【文献】
J. Org. Chem.,2010年,Vol. 75,6814-6819
【文献】
J. Org. Chem.,2007年,Vol. 72,9046-9052
【文献】
Macromolecules,2011年 6月 7日,Vol. 44,4605-4609
【文献】
Electrochimica Acta,2007年,Vol. 53,1439-1443
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸ポリマー、炭化水素系ポリマー、ポリイミド、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ドープされたポリベンズイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン及びこれらの酸またはこれらの塩基のうち1以上の高分子をさらに含むものである請求項10に記載の高分子電解質膜。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明の一実施形態による化合物は、下記化学式1のような構造を有する。
【化1】
式中、
X、Y及びRは、それぞれ独立に水素、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、反応性基または反応性基に転換可能な基であり、nは1ないし3の整数であり、nが2以上の場合、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、これらは共に脂肪族または芳香族単環または多環を形成することができ、
Lは少なくとも一つのフッ素原子を含む連結基であり、
sは1ないし3の整数であり、sが2以上の場合、Lは互いに同一であるか異なっており、
Mは周期表の1族元素であり、
tは1ないし3の整数であり、tが2以上の場合、括弧内の置換基は互いに同一であるか異なっており、n+tは2ないし4の整数である。
【0020】
上記化学式1において、SO
3とMの結合はイオン結合である。上記イオン結合は、上記化学式1の化合物の合成反応時には活性を帯びない。
【0021】
上記X、Y及びRの定義において、脂肪族炭化水素基は炭素数によって特に限定されない。上記脂肪族炭化水素は、例えば、炭素数1ないし20を持つことができる。上記脂肪族炭化水素は、直鎖、分枝鎖、単環または多環を含んでもよい。上記脂肪族炭化水素の例としては、炭素数1ないし20の直鎖または分枝鎖アルキル基、炭素数2ないし20の直鎖または分枝鎖アルコキシ基、炭素数2ないし20の直鎖または分枝鎖アルケニル基、炭素数2ないし20のアルキニル基、炭素数3ないし20のシクロアルキル基、炭素数3ないし20のシクロアルケニル基などがある。本明細書において、上記化学式1のコア構造であるベンゼン構造に結合される置換基が脂肪族炭化水素であれば、これに脂肪族炭化水素以外の他の置換基が置換されるか縮合された場合も、脂肪族炭化水素の範囲に含まれるものと解釈される。
【0022】
上記X、Y及びRの定義において、芳香族炭化水素基は炭素数によって特に限定されない。上記芳香族炭化水素は、例えば炭素数6ないし40を持つことができる。上記芳香族炭化水素は、単環または多環を含んでもよい。上記芳香族炭化水素の例としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニルなどであってもよく、これらはさらに置換基を有してもよい。本明細書において、上記化学式1のコア構造であるベンゼン構造に結合される置換基が芳香族炭化水素であれば、これに芳香族炭化水素以外の他の置換基が置換されるか縮合された場合も、芳香族炭化水素の範囲に含まれるものと解釈される。
【0023】
上記X、Y及びRの定義において、上記複素環基は、ヘテロ原子としてO、S及びNのうち少なくとも一つを含む環基である。上記複素環基は、脂肪族環基または芳香族環基である。上記複素環基は炭素数によって特に限定されない。上記複素環基は、例えば炭素数2ないし40を持つことができる。上記複素環基は、単環または多環を含んでもよい。上記複素環基の例としては、イミダゾール、チアゾール、ピリジル、ピリミジル、オキサゾールなどがある。本明細書において、上記化学式1のコア構造であるベンゼン構造に結合される置換基が複素環基であれば、これに複素環基以外の他の置換基が置換されるか縮合された場合も、複素環基の範囲に含まれるものと解釈される。
【0024】
上記X、Y及びRの定義において、上記反応性基とは、さらに他の化合物と反応が可能な基である。具体的に、上記反応性基は当該技術分野において知られている反応条件下で他の化合物と反応可能な基を意味する。上記反応性基の種類としては特に限定されず、例えば-OH基、-SH、-NR
aR
bなどがある。ここで、R
a及びR
bは、それぞれ水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリールなどであってもよい。
【0025】
上記X、Y及びRの定義において、上記反応性基に転換可能な基とは、上述したような反応性基がさらに置換できるか反応性基に代替できる基である。具体的に、上記反応性基に転換可能な基とは、当該技術分野に知られている反応条件下で他の化合物と反応可能な基に置換されるか代替できる基を意味する。上記反応性基に転換可能な基の種類としては、特に限定されず、例えばアミン基などがある。上記アミン基は、-NH
