特許第5799181号(P5799181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5799181
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】有機電子素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20151001BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H01L31/04 182Z
   H01L29/78 618A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-1583(P2015-1583)
(22)【出願日】2015年1月7日
【審査請求日】2015年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】松本 康男
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−029883(JP,A)
【文献】 特開2014−079708(JP,A)
【文献】 実開平01−036077(JP,U)
【文献】 特開2004−066031(JP,A)
【文献】 特開平02−214564(JP,A)
【文献】 特開平02−211270(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131580(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/154076(WO,A1)
【文献】 特開2014−120350(JP,A)
【文献】 特開2014−116224(JP,A)
【文献】 特開2013−016405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H01L 27/32
H05B 33/00−33/28
B05C 5/00−5/04
B05C 7/00−21/00
H01L 31/04−31/06
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料を含む機能層を有する有機電子素子の製造方法であって、
ロールツーロール方式を用いて、可撓性を有する基材を水平搬送し、前記基材の上方に配置されたスリットコート塗布器によって、前記基材を水平搬送する経路の途上において、前記有機材料を含む塗布液を前記基材に塗布して、前記機能層を形成する塗布工程を有し、
前記塗布工程では、前記基材の下方に配置されたエア浮上ステージによって、前記基材をエア浮上させて、前記塗布液を前記基材に塗布する、
有機電子素子の製造方法。
【請求項2】
前記基材の下方にスリットコート塗布器がなく、
前記基材の上方にエア浮上ステージがない、
請求項1に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項3】
前記エア浮上ステージは、多孔質材料からなる、請求項1又は2に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項4】
前記基材の上下の振動量は、70μm以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項5】
前記エア浮上ステージと前記基材との間隔は、30μm以上1mm以下である、請求項4に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項6】
前記塗布液の粘度は、1cp以上20cp以下である、請求項4に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項7】
前記基材の引張力は、20N以上150N以下である、請求項4に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項8】
前記エア浮上ステージによるエアの風速は、0.001m/sec.以上0.3m/sec.以下である、請求項4に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項9】
前記有機電子素子は有機EL素子である、請求項1〜8の何れか1項に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項10】
前記有機電子素子は有機太陽電池である、請求項1〜8の何れか1項に記載の有機電子素子の製造方法。
【請求項11】
