【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂とを含む分散液において、特定の範囲のHLB値を有するノニオン界面活性剤を加えることにより、分散媒中でセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の両方を均一に分散させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は下記の分散液、及び樹脂組成物に関する。
【0009】
項1. セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を含む分散液。
【0010】
項2. 前記セルロースナノファイバー(A)が、染色されたものである、上記項1に記載の分散液。
【0011】
項3. 前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリアミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の分散液。
【0012】
項4. 上記項1〜3のいずれかに記載の分散液から得られる樹脂組成物。
【0013】
項5. 染色されたセルロースナノファイバー(A1)及び熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物。
【0014】
項6. (1)セルロースナノファイバー(A)を染色する工程、
(2)分散媒(D)中で、工程1において染色されたセルロースナノファイバー(A1)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を混合し、分散液を調製する工程、及び
(3)前記分散液から分散媒を除去する工程
を含む樹脂組成物の製造方法。
【0015】
以下、本発明の分散液及び樹脂組成物について、詳述する。
【0016】
<分散液>
本発明の分散液は、セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を含む。
【0017】
セルロースナノファイバー(A)
本発明の分散液に含まれるセルロースナノファイバー(A)の原料として用いられるセルロースファイバー(CF)は、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布といった天然植物原料から得られるパルプ;レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等が挙げられる。これらの中で、パルプやパルプをフィブリル化したフィブリル化セルロースが好ましい原材料として挙げられる。
【0018】
前記パルプとしては、植物原料を化学的、若しくは機械的に、又は両者を併用してパルプ化することで得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、及びこれらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプが好ましいものとして挙げられる。これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0019】
これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(以下、NUKPということがある)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(以下、NOKPということがある)、針葉樹漂白クラフトパルプ(以下、NBKPということがある))が特に好ましい。
【0020】
パルプは主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成され、セルロース繊維の間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有し、セルロースミクロフィブリル束の周囲の一部又は全部をヘミセルロース及び/又はリグニンが被覆された構造を有する。パルプ中のリグニン含有量は、特に限定されるものではないが、通常0〜40質量%程度、好ましくは0〜10質量%程度である。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0021】
植物の細胞壁の中では、幅4nm程のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。これが、植物の基本骨格物質(基本エレメント)である。そして、このセルロースミクロフィブリルが集まって、植物の骨格を形成している。
【0022】
本発明において、「セルロースナノファイバー(CNF)」とは、パルプを含む材料をその繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたもの(解繊したもの)である。
【0023】
パルプを解繊する方法としては、公知の方法が採用でき、例えば、前記セルロースファイバー含有材料の水懸濁液又はスラリーをリファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機、ビーズミル等による機械的な摩砕、ないし叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。具体的な解繊方法としては、例えば、特開2008-297364号公報等に記載された方法を用いることができる。
【0024】
セルロースナノファイバーの比表面積としては、70〜300m
2/g程度が好ましく、70〜250m
2/g程度がより好ましく、70〜200m
2/g程度が更に好ましい。分散液を用いて調製する樹脂組成物の強度が向上する点で、セルロースナノファイバーの比表面積は高い方が好ましい。
【0025】
セルロースナノファイバーの繊維径は、平均値が通常4〜200nm程度、好ましくは4〜150nm程度、特に好ましくは4〜100nm程度である。なお、セルロースナノファイバーの繊維径の平均値(平均繊維径)は、電子顕微鏡の視野内の変性セルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した時の平均値である。
【0026】
本発明においては、前記セルロースナノファイバー(A)が、染色されたものであってもよい。
【0027】
本発明においては、染色されたセルロースナノファイバー(A1)を用いることで、分散液から材料着色された樹脂組成物を調製することができる。本発明においては、分散液に後述するHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(B)を配合するので、分散液中の染色(着色)されたセルロースナノファイバーの分散性が向上しており、染色にムラがない材料着色された樹脂組成物を調製することができる。また、セルロースナノファイバーを染色するので、材料レベルで、染色の濃淡を調整することも可能である。
【0028】
