(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
世界中の半導体企業が、最先端のダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)および強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)のそれぞれにおける高誘電率かつ強誘電性の薄膜を商品化するために多大なる努力をしている。
【0003】
現在なされている努力の多くは、比較的大きいキャパシタ(例えば5μm
2の面積)の商業的開発に向けられており、最終的な目標は、強誘電体ランダムアクセスメモリ技術を、技術が進化するにつれてキャパシタ面積、セルサイズ、および動作電圧が縮小される次世代の集積回路デバイスに適応させることである。
【0004】
FeRAMデバイスに関して、多くの研究は、現在、強誘電体SrBi
2Ta
2O
9(SBT)かPb(Zr,Ti)O
3(PZT)のいずれかに向けられている。これらの材料はそれぞれ相対的な利点と不利点を有する。例えばPt/SBT/Ptキャパシタは、最良の疲労特性と保持特性を有するが、750℃を超える処理温度が集積化の問題をもたらすことが示されている。PZTについては、Pt/PZT/Ptキャパシタは、疲労と保持が不十分であることが知られているが、相が純粋な薄膜を450〜650℃の範囲の温度で堆積することができる。従前に知られているPZT材料の従来技術の使用では、満足のいくキャパシタ電気特性を生成するにはドーピングおよび/または酸化物電極が必要であった。
【0005】
メモリ応用へのPZTおよびSBTの実現可能性を確立した当該技術分野における先行研究の多くは、3V以上で反転する膜に重点的に取り組んできている。回路素子の小型化および動作電圧の低減化への不可避的な傾向を考えると、低動作電圧、特に2V未満において、薄膜に高い信頼性および性能を実現することが非常に望ましい。
【0006】
低動作電圧には、適切に低い抗電界(E
c)および膜厚の組み合わせが必要となる。SBT膜は、約140nmの厚さで低いE
c(≒35kV/cm)を有し、その結果、0.5Vの抗電圧となることが示されている。しかし、SBTは、通常、25μC/cm
2未満である、反転強誘電性分極(P
SW)の値が低いという不利点を有する。さらに、薄膜特性を向上するために必要な熱処理(800℃)は厳しくかつ望ましくないと考えられる。
【0007】
幾つかの調査により、〜150nmまでの薄さであるPZT膜の厚さスケーリングデータが提示されている。例えば、P.K. Larsen、G.J.M. Dormans、およびP.J. Veldhoven、J. Appl. Phys.、(4)、1994、および、A.K. Tagantsev、C. Pawlaczyk、K. Brooks、およびN. Setter、Integrated Ferroelectrics、4、(1)、1994を参照されたい。これらの調査は、膜厚が低減するにしたがって抗電界が増加し、分極が減少することを示している。このような効果は、デプリーションおよび脱分極現象によるものである(A.K. Tagantsev、C. Pawlaczyk、K. Brooks、M. Landivar、E. Colla、およびN. Setter、Integrated Ferroelectrics、6、309(1995))。
【0008】
上述した効果は、当該技術分野では薄膜PZTに固有のものであると考えられてきており、したがって、PZTの低電圧および厚さスケーリングは奨励されなかった。
【0009】
(他の材料に比べて)PZTの高い強誘電性分極および低い処理温度は、その材料を低動作電圧にスケーリングすることを可能にするPZTの形態と堆積プロセスを特定する強力な動機付けを与える。
【0010】
したがって、PZT材料を低動作電圧にスケーリングすることを可能にするPZTの形態および堆積プロセスを提供することは、当該技術分野において大きな進展となり、かつ、したがってこれを本発明の目的とする。
【0011】
本発明は、例えば、Nb、Ta、La、Sr、Ca等である材料アクセプタドーパントまたは改質剤を組み込むことなく、横寸法(すなわち、膜表面に平行な寸法)においてスケーラブルなPZT材料を提供することを別の目的とする。
【0012】
本発明は、広い厚さの範囲に亘って、特に約20から約150ナノメートルの範囲において強誘電体キャパシタに有用である上述したタイプのPZT材料を提供することを更なる目的とする。
【0013】
本発明は、広いパルス長範囲に亘って、特に約5ナノ秒から約200マイクロ秒の範囲において強誘電体キャパシタに有用であるPZT材料を提供することをさらに更なる目的とする。
【0014】
本発明の他の目的および利点は、以下の開示内容および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかとなろう。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、概して新規のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)材料、ならびに、かかる材料のPZT薄膜を形成する堆積方法、および、かかる薄膜材料を用いる強誘電体キャパシタ構造に関する。
【0016】
以下に用いるように、以下の用語は以下の定義を有する。
【0017】
「残留分極」、すなわち、P
rは、V
opを通過後のゼロボルトにおける分極である。
【0018】
「強誘電性の反転分極」、すなわち、P
SW=P
*−P
∧であり、ここで、P
*は、キャパシタがP
r(−V
op)で開始する場合にゼロボルトからV
opボルトに横断するキャパシタから出る(transfer out)分極であり、P
∧は、キャパシタがPr(V
op)から開始する場合にゼロボルトからV
opボルトに横断するキャパシタから出る(transfer out)分極である。パルス長は0.23ミリ秒である。これらの値を決定するために用いた後述する測定器具はラジアント(Radient)6000ユニットであった。
【0019】
「抗電界」、すなわち、E
cは、分極対電圧のヒステリシスループ中に分極がゼロである電界である。この目的のために電界周波数は50ヘルツである。
【0020】
「E
max」は、E
max=3E
cで測定されたヒステリシスループの最大電界である。
【0021】
「漏れ電流密度」、すなわち、Jは、動作電圧V
op、および、5秒のステップ電圧応答において測定される。
【0022】
「保持」は、Integrated Ferroelectrics、Vol.16[669]、No. 3、63頁(1997)に記載される方法によって測定される残留分極である。
【0023】
「サイクル疲労P
SW」は、50%のデューティサイクルにおける0.5メガヘルツ以下の方形パルスの周波数、および
<10
