(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
便器本体(1)の後部に配置した揺動軸(15)で起伏自在に支持される便座ベース(12)と、便座ベース(12)の上面に配置される便座(14)と、便座ベース(12)に対して便座(14)を昇降操作する昇降機構とを備える便座装置であって、
昇降機構は、便座(14)と便座ベース(12)の間に配置した伸縮バッグ(21・22)と、伸縮バッグ(21・22)に水素ガスを供給し、あるいは伸縮バッグ(21・22)に供給した水素ガスを再吸蔵する水素吸蔵部(23)とを含み、
水素吸蔵部(23)には、水素吸蔵合金(41)と、水素吸蔵合金(41)を加熱して水素ガスを放出させる加熱手段(42)と、水素吸蔵合金(41)を冷却して水素ガスを吸蔵させる冷却手段とが設けられており、
水素吸蔵部(23)と伸縮バッグ(21・22)との間で、水素ガスをガス通路(60)を介して送受して、便座(14)を便座ベース(12)に支持される使用位置と、便座ベース(12)の上方の補助位置との間で昇降操作でき、
ガス通路(60)に、伸縮バッグ(21・22)から水素吸蔵部(23)へ戻される水素ガスを一時的に貯留する伸縮可能なバッグ構造の水素回収室(62)が設けてあることを特徴とする便座装置。
便座ベース(12)と便座(14)との間に、便座(14)が補助位置を越えて上昇するのを規制するリンク機構(26)と、伸縮バッグ(21・22)が収縮する向きに便座(14)を付勢するばね(29)とが設けてある請求項1から3のいずれかひとつに記載の便座装置。
【背景技術】
【0002】
洋式便器は、和式便器と比べて楽な姿勢で用便を済ませることができるが、足腰等の身体機能が低下した身体障害者や虚弱高齢者など(以下、身障者等と記す)には、洋式便器の便座への腰掛け動作や、便座からの立ち上がり動作に困難を来す者もある。また、一般的に便所内の空間は狭いため、これら動作を介助する介助者が、便所内で手際よく介助作業を行なうことも困難である。
【0003】
以上のような問題を解決する方法として、身障者等の立ち上がり動作、或いは腰掛け動作の補助を目的として、便座を昇降操作することが有効であることは広く知られており、例えば特許文献1には、用便時の使用位置と、使用位置より上方の補助位置との間で、便座を昇降操作する昇降装置が開示されている。かかる昇降装置を備えた便器によれば、腰掛け動作時に便座を上方の補助位置に上昇させることで、身障者等の臀部を便座で受け止めて、臀部の不用意な落下を抑えることができる。すなわち、中腰姿勢を維持することが困難な身障者等が、腰掛動作時に勢い良く便座上に臀部を打ち付けることが無く、より安全に便座に腰掛けることができる。また、立ち上がり動作時において再び便座を補助位置に上昇させれば、身障者等はより少ない筋力で便座から立ち上がることができるため、身障者等或いは介助者の負担を小さくできる。
【0004】
特許文献1における昇降装置は、便器本体の開口と、便器本体の上面後端に固定した貯水タンクとの間に配置されており、ガイドレール、駆動モータ、スプロケット、チェーンなどで構成される駆動機構により便座を昇降動作する。なお、本明細書および特許請求の範囲において、前後、左右、上下の各方向は、便座に腰掛けた者から見た方向を意味する。
【0005】
特許文献2の便器では、便器本体の前端部に回動自在に軸着された便座を、便器本体の側面に設けられた作動体により昇降操作している。作動体は、ラックおよびピニオンと、ピニオンを回転させるモータなどで構成される。特許文献3に記載の便所装置では、油圧シリンダにより、便座の後端を持ち上げた作動姿勢と、便座が便器本体に接当する待機姿勢との間で変位させている。便座は、便器本体の前端部に軸着されており、便座の後端部と便器本体との間には、X字状に連結された一対の腕部材からなるリンクが配置されている。
【0006】
