(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799168
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物、これを用いたエアバッグ用カバー素材およびその素材を用いたエアバッグモジュール
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20151001BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20151001BHJP
B60R 21/215 20110101ALI20151001BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20151001BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20151001BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20151001BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C08L23/10
B60R21/203
B60R21/215
C08L23/26
C08L53/02
C08L33/02
C08L23/08
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-520124(P2014-520124)
(86)(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公表番号】特表2014-520925(P2014-520925A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】KR2012005508
(87)【国際公開番号】WO2013009096
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2014年1月24日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0068454
(32)【優先日】2011年7月11日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0075394
(32)【優先日】2012年7月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507098483
【氏名又は名称】ヒュンダイ・モービス・カンパニー・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138438
【弁理士】
【氏名又は名称】尾首 亘聰
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100131082
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 正信
(72)【発明者】
【氏名】オー、ウチョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウンス
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュンドン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、キデ
【審査官】
杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−265716(JP,A)
【文献】
特開2003−082184(JP,A)
【文献】
特開2003−277635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂;
変性ポリプロピレン樹脂;
アイオノマー樹脂;
オレフィン系共重合体弾性体;および
スチレン系共重合体弾性体を含むエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物であって、
前記組成物は、組成物の総重量に対して、
ポリプロピレン系樹脂20〜60重量%;
変性ポリプロピレン樹脂0.1〜10重量%;
アイオノマー樹脂5〜30重量%;
オレフィン系共重合体弾性体5〜40重量%;および
スチレン系共重合体弾性体5〜40重量%を含むことを特徴とするエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂は、流動指数が230℃、2.16kgの荷重で1.0〜90g/10分であり、前記ポリプロピレンを構成するα−オレフィン単量体としては、エチレン(ethylene)、1−ブテン(1−butene)、1−ペンテン(1−pentene)および1−ヘキセン(1−hexene)からなる群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項3】
前記変性ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレンの主鎖または末端にアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、カルボン酸およびヒドロキシル基からなる群より選択された1つ以上の反応基が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項4】
前記アイオノマー樹脂は、エチレンアクリル酸またはエチレンメタクリル酸の共重合体または三元共重合体のカルボン酸の一部が金属陽イオンに置換されたことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項5】