−4cm
2のキャパシタ面積で測定された強誘電性分極である。
【0024】
「寸法的にスケーラブルなPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、約20から約150ナノメートルの厚さの範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有し、かつ、0.15μmまで低く延在する横寸法と約10
4から約10
−2μm
2の対応キャパシタ面積を有するPZT材料を意味する。
【0025】
「電界スケーラブルPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、3ボルト未満の電圧において、20から150ナノメートルの膜厚の範囲に亘ってPZT薄膜キャパシタに有用な強誘電特性を有するPZT材料を意味する。
【0026】
「パルス長スケーラブルPZT」材料とは、ドープされておらず、かつ、5ナノ秒から200マイクロ秒の励起(電圧)パルス長の範囲に亘って有用な強誘電特性を有するPZT材料を意味する。
【0027】
「強誘電体動作電圧」は、キャパシタ内のPZT薄膜に印加される場合に、材料にその配向極性状態の1つ状態から別の1つ状態に誘電的に反転させる電圧を意味する。
【0028】
「プラトー(Plateau)効果決定」とは、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比(A/B比はPb対(Zr+Ti)の比率)のそれぞれの関数として、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率のぞれぞれを示すプロットの相関実験的マトリクスを確立して、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の独立プロセス変数に対して動作の領域を定義する各プロットの「ニー(knee)」、すなわち、変曲点を特定して、後述するように、そのような動作の領域から選択される温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値においてMOCVDプロセスを行うことを意味する。
【0029】
「タイプ1特性」とは、集合的に、1平方センチメートルあたり20マイクロクーロン(μC)より大きい強誘電性分極P
SW、動作電圧において1平方センチメートルあたり10
−5アンペア未満の漏れ電流密度(J)、J
−nlog(時間)により定義される誘電緩和(ただし、nは0.5より大きい)、および、10
10回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP
SWにより定義されるサイクル疲労を意味する。
【0030】
「タイプ2特性」とは、集合的に、強誘電性分極、抗電界、漏れ電流密度、保持、およびサイクル疲労の、以下の寸法的にスケーリングされる特性を意味する。
【表1】
【0031】
PZT膜材料に関連しての「ドープされていない」とは、ドーパントおよび改質剤(PZT材料の結晶構造に加えられる異種原子種であって、材料の観察されるまたは高められた強誘電特性を左右する)が1原子百分率未満の濃度で材料中に存在することを意味する。
【0032】
1つの態様では、本発明は、寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルである強誘電性PZT材料に関する。
【0033】
本発明の別の態様は、タイプ1および/またはタイプ2特徴を有する強誘電性PZT材料に関する。
【0034】
別の態様では、本発明は、タイプ1特性のうちの少なくとも1つの、より好適には少なくとも2つの、さらにより好適には少なくとも3つの、および最も好適には4つすべての特性を有する強誘電性PZT材料に関する。
【0035】
更なる態様では、本発明は、タイプ2特性の少なくとも1つを有し、かつ、進歩的により好適には、そのような特性のうち2つの、3つの、4つのまたは5つの特性を有する強誘電性PZT材料に関する。
【0036】
本発明は、別の態様では、寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルの特徴を有する強誘電性PZT材料と、約10
4から約10
−2μm
2のキャパシタ面積を有する強誘電性PZT材料キャパシタに関する。
【0037】
本発明の別の態様は、寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルの特徴を有する強誘電性PZT材料と、約10
4から約10
−2μm
2のキャパシタ面積を有するキャパシタ含むFeRAMデバイスに関する。
【0038】
別の態様では、本発明は、基板上に強誘電性PZT膜を製作する方法であって、タイプ1および/またはタイプ2特徴を有する強誘電性膜を基板上に生成するMOCVD条件下での基板上への液体供給MOCVDにより膜を形成することを含む方法に関する。
【0039】
本発明の更なる態様は、基板上に強誘電性PZT膜を製作する方法であって、寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルのPZT膜を基板上に生成する核形成条件を含むMOCVD条件下での基板上への液体供給MOCVDにより膜を形成することを含む方法に関する。
【0040】
本発明の更なる態様は、基板上に強誘電性PZT膜を製作する方法であって、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比(A/B比はPb対(Zr+Ti)の比率)のそれぞれの関数として、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率のそれぞれを示すプロットの相関実験的マトリクスからのプラトー効果決定によって決められる温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比を含むMOCVD条件下での基板上への液体供給MOCVDにより膜を形成することを含む方法に関する。
【0041】
本発明の更なる態様は、基板上に強誘電性PZT膜を製作する方法であって、相関材料または処理要件を含むMOCVD条件下での基板上への液体供給MOCVDにより膜を形成して、PZT特性を有する強誘電性PZT膜を生成することを含む方法に関する。かかる相関材料または処理要件およびPZT特性は、次を含む。
【表2】
【0042】
本発明のさらに別の態様は、FeRAMデバイスを製作する方法であって、寸法的にスケーラブルで、パルス長スケーラブルで、および/または電界スケーラブルの特徴を有する強誘電性PZT材料を含むキャパシタを基板上に形成することを含み、PZT材料は、かかる強誘電製PZT材料のようなタイプ1および/タイプ2特徴を有する強誘電性膜を基板上に生成する処理条件下で液体供給MOCVDにより堆積される、方法に関する。
【0043】
