【課題を解決するための手段】
【0009】
従って本発明の目的は、ミラーに生成される熱を特に良く放出して、過熱を確実に回避することのできるミラーアレイを有する、投影露光装置を提供することである。
【0010】
(さらに分割される固体関節)
本発明の第1の態様によれば、本目的は、基体と複数のミラーユニットを有するミラーアレイを持つマイクロリソグラフィー投影露光装置によって達成される。各ミラーユニットは、ミラーおよび固体関節を備え、この固体関節は、ミラーを基体に連結させ、曲がり面で曲がることのできる、少なくとも1つの関節部を有している。制御装置により、個々のミラーの基体に対する配列を変えることができる。本発明の第1の態様によれば、関節部は、関節部の曲げ剛性を低減するために、曲がり面で相互に間隔をあけて配置される複数の関節素子に、さらに分割される。
【0011】
関節素子の間の間隔は非常に小さくてもよい。隣接する関節素子の間の小さな間隙には、液体または気体を充填してもよい。これらの間隔はとても小さいので、隣接する関節素子は、相互に僅かに接触することもある。曲がり面は一般に、ミラーがその周囲を回転することのできるスイベル軸に対して垂直に配置される。
【0012】
本発明のこの態様は、固体関節が使用される際に、熱伝導によってミラーから熱を放出することのできる構成要素がすでに利用できるという考えに基づくものである。固体関節を使ってミラーから熱を放出させるのは有利である、というのも、他のタイプの関節とは異なり、固体関節には、熱伝達の妨げとなる、気体または液体の充填された間隙がないからである。固体関節の関節部は、しかしながら、一般にとても繊細な設計でなければならない、というのも、そうでなければ所望される屈曲特性が達成できないからである。
【0013】
本発明によって、関節部を複数の相互に分離されたより小さな関節部へさらに分割することにより、屈曲特性を著しく変えることなく、熱流束に利用できる関節部の全断面積を増やすことができる。これは、曲がり面で、ロッドを相互に間隔をあけて配置される複数の薄いサブロッドにさらに分割することから知られている効果を利用したものである。
ロッドをさらに分割すると、その曲げ強さが低減される。さらに分割した後に曲げ強さを一定に保つことを意図するのであれば、さらに付加的なサブロッドを追加し、全断面積および、従って、熱伝達可能な熱流束を増やす。
【0014】
一実施形態では、関節素子は少なくとも本質的に相互に平行に配置される。しかしながらしばしば、平行からの逸脱は、個々の関節素子に作用する力を相互により良く適応させるために役立つ。
【0015】
別の実施形態では、関節素子は、ロッド状またはプレート状である。ロッドとプレートは明確に定義された屈曲特性を持ち、よって、関節素子として特に適切である。
【0016】
固体関節を構成するために、2つの関節素子を相互に対向させながらミラーに係合することができる。ミラーは、関節素子の係合点によって確立されるスイベル軸の周りを、両方向に回転することができる。
【0017】
基体および複数のミラーユニットを備えるミラーアレイを有する、マイクロリソグラフィー投影露光装置を開発するための、本発明による方法であって、ミラーユニットの各々は、ミラー、該ミラーを基体に連結する、少なくとも1つの関節部を有する固体関節、および基体に対する個々のミラーの配列を変えることのできる制御装置を持ち、
i)関節部が持っていなくてはならない曲げ剛性を確立するステップ;
ii)関節部が持っていなくてはならない熱伝導性を確立するステップ;
iii) ステップii)で確立される熱伝導性を達成するために、関節部が持っていなくてはならない全断面積を確立するステップ;および
iv)全てのセットの関節素子がステップi)で確立される曲げ剛性およびステップiii)で確立される全断面積を持つように、関節部を形成する多数の相互に離れた関節素子を確立するステップ
を含む。
【0018】
(付加的な熱伝導素子)
本発明の別の態様によれば、冒頭部分に述べた目的は、基体および複数のミラーユニットを有するミラーアレイを持つ、マイクロリソグラフィー投影露光装置によって達成される。各ミラーユニットは、ミラーおよび制御装置を備え, 制御装置によって、基体に対する個々のミラーの配列を変えることができる。本発明によれば、これらのミラーユニットは熱伝導素子を有し、これらはミラーの軸受に貢献せず、ミラーに連結され、基体の方向に延在して、熱が熱伝導素子から基体に伝達されるようにする。
