特許第5799154号(P5799154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799154スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799154
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20151001BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20151001BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20151001BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   C04B35/00 J
   C04B37/02 B
   C04B41/88 E
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-230600(P2014-230600)
(22)【出願日】2014年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-132013(P2015-132013A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2014年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-257820(P2013-257820)
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX日鉱日石金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】館野 諭
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−030431(JP,A)
【文献】 特開2003−305121(JP,A)
【文献】 特開2012−132065(JP,A)
【文献】 特表平10−509479(JP,A)
【文献】 特開2009−242915(JP,A)
【文献】 特開平11−106904(JP,A)
【文献】 特開平07−048667(JP,A)
【文献】 特表2008−523251(JP,A)
【文献】 特開昭57−188680(JP,A)
【文献】 特開平06−346215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00
C04B 37/02
C04B 41/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック製の焼結体と支持体とが接合されたスパッタリングターゲットであって、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下であり、さらに前記焼結体の支持体側の表面全体に幅0.1μm以上1μm以下の微細溝を有し、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層と、さらにその上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層とが形成され、支持体と第2層とがインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金の接合材によって接合されてなる、積層した構造を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
支持体及びセラミックス製焼結体が平板であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
支持体は棒状又は円筒状であり、かつ前記セラミックス製焼結体が円筒状であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
第1層が5〜20μm、第2層が5〜10μmの厚さにて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
焼結体がITO、IZO又はIGZOの、セラミックス製焼結体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
支持体が、無酸素銅、銅合金、Ti、Ti合金又はSUSであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
第1層と焼結体との間の剥離強度が、170〜200℃の加熱処理後で10MPa以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
セラミック製の焼結体と支持体とが接合されたスパッタリングターゲットの製造方法であって、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaを0.5μm以上4.0μm以下とし、支持体側の表面を電解粗化することにより、焼結体の支持体側の表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成し、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層を形成し、次にその表面上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層を形成し、支持体と第2層とを、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金の接合材によって接合することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
支持体及びセラミックス製焼結体が平板であることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
支持体は棒状又は円筒状であり、かつ前記セラミックス製焼結体が円筒状であることを特徴とする請求項8に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
めっきにより、第1層を5〜20μmの厚さに、第2層を5〜10μmの厚さに形成することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
