特許第5796793号(P5796793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796793
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】望遠鏡光学系及び光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 23/02 20060101AFI20151001BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   G02B23/02
   G02B13/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-555243(P2013-555243)
(86)(22)【出願日】2013年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2013050940
(87)【国際公開番号】WO2013111683
(87)【国際公開日】20130801
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-10642(P2012-10642)
(32)【優先日】2012年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100140800
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 丈世
(72)【発明者】
【氏名】新井 聡
【審査官】 堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−228003(JP,A)
【文献】 特開2010−039339(JP,A)
【文献】 特開2009−002991(JP,A)
【文献】 特開2003−222802(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3050933(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 23/02
G02B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、
対物光学系と、
前記対物光学系によって形成される像を正立させる正立光学系と、を有し、
前記正立光学系は、
前記対物光学系からの光を反射する反射面を有する第1反射部材と、
前記第1反射部材で反射された光を反射する反射面を有する第2反射部材と、
少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有し、前記面の何れか1つを入射面とし、前記面のその他の面の1つを射出面とし、前記第2反射部材で反射された光を前記入射面から入射させて前記面で反射させた後、前記射出面から射出させる第3反射部材と、を有し、
前記第1反射部材の有効径のうち、長手方向の有効径をΦ1とし、前記第3反射部材の前記入射面の有効径をΦ2とし、前記第1反射部材の前記反射面の光軸となす角度をαとし、前記第1反射部材の前記反射面の前記対物光学系側の端面から前記第3反射部材の前記射出面までの間隔をLとしたとき、次式
【数17】
の条件を満足することを特徴とする望遠鏡光学系。
【請求項2】
前記対物光学系の焦点距離をfoとし、前記第1反射部材の前記反射面から前記第2反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をd1とし、前記第2反射部材の前記反射面から前記第3反射部材の前記入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数18】
の条件を満足することを特徴とする請求項に記載の望遠鏡光学系。
【請求項3】
前記対物光学系の口径をD、最大画角を2θ及び焦点距離をfoとし、前記対物光学系の主平面から前記第1反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をdとし、前記第1反射部材の前記反射面から前記第2反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をd1とし、前記第2反射部材の前記反射面から前記第3反射部材の前記入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数19】
の条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の望遠鏡光学系。
但し、z0は次式で表されるものとする。
【数20】
【請求項4】