【0019】
本発明のこの態様は、ミラーから基体への熱輸送は、関節の一部ではない付加的な熱伝導素子の助けによって向上させることができるという考えに基づいている。
【0020】
最大の熱流束は、熱伝導素子が基体に連結される時に達成される。この場合、熱伝導素子は、無視できるほどに小さな曲げ強さを持つ、従ってミラーの回転動作を妨げない、フレキシブル繊維またはフレキシブルベルトとして使用してもよい。それでも例えば数百という十分な量のこのような熱伝導素子を使うと、全体を熱流束が通ることのできる、かなりの全断面積を提供することができる。
【0021】
しかしながら、熱伝導素子を基体に連結せずに、好適には、流体で充填した、またはそれを通って流体が流れる、最大限に小さな間隙を通って熱を移動させて、基体に到達させるようにすることも可能である。例えば、熱伝導素子を本質的に剛体の棒として使用することが考えられる。少なくとも本質的に剛体のカウンター素子は、よって、基体から突出し、ミラーの配列を変える時でさえも、間隙によってのみ熱伝導素子から分離される。
【0022】
すでに述べた様に、固体は一般に気体よりも熱伝導性が高いので、間隙の幅はできるだけ小さくなくてはならない。これは、EUV投影露光装置特には必要だが、気体圧の大変低い場合に特にあてはまる。これらの場合には、間隙はミラーの反射面の最大寸法の10分の1以下の間隙幅を持っていなくてはならない。
【0023】
別の実施形態では、棒およびカウンター素子は、ミラーおよび基体上にそれぞれ配置され、相互に櫛状に係合される。このような配置は有利である、というのもそれは全体的に、それを通って熱を棒からカウンター素子に伝達することのできる、大きな表面積を提供するからである。
【0024】
棒とカウンター素子がシリンダ壁セグメントの形状に構成され、同心円状に配置される場合には、ミラーが基体に対して回転しても、間隙幅は一定のままであることができる。
【0025】
特にシリコン、シリコン化合物、特に炭化ケイ素、炭素または金属、特に銅、銀または金は、熱伝導素子の材料として考えることができる。これらの材料は特に高い熱伝導性を持ち、精密機器で十分に処理することができる。
【0026】
制御装置が棒を静電的に帯電することのできる電源を持つ場合には、棒を静電駆動を提供するためにも使用することができる。
【0027】
(流体冷却)
本発明の別の態様によれば、冒頭部分に述べた目的は、ミラーアレイを備えるマイクロリソグラフィー投影露光装置によって達成される。ミラーアレイは基体と複数のミラーユニットを有し、ミラーユニットの各々は、ミラーと制御装置を有し、制御装置によって、基体に対する個々のミラーの配列を変えることができる。本発明によれば、ミラーユニットはそれぞれ、ミラーと基体の間の体積部分を密閉的に定める、フレキシブルシール手段を有する。
【0028】
本発明のこの態様は、特にEUV投影露光装置において、ミラーの冷却に大きく貢献することのできるような、ミラーを取り囲む高レベルの気体圧を選択することはできないという考えに基づいている。DUV投影露光装置でさえも、ミラーを液体に浸すのは問題がある。
【0029】
それでも発明的に、フレキシブルシール手段によって密封的に定められる体積部分をミラーと基体の間に提供することにより、この体積部分を気体または液体で充填するか、または、気体または液体を、ミラーの冷却に大きく貢献するように、それを通して流すことができる。
【0030】
最も単純な場合には、体積部分を、一度かまたは長い間、そこに留まっている液体またはガス状流体で充填する。それから、静止流体の中で本質的には熱伝導によって、熱流束が提供される。
【0031】
さらに高い冷却力は、熱輸送が最初に対流によって起こるように、流体が体積部分を循環する場合に達成される。この目的のために、体積部分は入口と出口を有することができる。例えばポンプや熱交換器を含むことのできる循環装置は、体積部分で流体を循環するために、ミラーユニットに割り当てられる。
【0032】
シール手段が、隣接するミラーを相互に連結するフレキシブルシール片を備える場合には、流体密閉の体積部分を、ミラーの下の空間全体および残りのシール手段に延在させてもよい。それを介してミラーが流体に接触し、それによって放熱することのできる領域は、それに応じて大きくなる。