焼結体として、ITO、IZO又はIGZOのセラミックス製焼結体を使用することを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
支持体として、無酸素銅、銅合金、Ti、Ti合金又はSUSを使用することを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項14】
第1層と焼結体との間の剥離強度を、170〜200℃の加熱処理後に、10MPa以上とすることを特徴とする請求項8〜13のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITO、IZO、IGZO等の膜形成に好適なスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。特に、ターゲットのスパッタリング初期から終了時にかけて、膜特性の変化が少ないITO、IZO、IGZO等スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【0002】
ITO(インジウム−錫の複合酸化物)膜は、液晶ディスプレーを中心とする表示デバイスにおける透明電極(導電膜)として、広く使用されている。このITO膜を形成する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法など、一般に物理蒸着法と言われている手段によって行われている。特に操作性や被膜の安定性からマグネトロンスパッタリング法を用いて形成することが多い。
インジウム−亜鉛酸化物(In−ZnO:一般にIZOと称呼されている)スパッタリングターゲットは、液晶表示装置の透明導電性薄膜やガスセンサーなどに広く使用されている。
【0003】
また、アクティブマトリックス型液晶表示装置等の表示素子には、各画素駆動用のシリコン系材料を活性層とする薄膜トランジスタが使用されているが、画素の微細化に伴いトランジスタの占有領域が増えることによる開口率の減少、高温成膜が必要等の欠点から、近年、透明酸化物半導体を用いた薄膜トランジスタの開発が行われている。
透明酸化物半導体は、スパッタリング法で大面積へ均一成膜可能、高移動度等の観点から注目されており、中でも、インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素を構成元素とするIn−Ga−Zn−O系材料(以下、「IGZO」と記載する。)からなる非晶質IGZO膜の移動度は、アモルファスシリコンの移動度より高く、非晶質IGZO膜を活性層に用いた電界効果型トランジスタはオンオフ比が大きく、オフ電流値が低い等の特性を有するため、有望視されている。
【0004】
スパッタリング法による膜の形成は、陰極に設置したターゲットにArイオンなどの陽イオンを物理的に衝突させ、その衝突エネルギーによってターゲットを構成する材料を放出させて、対面している陽極側の基板にターゲット材料とほぼ同組成の膜を積層することによって行われる。スパッタリング法による被覆法は、処理時間や供給電力等を調整することによって、安定した成膜速度で数nmの薄い膜から数十μmの厚い膜まで形成することができるという特徴を有している。
【0005】
スパッタリングターゲットは、通常支持体に載置された形態で存在するが、平板状の場合や円筒形の場合がある。このターゲットは通常焼結体で製造されるが、支持体に適度な接合強度をもって、接合(接着)する必要がある。
接合強度が弱い場合には、ターゲットの操作、例えばスパッタリング装置への搬送又は装着時、又はスパッタリング時の熱影響を受け、ターゲットに歪が発生し、ターゲットが変形したり、亀裂が入ったり、場合によっては支持体から剥離する場合もある。
ターゲットの歪や亀裂は、スパッタリング時にアーキングの発生を伴い、スパッタリングによる成膜のばらつきを発生し、品質を低下させるという問題がある。
【0006】
このように、支持体へのターゲットの接合は重要であるが、公知技術には、次の例がある。下記特許文献1には、円筒形状のセラミックス焼結体からなるターゲット材20の内周面に、または円筒形状のセラミックス焼結体からなるターゲット材の内周面と円筒形支持基材10の外周面の両方に、ニッケルまたは銅からなる第1の下地層30を形成し、その第1の下地層の上に、スズからなる第2の下地層40を形成し、次いで、そのターゲット材を円筒形支持基材の外側に配置し、両者を接合材で接合し、ターゲットを製造することが開示されている。
この特許文献1は、十分な接合率および接合強度が得られ、スパッタリング中に熱の影響を受けても割れの発生を著しく低減できるスパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを課題とするというものである。
【0007】
また、下記特許文献2には、スパッタリングターゲット材とバッキングプレートとをハンダ付け法により接合するスパッタリングターゲットの製造方法において、少なくともスパッタリングターゲット材接合表面にハンダ皮膜層を電気メッキ法により形成することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法が開示されている。この場合も、ターゲット材とバッキングプレートとをハンダ付け法により接合するターゲットの製造方法において、接合強度が高水準で且つ接合強度のバラツキが小さいターゲットの製造方法を提供することを課題としている。
【0008】
また、下記特許文献3には、チタンまたはチタン合金よりなるターゲット材を銅、銅合金、チタンおよびチタン合金の少なくとも一種よりなるバッキングプレート材に接合するに際し、チタンまたはチタン合金に下地処理としてニッケル或いは銅をメッキ処理した後、ターゲット材およびバッキングプレート材両面を超音波メタライジングし、その後はんだで接合することを特徴とするスパッタリング用ターゲットのはんだ付け方法が開示されており、 極めて接合強度の高いスパッタリング用ターゲットを得ることができると記載されている。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1−3については、十分な接合強度を有しておらず、ターゲットの操作時、例えばスパッタリング装置への搬送又は装着時、又はスパッタリング時の熱影響を受け、ターゲットに歪が発生し、ターゲットが変形したり、亀裂が入ったり、場合によっては支持体から剥離する場合もあるという問題が存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−132065号公報