本発明の他の態様、特徴、および実施形態は、以下の開示内容および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、特徴がスケーラブルである無比のPZT材料を提供し、かつ、強誘電性薄膜キャパシタ構造におけるPZTの形成および使用への応用において、従来技術に勝る大きな利点を提供する。
【0046】
従来技術において従前から用いられているPZT材料とは対照的に、本発明のPZT材料は、例えば約20ナノメートルから約150ナノメートルの広い厚さの範囲、および、0.15μmまで低く延在する横寸法の範囲に亘って強誘電体キャパシタに有用である。好適な実施形態における対応するキャパシタ面積(すなわち、横スケーリング)は、約10
4から10
−2μm
2の範囲にある。
【0047】
上述した特性は、アクセプタドーピング、または、Nb、Ta、La、Sr、Ca等の膜改質剤の使用といったPZT膜改質技術を用いることなく達成可能である寸法スケーリング能力を提供する。
【0048】
本発明の新規のPZT材料は、一実施形態において、タイプ1特性、つまり、20μC/cm
2より大きい強誘電性分極P
SW、V
opにおいて10
−5A/cm
2未満の漏れ電流密度J、J
−nlog(時間)により定義される誘電緩和(ただし、nは0.5より大きい)、および、10
10回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP
SWにより定義されるサイクル疲労を有する。
【0049】
このようなPZT材料は、このようなタイプ1特性を有さない従来技術のPZT材料に対して実質的な前進であり、本発明は、液体供給有機金属化学気相法によってこのような材料を製作する再現可能な方法を提供する。
【0050】
本発明は、一態様において、液体供給技術を用いるMOCVDによって薄膜強誘電性材料を堆積する方法に関する。この技術は、液体前駆体溶液を混合し、かつ、それらをフラッシュ蒸発することによって正確な組成制御を提供する。フラッシュ蒸発は、前駆体種の望ましくない早期の分解を阻止する追加の利点を有する。さらに、前駆体は、不揮発性種の形成を阻止する配位子(リガンド)交換を経ない(または前駆体は退化交換(degenerate exchange)を有する)ので、薄膜材料の形成に適した適合する前駆体の化学的性質が用いられうる。
【0051】
薄膜PZTおよび関連の材料に関しては、高品質の膜を生成するためには、正確かつ繰り返し可能な組成制御が求められる。この点について、薄膜堆積の物理堆積法(例えば、スパッタリング、蒸着)は不十分であり、バブラの使用が関連するMOCVDの従来の手法も同様である。
【0052】
したがって、組成制御を提供し、広い面積に亘って薄膜材料の均一性を提供し、かつ、基板構造への高度な適合性および高堆積速度を実現する、PZTおよび関連材料の薄膜の形成プロセスが望まれる。堆積された材料にはさらにピンホールがあるべきではない。これは、容量性構造および多くの他のデバイスでは、ピンホールがあると電気的に短絡した使いものにならないデバイスとなってしまうからである。
【0053】
本発明では、所望のPbZr
XTi
1−XP
3膜の構成金属の有機金属前駆体が、液体形態、すなわち、前駆体が周囲温度および圧力(例えば、25℃および大気圧)条件において液体である場合、原液または希釈溶液として、または、前駆体組成がかかる周囲条件において固体である場合、適合する溶剤における前駆体の溶液として導入される。溶剤は、液体供給MOCVDの当業者により知られているかつ理解されているように、用いられる特定の前駆体組成に適合する任意の好適なタイプであってよく、また、単一成分溶媒種、または、あるいは、多成分溶媒混合物によって構成されうる。
【0054】
このような液体供給技術に用いられる有機金属前駆体としては、例えば、Pb前駆体として鉛ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、すなわち、[Pb(thd)
2]と、Ti前駆体としてチタンビス(イソプロポキシド)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、すなわち、[Ti(O−i−Pr)
2(thd)
2]と、Zr前駆体としてジルコニウムテトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、すなわち、[Zr(thd)
4]が挙げられる。あるいは、鉛前駆体は、鉛ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)N,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、すなわち、[Pb(thd)
2pmdeta]を含んでもよく、ジルコニウム前駆体は、あるいは、ジルコニウムビス(イソプロポキシド)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、すなわち、[Zr(O−i−Pr)
2(thd)
2]を含んでもよい。
【0055】
本発明の液体供給MOCVDプロセスに用いられる溶剤は、Robin A. Gardiner他の名前で1995年3月31日に出願され、米国特許第5,846,275号として1998年12月8日に発行された米国特許出願番号第08/414,504号、Robin A. Gardiner他の名前で1995年6月7日に出願された米国特許出願番号第08/484,654号、およびThomas H. Baum他の名前で1997年11月20日に出願された米国特許出願番号第08/975,372号に開示され、PbZrTiO
3薄膜材料の形成に用いられる特定の有機金属前駆体と適合性があり、成分液体供給および化学気相堆積プロセスステップにおいて効果的である、溶媒組成を、例として、好適に含みうる。上述した特許出願およびそれに基づく対応特許の開示内容は、その全体を本明細書に参照として組み込むものとする。
【0056】
1つの好適な実施形態では、溶剤は、約8部のテトラヒドロフラン(THF)、2部のイソプロパノール、および1部のテトラグリム(体積部)を含有する溶液から構成される。Pb(thd)
2が用いられる場合といった別の実施形態では、好適な溶剤からイソプロパノールおよびテトラグリムの片方または両方が除外されうる。他の例示的な多成分溶媒組成としては、5:4:1の割合でオクタン:デカン:ポリアミンを含む溶剤、および、9:1の割合でオクタン:ポリアミンを含む溶媒が挙げられる。1つの特に好適な単一成分溶剤は、テトラヒドロフラン(THF)である。
【0057】
いったん処方された液体前駆体組成は、蒸発域内に導入され、そこで液体は、例えば好適な温度に加熱された小孔付き蒸発要素(例えば、多孔性フリット要素、または、ワイヤ、グリッド、若しくは他の広表面積構造要素)でのフラッシュ蒸発によって高速に蒸発させられ、対応する前駆体蒸気が生成される。