特許文献4の便座装置では、便器本体の前方の床に支持部材を立設し、支持部材の上端に便座の前端を揺動自在に連結している。便座を上下揺動するための駆動装置は、シリンダ装置および水素吸蔵合金と、両者の間に配置される水素−液圧コンバータとを備えている。補助位置の便座に身障者等が着座すると、圧力スイッチが着座状態を検知して、水素吸蔵合金を加熱するヒータがオンになり、合金に吸蔵された水素ガスが放出されて、水素−液圧コンバータに流れ込む。これにより、コンバータに収容されていた作動液がシリンダ装置の圧力室に流れ込み、ピストンが圧縮ばねの付勢力に抗して押し下げられて、便座が使用位置へ向かって下方揺動する。用便後に水を流すと、当該水で水素吸蔵合金が冷却されて、水素−液圧コンバータに流れ込んでいた水素ガスが合金に吸い込まれる。これにて、シリンダ装置の圧力室内の作動液がコンバータに戻り、ピストンが圧縮ばねで押し上げられて、便座が補助位置へ向かって上方揺動される。
【0007】
また、本発明に関連して、上下に伸縮可能な蛇腹状のバッグが便座の下側に配置してある便座装置が、特許文献5に開示されている。しかし、特許文献5のバッグは、単に着座時の衝撃を緩衝しているに過ぎず、身障者等の立ち上がり動作や腰掛ける動作の補助を目的としていない点で、本発明の便座装置とは本質的に異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の便座装置では、ガイドレール、駆動モータ、スプロケット、チェーンなどで昇降装置を構成するので、昇降装置の前後寸法が大きくなることが避けられず、既存の洋式便器に取り付ける際に設置スペースを確保することが難しい。特に、既存の洋式便器が、便器本体の上面後端に貯水タンクが固定されたロータンク型である場合は、便器本体の上面開口と貯水タンクとの間の前後スペースが小さいため、昇降装置の取り付けが困難となる。
【0010】
特許文献2の便座装置では、便器本体の前端に直接便座を軸着する。そのため、既存の便器本体に対して便座を取り付ける際に、磁器で形成した便器本体に穴を開けるなどの加工を施す必要があり実用性に欠ける。この点は特許文献3の便座装置も同様である。また特許文献2の便座装置では、便座と作動体を個別に取り付ける必要があるため取付作業に手間がかかり、しかも、便器本体の側方に作動体の設置スペースが必要になり、狭い便所に設置スペースを確保することが困難である。
【0011】
特許文献4の便座装置では、本発明に係る便座装置と同様に、水素吸蔵合金から放出される水素ガスを利用して便座を昇降させる。しかし、特許文献4の便座装置では、便座の駆動装置が水素吸蔵合金に加えてシリンダ装置および水素−液圧コンバータを備える。そのため、便座装置の全体構造が複雑化して、そのコストが増大する不利がある。
【0012】
また便所は一般的に、足腰に問題の無い健常者も共同使用する。しかし、特許文献1、3、4に係る便座装置は、一般の便座のように便器本体の後方へ回動させて起立させることができず、男性の小用の際に使い難いものになっている。特許文献2の便座は前方へ270°回動させることができるので、男性の小用の際に便座が邪魔になるのを解消できるが、狭い便所においては、便座を回動させる際に自身の体が邪魔になり、利便性に劣る。
【0013】
本発明の目的は、大きな設置スペースを必要とせず、新規な便器本体はもちろん、既存の便器本体に対しても問題無く適用でき、しかも、少ない手間で簡便に施工できる昇降機能付きの便座装置を提供することにある。
本発明の目的は、水素吸蔵合金を利用した昇降機能付きの便座装置の全体構造を簡素化して、そのコストを削減することにある。
本発明の目的は、便座の不要時には便器本体の開口の後側に起立させることができる昇降機能付きの便座装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、便器本体1の後部に配置した揺動軸15で起伏自在に支持される便座ベース12と、便座ベース12の上面に配置される便座14と、便座ベース12に対して便座14を昇降操作する昇降機構とを備える便座装置10に関する。昇降機構は、便座14と便座ベース12の間に配置した伸縮バッグ21・22と、伸縮バッグ21・22に水素ガスを供給し、あるいは伸縮バッグ21・22に供給した水素ガスを再吸蔵する水素吸蔵部23とを含む。水素吸蔵部23には、水素吸蔵合金41と、水素吸蔵合金41を加熱して水素ガスを放出させる加熱手段42と、水素吸蔵合金41を冷却して水素ガスを吸蔵させる冷却手段とを設ける。水素吸蔵部23と伸縮バッグ21・22との間で、水素ガスをガス通路60を介して送受して、便座14を便座ベース12に支持される使用位置と、便座ベース12の上方の補助位置との間で昇降操作できるようにする。
