(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パーツは、前記処理室、前記処理室内に配置されたガスを導入するガス導入管、前記被処理基板を載置する被処理基板載置治具、および保温筒の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置のパーツ保護方法。
前記パーツは、前記処理室、前記処理室内に配置されたガスを導入するガス導入管、前記被処理基板を載置する被処理基板載置治具、および保温筒の少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項9に記載の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、全図にわたり、共通の部分には共通の参照符号を付す。
【0014】
(成膜装置)
まず、この発明の実施形態に係るパーツ保護方法を適用することが可能な成膜装置の一例を説明する。
【0015】
図1はこの発明の実施形態に係るパーツ保護方法を適用することが可能な成膜装置の一例を示す縦断面図、
図2は
図1に示す成膜装置の横断面図である。
【0016】
図1には、この発明の実施形態に係るパーツ保護方法を適用することが可能な成膜装置の一例とし、ALD法を用いて被処理体である半導体ウエハ(シリコン基板)W上に、シリコン窒化物膜を成膜するバッチ式の成膜装置100が示されている。
【0017】
図1に示すように、成膜装置100は、下端が開口された有天井の円筒体状の処理室101を有している。処理室101の全体は、例えば、石英により形成されている。処理室101内の天井には、石英製の天井板102が設けられて封止されている。また、処理室101の下端開口部には、例えば、ステンレススチールにより円筒体状に成形されたマニホールド103がOリング等のシール部材104を介して連結されている。
【0018】
マニホールド103は処理室101の下端を支持している。マニホールド103の下方から、多数枚、例えば、50〜100枚の半導体ウエハWを多段に載置可能な石英製のウエハボート105が処理室101内に挿入可能となっている。ウエハボート105は、被処理基板載置治具であり、例えば、3本の支柱106を有し(
図2参照)、支柱106に形成された図示せぬ溝により多数枚のウエハWが支持されるようになっている。
【0019】
ウエハボート105は、石英製の保温筒107を介してテーブル108上に載置される。テーブル108は、マニホールド103の下端開口部を開閉する、例えば、ステンレススチール製の蓋部109を貫通する回転軸110上に支持される。
【0020】
そして、回転軸110の貫通部には、例えば、磁性流体シール111が設けられており、回転軸110を気密にシールしつつ回転可能に支持している。また、蓋部109の周辺部とマニホールド103の下端部との間には、例えば、Oリングよりなるシール部材112が介設されており、これにより処理室101内のシール性を保持している。
【0021】
回転軸110は、例えば、ボートエレベータ等の昇降機構(図示せず)に支持されたアーム113の先端に取り付けられており、ウエハボート105および蓋部109等を一体的に昇降して処理室101内に対して挿脱されるようになっている。なお、テーブル108を蓋部109側へ固定して設け、ウエハボート105を回転させることなくウエハWの処理を行うようにしてもよい。
【0022】
成膜装置100は、窒化剤含有ガス供給機構114、シリコン原料ガス供給機構115、及び不活性ガス供給機構116を備えている。窒化剤含有ガス供給機構114は、処理室101内へ窒化剤含有ガスを供給する。シリコン原料ガス供給機構115は、同じく処理室101内へシリコン原料ガスを供給する。不活性ガス供給機構116は、同じく処理室101内へ不活性ガスを供給する。不活性ガスは、例えば、処理室101内部のパージガス、及び希釈ガスとして使用される。
【0023】
窒化剤含有ガスの窒化剤の例としては、アンモニア(NH
3)含有ガス、窒素酸化物(NO)含有ガス、並びにアンモニア及び窒素酸化物含有ガス等を挙げることができる。シリコン原料ガスの例としては、シラン系ガス、例えば、モノシラン(SiH
4)、ジシラン(Si
2H
6)、ジクロロシラン(DCS:SiH
2Cl
2)等を挙げることができる。
【0024】