【0058】
前駆体蒸気は、次に、例えば既知または従来タイプのCVD反応器を含みうる化学気相堆積チャンバに運ばれる。CVDシステムは、蒸気の金属成分を基板要素上に堆積させるのに適した温度において、前駆体蒸気を、加熱された基板に接触するように堆積チャンバ内に導入するために適切に装備されている。この目的のために、基板は、加熱されたサセプタまたは他の基板取付け構造上に取付けられてよく、プロセスからの使用済み蒸気は堆積チャンバから排出されて、既知または従来の方法での更なる処理またはプロセスが施される。
【0059】
さらに、このように堆積された膜は、例えば、特定の時間/温度関係に応じておよび/または特定の雰囲気または環境におけるアニーリングによって任意の好適な方法でさらに処理されて、最終の所望の薄膜PbZrTiO
3材料が生成されうる。
【0060】
本発明の一実施形態では、製品膜の金属成分用の前駆体は、溶媒中に溶解され、約100から約300℃の間の温度でフラッシュ蒸発され、キャリアガス(例えば、Ar、N
2、H
2、He、またはNH
3)と共にMOCVD反応器内に運ばれる。結果として得られるキャリアガス/前駆体蒸気の混合物は、次に、酸化共反応ガス(例えば、O
2、N
2O、O
3、またはこれらの混合物)と混合されて堆積チャンバへ運ばれ、約0.1から約760トールの範囲のチャンバ圧で、約400℃から約1200℃の温度に加熱された基板において分解される。リモートプラズマ源の使用のように、他の活性酸化種を用いて堆積温度を下げてもよい。
【0061】
PZT材料研究分野における研究によって、膜のPb組成が前駆体濃度の変化に反応しないCVDプロセスパラメータのレジームの存在が確立された(例えば、M. De Keijser、P. Van Veldhoven、およびG. Dormans、Mat. Res. Symp. Proc.、Vol. 310(1993)、223-2344頁、および、J. Roeder、B. A. Vaartstra、P.C. Van Buskirk、H.R. Beratan、「Liquid delivery MOCVD of ferroelectric PZT」、Mat. Res. Symp. Proc.、Vol. 415(1996)、123-128頁参照)。
【0062】
この特徴は、製作プロセスの設計および最適化への応用に非常に望ましく、発明者は、この自己修正レジーム(self-correcting regime)において、様々な前駆体濃度で堆積された膜についての膜特性を調べた。PZT組成は、前駆体濃度と実質的に無関係のままであるが、関連付けられるPZT膜の微細構造および特性は著しく変動しうることを発見した。さらに、発明者は、自己修正レジームの「端(edge)」への近接性が、化学量論的組成への近接性よりも最重要であることを発見した。これは、数パーセントの化学量論的な余剰のPbが最適であるという従来技術の従来の叡智に対して重要な発見である。
【0063】
本発明者は、PZTの堆積のためのMOCVDプロセスは、比較的広い範囲のプロセス条件に亘ってのプロセス条件に対して化学量論が概して反応しないという所望の特性を有することを示した。しかし、驚くべきことに、同じ化学量論的組成を有する堆積膜の特性は、機能的に同等ではないことも発見された。本発明は、このような不調和を、最適な電気特性を有するプロセス条件を特定する手法によって解決する。
【0064】
主要な態様では、本発明は、優れた特性を有するPZT膜をもたらすCVD条件の選択のための方法論に関する。この方法論は、「A/Bプラトー効果」を利用して、その電気特性が、強誘電体ランダムアクセスメモリ(FeRAM)といった強誘電体不揮発性(NV)メモリの最適要件と合致する容量性PZT膜の製作を実現する。この「A/Bプラトー効果」は後述するが、平滑度と粒径は、特定の核形成および成長現象を修正することによって制御可能であるという概念に基づいている。後述するように、堆積条件と処理パラメータを選択するための原理の完全なる集合によって、当該技術分野において実現不可能と前は考えられていたPZT膜特性、特に、非ドープPZTに対する低インプリント、および、低厚(例えば、20nmまでの厚さ)への電界スケーリングがもたらされる。
【0065】
このような特性を実現するためのPZT特性と相関材料または処理要件のマトリクスを下記の表Aに記載する。
【表3】
【0066】
表Aのプロセスパラメータに関連して用いられうる例示的な特定のプロセス実施形態を、「プロセスセットA」として以下に記載する。図示するように、プロセスセットAは、前駆体試薬および溶媒組成を含む特定の前駆体化学的性質、基板およびバリア層材料(バリア層は基板とPZT材料層との間に堆積されるかまたはそうでなければ設けられる)を用いて、PZT材料の最適な電気特性および性能特性、構造物の電極材料、キャリアガス種、および酸化剤種の実現に適した電気環境を提供する。
【0068】
プロセスセットAの要素は、例示に過ぎず、特定の前駆体の化学的性質、キャリアガス種、デバイス構造層等は、本発明の範囲においてスケーラブルなPZT膜材料を実現する本発明の幅広い実施において様々に異なりうることは理解されよう。
【0069】
本発明の実施における強誘電性膜材料の厚さは様々に異なりうる。FeRAM応用の好適な厚さは、通常、約20から約150ナノメートルの範囲にある。FeRAM応用におけるそのようなPZT材料膜の動作電圧は、通常、3.3ボルト未満であり、さらに低い電圧レベルに下げられる。
【0070】
ペロブスカイト酸化物の一般式はABO
3であり、ここで、特定の金属元素が結晶格子におけるA部位およびB部位を占有し、Oは酸素である。PZTについては、PbがA部位上にあり、ZrおよびTrがB部位を共有する。PbOの蒸気圧は、PbOがペロブスカイト構造に組み込まれる場合、低いので、比較的幅広い範囲のCVDプロセスパラメータが、同じまたは非常に僅かに異なるA/B部位比≒1.00を有するPZT膜をもたらす。このA/B「自己修正効果」の存在は、次の特性、すなわち、20μC/cm
2より大きい強誘電性分極P
SW、V
opにおいて10
−5A/cm
2未満の漏れ電流密度J、J
−nlog(時間)により定義される誘電緩和(ただし、nは0.5より大きい)、および、10
10回の分極反転サイクル後、その元の値より10%未満で低いP
SWにより定義されるサイクル疲労(タイプ1特性)、を有するPZT材料の形成を実現するために本発明において有利に利用される。
【0071】
図2は、圧力(P)、温度(T)、および溶液A/B比の関数として示す、漏れ電流密度の対数(Log J)、強誘電性分極(P
SW)、および膜におけるPbの原子%の経験的に決定された値について得られるモデルデータマトリクスである。
【0072】
マトリクスからのモデルデータは、従属変数:膜におけるPbの原子%、強誘電性分極(P
SW)、および漏れ電流密度(log J)に対する独立(プロセス変数)P、T、および(A/B)
