特許第5798648号(P5798648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5798648-アミノ酸組成物を含有する疲労防止剤 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5798648
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】アミノ酸組成物を含有する疲労防止剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20151001BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20151001BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20151001BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20151001BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20151001BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61K31/401
   A61K31/405
   A61K31/4172
   A61P21/00
   A61P25/00
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-40268(P2014-40268)
(22)【出願日】2014年3月3日
(62)【分割の表示】特願2009-539139(P2009-539139)の分割
【原出願日】2008年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-129394(P2014-129394A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2007-282970(P2007-282970)
(32)【優先日】2007年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真人
(72)【発明者】
【氏名】有田 宏行
(72)【発明者】
【氏名】高村 政範
【審査官】 ▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特許第2518692(JP,B2)
【文献】 特開平09−249556(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/028528(WO,A1)
【文献】 特開2004−352696(JP,A)
【文献】 米国特許第05026721(US,A)
【文献】 国際公開第2007/145239(WO,A1)
【文献】 小林寛道,スポーツとアミノ酸サプリメント,食の科学,1999年,第255号,p.93−88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/40
A23L 1/305
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸からなる、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤用アミノ酸組成物。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部;
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部。
【請求項2】
以下のアミノ酸からなる、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤用アミノ酸組成物。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部;
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部;
バリン 30〜 55重量部;
ロイシン 35〜 60重量部;
イソロイシン 25〜 60重量部。
【請求項3】
請求項1または2に記載の疲労防止用アミノ酸組成物のみを有効成分として含む、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤。
【請求項4】
以下のアミノ酸を混合する、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤用アミノ酸組成物の製造方法。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部;
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部。
【請求項5】
以下のアミノ酸を混合する、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤用アミノ酸組成物の製造方法。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部;
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部;
バリン 30〜 55重量部;
ロイシン 35〜 60重量部;
イソロイシン 25〜 60重量部。
【請求項6】
請求項1または2に記載の疲労防止用アミノ酸組成物のみを有効成分として混合する、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する疲労防止剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定種および特定量のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む、疲労防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会に生きる人間にとって「疲労」という現象は、既に単純には無視できない状況となりつつある。近年の調査結果によると、全国民の60%近くが疲労を感じており、そのうちの40%弱が6ヶ月以上で継続する疲労を感じていると回答している。これを就労人口に換算すると、3000万人近くの労働者が継続した疲労感を伴ったままで業務に従事していることになる。また、重篤な慢性疲労の場合には、日常生活にも支障を来す場合もある。さらに、これらの疲労によって引き起こされる経済的な損失は、回復措置に係る費用も含めると、数千億円から一兆円規模になると推測されている。