また、シリコン原料ガス供給機構115に複数のシリコン原料ガスを用意しておき、用意された複数のシリコン原料ガスの中から少なくとも1つを選択して処理室101内へ供給するようにすることもできる。不活性ガスの例としては、窒素ガス(N
2ガス)、アルゴンガス(Arガス)等を挙げることができる。
【0025】
窒化剤含有ガス供給機構114は、窒化剤含有ガス供給源118aと、窒化剤含有ガス供給源118aから窒化剤含有ガスを導く窒化剤含有ガス供給配管119aと、窒化剤含有ガス供給配管119aの途中に設けられた開閉弁122aと、流量制御器123aとを含んで構成されている。
【0026】
シリコン原料ガス供給機構115は、シリコン原料ガス供給源118bと、シリコン原料ガス供給源118bからシリコン原料ガスを導くシリコン原料ガス供給配管119bと、シリコン原料ガス供給配管119bの途中に設けられた開閉弁122bと、流量制御器123bとを含んで構成されている。
【0027】
不活性ガス供給機構116は、不活性ガス供給源118cと、不活性ガス供給源118cから不活性ガスを導く不活性ガス供給配管119cと、不活性ガス供給配管119cの途中に設けられた開閉弁122cと、流量制御器123cとを含んで構成されている。
【0028】
窒化剤含有ガス供給配管119aは、マニホールド103の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなる窒化剤含有ガス分散ノズル120aに接続されている。シリコン原料ガス供給配管119bも同様に、マニホールド103の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなるシリコン原料ガス分散ノズル120b及び120cに接続されている。窒化剤含有ガス分散ノズル120a、並びにシリコン原料ガス分散ノズル120b及び120cの垂直部分には、それぞれ複数のガス吐出孔121a〜121cが所定の間隔を隔てて形成されている(ガス吐出孔121cについては
図2参照)。また、不活性ガス供給配管119cは、マニホールド103の側壁を内側へ貫通する不活性ガス導入ノズル120dに接続されている。
【0029】
このような構成により、窒化剤含有ガス、シリコン原料ガス、及び不活性ガスは、それぞれ独立し、かつ、それぞれ流量を制御しつつ、処理室101内に供給することが可能になっている。
【0030】
処理室101の側壁の一部には、窒化剤含有ガスのプラズマを形成するプラズマ生成機構124が形成されている。プラズマ生成機構124は、プラズマ区画壁125を有する。プラズマ区画壁125は、処理室101の側壁に形成された開口101aを覆うように、処理室101の外壁に気密に接続されている。開口101aは、処理室101の側壁を上下方向に沿って所定の幅で削りとることによって上下に細長く形成されている。これは、ウエハボート105に多段に保持された全てのウエハWに対して、プラズマ、及びラジカルを、開口101aを介して均一に供給するためである。また、プラズマ区画壁125は断面コ字状をなし、開口101aの形状にあわせて上下に細長く形成され、例えば、石英で形成される。このようなプラズマ区画壁125を形成することにより、処理室101の側壁の一部が凸状に外側へ突出した状態となり、プラズマ区画壁125の内部空間が処理室101の内部空間に一体的に連通された状態となる。
【0031】
プラズマ生成機構124は、一対のプラズマ電極126(
図2参照)と、高周波電源127と、高周波電源127から高周波電力を供給する給電ライン128とを備えている。一対のプラズマ電極126は、プラズマ区画壁125の形状にあわせて細長く形成され、プラズマ区画壁125の両側壁の外面に上下方向に沿って互いに対向するようにして配置されている。
【0032】
窒化剤含有ガス分散ノズル120aは、処理室101内を上方向に延びていく途中で、処理室101の外側に向けて屈曲され、プラズマ区画壁125内の最も奥の部分(処理室101の中心から最も離れた部分)に沿って上方に向けて起立されている。このため、高周波電源127がオンされて一対のプラズマ電極126間に高周波電界が形成されると、窒化剤含有ガス分散ノズル120aのガス吐出孔121aから噴射された窒化剤含有ガスがプラズマ励起されて窒化剤含有ガスのラジカルが生成され、処理室101の中心に向けて拡散しながら流れる。例えば、高周波電源127から、13.56MHzの高周波電圧を一対のプラズマ電極126に印加すると、プラズマ区画壁125により区画された空間に供給された窒化剤含有ガスがプラズマ励起され、窒化剤含有ガスのラジカルが生成される。例えば、窒化剤含有ガスがアンモニアであるときには、アンモニアラジカルが生成され、このアンモニアラジカルが処理室101の内部において、シリコン原料ガス又はシリコン膜と反応することで、シリコン窒化物膜を成膜することができる。なお、高周波電圧の周波数は13.56MHzに限定されず、他の周波数、例えば400kHz等を用いてもよい。
