【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
〔光触媒の調製例a〜g、p〜t〕
特定の複合金属硫化物を、固相法によって合成した。
具体的には、Cu
2 S(純度99%:高純度化学研究所社製)、Ag
2 S(純度99.9%:レアメタリック社製)、ZnS(純度99.9%:高純度化学研究所社製)、GeS
2 (純度99.9%:高純度化学研究所社製)を、それぞれ、x:(1−x):{(100+y
1 )/100}:{(100+y
2 )/100}(x、y
1 、y
2 の組み合わせは表1に従う。)となるよう用いて、これらをめのう乳鉢で混合した。次いで、この混合物を石英アンプルに真空封管後、550℃で10時間(x=1、y=15のものは650℃で10時間)で焼成することによって、粉末状の生成物〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を得た。
【0040】
【表1】
【0041】
得られた粉末状の生成物〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を、それぞれ、X線回折装置「MiniFlex」(Rigaku社製)を用いた粉末X線回折によってその結晶構造を調べたところ、いずれも、スタンナイト型構造に帰属する回折パターンを示すことから、ほぼ単一相が合成されていることが確認され、また、Agの含有割合の増加に伴って回折ピークが連続的に低角度側ヘシフトしたことから、CuおよびAgが均一の固相とされた固溶体の形成が確認された。
以下、粉末状の生成物〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を光触媒〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕という。
【0042】
〔光触媒電極の作製例a〜g、p〜t〕
光触媒〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を用いて、光触媒電極を作製した。
具体的には、光触媒〔a〕20mgに、アセチルアセトン50μLを加え、さらに純水100μLを加えて混合することにより触媒ペーストを調製し、
図1に従って、この触媒ペーストを、適当な大きさに切断したITO透明電極(東京三容真空社製;7Ω/□)(25)の導電面(25A)のメンディングテープ(住友スリーエム社製;厚さ58μm)を枠状に貼り付けることによって区画した領域上に塗布した。次いで、大気中にて300℃で2時間焼成処理をして光触媒部(21)を形成した後、ITO透明電極(25)の導電面(25A)上の光触媒部(21)を形成されていない部分にGa−In合金を塗布してオーミック接触部(26)を形成し、そこに伸縮チューブ(23)で被覆した銅線(24)を銀ペースト(藤倉化成社製)で接着し、アラルダイト(登録商標)(昭和高分子社製)でITO透明電極(25)と銅線(24)を接着し、最後に、光触媒部(21)が形成されていないITO透明電極(25)の露出部分をアラルダイト(登録商標)で覆うことにより、光触媒電極〔a〕を得た。
光触媒〔a〕の代わりに光触媒〔b〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を用いたことの他は同様にして、光触媒電極〔b〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を得た。
【0043】
〔水素生成装置(3極式)の作製例a〜g、p〜t:
実施例1〜3、参考例1〜4、比較例1〜5〕
得られた光触媒電極〔a〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を用いて、3極式の水素生成装置を作製した。
具体的には、
図3に示されるように、イオン交換膜(12)「Nafion(登録商標)R117」(DuPont社製)によってカソード室(13A)とアノード室(13B)に仕切られた3電極型H型セル(10)に、電解液(W)として0.1モル/LのK
2 SO
4 (関東化学社製;純度99.0%)溶液を満たし、カソード室(13A)に光触媒電極〔a〕(15)を設置すると共に、アノード室(13B)に白金からなる対極(CE)(17)を設置し、さらに、光触媒電極〔a〕(15)を設置した室に参照極(14)として飽和Ag/AgCl電極(東亜ディーケーケー社製)を設置し、これらをそれぞれ電圧印加手段(19)であるポテンショスタット「HZ−5000」(北斗電工社製)に、光触媒電極〔a〕(15)を陰極、対極(17)を陽極として電気的に接続することにより、
参考例1に係る水素生成装置〔a〕を作製した。