【0033】
流体が気体である場合には、流体は、シール手段の反対側に存在する気体よりも、好適には、体積部分においてより高い圧力を持つ。これは、気体の熱伝導性は圧力が上がると堅調に増大するという事実を利用したものである。気体圧の増加は、対流による熱輸送の場合に、冷却力に好適な効果を持つ。
【0034】
別の実施形態では、シール手段はベローズである。このミラーユニットは、好適には、各自由度に対して2つのベローズを持ち、これらのベローズは相互に対向して配置される。これによって、ミラーを回転させる際には、対称力の状態が提供される。
【0035】
ベローズが最小限の抵抗での回転に対抗できるように、ベローズを連結して流体的につながるようにしてもよい。このような状況においては、例えば、2つのベローズを、ミラーに延在するチャネルで連結することは、実行可能である。
【0036】
ベローズによって囲まれた流体体積を変更するために、制御装置が装置、具体的には置換可能なピストンまたはポンプを有する場合には、基体に対するミラーの配列を変更することのできる作動手段として、ベローズを使用することができる。よって付加的なアクチュエータを取り除くことができる。
【0037】
(滑り軸受)
本発明の別の態様によれば、冒頭部分に述べた目標は、ミラーアレイを備えるマイクロリソグラフィー投影露光装置によって達成される。ミラーアレイは、基体と複数のミラーユニットを有し、ミラーユニットの各々は、ミラーおよび制御装置を持ち、この制御装置によって、基体に対する個々のミラーの配列を変更することができる。本発明によれば、ミラー、基体または基体に連結されるミラー支持体の相互に対向する表面は、滑り軸受の対応する滑り表面として使用される。
【0038】
本発明のこの態様は、滑り表面の間の間隙を通る熱伝達が妨げられても、全体の達成可能な流速が十分なものであるように、滑り軸受で相互に関係する表面は、固体関節と比べると比較的大きいという考えに基づいている。
【0039】
この熱伝達は、少なくとも一つの滑り表面に、潤滑および/または耐摩耗被覆、具体的にはメタライゼーションまたはダイヤモンド被覆が行われている場合に、増やすことができる。このような被覆は、滑り表面の間の接触領域を増やし、これによって熱伝達を向上させる。
【0040】
熱流束の大幅な向上は、ペーストまたは流体、具体的には液体で少なくとも一部が充填された運動間隙が対応する滑り表面の間に形成される場合に、達成することができる。液体またはペーストは、熱流束を制限するかなり大きなガス充填キャビティが運動間隙に形成されないようにする。
【0041】
特定の状況においては、しかしながら、熱流束の増加は、ガスの充填された運動間隙によっても達成することができる。例えば、気体が高圧の場合、その熱伝導性は大幅に増える。本明細書では、高圧とは、それを投影光が通る、装置の空間に広がる標準作動圧の1.5倍以上のあらゆる圧力を意味する。気体の流れが運動間隙を通って供給される場合、それは熱を対流的に放出させることができる。
【0042】
有利な実施形態では、制御装置は、運動間隙の幅の変動調整のために使用される。このようにして、例えば、運動間隙をできるだけ小さく保つことができ、それによって、ミラーの停止時に熱流束が増える。ミラーを回転することを意図する場合には、より良い滑り特性を達成するために、運動間隙の幅を直前に増やす。運動間隙に含まれる流体の種類に応じて、滑り表面の間に広がる適用圧力の変動を調整することによって、同様の効果を達成することもできる。
【0043】
基体またはミラー支持体の滑り表面が、流体がそこから運動間隙の中に流れ込む少なくとも1つの出口開口を持つ場合には、さらなる向上が得られる。運動間隙に流れ込む流体によって、対流によるさらなる放熱が可能となる。
【0044】
流体を再度排出するために、基体またはミラー支持体は、運動間隙内を循環する流体が、そこを通って運動間隙から流出することのできる、流体用の少なくとも1つの入口開口を有することができる。
【0045】
運動間隙に流体を適切に送出することにより、運動間隙内の流体の流れ方向を変えることができる。これは、ミラーにトルクを与え、それによってミラーを回転させるために使用することができる。
【0046】
