【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで理解を容易にするための一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明で説明する実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0048】
(実施例1)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表5に示すように、サンドブラスト処理とエッチング処理を組み合わせた粗化を行い、Ra3.88μm、Rz18.54μmの粗面を得た。
第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は6μm、第2層については、膜厚は8μmが得られた。ITOターゲット材の成分組成は、SnO
2含有量:10.0wt.%、残部In
2O
3である。
【0049】
(表面の粗化方法)
上記表面の粗化方法について、詳細を説明する。
ITOターゲット材表面をサンドブラスト処理した後、王水エッチング処理を施し、Ra3.88μm、Rz18.54μmの粗面が得た。これは、電解粗化面とは異なるが、サンドブラスト処理によるマクロな粗化面に、王水エッチングによる微細溝を設けることで、電気Cuめっき膜の密着性を改善することが可能である。
【0050】
(サンドブラスト条件は、次の通りである。)
空気圧:4〜5kgf/cm
2
ノズル距離:100mm
メディア:アルミナ粒子(種類:ホワイトモランダム 粒子径:約300μm)
(王水エッチング条件は、次の通りである。)
処理時間:5分
処理温度:室温(約25℃)
撹拌:なし
【0051】
(円筒形(ロータリーターゲット)のITOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、ステンレス(SUS)を使用した。ボンディングされる複数のITO焼結体からなるシリンダーの内面に前記粗化処理、積層めっき処理を実施した。
ボンディング装置に、BTとシリンダーを設置する(シリンダーはBTの外側に配置する)。この際、各シリンダーの分割隙間、高さ位置(BTの端部とシリンダーの端部の位置)の調整、芯出し(BT、シリンダーの中心軸が一致するよう調整する)などを行った。
【0052】
溶融Inメタルの酸化防止のために、ロータリーターゲット組立体及び周囲の雰囲気を不活性ガスで置換した。その後、ロータリーターゲット組立体の全体をボンディング温度まで昇温した。
BTとシリンダーの間に溶融Inメタルを充填した(内部に残留している気泡、メタル酸化物を除去するためオーバーフローさせる程度まで充填する)。
次に、溶融Inメタルが十分に充填出来た状態で、溶融Inメタルの充填を停止し、ロータリーターゲット組立体全体を室温レベルまで冷却した。
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98%であり、良好なめっき状態を得ることができた。
【0053】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。
試料(サイズ:30mm×50mm×10mm 積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施した。次に、積層めっき面に引っ張り試験用の支柱をエポキシ系の接着剤で接着し、引っ張り試験機にサンプルを固定し、0.5mm/secの条件で支柱部分を引き上げ、最大荷重の値、支柱部分の面積などから積層めっき膜の引っ張り強度を算出した。
この試験により、サンプルは15MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例2)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra1.77μm、Rz11.35μmの粗面が得られた。またITO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。次に、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は8.2μm、第2層については、膜厚は7.5μmが得られた。ITOターゲット材の成分組成は、SnO2含有量:10.0wt.%、残部In
2O
3である。
【0056】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を11.3A/dm
2、処理時間を1minとして電解粗化を施した。
【0057】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0058】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98.8%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは17.8MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に、上記表2に示す。
【0059】
(実施例3)
円筒形のIZOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra1.62μm、Rz10.71μmの粗面が得られた。またIZO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。
次に、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は6.5μm、第2層については、膜厚は7.5μmが得られた。IZOターゲット材の成分組成は、ZnO含有量:10.7wt.%、残部In
2O
3である。
【0060】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を11.3A/dm
2、処理時間を1minとして電解粗化を施した。
【0061】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0062】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は97.5%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは17MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に、上記表2に示す。