solutionの基本的な関係を示す。これらの独立変数のうち、(A/B)
solutionは、前駆体液体試薬溶液が前駆体の溶液中にあるように同じ気相組成を実現するように蒸発させられるので、(A/B)
gasに等しい。
【0073】
従属変数(
図2のモデルデータマトリクスにおける強誘電性膜の中心領域および端領域の平均値を含む)に対して生成された様々な曲線を見てみると、「ニー(knee)」または変曲点が示され、この点以降は、曲線は、所与の独立プロセス変数P、T、(A/B)
solutionの値が増加する方向において平らになる。このニー点またはその付近において動作させることによって、本発明の優れたPZT材料が生成される。ニー点の「付近」とは、独立プロセス変数に応じて異なる。溶液A/B比および圧力の場合、付近は、好適にはニー点の±25%内にあり、また、温度については、付近は、好適にはニー点の±5%内にある。
【0074】
図2に示す具体的なデータについて、この「ニー」点は、溶液A/B比では1.02であり、堆積圧では1750ミリトールであり、堆積温度では575℃である。これらの独立変数値を選択することによって、かかるA/B溶液比、圧力、および温度で生成される、本発明の優れたPZT材料を生成する対応する従属値が容易に決定されうる。この従属値には、動作電圧において1平方センチメートルあたり−4.35アンペアであるLog J
ave中心値、動作電圧において1平方センチメートルあたり−6.77アンペアであるLog J
ave端値、1平方センチメートルあたり35.1μCであるP
SW端値、1平方センチメートルあたり33.7μCであるP
SW中心値、および52.3%であるPbの原子%が含まれる。
【0075】
したがって、本発明は「プラトー効果決定」を包含し、この「プラトー効果決定」は、後述するように、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比(A/B比はPb対(Zr+Ti)の比率である)のそれぞれの関数として、強誘電性分極、漏れ電流密度、およびPZT膜における鉛の原子百分率のそれぞれを示すプロットの相関実験的マトリクスを確立するステップと、温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の独立プロセス変数に対して動作の領域を定義する各プロットの「ニー(knee)」、すなわち、変曲点を特定するステップと、後述するように、そのような動作の領域から選択される温度、圧力、および液体前駆体溶液A/B比の対応値においてMOCVDプロセスを行うステップを含む。
【0076】
下記の表Bに、本発明の厚さスケーラブルで寸法的にスケーラブルなPZT材料の最も好適な材料特性(タイプ2特性)の一覧表を記載する。ここで、tはPZT材料の膜厚であり、lはキャパシタ面積と同じ面積を有する正方形の辺として定義される実効横寸法である。
【0078】
本発明は、表Bに記載するスケーリング特性を有する強誘電特性を実現するための「プラトー効果」の使用、および、表Bに記載するスケーリング特性を有する強誘電特性を実現するための核形成/平滑方法の使用を検討する。
【0079】
したがって、本発明の強誘電性PZT材料は、寸法的にスケーラブルな材料であり、また、表Aおよび/または表Bの特性のうち少なくとも1つを好適に含む。本発明の強誘電性PZT材料はさらに、特徴において、電界スケーラブルおよびパルス長スケーラブルである。
【0080】
本発明のPZT材料は、FeRAMデバイスといった容量性構造、および、PZTが有利に用いられうる他のマイクロ電子デバイスおよび前駆体構造を形成するために用いられうる。したがって、本発明は、例えば本発明のパルス長スケーラブルPZT材料である本発明のPZT材料を、かかるPZT材料を含む電源および関連電源回路と組み合わせて含むマイクロ電子デバイス構造体を、PZT材料の励起用に構成されたマイクロ電子構造体として提供することを検討し、かかる励起は、5ナノ秒から200ナノ秒の範囲における励起(電圧)パルス長によって特徴付けられる。
【0081】
例示的に、本発明のPZT強誘電性材料を含む強誘電体スタックキャパシタを、埋め込みトランジスタ回路への導電性プラグを含むビアを有する絶縁体層の下にかかる埋め込みトランジスタ回路を含む基板上のキャパシタ要素として形成することによって、PZT材料を用いて強誘電体キャパシタデバイスを製作しうる。このような製作プロセスは、パターニング、堆積、エッチング、拡散、イオン注入、イオン衝撃、化学改質等のステップを含みうる。
【0082】
本発明のPZT材料を含む例示的なデバイス構造に具体的に参照する以下の詳細な説明によって本発明のより完全な理解が可能となる。
【0083】
図3を参照するに、製作プロセス過程にある集積回路半導体デバイス200の断面図を示す。デバイス200は、図示しない活性デバイス構造を含んでよい半導体基板202と絶縁体層204を含む。半導体基板202はシリコン、ドープシリコン、または別の半導体材料であってよい。絶縁体層204は、任意の好適な堆積プロセスによって基板202上に堆積される。絶縁体層204は、例えば、二酸化シリコン、窒化シリコン、またはこれらのある組み合わせであってよい。
【0084】
窒化チタンアルミニウムTiAlNといった導電性拡散バリア層210が絶縁体層204上に堆積される。イリジウム、酸化イリジウム、プラチナ、またはこれらの組み合わせといった導電性材料の層212が、導電性拡散バリア層210上に堆積される。次に、PZTといった高誘電率材料の層214が、MOCVDによって導電性層212上に堆積される。イリジウム、酸化イリジウム、プラチナ、またはこれらの組み合わせといった導電性材料の第2の層216を、高誘電率材料の相214上に堆積されるものとして示す。
【0085】
窒化チタンアルミニウム(TiAlN)といった拡散バリア材料は、500℃を超える高温での後続のプロセスステップ時における酸素の拡散の可能性を相当に下げる。Peter S. Kirlin他の名前で1997年12月19日に出願された米国特許出願番号第08/994,089号に開示されるような材料といった他の材料を拡散バリアに用いることもできる。この特許出願の開示内容は、その全体を本明細書に参考として組み込む。
【0086】
図3は、フォトレジストでパターニングされてエッチングされた後のデバイス200の一部を示す。導電性拡散バリア層、イリジウムまたは他の導電性材料および高誘電率材料の上部層および下部層の所望の部分が残されて、上部電極216、キャパシタ誘電体214、下部電極212、および下部電極バリア層210が形成される。
【0087】