セルロースナノファイバーを染色する方法としては、特に指定されるものはなく、一般的なセルロース繊維に対する染色方法を適応することができる。例えば、反応染料、バット染料(建染染料)、直接染料、硫化染料、ナフトール染料等を用いて染色する事ができる。なかでも、染色物の堅牢性の点で、反応染料、バット染料を用いることが好ましく、染色物の色の鮮やかさ、色の選択幅等、様々な色相表現の点で、反応染料を用いることが好ましい。
【0029】
反応染料を用いてセルロースナノファイバーを染色する方法としては、セルロースナノファイバーの水酸基に染料を共有結合させる方法が挙げられる。セルロースナノファイバーの水酸基に染料を共有結合させる方法としては、セルロースナノファイバーの水酸基に対してスルファートエチルスルホン酸、モノクロロトリアジン等の反応基を持つ反応染料を共有結合させて、セルロースナノファイバーを染色する方法がある。その様な反応染料には、ビニルスルホン系反応染料、s−トリアジン系反応染料、ピリミジン系反応染料等がある。また、上記官能基を同種,または異種で複数持つ反応染料を用いても良い。染色においては、反応温度、反応温度をコントロールする設備、目的とする色、堅牢性等により、反応染料を選択することができる。
【0030】
反応染料を用いた染色方法について説明する。反応染料を用いた染色は、吸収処理と固着処理をへて行われる。先ず、染浴に中性塩(例えば、硫酸ナトリウム等)を添加し、染料を繊維内部へ拡散し、吸着させる(吸収処理)。次に、炭酸ナトリウム等の塩を加えて、染浴をアルカリ性にし、繊維と染料を反応・固着(共有結合)させる(固着処理)。
【0031】
バット染料(建染染料)を用いた染色方法について説明する。バット染料は、水には溶けないが、ハイドロサルファイトと水酸化ナトリウムの熱液(アルカリ性還元液)によって還元され、ロイコ化合物となり溶解する。溶解させたバット染料をロイコ化合物の状態で繊維に染着させ、次に空気酸化(または酸化剤による酸化)により、元のバット染料に戻り、繊維上で発色させることができる。前記バット染料には、化学構造上、インジゴ系とアントラキノン系に分類されるものがある。
【0032】
また、セルロースナノファイバーの水酸基に染料をイオン結合させる方法としては、セルロースナノファイバーをカチオン化することで染料を吸着させる方法があり、例えばセルロースナノファイバーの水酸基に第4級アンモニウム化合物を反応させ、その後スルホン基等、アニオン性の官能基を持つ染料をイオン結合により吸着させることができる。前記スルホン基等を持つ染料として、上記反応染料の他に、直接染料、酸性染料等がある。
【0033】
反応染料の使用量としては、反応染料の種類や目的に応じて、適宜設定されるが、例えば、セルロースナノファイバー(A)100質量部に対し、0.01〜20質量部程度が好ましく、0.1〜15質量部程度がより好ましい。
【0034】
セルロースナノファイバー(A)の分散液中の含有割合は、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという理由、また分散媒中で均一に分散できる理由から、分散液中に、0.01〜5質量%程度含まれることが好ましく、0.05〜3質量%程度含まれることがより好ましく、0.1〜2質量%程度含まれることが更に好ましい。また、セルロースナノファイバー(A)の熱可塑性樹脂(B)に対する含有量は、前記同様の理由から、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、0.01〜300質量部程度含まれることが好ましく、0.1〜100質量部程度含まれることがより好ましく、1〜50質量部程度含まれることが更に好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂(B)
熱可塑性樹脂(B)としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド(PA、ナイロン)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、ナイロン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等のセルロース系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。前記熱可塑性樹脂の中でも、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという理由、また分散媒中で均一に分散できる理由から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリアミドが好ましい。
【0036】
分散媒中で分散される熱可塑性樹脂(B)の平均粒子径は、セルロースナノファイバーとの均一な分散液を調製することができ、熱可塑性樹脂中でセルロースナノファイバーが均一に分散した樹脂組成物、成形体を作製することができるという理由から、0.1〜500μm程度が好ましく、0.2〜300μm程度がより好ましく、0.5〜100μm程度が更に好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂(B)の含有割合としては、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという理由、また分散媒中で均一に分散できる理由から、分散液中に、0.1〜50質量%程度含まれることが好ましく、1〜40質量%程度含まれることがより好ましく、2〜30質量%程度含まれることが更に好ましい。
【0038】
本発明では、水を含む分散媒(水性分散媒)に対して、良好な分散性を示さないポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド等の樹脂においても、後述するHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を用いることで、水を含む分散媒に対して、良好な分散性を示すことができる。
【0039】
HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)
本発明の分散液には、後述する分散媒(D)中に、前述のセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)が存在するので、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の双方に対して、分散性を向上させることができるノニオン界面活性剤(C)を使用する。
【0040】
