特許第5799324号(P5799324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5799324不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5799324
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20151001BHJP
   C07C 57/065 20060101ALI20151001BHJP
   C07C 67/327 20060101ALI20151001BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 27/18 20060101ALN20151001BHJP
   B01J 37/10 20060101ALN20151001BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   C07C51/377
   C07C57/065
   C07C67/327
   C07C69/54 Z
   !B01J27/18 Z
   !B01J37/10
   !C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-538242(P2011-538242)
(86)(22)【出願日】2010年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2010006295
(87)【国際公開番号】WO2011052178
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2013年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2009-249427(P2009-249427)
(32)【優先日】2009年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000130776
【氏名又は名称】株式会社サンギ
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】恩田 歩武
(72)【発明者】
【氏名】松浦 由美子
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 和道
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−115049(JP,A)
【文献】 米国特許第02859240(US,A)
【文献】 特開2001−270841(JP,A)
【文献】 特開平10−158255(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059729(WO,A1)
【文献】 特開2008−088140(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/005348(WO,A1)
【文献】 特開2012−071267(JP,A)
【文献】 特表2013−515042(JP,A)
【文献】 特表2010−501526(JP,A)
【文献】 特開平03−167156(JP,A)
【文献】 米国特許第05252473(US,A)
【文献】 特開2009−220105(JP,A)
【文献】 TSUCHIDA, T. et al,Direct Synthesis of n-Butanol from Ethanol over Nonstoichiometric Hydroxyapatite,Ind. Eng. Chem. Res.,2006年10月31日,Vol.45, No.25,p.8634-8642,DOI:10.1021/ie0606082
【文献】 松浦由美子 外3名,ハイドロキシアパタイト触媒による乳酸からアクリル酸への脱水反応,第106回触媒討論会 討論会A予稿集,2010年 9月15日,p.159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/377
C07C 57/065
C07C 67/327
C07C 69/54
B01J 27/18
B01J 37/10
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaとPとを含み、CaとPのモル比が1.5〜1.8のハイドロキシアパタイトを触媒として、バイオマス由来の乳酸および/またはその塩若しくはエステルから、脱水反応により、アクリル酸および/またはその塩若しくはエステルを合成することを特徴とするアクリル酸および/またはその塩若しくはエステルの合成方法。
【請求項2】
ハイドロキシアパタイトとして、Ca10(PO46(OH)2を用いる請求項に記載の合成方法。
【請求項3】