【0003】
疲労を発現から分類した場合には、急性疲労と慢性疲労とに大別される。前者は数分から数時間の単位で発生し、比較的に短時間の休息で回復する場合が多い。後者は急性疲労が蓄積されて回復するまでに数日、それが長いと回復するまでに数週間の単位となるものであり、上記のうちで長期に亘る場合には、6ヶ月以上の期間で継続することもある。
【0004】
また、疲労を生じる部位から分類した場合には、筋肉疲労(肉体疲労)と神経疲労(精神疲労)とに大別される。但し、このように筋肉疲労と神経疲労とで分類できることは確かであるが、これらをストレスの観点から見ると、実際には、常に相互が複雑に関連して生じている。したがって、上記の単純な分類では、その対処方法は一義的には見出せていないのが現状である。一方、これら相互の関連について科学的な知見が得られれば、効果的な疲労回復措置を構築することにも繋がることとなる。
【0005】
疲労防止や疲労回復の方法としては、入浴などの簡易的なストレスの解消方法から、薬剤投与まで含めた治療方法が種々で検討されている。これらの方法では、上記した筋肉疲労と神経疲労との各々について疲労回復を目的としているが、実際には、それら双方を同時に満足するような疲労回復の方法は未だ得られていない。
【0006】
また、これらの方法では、ある種の薬剤またはサプリメントなどの投与を含んでいる場合がある。薬剤投与の場合には、医者などによる診断や処方の対応が必要であることから煩雑である。一方、サプリメント投与などの食餌による対応は簡便であり、日常生活に取り入れやすいこともあり、近年、その研究開発および商品開発が進められている。サプリメントの市場は拡大の一途を辿っており、例えば、クエン酸、ビタミン、コエンザイムQ10を初めとする疲労回復用のサプリメントがコンビニエンスストアなどでも市販されている。しかし、これらのサプリメントでも、上記した筋肉疲労と神経疲労との各々について疲労回復の効果を明確にした訳ではなく、実際には、それら双方を同時に満足するような疲労回復の方法は未だ得られていない。
【0007】
ところで、スズメバチの幼虫が分泌する唾液中に含まれる17種類のアミノ酸組成物から構成され、商品名「VAAM」として知られているものが主に運動能力向上の効果で注目を集めている。この「VAAM」について、例えば特許文献1では、疲労回復の効果もあるとされている。さらに、この技術から派生して、種々のアミノ酸組成物の開発も進められており、例えば特許文献2では、筋肉自体の疲労とそれに伴う倦怠感などの精神的な疲労を速やかに回復する、12種類のアミノ酸組成物から構成されるアミノ酸組成物が開示されている。
【0008】
また、例えば特許文献3では、BCAAとして知られている、バリン、ロイシン、イソロイシンについて運動能力向上の用途以外に、中枢神経系の疲労(脳性疲労)予防や脳疲労回復の効果があるとして、これによる中枢神経系用の疲労予防/回復剤が開示されている。
しかし、これらの従来のアミノ酸組成物は、いずれも筋肉疲労と神経疲労との双方を同時に防止するという目的では十分に検討されておらず、また、多種類で多量のアミノ酸を配合する必要があり、難溶性で調製に手間のかかるアミノ酸やコストの高いアミノ酸を含むなどの工業上(製造上)および経済上の問題点を有していた。
【0009】
一方、いくつかの疲労に関する研究の結果から、疲労に伴い、ある種のアミノ酸の血中濃度の低下や特定組織への取り込みの起こることが知られている。例えば非特許文献1では、自転車により長時間の負荷を与えたヒトにおいて、プロリン、グリシン、アラニンなどのアミノ酸が有意に消費され、低下することが開示されている。
【0010】
また、非特許文献2では、運動時における炭水化物の補給の有無について各種の成分の血漿中での濃度変化が検討されている。ここでは、グリシン、アラニン、リジン、スレオニン、ヒスチジンの濃度が血漿中で低下し、特にヒスチジンの濃度の低下率の大きいことが示されている。
【0011】
さらに、非特許文献3でも、運動時における給餌の有無について各種の成分の血漿中での濃度変化が検討されている。ここでは、特にトリプトファンの濃度の低下率の大きいことが示されている。
【0012】
それぞれのアミノ酸の濃度の低下と運動や疲労現象との因果関係は未だ明確ではないが、エネルギー代謝のサイクルにおいて、これらのアミノ酸が何らかの関わりがあり、生体内で消費されているものと推測される。したがって、これら濃度の低下の見られるアミノ酸を補充することで、筋肉疲労が回復すると考えることも可能である。しかし、筋肉疲労と神経疲労の後に、これらのアミノ酸を単純に補充することだけでは、双方の疲労が回復するということはない。また、筋肉疲労と神経疲労の前に、これらのアミノ酸を補充することにより、双方の疲労が防止され、さらに回復するというような事実も未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2518692号公報
【特許文献2】特開平8−198748号公報
【特許文献3】再表2002/034257号公報
【非特許文献1】G.アーボルグ等(G.Ahlborg等),The Journal of Clinical Investigation,第53巻,1974年4月号,p.1080−1090
【非特許文献2】T.L.バザーレ等(T.L.Bazzare等),Journal of the American College of Nutrition,1992年,第11巻,第5号,p.501−511
【非特許文献3】A.H.フォースランド等(A.H.Forslund等),Am.J.Physiol Endocrinol Metab.,2000年,第278巻,p.857−867
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来のアミノ酸組成物では、運動能力向上が主目的であり、抗疲労や疲労防止の効果という観点での検討は未だ不十分であった。また、特に疲労回復や疲労予防の効果を謳う技術もあるが、いずれも筋肉疲労と神経疲労との双方の防止効果という観点での検討は不十分であり、未だ解決されたとは言い難い。さらに、これら従来のアミノ酸組成物では、多種類で多量のアミノ酸を組成物として供給しなければならず、その調製の手間やコストが必然的に高くなってしまう問題点が潜在していた。