本発明の分散液は、界面活性剤の中でも、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の双方に対して、分散性を向上させることができるという理由、その結果、当該分散液を用いて作製した樹脂組成物の強度が向上するという理由から、また、染色されたセルロースナノファイバー(A1)を含む分散液を用いて作製した樹脂組成物においては、染色にムラがない材料着色された樹脂組成物を調製することができるという理由から、特にHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を用いることを特徴とする。更にノニオン界面活性剤のHLB値は、8.5〜12.5程度が好ましく、9〜12程度がより好ましく、11付近が更に好ましい。尚、HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを示す値であり、1〜20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きくなると親水性が強いことを示す。
【0041】
本発明では、HLB値を以下のグリフィン法による式より求めることができる。下記しきにおいて、「親水部の式量の総和/分子量」とは、親水基の質量%である。
グリフィン法:HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量)
【0042】
ノニオン界面活性剤(非イオン系界面活性剤)としては、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型、アルキルグリコシド、高級アルコール等が挙げられる。
【0043】
エステル型としては、(RCOO(CH
2CH
2O)
nH)で表される。具体的には、ラウリン酸グリセリン(C
11H
23COOCH
2CH(OH)CH
2OH)、モノステアリン酸グリセリン(C
17H
35COOCH
2CH(OH)CH
2OH)等のグリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH
2CH(OH)CH
2OH);ソルビタン脂肪酸エステル(RCOOCH
2CH(CHOH)
3CH
2O、ソルビタンラウレート);ショ糖脂肪酸エステル(RCOOC
12H
21O
10)等が挙げられる。
【0044】
エーテル型としては、(RO(CH
2CH
2O)
nH)で表される。Rは疎水基(親油基)を表し、Rがアルキル基の場合はポリオキシエチレンアルキルエーテルとなり、Rがアルキルベンゼンの場合はポリオキシエチレンアルキルフェノラートとなる。具体的には、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル(C
12H
25O(CH
2CH
2O)
5H)、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル(C
12H
25O(CH
2CH
2O)
8H)等の脂肪アルコールエトキシレート(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、RO(CH
2CH
2O)nH);ノノキシノール(C
9H
19C
6H
4O(CH
2CH
2O)
nH、ノニルフェノールエトキシレート)、ノノキシノール-9(C
9H
19C
6H
4O(CH
2CH
2O)
9H)等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC
6H
4O(CH
2CH
2O)
nH);ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(H(OCH
2CH
2)
l(OC
3H
6)
m(OCH
2CH
2)
nOH)等が挙げられる。
【0045】
エステルエーテル型としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0046】
アルカノールアミド型としては、ラウリン酸ジエタノールアミド(C
11H
23CON(C
2H
4OH)
2)、オレイン酸ジエタノールアミド(C
17H
33CON(C
2H
4OH)
2)、ステアリン酸ジエタノールアミド(C
17H
35CON(C
2H
4OH)
2)、コカミドDEA(CH
3(CH
2)nCON(C
2H
4OH)
2)等が挙げられる。
【0047】
アルキルグリコシド(RC
6H
11O
6)としては、オクチルグルコシド(C
8H
17C
6H
11O
6)、デシルグルコシド(C
10H
21C
6H
11O
6)、ラウリルグルコシド(C
12H
25C
6H
11O
6)等が挙げられる。
【0048】
高級アルコールとしては、セタノール(C
16H
33OH)、ステアリルアルコール(C
18H
37OH)、オレイルアルコール(CH
3(CH
2)
7CH=CH(CH
2)
8OH)等が挙げられる。
【0049】
例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(C
9H
19C
6H
4O(CH
2CH
2O)
nH)を使用する場合、ポリオキシエチレンのモル数(n数)は、4〜9程度が好ましく、5〜8程度がより好ましく、7付近が更に好ましい。この様なポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルとしては、三洋化成工業株式会社製のノニポール(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を使用することができ、例えば、ノニポール40(HLB値:8.0、ポリオキシエチレンのモル数:4)、ノニポール70(HLB値:11.7、ポリオキシエチレンのモル数:7)、ノニポール85(HLB値:12.6、ポリオキシエチレンのモル数:8〜9)を好ましく用いることができる。特に、ノニポール70(HLB値:11.7、ポリオキシエチレンのモル数:7)を用いることで、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)(例えばポリプロピレン、ポリプロピレン、ポリアミド等)の双方に対して、分散性を向上させることができる。
【0050】
本発明では、ノニオン界面活性剤(C)のHLB値が8〜13であればよく、2種以上のノニオン界面活性剤を混合して、HLB値を調整することも可能である。例えば、ソルビタンエステル型のノニオン界面活性剤(商品名:SPAN80、ソルビタンモノオレエート)と同活性剤にエチレンオキサイドを付加させたポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(商品名:TWEEN80)を混合し、HLB値を8〜13に調整することが可能である。
【0051】
ノニオン界面活性剤(C)の含有量としては、前述のセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を、後述する分散媒(D)中で良好に分散させることができるという理由から、分散液中に、0.01〜10質量%程度含まれることが好ましく、0.05〜5質量%程度含まれることがより好ましく、0.1〜3質量%程度含まれることが更に好ましい。また、同様の理由で、ノニオン界面活性剤(C)の添加量は、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜100質量部程度が好ましく、0.5〜50質量部程度がより好ましく、1〜30質量部程度が更に好ましい。