前記第1反射部材及び前記第2反射部材のいずれか一方が光軸を含む回転中心を中心に回転することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の望遠鏡光学系。
【請求項5】
物体側から順に、
対物光学系と、
前記対物光学系によって形成される像を正立させる正立光学系と、を有し、
前記正立光学系は、
前記対物光学系からの光を反射する反射面を有する第1反射部材と、
前記第1反射部材で反射された光を反射する反射面を有する第2反射部材と、
少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有し、前記面の何れか1つを入射面とし、前記面のその他の面の1つを射出面とし、前記第2反射部材で反射された光を前記入射面から入射させて前記面で反射させた後、前記射出面から射出させる第3反射部材と、を有し、
前記対物光学系の焦点距離をfoとし、前記第1反射部材の前記反射面から前記第2反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をd1とし、前記第2反射部材の前記反射面から前記第3反射部材の前記入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数21】
の条件を満足することを特徴とする望遠鏡光学系。
【請求項6】
物体側から順に、
対物光学系と、
前記対物光学系によって形成される像を正立させる正立光学系と、を有し、
前記正立光学系は、
前記対物光学系からの光を反射する反射面を有する第1反射部材と、
前記第1反射部材で反射された光を反射する反射面を有する第2反射部材と、
少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有し、前記面の何れか1つを入射面とし、前記面のその他の面の1つを射出面とし、前記第2反射部材で反射された光を前記入射面から入射させて前記面で反射させた後、前記射出面から射出させる第3反射部材と、を有し、
前記対物光学系の口径をD、最大画角を2θ及び焦点距離をfoとし、前記対物光学系の主平面から前記第1反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をdとし、前記第1反射部材の前記反射面から前記第2反射部材の前記反射面までの光軸上の距離をd1とし、前記第2反射部材の前記反射面から前記第3反射部材の前記入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数22】
の条件を満足することを特徴とする望遠鏡光学系。
但し、z0は次式で表されるものとする。
【数20】
【請求項7】
物体側から順に、
対物光学系と、
前記対物光学系によって形成される像を正立させる正立光学系と、を有し、
前記正立光学系は、
前記対物光学系からの光を反射する反射面を有する第1反射部材と、
前記第1反射部材で反射された光を反射する反射面を有する第2反射部材と、
少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有し、前記面の何れか1つを入射面とし、前記面のその他の面の1つを射出面とし、前記第2反射部材で反射された光を前記入射面から入射させて前記面で反射させた後、前記射出面から射出させる第3反射部材と、を有し、
前記第1反射部材及び前記第2反射部材のいずれか一方が光軸を含む回転中心を中心に回転することを特徴とする望遠鏡光学系。
【請求項8】
前記対物光学系で形成された像を観察するための接眼光学系を有し、
前記第1反射部材若しくは前記第2反射部材の前記回転中心から前記対物光学系が形成する像までの光軸上の距離をMとし、前記対物光学系の焦点距離をfoとし、前記接眼光学系の焦点距離をfeとし、基準となる状態の光軸に対する全系の傾きをεとし、前記第1反射部材若しくは前記第2反射部材の回転角をδとしたとき、次式
【数21】
の条件を満足することを特徴とする請求項に記載の望遠鏡光学系。
【請求項9】
前記対物光学系の光軸と前記接眼光学系の光軸とが同一直線上にないことを特徴とする請求項に記載の望遠鏡光学系。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の望遠鏡光学系を有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡光学系及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、望遠鏡や双眼鏡は、小型かつ軽量化が求められている。一方で、明るい光学系も求められているため対物口径が大きくなる傾向にある。また、中心の色収差を補正するために比重の大きい異常分散ガラスを対物レンズに採用する等、小型化・軽量化の妨げになっている。