【0015】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来にはない組成と量比にて、アミノ酸組成物を構成することで、従来には不十分であった筋肉疲労と神経疲労との双方の疲労防止効果を得ることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成した。
【0016】
したがって、本発明の目的は、特定種類で特定量のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含有する疲労防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち本発明は、以下のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤に関する:
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部。
また本発明は、上記アミノ酸組成物が、さらに以下のアミノ酸を含む、前記疲労防止剤に関する:
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部。
さらに本発明は、上記アミノ酸組成物が、さらに以下のアミノ酸を含む、前記疲労防止剤に関する:
バリン 30〜 55重量部;
ロイシン 35〜 60重量部;
イソロイシン 25〜 60重量部。
【0018】
また本発明は、有効成分としてアミノ酸組成物が、0.01g〜8g/kg/dayの範囲で投与される、前記疲労防止剤に関する。
さらに本発明は、筋肉疲労および神経疲労の双方を同時に防止する、前記疲労防止剤に関する。
また本発明は、筋肉疲労が行動量測定によって評価されるものであり、神経疲労が血中バイオマーカー測定によって評価されるものである、前記疲労防止剤に関する。
さらに本発明は、行動量測定による評価において、非投与群の行動量を100とした場合に投与群の行動量(相対値)が110以上であり、かつ、血中バイオマーカー測定による評価において、非投与群の測定濃度を100とした場合に投与群の測定濃度(相対値)が96以下であり、筋肉疲労および神経疲労の防止効果を有すると評価される、前記疲労防止剤に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の疲労防止剤に用いられる組成物は、従来にはない組成と量比によるアミノ酸組成物である。これにより、従来には不十分であった疲労防止について高い効果を得ることができる。すなわち、本発明により初めて、実際の筋肉疲労と神経疲労との双方を同時に防止することができることとなる。
【0020】
本発明では、その評価系として疲労時の行動量の測定と疲労時の血中バイオマーカーの測定との2種類を特に用いて、それぞれを筋肉疲労と神経疲労の指標とした。その結果、本発明のアミノ酸組成物に関して、特に双方の評価系における顕著な疲労防止効果を得ることができた。
【0021】
また、本発明によれば、従来のアミノ酸組成物よりも少ない6〜11種類のアミノ酸で、高い疲労防止効果が得られることから、その必要な原材料の種類が減り、その調製の手間も減って、工業的にも経済的にも高い効果を奏することとなる。
【0022】
さらに、本発明によれば、従来のアミノ酸組成物よりも少ない所定量のアミノ酸で、高い疲労防止効果が得られることからも、工業的にも経済的にも高い効果を奏することとなる。また、従来と同等の効果を得るように調製した場合には、それぞれのアミノ酸の使用量が少ないために、これを飲料などに適するように調製すると、飲料の低容量化などを図ることができ、特にスポーツドリンクなどの携帯用の飲料に有効となる。
【0023】
本発明者らは、運動中に血液中で濃度が減少するアミノ酸として、プロリン、グリシン、アラニン、リジン、トリプトファン、ヒスチジンに注目し、これらが何らかの生体内の反応に影響していることから、これらを血液内へ補充する意味で、これらのアミノ酸を所定の濃度で配合することを検討した。
上記のアミノ酸の生体内の反応の詳細は、必ずしも明らかではないが、例えば、プロリンは筋肉のエネルギー源として使用され、脂肪燃焼効果があり、交感神経の活動を抑制する作用があること、アラニンは筋肉のエネルギー源として使用され、交感神経の活動を促進する作用があること、リジンは脂肪酸の適切な代謝を促進し、集中力向上効果があり、交感神経の活動を促進する作用があることなどが考えられる。
【0024】
さらに、運動中に血液中で濃度が増加するアミノ酸として、チロシン、アルギニン、バリン、ロイシン、イソロイシンに注目し、これらが何らかの生体内の反応に影響していることから、これらを血液外の生体内へ補充する意味で、これらのアミノ酸を所定の濃度で配合することを検討した。
上記のアミノ酸の生体内の反応の詳細は、必ずしも明らかではないが、例えば、アルギニンは筋肉のタンパク質の合成を促進し、交感神経の活動を促進する作用があること、バリンは筋肉のタンパク質に含まれる必須成分であり、交感神経の活動を促進する作用があること、ロイシンは筋力向上効果があり、交感神経の活動を促進する作用があること、イソロイシンは筋肉のタンパク質に多く存在し、筋肉のエネルギー源として使用され、交感神経の活動を抑制する作用があることなどが考えられる。
【0025】
そして、これらのチロシン、アルギニン、バリン、ロイシン、イソロイシンを、分岐鎖アミノ酸(BCAA)である、バリン、ロイシン、イソロイシンと、BCAAでない、チロシン、アルギニンに分類して考えた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0027】
本発明の疲労防止剤に含まれるアミノ酸組成物としては、下記のアミノ酸を下記の量比で含むものが好ましい。つまり、所定の量比の6種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が好ましい。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 25〜260重量部;
リジン 40〜130重量部;
トリプトファン 20〜 75重量部;
ヒスチジン 15〜 40重量部。
【0028】
また、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことが好ましい。つまり、所定の量比の8種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が好ましい。