【特許文献2】特開平11−106904号公報
【特許文献3】特開平8−67978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、スパッタリングターゲットは、通常支持体に載置された形態で存在するが、平板状の場合や円筒形の場合がある。このターゲットは、通常焼結体で製造されるが、この焼結体ターゲットを支持体に適度な接合強度をもって接合(接着)し、接合強度を高め、スパッタリング装置への搬送又は装着時のターゲットの操作における剥離等を抑制し、又はスパッタリング時の熱影響を受けた場合でも、ターゲットの歪の発生、ターゲットの変形、亀裂、支持体からの剥離、を効果的に抑制することを目的とする。これにより、スパッタリング時にアーキングの発生やパーティクルの発生を抑制し、スパッタリングによる成膜のばらつきを抑制し、品質を向上させたスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる知見を基礎として、本発明は以下の発明を提供する。
1)セラミック製の焼結体と支持体とが接合されたスパッタリングターゲットであって、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下であり、さらに前記焼結体の支持体側の表面全体に幅0.1μm以上1μm以下の微細溝を有し、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層と、さらにその上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層とが形成され、支持体と第2層とがインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金の接合材によって接合されてなる、積層した構造を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【0013】
2)支持体及びセラミックス製焼結体が平板であることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット。
【0014】
3)支持体は棒状又は円筒状であり、かつ前記セラミックス製焼結体が円筒状であることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット。
【0015】
4)第1層が5〜20μm、第2層が5〜10μmの厚さにて形成されていることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット。
5)焼結体がITO、IZO又はIGZOの、セラミックス製焼結体であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【0016】
6)支持体が、無酸素銅、銅合金、Ti、Ti合金又はSUSであることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
ことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【0017】
7)第1層と焼結体との間の剥離強度が、170〜200℃の加熱処理後で10MPa以上であることを特徴とする上記1)〜6)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【0018】
8)セラミック製の焼結体と支持体とが接合されたスパッタリングターゲットの製造方法であって、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaを0.5μm以上4.0μm以下とし、支持体側の表面を電解粗化することにより、焼結体の支持体側の表面に0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成し、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層を形成し、次にその表面上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層を形成し、支持体と第2層とを、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金の接合材によって接合することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【0019】
9)支持体及びセラミックス製焼結体が平板であることを特徴とする上記8)に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【0020】
10)支持体は棒状又は円筒状であり、かつ前記セラミックス製焼結体が円筒状であることを特徴とする上記8)に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【0021】
11)めっきにより、第1層を5〜20μmの厚さに、第2層を5〜10μmの厚さに形成することを特徴とする上記8)〜10)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【0022】
12)焼結体として、ITO、IZO又はIGZOのセラミックス製焼結体を使用することを特徴とする上記8)〜11)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【0023】
13)支持体として、無酸素銅、銅合金、Ti、Ti合金又はSUSを使用することを特徴とする上記8)〜12)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【0024】
14)第1層と焼結体との間の剥離強度を、170〜200℃の加熱処理後に、10MPa以上とすることを特徴とする上記8)〜13)のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
以上の様に、本発明によれば、スパッタリングターゲットは、焼結体ターゲットを支持体に適度な接合強度をもって接合(接着)し、接合強度を高め、スパッタリング装置への搬送又は装着時のターゲットの操作における剥離等を抑制し、又はスパッタリング時の熱影響を受けた場合でも、ターゲットの歪の発生、ターゲットの変形、亀裂、支持体から剥離、を効果的に抑制することを可能とする。これにより、スパッタリング時にアーキングの発生やパーティクルの発生を抑制し、スパッタリングによる成膜のばらつきを発生し、品質を向上させたスパッタリングターゲットを提供することができ、スパッタリングターゲットを高品位かつ効率的に作製することができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】電解粗化(脱脂)処理したITO焼結体の表面組織写真と、組織内部に形成された溝の説明図である。