【0052】
尚、界面活性剤としては、本発明で使用するノニオン界面活性剤以外にも、例えば陰イオン系界面活性剤及び陽イオン界面活性剤がある。これら、陰イオン系界面活性剤及び陽イオン界面活性剤は、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されても良い。しかし、陰イオン界面活性剤は、カチオン化したセルロースナノファイバーを使用する際に吸着してしまうこと、また、陽イオン界面活性剤は、セルロースナノファイバー(A)と吸着してしまうことから、単独で用いることは好ましくない。
【0053】
分散媒(D)
本発明の分散液には、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)の存在下で、前述のセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の双方に対して分散性を向上することができる分散媒(D)を使用することができる。
【0054】
分散媒(D)としては、親水性の高いセルロースナノファイバーを分散液中で良好に分散できるという理由から、水を含む水性分散媒(D1)とすることができる。水を含む水性分散媒を用いた場合、セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)等を含む水性分散液となる。
【0055】
また、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の分散性を向上させることができるという理由から、水と相溶性を有する低級アルコール等の親水性有機溶媒を併用しても良い。低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1,3−ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどの炭素数1〜7のアルコール;グリセリン、イソプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の炭素数2〜5の多価アルコールを例示することができる。その他の親水性有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、アセト酢酸メチル等が挙げられる。分散媒(D)としては、水のみを用いても良く、1種又は2種以上の水以外の溶媒を組み合わせて混合溶媒として用いることもできる。
【0056】
セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)と分散媒(D)との親和性を向上させ、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の双方に対して分散性を向上することを目的として、分散媒(D)に、水溶性ポリマー等のバインダーを配合しても良い。水溶性ポリマーとはデンプン類、マンナン類、ガラクタンやアルギン酸ナトリウムなどの海藻類、トラガントゴムやアラビアゴムやデキストランなどの植物粘質物、ゼラチンやカゼインなどのタンパク質、メチルセルロースやヒドロキシセルロースやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの合成ポリマーなどが含まれる。
【0057】
その他の成分(E)
上記分散液中に含まれる各成分に加え、例えば、相溶化剤;界面活性剤(上記以外のもの);でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0058】
分散液のpHは、実用上4〜11程度の範囲にあればよく、6〜8の範囲にあることがより好ましい。pH調整には、塩基性物質又は酸性物質を用いて行うことが行うことができる。塩基性物質としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基;トリエタノールアミンやジイソプロパノールアミンなどの有機アミン類;アルギニン、リジン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸などを挙げることができる。また、酸性物質としては、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸などの無機酸及び有機酸を挙げることができる。
【0059】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、染色されたセルロースナノファイバー(A1)及び熱可塑性樹脂(B)を含む。
【0060】
染色されたセルロースナノファイバー(A1)は、前記<分散液>に記載した様に、セルロースナノファイバー(A)に反応染料等を用いて、染色したものである。本発明の樹脂組成物は、染色されたセルロースナノファイバーを用いることで、材料着色された樹脂組成物を調製することができる。
【0061】
熱可塑性樹脂(B)は、前記<分散液>に記載したものと同様のものを用いることができる。
【0062】
樹脂組成物において、染色されたセルロースナノファイバー(A1)の含有割合は、樹脂組成物とした場合の補強効果を十分に得ることができるという理由、また樹脂組成物を均一に着色できる点、から、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、0.01〜300質量部程度含まれることが好ましく、0.1〜100質量部程度含まれることがより好ましく、1〜50質量部程度含まれることが更に好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、前記<分散液>に記載した様に、分散媒(D)中に、染色されたセルロースナノファイバー(A1)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を含む分散液から調製されるものである。本発明の樹脂組成物には、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)は含まれていても良い。
【0064】
<分散液及び樹脂組成物の製造方法>
本発明の分散液は、分散媒(D)中で、セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を混合することで調製することができる。その結果、分散媒(D)中にセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を均一に分散させた分散液を得ることができる。セルロースナノファイバー(A)として、染色されたセルロースナノファイバー(A1)を使用してもよい。
【0065】
分散液中のセルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びノニオン界面活性剤(C)の各濃度は、分散液中での最終濃度が前記<分散液>に記載した濃度になる様に調整する。例えば、分散媒(D)中に、セルロースナノファイバー(A):0.1〜2質量%程度、熱可塑性樹脂(B):2〜30質量%程度、ノニオン界面活性剤(C):0.1〜5質量%程度が含まれることが好ましい。