これに対応するために重量のあるガラスプリズムに変わってミラー反射を用いて正立光学系を構成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガラスプリズムを構成する反射面のいくつかを平面鏡に置き換えることにより、光学系全体を軽量化することはできるが、これらの光学部材を適切な位置に配置しないと、小型化・軽量化を維持したまま所望の仕様を満たすことができないという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、小型且つ軽量化が可能な望遠鏡光学系及びこの望遠鏡光学系を有する光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る望遠鏡光学系は、物体側から順に、対物光学系と、この対物光学系によって形成される像を正立させる正立光学系と、を有し、正立光学系は、対物光学系からの光を反射する反射面を有する第1反射部材と、第1反射部材で反射された光を反射する反射面を有する第2反射部材と、少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有し、これらの面の何れか1つを入射面とし、これらの面のその他の面の1つを射出面とし、第2反射部材で反射された光を入射面から入射させて前記面で反射させた後、射出面から射出させる第3反射部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような望遠鏡光学系は、第1反射部材の有効径のうち、長手方向の有効径をΦ1とし、第3反射部材の入射面の有効径をΦ2とし、第1反射部材の反射面の光軸となす角度をαとし、第1反射部材の反射面の対物光学系側の端面から第3反射部材の射出面までの間隔をLとしたとき、次式
【数1】
の条件を満足する
【0008】
また、このような望遠鏡光学系は、対物光学系の焦点距離をfoとし、第1反射部材の反射面から第2反射部材の反射面までの光軸上の距離をd1とし、第2反射部材の反射面から第3反射部材の入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数2】
の条件を満足することが好ましい。
【0009】
また、このような望遠鏡光学系は、対物光学系の口径をD、最大画角を2θ及び焦点距離をfoとし、対物光学系の主平面から第1反射部材の反射面までの光軸上の距離をdとし、第1反射部材の反射面から第2反射部材の反射面までの光軸上の距離をd1とし、第2反射部材の反射面から第3反射部材の入射面までの光軸上の距離をd2としたとき、次式
【数3】
の条件を満足することが好ましい。但し、z0は次式で表されるものとする。
【数4】
【0010】
また、このような望遠鏡光学系は、第1反射部材及び第2反射部材のいずれか一方が光軸を含む回転中心を中心に回転することが好ましい。
【0011】
また、このような望遠鏡光学系は、対物光学系で形成された像を観察するための接眼光学系を有し、第1反射部材若しくは第2反射部材の回転中心から対物光学系が形成する像までの光軸上の距離をMとし、対物光学系の焦点距離をfoとし、接眼光学系の焦点距離をfeとし、基準となる状態の光軸に対する全系の傾きをεとし、第1反射部材若しくは第2反射部材の回転角をδとしたとき、次式
【数5】
の条件を満足することが好ましい。
【0012】
また、このような望遠鏡光学系は、対物光学系の光軸と接眼光学系の光軸とが同一直線上にないように構成することができる。
【0013】
また、本発明に係る光学機器は、上述の望遠鏡光学系のいずれかを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明を以上のように構成すると、小型且つ軽量化が可能な望遠鏡光学系及びこの望遠鏡光学系を有する光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】望遠鏡光学系の構成を説明するための説明図である。
図2】上記望遠鏡光学系のうち正立光学系の構成を説明するための説明図である。
図3】正立光学系における光束の関係を説明するための説明図であって、(a)は第1及び第2反射鏡並びにダハプリズムの関係を示し、(b)は第1反射鏡と第2反射鏡で反射した光束とが干渉する場合を示し、(c)は第1反射鏡と第2反射鏡で反射した光束とが干渉しない場合を示す。
図4】第1及び第2反射鏡とダハプリズムとの位置関係を説明するための説明図であって、(a)は基本的な配置を示し、(b)は条件式の上限値を超えた場合を示し、(c)は条件式の下限値を超えた場合を示す。
図5】対物光学系を通る最大開口数の光線と、対物光学系の中心を通る最大画角の光線との関係を示す説明図である。