ガス通路60に、伸縮バッグ21・22から水素吸蔵部23へ戻される水素ガスを一時的に貯留する伸縮可能なバッグ構造の水素回収室62を設ける。
【0015】
便座装置10は、便器本体1の上面後部に固定される便座基台11を備えている。便座ベース12を、便座基台11に設けた揺動軸15で起伏自在に支持する。便座基台11の内部に水素吸蔵部23を配置する。
【0016】
水素吸蔵合金41を冷却する冷却手段を、便器本体1を洗浄する洗浄水を冷却媒体にして冷却を行うように構成する。
【0017】
便座ベース12と便座14との間に、便座14が補助位置を越えて上昇するのを規制するリンク機構26と、伸縮バッグ21・22が収縮する向きに便座14を付勢するばね29とを設ける。
【発明の効果】
【0019】
本発明における便座14の昇降機構は、便座14と便座ベース12の間に配置した伸縮バッグ21・22と、伸縮バッグ21・22に水素ガスを供給し、あるいは伸縮バッグ21・22に供給した水素ガスを再吸蔵する水素吸蔵部23とを含む。水素吸蔵部23の水素吸蔵合金41を加熱手段42で加熱すると、水素吸蔵合金41から水素ガスが放出されて、ガス通路60を介して伸縮バッグ21・22内に流入し、伸縮バッグ21・22が膨張して便座14が上昇する。一方、便座14が上昇した状態で水素吸蔵合金41を冷却すると、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収が始まって伸縮バッグ21・22内の水素ガスがガス通路60に流出し、伸縮バッグ21・22が収縮して便座14が下降する。
【0020】
上記のように、便座14と便座ベース12の間に配置した伸縮バッグ21・22で便座14を直接昇降操作すると、便座を機械的な昇降装置で昇降操作する便座装置に比べて、昇降機構のコンパクト化を図ることができる。従って、本発明に係る便座装置は、新規な便器本体1はもちろん、既存の便器本体1に対する適用が容易である。
【0021】
また本発明では、便器本体1の後部に配置した揺動軸15で便座ベース12を起伏自在に支持し、便座ベース12に伸縮バッグ21・22を介して便座14を取り付ける。従って、揺動軸15が便器本体1に設けてある場合には、便座ベース12を揺動軸15に連結するだけで、便座装置10を便器本体1に装着できる。また、揺動軸15が便座装置10の一部として設けてある場合には、揺動軸15を便器本体1に固定するだけで、便座装置10を便器本体1に装着できる。つまり、本発明に係る便座装置10は、便器本体1に対して少ない手間で簡便に施工することが可能である。
【0022】
さらに本発明では、水素吸蔵合金41から放出された水素ガスで伸縮バッグ21・22を直接膨張させて便座14を上昇操作する。これによれば、水素吸蔵合金に加えてシリンダ装置および水素−液圧コンバータを使用する従来形態の便座装置に比べて、便座装置10の全体構造を簡素化してそのコストを削減できる。
【0023】
便器本体1の後部に配置した揺動軸15で便座ベース12を起伏自在に支持すると、便座ベース12を伸縮バッグ21・22および便座14とともに後方へ揺動させて便器本体1の開口の後側に起立させることができるので、男性の小用の際の利便性を向上できる。また、便座ベース12等を起立できると、便器本体1の清掃を簡便に行うことができる。
【0024】
便器本体1の上面後部に固定する便座基台11で便座ベース12を起伏自在に支持し、便座基台11の内部に水素吸蔵部23を配置することができる。このように、便座基台11に水素吸蔵部23を収容してユニット化すると、便座装置10を便器本体1に対してより少ない手間で施工することができる。
【0025】
便器本体1を洗浄する洗浄水を冷却媒体にして水素吸蔵合金41を冷却すると、冷却機器などで冷却手段を構成する場合に比べて、水素吸蔵部23を簡略化してコストを削減でき、しかも、水素吸蔵合金41を冷却する際の消費電力を削減できる。なお、便器本体1を洗浄する洗浄水とは、便器本体1へ向かって流れる水と、貯水タンク2に貯められている水と、貯水タンク2へ向かって流れる水とを含む。
【0026】