反応温度が250〜400℃で、アクリル酸および/またはその塩若しくはエステルを合成することを特徴とする請求項1又は2に記載の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アパタイト化合物を触媒として、ヒドロキシカルボン酸および/またはその誘導体からの不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は、ポリアクリル酸やアクリル酸系共重合体の原料モノマーである。吸水性樹脂(ポリアクリル酸ソーダ)の使用量の増大も相俟って、その生産量は増大している。アクリル酸は、通常、石油由来原料であるプロピレンからアクロレインを合成し、このアクロレインを接触気相酸化してアクリル酸へと転化させて製造されている(例えば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、石油由来原料は将来的には枯渇するおそれがある。こういったことから、バイオマスから不飽和カルボン酸を得ることを目的とした研究がなされている。例えば、特許文献2には、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩から、不飽和カルボン酸またはそのエステルを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−15330号公報
【特許文献2】特開2009−67775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献2に記載の方法では、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩をヒドロキシカルボン酸と非水性アンモニウムカチオン含有交換樹脂とに分離する必要がある等、工程が煩雑である。
【0006】
そこで本発明では、より簡単に、バイオマス由来の化合物からアクリル酸等の不飽和カルボン酸やその塩やエステル等の誘導体を合成することを課題とした。より具体的には、バイオマス由来のセルロース等の多糖類から容易に合成することのできる乳酸等のヒドロキシカルボン酸および/またはその誘導体を原料化合物として、アクリル酸等の不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を合成するに当たり、適切な触媒を見出し、効率よい不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得た本発明は、アパタイト化合物を触媒として、バイオマス由来のヒドロキシカルボン酸および/またはその誘導体から、脱水反応により、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を合成することを特徴とする不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の合成方法である。なお、誘導体には、塩やエステルが含まれる。
【0008】
アパタイト化合物として、CaとPとを含む化合物を用いることが好ましく、CaとPのモル比が1.5〜1.8のハイドロキシアパタイトを用いることがより好ましく、ハイドロキシアパタイトとして、Ca10(PO46(OH)2を用いることが最も好ましい。
【0009】
また、ヒドロキシカルボン酸が乳酸であり、不飽和カルボン酸がアクリル酸である態様が最も好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明法によれば、簡単に合成できるアパタイト化合物を触媒とすることで、バイオマス由来のヒドロキシカルボン酸および/またはその誘導体から不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を長時間に亘って収率よく合成することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】触媒の構成元素と、乳酸からのアクリル酸への転化率および収率との関係図である。
図2】触媒量と、乳酸からのアクリル酸への転化率および収率との関係図である。
図3】流通時間と、乳酸からのアクリル酸への転化率および収率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、バイオマス由来の乳酸等のヒドロキシカルボン酸をアクリル酸等の不飽和カルボン酸の原料として用いる。バイオマスという語は、一般的には生物起源の物質からなる食料、資材、燃料など広い概念を意味する語として用いられているが、産業廃棄物として扱われているものも含まれている。例えば、稲藁、ヤシガラ、籾殻、間伐材、木材チップダスト、剪定枝などである。これらバイオマスの主成分はセルロースであり、その消化酵素を有しないヒトの食料としては適さない。また、石油成分ほど燃焼効率に優れるものではないことから燃料としても用い難い。よって、これらバイオマスは現在のところ廃棄や焼却せざるを得ないので、これらの有効利用を促進することは、産業廃棄物を低減することからも非常に意義がある。
【0013】
