【0008】
一般的にマイクロアーク型処理の電解液は、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水ガラス等で構成される。このような電解液で形成したアノード酸化皮膜にはナトリウム、カリウムが取り込まれるので、真空雰囲気下で処理を行う真空装置の構成部材の表面処理としては適当ではない。
これに対して、本願発明では、アルカリ金属
とアルミニウムに対する安定度定数が9以上のアミノカルボン酸アニオンを含まない電解液で火花放電を伴うマイクロアーク型のアノード酸化処理を行うようにしたものである。
具体的に、電解液としては、リン酸アンモニウム塩、ほう酸アンモニウム塩及び有機酸アンモニウムの塩(アルカリ金属を含むものを除く。)の単独又は2種以上の混合させた電解液に、アンモニア、ヒドラジン、エタノールアミン及び炭酸アンモニウムのうちの少なくとも1つを添加し、pH7.5〜11としたアルカリ性溶液を使用する。
有機酸アンモニウムの塩としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びデカンジカルボン酸等のHOOC(CH
2)
nCOOHで表せる鎖状ジカルボン酸の塩や、シュウ酸、タルトロン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、りんご酸及び酒石酸等のその他のジカルボン酸の塩、或いは、フタル酸、ニトロフタル酸、テトラヒドロフタル酸及びボロジサリチル酸等の環式ジカルボン酸の塩を使用することができる。
【0009】
アンモニア、ヒドラジン、エタノールアミン及び炭酸アンモニウムの何れの添加物も含まれない電解液を使用すると、絶縁破壊が生じる電圧まではバリア型アノード酸化皮膜が形成され、当該電圧以上に電圧を上昇させると火花放電が生じるが、絶縁破壊が局所的に集中して被処理物の全面に絶縁破壊が散ることがなく、酸化皮膜に班やムラが生じたり、酸化皮膜の膜厚を数μm程度までしか成長させることができなくなる。また、電圧上昇曲線に異常な振れが生じ、均一な皮膜を形成することができなくなる。また、更に、400V以上の電圧を印加した場合に、電圧の上昇速度が遅くなり、強固な酸化皮膜が形成できない、或いは、処理時間が長くなるという問題がある。
このため、本願発明では、アンモニア、ヒドラジン、エタノールアミン及び炭酸アンモニウムの少なくとも何れかを、電解液のpHが7.5〜11となるように調製しながら添加してアノード酸化処理を行うようにしている。
これにより、放電が分散し、アノード酸化処理の処理開始から1000秒までの電圧の乱れが少なくなり安定した電圧上昇と処理開始の電圧が安定させることができ、1000秒以降の放電処理の間も電圧の上昇幅が少なく安定した放電処理が可能となる。その結果として、溶岩状に不規則な形態で、且つ、酸化皮膜の厚さは全体に均一且つ比較的厚く(膜厚1μm〜30μm程度、特に、20μm〜30μm)形成することができる。また、目標とする電圧値に達するまでの時間が短くなり、処理時間を短縮することができる。
また、リン酸アンモニウム塩、ホウ酸アンモニウム塩及び有機酸アンモニウム塩を溶液中に2〜15重量%含有することが好ましい。2重量%未満であると、処理電圧が高くなり、15重量%を超えると形成された皮膜にムラが生じ均質な皮膜が形成できないからである。
また、pH7.5未満では電圧が上昇せずマイクロアーク酸化皮膜を成長させることができず、pH11を超える溶液は、本願で使用する薬剤を混合させても得ることが困難で液性の維持および管理が難しくなるからである。
【実施例】
【0012】
[実施例1〜30]
電解液Aとして、アジピン酸二アンモニウム、四ほう酸アンモニウム、又は、リン酸三アンモニウムを用い、電解液Bには、ヒドラジン、トリエタノールアミン、アンモニア、モノエタノールアミン又は炭酸アンモニウムを用い、下記の表1に示した電解液Aと電解液Bを混合した電解液を用意した。
アルミニウム合金A6061の30mm×40mm×2mmの板状試料を、実施例1〜30として用意した電解液に浸漬した。試料側をプラス極とし、対極のマイナス極にカーボン電極を取り付けた。一定電流密度4A/dm
2を保持しながら、最大電圧410V〜450Vまで火花放電を伴うアノード酸化処理を行い、設定した最大電圧に電圧が到達後、最大電圧を保持しながらアノード酸化処理を30分行った。
実施例1〜30の条件でアノード酸化処理を行ったときの電解液のpH、アノード酸化処理により成長させた酸化皮膜の膜厚、及び、ガス放出量を表1に示した。
尚、ガス放出量は、昇温脱離法により室温から300℃まで昇温する間の単位面積当たりのガス放出量を示した。
【0013】
【表1】
【0014】
実施例との比較のために、下記表2に示す比較例1〜6を用意した。尚、実施例に対する比較考察に関しては、表2以降に具体的に説明する。
【表2】
【0015】
[比較例1]
電解液として15wt.%の硫酸を用意した。アルミニウム合金A6061の30mm×40mm×2mmの板状試料を電解液に浸漬した。試料側をプラス極とし、対極のマイナス極にカーボン電極を取り付けた。一定電流密度2A/dm