前記金属陽イオンは、亜鉛、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウムおよびカリウムからなる群より選択された1種以上であることを特徴とする請求項4に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項6】
前記オレフィン系共重合体弾性体は、部分的に結晶性または無定形として2種以上のモノオレフィンを共重合させて製造したランダム共重合体であるα−オレフィン系共重合体またはオレフィン系共重合体弾性体の単独または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項7】
前記スチレン系共重合体弾性体は、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンのブロックを有する共重合体からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項8】
前記エアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物は、潤滑剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、離型剤、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、加工助剤、金属不活性化剤、耐摩擦耐磨耗剤およびカップリングエージェントからなる群より選択される1種以上の添加剤を追加的にさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のエアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を用いたエアバッグ用カバー素材。
【請求項10】
請求項9に記載のエアバッグ用カバー素材を用いた運転者エアバッグモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エアバッグカバー用ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物、これを用いたエアバッグ用カバー素材およびその素材を用いたエアバッグモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、加硫ゴムの場合には、天然状態や人為的な合成によって製造した底粘度のゴム原料を加硫によって成形するが、このような材料は非常に優れた柔軟性および弾性回復力を示すものの、その成形工程が非常に複雑で、安定性が不良であり、熱硬化性材料であるため、再活用に問題があり、これらの問題を改善した新たな材料の開発が要求されてきた。このような要求に応じて開発されたのが熱可塑性弾性体(Thermoplastic elastomer、TPE)である。熱可塑性弾性体は、使用条件下でゴム弾性を示し、成形条件下では熱可塑性プラスチックのように成形が可能な高分子材料である。熱可塑性弾性体の高分子鎖中には、弾性を有するゴム成分(軟質相)と、常温付近で塑性変形を防ぐ結晶やガラス相成分などの硬質相が存在する。熱可塑性弾性体として最も先に開発されたスチレン系を含めて、ウレタン系、オレフィン系、アミド系などの多様な種類の熱可塑性エラストマーが開発されている。このような熱可塑性エラストマーの主な用途は、自動車部品、家電製品部品、靴底などに使用可能であり、本発明ではエアバッグ用カバー素材として用いる。
【0003】
エアバッグ用カバーは、車両の乗客隔室での温度変化にもかかわらず、このような低い強度区域は長期間装飾的外観を保持しなければならず、表面は軟質で柔軟でなければならず、これは、特にその形態およびストレス、またはひいてはクラッキングが損失しながら変化しない十分な機械的性質を保持しなければならない。
【0004】
一方、カバーの形状において特別な制限はないが、使用される素材に応じて、搭乗者の感じる感触および車両衝突時のエアバッグ展開特性の差はあり得る。
【0005】
エアバッグシステムは、次のように作動する。衝突時、衝撃センサが衝突を感知し、次に、膨張剤内の点火剤が電気的または機械的に点火される。点火作用によって熱が発生し、気体発生剤を燃焼させることによって、気体が発生する。発生した気体は、維持装置、膨張剤およびカバー間の空間である空洞部に収容され、折り畳まれているエアバッグを充填させることによって、エアバッグを膨脹させる。膨脹するエアバッグの圧力によって、所定の位置でカバーが亀裂し、展開して開口部を形成することによって、エアバッグが搭乗者の前面に向かって開口部を介して瞬間的に放出され膨脹する。膨脹したエアバッグは衝撃緩和物として作用し、搭乗者が運転装置と衝突して傷害を負うのを防止することができる。したがって、エアバッグカバーは、エアバッグ装置に必須であり、衝突が起こり、エアバッグシステムの気体発生を生じさせて作動する場合に、カバーは搭乗者に傷害を負わせかねない破片なしに確実に展開して即刻的なエアバッグの放出および膨脹を可能にしなければならない。
【0006】
エアバッグの使用および作動時、カバーの性能条件は非常に重要である。実際に、エアバッグカバーは多様な温度条件にさらされ得るため、極限の実行的な条件下でその性能を満足しなければならない。そこで、一般的に、エアバッグモジュールは、−35℃の低温で展開された時、カバーの予見された区域で引裂して開かれなければならず、割れによる飛散があってはならない。そして、+85℃の高温では、展開時、熱によるカバーの変形、離脱などの現象があってはならない。
【0007】