本発明では、バイオマスに多く含まれているセルロース等の多糖類や単糖類から容易に得られる乳酸に着目した。例えば、多糖類は、酵素法、硫酸法、固体触媒法、イオン液体法等で、グルコースに転化させることができる。本願出願人によるポリグルコースからグルコースを製造する方法は特開2009−201405号として出願されている。そして、グルコースを、発酵法、アルカリ水溶液法、固体触媒法等を用いれば、乳酸に転化させることができる。本発明では、この乳酸からアクリル酸を合成する。本発明では、同様に、乳酸エステルからアクリル酸エステルを合成することも可能である。また、本発明では、乳酸以外のヒドロキシカルボン酸、その塩、あるいはエステルから、不飽和カルボン酸、その塩、あるいはエステルを合成することも可能である。以下の説明では、塩とエステルを併せて「その誘導体」といい、簡単のため、特に断らない限り、ヒドロキシカルボン酸とその誘導体を単にヒドロキシカルボン酸といい、不飽和カルボン酸とその誘導体を単に不飽和カルボン酸という。なお、ヒドロキシカルボン酸エステルは、バイオマス由来のヒドロキシカルボン酸と対応するアルコールとを、公知のエステル化触媒等を用いて公知の方法で反応させればよい。
【0014】
本発明において、ヒドロキシカルボン酸を脱水して対応する不飽和カルボン酸へと転化する反応の際には、アパタイト化合物を触媒として用いる。本発明におけるアパタイト化合物とは、アパタイト構造を有する化合物であり、固溶体をも含む概念で、一般式:Ma(M’Obc2で表すことができる。Mは、Ca,Sr,Pb,Mg,Cd,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,La,H等を表し、これらの1種または2種以上であってもよい。中でも、MがCa単独のアパタイト化合物、またはCaと他の元素を組み合わせたアパタイト化合物が好ましい。また、M’は、P,V,As,C,S等を表し、中でも、M’がP単独のアパタイト化合物、またはPと他の元素を組み合わせたアパタイト化合物が好ましい。XはOH,FまたはCl等を表す。aが10、bが4、cが6であり、a/cが1.67であるM10(M’O462が、基本的なアパタイト化合物である。固溶体の場合や、a/cが1.67からずれる場合、Mに2価以外の元素が含まれる場合、M’にCやS等の5価以外の元素が含まれる場合は、上記基本的なアパタイト化合物とは異なる化学式となる。a/cは1.5〜1.8の間で変化しても構わない。なお、MやM’が2種以上の元素の組み合わせである場合、aやcは、各元素の価数の合計となる。最も代表的なアパタイトは、a/c(Ca/P)のモル比が1.67であるCa10(PO46(OH)2である。
【0015】
アパタイト化合物を合成する際のCa源としては硝酸カルシウム等が、Sr源として硝酸ストロンチウム等が、P源としては五酸化二リン(P25)等が、Pb源としては硝酸鉛等が挙げられ、V源としては五酸化バナジウム(V25)等が挙げられる。また、酢酸塩、塩化物、金属錯体、炭酸塩等も用いることができる。その他の元素を有するアパタイト化合物を合成する場合も、適宜、これらの化合物から合成可能である。
【0016】
アパタイト化合物は、例えば、アルカリ存在下、水熱反応によって合成することができる。水熱反応は、NaOH等でアルカリ性にした各原料化合物の水溶液を混合し、50〜300℃程度、圧力1×105〜1×107Pa程度で行えばよい。上記a/cを変化させるには、原料化合物の使用量の比率を変えるか、アルカリの濃度を調整することにより行うことができる。また、アパタイト化合物は、乾式固相反応法や湿式沈殿反応法等によっても合成可能である。
【0017】
アパタイト化合物の形態は、顆粒状、針状、粉砕物、錠剤型に成形したもの、ハニカム等、特に限定されない。また、アルミナ、シリカ等の公知の担体に担持させて用いてもよい。アパタイト化合物の使用量は、反応時間を考慮して適宜選択できる。
【0018】
本発明の合成反応における原料化合物となるヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、3−ヒドロキシブタン酸、3−ヒドロキシ−2−メチルブタン酸、2,3−ジメチル−3−ヒドロキシブタン酸等が挙げられる。また、これらの塩やエステル等の誘導体も原料化合物として用いることができる。
【0019】
不飽和カルボン酸の合成反応は、ヒドロキシカルボン酸の水溶液をアパタイト化合物に接触させることで行うことが好ましい。ヒドロキシカルボン酸が反応管へ導入される前に縮合してしまうのを抑制することができ、また、反応生成物を氷浴トラップ等で冷却すると、不飽和カルボン酸を含む水溶液となって回収し易くなるからである。ただし、溶媒がなくても反応は進行する。反応温度は250〜400℃が好ましい。反応圧力は、常圧、加圧下、減圧下、いずれの条件でもよいが、常圧で構わない。ヒドロキシカルボン酸水溶液の濃度も特に限定されないが、効率を考慮すると20〜50質量%程度が好ましい。また、水以外の溶媒を含んでいてもよい。ヒドロキシカルボン酸の場合であれば、アルコールやエーテル等の親水性有機溶媒を、水と共に、あるいは水に変えて用いてもよく、また、ヒドロキシカルボン酸エステルが水に溶解しにくい、もしくは溶解しない場合には、溶媒を用いずに反応を行うか、ヒドロキシカルボン酸エステルを溶解することのできる有機溶媒を用いればよい。