2基またはアルキルやアリールなどの置換基を有するアミン基を含む。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、上記X、Y及びRのうち少なくともXは、反応性基または反応性基に転換可能な基である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、上記X、Y及びRのうち少なくともX及びYは、反応性基または反応性基に転換可能な基である。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、X及びYが反応性基または反応性基に転換可能な基であり、これらはメタまたはパラ位に位置する。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、X及びYが反応性基または反応性基に転換可能な基であり、これらはパラ位に位置する。
【0030】
X及びYがパラ位に位置する場合、下記化学式4のように表されることができる。
【化4】
式中、X、Y、R、n、L、s、t及びMは、化学式1に定義された通りである。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、X及びYが反応性基であり、これらはパラ位に位置する。
【0032】
上記Lの定義において、少なくとも一つのフッ素原子を含む連結基は、ベンゼン環とスルホネート基(-SO
3-)とを連結できる二価基であって、フッ素原子を一つ以上含む基である。Lの繰り返し単位であるsは1であってもよいが、2または3であってもよい。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、Lは、少なくとも一つのフッ素で置換されたアルキレン基を含む。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、Lは、少なくとも一つのフッ素で置換されたアルキレン基を一つまたは二つ以上含み、追加の二価基をさらに含んでもよい。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、Lは、少なくとも一つのフッ素で置換された炭素数1ないし10のアルキレン基を含む。ここで、上記アルキレン基はいずれもフッ素で飽和されることができる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、上記化学式1は下記化学式5で表される。
【化5】
式中、
X、Y、R、n、t及びMは、化学式1に定義された通りであり、
R
1ないしR
4のうち少なくとも一つはフッ素原子であり、R
1ないしR
4のうちフッ素原子でないものは水素、C
1−C
6アルキルまたはC
1−C
6のフッ素置換アルキルであり、pは1ないし10の整数であり、rは0ないし10の整数であり、
Zは二価基であり、qは0または1である。
R
1ないしR
4のうちフッ素原子でないものは、例えば水素、-CH
3、-CF
3などがある。
Zは二価基であって、その種類は特に限定されない。例えば、Zは、-O-または-S-であってもよい。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、上記化学式5において、pは1ないし5の整数であり、qは0または1であり、rは0ないし5の整数である。
【0038】
本発明のまた一つの実施形態によれば、上記化学式5において、R
1ないしR
4はいずれもフッ素であってもよい。
【0039】
上記Mは、周期表上の1族元素である。Mの例としては、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、水素(H)などがある。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、上記Mは、カリウム(K)またはナトリウム(Na)である。本発明の一実施形態において、X及びYが反応性基であり、Mがカリウム(K)またはナトリウム(Na)の場合、MはSO
3-とのイオン結合でSO
3-の反応性を低めて、本発明による化学式1の化合物のうちXとYのみを通じた反応が進行されるようにすることができる。この場合、必要に応じて後から後処理工程を通じてMをHにイオン交換することができる。
【0041】
上記
基は、上記Xに対してオルト、メタまたはパラ位に位置することができる。本発明の一実施形態によれば、上記
基は、上記Xに対してオルト位に位置することができる。例えば、X及びYが互いにパラ位に位置し、上記
がXに対してオルト位に位置する場合、上記化学式1は下記化学式6のように表されることができる。
【化6】
式中、X、Y、R、n、L、s、t及びMは、化学式1に定義された通りである。
【0042】
本発明のまた一つの実施形態は、上記化学式1の化合物の製造方法を提供する。上記化学式1の化合物の製造方法は、下記a)ないしc)工程を含む。
【0043】
a)下記化学式2の化合物を準備する工程;
【化2】
式中、