車両が一般的な状態で、エアバッグカバーはエアバッグクッションを保管する役割を果たし、エアバッグモジュールが開始されるのに十分な衝撃力を有して障害物を打つ状態では、エアバッグクッションは数1/1000秒内に開かれなければならず、この目的で設計されたエアバッグカバー成形品は、カバーの裏面にある溝で破裂してクッションが正常に展開できるようにする。このような展開過程の間、カバーはエアバッグクッションが展開されるようにする役割を果たし、残りの部品はステアリングホイールに付着したままクッションおよびその他の部品を維持する。
【0008】
このようなエアバッグカバー組成物は、低温での優れた衝撃強度を要求し、このような性能はますますより低い温度で要求されている。
【0009】
大韓民国公開特許第10−2008−0005352号によれば、エアバッグを搭載させるためのカバー製造用ポリオレフィン組成物に関するものであって、低温ショック耐性のために架橋結合剤、自由ラジカル開始剤を適用してポリオレフィン組成物を架橋させることを重点的に開示している。
【0010】
従来技術において、架橋結合剤として使用される有機過酸化物の場合、ポリプロピレンおよびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの鎖に作用して、自由ラジカル開始剤および共架橋結合剤と共にネットワークを形成して架橋効果を得る。しかし、有機過酸化物の形態としてポリプロピレンおよびポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの鎖が不規則に切断され、架橋結合のほか、所望しない分子量減少の効果によって物性の低下が生じることがある。
【0011】
また、架橋結合剤および自由ラジカル開始剤、共架橋結合剤によるネットワーク架橋は、組成物の物性実現のために架橋度の制御が精密に行われなければならないという制約があり、架橋結合に参加せずに残る有機過酸化物形態の架橋結合剤および自由ラジカル開始剤は、樹脂組成物の熱的安定性を低下させる問題がある。そして、このような物性の低下は、エアバッグカバー素材の低温衝撃性を低下させ、低温でのエアバッグ展開時、所望する部分で割れるのではなく、意図せぬ方向に離脱して割れるようにする悪影響を及ぼす。
【0012】
したがって、本発明者らは、別の架橋剤、架橋助剤および自由ラジカル開始剤を必要とせず、組成物において部分的に架橋を形成し、低温衝撃強度の向上および引張強度、引張伸び率を向上させることができる本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の問題を解決するために、本発明の目的は、低温衝撃強度、引張特性に優れたポリプロピレン系樹脂、変性ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、オレフィン系共重合体弾性体、およびスチレン系共重合体弾性体を含むポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、前記ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を用いたエアバッグ用カバー素材を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記エアバッグ用カバー素材を用いたエアバッグモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の問題を解決するために、本発明は、ポリプロピレン系樹脂、変性ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、オレフィン系共重合体弾性体、およびスチレン系共重合体弾性体を含むポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を用いたエアバッグ用カバー素材およびこの素材を用いたエアバッグモジュールを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物は、アイオノマーが含まれ、別の架橋剤、架橋助剤、自由ラジカル開始剤を必要とせず、組成物において部分的に架橋を形成し、低温衝撃強度の向上および引張強度、引張伸び率を向上させる効果を有し、本発明のポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物をエアバッグ用カバー素材に適用する時、展開特性、熱老化展開特性および熱衝撃老化展開特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明にかかるエアバッグ用カバー素材を用いた運転者エアバッグモジュールの模式図の一例を示したものであって、(a)は、前記運転者エアバッグモジュールの分解図を示したものであり、(b)は、前記運転者エアバッグモジュールの組立図を示したものである。
【
図2】本発明により製造されたエアバッグモジュールカバーが正常に展開されたことを示した写真である。
【
図3】本発明により製造されたエアバッグモジュールカバーが正常に展開されたことを図式化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0021】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系共重合体弾性体、およびスチレン系共重合体弾性体を含むポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物に関するものであって、前記組成物は、組成物の総重量に対して、ポリプロピレン系樹脂20〜60重量%、変性ポリプロピレン樹脂0.1〜10重量%、アイオノマー樹脂5〜30重量%、オレフィン系共重合体弾性体5〜40重量%、およびスチレン系共重合体弾性体5〜40重量%を含むことが好ましい。