【0020】
反応形式としては、固定床式、移動床式、流通床式等のいずれも採用可能である。窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性キャリアガスを用いることもできる。例えば、固定床流通式反応装置を用いる場合、アパタイト化合物層の上下流にシリカウールや石英砂等の不活性充填剤を充填してもよい。
【0021】
反応生成物を公知の精製手段(蒸留、晶析等)によって精製することにより、高純度の不飽和カルボン酸を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0023】
実験例1(触媒の種類の影響)
[アパタイト化合物の調製]
25を1mmol、NaOH7mmolを含む水溶液7mlに溶解させた後、硝酸カルシウムまたは硝酸ストロンチウムを3.33mmol含む水溶液8mlを加えることによって2種類の懸濁液を得た。この懸濁液をポリテトラフルオロエチレン内張りオートクレーブに導入し、110℃、圧力143kPaで14時間、撹拌しながら水熱処理を行った。水熱処理後、得られた沈殿をよく水洗し、60℃で5時間乾燥させた。粉末状のM10(M’O46(OH)2(MはCaまたはSr、M’はP)が得られた。この粉末をペレ
ットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0024】
[シリカゲルを用いた触媒の調製]
P換算で1mmolのP25、またはCa換算で1mmolのCaNO3を、蒸留水1.5mlに完全に溶解させ、担体としてのシリカゲル(富士シリシア社製;キャリアクト(登録商標)G−6;粒子径30−200メッシュ)1.0gを加えてかき混ぜた。ウォーターバス上で水分がなくなるまでよくかき混ぜた後、60℃で一晩乾燥させた。この粉末をペレットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0025】
[活性炭を用いた触媒の調製]
Na換算で10mmolのNaNO3を蒸留水1.5mlに完全に溶解させ、担体としての活性炭(和光純薬工業社製;グレード;平均粒子径等)1.0gを加えてかき混ぜた。ウォーターバス上で水分がなくなるまでよくかき混ぜた後、60℃で一晩乾燥させた。この粉末をペレットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0026】
上記で得られた5種類の触媒を用い、乳酸からのアクリル酸合成反応を行った。合成反応は、常圧固定床流通式反応装置を用いて行った。反応管は、パイレックス(登録商標)ガラス製の内径7mmのものを用いた。触媒層の上流に石英砂とシリカウールを、下流にシリカウールを充填した。なお、この実験例では触媒の使用量は基本的には0.4gとした。
【0027】
乳酸水溶液の反応管への導入には、マイクロシリンジポンプ(アズワン社製;型番MSPE−1)または液クロ用送液ポンプ(HITACHI社製;型番L−2420)を用いた。乳酸水溶液の濃度は38質量%とした。乳酸水溶液を20μl/minで、キャリアガスとしてのAr40ml/minと共に、触媒層に導入した。反応温度は350℃とした。液体生成物を氷浴トラップで回収した。また、氷浴トラップの出口から気体生成物も回収した。
【0028】
液体生成物については、電子天秤による質量測定の他、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、GC−MS、GC−FID、GC−TCD、全有機体炭素計で分析した。
【0029】
HPLCにおいては、HITACHI社製のLC−UV装置(送液ポンプ:655、カラム恒温槽:L−2350、検出器:638−41)で、カラムはInertsil(登録商標)C8−3(150×4.6mmI.D.)として、UV法により分析した。移動相(溶離液)は、0.1MのH3PO4と0.1MのNH42PO4の混合液(pH=2.8)を使用した。分析条件は、溶離液流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃、検出波長:210nmとした。なお、液クロ用のサンプルは、反応生成物(水溶液)または標準試料0.5gと、0.46MのNaOH水溶液30mlを混合して調製した。
【0030】
ガスクロマトグラフは、GC−FID(島津製作所製:GC−14B)と、GC−MS(アジレント・テクノロジー社製:HP−5890,HP−5972)により、DB−WAX(60m:アジレント・テクノロジー社製)カラムを用いた。
【0031】
氷浴トラップの出口から回収した気体生成物については、GC−TCD(島津製作所製:GC−8A、カラム:ガスクロパックと活性炭)およびGC−FID(島津製作所製:GC−14B、カラム:DB−WAX)を用いて分析した。
【0032】
全有機体炭素量は、液体生成物を500倍に希釈した後、全有機体炭素計(Total Organic Carbon Analyzer:島津製作所製)を用いて、全有機体炭素濃度(TOC)を測定した。
【0033】
なお、ガスクロマトグラフ、全有機体炭素量は副生成物の分析に使用したが、実験例1の結果には直接関係ないため省略した。