R'は互いに同一であるか異なっており、それぞれ水素、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、反応性基または反応性基に転換可能な基であり、mは1ないし5の整数であり、mが2以上の場合、R'は互いに同一であっても異なっていてもよく、これらは共に脂肪族または芳香族単環または多環を形成することができ、
Aはハロゲン基であり、vは1ないし3の整数であり、vが2以上の場合、Aは互いに同一であるか異なっており、
m+vは2以上6以下の整数であり、
b)下記化学式3の化合物を準備する工程;
【化3】
式中、
L及びMは、上記化学式1に定義された通りであり、
Eはハロゲン基であり、及び
c)上記化学式2の化合物及び上記化学式3の化合物を反応させて上記化学式1の化合物を得る工程。
【0044】
上記R'は、上記化学式1のX、YまたはRと同一であってもよいが、X、YまたはRに転換可能な基であってもよい。ここで、「転換可能な基」とは、当該技術分野に知られている反応条件下でX、YまたはRに転換され得る基を意味する。上記R'は、上記a)、b)及びc)工程の反応条件下で反応しない基であるのが好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態において、上記R'のうち少なくとも一つは反応性基に転換可能な基であってもよい。このとき、上記化学式1の化合物の製造方法は、c)工程以後にd)上記R'基のうち少なくとも一つを反応性基に転換する工程をさらに含んでもよい。例えば、上記R'基は-OAc基であり、上記d)工程によって-OH基に転換されることができる。
【0046】
本発明の一実施形態による化学式1の化合物の製造方法は、上記b)工程以前に下記化学式7の化合物を用いて上記化学式3の化合物を製造する工程をさらに含んでもよい。
【化7】
式中、
L及びMは、上記化学式1に定義された通りであり、
E及びGは、それぞれハロゲン基である。
【0047】
上記A、E及びGの定義において、ハロゲン基としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが使用できる。以下、化合物の製造例では、Aは臭素、Eはヨウ素、Gはフッ素で置換された化合物を使用したが、これに限定されるものではない。A、E及びGの種類は、反応順序や反応条件によって変わることができる。例えば、上記化学式7を、まず-SO
3Mを含む化学式3に転換する場合、Eがヨウ素である化合物及びAが臭素またはヨウ素である化合物を使用することができる。但し、上記E及びGは互いに異なる反応条件下で反応できるように、互いに異なるハロゲン基であってもよい。しかし、これに限定されるものではなく、反応順序や反応条件によって調整されることができる。
【0048】
以下、具体的な化合物に基づいて上記化学式1の化合物の製造方法を例示する。当該技術分野における技術者は、後述する例示に基づいて、出発物質の置換基の種類や置換基の位置を変更することで、上記化学式1の範囲内の化合物を製造することができる。また、後述する反応条件は、出発物質や中間物質の種類によって調節されることができる。
【0049】
具体的な例として、上記化学式1の化合物は、下記のように5つの工程を含む方法で製造されることができる。
<第1工程>
【0050】
上記第1工程では、1,4-ベンゾキノンをZnBr
2、Ac
2Oの存在下に100℃で3時間反応させた。化合物の置換基の種類によって反応時間や反応温度などの反応条件を調節することができる。本例示では、出発物質として1,4-ベンゾキンを使用したが、ベンゾキノン中のケトンの位置が異なる物質を使用するか、第1工程で得られる化合物の臭素の置換位置を制御することで置換基の位置を変更することができる。また、出発物質に置換された置換基または反応途中で使用された物質、例えばZnBr
2、Ac
2Oを他の物質に代替することで置換基の種類を変更することができる。ここで、84%は転換率または収率を意味する。
【0052】
上記第2工程は、上記第1工程との関係から順序に関係なく進行されることができる。上記第2工程では、連結基Lである-(CF
2)
2-O-(CF
2)
2-基及び-SO
2-基を含む化合物の両端にそれぞれヨウ素基とフッ素基とが結合された出発物質を用いた。まず、上記出発物質をDCM(dichloromethane)、H
2O、2,6-ルチジン及びBu
4N
+F
-(1M)の存在下に室温で4日間反応させた。次いで、THF(tetrahydrofuran)、K
2CO
3の存在下に室温で10時間反応させた。化合物の置換基の種類によって反応時間や反応温度などの反応条件を調節することができる。
【0053】
本例示では連結基Lとして-(CF
2)
2-O-(CF
2)
2-基を持つ出発物質を使用したが、出発物質における連結基Lの種類を変更することで、他の種類の連結基Lを持つ化合物を製造することができる。また、出発物質は両端にそれぞれヨウ素(I)基及びフッ素(F)基が結合された化合物を使用したが、これは反応条件によって他のハロゲン基に代替できる。但し、出発物質の両端のハロゲン基は異なる条件で反応できるように互いに異なっているのが好ましい。ここで、78%は転換率または収率を意味する。
【0055】