【0066】
セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)、ノニオン界面活性剤(C)及び分散媒(D)を混合する方法としては、特に限定されないが、撹拌等を行えばよい。撹拌にあたっては遊星撹拌機、超音波ホモジナイザー、プロペラ撹拌機等を使用することができるが、これらに限定されない。分散させるための撹拌時間は特に限定されず、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の分散の程度に応じて適宜設定できる。また、ミキサー、ブレンダー、二軸混練機、ニーダー、ラボプラストミル、ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、遊星攪拌装置、3本ロール等の混合又は攪拌できる装置で混合、攪拌する方法が挙げられる。
【0067】
混合温度は、セルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを均一に混合することができるという理由から、実用上5〜40℃程度が好ましく、10〜30℃程度がより好ましい。
【0068】
また、その他の成分(E)を任意に配合して、混合してもよい。
【0069】
本発明のセルロースナノファイバー(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む分散液は、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)が含まれるので、分散媒中におけるセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の分散性を向上させることができる。
【0070】
本発明の分散液は、分散媒(D)中で、セルロースナノファイバー(A)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を同時に混合することで調製しても良い。
【0071】
また、本発明の分散液は、
(1)分散媒(D)中にセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を添加する工程、及び
(2)HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を添加する工程
を順に有する調製方法により製造することが好ましい。
【0072】
分散媒(D)中にセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を添加した後、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を添加して混合することで、分散媒(D)中で、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を良好に分散させることができる。
【0073】
本発明の樹脂組成物は、染色されたセルロースナノファイバー(A1)及び熱可塑性樹脂(B)を含むものであり、前記分散液から得られる。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、
(1)セルロースナノファイバー(A)を染色する工程、
(2)分散媒(D)中で、工程1において染色されたセルロースナノファイバー(A1)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を混合し、分散液を調製する工程、及び
(3)前記分散液から分散媒を除去する工程
を含む製造方法により製造することができる。
【0075】
工程1の、セルロースナノファイバー(A)の染色方法としては、前記<分散液>に記載した様に、セルロースナノファイバー(A)に反応染料等を用いて、染色することができる。
【0076】
工程2の、混合方法としては、前述の通り、分散媒(D)中で、染色されたセルロースナノファイバー(A1)、熱可塑性樹脂(B)及びHLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を、例えばミキサー等で混合することができ、分散液を得ることができる。このとき、分散液を調製する工程では、分散媒(D)中で、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を良好に分散させることができるという理由から、分散媒(D)中にセルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を添加した後、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)を添加して混合することが好ましい。
【0077】
工程3の、分散液からの分散媒の除去方法としては、吸引ろ過、脱水、乾燥等の方法が挙げられる。吸引ろ過する場合、セルロースナノファイバー(A)及び熱可塑性樹脂(B)の分離・凝集を防ぐことができるという理由から、アセトンを通液させて強制脱水させてもよい。この分散媒の除去により、HLB値が8〜13であるノニオン界面活性剤(C)も除去され得るが、樹脂組成物中に前記ノニオン界面活性剤(C)は存在していても良い。
【0078】
本発明の製造方法により、本発明の分散液を調製した後、分散媒(D)を除去することで、染色されたセルロースナノファイバー(A1)及び熱可塑性樹脂(B)が均一に分散された樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
本発明の樹脂組成物は、セルロースナノファイバーが熱可塑性樹脂中で均一に分散されているので、樹脂組成物から成形材料及び成形体を作成した場合に、セルロースナノファイバーの補強効果を発現でき、曲げ強度、引張り強度等の機械的強度を高めることができる。
【0080】
<成形材料及び成形体>
本発明は、前記樹脂組成物を用いた成形材料、及び当該成形材料を成形してなる成形体にも関する。
【0081】
前記樹脂組成物は、所望の形状に成形され成形材料として用いることができる。成形材料の形状としては、例えば、シート、ペレット、粉末等が挙げられる。これらの形状を有する成形材料は、例えば金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いて得られる。
【0082】
成形の条件は、プレス等、樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すれば良い。成形体は、セルロースナノファイバー含有樹脂成形物が使用されていた繊維強化プラスチック分野に加え、より高い機械強度(引張り強度等)が要求される分野にも使用できる。例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。