図2】電解粗化(脱脂)の電流密度を変えて処理したITO焼結体の表面組織写真(4種)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の、スパッタリングターゲットの一つの形態は、支持体に接合されたセラミックス製の焼結体からなる、スパッタリングターゲットである。支持体(バッキングプレート、バッキングチューブ)の材料としては特に制限はないが、通常無酸素銅、Cu−Cr(Cr:0.5−1.5wt%)合金等の銅合金、Ti(合金を含む)又はSUSを好適に使用することができる。
焼結体の材料としても、特に制限はないが、ITO、IZO又はIGZOなどの、セラミックス製焼結体が好適な材料である。
【0028】
上記の通り、材料の種類と特性が異なるセラミック製の焼結体と支持体とを接合し、ターゲットを作製する際に問題となるのは、スパッタリング装置への搬送又は装着時のターゲットの操作における剥離等、又はスパッタリング時の熱影響を受けてターゲットに歪が発生し、ターゲットの変形、亀裂、支持体から剥離することである。
外観から見て亀裂が見えない場合でも、内部に歪が存在する場合には、スパッタリング時にアーキングの発生やパーティクルが多く発生し、スパッタリングによる成膜のばらつきを発生して品質が低下する場合がある。
【0029】
本願発明は、上記の問題を解決するための手法を提供するものである。この場合、ターゲットの形状や使用形態も多様化しているので、それに対応したターゲットを準備することが必要である。本願発明の主要な形態の一つとして、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaを0.5μm以上4.0μm以下とし、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる下地層を形成し、当該支持体と前記下地層とをインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金層で接合して、ターゲットと支持体が積層した構造のスパッタリングターゲットとすることである。
これによって、ターゲットと下地層との相互間及び被覆層並びに支持体との接合強度を効果的に高めることができる。
【0030】
また、他の主要な形態の一つとして、セラミックス製の焼結体の支持体側の表面粗さRaを0.5μm以上4.0μm以下とし、その表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層と、さらにその上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層とを形成し、支持体と第2層とをインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金の接合材によって接合する構造を採ることである。これによって、積層した構造を有するセラミック製の焼結体からなるターゲットと支持体とが積層した構造のスパッタリングターゲットとする。
【0031】
前者の第1層は、通常めっきによって形成される層であり、後者の第2層は、接合材(ボンディング材)によって形成される層である。双方は材料の組成が非常に近いか又は同一であるが、一方はめっきであり、他方は接合材(ボンディング材)を用いて層を形成している通り、層の形成手段が異なる。
以上によって、ターゲットと下地層との相互間及び被覆層(第1層、第2層)間並びに、これらと支持体との接合強度を効果的に高めることができる。これらの層構造は、支持体との密着性を高める機能を有する。
【0032】
従来は、特許文献1のように、第2層をスズとすることが開示されるが、一般的な接合材であるインジウムとの間に合金を生じ、さらに組成比によっては低融点となるため、耐熱性の面で非常に劣ることが分かった。そこで、本発明者らは、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金とすることで、耐熱性の面で克服することができた。また、このように、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金は、接合材(ボンディング材)であるインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金との濡れ性が非常に良く、ボンディング不良も軽減される。
【0033】
支持体と焼結体の接合の際に、接合材を使用する接合、加熱圧着(拡散接合を含む)による接合等を使用することができ、接合方法に特に制限はない。前記接合材の好適な材料としては、インジウムメタル(In−Sn合金、In−Ga合金、In−Cu合金等のインジウムを80at%以上含有するインジウム合金材を含む)を挙げることができる。以下で使用するボンディング材料は、同様の材料を使用することができる。
【0034】
上記の通り、従来は単に金属をメッキするだけに留まり、十分な接合強度を得ることができなかったが、焼結体の表面の表面粗さRaを0.5μm以上4.0μm以下とすることで、その上に形成する層との接合強度を高めることができる。表面粗さがこれらの値を超える粗さとすると、セラミックス焼結体の強度に影響を及ぼし、クラックが発生する恐れがある。一方、これらの値よりも低い粗さとすると密着性が低下し、好ましくない。
【0035】
また、前記表面粗さを最適化する方法として、電解粗化する方法がある。これにより、図1及び図2に示すように、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができる。これにより、第1層との接合強度がさらに高まる。図2は、電解粗化(脱脂)の電流密度を変えて処理したITO焼結体の表面組織写真(4種)であるが、その写真の一つを採って、粗化面の組織に形成された溝を説明したのが図1である。
図1のAは組織写真であり、模式図Bは、前記組織写真Aの溝を説明したもので、図1Bの点線で示している部分が、粒子界面の溝に相当する(図1のBの矢印部分)。二値化して溝のみを表示したのが図1のCである。溝は不定形であり、主に粒子界面に沿って無数に存在する。
【0036】