前記有機電子素子は有機トランジスタである、請求項1〜8の何れか1項に記載の有機電子素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、有機太陽電池、有機トランジスタなどの有機電子素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)素子、有機太陽電池、有機トランジスタなどの有機電子素子が知られている。この種の有機電子素子は、有機材料を含む発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、活性層、半導体層、絶縁層などの種々の機能層を有する。また、この種の有機電子素子は、フィルム状の基板(可撓性を有する基板、フレキシブル基板)上に形成されて、フィルム状をなすことがある。
【0003】
フィルム状の有機電子素子の製造方法として、ロールツーロール方式を用いて、インクジェット塗布法、ダイコータ塗布法などの塗布法によって、各種機能層を形成する方法が知られている。非特許文献1には、ダイコータ塗布法(スリットコート塗布法)が開示されている。
【0004】
このスリットコート塗布法を用いて、上記した有機電子素子における機能層を形成する場合について、図6を参照して説明する。図6に示すスリットコート塗布法では、巻き出しローラ10と巻き取りローラ13とからなるロールツーロール構成、及び、搬送ローラ11,12,14,15によって、基板を含むフィルム状の基材を搬送し、スリットコート塗布器30Xによって、有機材料を含む塗布液を基材に塗布して、機能層薄膜を形成する。その際、下地基材を安定させるために、バックアップロール15を用いて、基材を固定し、安定させている。
【0005】
なお、バックアップロール15に代えて吸着ステージを用いて、下地基材を固定し、安定させることも知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(株)テクノスマート、多層ダイコーター、[online]、[平成26年11月17日検索]、インターネット<URL:http://www.ctiweb.co.jp/soran/products/410>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載のスリットコート塗布法は、高粘度な塗布液を用いる場合に適している。ところで、より薄い薄膜を形成するために、低粘度な塗布液を用いる場合がある。しかしながら、非特許文献1に記載のスリットコート塗布法において低粘度な塗布液を用いると、液だれが生じてしまう。
【0008】
また、非特許文献1に記載のスリットコート塗布法のように、バックアップロールを使用する場合、バックアップロールの機械振動に起因して、膜厚が不均一となってしまう。一方、吸着ステージを使用する場合、一旦吸着させるので間欠搬送となり、生産性が低下してしまう。
【0009】
液だれに関しては、基材を水平搬送し、基材の上方に配置された塗布器によって基材の上面に塗布液を塗布することが考えられる。また、機械振動及び間欠搬送に関しては、バックアップロール及び吸着ステージを使用しないことが考えられる。例えば、所定距離だけ離間した2つの搬送ロールによって基板を水平搬送し、バックアップロール及び吸着ステージを使用せずに、2つの搬送ロール間において上方から基材の上面に塗布液を塗布する。
【0010】
しかしながら、フィルム状の基材の場合、水平搬送においてバックアップロール及び吸着ステージを使用しない構成では、2つの搬送ロール間において自重により基材が垂れ下がり、基材が上下振動してしまう。この振動に起因して、塗布膜の膜厚が不均一となってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、塗布膜の膜厚の不均一を低減することが可能な有機電子素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機電子素子の製造方法は、有機材料を含む機能層を有する有機電子素子の製造方法であって、ロールツーロール方式を用いて、可撓性を有する基材を水平搬送し、基材の上方に配置されたスリットコート塗布器によって、有機材料を含む塗布液を基材に塗布して、機能層を形成する塗布工程を有し、塗布工程では、基材の下方に配置されたエア浮上ステージによって、基材をエア浮上させて、塗布液を基材に塗布する。この塗布工程は、有機EL素子、有機太陽電池、有機トランジスタなどの有機電子素子における、有機材料を含む発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、活性層、半導体層、絶縁層などの種々の機能層の形成に適用可能である。
【0013】
この有機電子素子の製造方法によれば、基材をエア浮上させるので、基材が自重により垂れ下がることを抑制することができ、基材が上下振動することを抑制することができる。したがって、基材の上下振動に起因する塗布膜の膜厚の不均一を低減することができる。
