【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
14mmolの(NH
4)
2Ce(NO
3)
6を60mlのH
2Oに溶解した溶液と、有機保護剤として14mmolのC
17H
33COOKを60mlのH
2Oに溶解した溶液を準備し、Ce塩溶液にZrO
2粉末をCe:Zr=1:9(モル比)の割合になるように混合した。上記2つの液体を合液し攪拌しながら、25wt%のNH
4OHを10ml加えて中和した。得られた分散体をろ過、洗浄し、フリーズドライを施し、CeO
2ナノ立方体がZrO
2に担持された材料を得た。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、ZrO
2を含まない点を除き、同様の手順でアンモニアを加えてCeO
2を沈殿させた。その後、沈殿物に200℃で48時間水熱処理を施して得た生成物を分離、洗浄、乾燥し、トルエン抽出を施して、CeO
2ナノ粒子を得た。
TEMによる状態分析で、5〜8nm程度の立方体CeO
2が得られたことを確認した。
【0040】
<触媒観察>
CeO
2ナノ粒子等の形状観察、寸法測定、及び面方位の特定は、透過型電子顕微鏡(TEM及びHR−TEM、日立製、H−9500、加速電圧300kV)で観察し決定した。なお、本明細書中において、粒径とは、特に断りのない限り、TEM観察画像により測定した粒子における最大直径をいう。
【0041】
実施例2:高温処理後のサンプルを評価するために、実施例1のサンプルを800℃で3時間焼成した。
比較例2:比較例1のサンプルを600℃で3時間焼成した。
【0042】
<観察結果>
図1中に、実施例2のCeO
2−ZrO
2粒子(
図1(a))、および比較例2のCeO
2粒子(
図1(b))のTEMによる観察結果を示す。実施例2のサンプルでは、粒径約100nmのZrO
2粒子上に粒径約5〜約15nmのCeO
2ナノ粒子が担持され、CeO
2ナノ粒子の多くは結晶自形を有していた。そして、その自形は立方体、直方体構造が多かった。
一方、比較例2のCeO
2自由ナノ粒子は、実施例2に係るサンプルよりも低温の600℃での熱処理にも関わらず、変質して粒径は粗大になり、結晶自形は不明瞭となっていた。
【0043】
実施例2と比較例2のそれぞれのサンプルについて、TEM画像解析により、各100個ずつ、セリアの、粒径、面方位の特定、粒径を観察しまとめた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
CeO
2自体は立方晶のため、{100}、{110}、{111}結晶面を有するが、立方体状CeO
2は{100}面から構成され、直方体状CeO
2は{100}、{110}から構成されると考えられる。
実施例2のサンプルでは、表1に示すように、ZrO
2上に担持されたCeO
2ナノ粒子の多くが、立方体状(32%)、あるいは直方体状(32%)の結晶自形を保持するのに対し(表1中右欄)、比較例2のサンプルである自由CeO
2ナノ粒子の多くは結晶自形を保持していない(62%:表1中左欄)。
【0046】
上記の観察から、ZrO
2を用いることの利点、すなわち、ZrO
2担体上に結晶自形を有するCeO
2ナノ粒子を生成させることで、自由状態のCeO
2ナノ粒子と比較して、立方体状および直方体状CeO
2ナノ粒子を生成確率を大きく高めることができていること、そしてさらには自由状態のCeO
2ナノ粒子と比較して、本来は熱耐久性が充分でない、立方体状および直方体状CeO
2ナノ粒子の変質を抑止できていることが判明した。
【0047】
実施例2のサンプルについて、ZrO
2担体とCeO
2ナノ粒子の界面をTEMにより、さらに詳細に観察すると、格子整合が起こっていることが確認できた(
図2)。すなわち、格子間隔の検討から、ZrO
2{100}面とCeO
2{100}面とが格子整合していることが判明したものである。さらに、格子整合のみならず、ZrO
2{100}面とCeO
2{100}面との界面近傍のCeO
2寄りの部分において、ZrのCeO
2への拡散による固溶体の生成も生じている様子が観察された。
【0048】
以上の結果から、何らかの理論に拘束されることを望まないが、実施例2のサンプルは、次のような生成プロセス、および構造的特徴を持つと推察される。すなわち、CeO