上記第3工程では、上記第1工程で得た反応生成物と上記第2工程で得た反応生成物とをDMSO(dimethyl sulfoxide)及びCuの存在下に、Ar雰囲気中で110℃で62時間反応させた。化合物の置換基の種類によって反応時間や反応温度などの反応条件を調節することができる。ここで、27%は転換率または収率を意味する。
【0057】
上記第4工程では、4N(normal concentration、4モル濃度)のHClを添加して50℃で2時間反応させた。次いで、第5工程では、10重量%のKHCO
3水溶液を添加して、室温で反応させ、反応基として-OH基を持つ化合物を製造した。化合物の置換基の種類によって反応時間や反応温度などの反応条件を調節することができる。本例示では反応基として-OH基を持つ化合物を製造したが、出発物質の置換基の種類または反応途中で添加された物質を変更することで、最終的に得られる化合物の置換基を調節することができる。ここで、83%は転換率または収率を意味する。
【0058】
本発明による化合物は多様な素材の材料自体で使用されることもでき、他の素材を製造するための原料物質として使用されることができる。
【0059】
本発明のまた一つの実施形態は、上記化学式1の化合物を含む高分子電解質膜を提供する。
【0060】
燃料電池用電解質膜のうち既存のフッ素系電解質膜は高価であって、相対的に安価な炭化水素系電解質膜の開発が試みられている。電解質膜は親水性と疎水性の相分離が重要であるため、ブロック高分子が使用されることができるが、炭化水素系ブロック高分子において、主鎖とスルホン基間の距離が近い場合、相分離が難しい。しかし、上記化学式1の化合物は芳香族基であるフェニル基とスルホン基との間にフッ素を含む連結基、特にフッ素を含む脂肪族基が存在するから、向上した相分離性を有する電解質膜を提供することができる。
【0061】
上記化学式1の化合物は、電解質膜を構成する高分子内に重合された単量体として含まれるか、添加剤として含まれることができる。
【0062】
上記化学式1の化合物が高分子内に重合された単量体である場合、上記化学式1の化合物を含む高分子は、化学式1の化合物の単独重合体であってもよく、その他追加の共単量体を含んでもよい。追加の共単量体としては、当該技術分野において知られているものなどが使用され得る。このとき、共単量体は1種類または2種類以上が使用されることができる。
【0063】
上記共単量体の例としては、パーフルオロスルホン酸ポリマー、炭化水素系ポリマー、ポリイミド、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ドープされたポリベンズイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、これらの酸またはこれらの塩基を構成する単量体が使用されることができる。
【0064】
上記高分子は、上記化学式1の化合物以外に、他のスルホネート系化合物をさらに含んでもよい。
【0065】
具体的な例として、上記高分子は、上記化学式1の化合物とともに、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-difluorobenzophenone)及び3,5-ビス(4-フルオロベンゾイル)フェニル(4-フルオロフェニル)メタノン(3,5-bis(4-fluorobenzoyl)phenyl(4-fluorophenyl)methanone)が重合された高分子であってもよい。ここに、ヒドロキノンスルホン酸カリウム塩のようなスルホネート系化合物がさらに含まれてもよい。
【0066】
また一つの例として、上記高分子は、上記化学式1の化合物とともに、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-difluorobenzophenone)及び3,5-ビス(4-フルオロベンゾイル)フェニル(4-フルオロフェニル)メタノン(3,5-bis(4-fluorobenzoyl)phenyl(4-fluorophenyl)methanone)が重合された高分子に、さらに4,4'-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-Difluorobenzophenone)、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオリン(9,9-bis(hydroxyphenyl)fluorine)及び3,5-ビス(4-フルオロベンゾイル)フェニル(4-フルオロフェニル)-メタノン(3,5-bis(4-fluorobenzoyl)phenyl(4-fluorophenyl)-methanone)を入れて反応させて得たマルチブロック共重合体であってもよい。
【0067】
上記高分子が上記化学式1の化合物以外に追加の共単量体を使用する場合、例えば、上記高分子中の上記追加の共単量体の含量は0重量%超過95重量%以下であってもよい。
【0068】
高分子内の上記化学式1の化合物と追加の共単量体の含量は、適用しようとする燃料電池用電解質膜に要求される適正なIEC(ion exchange capacity)値によって調節されることができる。燃料電池用分離膜の製造のための高分子合成の場合、IEC(ion exchange capacity) meq./g = mmol/gの値を計算して高分子をデザインすることができる。必要によって異なるが、0.5≦IEC≦3の範囲内になるように高分子内の単量体含量を選択することができる。上記化学式1の化合物は、同一のイオン伝導度数値を示しながら低いIEC値を有する電解質膜をデザインするのに使用されることができる。