【0022】
前記ポリプロピレン(polypropylene)系樹脂は、ホモポリマーおよびコポリマーを含むものであり、流動指数が230℃、2.16kgの荷重で1.0〜90g/10分のものを使用することができ、好ましくは10〜50g/10分のものを使用することができる。前記ポリプロピレン系樹脂を構成するオレフィン単量体としては、エチレン(ethylene)、1−ブテン(1−butene)、1−ペンテン(1−pentene)および1−ヘキセン(1−hexene)からなる群より選択された1種以上を使用することができるが、これに限定されない。
【0023】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、本発明においてカバーの形態および剛性を維持し、耐熱性を確保し、流動性を向上させ、寸法安定性などの改善のために含まれるとよく、ポリプロピレン系樹脂は、組成物の総重量に対して、20〜60重量%で含まれることが好ましく、より好ましくは30〜55重量%で含まれるとよい。この時、前記ポリプロピレン系樹脂が組成物の総重量に対して前記範囲未満の場合には、組成物の流動性が減少して成形が困難であり、前記範囲を超えて含まれる場合、組成物の可撓性は特に低温で不十分であり得る。
【0024】
前記変性ポリプロピレンは、ポリプロピレン系樹脂およびアイオノマー樹脂との相溶性を向上させる役割を果たすものであり、具体的には、ポリプロピレン系樹脂とアイオノマー樹脂との間で相分離が生じないようにし、加工性および物性を改善させる役割を果たす。
【0025】
前記変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンの主鎖または末端にアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、カルボン酸およびヒドロキシル基からなる群より選択された1つ以上の反応基が形成されたものを使用することが好ましく、より好ましくは、プロピレンの末端にアクリル酸が形成されたものを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
前記変性ポリプロピレンは、組成物の総重量に対して、0.1〜10重量%を含むことが好ましく、より好ましくは0.2〜8重量%で含まれるとよく、0.5〜5重量%含まれることが最も好ましい。前記変性ポリプロピレンは、前記範囲で含まれる時、ポリプロピレン系樹脂とアイオノマー樹脂との間で相分離が生じず、加工性および物性に優れる。
【0027】
前記アイオノマー樹脂は、衝撃強度を向上させる役割を果たすものであり、別の架橋剤、架橋助剤、自由ラジカル開始剤なしに、組成物において部分的に架橋を形成させることができる。
【0028】
前記アイオノマー樹脂は、エチレンアクリル酸またはエチレンメタクリル酸の共重合体または三元共重合体のカルボン酸の一部が金属陽イオンに置換されたものが好ましい。この時、前記金属陽イオンは、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)からなる群より選択された1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
前記アイオノマー樹脂は、組成物の総重量に対して、5〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜30重量%を含むことができる。
【0030】
前記オレフィン系共重合体弾性体は、引張伸び率を向上させる役割を果たすものであり、α−オレフィン系共重合体、オレフィン系共重合体弾性体などを単独または2種以上混合して使用することができる。前記α−オレフィン系共重合体またはオレフィン系共重合体弾性体は、部分的に結晶性を有するか、または無定形として2種以上のモノオレフィンを共重合させて製造したランダム共重合体を使用することができる。
【0031】
前記オレフィン系共重合体弾性体は、組成物の総重量に対して、5〜40重量%を含むことが好ましく、より好ましくは10〜25重量%を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
前記スチレン系共重合体弾性体は、本発明において低温衝撃特性を向上させる役割を果たし、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンのブロックを有する共重合体からなる群より選択されるものを用いることが好ましいが、これに限定されない。
【0033】
前記スチレン系共重合体弾性体は、組成物の総重量に対して、5〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは7〜35重量%で含まれるとよく、最も好ましくは10〜30重量%で含まれるとよい。前記スチレン系共重合体弾性体は、5重量%未満で含まれる場合、低温衝撃強度が低下する問題が発生することがあり、40重量%を超えて含まれる場合、ポリプロピレン樹脂内に分散が十分に行われず、衝撃強度が向上できない問題がある。
【0034】
本発明は、前記変性ポリプロピレン樹脂、前記オレフィン系共重合体弾性体、および前記スチレン系共重合体弾性体の含有量の合計が17重量%以上で含まれることがより好ましく、さらに好ましくは17重量%〜75重量%で含まれるとよく、最も好ましくは20〜60重量%で含まれるとよい。前記変性ポリプロピレン樹脂、前記オレフィン系共重合体弾性体、および前記スチレン系共重合体弾性体の含有量の合計が前記範囲で含まれる時、引張強度および引張伸び率の増加と低温衝撃強度の向上が同時に実現され、展開性能が満足される効果がある。
【0035】