二酸化シリコンまたは窒化シリコンといった中間誘電体層218が全体に堆積される。この中間誘電体層は、フォトレジストでパターニングされてエッチングされてコンタクトプラグホール221、222、および223が形成される。絶縁体は、コントラクトプラグホール位置221および222において、それぞれ、下部電極212および上部電極216のイリジウムまたは他の導体に到達するまでエッチングされる。同様に、コンタクトプラグホール223も、絶縁体層218および204を通り半導体基板に到達するまでエッチングされる。コンタクトプラグ開口が作成されると、デバイス200は、酸化バリア材料の層を堆積する準備が整う。
【0088】
図3は、拡散バリア層232を下部キャパシタ電極212に接触した状態に、拡散バリア層234を上部キャパシタ電極216に接触した状態に、拡散バリア層236を半導体基板202に接触した状態に残す、拡散バリア層の全面に亘るエッチング後の半導体デバイス200を示す。メモリセルの転送トランジスタは、拡散バリア層236の下に位置付けられうるが図示しない。上述の拡散バリア堆積スキームの代替案として、バリア層232、234、および236を、キャパシタスタックエッチングおよび絶縁層218の堆積の前に単一の連続層として堆積させることもできる。この代替の構成では、バリア層はパターニングされて、キャパシタスタックの後続のパターニング用のハードマスクとして用いられうる。この代替のプロセスフローには、絶縁層218の堆積およびパターニングが続けられうる。
【0089】
導電性材料、すなわち、メタライゼーションが、中間誘電体218および拡散バリア層232、234、および236上に堆積される。導電性材料238は、拡散バリア層232、234、および236に接触する。導電性材料238は、アルミニウム、アルミニウム合金、タングステン、タングステン合金、イリジウム、およびイリジウム合金といった導電性材料の群から選択されてよい。拡散バリア層232、234、および236は、半導体基板202のキャパシタ電極212および216への導電性材料層238の任意の拡散の可能性を相当に減少させる。
【0090】
図3は、導電性材料層238がパターニングされてエッチングされて導電性材料の層内に所望の鉛線が形成された後の半導体デバイス200を示した。パターンはフォトレジスト材料により形成される。エッチングは、半導体製作技術における当業者によって知られている確立された手法に従って実現される。
【0091】
パッシベーション誘電体の層240が、導電性材料層238および中間誘電体218上に堆積される。パッシベーション誘電体は、二酸化シリコン、窒化シリコン、または半導体デバイスの上面に機械的および電気的保護を与えることのできる他の絶縁体といった材料であってよい。パッシベーション誘電体層240の材料は、周知の技術によって堆積される。
【0092】
本発明は、その態様として、本発明のPZT材料を含むマイクロ電子デバイス構造を検討する。本明細書では、本発明は、特定の特徴、態様、および実施形態を参照して説明しているが、本発明の使用はそのように限定されるわけではなく、また、本発明は、本明細書にて示したおよび説明した実施形態以外の変形、改良形、および実施形態を検討することは理解されよう。上述したキャパシタジオメトリは、例えば凹状のキャパシタジオメトリ、または、当業者には容易に明らかになるであろう他の構造および形態を含みうる。したがって、本発明はすべてのそのような変形および改良形を包含すると広く解釈されるべきである。
【0093】
本発明の特徴および利点を、以下の例示的な例についてより完全に示す。
【0094】
例1
選択された鉛前駆体は、鉛ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)[Pb(thd)
2]であった。この化合物は室温では感知できるほどの蒸気圧を有さないので、テトラアルキル鉛試薬よりも取り扱いが安全である。しかし、Pb(thd)
2の低い揮発度(180℃で0.05トール)によって、液体前駆体供給の使用が必要となる。チタンビス(イソプロポキシド)ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)[Ti(O−i−Pr)
2(thd)
2]を、チタン前駆体として用いた。ジルコニウムテトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)[Zr(thd)
4]を、Zr原試薬として用いた。これらの化合物は有機媒体中に非常に溶解し易く、また、チタン原子が配位的に飽和しているので、有害な配位子交換が生じない。
【0095】
以下のプロセス条件が適用された。
【表6】
【0096】
代表的なランでは、膜はIr/SiO
2/Si上に565℃で堆積された。圧力は1.2Torrであり、酸化剤流は500sccmのO
2と500sccmのN
2Oの混合物であり、試薬流速は32.5分間の間0.14ml/minであった。XRF分析によって、結果として得られるPbZrTiO
3膜について以下の厚さおよび組成データが得られた。
【0098】
例2
様々なPb/(Zr+Ti)比を有する溶液を、一連の堆積ランに用いた。この比率は、以下、(A/B)
gとして定義され、これは、ペロブスカイトセル、ABO
3における、Pbの「A」部位への、および、ZrならびにTiそれぞれの「B」部位への従来の割当てを示す。下付き文字gは反応チャンバにおける気相濃度を示し、その一方で(A/B)
fは膜における当量比を示す。
【0099】
Zr/(Zr+Ti)の気相比は0.612で一定に保たれた。例1において上述した条件下で、かつ、用いられた特定のCVD反応器に対して、Zr/(Zr+Ti)=0.612の気相比は、Zr/Tiが〜40/60である膜をもたらし、これは、バルク材では正方結晶構造および強誘電特性をもたらした。この気相比は、その高いP
rと、低いZr/Ti比ではペロブスカイト相を形成することが比較的簡単であることによってFeRAM応用に選択される一般的な組成である。
【0100】
次に、一連のPZT膜が固定の堆積時間で、下記の表1に記載するプロセス条件下で堆積された。この実験に基づく研究において決められる(A/B)
gの(A/B)
fへの効果を
図1に示す。公称膜厚は100nmであった。低(A/B)
gでは、(A/B)
fは気相の鉛のモル分率とともに単調に増加した。0.93<(A/B)
g<1.53の範囲では、(A/B)
fにおいて、1.10から1.15の範囲でプラトーが観察された。これらの膜については、ペロブスカイト相は存在する唯一の結晶相であった。
【0101】
膜組成が気相のPbの組成変化に対して反応しないこのプロセスウィンドウの出現は、2つの競合プロセス、すなわち、Pb、Zr、およびTi前駆体の分解を介するペロブスカイトPZTの形成、および、成長表面からの余剰PbOの脱着の観点から理論的に説明される。このプロセスウィンドウを説明するにあたって任意の理論または機構に制約されることを望まないが、バルクPZTの場合のように、PZT上のPbOの蒸気圧は固体のPbOに対する蒸気圧よりかなり低いと仮定される(K.H. HartlおよびH. Rau、Solid State Comm.、7、41(1969)にまとめられているバルクPZT材料特性を参照)。