【0069】
上記化学式1の化合物を含む高分子は、重量平均分子量が数万から数百万であってもよい。具体的に、上記高分子の重量平均分子量は10万から100万以内で選択されることができる。
【0070】
上記化学式1の化合物を含む高分子はブロック共重合体であることが好ましい。上記化学式1の化合物を含む高分子は、例えばハロゲン元素を含む単量体を使用して上記単量体のOH基とハロゲン元素、例えばFまたはClが反応してHFまたはHClが抜け出ることで結合する縮重合方法で合成されることができる。
【0071】
上記化学式1の化合物を含む高分子を用いて高分子電解質膜を製造する場合、上記高分子に溶媒を加えて高分子溶液を作った後、溶媒キャスティング方法を用いて除膜することで高分子電解質膜を製造することができる。必要に応じて、酸処里をしてSO
3M基をSO
3H基に転換させることができる。
【0072】
上記化学式1の化合物が高分子電解質膜に添加剤として添加される場合、電解質膜内の含量範囲は特に限定されないが、例えば0超過95重量%以下であってもよい。
【0073】
上記化学式1の化合物が高分子電解質膜に添加剤として添加される場合、上記高分子電解質膜は、パーフルオロスルホン酸ポリマー、炭化水素系ポリマー、ポリイミド、ポリビニリデンフルオライド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ドープされたポリベンズイミダゾール、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、これらの酸またはこれらの塩基のうち1以上の高分子をさらに含んでもよい。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、上記高分子電解質膜のイオン伝導度及びIEC(ion exchange capacity)が最終適用される燃料電池の用途によって、また高分子電解質膜に添加される材料、例えば高分子に含まれる単量体または添加剤の種類によって適切な値に設計されることができる。例えば、燃料電池に適用する際、0.5≦IEC≦3、0.5≦IEC≦2.5で設計されることができるが、本発明の範囲がこれに限定されるものではなく、必要に応じて適切な値に選択されることができる。本発明による高分子電解質膜は、従来のものと同等または優れたイオン伝導度数値を示しながら、低いIEC値を有することができる。
【0075】
本発明による高分子電解質膜は、上記化学式1の化合物を含むことを除いては、当該技術分野の材料または方法が用いられて製造されることができる。
【0076】
例えば、上記高分子電解質膜は、厚さが数ミクロンから数百ミクロンで作製されることができる。
【0077】
本発明はアノード電極;カソード電極;及び、アノード電極とカソード電極との間に備えられ、上記化学式1の化合物を含む高分子電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0078】
アノード電極は、アノード触媒層とアノードガス拡散層とを含むことができる。アノードガス拡散層は、さらに、アノードマイクロポーラス層とアノード電極基材とを含んでもよい。
【0079】
カソード電極は、カソード触媒層とカソードガス拡散層とを含むことができる。カソードガス拡散層は、さらに、カソードマイクロポーラス層とカソード電極基材とを含んでもよい。
【0080】
図1は、燃料電池の電気発生原理を概略に示すものであって、燃料電池において、電気を発生させる最も基本的な単位は膜電極接合体(MEA)であるが、これは電解質膜(M)とこの電解質膜(M)の両面に形成されるアノード(A)及びカソード(C)電極から構成される。燃料電池の電気発生原理を示す
図1を参照すれば、アノード(A)電極では水素またはメタノール、ブタンのような炭化水素などの燃料(F)の酸化反応が生じて水素イオン(H+)及び電子(e-)が発生し、水素イオンは電解質膜(M)を介してカソード(C)電極に移動する。カソード(C)電極では電解質膜(M)を介して伝達された水素イオンと、酸素のような酸化剤(O)及び電子が反応して水(W)が生成する。このような反応によって外部回路に電子の移動が発生する。
【0081】
図2は、燃料電池用膜電極接合体の構造を概略に示すものであって、燃料電池用膜電極接合体は、電解質膜10と、この電解質膜10を挟んで互いに対向して位置するアノード電極及びカソード電極を備える。
【0082】
アノード電極は、アノード触媒層20とアノードガス拡散層50とで構成され、アノードガス拡散層50は、さらに、アノードマイクロポーラス層30とアノード電極基材40とで構成される。ここで、アノードガス拡散層は、アノード触媒層と電解質膜との間に備えられる。
【0083】
カソード電極は、カソード触媒層21とカソードガス拡散層51とで構成され、カソードガス拡散層51は、さらに、カソードマイクロポーラス層31とカソード電極基材41とで構成される。ここで、カソードガス拡散層は、カソード触媒層と電解質膜との間に備えられる。