【0033】
プラズマ区画壁125の外側には、プラズマ区画壁125を覆うように、例えば、石英よりなる絶縁保護カバー129が取り付けられている。
【0034】
処理室101の開口101aの反対側の部分には、処理室101内を真空排気するための排気口130が設けられている。排気口130は処理室101の側壁を上下方向へ削りとることによって細長く形成されている。処理室101の排気口130に対応する部分には、排気口130を覆うように断面コ字状に成形された排気口カバー部材131が溶接により取り付けられている。排気口カバー部材131は、処理室101の側壁に沿って上方に延びており、処理室101の上方にガス出口132を規定している。ガス出口132には、真空ポンプ等を含む排気機構133が接続される。排気機構133は、処理室101内を排気することで処理に使用した処理ガスの排気、及び処理室101内の圧力を処理に応じた処理圧力とする。
【0035】
処理室101の外周には筒体状の加熱装置134が設けられている。加熱装置134は、処理室101内に供給されたガスを活性化するとともに、処理室101内に収容されたウエハWを加熱する。なお、
図2においては、加熱装置134の図示を省略している。
【0036】
成膜装置100の各部の制御は、例えば、マイクロプロセッサ(コンピュータ)からなるプロセスコントローラ150により行われる。プロセスコントローラ150には、オペレータが成膜装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボード、あるいはタッチパネルや、成膜装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース151が接続されている。
【0037】
プロセスコントローラ150には記憶部152が接続されている。記憶部152は、成膜装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ150の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じて成膜装置100の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわちレシピが格納される。レシピは、例えば、記憶部152の中の記憶媒体に記憶される。記憶媒体は、ハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CD-ROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。レシピは、必要に応じて、ユーザーインターフェース151からの指示等にて記憶部152から読み出され、読み出されたレシピに従った処理をプロセスコントローラ150が実行することで、成膜装置100においては、プロセスコントローラ150の制御のもと、シリコン窒化物膜の成膜処理が実施される。
【0038】
このような成膜装置100が備えるパーツに対し、この発明の実施形態ではパーツ保護被膜を形成する。以下、実施形態のいくつかについて詳細に説明する。
【0039】
(第1の実施形態)
図3はこの発明の第1の実施形態に係るパーツ保護方法の一例を示す流れ図、
図4A〜
図4Cはパーツの一部分を拡大して模式的に示した断面図である。
【0040】
第1の実施形態は、シリコン窒化物膜を成膜する前に、成膜処理中の成膜雰囲気に暴露される石英製のパーツの表面へパーツ保護被膜を形成する例である。
【0041】
図3のステップ1に示すようにパーツ保護処理を行う。本例においては、パーツ保護処理を以下のようにして行う。
【0042】
まず、イニシャル状態の成膜装置100を準備する(ステップ11)。本明細書において、“イニシャル状態”とは、成膜装置100が完成直後であり、一度も成膜処理を行っていない状態、及び成膜装置100がクリーニング直後であり、クリーニング後に一度も成膜処理を行っていない状態のことをいう。次いで、イニシャル状態の成膜装置100の処理室101の内部に、ウエハWを載置していない、イニシャル状態のウエハボート105を収容する(ステップ12)。
