特許第5798547号(P5798547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5798547排ガス浄化触媒用担体およびそれを用いた触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798547
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒用担体およびそれを用いた触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/10 20060101AFI20151001BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 23/66 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B01J23/10 AZAB
   B01J32/00
   B01J23/63 A
   B01J23/66 A
   B01J23/83 A
   B01J35/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-261582(P2012-261582)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-104451(P2014-104451A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】長尾 諭
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕人
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸一
(72)【発明者】
【氏名】南 充
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正邦
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−279546(JP,A)
【文献】 特開昭63−116741(JP,A)
【文献】 特開2012−223667(JP,A)
【文献】 小林克敏,他,CeO2ナノ粒子担持ZrO2複合触媒の合成と酸素吸蔵能評価,第55回日本学術会議材料工学連合講演会講演論文集,2011年10月19日,Page.57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/10−38/74
B01D 53/86−53/94
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CeOナノ粒子がZrO粒子上に担持されている排ガス浄化触媒用担体であって、前記CeOナノ粒子の少なくとも一つが、{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有し、かつCZ固溶体を含み、そして前記担体に含まれる、ZrのCeに対するモル比が、5以上、50以下であり、
前記ZrO粒子上の前記CeOナノ粒子の粒径が6nm以上、30nm以下であり、そして全CeOナノ粒子に対する、前記立方体状のCeOナノ粒子および前記直方体状のCeOナノ粒子のモル比が、0.3以上である、排ガス浄化触媒用担体。
【請求項2】
前記ZrO粒子と前記立方体状および直方体状CeOナノ粒子とが接する少なくとも一部において、前記ZrO粒子の{100}面と前記CeOナノ粒子の{100}面とが格子整合している、請求項1に記載の排ガス浄化触媒用担体。
【請求項3】
前記ZrO粒子の前記CeOナノ粒子に対するモル比が、5以上、20以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用担体。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒用担体を含む、排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記担体上に、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe、Niからなる群から選択された金属微粒子、および/またはそれらの酸化物、またはそれらの任意の組み合わせを担持する、請求項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア上にセリアを含む排ガス浄化触媒用担体、およびこれを用いた排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車や二輪車などのエンジンから排出される排ガスには、HC、CO、NOx等の有害成分が含まれている。これらの有害な排ガスを分解除去するために、活性種となるPt、Pd、Rh等の白金族元素を主成分とする触媒粒子を、セリア、アルミナ等の金属酸化物の担体に担持させた排ガス浄化用触媒が使用されており、例えば、理論空燃比(ストイキ)において排ガス中のCO、HC、NOxを同時に酸化・還元して浄化することができる三元触媒がよく用いられている。