【0084】
上記アノード電極の触媒層は燃料の酸化反応が起こるところであって、白金、ルテニウム、オスミウム、白金-ルテニウム合金、白金-オスミウム合金、白金-パラジウム合金及び白金-遷移金属合金からなる群より選択される触媒が好ましく使用できる。上記カソード電極の触媒層は酸化剤の還元反応が起こるところであって、白金または白金-遷移金属合金が触媒として好ましく使用できる。上記触媒は、それ自体で使用できるだけでなく、炭素系担体に担持されて使用されてもよい。
【0085】
触媒層を導入する過程は、当該技術分野に知られている通常の方法で行うことができるが、例えば、触媒インクを電解質膜に直接的にコーティングするかガス拡散層にコーティングして触媒層を形成することができる。このとき、触媒インクのコーティング方法は特に制限されるものではないが、スプレーコーティング、テープキャスティング、スクリーン印刷、ブレードコーティング、ダイコーティングまたはスピンコーティング方法などを使用することができる。触媒インクは、代表的に触媒、ポリマーイオノマー(polymer ionomer)及び溶媒からなることができる。
【0086】
上記ガス拡散層は、電流伝導体としての役割とともに反応ガスと水の移動通路となるものであって、多孔性の構造を持つ。よって、上記ガス拡散層は導電性基材を含んでなることができる。導電性基材としては、カーボン紙(Carbon paper)、カーボンクロス(Carbon cloth)またはカーボンフェルト(Carbon felt)が好ましく用いられる。上記ガス拡散層は、触媒層と導電性基材との間にマイクロポーラス層をさらに含んでなることができる。上記マイクロポーラス層は、低加湿条件での燃料電池の性能を向上するために用いられることができ、ガス拡散層の外に抜け出る水の量を少なくして電解質膜が十分な湿潤状態にあるようにする役割をする。
【0087】
本発明のまた一つの実施形態は、
2以上の本発明による膜電極接合体と膜電極接合体同士の間に備えられたセパレータとを含むスタック;
燃料をスタックへ供給する燃料供給部;及び
酸化剤をスタックへ供給する酸化剤供給部を含む燃料電池を提供する。
図3は、燃料電池の構造を概略に示すものであって、燃料電池は、スタック60、酸化剤供給部70及び燃料供給部80を含んでなる。
【0088】
スタック60は、上述した膜電極接合体を一つまたは二つ以上含み、膜電極接合体が二つ以上含まれる場合にはこれらの間に介在されるセパレータを含む。セパレータは、膜電極接合体同士が電気的に連結されることを防ぎ、外部から供給された燃料及び酸化剤を膜電極接合体へ伝達する役割をする。
【0089】
酸化剤供給部70は、酸化剤をスタック60へ供給する役割をする。酸化剤としては酸素が代表的に用いられ、酸素または空気をポンプ70へ注入して用いることができる。
【0090】
燃料供給部80は燃料をスタック60へ供給する役割をし、燃料を貯蔵する燃料タンク81及び燃料タンク81に貯蔵された燃料をスタック60へ供給するポンプ82から構成される。燃料としては気体または液体状態の水素または炭化水素燃料が使用される。炭化水素燃料の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールまたは天然ガスが挙げられる。
【0091】
本発明に係る化合物は多様な素材の材料自体で使用されることもでき、他の素材を製造するための原料物質として使用されてもよい。
【0092】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。
【0093】
製造例
1,1,2,2-テトラフルオロ-(1,1,2,2-テトラフルオロ-(2,5-ジヒドロキシフェニル)エトキシ)エタンスルホネートカリウム(1,1,2,2-tetrafluro-(1,1,2,2-tetrafluro-(2,5-dihydroxyphenyl)ethoxy)ethanesulfonate of potassium)の合成方法(他の名称 5-(2,5-ジヒドロキシフェニル)オクタフルオロ-3-オキサペンタンスルホネートカリウム(5-(2,5-dihydroxyphenyl)octafluro-3-oxapentanesulfonate of potassium))
【0094】
1. 2-ブロモヒドロキノンジアセテート(2-bromohydroquinone diacetate) [1] (化合物I)
1,4-ベンゾキノン(0.052mol、5.65g)を15mlの無水酢酸中の無水亜鉛臭素化物(0.065mol、14.7g)の懸濁液(suspension)に攪拌しながら添加した。上記混合物を100℃で3時間維持した後、室温に冷却させて40mlの水に注いだ。沈殿物を濾過して、水(20ml、3回)で洗浄し、水-エタノール混合物(50% of ethanol)から再結晶化した。生成物の収率は84%だった。融点は76℃ないし77℃だった。
1H NMR(300 MHz, DMSO-d
6),δ: 2.27 (s, 3H); 2.33 (s, 3H); 7.23 (dd, J = 2.4, 8.7, 1H); 7.34 (d, J = 8.7, 1H); 7,59 (d, J = 2.4, 1H).