【0043】
次に、成膜装置100が備えているシリコン原料ガス供給機構115を用いて、処理室101の内部に配置された石英製のパーツの表面上に、パーツ保護被膜を形成する(ステップ13)。本例では、パーツ保護被膜を表面に起伏がある粗面膜とし、材質はシリコンとする。これにより、本例ではパーツ保護被膜として粗面シリコン膜が形成される。なお、材質としてシリコン膜を選定した理由は次の通りである。
【0044】
成膜装置100により成膜される膜がシリコン窒化物膜であった場合、処理室101の内部に配置された石英製のパーツの表面上にもシリコン窒化物膜が形成される。このシリコン窒化物膜は、上記パーツに対して強い引張応力を及ぼす。そのようなシリコン窒化物膜に対し、シリコン膜は圧縮応力を及ぼし、引張応力を緩和するように作用する。このように、石英製のパーツ上に形成される膜に対し、この膜が持つ応力を相殺する応力を持つ膜をパーツ保護被膜とする。これが理由の一つである。
【0045】
本例において、粗面シリコン膜は、以下のようにして形成される。
【0046】
まず、パーツの表面上に、シリコン膜2を成膜する(ステップ131)。シリコン膜2を成膜する際の成膜処理の条件の一例は、以下の通りである。
【0047】
シリコン原料ガス : モノシラン
シリコン原料ガス流量: 300〜500sccm
処 理 時 間 : 3min
処 理 温 度 : 500〜600℃
処 理 圧 力 : 13.3〜26.6Pa(0.1〜0.2Torr)
この成膜処理によって、処理室101内に配置されている石英製のパーツ1の表面上に、シリコン膜2aが形成される(
図4A参照)。石英製のパーツ1は、本例では処理室101の内壁表面、天井板102の内壁表面、支柱106を含むウエハボート105の外周表面、保温筒107の外周表面、窒化剤含有ガス分散ノズル120aの外周表面、シリコン原料ガス分散ノズル120b及び120cの外周表面、不活性ガス導入ノズル120dの外周表面、及びプラズマ区画壁125の内壁表面である。
【0048】
次に、シリコン膜2aの表面を粗面化する(ステップ132)。シリコン膜2aを粗面化する際の粗面化処理の条件の一例は、以下の通りである。
【0049】
処 理 時 間 : 30min
処 理 温 度 : 550〜600℃
処 理 圧 力 : 引き切り
上記条件において“引き切り”とは、排気機構133を用いて処理室101の内部を排気し続け、処理室101の内部の圧力を高い真空度に保つことである。例えば、処理室101の内部の圧力は、シリコン膜2aを形成したときの圧力に比較して、より低い圧力とされる。
【0050】
上記粗面化処理によって、シリコン膜2aの表面においては、シリコンの凝集が起こり、シリコン膜2aの表面が粗面化される。これにより、パーツ保護被膜としての粗面シリコン膜2が完成する(
図4B参照)。本例では、処理室101の内壁表面、天井板102の内壁表面、支柱106を含むウエハボート105の外周表面、保温筒107の外周表面、窒化剤含有ガス分散ノズル120aの外周表面、シリコン原料ガス分散ノズル120b及び120cの外周表面、不活性ガス導入ノズル120dの外周表面、及びプラズマ区画壁125の内壁表面それぞれが粗面シリコン膜2によって被覆される。これにより、パーツ保護処理が終了する。
【0051】
この後、パーツ保護処理が終了した成膜装置100を用いた成膜処理を行う(ステップ2)。これには、まず、外周表面が粗面シリコン膜2によって被覆されたウエハボート105を処理室101の内部から引き出し、成膜処理される半導体ウエハWをウエハボート105に載置する。次いで、半導体ウエハWが載置されたウエハボート105を、処理室101の内部に再度収容し、半導体ウエハWを処理室101の内部に搬入する。
【0052】
次に、成膜処理、本例では、シリコン窒化物膜の成膜を行う。シリコン窒化物膜は、CVD法又はALD法など、周知の成膜処理によって成膜されれば良い。本例では、シリコン原料ガスとしてジクロロシラン(DCS:SiH
2Cl
2)ガス、窒化剤含有ガスとしてアンモニア(NH