なお、白金からなる対極(17)は、詳細には、白金板に白金線をスポット溶接により接続し、さらに白金線と銅線を接続し、白金板以外の部分を熱伸縮チューブで覆ったものである。
光触媒電極〔a〕の代わりに光触媒電極〔b〕〜〔g〕、〔p〕〜〔t〕を用いたことの他は同様にして、
それぞれ、実施例1〜3に係る水素生成装置〔b〕〜
〔d〕、参考例2〜4に係る水素生成装置〔e〕〜〔g〕、
比較例1〜5に係る水素生成装置〔p〕〜〔t〕を得た。
【0044】
〔水素生成装置(2極式)の作製例c−2:実施例3−2〕
光触媒電極〔c〕を用いて、2極式の水素生成装置を作製した。
具体的には、
図2に従って、上記の水素生成装置(3極式)の作製例cにおいて、参照極を設けなかったことの他は同様にして、2極式の水素生成装置〔c−2〕を作製した。
【0045】
以下の測定実験において、光の照射は、下記のように行った。
・可視光の照射:300Wのキセノンランプ(ILC technology社製)からの光を、熱による寄与を抑えるために近赤外吸収フィルター「CCF−50S−500C」(シグマ光機社製)によって近赤外光を吸収させ、カットオフフィルター(HOYA社製)によって420nm以下の波長域の光を遮断し、球面平凸レンズ「SLSQ−60−150P」(シグマ光機社製)によって集光した光を、照射した。
・光の照射は、いずれも、光触媒電極の光触媒の塗布面と反対の面に光が入射するように行った。
・光の照射を断続的に行う場合、そのライトオンとライトオフの切り替えは、モーターに半円型のステンレス板を取り付けた自作のチョッパーによって行った。
また、測定実験の前処理として、電解液中の溶存酸素を除く目的で撹拌子によって撹拌しながら15分間窒素を用いてバブリングを行った。
【0046】
<Zn/Ge含有量による光吸収特性の変化>
(y
1 ,y
2 )=(0,0)、(15,0),(0,15),(5,5)、(10,10)、(15,15)、(20,20)、(30,30)である光触媒〔p〕〜〔r〕、〔a〕〜〔e〕について、それぞれ、紫外−可視−近赤外拡散反射スペクトル(DRS)を、紫外可視近赤外分光光度計「UbestV−570」(Jasco社製)を用いて拡散反射スペクトルを測定した。結果を
図4に示す。なお、得られた拡散反射スペクトルは、Kubelka−Munk法によって吸収モードに変換して示した。
なお、
図4において、(p)〜(r)、(a)〜(e)は、それぞれ、光触媒〔p〕〜〔r〕および〔a〕〜〔e〕についての拡散反射スペクトルを示す。
【0047】
図4の結果から、量論比((y
1 ,y
2 )=(0,0))、Znのみ過剰((y
1 ,y
2 )=(15,0))またはGeのみ過剰((y
1 ,y
2 )=(0,15))で合成された光触媒〔p〕〜〔r〕においては、波長600〜900nmに不純物や欠陥による吸収が確認された。つまり、これらにおいては優れたp型半導体特性を示さないものと思われる。一方、ZnおよびGeの両方を過剰((y
1 ,y
2 )=(5,5)〜(30,30))にして合成された光触媒〔a〕〜〔e〕においては、不純物や欠陥による吸収がなく、単一の吸収端が観察されることから、優れたp型半導体特性を示すものと思われる。そして、ZnおよびGeの過剰量について、ZnおよびGeの両方を量論比より15%以上過剰((y
1 ,y
2 )=(15,15)〜(30,30))にして合成された光触媒〔c〕〜〔e〕において、極めてシャープな立ち上がりの単一の吸収端が観察されることから、極めて優れたp型半導体特性を示すものと思われる。
【0048】
<Zn/Ge含有量による半導体特性の変化>
(y
1 ,y
2 )=(0,0)、(15,0),(0,15),(5,5)、(10,10)、(15,15)、(20,20)、(30,30)である水素生成装置〔p〕〜〔r〕および〔a〕〜〔e〕をそれぞれ用い、可視光を照射しながら掃引速度20mV/sでCV測定を行った。具体的には、ライトオンとライトオフを繰り返しながら0Vからスタートして、貴側に0.4Vまで掃引し、次に卑側に−1Vまで掃引し、再び貴側に0Vまで掃引した。結果を
図5および
図6に示す。
なお、
図5および
図6において、(p)〜(r)、(a)〜(e)は、それぞれ、水素生成装置〔p〕〜〔r〕および〔a〕〜〔e〕についてのCV曲線を示す。
【0049】
図5および
図6の結果から、ZnおよびGeの両方を量論比より15%以上過剰((y
1 ,y
2 )=(15,15))にして合成された光触媒〔c〕において、最も大きなカソード光電流が得られることが確認され、当該光触媒〔c〕が最も優れたp型半導体特性を示すことが明らかとなった。
【0050】
<Cu/Ag含有量による半導体特性の変化>
(y
1 ,y