【0095】
2. 1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-2-アイオジンエトキシ)エタンスルホネートカリウム(1,1,2,2-Tetrafluoro-2-(1,1,2,2-tetrafluoro-2-iodineethoxy)ethanesulfonate of potassium) [2] (化合物II)
【0096】
40gのメチレンクロライド中の1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-2-アイオジンエトキシ)エタンスルホフルオライド(0.268mol、114g)溶液に、38mlの水、2,6-ルチジン(2,6-lutidine)(0.34mol、40ml)及びTHF中のテトラブチルアムモニウムフルオライド1M溶液0.8mlを添加した。反応混合物を室温で4日間攪拌した後、メチレンクロライド(200ml、3回)による抽出を行った。抽出物をNa
2SO
4で乾燥し、80mlのTHFに溶かした。カリウムカーボネート(0.155mol、21.4g)を上記で得られた溶液に添加した後、混合物を室温で10時間攪拌した。過量のカリウムカーボネートを濾過によって除去した後、溶媒を減圧下で蒸発させた。得られた固体化合物をTHF:トルエン1:1の混合物から再結晶した。生成物の収率は96.2g(78%)だった。
【0097】
3. 1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-(2,5-ジアセトキシフェニル)エトキシ)エタンスルホネートカリウム (化合物III)
準備したばかりの銅粉(0.71mol、45.5g)を反応フラスコに入れて、アルゴン中で150℃まで加熱し、このような条件下で5分間維持した後、室温に冷却した。次いで、化合物I(0.143mol、39g)、化合物II(0.171mol、79g)及び130mlのジメチルスルホキシド(dimethylsulphoxide, DMSO)を不活性雰囲気下で添加した。フラスコを密封した後、反応混合物をアルゴン雰囲気中で110℃で62時間攪拌した。混合物を室温まで冷却し、200mlのイソプロピルアルコールに溶解してゼオライトを用いて過量の触媒と無機物を除去した。イソプロピルアルコールを回転蒸発器を用いて除去した。300mlのエチルアセテートを残りの化合物に添加して、有機層を塩化カリウムの飽和溶液で洗浄した後、Na
2SO
4上で乾燥した。残りの溶媒をさらに減圧して除去した。得られたオイルをトルエンで処理し、ジエチルエテールを用いてデカンテーション(decantation)を適用して余分の不純物をさらに除去した。生成された明るいベージュ(light beige)の物質をフィルター上で追加量のエステルで洗浄した。生成物の収率は19g(27%)だった。融点は170℃〜173℃だった。
1H NMR(300MHz, DMSO-d
6), δ: 2.27 (s, 3H); 2.29 (s, 3H); 7.42 (dd, J = 2.4, 8.7, 1H); 7.50 (d, J = 8.7, 1H); 7,52 (d, J = 8.7, 1H). [M-K]- : calculated - 488.9885; experimental value - 488.9863.
【0098】
4. 1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-(2,5-ジヒドロキシフェニル)エトキシ)エタンスルホン酸(1,1,2,2-tetrafluro-2-(1,1,2,2-tetrafluro-(2,5-dihydroxyphenyl)ethoxy)ethanesulphonic acid) (化合物IV)
化合物III(0.025mol、13g)を650mlのアセトンに溶解させた。650mlの4N HCl溶液を上記溶液に添加した後、次いで、混合物を50℃で2時間攪拌した。回転蒸発器を用いて2回添加された水で溶媒を除去して、酢酸の完全な除去を確保した。生成された生成物は9.1gのオイル(90%)だった。
1H NMR(300 MHz, DMSO-d
6)、δ: 6,75 (narrow d, 1H); 6,82 (m,H); 9,46 (broad. s,1H).