3)ガスを用いたALD法によってシリコン窒化物膜を成膜する。例えば、まず、ジクロロシランガスを加熱装置134により加熱された処理室101の内部に供給する。これにより、半導体ウエハWの被処理面上に原子層レベルの薄いシリコン膜を形成する。次いで、不活性ガスを用いて、処理室101の内部をパージする。次いで、アンモニアガスをプラズマ励起させてアンモニアラジカルを生成し、アンモニアラジカルをシリコン膜と反応させる。これにより、シリコン膜が窒化されてシリコン窒化物膜が形成される。次いで、不活性ガスを用いて、処理室101の内部をパージする。このような成膜サイクルを複数回繰り返すことで、設計された膜厚を持つシリコン窒化物膜3が半導体ウエハWの被処理面上に形成される。
【0053】
なお、この成膜処理の際、処理室101の内部に配置され、粗面シリコン膜2で被覆されているパーツ上にも、シリコン窒化物が堆積し、シリコン窒化物膜が形成される(
図4C参照)。
【0054】
次に、ウエハボート105を処理室101の内部から引き出すことで、半導体ウエハWが処理室101の内部から搬出される。
【0055】
以上で、この発明の第1の実施形態に係るパーツ保護方法を適用した成膜装置100、及びこの成膜装置100を用いたシリコン窒化物膜の成膜が終了する。
【0056】
このような第1の実施形態に係るパーツ保護方法によれば、石英製のパーツの表面を、シリコン窒化物膜が堆積される前に、パーツ保護被膜である粗面シリコン膜2によって被覆する。このため、シリコン窒化物膜が堆積することに起因した、石英製のパーツの表層部分の剥がれ、及びクラックの発生を抑制することができる。
【0057】
また、パーツ保護被膜の材質を、引張応力を持つシリコン窒化物膜に対し、反対の圧縮応力を持つシリコンとする。このため、パーツの表面上にシリコン窒化物膜が堆積されても、上述したようにシリコン窒化物膜が持つ応力を緩和することができる。
【0058】
さらに、第1の実施形態によれば、パーツ保護被膜を、表面の起伏が大きい粗面シリコン膜2とする。このため、シリコン窒化物膜が持つ応力を分散させてさらに緩和することができる。よって、パーツ保護被膜を粗面膜、例えば、粗面シリコン膜とした第1の実施形態によれば、パーツ保護被膜として表面が平坦なシリコン膜を使用した場合に比較して、応力を緩和させる効果がさらに向上する、という利点も得ることができる。
【0059】
粗面シリコン膜2の表面の平坦度としては、応力を分散させてさらに緩和する、という観点から、平均面粗さで3.1〜5nm程度が適切で良いであろう。そして、粗面シリコン膜2の平均膜厚としては、10〜30nm程度が適切で良いであろう。このためには、粗面化前のシリコン膜2aを、5〜10nm程度の膜厚として形成されれば良いであろう。
【0060】
なお、表面に微小な凹凸を持つ膜の一種として多結晶膜、例えば、多結晶シリコン膜がある。このため、パーツ保護被膜としては多結晶シリコン膜を使用することも可能である。ただし、多結晶シリコン膜の表面の一般的な平坦度は、平均面粗さで2〜3nm程度である。このため、応力をさらに緩和させたい場合には、粗面シリコン膜2を用いる方が有利である。例えば、パーツ保護被膜の面平均粗さが、多結晶シリコン膜の、上記平均面粗さを超えれば、パーツ保護被膜として多結晶シリコン膜を使用した場合に比較して、応力を緩和させる効果は、より向上する。
【0061】
また、粗面シリコン膜2の表面の起伏をさらに増加させたい場合には、粗面化処理の前に形成されるシリコン膜2aを、アモルファス状態を含んで形成すると良い。シリコン膜2aがアモルファス状態を含んでいれば、例えば、結晶化が進んでいる多結晶状態に比較して、表面の流動性が良くなる。このため、粗面化処理の際に、シリコンの凝集が促進され、粗面シリコン膜2の表面の起伏をより大きくすることができる。粗面シリコン膜2の表面の起伏を大きくできると、粗面シリコン膜2上に堆積されるシリコン窒化物膜の応力を分散させる効果をさらに高めることができる。なお、上述処理条件により成膜されたシリコン膜2aは、アモルファスシリコン膜を含んだ状態で形成される。
【0062】
また、シリコン膜2aの表面を粗面化する方法としては、スパッタリングやサンドブラスト等でシリコン膜2aの表面をたたき、その表面に凹凸をつける、という方法もある。しかし、成膜装置100の処理室101の内部には、スパッタリング機構やサンドブラスト機構は存在しない。また、スパッタリング機構やサンドブラスト機構を、処理室101の内部に取り付けることも非現実的である。
【0063】