2 )=(15,15)であって、x=0、0.25、0.5、0.75、1である水素生成装置〔s〕、〔t〕、〔f〕、〔c〕および〔g〕をそれぞれ用い、可視光を照射しながら掃引速度20mV/sでCV測定を行った。結果を
図7に示す。
なお、
図7において、(s)、(t)、(f)、(c)、(g)は、それぞれ、水素生成装置〔s〕、〔t〕、〔f〕、〔c〕、〔g〕についてのCV曲線を示す。
【0051】
図7の結果から、x=1、すなわちAgを含有しない光触媒〔g〕に係る水素生成装置〔g〕においては、+0.3V付近から立ち上がる大きなカソード光電流と、貴側の領域における大きなアノード暗電流が観察され、当該水素生成装置〔g〕における光触媒〔g〕が、p型半導体特性を有していることが明らかとなった。このアノード暗電流は、自己酸化反応によるものであると考えられる。
また、x=0.5、0.75、すなわちCuが多く含有された光触媒〔f〕、〔c〕に係るものにおいては、十分に大きなカソード光電流が観察されたことから、優れたp型半導体特性を示すことが明らかとなり、しかも、そのCuの含有量が増加するほど、大きなカソード光電流が得られる、すなわちより優れたp型半導体特性が得られることが判明した。さらに、これらのCuおよびAgを共に含む固溶体においては、Agを含有しないものに比べてアノード暗電流が抑制されており、このことから、これらのCuおよびAgを共に含む固溶体は、Agを含有しないものに比べて自己酸化に対し安定であることが明らかとなった。
一方、x=0、すなわちCuを含有しない光触媒〔s〕に係るものにおいては、カソード光電流とアノード光電流の双方が観察され、当該光触媒〔s〕が真性半導体特性を示すことが明らかとなった。
また、x=0.25、すなわちCuを含有するが極微量である光触媒〔t〕に係るものにおいては、わずかなアノード光電流およびカソード光電流が得られたことから、十分なp型半導体特性を示さないことが判明した。
【0052】
<カソード光電流の波長依存性>
(y
1 ,y
2 )=(15,15)であって、x=0.75である水素生成装置〔c〕について、それぞれ400nm、420nm、440nm、500nm、520nm、540nm、560nm、580nm、600nm、620nm、640nm以下の波長域の光を遮断するカットオフフィルターを介して可視光を照射すると共に参照極との間に−1.0Vの電位差を与えながら定電位電解測定(A1)を行った。また、まったく光を照射しない状態において定電位電解測定(A2)を行った。そして、(A1)で測定されるカソード電流値から(A2)で測定されるカソード電流値を引いた値を算出した。結果を
図8に示す。なお、
図8においては、光触媒〔c〕についての拡散反射スペクトルを共に示した。
【0053】
図8の結果から、カソード光電流が観察される波長と拡散反射スペクトルのピークの立ち上がりがほぼ一致したことから、得られたカソード光電流が、バンドギャップ励起によるものであることが明らかとなった。
【0054】
<光の照射時間に対するカソード光電流量の変化>
(y
1 ,y
2 )=(15,15)であって、x=0.75である光触媒〔c〕を用い、10時間にわたって、参照極との間に−1Vの電位差を与えると共に、可視光を照射しながら(光照射面積2.0cm
2 )定電位電解測定を行うと共に水素の生成量の測定を行った。水素の生成量の定量は、オンラインガスクロマトグラフにて行った。
水素の生成量は10時間で4.2μmolであった。
また、光をまったく照射しない状態において定電位電解測定を行った。
定電位電解測定の結果を
図9に示す。
図9において、c(ライトオン)が可視光を照射しながら測定した定電位電解測定の結果であり、c(ライトオフ)が光をまったく照射しない状態で測定した定電位電解測定の結果である。
【0055】
図9の結果から、長時間にわたって比較的安定的にカソード光電流が得られることが確認された。また、理論値(8.3μmol)よりも低い値ではあったが、水素の生成が確認されたことから、得られたカソード光電流が、水の還元反応によるものであることが判明した。
【0056】
<水の理論分解電圧よりも小さい外部バイアスの印加条件下におけるカソード光電流量>
(y
1 ,y
2 )=(15,15)であって、x=0.75である光触媒〔c〕による2極式の水素生成装置〔c−2〕を用い、対極との間に、−1.1Vの外部バイアスを印加すると共に可視光を照射しながら(光照射面積1.7cm
2 )定電位電解測定を行った。結果を
図10に示す。
【0057】
図10の結果から、水の理論分解電圧(1.23V)よりも小さい外部バイアスの印加条件下において、比較的安定的にカソード光電流が得られることが確認された。このことから、この光触媒〔c〕による水素生成装置〔c−2〕が水の分解のための光エネルギー変換系として機能することが明らかとなった。