【0003】
近年、世界的に自動車の排ガス規制が強化されてきており、LEVIIIやEURO6等の規制強化に対応するためのさらなる触媒性能の向上が求められている。また、上記のような三元触媒に限らず、工業用触媒等の触媒性能を向上し得る材料開発が求められている。
【0004】
そうした材料の中でも、セリアは、金属酸化物担体として3価と4価の間の酸化還元電位が低いために、雰囲気の酸素分圧が高いときは雰囲気中の酸素を吸収して4価となり、分圧が低いと3価となって酸素を雰囲気に放出する作用があることが知られている。この作用を利用すると酸素貯蔵が可能であり、触媒表面の酸素濃度を調整できることから、セリアを利用した触媒が開発されている。
【0005】
特許文献1は、高温下でも、その上に担持された活性種の粒成長を抑制するための、担体及び前記担体に担持された金属微粒子を備える触媒であって、前記担体が、{100}面及び{110}面からなるCeOナノロッドに活性種となる金属微粒子を担持させた触媒構成触媒(特許文献1の請求項1)を記載する。
【0006】
非特許文献1は、立方{100}面を有するセリウム酸化物のナノ結晶を用いることにより、150℃などの低温から酸素貯蔵能力(OSC)を発揮できる触媒を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−223667号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nano Letto.,2011,11,361〜364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
排ガス浄化触媒の酸素貯蔵能力は、酸素の吸着、酸素の拡散、及び酸素の脱離からなる3つの過程を経て発揮される。セリアが触媒あるいは助触媒として使用される温度では、気相中の酸素ガスがセリア固体内に浸透する深さは表面層に限られており、酸素の吸着量や脱離量は比表面積に比例することから、酸素貯蔵能力を高めるためには、比表面積を大きくするしかなかった。
【0010】
また、{100}面および{110}面は{111}面と比較して不安定であり、約400℃で表面が変質してしまうので、{100}面からなる立方体状CeOナノ粒子ならびに{100}面および{110}面からなる直方体状CeOナノ粒子は、自動車用排気ガス浄化触媒として使用するためには、耐熱性の一層の向上が必要であった。
【0011】
さらに、自動車用排気ガス浄化触媒のために、耐熱性を備えた新規の酸素貯蔵能力(OSC)を有する材料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意努力した結果、ZrO粒子上にCeOナノ粒子を担持した担体であって、前記CeOナノ粒子が、{100}面からなる立方体状(以下、単に立方体状と記載することもある)または{100}面および{110}面からなる直方体状(以下、単に直方体状と記載することもある)に結晶自形を有し、さらに前記CeOナノ粒子がCZ固溶体を含むことによって、上記課題を解決することができることを見いだした。
【0013】
本発明の態様は、以下のようである。
(1)CeOナノ粒子がZrO粒子上に担持されている排ガス浄化触媒用担体であって、前記CeOナノ粒子の少なくとも一つが、{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有し、かつCZ固溶体を含み、そして前記担体に含まれる、ZrのCeに対するモル比が、5以上、50以下である、排ガス浄化触媒用担体。
(2)前記ZrO粒子上の前記CeOナノ粒子の粒径が5nm以上30nm以下であり、そして全CeOナノ粒子に対する、前記立方体状CeOナノ粒子ならびに/または前記直方体状のCeOナノ粒子のモル比が、0.3以上である、(1)に記載の排ガス浄化触媒用担体。
(3)前記ZrO粒子と前記立方体状および直方体状CeOナノ粒子とが接する少なくとも一部において、前記ZrO粒子の{100}面と前記CeOナノ粒子の{100}面とが格子整合している、(1)または(2)に記載の排ガス浄化触媒用担体。
(4)前記ZrO粒子の前記CeOナノ粒子に対するモル比が、5以上、20以下である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の排ガス浄化触媒用担体。
(5)(1)〜(4)のいずれか一つに記載の排ガス浄化触媒用担体を含む、排ガス浄化用触媒。
