英ガラスを7.5inch型枠にセットし、窒素雰囲気下1800℃に加熱して7.5inch角×45cm石英ガラスブロックに成型した。得られた石英ガラスブロックを同じく窒素雰囲気中にて例2と同じ条件で熱処理を行った。ついで、石英ガラスブロックの4側面を研削して6inch角×45cmブロックとし、中央部分から0.25inch厚の基板を1枚スライスして得た。
【0038】
得られた基板を、酸化セリウムを用いて鏡面が得られるまで(表面粗さ(RMS)が0.5nm以下になるまで)研磨した。次いで、基板中央140mm角エリア内の仮想温度分布を前記の方法により赤外線分光光度計を用いて測定した。
続いてフィゾー干渉計(ZygoMarkIV)により基板中央140mm角エリア内の633nm屈折率分布を測定した。得られた屈折率分布よりフッ素濃度分布を求めた(ここでフッ素濃度分布(ppm)=屈折率分布(ppm)×2.5)。
【0039】
さらに続いて例1及び2と同様の方法でエッチング速度分布を求めた。最後にサンプル中央部分より試料を切り出し、前述のフッ素イオン電極法によりフッ素濃度を求めた。
得られた結果を表1に示す。例1においては、同一ブロックから切出した3枚の基板間は勿論、各々の基板内においてもエッチング速度のバラツキは1%以上と大きい。しかるに、例2においては、同一ブロックから切出した3枚の基板間は勿論、各々の基板内においてもバラツキはいずれも小さく良好である。また例3及び例4においても基板内エッチング速度のバラツキが1%以下と小さく例2と同様良好である。
【0040】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の凹凸パターン形成方法は、石英ガラス基板表面に形成される微細な凹凸パターンの寸法精度を向上させることができるとともに、凹凸パターンのバラツキを低減させることができ、例えば、各種フォトマスク製造において有用である。
図1
図2
図3
図4