【0034】
HPLCのチャートにおける乳酸およびアクリル酸標準溶液の面積率から、乳酸の転化率は、{1−(生成物の乳酸の面積値/標準試料の面積値)}×100で求め、アクリル酸の収率は、(アクリル酸の面積値/標準試料の面積値)×100で求め、アクリル酸への転化率は、(乳酸の転化率/アクリル酸の収率)×100で求めた。なお、乳酸の場合の標準試料は、38質量%の乳酸水溶液0.5gに、0.46MのNaOH水溶液30mlを加えたものとし、アクリル酸の場合の標準試料は、30.4質量%のアクリル酸水溶液に、0.46MのNaOH水溶液30mlを加えたものとした。
【0035】
6時間反応を行った場合の結果を図1に示した。6時間反応させたときの乳酸の全流通量は2736μlである。図1の1は、シリカ担持P25で、2がCa10(PO46(OH)2で、3がSr10(PO46(OH)2で、4がシリカ担持CaNO3である。
【0036】
図1から、Ca−P系のハイドロキシアパタイトが最もアクリル酸の収率がよく、0.4gの触媒量でアクリル酸収率が37.0%となった。また、Sr−P系では、20%前後のアクリル酸収率となった。P25系では、乳酸の転化率は高かったが、目的とするアクリル酸の収率は低いことがわかった。また、CaNO3系では、触媒量を1.0gとしたが、乳酸の転化率もアクリル酸の収率も非常に低かった。
【0037】
図1には載せていないが、活性炭担持NaNO3は触媒使用量0.05gで乳酸の転化率は30.0%、アクリル酸の収率は17.2%であった。また、担体として用いたシリカゲル単独でも上記と同じ実験を行ったところ、乳酸の転化率は66.7%と高かったが、アクリル酸の収率は2.3%と非常に低かった。
【0038】
実験例2(Ca/Pの影響)
次に、アパタイト化合物におけるCa/Pを変える実験を行い、その影響について検討した。実験例1における水熱反応時のCa源とP源の使用比率を変えて、Ca/Pが1.5,1.6,1.8の触媒を合成した。
【0039】
使用した触媒量を1gにした以外は、実験例1と同様にして、6時間のアクリル酸合成反応を行った。Ca/Pが1.67のCa10(PO46(OH)2は、乳酸の転化率が91.4%、アクリル酸の収率が72.0%であり、最も高い結果を示した。Ca/Pが1.5,1.6,1.8の場合も、いずれもアクリル酸の収率が50%を超えており、触媒性能としては充分であった。また、Sr10(PO46(OH)2についても触媒量を1gにして同様の実験を行ったところ、転化率は54.3%、アクリル酸の収率は33.6%であることが確認できた。
【0040】
実験例3(触媒量による影響)
Ca/Pが1.67のCa10(PO46(OH)2を用いて、触媒量を変え、その影響について検討した。使用した触媒量を変えた以外は、実験例1と同様にして、6時間のアクリル酸合成反応を行った。結果を図2に示す。乳酸の転化率、アクリル酸の収率共に、1gまでは触媒量の増加に伴って増大した。触媒量を2gにしたときは、乳酸の転化率は100%となったが、アクリル酸の収率は1gの場合とほとんど変わらず、触媒の効果が頭打ちとなった。
【0041】
実験例4(経時変化)
Ca/Pが1.67のCa10(PO46(OH)2を1g用いて、実験例1と同様にしてアクリル酸の合成反応を行い、時間毎の状態を追跡した。結果を図3に示した。3時間目以降はアクリル酸の収率に大きな変化がないことがわかった。
【0042】
実験例5(経時変化)
Ca/Pが1.67のCa10(PO46(OH)2を1g用いて、実験例1と同様にしてアクリル酸の合成反応を行い、60時間の経時変化を追跡した。乳酸の転化率は経時によってさほど低下しなかったが、アクリル酸の選択率や収率は次第に低下することがわかった。しかし、60時間の連続反応を行ってもアクリル酸の収率は50%を超えており、本発明で用いたアパタイト化合物系触媒が長時間の使用に耐えられることが確認できた。
【0043】
実験例6
乳酸エチルを原料化合物として用いたアクリル酸エチルの合成実験を行った。乳酸水溶液に変えて乳酸エチル(100%)を用いたこと、Ca/Pが1.67のCa10(PO46(OH)2を1g用いたこと以外は、実験例1と同様にして、6時間反応させた。
【0044】
反応生成物を、実験例1と同様にして分析した。GC−MSとGC−FIDでは、メタノールで10倍希釈してから分析した。
【0045】
流通6時間後の乳酸エチルの転化率は55%で、反応生成物中には、アクリル酸エチルとアクリル酸とが含まれていた。両者の合計収率は18%であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明法では、バイオマス由来のヒドロキシカルボン酸および/またはその誘導体から高収率で不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を合成できるため、石油原料に頼ることなく、工業的に有用な不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を合成することが可能となった。
図1
図2
図3