(6)前記担体上に、Pt、Pd、Rh、Au、Cu、Fe、Niからなる群から選択された金属微粒子、および/またはそれらの酸化物、またはそれらの任意の組み合わせを担持する、(5)に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る排ガス浄化触媒用担体は、自由CeOナノ粒子などよりも、エンジンから排出される熱に対する耐熱性に優れ、さらに高温熱処理後でも、低温からかつ広範な温度範囲にわたって多量の酸素吸収放出能を示す非常に優れた特性を達成できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、(a)実施例2に係るCeOナノ粒子を担持したZrO粒子担体、および(b)比較例2に係るCeOナノ粒子を担持したZrO粒子担体のTEMによる撮影画像データを示す図である。
図2図2は、実施例2に係るCeOナノ粒子を担持したZrO粒子担体において、ZrO粒子の{100}面とCeO粒子の{100}面との間の結晶整合、およびCeOナノ粒子中へのZrの拡散による固溶CeO−ZrOを示すTEMによる撮影画像データを示す図である。
図3図3は、(a)実施例3、(b)実施例4のサンプルを用いた昇温還元能測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
なお、本明細書中において、無機物の化合物の名称、または(下記に例示するような)含有される金属の比を用いた表記により、これらの組成を有するように生成させても、不純物などを含めて現実的に生成してしまう組成をも含むものとする。したがって、無機物の化合物の名称または含有される金属の比を用いた表記により、例えば、無機化合物の構造中において、例えば、酸素、水素、窒素などの元素が、化学式中±1原子数以下で過剰または過少に存在している組成の無機化合物、すなわち、例えば、セリアの場合、CeO中で、例えば酸素の数が±1の場合のCeO〜CeOをも含み、さらに化合物中に表記されていない水素を不純物として有するものなどをも含むものである。
【0017】
本発明の態様に係る排ガス触媒用担体は、セリア(CeO)ナノ粒子がジルコニア(ZrO)粒子上に担持されており、このCeOナノ粒子の少なくとも一つが、{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有するものである。
【0018】
{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状のCeOナノ粒子は、実質的に{111}面を含まない。これにより、例えば、{100}面中の不安定な2原子のCeイオンと1原子のOイオンの格子によって、{111}面からなる球状のCeOナノ粒子の安定な3原子のCeイオンと1原子のOイオンを有する格子よりも、遙かに低温における酸素の放出を開始できると考えられるものである。
【0019】
さらに本発明の態様に係る排ガス触媒用担体は、ZrOとCeOとの格子整合により、生成するCeOナノ粒子の形態制御が行なわれ、その結果、CeOナノ粒子が結晶自形を有していると考えられるものである。そして結晶自形を有することにより、驚いたことに、本来不安定であるCeOナノ粒子の{100}面および{110}面を安定化させることができ、この安定化により、有利にも低温からの酸素の放出能力を有することができるともに、従来から問題であった高温下、例えば約400℃でのCeOナノ粒子の{100}面および{110}面の{111}面への変質およびCeナノ粒子同士のシンタリングをも防止でき、さらにその結果、耐熱温度が上がり、低温から高温にわたる広い範囲での酸素吸収放出を安定して行え、全酸素吸収放出量を高めることができるものである。
【0020】
本発明の態様に係る排ガス浄化用担体では、担体に含まれる、すなわち、CeOナノ粒子とZrO粒子と下記に示すCZ固溶体とを含む担体全体において、ジルコニウム(Zr)のセリウム(Ce)に対する比が、モルで、約5以上、約5.5以上、約6以上、約6.5以上、約7以上、約8以上、約9以上、約10以上、約15以上、約20以上、約100以下、約90以下、約80以下、約70以下、約60以下、約55以下、約50以下、約45以下、約40以下、約35以下、約30以下であることができる。
【0021】
本発明の態様に係る排ガス触媒用担体では、CeOナノ粒子が、ZrO粒子に近いCeOナノ粒子の内部に、CZ固溶体をさらに含むものである。これにより、さらに有利なことに、原子径の大きい純粋なCe内部におけるより、原子径の小さなZrを活かすことによって、CeOナノ粒子内部における遙かに高いOの拡散速度を達成できていると考えられるものである。
【0022】