【0014】
また、この有機電子素子の製造方法によれば、基材を水平搬送し、上方から塗布液を基材に塗布するので、塗布液が低粘度である場合に液だれを防止することができる。
【0015】
また、この有機電子素子の製造方法によれば、ロールツーロール方式において連続的にかつ安定的に塗布膜(機能層)を形成することができるので、塗布膜の膜厚の不均一がない高品位の有機電子素子をハイスループットで連続して生産することができる。
【0016】
上記したエア浮上ステージは、多孔質材料からなる形態であってもよい。エア浮上ステージは、基材を搬送することではなく、基材が自重により垂れ下がる分を浮上させることを目的とする。よって、加工によって形成される比較的に大きな孔によって生成される比較的に多量のエアでは強過ぎる。しかしながら、この形態によれば、多孔質材料が有する比較的に小さな孔によって生成される比較的に少量のエアによって、基材が自重により垂れ下がる分を浮上させることができる。
【0017】
また、上記した基材の上下の振動量(変位量)は、70μm(±35μm)以下である形態であってもよい。この形態によれば、基材の上下振動量が70μm(変位量±35μm)以下と小さいので、基材の上下振動に起因する塗布膜の膜厚の不均一を低減することができる。
【0018】
また、上記したエア浮上ステージと上記した基材との間隔は、30μm以上1mm以下である形態であってもよい。この形態によれば、エア浮上ステージと基材との間の吹き出しエアに起因するフィルムの上下振動を適性に抑制することが可能である。当該間隔が30μm以下であると、エア浮上ステージと基材との接触により基材裏面にキズを生じるおそれがあり、逆に1mm以上であると、エア浮上ステージと基材との間のエア層が不均一になり、上下振動抑制効果は小さくなってしまう。
【0019】
また、上記した塗布液の粘度は、1cp以上20cp以下である形態であってもよい。この形態によれば、1cp以上20cp以下のような低粘度の塗布液であっても、基材の上下振動に起因する塗布膜の膜厚の不均一を低減することができる。また、上記したように液だれを防止することができる。
【0020】
また、上記した基材の引張力(テンション)は、20N以上150N以下である形態であってもよい。この形態によれば、エア浮上ステージに侵入する際の搬送中のフィルム自体に搬送方向のしわや、たるみが発生しないため、上下振動を抑制された状態で安定かつ均一な塗布膜の形成が可能となる。
【0021】
また、上記したエア浮上ステージによるエアの風速は、0.001m/sec.以上0.3m/sec.以下である形態であってもよい。上記したように、エア浮上ステージは、基材を搬送することではなく、基材が自重により垂れ下がる分を浮上させることを目的とする。よって、加工によって形成される比較的に大きな孔によって生成される比較的に多量のエアでは強過ぎる。しかしながら、これによれば、エアの風速が0.001m/sec.以上0.3m/sec.以下と小さいので、基材が自重により垂れ下がる分を浮上させることができる。
【0022】
また、上記した有機電子素子は有機EL素子である形態であってもよい。この形態によれば、発光輝度の不均一(発光ムラ)を低減することができる。
【0023】
また、上記した有機電子素子は有機太陽電池である形態であってもよい。この形態によれば、有機半導体材料や、金属ナノ粒子からなる電極材料の塗布プロセスにおいて、広範囲の粘度範囲の材料を選択可能となる。
【0024】
また、上記した有機電子素子は有機トランジスタである形態であってもよい。この形態によれば、有機トランジスタ用の有機半導体材料や、ゲート絶縁膜、ソース/ドレイン電極などの金属ナノ粒子からなる印刷用材料を使用する場合、粘度範囲を気にすることなく、広範囲な材料を選択可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機EL素子、有機太陽電池、有機トランジスタなどの有機電子素子における塗布膜の膜厚の不均一を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子(有機電子素子)の製造方法を示す図である。
図2図1に示す加工領域Aを上からみた図である。
図3】一実施形態に係る有機EL素子(有機電子素子)の断面図である。
図4】検証結果を示す図である。
図5】一変形例に係る有機EL素子(有機電子素子)の断面図である。
図6】従来の有機EL素子(有機電子素子)の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る有機EL素子(有機電子素子)の製造方法を示す図であり、図2は、図1に示す加工領域Aを上からみた図である。また、図3は、一実施形態に係る有機EL素子(有機電子素子)の断面図である。
【0029】