便座ベース12と便座14との間に、便座14が補助位置を越えて上昇するのを規制するリンク機構26が設けられていると、伸縮バッグ21・22が過剰に膨張して伸縮バッグ21・22が破裂すること、或いは伸縮バッグ21・22に亀裂が生じて水素ガスが漏れるなどの事故を確実に防止できる。さらに、便座14に着座する身障者等の臀部が必要以上に持ち上げられて、身障者等が転倒するなどの事故を確実に防止できる。
【0027】
水素吸蔵合金41を冷却したときの水素ガスの吸収速度は、水素吸蔵合金41を加熱したときの水素ガスの放出速度に比べて小さい。そこで、伸縮バッグ21・22が収縮する向きに便座14を付勢するばね29を設けると、便座14で伸縮バッグ21・22を下向きに圧縮して、ガス通路60の内圧を上昇できる。これにより、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収を促して、便座14の下降速度を大きくすることができる。
【0028】
伸縮バッグ21・22から水素吸蔵部23へ戻される水素ガスを一時的に貯留する水素回収室62が設けられていると、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収速度に左右されることなく、伸縮バッグ21・22を速やかに収縮させることができる。従って、便座14をより素早く下降させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施例1)
図1ないし
図5は本発明に係る便座装置の実施例1を示す。便座装置10が装着される洋式便器は、
図2に示すように、上面が開口する便器本体1と、便器本体1の上面後端に固定された洗浄水の貯水タンク2とを備える。便座装置10は、便器本体1の上面後部に固定される便座基台11と、便座基台11で起伏自在に支持される便座ベース12および蓋13と、便座ベース12の上面に配置される便座14と、便座ベース12に対して便座14を昇降操作する昇降機構とを備える。便座14は、
図2に実線で示す便座ベース12に支持される使用位置と、想像線で示す使用位置より上方の補助位置との間で昇降できる。
【0031】
図2において符号17・18は、便座14を上昇させるための上昇スイッチと、便座14を下降させるための下降スイッチとを示す。上昇スイッチ17を一度押すと、便座14の上昇が始まり、もう一度押すと便座14が停止する。また、下降スイッチ18を一度押すと、便座14の下降が始まり、もう一度押すと便座14が停止する。本実施例では両スイッチ17・18を便所の壁面に配置したが、便座14に座ったまま手を伸ばして届く個所であればどこに配置してもよく、便器本体1や貯水タンク2、あるいは便座装置10自体に配置してもよい。また、上昇スイッチ17(または下降スイッチ18)の押圧時に便座14が上昇(または下降)し、上昇スイッチ17(または下降スイッチ18)から指先等が離れると便座14が停止するように構成してもよい。
【0032】
便座基台11は、左右横長の中空箱状に形成されて、便器本体1の上面開口の後端と貯水タンク2との間に配置されており、左右一対の不図示のねじ等で便器本体1の上面に固定してある。便座基台11の左右側面には、便座ベース12を軸支する揺動軸15が設けてある。
【0033】
便座ベース12は、平面視で略O字状に形成してあり、その後端には便座基台11の揺動軸15に軸支される左右一対の腕部材16が一体に設けてある。便座ベース12は、揺動軸15を中心にして、便器本体1の上面に載置される使用姿勢と、貯水タンク2の前面に沿って起立する退避姿勢との間で、便座基台11に対して約90°の範囲で上下に揺動できる。男性の小用の際には、便座ベース12を退避姿勢にして、便座ベース12および便座14を便器本体1の開口の後側で起立させることができる。蓋13も便座ベース12と同様の範囲で便座基台11に対して揺動でき、水平姿勢においては、使用位置における便座14の上面と、該便座14の中央の開口とを上面から覆う。
【0034】
便座14は、平面視で便座ベース12と略同形のO字状に形成してあり(
図3参照)、便座ベース12の上面を覆うように配置されている。便座14の昇降機構は、