CeOナノ粒子中のCZ固溶体の比率は、モルで、約1%以上、約3%以上、約5%以上、約40%以下、約30%以下、約20%以下、約10%以下であることができる。モル比は、TEM観察像に基づいた面積%から算出することができる。また、CZ固溶体中のZrのCeに対するモル比は、上記の、CeOナノ粒子とZrO粒子とCZ固溶体とを含む担体全体における、ジルコニウム(Zr)のセリウム(Ce)に対するモル比に記載した値であることができる。
【0023】
このように、本発明の態様に係る排ガス触媒用担体は、CeOナノ粒子が、{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有すること、およびCeOナノ粒子内部にCZ固溶体を含むことの両者により、驚くべきことに、セリア自体の酸素吸放出能力に加えて、セリアのナノ粒子外表面における酸素の吸放出容易性、かつCZ固溶体中での酸素の高い内部拡散性の両方の長所を兼ね備えることができるものである。
【0024】
CeOナノ粒子のZrO粒子上での担持の形態については、CeOナノ粒子が{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状に結晶自形を有してれば、特に制限なく、ZrO粒子上にCeOナノ粒子がおおよそ一様に担持されていることができる。
【0025】
ZrOの粒径は、排ガス浄化触媒用担体として、耐熱性などに問題を生じなければ、何ら制限無く、例えば、約20nm以上、約40nm以上、約50nm以上、約70nm以上、約100nm以上、約200nm以上、約300nm以上、約1000nm以下、約800nm以下、約600nm以下、約500nm以下などの値を取ることができる。
【0026】
ZrO粒子上に担持されるCeOナノ粒子の粒径は、排ガス浄化触媒用担体として、耐熱性などに問題を生じなければ、何ら制限無く、約3nm以上、約4nm以上、約5nm以上、約6nm以上、約30nm以下、約20nm以下、約15nm以下、約10nm以下などの粒径を有することができる。
【0027】
また、本発明に係る態様においては、{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有する複数のセリア中に、{111}面を多く含む多面体セリア等の不純物セリアが微量に含まれてもよいが、好ましくは{100}面からなる立方体状または{100}面および{110}面からなる直方体状の結晶自形を有する複数のセリアは、モル比で、セリア全体に対して約0.20以上、約0.30以上、約0.40以上、約0.50以上であり、好ましくは約0.60以上であり、より好ましくは約0.70以上であり、さらに好ましくは約0.80以上であり、また約0.90以上であり、よりさらに好ましくは実質的に不純物セリアを含まない。モル比は、TEM観察像に基づいて計測した面積%から算出することができる。
【0028】
また得られたCeOナノ粒子の面方位については、HR−TEMによる原子配列の観察及び格子面間隔の測定から特定することができる。
【0029】
CeOナノ粒子を担持するZrO粒子は、CeOナノ粒子の結晶自形の生成、および耐熱性などに問題を生じなければ、何ら制限無く、約50nm以上、約60nm以上、約80nm以上、約100nm以上、約120nm以上、約200nm以上、約500nm以下、約400nm以下、約300nm以下などの粒径を有することができる。
【0030】
ZrO粒子のCeOナノ粒子に対する比率(ZrO粒子/CeOナノ粒子)は、CeOナノ粒子の結晶自形の生成、および担体の耐熱性などに問題を生じなければ、何ら制限無く、モル比で、約5/1以上、約6/1以上、約7/1以上、約10/1以上、約30/1以下、約25/1以下、約20/1以下、18/1以下などの値を有することができる。
【0031】
本発明の態様に係る担体は、さらに例えば三元触媒のような触媒の全体構成において、触媒担体として通常用いられる他の金属酸化物を組み合わせてもよく、他の金属酸化物としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)等が挙げられる。またシリカ−アルミナなどの複合酸化物を併用することも可能である。
【0032】
CeOナノ粒子、ZrO粒子、金属微粒子などの粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)または高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)により測定することができる。
【0033】
本発明の態様に係るCeOナノ粒子を担持するZrO粒子の製造方法は、CeOナノ粒子の結晶自形の生成、および担体の耐熱性などに問題を生じなければ、特に限定されず、中和法などの公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、Ce塩と有機物保護剤を含む水溶液中に、所望の比率になるようにZrO粒子を加え、さらにアンモニア水を加えてpHを調整して得られた分散体を分離して乾燥後、フリーズドライを行う方法が挙げられる。Ce塩としては、例えば、硝酸化物、酢酸化物等の金属塩が挙げられ、具体的には、Ce(NO・6HO、(NHCe(NO等が挙げられる。