図3に示すように、本実施形態の有機EL素子100は、フィルム状の基板(可撓性を有する基板、フレキシブル基板)101上に、陽極層102と、発光層(機能層)103と、陰極層104とが順に積層されてなる。フィルム状の基板101の材料としては、例えば透明性を有するプラスティック、より具体的にはPEN(Polyethylene Naphthalate)が挙げられる。フィルム状の基板101としては、典型的には厚さ100μm程度のものが挙げられる。陽極層102としては、例えば光透過性を示す電極、より具体的にはITO(Tin-doped Indium Oxide)、IZO(indium zincoxide)等の比較的透明な材料からなる導電性金属酸化物薄膜が挙げられる。発光層103は、低分子型、高分子型などの種々の公知の有機EL材料を含む。陰極層104としては、例えば光反射性を示す電極、より具体的には金属材料からなる導電性金属薄膜が挙げられる。
【0030】
以下に示す有機EL素子の製造方法では、基板101と陽極層102とを含むフィルム状の基材110上に発光層103を形成する工程(塗布工程)について説明し、公知の電極層102,104を形成する工程については省略する。
【0031】
まず、図1及び図2に示すように、ロールツーロール方式を用いて、フィルム基材110を水平搬送する。具体的には、巻き出しローラ10からフィルム基材110を巻き出し、加工領域Aにおいて搬送ローラ11,12によってフィルム基材110を水平搬送し、巻き取りローラ13によって巻き取る。
【0032】
例えば、厚さ125μm、幅Wf=320mmのPENフィルム基材110を想定し、フィルム基材110の搬送速度は、例えば、2m/min.以上6m/min.以下に設定され、フィルム基材110の搬送方向に加えられるテンションは、例えば、20N以上150N以下、好ましくは30N以上100N以下に設定される。なお、フィルム基材110の搬送方向に加えられるテンション(引張力)は、テンション調整機構(図示せず)によって調整されてもよい。
【0033】
また、フィルム基材110が水平搬送される加工領域Aにおいて、フィルム基材110の下方に配置された3つのエア浮上ステージ20によって、フィルム基材110をエア浮上させる。エア浮上ステージ20それぞれは、多孔質カーボンからなり、複数の微小な孔からエアを吹き出す。例えば、エア浮上ステージ20におけるフィルム基材110と対向する上面の幅Waは約100mmであり、長さLaは約500mmである。また、エア浮上ステージ20は、Sa=100mm間隔で搬送方向に配列されている。
【0034】
例えば、上記した厚さ125μm、幅Wf=320mmのPENフィルム基材110を想定し、エア吹き出し流量は、1×10−4L/cm・sec.以上3×10−2L/cm・sec.以下(風速換算:0.001m/sec.以上0.3m/sec.以下)、好ましくは1×10−4L/cm・sec.以上1×10−2L/cm・sec.以下に設定される。
【0035】
これにより、エア浮上ステージ20とフィルム基材110との間隔が、30μm以上1mm以下、好ましくは50μm以上500μm以下に設定される。その結果、フィルム基材110の振動量(最大位値−最少位値)が、70μm未満、好ましくは40μm未満となる。換言すれば、フィルム基材110の変位量が、±35μm未満、好ましくは±20μm未満となる。
【0036】
エア浮上ステージ20は、フィルム基材110を搬送することではなく、フィルム基材110が自重により垂れ下がる分を浮上させることを目的とする。よって、加工によって形成される比較的に大きな孔によって生成される比較的に多量のエアでは強過ぎる。本実施形態のエア浮上ステージ20によれば、多孔質材料が有する比較的に微小な孔によって生成される比較的に少量のエアによって、フィルム基材110が自重により垂れ下がる分を浮上させることができる。
【0037】
また、加工によって形成される比較的に大きな孔によって生成される比較的に多量のエアでは、後述するスリットコート塗布器30のノズルにおけるインクを乾燥させてしまうことがあるが、本実施形態の多孔質材料が有する比較的に微小な孔によって生成される比較的に少量のエアでは、そのようなことがない。
【0038】
また、フィルム基材110が水平搬送される加工領域Aにおいて、フィルム基材110及びエア浮上ステージ20の上方に配置されたスリットコート塗布器30によって、有機EL材料を含むインク(塗布液)をフィルム基材110に塗布して、発光層103を形成する。発光層103としては、典型的には乾燥後厚さ20nm〜100nm(例えば、塗布時厚さ0.4μm〜2μm)のものが挙げられる。
【0039】
スリットコート塗布器30は、フィルム基材110の幅Wf方向に延在するスリットを有する。
【0040】