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部。
【0029】
さらに、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことが好ましい。つまり、所定の量比の11種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が好ましい。
バリン 30〜 55重量部;
ロイシン 35〜 60重量部;
イソロイシン 25〜 60重量部。
【0030】
そして、本発明の疲労防止剤に含まれるアミノ酸組成物としては、下記のアミノ酸を下記の量比で含むものがより好ましい。つまり、所定の量比の6種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がより好ましい。
プロリン 30〜200重量部;
グリシン 60〜140重量部;
アラニン 50〜260重量部;
リジン 50〜130重量部;
トリプトファン 30〜 75重量部;
ヒスチジン 20〜 40重量部。
【0031】
また、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことがより好ましい。つまり、所定の量比の8種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がより好ましい。
チロシン 3〜 75重量部;
アルギニン 15〜 45重量部。
【0032】
さらに、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことがより好ましい。つまり、所定の量比の11種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がより好ましい。
バリン 30〜 55重量部;
ロイシン 35〜 60重量部;
イソロイシン 25〜 60重量部。
【0033】
そして、本発明の疲労防止剤に含まれるアミノ酸組成物としては、下記のアミノ酸を下記の量比で含むものがさらに好ましい。つまり、所定の量比の6種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がさらに好ましい。
プロリン 30〜150重量部;
グリシン 60〜110重量部;
アラニン 50〜220重量部;
リジン 50〜 95重量部;
トリプトファン 30〜 65重量部;
ヒスチジン 20〜 35重量部。
【0034】
また、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことがさらに好ましい。つまり、所定の量比の8種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がさらに好ましい。
チロシン 3〜 65重量部;
アルギニン 20〜 45重量部。
【0035】
さらに、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことがさらに好ましい。つまり、所定の量比の11種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤がさらに好ましい。
バリン 30〜 50重量部;
ロイシン 40〜 60重量部;
イソロイシン 35〜 55重量部。
【0036】
そして、本発明の疲労防止剤に含まれるアミノ酸組成物としては、下記のアミノ酸を下記の量比で含むものが特に好ましい。つまり、所定の量比の6種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が特に好ましい。
プロリン 30〜100重量部;
グリシン 60〜 90重量部;
アラニン 100〜220重量部;
リジン 50〜 80重量部;
トリプトファン 30〜 55重量部;
ヒスチジン 20〜 30重量部。
【0037】
また、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことが特に好ましい。つまり、所定の量比の8種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が特に好ましい。
チロシン 5〜 60重量部;
アルギニン 20〜 35重量部。
【0038】
さらに、上記組成のアミノ酸組成物には、さらに下記のアミノ酸を下記の量比で含むことが特に好ましい。つまり、所定の量比の11種のアミノ酸からなるアミノ酸組成物を含む疲労防止剤が特に好ましい。
バリン 30〜 45重量部;
ロイシン 45〜 60重量部;
イソロイシン 40〜 50重量部。
【0039】
なお、上記構成のアミノ酸組成物において、チロシンは3〜30重量部、さらには5〜25重量部であっても良い。
【0040】
本発明の疲労防止剤の主成分であるアミノ酸組成物は、極めて安全性が高く、投与量は広範に設定することができる。一般的には、投与経路、ヒトを含む投与対象動物の年齢、体重、症状などの種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明では、これに限定されないが、例えば、有効成分としてアミノ酸組成物が好ましくは0.01g〜8g/kg/day、より好ましくは0.05g〜8g/kg/day、さらに好ましくは0.1g〜8g/kg/day、さらにより好ましくは0.3g〜8g/kg/day、特に好ましくは0.4g〜5g/kg/day、もっとも好ましくは0.5g〜3g/kg/dayの範囲で投与することができる。
【0041】
一方、本発明の疲労防止剤は、後述する実施例にあるヒト試験の結果が示すように、有効成分としてアミノ酸組成物が従来よりも少量や低濃度で十分な効果を発揮できることが特長であるため、本発明の用途、効果・効能、製造コストなどを考慮して、例えば、好ましくは0.01g〜0.3g/kg/day、より好ましくは0.015g〜0.28g/kg/day、さらに好ましくは0.02g〜0.25g/kg/day、さらにより好ましくは0.05g〜0.25g/kg/day、特に好ましくは0.05g〜0.2g/kg/day、もっとも好ましくは0.05g〜0.15g/kg/dayの範囲で投与することもできる。
【0042】