図6】第2反射鏡を回転させたときの光線の状態を説明するための説明図であって、(a)は反時計方向に回転させた場合を示し、(b)は時計方向に回転させた場合を示す。
図7】望遠鏡光学系が傾いたときの像面での状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、望遠鏡、フィールドスコープ、双眼鏡等の光学機器が有する望遠鏡光学系10の構成について図1を用いて説明する。この望遠鏡光学系10は、物体側から順に光軸に沿って、物体からの光を集光してこの物体の像を形成する対物光学系1と、対物光学系1で形成される物体の倒立像の上下左右を反転させて正立像に変換する正立光学系2と、対物光学系1で形成された物体の像を拡大してアイポイントEPに位置する観察眼により観察する接眼光学系3と、から構成されている。
【0017】
本実施形態に係る望遠鏡光学系10に用いられる正立光学系2は、物体側から順に光軸に沿って、第1絞り21と、反射面22aを有する第1反射部材である第1反射鏡22と、反射面23aを有する第2反射部材である第2反射鏡23と、第2絞り24と、少なくとも1つのダハ面を含む3以上の面を有する第3反射部材であるダハプリズム25と、を有して構成されている。なお、本実施形態において、ダハプリズム25はガラス部材を想定しているが、樹脂を使用してもかまわない。また、本実施形態に係る望遠鏡光学系10は、図1に示すように、対物光学系1の光軸に対して接眼光学系3の光軸がオフセット(偏心)しており、これらの光軸が同一直線上に位置せず、略平行となるように配置されている。そのため、以降の説明においては、この望遠鏡光学系10の対物光学系1(若しくは接眼光学系3)の光軸が延びる方向をz軸とし、このz軸に直交する面内で互いに直交する方向をy軸及びx軸とする。そして、図1に示すように、x軸方向から見たときに第1及び第2反射鏡22,23が、yz平面に直交するように配置されているものとする。
【0018】
このような構成の正立光学系2において、yz平面での第1反射鏡22の反射面22aのz軸となす角度をαとし、第2反射鏡23の反射面23aのz軸となす角度をβとし、ダハプリズム25の頂角(ダハ面のなす角度)をγとすると、次式(a),(b)の関係が成り立つ(単位は°とする)。
【0019】
【数6】
【0020】
例えば、α=42°とすると、β=18°、γ=48°となる。この2枚の反射鏡22,23の機能を従来のガラスプリズムで実現すると、一般的なガラス材である比重2.35g/cm3の材料を用いた場合、その重量は凡そ72gとなる。一方、上述したように2枚の反射鏡22,23で構成すると数gになる。例えば、双眼鏡の製品重量は凡そ0.5〜1kgであるので、本実施形態のように2枚の反射鏡22,23を用いることに、光学機器全体で1割程度の軽量化を図ることができる。
【0021】
それでは、このような望遠鏡光学系10を構成するための条件について説明する。本実施形態に係る望遠鏡光学系10において、対物光学系1で集光される光束の断面形状が略円形であるとすると、図3に示すように、この光束に対して斜めに配置された第1反射鏡22の反射面22aに投影される光束の形状は楕円形となる。ここで、この第1反射鏡22の反射面22aに投影された光束の長軸方向の長さ、すなわち第1反射鏡22の有効径をΦ1とし、ダハプリズム25の入射面25aの物体側に配置された第2絞り24の開口部の直径、すなわちダハプリズム25の入射面25aの有効径をΦ2とし、第1反射鏡22の最も物体側の端部からダハプリズム25の射出面25bまでの間隔をLとすると、本実施形態に係る望遠鏡光学系10は、次の条件式(1)を満足することが望ましい。ここで、上述の間隔Lは、第1反射鏡22の最も物体側の端部からダハプリズム25の射出面25bまでのz軸方向の距離、すなわち、正立光学系2の全体の長さを示している。
【0022】
【数7】
【0023】
対物光学系1に入射する光軸に平行な光は、望遠鏡光学系10の瞳を形成する光線であるため、この望遠鏡光学系10の途中で遮ってはならない。図3(b)のように、第1反射鏡22で反射した光束と第2反射鏡23で反射した光束との一部が重なり合ったとしても、従来のガラスプリズムならば問題にならない。しかしながら、図3(a)に示すように、本実施形態では第1反射鏡22があるために、第2反射鏡23で反射した光線が第1反射鏡22に入射してしまうと光線が遮蔽されてしまう。このような現象を防ぐために、正立光学系2のz軸方向の長さに相当するLの下限を条件式(1)のように制限する。正立光学系2がこの条件式(1)を満足すると、図3(c)に示すように、第2反射鏡23で反射した光の光束が第1反射鏡22に入射しないように構成することができる。
【0024】