好適には、この目的のために、基体またはミラー支持体の滑り表面は、相互に直径方向に対向して位置する、少なくとも2つの流体の出口開口を有する。どちらの開口から流体が出てくるかによって、回転運動はどちらかの方向に生じる。
【0047】
流体がミラーに与えることのできるトルクを増やすために、ミラーの滑り表面に、流体に対する抗力を増やす構造を設けてもよい。このような構造は、例えば、流れ方向に対して横方向に延在する棒または溝であってもよい。
【0048】
ミラーとミラー支持体の間に残る間隙から流体が出てくるのを防止するシールを、さらに設けてもよい。
【0049】
基体またはミラー支持体には、ミラーに対して予め応力をかけてもよい。
【0050】
上述の本発明の態様は、相互に非常に実質的に組合せてもよいことを理解されたい。例えば、軸受の種類に関係なく、ミラーから基体に延在する付加的な熱伝導素子を常に設けてもよい。さらに、軸受の種類に関係なく、フレキシブルシール手段を使って、流体冷却を提供してもよい。
【0051】
上述の本発明の全ての態様を有利に使用することのできる、さらなる変形を下記に記載する。
【0052】
このように、制御装置は、例えば、具体的にはピエゾまたは超音波モーターなどの、ミラーに対して可動に配置される、少なくとも1つの運動変換器を備えてもよい。
【0053】
運動変換器は、停止状態でミラー部に平面を有することができる。具体的には、ミラーと運動変換器は、球体キャップセグメントの形状の、対応する接触表面を有することができる。接触表面の球の中心は、ミラーの光学中心のすぐ近く、または少なくともすぐ近くに配置することができる。光学中心とう用語は、装置の操作中に光が実際に当たるミラーの領域のことを言う。従って光学中心は、必ずしも幾何学的な中心と一致しなくてもよい。
【0054】
この場合ミラーは、曲げ弾性およびねじり剛性を持つバネ素子を介して基体に連結することができ、この場合、ネジ素子は具体的には(金属)ベローズとして設計してもよい。ネジ素子には、ミラーの中立設定および偏位設定の両方で、予め弾性的に応力がかけられ、流体、具体的には液体で充填される。
【0055】
また好適には、ミラーは、ミラーの反射面に位置する、または少なくともほぼ位置する、スイベル軸の周りを回転することができる。これにより、ミラーの回転運動の場合においても、ミラーのシャドーイングは確実に最小になる。
【0056】
さらに好適には、ミラーの配列を決めるセンサー装置は、制御装置に割り当てられる。
【0057】
本発明は、25nmよりも短い波長、具体的には約13.5nmの波長を持つ光を生成するために放射光源が適応される場合に、特に有利に使用することができる。これらの波長では、光は非常に低い気体圧の体積のみを通らなくてはならない。気体は低圧ではほんの僅かしか熱を伝導しないので、本発明による解決策は、ミラーの冷却に特に有利な効果を持つ。
【0058】
上述の解決策は、複数のミラーユニットを持つアレイだけではなく、複数の制御ユニット(アクチュエータ)の助けで変形することのできる適応ミラーを含む、マイクロリソグラフィー投影露光装置でも有利に使用することができる。このような適応ミラーは、個々のミラーが反射性材料片によって連結される、複数のミラーのアレイとみなすことができる。ミラーユニットは、本質的には(共通の)ミラーの形状を変えることのできる、制御ユニットから成る。ミラーアレイは、制御ユニットのアレイに対応し、基体および基体に固定される複数の制御ユニットを持ち、制御ユニットは、ミラーに係合し、それによってミラーの形状を変えることができる。
【0059】
さらに、用途の別の可能な分野は、より大きく、そして必ずしも適応的に調整可能でない個々のミラーの配列を変えることのできる投影露光装置を含む。EUV投影対物光学系に関しては、例えば、磁気的に取り付けられ、よって関節なしで、熱伝導によって放熱に貢献することのできるミラーが提案されてきた。上述の解決策のほとんどは、このような「浮いている」、すなわち少なくとも一部が物理的に支持されないミラーにも、有利に使用することができる。請求項では、ミラーアレイは、ミラーおよび基体に対するミラーの配列を変えることのできる制御装置に置き換えられる。
【0060】
本発明のその他の特徴および利点は、下記の図面の助けを借りて、下記の好適な実施形態の説明の中に見つけることができるだろう。