本発明の組成物は、疲労を防止したい時に事前に投与して、疲労防止剤として使用するばかりでなく、疲労を感じた時に事後的に投与して、疲労回復剤としても使用することもできる。また、本発明の疲労防止剤は、経口投与または非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮など)のいずれでも投与できる。
経口投与の疲労防止剤としては、例えば、1日当たり0.3g〜30gを1〜3回投与すれば良い。液剤の場合には0.3〜6.0重量%溶液として、1日当たり100〜500mlを1〜3回投与すれば良い。経静脈投与等の注射剤としては、例えば、0.3〜6.0重量%溶液として、1回当たり100〜400ml、好ましくは150〜300mlを投与すれば良い。
【0043】
また本発明の疲労防止剤は、疲労時の行動量測定と疲労時の血中バイオマーカー測定との2種の評価系により、筋肉疲労および神経疲労の双方において疲労防止効果があると評価される。
【0044】
行動量測定による評価は、例えば、後述するマウスによる行動量の測定方法に基づいて、投与群(アミノ酸組成物を投与)と非投与群(コントロール群)との2つの群に対し、トレッドミルなどによって運動負荷を与え、2群の行動量をそれぞれ測定し、非投与群の行動量を100とした場合の投与群の相対的な行動量を算出して行う。投与群の行動量(相対値)が、100を越えた場合、好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは190以上の場合、投与したアミノ酸組成物は、筋肉疲労の防止効果を有すると評価できる。なお、投与群の行動量(相対値)は、数値が大きいほど筋肉疲労の防止効果が高いと評価できる。
【0045】
血中バイオマーカー測定による評価は、例えば、後述するマウスによる血中バイオマーカーの測定方法に基づいて、投与群(アミノ酸組成物を投与)と非投与群(コントロール群)との2つの群に対し、トレッドミルなどによって運動負荷を与え、一定時間経過後に採血し、2群の血中バイオマーカーの濃度をそれぞれ測定し、非投与群の測定濃度を100とした場合の投与群の相対的な測定濃度を算出して行う。任意の血中バイオマーカー(コルチゾール、インターフェロン−γ(IFN−γ)、インターロイキン−10(IL−10)を含む)を指標とした場合、投与群の測定濃度(相対値)が100未満の場合、好ましくは96以下の場合、神経疲労の防止効果を有すると評価できる。
【0046】
特にコルチゾールを指標とした場合、投与群の測定濃度(相対値)が、好ましくは95以下、さらに好ましくは80以下の場合、神経疲労の防止効果を有すると評価できる。またIFN−γを指標とした場合、投与群の測定濃度(相対値)が、好ましくは60以下、さらに好ましくは45以下の場合、神経疲労の防止効果を有すると評価できる。さらにIL−10を指標とした場合、投与群の測定濃度(相対値)が、好ましくは70以下、さらに好ましくは50以下の場合、神経疲労の防止効果を有すると評価できる。
なお、投与群の測定濃度(相対値)では、数値が小さいほど、神経疲労の防止効果が高いと評価できる。
【0047】
本発明の疲労防止剤には上記アミノ酸の他に、必要に応じて、メチオニン(好ましくは0.3〜0.7モル%、さらに好ましくは0.4〜0.6モル%)、アスパラギン酸(好ましくは0.1〜0.3モル%)、タウリン(好ましくは3モル%以下)、リン酸エタノールアミン(好ましくは2モル%以下)、シスチン(好ましくは0.5モル%以下)、β−アラニン(好ましくは1モル%以下)、γ−アミノ酪酸(好ましくは0.5モル%以下)、オルニチンまたはエタノールアミン(好ましくは3モル%以下)、アンモニア(好ましくは2モル%以下)、1−メチルヒスチジン(好ましくは3モル%以下)、3−メチルヒスチジン(好ましくは1モル%以下)などを含んでいても良い。
【0048】
また、本発明の疲労防止剤には上記アミノ酸の他に、必要に応じて、クエン酸などの疲労防止効果が期待される成分や、カルニチン、コエンザイムQ10、デキストリン(直鎖状、分岐鎖状、環状など)、ビタミン類、ミネラル類などを含んでいても良い。
【0049】
本発明で使用するアミノ酸は、特にL−アミノ酸であることが好ましく、それぞれ単品で高純度のものが好ましい。例えば、「食品添加物公定書」に規定する純度以上のアミノ酸を使用する。また、これらのアミノ酸としては、その生理学的に許容し得る塩の形態のものも使用可能である。
【0050】
本発明の疲労防止剤には、特にトレハロースを含むことが好ましい。トレハロースは、自然界の多くの動・植物や微生物に存在しており、例えば、スズメバチとその幼虫の栄養交換液に存在している。このとき、本発明のアミノ酸組成物とトレハロースを併用することで、それらの相乗効果が期待でき、本発明の疲労防止剤による疲労回復や疲労予防の効果が向上すると考えられる。本発明の疲労防止剤におけるトレハロースの配合比などは、特に限定されず、その目的や効果に応じて適宜、設定すれば良いが、本発明のアミノ酸組成物とトレハロースの質量比としては、例えば、0.45〜1.6:0.5〜5.0が好ましく、0.8〜1.6:1.0〜4.0がより好ましく、1.0〜1.6:1.5〜4.0がさらに好ましい。
【0051】
本発明のアミノ酸組成物を製造するに当たっては、市販の上記のアミノ酸を上記の所定割合で混合すれば良い。また、溶液として使用する場合には、これを蒸留水やイオン交換水などに溶解すれば良い。通常は粉末状で均一に混合して組成物としておき、用事で蒸留水やイオン交換水などに溶解すれば良い。本発明の組成物を製造や保存する温度は特に限定されないが、室温以下で製造や保存することが好ましい。
【0052】
本発明の疲労防止剤の投与形態は、特に限定されず、通常で用いられる方法に基づいて経口投与でも非経口投与でも良い。具体的には、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤などとして製剤化し、投与することができる。
【0053】
上記の製剤化には、通常で用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要に応じて、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品の製剤の原料として用いられる成分を配合して、常法により製剤化される。
【0054】
経口製剤を製造するには、例えば、本発明に係るアミノ酸組成物またはその薬理学的に許容される塩に賦形剤を加え、さらに必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後に、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤などとして、常法により製剤化される。