また、本実施形態に係る望遠鏡光学系10は、第1反射鏡22の反射面22aから第2反射鏡23の反射面23aまでの光軸上の距離をd1とし、第2反射鏡23の反射面23aからダハプリズム25の入射面25aまでの光軸上の距離をd2としたとき、次の条件式(2)を満足することが望ましい。
【0025】
【数8】
【0026】
条件式(2)は正立光学系2における迷光の発生を抑えるための条件である。図4(a)に示すように、第1反射鏡22の反射面22aの光軸上の点をOとし、第2反射鏡23の反射面23aの光軸上の点をPとし、ダハプリズム25の入射面25aの光軸上の点をWとすると、三角形OPWは、d1/d2が一定であれば相似形をなすので、点Oを固定したとすると線分OWのz軸に対する傾きは一定である。反対に、d1/d2の値が変化することで線分OWのz軸に対する傾きが変化することになり、これは第1反射鏡22に対するダハプリズム25の位置がy軸方向に上下することに相当する。そのため、条件式(2)の下限値を下回ると、図4(b)に示すように、ダハプリズム25の位置が第1反射鏡22に対して高くなり、この第1反射鏡22で反射せずに直接ダハプリズム25に入射する光が発生し迷光成分となるため好ましくない。反対に条件式(2)の上限値を上回ると、図4(c)に示すように、ダハプリズム25の位置が第1反射鏡22に対して低くなり、第2反射鏡23で反射した光の光軸が第1反射鏡22に近づいてしまう。そのため、第2反射鏡23で反射した光の一部が第1反射鏡22に入射してしまい条件式(1)を満足することができなくなるので好ましくない。このとき、正立光学系2を通過する光束の径を細くすることで条件式(1)を満足することができるが、対物光学系1のF値が暗くなるため好ましくない。なお、d1/d2=1の場合、点Wは点Oに最も近づき、第1及び第2反射鏡22,23の配置がz軸方向に最もコンパクトになる。また、第1絞り21及び第2絞り24の開口部の径が大きすぎてしまうと、第1反射鏡22あるいは第2反射鏡23で反射せずに直接ダハプリズム25に入射する光が発生し、その光は迷光成分となるため好ましくない。そのため、第1及び第2絞り21,24の開口部の径は可能な限り小さい方が望ましい。
【0027】
また、本実施形態に係る望遠鏡光学系10は、条件式(1)を満足し、且つ、小型化するために、対物光学系1の焦点距離をfoとしたとき、次の条件式(3)を満足することが望ましい。
【0028】
【数9】
【0029】
この条件式(3)の下限値を下回ると、ダハプリズム25の入射面25aで取り込むことができる光束が小さくなり、明るさを確保することができなくなる。また、条件式(1)を満足することができなくなる。一方、条件式(3)の上限値を上回ると、正立光学系2がy軸方向に大きくなり、望遠鏡光学系10の小型化ができなくなる。以上より、正立光学系2の第1反射鏡22の反射面22aと第2反射鏡23の反射面23aとの光軸上の間隔d1及び第2反射鏡23の反射面23aとダハプリズム25の入射面25aとの光軸上の間隔d2は、上述した条件式(2)及び(3)を満足するように決定することが望ましい。
【0030】
また、本実施形態に係る望遠鏡光学系10は、対物光学系1の主平面から第1反射鏡22の反射面22aまでの光軸上の距離dが、次の条件式(4)を満足することが望ましい。
【0031】
【数10】
【0032】
図5は、yz平面において、望遠鏡光学系10の光軸を展開した状態を示しており、対物光学系1の口径をDとし、この望遠鏡光学系10の実施視界又は最大画角を2θとしたときの対物光学系1の主平面及びこの対物光学系1で形成される像面の位置関係を示している。なお、図5においては、対物光学系1の主平面と光軸とが交わる位置を原点(y,z)=(0,0)とし、z軸方向に関してはこの原点に対して像の方向を正としている。そのため、対物光学系1の主光線上の最大開口数の光線(瞳形状を決定する光線であって、対物光学系1に対して光軸に略平行な状態で入射する光線))の位置は(D/2,0)となり、対物光学系1の像面の光軸上の位置は(0,fo)、最大像高の位置は(fo・tanθ,fo)となる。また、上述の条件式(4)におけるzoは、対物光学系1の中心を通る最大画角の光線と、上述の瞳形状を決定する光線との交点のz軸座標に相当し、次式(c)で表される。また、対物光学系1の最も像側にある面の頂点から、第1反射鏡22の反射面22aまでの光軸上の距離をd3とすると、対物光学系1のような構成の場合、d≒d3と近似が可能である。
【0033】
【数11】
【0034】
対物光学系1の主平面から第1反射鏡22の反射面22aまでの光軸上の距離dが条件式(4)の範囲を超えると、ダハプリズム25が大きくなってしまい、結果としてこの望遠鏡光学系10を小型化することができないため好ましくない。
【0035】