【0034】
上記のCe塩と有機保護剤とを含む混合溶液において用いられる溶媒としては、Ce塩と有機物保護剤を溶解させることができる任意の溶媒、例えば、水などの水性溶媒や有機溶媒等を使用することができる。
【0035】
本発明に係る排ガス浄化触媒用担体は、一般的に触媒として使用できる金属微粒子を担体上に担持させて排ガス浄化用触媒とすることができ、金属微粒子としては、例えば、粒径約3nm〜約5nmなどの、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの酸化物、またはそれらの任意の組み合わせを、約0.01wt%〜約5.0wt%などの量で担持させることができる。
【0036】
金属微粒子などを本発明に係る排ガス浄化触媒用担体に担持させる方法としては、特に制限なく、含浸担持法、表面析出法等、一般的な方法を用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
14mmolの(NHCe(NOを60mlのHOに溶解した溶液と、有機保護剤として14mmolのC1733COOKを60mlのHOに溶解した溶液を準備し、Ce塩溶液にZrO粉末をCe:Zr=1:9(モル比)の割合になるように混合した。上記2つの液体を合液し攪拌しながら、25wt%のNHOHを10ml加えて中和した。得られた分散体をろ過、洗浄し、フリーズドライを施し、CeOナノ立方体がZrOに担持された材料を得た。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、ZrOを含まない点を除き、同様の手順でアンモニアを加えてCeOを沈殿させた。その後、沈殿物に200℃で48時間水熱処理を施して得た生成物を分離、洗浄、乾燥し、トルエン抽出を施して、CeOナノ粒子を得た。
TEMによる状態分析で、5〜8nm程度の立方体CeOが得られたことを確認した。
【0040】
<触媒観察>
CeOナノ粒子等の形状観察、寸法測定、及び面方位の特定は、透過型電子顕微鏡(TEM及びHR−TEM、日立製、H−9500、加速電圧300kV)で観察し決定した。なお、本明細書中において、粒径とは、特に断りのない限り、TEM観察画像により測定した粒子における最大直径をいう。
【0041】
実施例2:高温処理後のサンプルを評価するために、実施例1のサンプルを800℃で3時間焼成した。
比較例2:比較例1のサンプルを600℃で3時間焼成した。
【0042】
<観察結果>
図1中に、実施例2のCeO−ZrO粒子(図1(a))、および比較例2のCeO粒子(図1(b))のTEMによる観察結果を示す。実施例2のサンプルでは、粒径約100nmのZrO粒子上に粒径約5〜約15nmのCeOナノ粒子が担持され、CeOナノ粒子の多くは結晶自形を有していた。そして、その自形は立方体、直方体構造が多かった。
一方、比較例2のCeO自由ナノ粒子は、実施例2に係るサンプルよりも低温の600℃での熱処理にも関わらず、変質して粒径は粗大になり、結晶自形は不明瞭となっていた。
【0043】
実施例2と比較例2のそれぞれのサンプルについて、TEM画像解析により、各100個ずつ、セリアの、粒径、面方位の特定、粒径を観察しまとめた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
CeO自体は立方晶のため、{100}、{110}、{111}結晶面を有するが、立方体状CeOは{100}面から構成され、直方体状CeOは{100}、{110}から構成されると考えられる。
実施例2のサンプルでは、表1に示すように、ZrO上に担持されたCeOナノ粒子の多くが、立方体状(32%)、あるいは直方体状(32%)の結晶自形を保持するのに対し(表1中右欄)、比較例2のサンプルである自由CeOナノ粒子の多くは結晶自形を保持していない(62%:表1中左欄)。
【0046】
上記の観察から、ZrOを用いることの利点、すなわち、ZrO担体上に結晶自形を有するCeOナノ粒子を生成させることで、自由状態のCeOナノ粒子と比較して、立方体状および直方体状CeOナノ粒子を生成確率を大きく高めることができていること、そしてさらには自由状態のCeOナノ粒子と比較して、本来は熱耐久性が充分でない、立方体状および直方体状CeOナノ粒子の変質を抑止できていることが判明した。
【0047】
実施例2のサンプルについて、ZrO担体とCeOナノ粒子の界面をTEMにより、さらに詳細に観察すると、格子整合が起こっていることが確認できた(図2)。すなわち、格子間隔の検討から、ZrO{100}面とCeO{100}面とが格子整合していることが判明したものである。さらに、格子整合のみならず、ZrO{100}面とCeO{100}面との界面近傍のCeO寄りの部分において、ZrのCeOへの拡散による固溶体の生成も生じている様子が観察された。