【0055】
賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素などが挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミンなどが挙げられる。
【0056】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウムなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが挙げられる。
【0057】
着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているものが挙げられ、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末などが挙げられる。矯味矯臭剤としては、例えば、通常で用いられる、甘味料、酸味料、香料などを挙げられる。
【0058】
シロップ剤や注射用製剤などの液剤を製造するには、本発明に係るアミノ酸組成物またはその薬理学的に許容される塩に、pH調整剤、溶解剤、等張化剤などを加え、さらに必要に応じて、溶解補助剤、安定化剤などを加えて、常法により製剤化する。
【0059】
本発明の疲労防止剤は、前記のアミノ酸組成物を含み、医薬品として十分に優れた効果を発揮するが、美味しさ(風味)を勘案しながら、前記のアミノ酸組成物の濃度を適宜調整することで食品とすることもでき、また特定保健用食品などの特別用途食品とすることもできる。さらに本発明の疲労防止剤は、食品組成物に含ませ、栄養機能食品などの機能性食品として直接摂取することにより、疲労防止効果を簡便に得ることができる。
【0060】
具体的には、食品組成物として使用する場合には、各種飲食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳、授乳婦用粉乳などの食品、栄養食品など)に、本発明の疲労防止剤をその組成で添加して、これを摂取しても良い。さらに、他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法に従って使用できる。また、その性状についても、通常で用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ゲル状、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでも良い。
【0061】
食品組成物として使用する場合には、その他の成分についても特に限定はないが、上記の食品組成物に包含される、例えば、飲食物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類などを成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質などの動植物性タンパク質、これらの加水分解物、バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖などの各種の乳由来成分などが挙げられる。糖質としては、例えば、各種の糖類、加工澱粉(デキストリンの他、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテルなど)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油など、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油などの植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品および/またはこれらを多く含む食品を用いても良い。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体的な実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
[実施例1〜4および比較例1]
マウス(雄、8週齢、C57BL/6N、飼育環境:23±3℃、明暗を12時間の周期)を、できるだけ各群の体重が均一になるように割り付け、各群3〜4匹からなる試料群(実施例)と対照群(比較例)とに分けた。これらのマウスは絶食させずに、本発明の疲労防止剤(試料)または生理食塩水(対照)を強制で経口投与した。その投与の1時間後にトレッドミル試験(25m/min、60分間)で運動負荷を与えた。
【0064】
マウスへは、各試料をアミノ酸換算で500mg/kg体重(懸濁液(5重量%)を10μL/g体重)となるように投与した。ここで投与した本発明の疲労防止剤のアミノ酸組成を表1に示した(アミノ酸組成の数値は重量部で示した)。
【0065】
(試験1:疲労時の行動量の測定)
前記のトレッドミルでの運動負荷の付与後での行動量を評価した。トレッドミル試験の終了後に、赤色ランプの点灯下で30分間に自発的に行動した道のり(移動距離)の合計を、試料群(実施例)と対照群(比較例)で測定した。そして、対照群の移動距離を100として、試料群の移動距離を相対的に表現して行動量とした。すなわち、この行動量が大きければ、筋肉疲労が少ないものと考えられる。測定結果を表1に示した。
【0066】
(試験2:疲労時の血中バイオマーカーの測定)
前記のトレッドミルでの運動負荷の付与後での血中バイオマーカーを評価した。トレッドミル試験の終了後に、一定時間が経過してから採血し、コルチゾール、インターフェロン−γ(IFN−γ)、インターロイキン−10(IL−10)の血中濃度を測定した。そして、対照群の各数値を100として、試料群の各数値を相対的に表現して血液中の免疫学的指標(血中バイオマーカー)とした。すなわち、これらの数値が小さければ、疲労感が低く、神経疲労が少ないものと考えられる。測定結果を表1に示した。
【0067】
なお、これらの評価方法は、大阪市立大学 医学部 生化学・分子病態学講座の井上正康教授らが2005年の日本生化学会で発表した方法(演題:運動疲労における免疫応答システムの性差解析、生化学、2005年、第77巻、p.1056)に基づいている。
【0068】
【表1】
【0069】
行動量の評価では、本発明の実施例1〜4の疲労防止剤を投与することで、トレッドミルで運動負荷を付与した後にも、さらに行動することができ、比較例1と比べて、筋肉疲労の防止効果が高いことが分かる。特に、実施例3および4では、運動後の行動量が非常に高いことが分かる。