また、前記ポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物は、本発明の目的および効果を阻害しない範囲内で潤滑剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、離型剤、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、加工助剤、金属不活性化剤、耐摩擦耐磨耗剤、カップリングエージェントなどからなる群より選択される1種以上の添加剤を含み、その他の物性を付与することができる。
【0036】
前記添加剤は、組成物の総重量に対して、0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%でさらに含まれるとよい。
【0037】
また、本発明は、前述したポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物を用いたエアバッグ用カバー素材、好ましくは、運転者エアバッグ用(DAB:Driver Airbag)カバー素材を提供することができる。
【0038】
本発明は、本発明にかかるエアバッグ用カバー素材を用いた運転者エアバッグモジュールを提供することができ、本発明にかかる運転者エアバッグモジュールの模式図の一例を、
図1に示した。
図1の運転者エアバッグモジュールは、カバー100と、クッション組立体200と、リテーナリング組立体300と、マウンティングプレート400と、インフレータ組立体500とから構成できる。
【0039】
本発明の組成物は、前記のような添加剤と共にミキサで一次混合した後、通常の方法である二軸押出機(twin−screw extruder)、一軸押出機(single−screw extruder)、ロールミル(roll−mills)、ニーダ(kneader)またはバンバリーミキサ(banbury mixer)など、多様な配合加工機器のうちの1つを用いて溶融混練した後、ペレタイザでペレットを得てから、射出機を用いて得た試験片により物性を測定した。
【0040】
そして、このように製造されたペレットを用いてDABカバー製造用射出機に投入/射出してDABカバーを製造し、
図1のように、DABカバー100、クッション組立体200、マウンティングプレート400、インフレータ500などの部品のように組み立てたエアバッグモジュールを展開試し、エアバッグ展開性能を評価した。
【0041】
図2は、本発明により製造されたエアバッグモジュールカバーが正常に展開された場合の実施例を示したものである。
【0042】
本発明のポリオレフィン系熱可塑性弾性体組成物をエアバッグ用カバー素材に適用した場合、エアバッグカバーの飛散およびシームラインの離脱なしに優れた展開特性が示され、熱老化展開特性および熱衝撃老化展開特性に優れた効果を示した。
【0043】
以下、下記の実施例によって本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明を例示したに過ぎず、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変形および修正が添付した特許請求の範囲に属することも当然である。
【実施例】
【0044】
実施例1〜4および比較例1〜7:オレフィン系熱可塑性弾性体樹脂の製造
【実施例1】
【0045】
組成物の総重量に対して、ポリプロピレン系樹脂として溶融指数が25g/10分のインパクトコポリマーポリプロピレン樹脂(SEETEC M1600、LG化学)40重量%、変性ポリプロピレンとして溶融指数が20g/10分でかつアクリル酸が6重量%の変性ポリプロピレン5重量%、アイオノマー樹脂としては溶融指数が0.7g/10分でかつ密度が0.97g/cm
3のアイオノマー樹脂(Surlyn9910、デュポン)20重量%、オレフィン系共重合体弾性体として溶融指数1.1g/10minでかつ密度が0.870g/cm
3のエチレン−オクテン共重合体(LC170、LG化学)20重量%、スチレン系共重合体弾性体として溶融指数が5g/10分でかつ密度が0.89g/cm
3のスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(Kraton G1657、Kraton Polymer社)15重量%を含む組成物をミキサでよく混合した後、二軸押出機(twin−screw extruder)で溶融混練してペレットにし、オレフィン系熱可塑性弾性体(エラストマー、elastormer)樹脂を製造した。
【実施例2】
【0046】
下記の表1に示しているように、実施例2は、組成物の総重量に対して、アイオノマー樹脂25重量%、スチレン系共重合体弾性体20重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【実施例3】
【0047】
下記の表1に示しているように、実施例3は、組成物の総重量に対して、ポリプロピレン系樹脂50重量%、アイオノマー樹脂25重量%、オレフィン系共重合体弾性体10重量%、スチレン系共重合体弾性体10重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【実施例4】
【0048】
下記の表1に示しているように、実施例4は、組成物の総重量に対して、ポリプロピレン系樹脂50重量%、アイオノマー樹脂30重量%、オレフィン系共重合体弾性体5重量%、スチレン系共重合体弾性体10重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0049】