厳密にこの溝を定義すれば、溝の任意の一点を固定した場合に、この点を起点とした溝の最小幅が0.1μm以上1μm以下であることを意味する。溝の幅が0.1μm未満であると、その効果が薄く1μmを超えると、強度が低下する虞があるので、上記の通り0.1μm以上1μm以下であるのが望ましい。
電解粗化(脱脂)を行うと、図2に示すように、殆どが0.1μm以上1μm以下の溝が形成される。0.1μm未満の溝が存在していても、また1μmを超える溝が少量存在していても、多くが0.1μm以上1μm以下の溝であれば、特に問題となるものではないことが容易に理解できるであろう。
【0037】
電解粗化処理の詳細を説明すると、この処理により表面組織の一部が溶出し、幅0.1μm以上1μm以下の溝が形成される。溶出しやすい部分は、主に粒子界面であるが、IGZOなどは、粒子内でも部分的に溶出する。この結果、組織観察すると、冷却器のフィンのような組織を有している部分が多数存在する。電気Cuめっき膜の密着性評価の際、剥離しためっき膜の裏側(セラミックスと密着している部分)の表面組織観察をすると、電気Cuめっき膜が、当該溝に十分に入り込んでいるのが観察されるので、このことからも、微細な溝を確認することができる。
【0038】
以上により、スパッタリング装置への搬送又は装着時のターゲットの操作における剥離等を抑制し、又はスパッタリング時の熱影響を受けた場合でも、ターゲットの歪の発生、ターゲットの変形、亀裂、支持体から剥離、を効果的に抑制することが可能となる。そして、スパッタリング時にアーキングの発生やパーティクルの発生を抑制し、スパッタリングによる成膜のばらつきを発生し、品質を向上させたスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0039】
本発明のスパッタリングターゲットは、平板のバッキングプレートからなる支持体の表面に、平板状のセラミックス製ターゲットを配置したスパッタリングターゲットとすることができる。
また、本発明のスパッタリングターゲットは、棒状又は円筒状のバッキングチューブからなる支持体の外側又は内側に、円筒状のセラミックス製ターゲットを配置したスパッタリングターゲットとすることができる。このターゲットは円筒状であるが、層構造は、前記平板状のターゲットと同様の層構造を持つので、支持板との密着性を高めることができ、前記平板状のターゲットと同様の効果を有する。
なお、棒状又は円筒状の支持体の材料については、特に制限されるものではないが、無酸素銅、Cu−Cr(Cr:0.5−1.5wt%)合金等の銅合金、ステンレス(SUS)、Ti(合金を含む)が好適な材料である。以下、棒状又は円筒状の支持体を使用する場合は、同様の材料を使用することができる。
【0040】
本願発明に使用するターゲットの材料を、さらに具体的に説明すると、ITO(インジウム、錫、酸素(In−SnO系材料)を構成元素とする複合酸化物)、IZO(インジウム、亜鉛、酸素(In−ZnO系材料)を構成元素とする複合酸化物)、又はIGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素(In−Ga−Zn−O系材料)を構成元素とする複合酸化物)等のセラミックス製ターゲットが好適な材料である。
しかし、これらに制限する必要はない。例えば、ITOについては、ITO中のSnO含有量を2〜36wt.%含有する材料、IZOについては、IZO中のZnOを7〜10.7wt.%含有する材料、IGZOについては、In:Ga:Znを、2:2:1(at%)、又は5:1:4(at%)、又は5:2:3(at%)の材料を使用することができる。
【0041】
前記第1層については、その厚さを5〜20μmとすること、第2層については、その厚さを5〜10μmとすることが、好適な厚さであるが、この範囲を超えて作成することは、特に問題とならない。
めっき膜の厚さが極端に薄くなる場合の問題点としては、バッキングプレート、バッキングチューブなどの支持体とセラミックス材をボンディング材で接合すると、両者の熱膨張差からターゲットには圧縮応力が残り(熱膨張係数:支持体>セラミックス材)、めっき膜の厚さが極端に薄くなると、強度不足からめっき膜が破壊されてしまう可能性がある。逆に、めっき膜を厚くすると、薄膜時には目立たなかった不良が顕在化しまして特性劣化が生じる可能性がある。また、厚膜化による生産性、経済性の悪化も懸念される。
【0042】
また、第1層を積層する焼結体の表面は、電解粗化処理を施すことが、さらに望ましく、その表面粗さは、Raを0.5μm以上4μm以下、Rzを20μm以下とする粗面とするのが良い。また、支持体の表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することが望ましい。これらは、いずれも支持体とスパッタリングターゲットの密着性を向上させる要因となる。また、前記第1層について、焼結体との剥離強度は、170〜200℃の加熱処理後で、10MPa以上を達成することができる。
【0043】
(電解脱脂「粗化処理」の具体例)
好適な電解脱脂の条件(電流密度と処理時間)を表1に示す。粗化量はクーロン量で決まるが、実際の作業では電流密度と処理時間で管理されている。電流密度が低い場合には、微細溝形成が十分進まず、第一層の密着性が低下する。一方、電流密度が高すぎると、表面が必要以上に粗化され、表面粒子の一部が脱粒し、表面組織の強度低下につながる。結果として、電流密度が低い場合と同様に、第一層の密着性低下につながるので、適度な値に調整することが必要である。
【0044】
【表1】
【0045】
(銅電気めっき法)
銅電気めっきは、インジウムめっきと同様に、シアン化銅めっき液、ピロ燐酸銅めっき液、硫酸銅めっき液を使用して銅めっきを行う。
【0046】
(インジウム電気めっきの具体例)
スルファミン酸系インジウムめっき液を使用して行う。
アノードにインジウムを使用し、めっき液としてスルファミン酸からなるめっき液を使用して、電流密度:1.5A/dm以下、処理時間:60分以内、温度:室温、撹拌:有、の条件で行う。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで理解を容易にするための一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明で説明する実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0048】