【0070】
一方、血中バイオマーカーの評価では、本発明の実施例1〜4の疲労防止剤を投与することで、比較例1と比べて、コルチゾール、IFN−γ、IL−10の全ての数値が顕著に低くなっていることが分かる。これらの化合物は疲労感の上昇と共に、各濃度が高くなるため、神経疲労の指標として評価することができる。すなわち、本発明の実施例1〜4では、筋肉疲労の防止効果と同様に、神経疲労の防止効果も高いことが分かる。そして、これらの疲労軽減(回復)効果は、とりわけ実施例3および4で顕著であった。
【0071】
[実施例5]
(試験3:抗疲労効果検証試験)
次にヒトを対象として、被験者に必要以上の心理的および肉体的な苦痛を与えること無く測定が可能であり、かつ疲労負荷時の筋肉疲労および神経疲労の客観的な評価が可能な、加速度脈波検査、血液検査、尿検査、唾液検査、および理学的検査を実施して、本発明の疲労防止剤の抗疲労効果をさらに検証した。
【0072】
(1)被験者
被験者は自発的に志願したボランティアの中から、試験責任医師により本試験の参加に適当と判断された、本試験参加の同意をする健常成人男女(男性12名、女性6名、合計18名)とした。本試験は治験審査委員会(IRB)の承認のもと、ヘルシンキ宣言主旨に従い実施した。
【0073】
(2)試験食
本試験で用いた試験食は、11種類のアミノ酸混合物(以下、「被験食」ともいう)と、対照食(以下、「プラセボ」ともいう)である。その栄養成分組成を表2に、アミノ酸配合組成を表3にそれぞれ示した。
被験食は、11種類のアミノ酸混合物が1粒あたり200mgとなるよう調製されたハードカプセルであり、プラセボは、11種類のアミノ酸混合物が含有されていないハードカプセルとした。また、IRBにおいて官能試験を実施し、風味、香りなどの官能面やパッケージなどにより、被験食とプラセボが識別不能であることを確認した。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
(3)試験方法
A.試験デザイン
試験は二重盲検法を採用し、プラセボ対照の2試験区クロスオーバー試験とした。試験期間は、前観察期間1週間、検査日、摂取期間1週間、身体負荷日を4週間隔で2回の、合計約6週間とした(図1参照)。被験者には、身体作業負荷前1週間の、毎日朝食後および負荷当日の身体作業負荷開始直前に、試験食を5粒ずつ摂取させた。なお、被験者には、試験期間中、それまでの食生活および運動などの日常生活を変えないように指導した。
【0077】
B.身体作業による疲労負荷の方法
呼吸代謝測定システム AE-300S(ミナト医科学株式会社)およびエルゴメーター 75XL-IIME(コンビウェルネス株式会社)を用いて、無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold:AT)を前観察期間前に測定し、負荷当日の身体作業負荷は、AT時心拍数の80%を目標とした負荷強度で4時間(1時間×4セット)エルゴメーターを漕いでもらった。
なお、負荷開始10分前に、カロリー(ブドウ糖として75g)補給のため、トレーラン G75(味の素ファルマ(株))を1本(225ml)摂取してもらった。
【0078】
C.試験項目
(a)加速度脈波検査
摂取期間の開始日および負荷当日の試験食摂取前、負荷開始4時間後、および回復4時間後に、加速度脈波計アルテットC(株式会社ユメディカ)により加速度脈波を測定した。測定時間は2分を1回とした。
(b)血液検査
摂取期間の開始日および負荷当日の試験食摂取前、負荷開始30分後(負荷開始30分後に実施する10秒間の高負荷試験後)、負荷開始4時間後、および回復4時間後に採血を行い、血液検査を実施した。検査項目は、アミノ酸20種類を含むアミノ酸関連物質41種類の濃度、および血液生化学検査37項目とした。
(c)尿検査
負荷当日に、負荷4時間中の尿を全量採取し、尿中のバニルマンデル酸、ホモバニリン酸、およびクレアチニンの濃度を測定した。
(d)唾液検査
負荷当日の試験食の摂取前、負荷開始2時間後、負荷開始4時間後、および回復4時間後に唾液を採取して、唾液中のアミラーゼ、コルチゾール、クロモグラニンA、および総タンパク質の濃度を測定した。
(e)理学的検査
摂取期間の開始日および負荷当日の試験食の摂取前、負荷開始2時間後、負荷開始4時間後、および回復4時間後に、血圧、脈拍、体温、および体重を測定した。
【0079】
D.試験結果
(a)加速度脈波検査
各測定項目のうち、t検定の危険率5%以下で有意差の認められた測定項目は、下記の通りであった。
被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、負荷当日の試験食の摂取前(0hr)で脈拍数の有意な低下、負荷開始4時間後(4hr)でTazの有意な延長、e/aの有意な低下、回復4時間後(8hr)で血管老化偏差値の有意な低下、Waveform index I、d/a、a-a間隔変動係数、a-a間隔標準偏差、a-a間隔変動幅の有意な上昇がみられた。また、摂取前値からの変化において、変化量(0hr-摂取前)で脈拍数の有意な低下、Taaの有意な延長、変化量(4hr-摂取前)でTazの有意な短縮抑制、Tabの有意な延長がみられた。さらに、負荷時の変化において、変化量(8hr-4hr)で血管老化偏差値の有意な上昇抑制、Waveform index Iの有意な低下抑制、Tazの有意な短縮がみられた。
【0080】
周波数解析では、被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、摂取開始日(摂取前)でLF%-MEMの有意な上昇、負荷当日の試験食の摂取前(0hr)でLF-FFT、LF%-FFTの有意な上昇、負荷開始4時間後(4hr)でLF%-MEMの有意な低下、LF-FFT、HF-MEMの有意な上昇、回復4時間後(8hr)でLF-FFT、TotalP-MEM、TotalP-FFTの有意な上昇がみられた。また、摂取前値からの変化において、変化量(4hr-摂取前)でLF%-MEMの有意な低下がみられた。さらに、負荷時の変化において、変化量(4hr-0hr)でLF%-MEMの有意な上昇抑制、LF%-FFTの有意な低下がみられた。
上記の有意差が認められた測定項目のうち、d/a、a-a間隔変動係数、およびLF%-MEMの測定結果(絶対値)を表4に示した。
【0081】
【表4】
【0082】
上記の測定結果において、d/aは末梢血管抵抗性を反映して低下する指標であり、副交感神経の血管拡張作用により上昇することから、被験食が副交感神経活動の低下を抑制して、自律神経機能を調節したものと考えられる。