図1に示すように、便座14と便座ベース12の間に配置される前後一対の伸縮バッグ21・22と、便座基台11の内部に配置される水素吸蔵部23などで構成されている。
【0035】
各伸縮バッグ21・22は、上下に伸縮可能な蛇腹状に形成してある。収縮状態の伸縮バッグ21・22の内部に水素ガスを送給すると、伸縮バッグ21・22は上下方向に伸長して、便座14を補助位置へ押し上げる。伸縮バッグ21・22は、水素気密性が高い複層アルミラミネートフィルムを使用して形成してある。さらに、当該フィルムのシーラント層は、水素ガスに対する気密性が特に高い分子構造を有したポリマー材料で形成してあり、これによりさらに堅牢な水素気密性を実現している。
【0036】
各伸縮バッグ21・22の上面は便座14の下面に、各伸縮バッグ21・22の下面は便座ベース12の上面に、それぞれ接着などの方法で固定してある。
図3に示すように前側の伸縮バッグ21は、便座14および便座ベース12の前端部に配置されて、平面視において便座14および便座ベース12に沿う扇形に形成してある。後側の伸縮バッグ22は、便座14および便座ベース12の後端部に配置されて、平面視において便座14および便座ベース12の後端縁に沿う長方形状に形成してある。また、後側の伸縮バッグ22は、前側の伸縮バッグ21よりも左右寸法が大きく設定してある。
【0037】
図1に示すように後側の伸縮バッグ22は、伸長時の上下寸法が前側の伸縮バッグ21よりも大きく設定してある。従って、両伸縮バッグ21・22に押し上げられて補助位置に達した便座14は、前下がり傾斜姿勢になる。収縮時の前後の伸縮バッグ21・22の上下寸法は略同一であり、使用位置における便座14は略水平である(
図2参照)。
【0038】
便座14と便座ベース12の対向空間における前後の伸縮バッグ21・22の間には、便座14が補助位置を越えて上昇するのを規制するとともに、補助位置における便座14がぐらつくのを防ぐための左右一対のリンク機構26・26が配置してある。各リンク機構26は、長さが異なる一対のアーム27・28で構成されており、各アーム27・28の一端が便座14の下面に、各アーム27・28の他端が便座ベース12の上面に、それぞれ回動自在に連結してある。また、便座14と便座ベース12の対向空間における各リンク機構26の前後には、引張コイル状のばね29が配置してあるが、その作用については後述する。
【0039】
便座ベース12においては、長アーム27との連結部31が、短アーム28との連結部32よりも前方に配置してあり、便座14においては、長アーム27との連結部33が、短アーム28との連結部34よりも後方に配置してある。便座14とアーム27・28との連結部33・34は、前後方向に長い長孔で構成してあり、各アーム27・28は便座14に対して回動に加えて前後に相対スライドできる。長アーム27との連結部33を構成する長孔は、短アーム28との連結部34を構成する長孔よりも、前後寸法が小さく設定してある。
【0040】
図1に示すように便座14が補助位置にあるとき、両アーム27・28は側面視において十字に交差する。長アーム27の便座14側の端部は、連結部33の長孔の前端で受け止められ、短アーム28の便座14側の端部は、連結部34の長孔の後端で受け止められている。また、短アーム28の方が長アーム27よりも起立角度が大きく、垂直に近い姿勢をとっている。この状態で伸縮バッグ21・22を収縮させていくと、両アーム27・28は便座ベース12側の連結部31・32を中心に、互いに反対方向に回動して水平姿勢に近付く。このとき、両アーム27・28の便座14側の端部は、連結部33・34の長孔に沿って互いに反対方向にスライドする。伸縮バッグ21・22が完全に収縮すると、両アーム27・28は水平姿勢となり、長アーム27の便座14側の端部が、連結部33の長孔の後端で受け止められ、短アーム28の便座14側の端部が、連結部34の長孔の前端で受け止められる。
【0041】
図4に示すように水素吸蔵部23は、上下一対の水素吸蔵合金41と、水素吸蔵合金41に接触する状態で配置されるヒータ(加熱手段)42と、水素吸蔵合金41およびヒータ42を収容する水素吸蔵チャンバー43と、水素吸蔵チャンバー43を収容する水密容器44などで構成される。水素吸蔵チャンバー43の外面と水密容器44の内面との間は水で満たされており、この水が水素吸蔵合金41の冷却手段を構成する冷却媒体となる。冷却手段は、水素吸蔵チャンバー43を囲む水(冷却媒体)と、水を収容する水密容器44と、水密容器44に対する水の供給を制御する電磁弁52(後述)と、水の冷熱を水素吸蔵合金41へ伝導する水素吸蔵チャンバー43のチャンバー壁とで構成される。