(実施例1)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表5に示すように、サンドブラスト処理とエッチング処理を組み合わせた粗化を行い、Ra3.88μm、Rz18.54μmの粗面を得た。
第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は6μm、第2層については、膜厚は8μmが得られた。ITOターゲット材の成分組成は、SnO含有量:10.0wt.%、残部Inである。
【0049】
(表面の粗化方法)
上記表面の粗化方法について、詳細を説明する。
ITOターゲット材表面をサンドブラスト処理した後、王水エッチング処理を施し、Ra3.88μm、Rz18.54μmの粗面が得た。これは、電解粗化面とは異なるが、サンドブラスト処理によるマクロな粗化面に、王水エッチングによる微細溝を設けることで、電気Cuめっき膜の密着性を改善することが可能である。
【0050】
(サンドブラスト条件は、次の通りである。)
空気圧:4〜5kgf/cm
ノズル距離:100mm
メディア:アルミナ粒子(種類:ホワイトモランダム 粒子径:約300μm)
(王水エッチング条件は、次の通りである。)
処理時間:5分
処理温度:室温(約25℃)
撹拌:なし
【0051】
(円筒形(ロータリーターゲット)のITOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、ステンレス(SUS)を使用した。ボンディングされる複数のITO焼結体からなるシリンダーの内面に前記粗化処理、積層めっき処理を実施した。
ボンディング装置に、BTとシリンダーを設置する(シリンダーはBTの外側に配置する)。この際、各シリンダーの分割隙間、高さ位置(BTの端部とシリンダーの端部の位置)の調整、芯出し(BT、シリンダーの中心軸が一致するよう調整する)などを行った。
【0052】
溶融Inメタルの酸化防止のために、ロータリーターゲット組立体及び周囲の雰囲気を不活性ガスで置換した。その後、ロータリーターゲット組立体の全体をボンディング温度まで昇温した。
BTとシリンダーの間に溶融Inメタルを充填した(内部に残留している気泡、メタル酸化物を除去するためオーバーフローさせる程度まで充填する)。
次に、溶融Inメタルが十分に充填出来た状態で、溶融Inメタルの充填を停止し、ロータリーターゲット組立体全体を室温レベルまで冷却した。
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98%であり、良好なめっき状態を得ることができた。
【0053】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。
試料(サイズ:30mm×50mm×10mm 積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施した。次に、積層めっき面に引っ張り試験用の支柱をエポキシ系の接着剤で接着し、引っ張り試験機にサンプルを固定し、0.5mm/secの条件で支柱部分を引き上げ、最大荷重の値、支柱部分の面積などから積層めっき膜の引っ張り強度を算出した。
この試験により、サンプルは15MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例2)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra1.77μm、Rz11.35μmの粗面が得られた。またITO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。次に、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は8.2μm、第2層については、膜厚は7.5μmが得られた。ITOターゲット材の成分組成は、SnO2含有量:10.0wt.%、残部Inである。
【0056】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を11.3A/dm、処理時間を1minとして電解粗化を施した。
【0057】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0058】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98.8%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは17.8MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に、上記表2に示す。
【0059】
(実施例3)
円筒形のIZOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra1.62μm、Rz10.71μmの粗面が得られた。またIZO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。
次に、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は6.5μm、第2層については、膜厚は7.5μmが得られた。IZOターゲット材の成分組成は、ZnO含有量:10.7wt.%、残部Inである。
【0060】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を11.3A/dm、処理時間を1minとして電解粗化を施した。
【0061】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0062】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は97.5%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは17MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に、上記表2に示す。
【0063】
(実施例4)
円筒形のIGZOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra3.27μm、Rz19.54μmの粗面が得られた。
またIGZO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は7μm、第2層については、膜厚は7.4μmが得られた。IGZOターゲット材の成分組成は、Ga含有量:29.9wt.%、ZnO含有量:25.9%、残部Inである。