【0103】
PZT形成の反応速度が速く、また、PbO揮発性が高い処理条件下では、単相の化学量論的PZTを形成することができる。
【0104】
1.00を超える(A/B)
f値におけるプラトーの存在は、XRF測定の不正確さによって、または、下部電極内への拡散される余剰のPbによって影響を受けることがある。金属成分の取り込み効率の分析によって、(A/B)
g>0.83ではPb効率が下がり、その一方でZrおよびTi効率は、同じ範囲で略一定に維持されたことが示された。このことは、プラトーの出現と、膜のXRD分析からのPbOの不在と一貫している。(A/B)
gが増加されると、膜厚は僅かに減少した。このことは、3.8から3.2nm/minに減少する近似成長速度に対応する。
【0105】
上述したように堆積された膜は、すべて滑らかで密度が高く、粒子が細かい。これらのイメージから計算されたラフネスおよび粒径の値を、下記の表2に記載する。測定された膜ラフネスは、気相組成に反応せず、また、基板として用いられるIr膜の開始表面ラフネスの約2倍であった。
【0106】
(A/B)
gが増加されると、粒子サイズがファセッティングの範囲と同じように増加し、このことは、表面移動度が高められたことを示唆する。これは、上述した成長モデルが有効であるならば高い気相Pb濃度での成長中に高いPbO表面被覆率がなくてはならない結果であると考えられている。高Pbサンプルでのファセッティングは、PZT(001)配向の存在を示す主に正方形の特徴が明らかとなり、X線回折結果によっても結果は支持された。
【0108】
X線回折分析によって、(A/B)
g>0.83で堆積された膜については単ペロブスカイト相が明らかとなった。(A/B)
g<0.83では、2Θ=29.9°において追加のピークが観察された。このピークの強度は(A/B)
gが増加すると減少し、鉛が不足した堆積条件下での望ましくないパイロクロア相の形成に因るものである。
【0109】
Ir/MgO上のPZT膜は、支配的な(001)および(101)PZT配向を示した。さらに、PZTピーク強度の(001)/(101)比は、(A/B)
gの増加と共に増加した。すなわち、0.406nmのc軸格子定数を有する正方晶c軸に向かって配向された。Ir/MgO上では検知できるほどの(111)PZT組織は観察されなかった。受取った状態の(as-received)基板のX線回折によって、主に(111)配向されたIrが明らかとなった。しかし、多量の(200)Irピークが存在した。
【0110】
最良の電気特性は、
図1に示す曲線のニーの直ぐ上の(A/B)
gを有する膜に対して見出された。もっと高いまたはもっと低い(A/B)
gを有する膜では電気的に短絡してしまった。3Vの動作では、(A/B)
g=0.93で堆積された150nmの厚さを有する膜では、残留分極(2P
r)および抗電圧(V
c)が、それぞれ、85μC/cm
2および0.77Vであると測定された。残留分極のこの高い値は、強い優先(001)配向と、Ir基板において得られる高度の結晶化に因るものである。
【0111】
例3
中央複合計画(central-composite-design)実験を用いて大きい容量のプロセス空間を調べ、主たるプロセス変数間の相互作用を評価した。堆積温度(550、575、600℃)および圧力(500、1750、3000mTorr)を、5つの異なる(A/B)
g値(0.53、0.73、0.93、1.13、1.53)において独立して変化させた。1660秒の一定堆積時間を用いた。
【0112】
組成的には、(A/B)
fにおけるプラトーの始まりは、(A/B)
g=0.93において観察された。所与の圧力では、膜の鉛含有量は、堆積温度が増加すると減少することが観察された。さらに、鉛とチタンの取り込み効率は、すべての温度について、(A/B)
gが増加すると減少した。
【0113】
電気的には、最良のサンプルは、計画の中心(575℃、1.75Torr、(A/B)
g〜1)における条件からもたらされた。良好なサンプルの多くは(−)電圧オフセットを示した。検知できるほどの中心から端への(Center-to-edge)(ウェーハ)効果はなかった。漏れの挙動は、低いPbおよび厚いサンプル(〜2.5Vまでで〜130nm)において良好であるようであった。
【0114】
例4
代替の酸化ジルコニウム前駆体が必要となり、これらは、Zr(thd)
4よりも揮発性が高く、またさらに、例えばPb(thd)
2の表面分解により適合するように低い熱安定性を有する。
【0115】
図4は、Pb(thd)
2、Ti(O−i−Pr)
2,(thd)
2、および2つの選択されたZr化合物、すなわち、Zr(thd)
4およびZr(O−i−Pr)
2(thd)
2の比較TGAデータを示す。Zr(O−i−Pr)
2(thd)
2化合物は、400℃においてほぼ20%の望ましくない残留物含有量を有するが、MOCVD PZTに一般的に用いられるPbおよびTi化合物に合う望ましい熱安定性を有する。
【0116】
MOCVD PZT堆積が、200℃に設定された気化器温度で、新規のZr(O−i−Pr)
2(thd)
2(Zr−2−2)化合物を用いて標準的なIr/TiAlN下部電極(BE)上に行われた。追加の堆積が、203℃の気化器温度において、標準的なZr(thd)
4(Zr−0−4)化合物を用いて処理された。他のすべての堆積条件は一定にされた。PZT堆積後、Pt上部電極(TE)が電子ビーム蒸発され、サンプルは、30分間の間、流動アルゴン中で650℃においてアニールされた。
【0117】
Zr−2−2サンプルの組成および電気データを、Zr−0−2サンプルから収集されたデータと共に提示した。Zr−2−2サンプルは、PbおよびZr含有量はZr−0−4サンプルよりも感知できるほどに低いが、電気的に匹敵する。
【0118】
Zr(O−i−Pr)
2(thd)
2前駆体に加えて、MOCVD PZTは、さらに別の新規のZr源前駆体を用いても作成されうる。例えば、Zr
2(O−i−Pr)
6(thd)
2は、良好な周囲安定性、高い揮発性、および、PbおよびTi前駆体と最良の熱適合性を有する。
【0120】
例5
本発明に従って形成されたPZT材料を用いて多数のサンプルが作成された。これらのサンプルは、スパッタリング技術によって下部電極を形成し、これらの電極上に本発明に従ってPZT材料を堆積し、その後、電子ビーム堆積によってシャドウマスクを介して上部電極を堆積することを含む。PZT堆積時間は、10nmから260nmの膜厚を目標に165秒から4065秒の間で変化させられた。
【0121】
これらのサンプルの電気試験によって、厚さ、パルス長、および、本発明の強誘電性PZT材料の強誘電性分極、サイクル疲労等を含む面積スケーリング特性を立証するキャパシタ構造の電気的特徴が提供される。
【0122】