インクとしては、粘度1cP以上20cP以下、好ましくは2cP以上10cP以下の比較的に低粘度のものが用いられる。例えば、インクとしては、有機EL材料と有機溶媒とを含む溶液が用いられる。有機EL材料としては、低分子系材料でも高分子材料でもよく、あるいは両者の混合系でもよい。有機溶媒としては、有機EL材料を溶解する溶媒であればよく、溶媒の蒸発速度、溶液の表面張力、粘度等を考慮して適宜選択される。有機溶媒としては、単一の溶媒でも混合溶媒でもよい。
【0041】
本実施形態の有機EL素子(有機電子素子)の製造方法によれば、フィルム基材110をエア浮上させるので、フィルム基材110が自重により垂れ下がることを抑制することができ、フィルム基材110が上下振動することを抑制することができる。したがって、フィルム基材110の上下振動に起因する発光層(塗布膜)の膜厚の不均一を低減することができる。その結果、発光輝度の不均一(発光ムラ)を低減することができる。
【0042】
また、本実施形態の有機EL素子(有機電子素子)の製造方法によれば、フィルム基材110を水平搬送し、上方からインク(塗布液)をフィルム基材110に塗布するので、インクが低粘度である場合に液だれを防止することができる。
【0043】
また、本実施形態の有機EL素子(有機電子素子)の製造方法によれば、ロールツーロール方式において連続的にかつ安定的に塗布膜(発光層)103を形成することができるので、塗布膜の膜厚の不均一がなく、その結果、発光輝度の不均一(発光ムラ)がない高品位の有機EL素子(有機電子素子)をハイスループットで連続して生産することができる。
【0044】
以下では、上記した効果について検証する。
[検証1]
【0045】
上記したスリットコート塗布器30に代えてインクジェット塗布器を用いて、上記したフィルム基材110に代えてガラス基材上に、有機EL材料を含むインク(塗布液)を塗布して、発光層を形成した。インクとして住友化学製高分子白色発光材料SCW140(固形分濃度7%、粘度5cp)を用い、乾燥後の発光層の膜厚を70nmとした。インクを塗布する際、ガラス基材に上下振動を与えた。本検証では、発光層に紫外線ランプを照射し、発光輝度の不均一(発光ムラ)を目視確認した。
【0046】
本検証によれば、上下の振動量(最大位値−最少位値)130μm(変位量±65μmでは発光輝度が不均一であり、上下の振動量70μm(変位量±35μm)、及び、上下の振動量40μm(±20μm)では発光輝度が均一であった。これより、上下の振動量70μm以下、好ましくは40μm以下で、換言すれば、上下の変位量±35μm以下、好ましくは±20μm以下で、発光輝度の不均一が低減される、すなわち、発光層(塗布膜)の膜厚の不均一が低減されることが推察される。
[検証2]
【0047】
図1,2に示す製造方法によって、上記した厚さ125μm、幅Wf=320mmのPENフィルム基材110を水平搬送させる。その際、エア浮上ステージ20によってエア浮上を行う場合と行わない場合とについて比較検証する。エア浮上を行う場合の検証条件は以下の通りである。
エア吹き出し流量:3×10−4L/cm・sec.(風速換算:0.003m/sec.)
エア浮上ステージ20とフィルム基材110との間隔:50μm
また、その他の共通の検証条件は以下の通りである。
フィルム基材110の搬送速度:6m/min.
フィルム基材110の搬送方向に加えられるテンション:30N
【0048】
本検証では、スリットコート塗布器30に代えてレーザ変位センサを用い、フィルム基材110の上下位置を1msec.間隔で20秒間測定し、フィルム基材110の上下変位量を測定した。検証結果を図4に示す。
【0049】
図4によれば、エア浮上ステージ20によってエア浮上を行わない場合、曲線51に示すように、上下の振動量(最大位値−最少位値)が315μmであった。これに対し、エア浮上ステージ20によってエア浮上を行った場合、曲線50に示すように、上下の振動量が17μmに低減した。
【0050】
これらの検証1及び検証2を総合すると、エア浮上ステージ20によってエア浮上を行うことにより、発光輝度の不均一を低減できる、すなわち、発光層(塗布膜)の膜厚の不均一を低減できることが検証された。
【0051】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、一対の電極間に発光層(機能層)を有する有機EL素子における発光層塗布工程を例示したが、本発明の特徴は、以下に示すような種々の有機EL素子における正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層などの種々の有機材料を含む機能層の塗布工程にも適用可能である。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