2でアノード酸化処理を行い、厚さ15μmのポーラス型アノード酸化皮膜を形成した。処理終了時点での電圧は20Vであった。ガス放出量を実施例と比較すると、実施例1〜30の全てが、比較例1の約1/10以下のガス放出量であった。
【0016】
また、
図1(a)に本願実施例の代表的な表面形態として、実施例1の表面の走査電子顕微鏡像、同図(b)に比較例1の表面の走査電子顕微鏡像を示した。
実施例1では、表面は溶岩状の形態をしており、ところどころ空孔が存在した様な酸化皮膜形態であるが、比較例1は一般的なポーラス型のアノード酸化処理の形態であった。
【0017】
[比較例2]
電解液に3g/L−りん酸三ナトリウム、3g/L水酸化カリウム、3g/L−メタケイ酸ナトリウムの混合液を用意した。アルミニウム合金A6061の30mm×40mm×2mmの板を電解液に浸漬し実施例と同様な方法で火花放電を伴うアノード酸化処理を行い、試料表面に酸化皮膜を形成した。
図1(c)に比較例2の表面の走査電子顕微鏡像を示す。皮膜形態は、実施例1と同様であった。
下記表3に実施例1と比較例2の酸化皮膜の構成成分を電子線μアナライザー(EPMA)で分析した結果を示す。比較例2では、酸化皮膜中に電解液のアニオンである、ナトリウム、カリウムが比較的大量に検出された。一方、実施例1では、電解液中にナトリウム、カリウムを含まないので、形成された酸化皮膜中にもナトリウム、カリウムは存在しなかった。
この結果から、半導体、フラットパネルなどの製造工程中における成膜やエッチングなどの際にはナトリウム、カリウムは最も嫌われる不純物であるが、本発明の方法による耐食処理を行った部材はナトリウム、カリウムが含有されず、半導体、フラットパネルなどの製造工程にも使用することができることが分かった。
【0018】
【表3】
【0019】
[比較例3〜5]
表2に示したようにそれぞれの電解質を単独で溶解した電解液を用意した。アルミニウム合金A6061の30mm×40mm×2mmの板状試料を電解液に浸漬した。試料側をプラス極とし、対極のマイナス極にカーボン電極を取り付けた。実施例と同様な電流密度で同様な条件で火花放電を伴うアノード酸化処理を行おうとした。
比較例3のアジピン酸二アンモニウム単独の電解液を用いた場合、最大電圧は450Vまで上昇させることはできるものの、絶縁破壊が不安定になり、
図2に示すように、処理開始から1000秒以内(具体的には400秒〜700秒後)に電圧の上昇カーブが途中でふらついた(20Vを超える電圧降下が生じた)。この現象は不規則にかつ処理回数を増やすごとに顕著に現れた。また、試料の絶縁破壊の位置が局所的であり、アジピン酸二アンモニウム単独の電解液では均一で安定な処理ができないことが分かった。一方、実施例1の電圧上昇カーブは比較例3に比べふらつきが少なく処理回数を重ねても安定していた。
比較例4の四ほう酸アンモニウム単独の電解液を用いた場合、最大電圧は450Vまで上昇させることができ、電圧の上昇カーブも安定であった。しかし、処理回数を重ねると、絶縁破壊が不安定になり、アジピン酸二アンモニウム単独電解液と同様に電圧の上昇カーブが途中でふらつく現象が起きた。液の寿命に問題があることが分かった。実施例15の場合の電圧曲線は処理回数を重ねても
図2の実施例1と同様に電圧の上昇が安定的であった。
比較例5のリン酸三アンモニウム単独の電解液を用いた場合の電圧上昇曲線を
図3に示す。比較例5では電圧の上昇が他の電解液に比べ遅く、しかも、処理開始から1000秒以内に20Vを超える電圧降下が生じた。ようやく410Vまで上昇したところで、急に電流が流れなくなりその結果電圧が急上昇(1秒当たり60V以上の上昇)するという現象が起きた。更に再び電流が流れだし電圧が急降下した。著しく安定性を欠く処理であった。実施例21の電圧曲線は、安定的に電圧が上昇しており、安定な処理が可能になることが分かった。
【0020】
[比較例6]
20wt.%−アジピン酸二アンモニウム、10vol.%−トリエタノールアミンを混合させた電解液を用意した。アルミニウム合金A6061の30mm×40mm×2mmの板状試料を電解液に浸漬した。試料側をプラス極とし、対極のマイナス極にカーボン電極を取り付けた。一定電流密度4A/dm
2を保持しながら、最大電圧400V程度まで火花放電を伴うアノード酸化処理を行い、設定した最大電圧に電圧が到達後、最大電圧を保持しながら一定電圧でアノード酸化処理を30分行った。最大電圧400Vとしたのは、絶縁破壊が不安定になり電圧がふらつき、これ以上電圧を上昇させることができなかったためである。絶縁破壊の発生個所も局所的であり、皮膜形成した試料を目視で観察したところ、形態にムラがあり均一で安定な処理ができなかった。これはアジピン酸二アンモニウムの濃度が高いことに起因していると考えられる。
【0021】
尚、上記実施例1〜30の処理において、最大の電圧に到達した後に、電圧を維持した状態でアノード酸化処理を30分間維持するようにした。
参考として、実施例1の処理過程の電流及び電圧の関係をグラフにしたものを
図4に示す。
図4は、定電圧処理を30分間継続した例を示すが、このグラフから定電圧処理開始から15分程度で電流値は半減していることがわかるので、定電圧処理は最低15分行えば良いことが分かった。