その点、パーツの表面上にシリコン膜2aを形成した後、処理室101の内部の圧力を下げてシリコン膜2aの表面部分のシリコンを凝集させ、シリコン膜2aの表面に凹凸をつける、という方法によれば、スパッタリング機構やサンドブラスト機構を処理室101の内部に取り付ける必要がない。しかも、成膜装置100に元来備えられているシリコン原料ガス供給機構115、排気機構133、及び加熱装置134等を利用するだけで、処理室101の内部に配置されたパーツの表面上に粗面シリコン膜2を形成できる。もちろん、粗面シリコン膜2や、粗面シリコン膜2の上に形成された薄膜、本例ではシリコン窒化物膜3を粗面シリコン膜2とともに、ドライクリーニング法を用いてエッチングすれば、パーツを初期化することもできる。
【0064】
このような第1の実施形態によれば、パーツの表面を直接に、表面に起伏があるパーツ保護被膜によって被覆することで、パーツ上への薄膜の堆積が進行しても、成膜装置100のパーツが傷ついてしまうことを抑制することが可能な成膜装置のパーツ保護方法を得ることができる。また、そのパーツ保護方法を含むことで、処理室101の内部においてパーティクルの発生を抑制しつつ、薄膜を成膜することが可能な成膜方法を得ることができる。
【0065】
(第2の実施形態)
第1の実施形態は、イニシャル状態の成膜装置100のパーツの表面上に対して、シリコン窒化物膜を成膜する前に、パーツ保護被膜を形成する例であった。しかし、パーツ保護被膜は、シリコン窒化物膜を成膜した後に形成することも可能である。第2の実施形態は、そのような例である。
【0066】
図5はこの発明の第2の実施形態に係るパーツ保護方法の一例を示す流れ図である。
図6A〜
図6Cはパーツの一部分を拡大して模式的に示した断面図である。
【0067】
最初に、成膜装置100を用いたシリコン窒化物膜の成膜処理を行う(ステップ2a)。成膜装置100としては、イニシャル状態のものであっても、例えば、シリコン窒化物膜の成膜処理を少数回(約1〜5回)行ったものであってもどちらでもよい。本例では、イニシャル状態の成膜装置100とする。シリコン窒化物膜の成膜処理のためには、成膜処理される半導体ウエハWをウエハボート105に載置する。次いで、半導体ウエハWが載置されたウエハボート105を、処理室101の内部に収容する。
【0068】
次に、処理室101の内部において、例えば、第1の実施形態において説明した処理条件を用いて、シリコン窒化物膜の成膜処理を行う。これにより、シリコン窒化物膜3aが、処理室101の内部に配置された石英製のパーツ1の表面上に形成される(
図6A参照)。本例の石英パーツ1は、処理室101の内壁表面、天井板102の内壁表面、支柱106を含むウエハボート105の外周表面、保温筒107の外周表面、窒化剤含有ガス分散ノズル120aの外周表面、シリコン原料ガス分散ノズル120b及び120cの外周表面、不活性ガス導入ノズル120dの外周表面、及びプラズマ区画壁125の内壁表面である。シリコン窒化物膜3aは、これらのパーツ1のそれぞれの上に形成される。
【0069】
次に、ウエハボート105を処理室101の内部から引き出し、半導体ウエハWを処理室101の内部から搬出する。これにより、成膜装置100を用いた成膜処理が終了する。
【0070】
この後、
図5のステップ1aに示すようにパーツ保護処理を行う。まず、成膜処理を行った成膜装置100を準備する(ステップ11a)。次いで、成膜処理を行った成膜装置100の処理室101の内部に、ウエハWを載置していないウエハボート105を収容する(ステップ12a)。ウエハボート105は、ステップ2aにおいて成膜処理に1回使用されたものである。
【0071】
次に、処理室101の内部に配置された石英製のパーツの表面上に、パーツ保護被膜を形成する(ステップ13a)。本例においては、処理室101の内部に配置され、シリコン窒化物膜3aが形成された石英製のパーツの表面上に、パーツ保護被膜を形成する。本例においては、第1の実施形態と同様な処理条件で、シリコン窒化物膜3aが形成された石英製パーツの表面上にシリコン膜2aを形成する(ステップ131a)。次いで、シリコン膜2aを、第1の実施形態と同様な処理条件で、粗面化処理する(ステップ132)。これにより、パーツ保護被膜としての粗面シリコン膜2がシリコン窒化物膜3a上に形成される(
図6B参照)。
【0072】
この後、パーツ保護処理が終了した成膜装置を用いた成膜処理を行う(ステップ2)。成膜処理の条件は、例えば、ステップ2aにおける成膜処理の条件と同様でよい。この成膜処理によって、粗面シリコン膜2上には第2層目のシリコン窒化膜3bが形成される(