【0064】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を1.13A/dm、処理時間を10minとして電解粗化を施した。
【0065】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、無酸素銅を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0066】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98.5%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは15MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0067】
(比較例1)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化を行い、Ra2.75μm、Rz14.94μmの粗面が得られた。その表面にインジウム電気めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO含有量:10wt.%、残部Inである。
【0068】
(電解粗化処理)
粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を0.75A/dm、処理時間を15minとして電解粗化を施した。
【0069】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、ステンレス(SUS)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0070】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施したところ、Inめっき膜の膨れ、膜剥がれ不良が確認された。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
この不良の原因は、インジウムめっきの場合はめっき粒子が大きいため微細溝に十分入り込んでいないためと考えられる。更にボンディング作業を想定した加熱処理を施すと、微細溝部分に残留している水分、空気が熱膨張して膜剥がれ、膨れ不良となると考えられた。
【0071】
(比較例2)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化を行い、Ra2.52μm、Rz15.93μmの粗面が得られた。その表面に電気銅めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO含有量:10wt.%、残部Inである。
【0072】
(粗化処理)
粗化処理の条件は、実施例1と同様である。
(電気銅めっき)
電気銅めっきの条件は、実施例1と同様である。
【0073】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。
試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施した。次に、積層めっき面に引っ張り試験用の支柱をエポキシ系の接着剤で接着し、引っ張り試験機にサンプルを固定し、0.5mm/secの条件で支柱部分を引き上げ、最大荷重の値、支柱部分の面積などから積層めっき膜の引っ張り強度を算出した。
この試験により、サンプルは20MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。
【0074】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングプレートのボンディング作業)
バッキングプレート(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
これらのシリンダーを用いてボンディング試験を実施したところ、Inメタルの濡れ性が悪く、シリンダーは接合できなかった。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0075】
(比較例3)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化をせずに、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO含有量:10wt.%、残部Inである。
【0076】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、実施例1と同様の、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施したところ、ITO面とCuめっき膜の密着性が不十分なため、全面で剥離が生じた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0077】
(実施例と比較例の総合評価)
上記実施例と比較例の対比から明らかなように、板状又は円筒形の焼結体の表面を所定の粗さの範囲とし、かつ該表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層を形成し、さらにその上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層を形成し、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる接合材によって接合してなる積層体は、焼結体と支持体とが適度な接合強度をもって接合(接着)し、接合強度を高めることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のスパッタリングターゲットは、通常支持体に載置された形態で存在するが、平板状の場合や円筒形の場合がある。焼結体ターゲットを支持体に適度な接合強度をもって接合(接着)し、接合強度を高め、スパッタリング装置への搬送又は装着時のターゲットの操作における剥離等を抑制し、又はスパッタリング時の熱影響を受けた場合でも、ターゲットの歪の発生、ターゲットの変形、亀裂、支持体から剥離、を効果的に抑制することができる。これにより、スパッタリング時にアーキングの発生やパーティクルの発生を抑制し、スパッタリングによる成膜のばらつきを発生し、品質を向上させたスパッタリングターゲットを提供することができるので、産業上の利用価値は高い。
図1
図2