【0048】
以上の結果から、何らかの理論に拘束されることを望まないが、実施例2のサンプルは、次のような生成プロセス、および構造的特徴を持つと推察される。すなわち、CeOナノ粒子はZrO表面上でエピタキシャル成長によって生成し、下地のZrOの作用によって結晶自形を有し、さらに、ZrのCeOナノ粒子への拡散によって固溶体が生成して、ZrO上のCeOナノ粒子は、表面にCeO{100}面、{110}面が露出しているCeOシェル、固溶したCeO−ZrOコア、バルクCeOの3種類の構造を有していると考えられるものである。
【0049】
<昇温還元能測定>
酸素吸収能に着目した触媒性能評価として、改良TCD測定装置(メーカー名:(株)大倉理研、型番:BP−1S)を用いて、昇温還元能測定を行った。
実施例3:実施例1のサンプルを、800℃で20分間焼成後、評価した。
実施例4:実施例3のサンプルを、900℃で20分間焼成後、評価した。
【0050】
<昇温還元能測定結果>
実施例3のサンプルでは、約270℃、約500℃、約750℃当りから酸素脱離ピークを観測した(図3(a))。約270℃におけるピークは、立方体状および直方体状表面CeO由来、すなわち、{100}面からなる立方体状ならびに{100}面および{110}面からなる直方体状のCeO粒子の外表面からの酸素放出によるものと推定され、これにより{111}面からなる自由CeOナノ粒子よりも低温における酸素放出を達成していると考えられる。
そして、約500℃におけるピークは、CZ固溶体由来、すなわち、CZ固溶体中の小さなZrによる原子径を活かすことによって、原子径の大きい純粋なCe内部におけるより、Ceナノ粒子内部での遙かに高いOの拡散速度を達成できていると考えられる。
そして約750℃におけるピークは、バルクCeO由来、すなわち、CeO単独の特性に基づくピークと推定される。
【0051】
実施例4のサンプルについて、評価を行うと、さらなる高温処理後にも関わらず、実施例3のサンプルと同様に、良好な酸素脱離ピークを示した(図3(b))。
以上の結果から、実施例4のサンプルは、結晶自形を保ったCeOナノ粒子を多く含むことにより、高温処理後においても、低温から酸素放出能を発現できていることが確認された。また、実施例4のサンプルでは、さらなるCZ固溶体の生成により、約500℃における酸素生成脱離ピークがさらに深くなっていると推定される。
【0052】
実施例3,4の結果からわかるように、本発明の態様に係る担体は、立方体状および直方体状表面CeO由来、CZ固溶体由来、バルクCeO由来の3種類の構造を有することにより、驚くべきことに、単なる純粋なCeOナノ粒子と比較して、遙かに広い温度範囲にわたり、酸素脱離ピークを有し、より高い全酸素脱離量を有することが判明した。
【0053】
<酸素吸着量測定(OSC)>
酸素放出能に着目した触媒性能評価として、測定装置(メーカー名:(株)大倉理研、型番:BP−1S)により、酸素パルス法を用いて、800℃で水素5体積%−アルゴン95体積%混合ガス流通下で20分間還元後、600℃でアルゴンガス流内に酸素をパルス状に導入して、酸素を吸着させることにより、酸素吸着量測定を行った。
実施例5:実施例1のサンプルを、800℃で20分間焼成後、評価した。
実施例6:実施例4のサンプルを、900℃で180分間焼成後、評価した。
実施例7:実施例1のサンプルを、600℃で180分間焼成後さらに1000℃で180分間焼成後、評価した。
実施例8:実施例1のサンプルを600℃で180分間焼成後に1wt%の白金(Pt)を担持させ、800℃で180分間焼成したサンプルを、さらに800℃で、20分間、水素5体積%−アルゴン95体積%混合ガス流通下で還元処理、その後600℃で20分間酸素処理を行った後に、評価した。
【0054】
<酸素吸着量測定結果>
表2に酸素吸収能評価(OSC)をまとめた結果を示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、実施例5〜8のサンプルは、いずれも2.5mL/g〜2.9mL/gと高い酸素吸着量を示した。
実施例5〜8のサンプルは、いずれも、理論値の約60%もの高い値を示した。これは、上記で説明した構造的特徴の1つであるZrO上のCeOナノ粒子はコアが固溶CZになっている推定を裏付ける結果である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明に係る排ガス浄化触媒用担体およびそれを用いた触媒は、広範な温度範囲において非常に良好な酸素吸収放出性能を有するものである。こうしたことから、本発明に係る担体の用途は、排ガス浄化触媒に限られず、広い分野において様々な用途に利用することができる。
図3
図1
図2