また、a-a間隔変動係数は副交感神経活動を反映する指標であり、身体疲労負荷により減少することが知られていることから、被験食が疲労による副交感神経活動の低下を抑制して、自律神経機能を調節したものと考えられる。
さらに、LF%-MEMは交感神経活動を反映する指標であり、LF%-MEMの有意な上昇抑制が認められたことから、被験食が交感神経活動の上昇を抑制して、自律神経機能を調節したものと考えられる。
【0083】
(b)血液検査
各測定項目のうち、t検定の危険率5%以下で有意差の認められた測定項目は、下記の通りであった。
被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、摂取開始日(摂取前)で尿酸の有意な低下、負荷開始4時間後(4hr)でトリグリセリド、ナトリウム、クロールの有意な低下、遊離脂肪酸の有意な上昇がみられた。また、摂取前値からの変化において、変化量(0hr-摂取前)で尿酸の有意な上昇、血糖の有意な低下、変化量(4hr-摂取前)で尿酸の有意な上昇、トリグリセリドの有意な上昇抑制、変化量(8hr-摂取前)で尿酸の有意な上昇がみられた。さらに、負荷時の変化において、変化量(4hr-0hr)で単球の有意な減少、変化量(8hr-0hr)でアルカリフォスファターゼ、カルシウムの有意な低下、遊離カルニチンの有意な上昇、変化量(8hr-4hr)でクロールの有意な上昇がみられた。
【0084】
アミノ酸分析では、被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、摂取開始日(摂取前)でプロリン/総アミノ酸比の有意な上昇、負荷開始0.5時間後(0.5hr)でチロシン/総アミノ酸比、芳香族アミノ酸/総アミノ酸比の有意な上昇、負荷開始4時間後(4hr)でチロシン、チロシン/総アミノ酸比の有意な上昇、回復4時間後(8hr)でチロシン/総アミノ酸比、芳香族アミノ酸/総アミノ酸比の有意な上昇がみられた。また、摂取前値からの変化において、変化量(8hr-摂取前)でトリプトファン/総アミノ酸比、トリプトファン/LNAA比の有意な上昇抑制がみられた。さらに、負荷時の変化において、変化量(4hr-0hr)でリジン/総アミノ酸比、タウリンの有意な上昇、変化量(8hr-0hr)でシスチンの有意な低下抑制、変化量(8hr-4hr)でシスチン、フェニルアラニン/総アミノ酸比の有意な上昇、タウリンの有意な低下がみられた。
上記の有意差が認められた測定項目のうち、トリグリセリドおよび遊離脂肪酸濃度の測定結果(絶対値)を表5に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
上記の測定結果において、トリグリセリドの有意な低下、および遊離脂肪酸の有意な上昇が認められたことから、被験食が貯蔵脂肪をエネルギー源となる遊離脂肪酸へ分解(脂肪燃焼)することを促進して、筋肉への負荷の増大に伴うエネルギー代謝の変化に対応して、エネルギー供給を調節したものと考えられる。
【0087】
(c)尿検査
被験食群はプラセボ群に対して、t検定の危険率5%以下で有意差は認められなかった。
【0088】
(d)唾液検査
各測定項目のうち、t検定の危険率5%以下で有意差の認められた測定項目は、下記の通りであった。
被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、負荷開始4時間後(4hr)でアミラーゼの有意な低下、回復4時間後(8hr)でアミラーゼ、唾液タンパクの有意な低下がみられた。また、負荷時の変化において、変化量(4hr-0hr)でアミラーゼの有意な上昇抑制、変化量(8hr-0hr)でアミラーゼ、唾液タンパクの有意な上昇抑制がみられた。
上記の有意差が認められた測定項目のうち、アミラーゼ(AMY)の測定結果(絶対値および変化量)を表6に示した。
【0089】
【表6】
【0090】
上記の測定結果において、唾液中のアミラーゼ濃度は、交感神経活動を反映する指標であり、アミラーゼ濃度の有意な上昇抑制が認められたことから、被験食が交感神経活動の上昇を抑制して、自律神経機能を調節したものと考えられる。
【0091】
(e)理学的検査
各測定項目のうち、t検定の危険率5%以下で有意差の認められた測定項目は、下記の通りであった。
被験食群はプラセボ群に対して、絶対値において、摂取開始日(摂取前)で体温の有意な上昇がみられた。また、摂取前値からの変化において、変化量(0hr-摂取前)で脈拍、体温の有意な低下、変化量(2hr-摂取前)で拡張期血圧の有意な低下、変化量(8hr-摂取前)で体温の有意な上昇抑制がみられた。さらに、負荷時の変化において、変化量(2hr-0hr)で拡張期血圧の有意な低下がみられた。
【0092】
上記表4および6の結果より、本発明の実施例5の疲労防止剤が負荷時および負荷後の回復時において、自律神経機能を調節し、被験者の精神的な負担感を緩和して、神経疲労の防止および回復に効果を有することが推認できる。
また、上記表5の結果より、本発明の実施例5の疲労防止剤が負荷時において、脂肪燃焼を促進して、エネルギー源となる遊離脂肪酸の供給を増加させ、被験者の筋肉疲労の防止および回復に効果を有することが推認できる。
さらに、上記のヒトを対象とした抗疲労効果の検証試験では、本発明の実施例5のアミノ酸組成物の摂取期間における摂取量が1000mg/day(被験者の平均体重65.3kgより算出すると15.3mg/kg/day)と極めて低量であるにも関わらず、上記のようにヒトの筋肉疲労および神経疲労の防止および回復に効果を有することが推認できることから、投与量を増加することにより、さらに高い効果が得られるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
上記のように、本発明によるアミノ酸組成物を含んでなる疲労防止剤は、筋肉疲労と神経疲労との双方を同時に防止するという、高い疲労防止効果を提供することができる。また、従来の運動能力の向上などを目的とするアミノ酸組成物と比較して、より少ない種類のアミノ酸からなる組成物であるため、その調製に必要な原材料の種類が減り、工業的にも経済的にも優れた効果を奏する。したがって、特に機能性のアミノ酸組成物の分野において、産業上の利用価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1】抗疲労効果検証試験の試験スケジュールを示す図である。
図1