図6C参照)。
【0073】
図7は、シリコン窒化物膜の応力を示す図である。
【0074】
図7には、半導体ウエハ(Si-Sub)をパーツに見立て、半導体ウエハ上に、膜厚が100nmのシリコン窒化物膜(SiN)を形成したサンプル(I)の応力と、膜厚が50nmの2層のシリコン窒化物膜(SiN)の間に平均膜厚が10nmの粗面シリコン膜(Rugged Si)を形成した積層膜を形成したサンプル(II)の応力とが示されている。サンプル(I)は50nmの成膜を2回行った場合に相当し、サンプル(II)は、本第2の実施形態に相当する。
【0075】
図7に示すように、サンプル(I)の応力は1256MPaであるのに対し、サンプル(II)の応力は1049MPaであり、応力が緩和されている。
【0076】
このように、シリコン窒化物膜とシリコン窒化物膜との間に粗面シリコン膜を挟むようにすることによっても、シリコン窒化物膜の堆積を累積していく場合に比較して、応力を緩和することができる。
【0077】
よって、第2の実施形態においても、パーツの表面上に堆積される薄膜の間に、粗面膜を挟む、又は挟んでいくようにすることで、第1の実施形態と同様に、パーツ上への薄膜の堆積が進行しても、成膜装置100のパーツが傷ついてしまうことを抑制することが可能な成膜装置のパーツ保護方法を得ることができる。また、そのパーツ保護方法を含むことで、処理室101の内部においてパーティクルの発生を抑制しつつ、薄膜を成膜することが可能な成膜方法を得ることができる。
【0078】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1の実施形態と第2の実施形態とを組みわせた例であり、実使用に際してより有効となるパーツ保護方法の一例である。
【0079】
成膜装置100による成膜処理は、パーツ保護被膜を形成した後も複数回繰り返される。成膜処理の都度、石英製のパーツ上には、薄膜、例えば、シリコン窒化物膜の堆積が累積されていく。そこで、第3の実施形態は、薄膜、例えば、シリコン窒化物膜の堆積回数に応じて、さらにパーツ保護処理を実施する例である。
【0080】
図8は、この発明の第3の実施形態に係るパーツ保護方法の一例を示す流れ図である。
【0081】
図8に示すステップ3において、成膜装置100がイニシャル状態か否かを判断する。イニシャル状態であれば(YES)、ステップ1に進み、
図3及び
図4A〜
図4Bを参照して説明したパーツ保護処理(
図3のステップ1)を行う。この後、ステップ2bに進み、パーツ保護処理が終了した成膜装置を用いた成膜処理、又は成膜処理が終了した成膜装置を用いた成膜処理、本例では、シリコン窒化物膜の成膜を行う。なお、ステップ2bにおける成膜処理の条件は、例えば、第1の実施形態のステップ2と第2の実施形態のステップ2aにおける成膜処理の条件と同様でよい。
また、反対にイニシャル状態でなければ(NO)、ステップ4に進む。
【0082】
ステップ4においては、パーツ保護処理を必要とする堆積回数か否かを判断する。パーツ保護処理が必要であれば(YES)、ステップ1bに進み、
図5及び
図6Bを参照して説明したパーツ保護処理(
図5のステップ1a)を行う。この後、ステップ2bに進み、上述したように、シリコン窒化膜の成膜を行う。
また、反対にパーツ保護処理が必要でなければ(NO)、ステップ2bに進み、同様に、シリコン窒化膜の成膜を行う。
【0083】
次の成膜処理を行うには、
図8に示す“開始”から“終了”までのルーチンを繰り返せばよい。
【0084】
このように、薄膜、本例ではシリコン窒化物膜の成膜を1回以上行うごとに、第1、第2の実施形態において説明したパーツ保護処理を行うようにしても良い。
【0085】
このような第3の実施形態によれば、薄膜の成膜を1回以上行うごとに、第1、第2の実施形態において説明したパーツ保護処理を行うことで、成膜装置100が実際に稼働し、成膜処理を繰り返している期間、成膜装置100のパーツが傷ついてしまうことを抑制することが可能となる、という利点を得ることができる。また、そのパーツ保護方法を含むことで、処理室101の内部においてパーティクルの発生を抑制しつつ、薄膜を成膜することも可能となる。
【0086】
また、成膜処理に先立ち、成膜装置100がイニシャル状態か否かを判断するようにすることで、イニシャル状態である成膜装置100には、必ず第1の実施形態において説明したパーツ保護処理を行うことができる。