図6は第2反射鏡23を、光軸と第2反射鏡23との交点Pを中心に回転させ、防振機能を追加した構成を示している。通常、防振機能はレンズを偏心させる方式が一般的だが、本実施形態に係る望遠鏡光学系10では反射を利用しているため反射部材である第2反射鏡23を用いて防振を行っている。ここで、第2反射鏡23を角度δだけ傾けると偏角は2δになり、レンズを使用した場合よりも光線に与える影響が大きい。つまり、僅かな変動量で十分な防振機能を実現することができる。それによって、レンズを偏心させる場合に必要だった余分な空間を縮小することも可能である。なお、第2反射鏡23は、点Pを中心としてx軸を基準とした回転と同点Pを中心としてz軸を基準とした回転の2方向の回転機能があることが望ましいが、双眼鏡のような手で支える光学機器は、上下方向の防振の重要度が高いため前述のx軸回転のみでもかまわない。また、第2反射鏡23を回転させる代わりに第1反射鏡22を回転させても防振機能を実現することができる。
【0036】
図7は、本実施形態に係る望遠鏡光学系10を傾けた場合であって、正立光学系2を直線的に展開した状態を示している(この図7において正立光学系2は第2反射鏡23だけを表している)。ここで、基準となる状態(望遠鏡光学系10が傾く前)において対物光学系1の像面のF′の位置に光軸があるとする。このとき、この望遠鏡光学系10が基準となる状態の光軸に対して角度εだけ傾くと、対物光学系1も角度εだけ傾くため、像面上での物体側の光軸はF′からFo′にずれる。同様に接眼光学系3も角度εだけ傾くため、像面上での接眼側の光軸はF′からFe′にずれる。以上より、補正しなければならない総光軸ズレ量Nは、像面上における長さF′Fo′と長さF′Fe′の和となる。ここで、接眼光学系3の焦点距離をfeとすると、光軸総ズレ量Nは次式(d)で表される。
【0037】
【数12】
【0038】
ところで、図7には記載されていないが、対物光学系1と像面との間に倒立作用があると、接眼側の光軸ズレ量の符号が変わり、総光軸ズレ量Nは、像面上における長さF′Fo′と長さF′Fe′の差となる。また、図7において、三角形PFe′Fo′から、傾きεを微小量であると仮定すると、第2反射鏡23の回転量δは次式(e)のように表される。ここで、Mは回転中心Pから対物光学系1の像面までの光軸上の距離である。
【0039】
【数13】
【0040】
また、許容できる総光軸ズレ量N+ΔNの範囲は次式(f)のように表される。ここでΔNは±fetanεである。
【0041】
【数14】
【0042】
以上より、第2反射鏡23の回転量は、次の条件式(5)を満足することが望ましい。
【0043】
【数15】
【0044】
この条件式(5)の下限値を下回ると、補正不足となるため好ましくない。反対に条件式(5)の上限値を上回ると、補正過剰となるため好ましくない。
【実施例】
【0045】
それでは、図1に基づいて、望遠鏡光学系10の実施例について説明する。この望遠鏡光学系10は、物体側から順に、対物光学系1と、正立光学系2と、接眼光学系3と、を有して構成されている。対物光学系1は、物体側から順に、両凸レンズL1及び物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズL2を接合した接合レンズで構成されている。また、正立光学系2は、物体側から順に、第1絞り21と、第1反射鏡22と、第2反射鏡23と、第2絞り24と、ダハプリズム25と、から構成されている。また、接眼光学系3は、物体側から順に、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズL3及び両凹レンズL4を接合した接合レンズと、両凸レンズL5と、両凹レンズL6及び両凸レンズL7を接合した接合レンズと、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL8と、から構成される。また、対物光学系1の像面IMは、接眼光学系3の両凹レンズL4と両凸レンズL5との間に形成されている。なお、この図1に示す望遠鏡光学系10は、対物光学系1の光軸に対して接眼光学系3の光軸がy軸方向にオフセットしており、そのオフセット量は下記の表1から明らかなように8.779mmである。
【0046】
本実施例に係る望遠鏡光学系10の諸元を以下の表1に示す。なお、この表1において、全体諸元におけるfoは対物光学系1の焦点距離を、feは接眼光学系の焦点距離を、ERはアイレリーフ(接眼光学系3の最も像側のレンズ面(図1における第20面)からアイポイントEPまでの光軸上の距離)を、βは望遠光学系10の倍率を示す。また、レンズデータにおける第1欄mは物体側からの各光学面の番号(面番号)を、第2欄rは各光学面の曲率半径を、第3欄dは各光学面から次の光学面までの光軸上の距離(面間隔)を、第4欄nCはC線(λ=656.3nm)に対する屈折率を、第5欄ndはd線(λ=587.6nm)に対する屈折率を、第6欄nFはF線(λ=486.1nm)に対する屈折率を、第7欄yは各光学面が光軸と交わる点のy座標を、第8欄zは各光学面が光軸と交わる点のz座標をそれぞれ示している。なお、y座標及びz座標は第1面を原点としている。なお、空気の屈折率1.000000は省略してある。また、y座標及びz座標の値は、対物光学系1及び正立光学系2に対してのみ示す。