下記の表1に示しているように、比較例1は、アイオノマー樹脂を使用せず、ポリプロピレン系樹脂50重量%、オレフィン系共重合体弾性体25重量%、スチレン系共重合体弾性体20重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0050】
下記の表1に示しているように、比較例2は、変性ポリプロピレンを使用せず、ポリプロピレン系樹脂50重量%、オレフィン系共重合体弾性体15重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0051】
下記の表1に示しているように、比較例3は、オレフィン系共重合体弾性体を使用せず、ポリプロピレン系樹脂45重量%、アイオノマー樹脂30重量%、スチレン共重合体弾性体20重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0052】
下記の表1に示しているように、比較例4は、スチレン系共重合体弾性体を使用せず、ポリプロピレン系樹脂45重量%、アイオノマー樹脂30重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0053】
下記の表1に示しているように、比較例5は、スチレン系共重合体弾性体およびオレフィン系共重合体弾性体を使用せず、ポリプロピレン系樹脂50重量%、アイオノマー樹脂45重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0054】
下記の表1に示しているように、比較例6は、スチレン系共重合体弾性体および変性ポリプロピレンを使用せず、ポリプロピレン系樹脂50重量%、アイオノマー樹脂30重量%、オレフィン系共重合体弾性体20重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0055】
下記の表1に示しているように、比較例7は、オレフィン系共重合体弾性体および変性ポリプロピレンを使用せず、ポリプロピレン系樹脂50重量%、アイオノマー樹脂30重量%、スチレン系共重合体弾性体20重量%を使用したことを除いては、実施例1と同様の方法でオレフィン系熱可塑性弾性体樹脂を製造した。
【0057】
試験例
実施例1〜4および比較例1〜7で製造されたオレフィン系熱可塑性弾性体ペレットの物性試験を行うために、射出成形機を用いて物性測定用試験片を製作し、引張強度、引張伸び率、強度および硬度を下記のASTM規格に基づいて評価した。その結果を下記の表2に示した。
(1)引張強度および伸び率
ASTM D638方法によって測定し、試験温度は23℃、クロスヘッド速度は200mm/分に設定した。
(2)アイゾッド衝撃強度
ASTM D256方法によって測定し、試験条件は−40℃の条件下で測定した。
(3)硬度
ASTM D2240方法によって測定し、単位はShore Dスケールである。
(4)展開試験
前記実施例1〜4および比較例1〜7で製造されたオレフィン系熱可塑性弾性体のペレットを用いてDABカバー製造用射出機に投入/射出してDABカバーを製造し、これを用いて製造したエアバッグモジュールをステアリングホイールに装着した後、インフレータ雷管に電気的な信号を加えて爆発させて膨脹するエアバッグクッションが、DABカバーを裂いて出るようにした。この時、DABカバーに意図的に溝を掘ったシームライン(seam line)側で正常に割れるかを確認し、カバー片が飛散するか否か、および組み立てられたカバーの離脱現象などを確認して評価した。
(5)熱老化展開試験
展開試験の前に、100〜110℃で、400時間、モジュールを老化させた後、(4)と同様に展開して異常の有無を観察する。
(6)熱衝撃老化展開試験
展開試験の前に、−40℃および90℃で繰り返して24日間モジュールを老化させた後、(4)と同様に展開して異常の有無を観察する。
【0059】
前記表2に示されているように、実施例1〜4のポリオレフィン系熱可塑性弾性体は、低温衝撃強度の測定時、試験片が破断しない(No Break)ながらも、引張強度および引張伸び率に優れていた。反面、アイオノマー樹脂を使用しなかった比較例1の場合、低温衝撃時、試験片が破断しなかったものの、引張強度および引張伸び率が低く測定された。変性ポリプロピレンを使用しなかった比較例2の場合は、低温衝撃が低く測定された。オレフィン系共重合体弾性体を使用しなかった比較例3の場合は、引張伸び率が低く測定され、スチレン系共重合体を使用しなかった比較例4の場合は、低温衝撃が低く測定された。スチレン系共重合体を使用せず、かつ、オレフィン系共重合体を使用しなかった比較例5、変性ポリプロピレンを使用せず、スチレン系共重合体弾性体を使用しなかった比較例6、変性ポリプロピレンを使用せず、オレフィン系共重合体弾性体を使用しなかった比較例7の場合には、引張伸び率および低温衝撃強度がいずれも低く測定された。
【0060】
また、展開性能において、実施例1〜4は、低温衝撃強度、引張強度および引張伸び率に優れ、エアバッグ展開時、カバーの飛散およびシームラインの離脱なしに正常に展開されたことを確認し、熱老化、熱衝撃老化後も正常に展開された。しかし、比較例1、2の場合は、熱老化、熱衝撃老化後、カバー素材の老化によって低温衝撃強度が低下し、低温でカバーの割れ現象が観察された。比較例3の場合には、熱老化、熱衝撃老化後、カバー素材の老化によって伸び率が低下し、高温でカバーの割れ現象が観察された。比較例4の場合には、熱老化、熱衝撃老化後、低温衝撃強度が低下し、低温でカバーの割れ現象が観察された。比較例5〜7は、引張伸び率および低温衝撃強度が低下し、熱老化、熱衝撃老化前から高温および低温でカバーの割れ現象が見られた。
したがって、本発明にかかる実施例のポリオレフィン系熱可塑性弾性体を用いる時、比較例と比較して引張強度および引張伸び率に優れるだけでなく、低温衝撃強度の向上が同時に実現され、展開性能に優れていることが明らかになった。