2ナノ粒子はZrO
2表面上でエピタキシャル成長によって生成し、下地のZrO
2の作用によって結晶自形を有し、さらに、ZrのCeO
2ナノ粒子への拡散によって固溶体が生成して、ZrO
2上のCeO
2ナノ粒子は、表面にCeO
2{100}面、{110}面が露出しているCeO
2シェル、固溶したCeO
2−ZrO
2コア、バルクCeO
2の3種類の構造を有していると考えられるものである。
【0049】
<昇温還元能測定>
酸素吸収能に着目した触媒性能評価として、改良TCD測定装置(メーカー名:(株)大倉理研、型番:BP−1S)を用いて、昇温還元能測定を行った。
実施例3:実施例1のサンプルを、800℃で20分間焼成後、評価した。
実施例4:実施例3のサンプルを、900℃で20分間焼成後、評価した。
【0050】
<昇温還元能測定結果>
実施例3のサンプルでは、約270℃、約500℃、約750℃当りから酸素脱離ピークを観測した(
図3(a))。約270℃におけるピークは、立方体状および直方体状表面CeO
2由来、すなわち、{100}面からなる立方体状ならびに{100}面および{110}面からなる直方体状のCeO
2粒子の外表面からの酸素放出によるものと推定され、これにより{111}面からなる自由CeO
2ナノ粒子よりも低温における酸素放出を達成していると考えられる。
そして、約500℃におけるピークは、CZ固溶体由来、すなわち、CZ固溶体中の小さなZrによる原子径を活かすことによって、原子径の大きい純粋なCe内部におけるより、Ceナノ粒子内部での遙かに高いO
2の拡散速度を達成できていると考えられる。
そして約750℃におけるピークは、バルクCeO
2由来、すなわち、CeO
2単独の特性に基づくピークと推定される。
【0051】
実施例4のサンプルについて、評価を行うと、さらなる高温処理後にも関わらず、実施例3のサンプルと同様に、良好な酸素脱離ピークを示した(
図3(b))。
以上の結果から、実施例4のサンプルは、結晶自形を保ったCeO
2ナノ粒子を多く含むことにより、高温処理後においても、低温から酸素放出能を発現できていることが確認された。また、実施例4のサンプルでは、さらなるCZ固溶体の生成により、約500℃における酸素生成脱離ピークがさらに深くなっていると推定される。
【0052】
実施例3,4の結果からわかるように、本発明の態様に係る担体は、立方体状および直方体状表面CeO
2由来、CZ固溶体由来、バルクCeO
2由来の3種類の構造を有することにより、驚くべきことに、単なる純粋なCeO
2ナノ粒子と比較して、遙かに広い温度範囲にわたり、酸素脱離ピークを有し、より高い全酸素脱離量を有することが判明した。
【0053】
<酸素吸着量測定(OSC)>
酸素放出能に着目した触媒性能評価として、測定装置(メーカー名:(株)大倉理研、型番:BP−1S)により、酸素パルス法を用いて、800℃で水素5体積%−アルゴン95体積%混合ガス流通下で20分間還元後、600℃でアルゴンガス流内に酸素をパルス状に導入して、酸素を吸着させることにより、酸素吸着量測定を行った。
実施例5:実施例1のサンプルを、800℃で20分間焼成後、評価した。
実施例6:実施例4のサンプルを、900℃で180分間焼成後、評価した。
実施例7:実施例1のサンプルを、600℃で180分間焼成後さらに1000℃で180分間焼成後、評価した。
実施例8:実施例1のサンプルを600℃で180分間焼成後に1wt%の白金(Pt)を担持させ、800℃で180分間焼成したサンプルを、さらに800℃で、20分間、水素5体積%−アルゴン95体積%混合ガス流通下で還元処理、その後600℃で20分間酸素処理を行った後に、評価した。
【0054】
<酸素吸着量測定結果>
表2に酸素吸収能評価(OSC)をまとめた結果を示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、実施例5〜8のサンプルは、いずれも2.5mL/g〜2.9mL/gと高い酸素吸着量を示した。
実施例5〜8のサンプルは、いずれも、理論値の約60%もの高い値を示した。これは、上記で説明した構造的特徴の1つであるZrO
2上のCeO
2ナノ粒子はコアが固溶CZになっている推定を裏付ける結果である。