図5に、漏れ電流密度対電界を示す。77nmの膜に対する高い「漏れ」が直ぐに確認された。厚さ閾値未満の膜についての定性的に異なる電気的挙動は、高い相対ラフネス(ラフネス/厚さ)に因るものであってよく、これは、薄い膜において非常に薄い領域がもたらされる。このような場合、局所的に高い電界が予期される。セット(>77nm)のうちのより厚い膜に対する電流密度は、際立って安定した電界依存性が示された。両極性における漏れは、150kV/cmに対して10
−6〜10
−7A/cm
2の範囲であった(150kV/cmは、例えば、125nmの膜では1.9Vに対応する)。
【0123】
漏れは、電界の関数としてプロットされた場合に、厚さに反応しない4つの特性のうちの1つであった。他の特性は、抗電圧(V
c)、分極飽和(P
SW対V
OP)、および疲労耐性であった。
【0124】
各サンプルに対する抗電圧は、関係3V
c(測定済み)=V
opから決定され、その方法に基づくE
cの計算された値を
図6に示す。厚さが77nmより大きいPZT膜については、E
cは約50kV/cmであった。
【0125】
パルス測定を用いて分極飽和を調べた。
図7は、電圧および電界への反転分極の依存を示す。データは、高い電圧に対しては分極が増加することが予期されることを示す。高い電界に耐えることのできる厚い膜について明らかな飽和挙動が観察される。125nmまたはそれよりも厚い膜では、飽和P
SW>40μC/cm
2である。飽和に近いP
SW(300kV/cm)に正規化されて、P
SW対Eは、膜厚とほぼ無関係となる。すべてのサンプルで、P
SWは、3E
c(〜150kV/cm)においてその最大値の約90%に到達する。
【0126】
このサンプルセットの疲労特性も、電界スケーリングについて安定した特性を示した(
図8)。疲労測定は、3E
cに対応する150kV/cmにおいて行われた。疲労波形は、10
−5秒の期間を有する方形波であった。疲労は、PZT厚さにほぼ無関係で、10
9回のサイクルにおいて〜50%でP
SWが減少する。
【0127】
スタティックインプリントが、抗電圧における非対称性として現れ、[V
c(−)+V
c(+)]/2として定義される。インプリント電圧が、単一キャパシタの反復測定、ポーリング、およびアニーリングを介して調べられた。時間=0におけるV
c(+および−)の初期測定の後、キャパシタは2.5Vとなるよう正極または負極に調整され、次に、20分間の間150℃(空気)においてアニーリングされた。冷却後、その同じ(極性が調整された)キャパシタが再測定された。24分(すなわち、45分の経過時間)および45分(90分の経過時間)のアニールの後、追加の測定が繰り返された。
【0128】
図9は、インプリント電圧対時間の半対数のプロットを示す。サンプルは、時間=0において略同一のインプリント(〜−0.1V)を有した。インプリントは、20分における第1の測定の少し前にかなり増加することが明らかである。薄い膜は、厚い膜よりも低いインプリント速度を有することが観察された。この傾向は、インプリント電界の観点からデータを分析することを提案する。
【0129】
例6
強誘電性材料の開発の際の試験機器およびサンプル作成を簡略化するために、電気的試験は、約1mSのパルス幅と、約10
4μm
2のキャパシタ面積を用いて従来から行われている。この試験レジメンの欠点は、デバイスに適したスケール(すなわち、25nSパルスおよび10
2μm
2)で電気特性の実行可能性(viability)を示すことができないことである。市場の傾向は、ますます短くなっている時間スケールで、より小さいキャパシタ面積で動作するデバイスに向かっているので、スケーリングの問題は将来のデバイスの成功には重要である。
【0130】
これらの測定に用いたサンプルは、プロセスセットAに記載したように、Irの下部電極、標準PZT、および、40nmのIrO
2および60nmのIrから構成される上部電極を有する直径6インチのSiウェーハからもたらされた。個々のキャパシタは、パターン付きフォトレジストおよびCl
2/Ar/O
2混合物における反応性エッチングを用いて画定された。パターニング後、サンプルは、30分間の間、流動酸素中で650℃においてアニールされた。
【0131】
図10に示すように、試験システムは、SRS DS345任意波形ジェネレータ、テクトロニクス(Tektronix)620Bデジタルストレージオシロスコープ、およびシャントレジスタから構成される。この試験プロトコルの詳細は、P.K. Larsen、G. Kampschoer、M. Ulenaers、G. Spierings、およびR. Cuppens、Applied Physics Letters、Vol. 59、Issue 5、611-613頁(1991)に記載される。標準方形パルス強誘電性パルス列が用いられた。このパルス列は、1つの負極性パルスと、続いて2つの正パルスと、2つの負パルス(設定、正、上、負、下)から構成される。
図10の位置Xにおいて測定された一般的な駆動信号および
図10の位置Yにおいて測定された応答信号を、
図11に示す。
【0132】
各応答パルスにおいて強誘電体キャパシタから接地に通る総電荷は、次式から計算することができる。
電荷:Q=(1/R
S)∫VdV
【0133】
強誘電反転は、負(正)パルスによって前に極性が与えられていた強誘電体キャパシタが、後続の正(負)パルスによって極性が上げられる(下げられる)と起きる。Q
SWは、反転パルスおよび非反転パルスにおいて含まれる総電荷における差として定義される。すなわち、
Q
SW=(S
0+S
1)−(P
0+P
1)
ここで、S
0およびS
1は、第1反転パルスの立ち上がり応答パルスおよび立ち下り応答パルスであり、P
0およびP
1は、第1の非反転パルスの立ち上がりパルスおよび立ち下がりパルスである(
図11)。
【0134】
1、2、および3Vパルスと、25nSと0.22mSの間のパルス長で、上述したように測定を行った。分極は、調べた範囲に亘ってパルス長と無関係であることが分かった(
図12)。
【0135】
さらに、1μSパルスと、33μm×33μmから4μm×4μmの正方形のキャパシタを用いて面積スケーリングを調べた。Q
SWも、調べた範囲に亘ってキャパシタ寸法と無関係であることが分かった(
図13)。
【0136】
産業上の利用可能性
本発明のPZT材料は、集積回路メモリにおいて有用に採用される。そのスケーラビリティ(寸法的にスケーラブルである、および/または、特徴において電界スケーラブルである)によって、この材料は、例えば約20ナノメートルから約150ナノメートルである広い厚さ範囲、および、0.15μmまで低く延在する横寸法の範囲に亘って、例えばFeRAMである強誘電性薄膜キャパシタ構造における使用に特に適している。本発明のPZT材料は、アクセプタドーピングまたは膜改質剤(例えば、Nb、Ta、La、Sr、Ca等)の使用といったPZT膜改質技術を用いることなく、液体供給MOCVDによって容易に形成されうる。