f)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
g)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
h)陽極/発光層/電子注入層/陰極
i)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。
【0052】
例えば、図5に示す正孔注入層105の塗布工程の場合、上記した発光層の塗布工程において、有機EL材料を含むインク(塗布液)を、有機材料を含むインク(塗布液)に置き換えればよい。また、図5に示す正孔輸送層106の塗布工程の場合、上記した発光層の塗布工程において、有機EL材料を含むインク(塗布液)を、有機材料を含むインク(塗布液)に置き換え、更に、フィルム基材110を、基板101と、陽極層102と、正孔注入層105とを含むフィルム基材に置き換えればよい。また、図5に示す発光層103の塗布工程の場合、フィルム基材110を、基板101と、陽極層102と、正孔注入層105と、正孔輸送層106とを含むフィルム基材に置き換えればよい。また、図5に示す電子輸送層107の塗布工程の場合、上記した発光層の塗布工程において、有機EL材料を含むインク(塗布液)を、有機材料を含むインク(塗布液)に置き換え、更に、フィルム基材110を、基板101と、陽極層102と、正孔注入層105と、正孔輸送層106と、発光層103とを含むフィルム基材に置き換えればよい。また、図5に示す電子注入層108の塗布工程の場合、上記した発光層の塗布工程において、有機EL材料を含むインク(塗布液)を、有機材料を含むインク(塗布液)に置き換え、更に、フィルム基材110を、基板101と、陽極層102と、正孔注入層105と、正孔輸送層106と、発光層103と、電子輸送層107とを含むフィルム基材に置き換えればよい。
【0053】
なお、本実施形態では、有機EL素子として、発光層に対して基板側に陽極層が配置され、発光層に対して基板と反対側に陰極層が配置される形態の製造方法を例示したが、発光層に対して基板側に陰極層が配置され、発光層に対して基板と反対側に陽極層が配置される形態の製造方法にも適用可能である。
【0054】
また、本実施形態では、有機EL素子(有機電子素子)の製造方法を例示したが、本発明の特徴は、有機太陽電池(有機電子素子)や有機トランジスタ(有機電子素子)の製造方法にも適用可能である。例えば、有機太陽電池の製造方法における活性層(光電変換層),正孔注入層,正孔輸送層,電子輸送層,電子注入層などの形成工程に適用可能である。また、有機トランジスタの製造方法における半導体層、絶縁層などの形成工程にも適用可能である。
【0055】
また、フィルム基材のうちの何れか一方の表面、又は、両方の表面にバリア層が形成される形態の製造方法にも適用可能である。
【0056】
また、本実施形態では、エア浮上ステージの材料として多孔質カーボンを例示したが、エアを吹き出すことができる様々な多孔質材料が適用可能である。
【0057】
また、本実施形態では、エア浮上ステージのエア吹き出し流量、個数、大きさ、間隔、エア浮上ステージとフィルム基材との間隔、フィルム基材の搬送方向に加えられるテンションなどの様々な条件を例示したが、これらは厚さ125μm、幅320mmのPENフィルム基材を想定したものである。フィルム基材のサイズ、材料が大きく変わる場合には、フィルム基材の上下の振動量が70μm以下になるように、換言すれば、上下の変位量を±35μm以下になるように、これらの条件を適宜変更すればよい。
【符号の説明】
【0058】
10…巻き出しローラ、11,12,14…搬送ローラ、13…巻き取りローラ、15…バックアップロール(搬送ローラ)、20…エア浮上ステージ、30,30X…スリットコート塗布器、100…有機EL素子(有機電子素子)、101…基板、102…陽極層、103…発光層、104…陰極層、105…正孔注入層、106…正孔輸送層、107…電子輸送層、108…電子注入層、110…フィルム基材(基材)。
【要約】
【課題】塗布膜の膜厚の不均一を低減することが可能な有機電子素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る有機電子素子の製造方法は、有機材料を含む機能層を有する有機電子素子の製造方法であって、ロールツーロール方式を用いて、可撓性を有する基材110を水平搬送し、基材110の上方に配置されたスリットコート塗布器30によって、有機材料を含む塗布液を基材110に塗布して、機能層を形成する塗布工程を有し、塗布工程では、基材110の下方に配置されたエア浮上ステージ20によって、基材110をエア浮上させて、塗布液を基材110に塗布する。
【選択図】図1
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図6