【0042】
水素吸蔵合金41としては、La−Ni系、Ca−Ni
5 系、Mm−Ni系、Ti−Fe系などを適用することができる。Mm−Ni系において、Mmは希土類生成過程で得られる複数の希土類を含む合金である。本実施例で使用した水素吸蔵合金41の重量は二個合わせて30g前後である。
【0043】
ヒータ42は、上下一対の水素吸蔵合金41の間に挟まれるように配置してある。これによれば、ヒータ42を水素吸蔵チャンバー43の内面と水素吸蔵合金41との間に配置する場合に比べて、ヒータ42が発する熱を効率よく水素吸蔵合金41に伝導することができる。ヒータ42を発熱させるための電力は、便座基台11に収容されて水素吸蔵部23の側方に配置された電源ユニット47(
図3参照)から供給される。
【0044】
水素吸蔵チャンバー43および水密容器44は、上面が開口する四角箱状の容器本体と、容器本体の上面開口を塞ぐ蓋とで構成してある。水素吸蔵チャンバー43の左右寸法は100mm、前後寸法は40mm、上下寸法は22mmに設定してあり、水密容器44の左右寸法は130mm、前後寸法は70mm、上下寸法は52mmに設定してある。これにより、水素吸蔵部23を収容する便座基台11の小型化を実現している。
【0045】
図5に示すように水密容器44には、便器本体1に洗浄水を供給する水供給管50が接続してあり、水密容器44と貯水タンク2は水導入管51で接続してある。水導入管51には電磁弁52が設けてあり、この電磁弁52を開くと、水が水供給管50、水密容器44、および水導入管51を順に通過して貯水タンク2へ流れ込む。これにより、水密容器44内の水が連続的に入れ替わり、水素吸蔵合金41が素早く冷却される。貯水タンク2と便器本体1を繋ぐ水放出管53にも電磁弁54が設けてある。貯水タンク2の外面に配置された水洗レバーを回動操作すると電磁弁54が開き、貯水タンク2内の水が便器本体1に向かって放出されて、便器本体1が洗浄される。
【0046】
伸縮バッグ21・22と水素吸蔵部23との間で水素ガスを送受するガス通路60は、水素吸蔵チャンバー43と伸縮バッグ21・22とを繋ぐ本管61と、本管61と水素回収室62とを繋ぐ分管63などで構成される。本管61は、分管63との接続部64よりも伸縮バッグ21・22側の分岐部65において二本に分岐しており、分岐した一方が前側の伸縮バッグ21に、他方が後側の伸縮バッグ22に接続してある。本管61における接続部64と分岐部65との間には電磁弁66が設けてあり、分管63にも電磁弁67が設けてある。水素回収室62は、伸縮バッグ21・22と同様の素材で、水素ガスに対する高い気密性を有する伸縮可能なバッグ構造に形成されており、その伸長時の容積は2000〜3000ml程度である。水素回収室62は、人の邪魔にならない場所であればどこに配置してもよいが、本実施例では貯水タンク2の下方の床面上に配置した(
図2参照)。水素回収室62の作用と電磁弁66・67の開閉動作については後述する。
図5において符号70は、便座14が補助位置に至ったことを検知するためのセンサである。
【0047】
以上のように構成される便座装置10の使用方法について説明する。身障者等が便座14に腰掛けるときは、その動作に先立って、上昇スイッチ17をオン操作して便座14を補助位置まで上昇させる。補助位置まで上昇した便座14は、前下がり傾斜姿勢になっているので、身障者等は安楽な中腰姿勢で便座14に腰掛けることができ、足腰にかかる負担を大きく軽減できる。また、前下がり傾斜姿勢の便座14に腰掛けるので、足が床面から浮き上がることが無い。
【0048】