【0063】
(実施例4)
円筒形のIGZOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、その表面に表2に示すように、電解粗化を行い、表面粗さは、Ra3.27μm、Rz19.54μmの粗面が得られた。
またIGZO表面に、0.1μm以上1μm以下の微細溝を形成することができた。第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。前記第1層については、膜厚は7μm、第2層については、膜厚は7.4μmが得られた。IGZOターゲット材の成分組成は、Ga
2O
3含有量:29.9wt.%、ZnO含有量:25.9%、残部In
2O
3である。
【0064】
(電解粗化処理)
電解粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を1.13A/dm
2、処理時間を10minとして電解粗化を施した。
【0065】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、無酸素銅を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0066】
超音波探傷により接着状態を確認したところ、接着率は98.5%であり、良好なめっき状態を得ることができた。また、実施例1と同様の引っ張り試験を実施した結果、サンプルは15MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0067】
(比較例1)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化を行い、Ra2.75μm、Rz14.94μmの粗面が得られた。その表面にインジウム電気めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO
2含有量:10wt.%、残部In
2O
3である。
【0068】
(電解粗化処理)
粗化処理の条件は、次の通りである。表1に示す電解粗化条件として、電流密度を0.75A/dm
2、処理時間を15minとして電解粗化を施した。
【0069】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングチューブのボンディング作業)
バッキングチューブ(BT)には、ステンレス(SUS)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
【0070】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施したところ、Inめっき膜の膨れ、膜剥がれ不良が確認された。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
この不良の原因は、インジウムめっきの場合はめっき粒子が大きいため微細溝に十分入り込んでいないためと考えられる。更にボンディング作業を想定した加熱処理を施すと、微細溝部分に残留している水分、空気が熱膨張して膜剥がれ、膨れ不良となると考えられた。
【0071】
(比較例2)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化を行い、Ra2.52μm、Rz15.93μmの粗面が得られた。その表面に電気銅めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO
2含有量:10wt.%、残部In
2O
3である。
【0072】
(粗化処理)
粗化処理の条件は、実施例1と同様である。
(電気銅めっき)
電気銅めっきの条件は、実施例1と同様である。
【0073】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。
試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施した。次に、積層めっき面に引っ張り試験用の支柱をエポキシ系の接着剤で接着し、引っ張り試験機にサンプルを固定し、0.5mm/secの条件で支柱部分を引き上げ、最大荷重の値、支柱部分の面積などから積層めっき膜の引っ張り強度を算出した。
この試験により、サンプルは20MPa程度の引っ張り強度を有していることが確認できた。
【0074】
(円筒形(ロータリーターゲット)のIZOターゲット材とバッキングプレートのボンディング作業)
バッキングプレート(BT)には、Ti(チタン)を使用した。ボンディング作業は実施例1と同様とした。
これらのシリンダーを用いてボンディング試験を実施したところ、Inメタルの濡れ性が悪く、シリンダーは接合できなかった。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0075】
(比較例3)
円筒形のITOターゲット材(内径:φ135mm、板厚:10mm、長さ:224mm)を使用し、粗化をせずに、第1層として電気銅めっきを行い、第2層としてインジウム電気めっきを実施した。ITOターゲット材の成分組成は、SnO
2含有量:10wt.%、残部In
2O
3である。
【0076】
(めっき膜の密着性評価:引っ張り試験)
次に、実施例1と同様の、めっき膜の密着性評価及び引っ張り試験を実施した。試料(積層めっき処理済み)を大気雰囲気、200℃、1時間の条件で加熱処理を実施したところ、ITO面とCuめっき膜の密着性が不十分なため、全面で剥離が生じた。以上の材料、表面粗化、第一層及び第二層の種類並びに結果を、同様に表2に示す。
【0077】
(実施例と比較例の総合評価)
上記実施例と比較例の対比から明らかなように、板状又は円筒形の焼結体の表面を所定の粗さの範囲とし、かつ該表面上に銅又は銅を80at%以上含有する銅合金からなる第1層を形成し、さらにその上にインジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる第2層を形成し、インジウム又はインジウムを80at%以上含有するインジウム合金からなる接合材によって接合してなる積層体は、焼結体と支持体とが適度な接合強度をもって接合(接着)し、接合強度を高めることが確認できる。