【0099】
5. 1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-(2,5-ジヒドロキシフェニル)エトキシ)エタンスルホネートカルウム塩(1,1,2,2-tetrafluro-2-(1,1,2,2-tetrafluro-(2,5-dihydroxyphenyl)ethoxy)ethanesulphonate of potassium) (化合物V)
水中のカリウムハイドロカーボネート(22.5mlの10%溶液)を添加した。混合物を室温で20分間維持した後、溶媒を低い圧力下で蒸発させた。蒸発途中50mlのアセトンを3回添加して水が完全に除去されるようにした。得られた生成物はオイルであって、1mm Hgで2時間乾燥後、固形化された。収率 - 9.16g(92%)。
1H NMR(300MHz, DMSO-d
6), δ: 6,75 (narrow d, 1H); 6,82 (m,H); 9,13 (s,1H); 9,46 (s,1H). [M-K]- : calculated - 404.9567; experimental value - 404.9545.
【0100】
実験例
1.高分子合成
ディーン・スタークトラップ(Dean-Stark trap)とコンデンサが装着された丸底フラスコに上記製造例で製造された化合物(57.96g)、4,4'-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-difluorobenzophenone)(23.40g)と3,5-ビス(4-フルオロベンゾイル)フェニル(4-フルオロフェニル)メタノン(3,5-bis(4-fluorobenzoyl)phenyl(4-fluorophenyl)methanone)(0.98g)を入れてDMSO(dimethyl sulfoxide)150mLとベンゼン(benzene)200mL及びK
2CO
3 29.03gを触媒として用いて窒素雰囲気中で準備した(親水性オリゴマー合成)。
【0101】
上記反応混合物を140℃の温度でオイルバス(oil bath)で4時間攪拌して、ベンゼンが逆流しながらディーン・スタック装置の分子ふるい(molecular sieves)に共沸混合物を吸着させて除去した後、反応温度を180℃に昇温させて20時間縮重合反応させた。上記反応の終了後、上記反応物の温度を60℃に減温させた後、同一フラスコに4,4'-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-Difluorobenzophenone)(5.49g)、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオリン(9,9-bis(hydroxyphenyl)fluorine)(11.04g)及び3,5-ビス(4-フルオロベンゾイル)フェニル(4-フルオロフェニル)-メタノン(3,5-bis(4-fluorobenzoyl)phenyl(4-fluorophenyl)-methanone)(0.24g)を入れて、DMSO 100mLとベンゼン200mLを用いて窒素雰囲気でK
2CO
3(8.71g)を触媒として用いて反応を再度開始した。
【0102】
上記反応混合物をさらに140℃の温度でオイルバス(oil bath)で4時間攪拌して、ベンゼンが逆流しながらディーン・スターク装置の分子ふるい(molecular sieves)に共沸混合物を吸着させて除去した後、反応温度を180℃に昇温させ、20時間縮重合反応させた。その後、反応物の温度を室温に減温させてDMSOをさらに加えて生成物を希釈させた後、希釈された生成物を過量のメタノールに注いで溶媒から共重合体を分離した。
【0103】
その後、水を用いて過量のカリウム炭酸塩(potassium carbonate)を除去した後、濾過して得た共重合体を80℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して、疎水ブロックと親水ブロックが交互に化学結合でつながっている枝分かれたスルホン化マルチブロック共重合体を製造した。
【0104】
2.フィルムキャスティング(Film casting)
上記で合成されたマルチブロック共重合体をDMSO(dimethyl sulfoxide)を溶媒として5〜10wt%の高分子溶液を製造し、準備した高分子溶液を用いて40℃に設定されたクリーンベンチ(clean bench)内のapplicatorの水平板上でドクターブレードを用いて基板に高分子フィルムをキャスティングした後、2時間維持後(soft baking)、100℃に設定されたオーブン中に入れて一日間乾燥して、親水性炭素系物質が添加された高分子電解質膜を製造した。
【0105】
上記のように製造された高分子電解質膜のIEC値は1.2〜1.6であり、水素イオン伝導度は常温(2.5E-02)、40℃(3.1E-02)、60℃(4.2E-02)、80℃(5.2E-02)、100℃(6.8E-02)だった。要するに、上記で製造された高分子電解質膜はIEC値が低く水素イオン伝導度は高くて、優れた燃料電池用高分子電解質膜として使用されることができる。このような高分子電解質膜を燃料電池に適用する場合、燃料電池の性能は大きく向上することができる。