【0047】
また、非球面は、光軸に垂直な方向の高さをyとし、レンズ頂点における接平面から高さyにおける面上の位置までの光軸に沿った距離(サグ量)をS(y)とし、基準球面の曲率半径(近軸曲率半径)をRとし、円錐係数をκとし、n次の非球面係数をAnとしたとき、以下に示す非球面式(g)で表されるものとする。なお、表1においては、非球面である光学面の面番号の右側に*を示す。また、本実施例に係る望遠鏡光学系10の非球面は、非球面係数が全て0であるため、非球面データにその面番号と円錐係数κの値を示す。
【0048】
【数16】
【0049】
また、以下の表1には、上述の条件式(1)〜(5)の値である条件対応値も示している。この条件対応値における各記号の説明は上述した通りである。
【0050】
なお、以下の全ての諸元値において掲載されている焦点距離f、曲率半径r、面間隔d、その他長さの単位は一般に「mm」が使われるが、光学系は、比例拡大または比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、これに限られるものではない。
【0051】
(表1)
[全体諸元]
o=190.00
e=12.65
ER=15.281
β=15x

[レンズデータ]
m r d nC nd nF y z
1 108.000 10.0 1.514319 1.516789 1.522369 0.000 0.000
2 -80.000 3.5 1.615023 1.620040 1.632103 0.000 10.000
3 -344.799 94.5 0.000 13.500
4 ∞ 30.4 0.000 107.967
5 ∞ 24.0 30.254 111.147
6 ∞ 5.9 1.514319 1.516789 1.522369 12.433 127.192
7 ∞ 13.7 1.514319 1.516789 1.522369 8.059 131.131
8 ∞ 10.9 1.514319 1.516789 1.522369 -2.091 121.992
9 ∞ 8.0 1.514319 1.516789 1.522369 8.779 123.134
10 ∞ 3.5 8.779 139.456
11 -41.000 2.5 1.615023 1.620040 1.632103
12 -17.000 1.2 1.514319 1.516789 1.522369
13 26.000 3.0
14 ∞ 5.2
15 106.761 5.5 1.489204 1.491755 1.497760
16* -19.800 0.2
17 -200.000 1.5 1.796110 1.805184 1.827729
18 17.000 9.2 1.708979 1.713000 1.722197
19 -28.167 0.2
20 19.456 5.0 1.708979 1.713000 1.722197
21 300.000 ER

[非球面データ]
第16面 κ=-1

[条件対応値]
Φ1=35.8
Φ2=8.96
α=42°
L=34
1=30.420
2=23.980
0=147.063
D=50.0
θ=2.2°
M=57.668
N=1.548
ε=0.5°
(1)(Φ1+Φ2)・cosα = 33.26
(2)d1/d2 = 1.269
(3)d1+d2 = 54.400 f/4=47.5 3f/4=142.5
(4)d=94.467(d3=101.9) 下限値=92.663 上限値=147.063
(5)δ=0.769 上限値=0.823 下限値=0.714
【0052】
このように本実施例に係る望遠鏡光学系10は、上記条件式(1)〜(5)を全て満たしていることがわかる。なお、上述したように、対物光学系1の主平面から第1反射鏡22の反射面22aの距離dを、対物光学系1の最も像側にある面の頂点から第1反射鏡22の反射面22aまでの光軸上の距離d3に近似しても、本実施例に係る望遠鏡光学系10は、条件式(4)を満足している。
【符号の説明】
【0053】
1 対物光学系 2 正立光学系 3 接眼光学系 10 望遠鏡光学系
22 第1反射鏡(第1反射部材) 23 第2反射鏡(第2反射部材)
25 ダハプリズム(第3反射部材) 25a 入射面 25b 射出面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7