上昇スイッチ17をオン操作して水素吸蔵部23のヒータ42に通電すると、ヒータ42の熱で水素吸蔵合金41を加熱して、水素吸蔵合金41から水素ガスを放出させる。通電開始と同時に本管61の電磁弁66が開き、水素吸蔵合金41から放出された水素ガスが本管61を介して伸縮バッグ21・22に流入する。これにより伸縮バッグ21・22が伸長して、便座14がばね29の付勢力に抗して補助位置まで押し上げられる。なお、便座装置10の蓋13や便所のドアが開いたこと、あるいは便所に人が入ったことを検知して、ヒータ42に通電して電磁弁66を開くようにしてもよい。便座14が補助位置に至ったことをセンサ70で検知すると、ヒータ42への通電が遮断されるとともに本管61の電磁弁66が閉じて、伸縮バッグ21・22が水素ガスで満たされた伸長状態に保持される。
【0049】
補助位置の便座14に腰掛けた身障者等は、便座14を用便時の使用位置まで下降させるべく下降スイッチ18をオン操作する。これにより、本管61と分管63の電磁弁66・67がともに開き、便座14に腰掛ける人の体重とばね29の付勢力とにより、伸縮バッグ21・22が便座14によって下向きに圧縮されて、伸縮バッグ21・22内の水素ガスが本管61へ押し出される。伸縮バッグ21・22から押し出された水素ガスの一部は水素吸蔵合金41に吸収され、残りは分管63を通って水素回収室62に収容されて、水素回収室62を膨張させる。なお、人が便座14に着座したことを圧力スイッチで検知して、電磁弁66・67を開くようにすることもできる。
【0050】
伸縮バッグ21・22が完全に収縮して便座14が使用位置まで下降したことを不図示のセンサなどで検知すると、本管61の電磁弁66を閉じて伸縮バッグ21・22を収縮状態に保持する。本管61の電磁弁66を閉じた後も、分管63の電磁弁67は開いたままにしておく。これにより、水素回収室62内の水素ガスが水素吸蔵合金41によって徐々に吸収される。吸収を促すために、水素回収室62をばねで収縮する向きに付勢しておくとよい。身障者等が用便を終える頃には、水素回収室62内の水素ガスが水素吸蔵合金41によって概ね吸収される。このように、水素回収室62は、伸縮バッグ21・22から水素吸蔵部23へ戻される水素ガスを一時的に貯留する。
【0051】
用便後に身障者等は、再び便座14を補助位置まで上昇させるべく上昇スイッチ17をオン操作する。これにて、水素吸蔵合金41を加熱するヒータ42が発熱状態になり、分管63の電磁弁67が閉じ、本管61の電磁弁66が開く。水素吸蔵合金41から放出された水素ガスが伸縮バッグ21・22に流入し、伸縮バッグ21・22が伸長して、便座14が補助位置まで押し上げられる。これにより、便座14に着座する身障者等の臀部が押し上げられて中腰姿勢になるので、そのあと身障者等は小さい力で立ち上がることができる。伸縮バッグ21・22が便座14を押し上げる力は、従来の液圧シリンダなどが便座を押し上げる力に比べてはるかに大きいので、着座する身障者等の体重に抗して便座14を確実に押し上げることができる。また、補助位置における便座14は前下がり傾斜姿勢になっているので、便座14が上昇するときに身障者等の足が床面から浮き上がることが無く、しかも体の重心が前方へ移動して足に近付くので、身障者等は容易に立ち上がることができる。便座14が補助位置に至ったことをセンサ70で検知すると、先と同様にヒータ42への通電を遮断し、本管61の電磁弁66を閉じる。
【0052】
補助位置の便座14から立ち上がった身障者等は、貯水タンク2の側面の水洗レバーを回動操作する。これにて、水放出管53の電磁弁54が開き、貯水タンク2内の水が便器本体1に向かって放出されて、便器本体1が洗浄される。また、水導入管51の電磁弁52が開き、水供給管50、水密容器44および水導入管51の内部を水が貯水タンク2へ向かって流れて、水素吸蔵合金41が素早く冷却されることにより、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収速度が大きくなる。さらに、本管61の電磁弁66が開き、伸縮バッグ21・22内の水素ガスが、冷却された水素吸蔵合金41によって吸収されて、伸縮バッグ21・22が徐々に収縮する。このとき、ばね29で下向きに付勢される便座14が、伸縮バッグ21・22を下向きに圧縮して、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収を促す。伸縮バッグ21・22が完全に収縮して便座14が使用位置まで下降したことを検知すると、本管61の電磁弁66を閉じて伸縮バッグ21・22を収縮状態に保持する。