【0087】
(第4の実施形態)
図9は、この発明の第4の実施形態に係るパーツ保護方法の一例を示す流れ図である。
【0088】
図9に示すように、第4の実施形態が
図8に示した第3の実施形態と異なるところは、ステップ1、及びステップ1bに示すパーツ保護処理の後、ステップ5に示すように、プリコート処理を行うようにしたことである。それ以外は、第3の実施形態と同様である。
【0089】
パーツ保護被膜として粗面シリコン膜2を形成し、成膜される薄膜としてシリコン窒化物膜3(3a、3b)を形成したとする。この場合、処理室101の内部に配置された石英製のパーツの表面の材質が、パーツ保護被膜を形成した直後と、成膜処理を行った直後とでは異なることになる。パーツ保護被膜を形成した直後はシリコン(Si)であり、成膜処理を行った直後はシリコン窒化物(SiN)である。このため、パーツ保護被膜を形成した直後に形成されたシリコン窒化物膜3(3a、3b)と、シリコン窒化物膜3(3a、3b)を形成した直後に形成されたシリコン窒化物膜3(3a、3b)とでは、膜質が微妙ながらも異なってくる可能性がある。もし、膜質が微妙ながらも異なっている場合には、ウエハ間での、シリコン窒化物膜3(3a、3b)の膜質の均一性のばらつきが拡大する可能性がある。
【0090】
この点、本第4の実施形態においては、ステップ1、及びステップ1aに示すパーツ保護処理の後、ステップ5に示すようにプリコート処理を行い、粗面シリコン膜2を、成膜される薄膜と同じ材質の被膜で覆う、本例ではシリコン窒化物被膜で覆うようにする。これにより、パーツ保護被膜を形成した直後と、成膜処理を行った直後とで、処理室101の内部に配置された石英製のパーツの表面の材質を同じとすることができる。
【0091】
よって、第4の実施形態によれば、第1〜第3の実施形態と同様な利点を得ることができるとともに、ウエハ間での、成膜される薄膜、本例においてはシリコン窒化物膜3(3a、3b)の膜質の均一性のばらつきが拡大することを、さらに抑制することができる、という利点を得ることができる。
【0092】
以上、この発明をいくつかの実施形態に従って説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0093】
例えば、上記実施形態においては、バッチ式の成膜装置を例示したが、成膜装置はバッチ式に限られるものではなく、枚葉式の成膜装置であっても良い。
【0094】
また、上記実施形態においては、成膜装置100として、一つの下端が開口された有天井の円筒体状の処理室101によって複数の半導体ウエハWに一括して成膜処理を施す処理空間を形成する例を示した。しかし、成膜装置はこれに限られるものではない。例えば、有天井の円筒体状の石英製の外壁と、外壁の内側に設けられ、円筒状の石英製の内壁とを備え、この内壁の内側を複数の半導体ウエハWに一括して成膜処理を施す処理空間とし、外壁と内壁との間の空間を排気路とするような成膜装置にも、上記実施形態は適用可能である。
【0095】
さらに、上記実施形態においては、成膜装置100はプラズマ生成機構124を有していたが、もちろんプラズマ生成機構124は無くても良い。この場合は、熱CVD成膜装置、又は熱ALD成膜装置となる。
【0096】
また、窒化剤含有ガス分散ノズル120aの内側及び不活性ガス導入ノズル120dの内側や、窒化剤含有ガス分散ノズル120aのガス吐出孔121aの内周面及び不活性ガス導入ノズル120dのガス吐出部の内周面にも、僅かながらもシリコン窒化物が堆積されることがある。この僅かなシリコン窒化物の堆積が、窒化剤含有ガス分散ノズル120aや不活性ガス導入ノズル120dに悪影響を与える場合には、パーツ保護被膜、上記実施形態では粗面シリコン膜2を形成するとき、シリコン原料ガス供給源118bから、窒化剤含有ガス分散ノズル120a及び不活性ガス導入ノズル120dにもシリコン原料ガス、例えば、モノシランガスを供給するようにする。このようにして、窒化剤含有ガス分散ノズル120aの内側及び不活性ガス導入ノズル120dの内側、並びに窒化剤含有ガス分散ノズル120aのガス吐出孔121aの内周面及び不活性ガス導入ノズル120dのガス吐出部の内周面にも、粗面シリコン膜2が形成されるようにすることで、上記悪影響については解消することができる。
その他、この発明はその要旨を逸脱しない範囲で様々に変形することができる。