【0053】
なお、身障者等が便座14から立ち上がって便器から離れたことを検知して、各電磁弁52・54・66が開くようにすることができる。また、本管61の電磁弁66と同時に分管63の電磁弁67を開き、水素回収室62を利用して伸縮バッグ21・22を素早く収縮させることができる。また、水を流して便器本体1を洗浄した後も、本管61の電磁弁66は開かずに、便座14を補助位置に保持するようにしてもよい。この場合には、下降スイッチ18の操作や蓋13の閉操作などによって電磁弁66が開くようにする。
【0054】
上記実施例では、用便後に水導入管51の電磁弁52を開き、水密容器44の内部に水を流して水素吸蔵合金41を冷却するようにしたが、用便前に身障者等が便座14に着座した際にも、電磁弁52を開いて水素吸蔵合金41を冷却して、水素吸蔵合金41による水素ガスの吸収速度を大きくすることができる。電磁弁52を開くタイミングとしては、下降スイッチ18がオン操作された時点や、便座14が使用位置に至った時点などを挙げることができる。
【0055】
(実施例2)
図6は本発明に係る便座装置の実施例2を示す。そこでは、水素吸蔵部23の加熱手段をペルチェ素子42で構成した。ペルチェ素子42を起動させるための電力は、便座基台11に収容された電源ユニット47から供給される。水素吸蔵合金41としては、先の実施例1の約2倍の上下寸法および容積を有するものが1つだけ配置してあり、この水素吸蔵合金41の上下面のそれぞれにペルチェ素子42が配置してある。各ペルチェ素子42は、一方の面が水素吸蔵合金41に接触し、他方の面が水素吸蔵チャンバー43に接触するように配置してある。これによれば、水素吸蔵合金41を加熱するときに、ペルチェ素子42の水素吸蔵チャンバー43側の面で発生する冷熱を、水素吸蔵チャンバー43を介して外へ効率的に放出できる。
【0056】
ペルチェ素子42は、水素吸蔵合金41の冷却手段を兼ねており、本実施例ではペルチェ素子42と水素吸蔵チャンバー43の周囲の水とを併用して水素吸蔵合金41を冷却する。水素吸蔵合金41を加熱する場合とは逆向きの電流をペルチェ素子42に供給すると、ペルチェ素子42の水素吸蔵合金41側の面に冷熱が発生して、水素吸蔵合金41が冷却される。ペルチェ素子42の水素吸蔵チャンバー43側の面で発生する温熱は、水素吸蔵チャンバー43を介して外へ放出される。他は実施例1と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。なお、本実施例において、水素吸蔵チャンバー43の周囲の水と水密容器44とを省略して、ペルチェ素子42のみで水素吸蔵合金41の冷却手段を構成することができる。
【0057】
その他、上記実施例において、貯水タンク2と水密容器44を別の配管で繋ぎ、貯水タンク2から当該配管と水密容器44と水導入管51とを順に通って貯水タンク2に戻る循環状の水流を形成することができる。この場合には、水を便器本体1に流して消費することなく、水素吸蔵合金41を冷却することができる。また、上記実施例では、水供給管50から供給される水が全て水密容器44に流れ込み、水密容器44を通過した水が全て貯水タンク2へ流れ込むようになっているが、その必要は無い。例えば、水供給管50を二本に分岐し、一方を貯水タンク2に接続し、他方を水密容器44に接続することができる。このとき水密容器44に流れ込んだ水は、貯水タンク2へ送ってもよく、便器本体1へ流すようにしてもよい。
【0058】
既存の便器に本発明の便座装置を適用する場合には、既存の便器の便座に換えて便座ベース12を装着し、これに便座14や昇降機構を組み付けるとよい。その場合の便座基台11は、必要に応じて省略することができる。また水素吸蔵部23は、伸縮バッグ21・22とガス通路60で接続できれば、便所内のどこに配置してもよく、例えば貯水タンク2の下方の床面上や貯水タンク2の内部に配置することができる。貯水タンク2の内部に配置する場合には、貯められた水で水素吸蔵合金41を冷却することができる。伸縮バッグ21・22は前後一対である必要は無く、左右一対、1個、3個以上などの任意の構成を採ることができ、便座14の後部だけを持ち上げるように構成することもできる。