【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0023】
実験例1(触媒の種類の影響)
[アパタイト化合物の調製]
P
2O
5を1mmol、NaOH7mmolを含む水溶液7mlに溶解させた後、硝酸カルシウムまたは硝酸ストロンチウムを3.33mmol含む水溶液8mlを加えることによって2種類の懸濁液を得た。この懸濁液をポリテトラフルオロエチレン内張りオートクレーブに導入し、110℃、圧力143kPaで14時間、撹拌しながら水熱処理を行った。水熱処理後、得られた沈殿をよく水洗し、60℃で5時間乾燥させた。粉末状のM
10(M’O
4)
6(OH)
2(MはCaまたはSr、M’はP)が得られた。この粉末をペレ
ットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0024】
[シリカゲルを用いた触媒の調製]
P換算で1mmolのP
2O
5、またはCa換算で1mmolのCaNO
3を、蒸留水1.5mlに完全に溶解させ、担体としてのシリカゲル(富士シリシア社製;キャリアクト(登録商標)G−6;粒子径30−200メッシュ)1.0gを加えてかき混ぜた。ウォーターバス上で水分がなくなるまでよくかき混ぜた後、60℃で一晩乾燥させた。この粉末をペレットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0025】
[活性炭を用いた触媒の調製]
Na換算で10mmolのNaNO
3を蒸留水1.5mlに完全に溶解させ、担体としての活性炭(和光純薬工業社製;グレード;平均粒子径等)1.0gを加えてかき混ぜた。ウォーターバス上で水分がなくなるまでよくかき混ぜた後、60℃で一晩乾燥させた。この粉末をペレットに成型し、粉砕して250〜500μm程度にしたものを触媒として用いた。
【0026】
上記で得られた5種類の触媒を用い、乳酸からのアクリル酸合成反応を行った。合成反応は、常圧固定床流通式反応装置を用いて行った。反応管は、パイレックス(登録商標)ガラス製の内径7mmのものを用いた。触媒層の上流に石英砂とシリカウールを、下流にシリカウールを充填した。なお、この実験例では触媒の使用量は基本的には0.4gとした。
【0027】
乳酸水溶液の反応管への導入には、マイクロシリンジポンプ(アズワン社製;型番MSPE−1)または液クロ用送液ポンプ(HITACHI社製;型番L−2420)を用いた。乳酸水溶液の濃度は38質量%とした。乳酸水溶液を20μl/minで、キャリアガスとしてのAr40ml/minと共に、触媒層に導入した。反応温度は350℃とした。液体生成物を氷浴トラップで回収した。また、氷浴トラップの出口から気体生成物も回収した。
【0028】
液体生成物については、電子天秤による質量測定の他、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、GC−MS、GC−FID、GC−TCD、全有機体炭素計で分析した。
【0029】
HPLCにおいては、HITACHI社製のLC−UV装置(送液ポンプ:655、カラム恒温槽:L−2350、検出器:638−41)で、カラムはInertsil(登録商標)C8−3(150×4.6mmI.D.)として、UV法により分析した。移動相(溶離液)は、0.1MのH
3PO
4と0.1MのNH
4H
2PO
4の混合液(pH=2.8)を使用した。分析条件は、溶離液流量:1.0ml/min、カラム温度:40℃、検出波長:210nmとした。なお、液クロ用のサンプルは、反応生成物(水溶液)または標準試料0.5gと、0.46MのNaOH水溶液30mlを混合して調製した。
【0030】
ガスクロマトグラフは、GC−FID(島津製作所製:GC−14B)と、GC−MS(アジレント・テクノロジー社製:HP−5890,HP−5972)により、DB−WAX(60m:アジレント・テクノロジー社製)カラムを用いた。
【0031】
氷浴トラップの出口から回収した気体生成物については、GC−TCD(島津製作所製:GC−8A、カラム:ガスクロパックと活性炭)およびGC−FID(島津製作所製:GC−14B、カラム:DB−WAX)を用いて分析した。
【0032】
全有機体炭素量は、液体生成物を500倍に希釈した後、全有機体炭素計(Total Organic Carbon Analyzer:島津製作所製)を用いて、全有機体炭素濃度(TOC)を測定した。
【0033】
なお、ガスクロマトグラフ、全有機体炭素量は副生成物の分析に使用したが、実験例1の結果には直接関係ないため省略した。
【0034】
HPLCのチャートにおける乳酸およびアクリル酸標準溶液の面積率から、乳酸の転化率は、{1−(生成物の乳酸の面積値/標準試料の面積値)}×100で求め、アクリル酸の収率は、(アクリル酸の面積値/標準試料の面積値)×100で求め、アクリル酸への転化率は、(乳酸の転化率/アクリル酸の収率)×100で求めた。なお、乳酸の場合の標準試料は、38質量%の乳酸水溶液0.5gに、0.46MのNaOH水溶液30mlを加えたものとし、アクリル酸の場合の標準試料は、30.4質量%のアクリル酸水溶液に、0.46MのNaOH水溶液30mlを加えたものとした。
【0035】
6時間反応を行った場合の結果を
図1に示した。6時間反応させたときの乳酸の全流通量は2736μlである。
図1の1は、シリカ担持P
2O
5で、2がCa
10(PO
4)
6(OH)
2で、3がSr
10(PO
4)
6(OH)
2で、4がシリカ担持CaNO
3である。
【0036】
図1から、Ca−P系のハイドロキシアパタイトが最もアクリル酸の収率がよく、0.4gの触媒量でアクリル酸収率が37.0%となった。また、Sr−P系では、20%前後のアクリル酸収率となった。P
2O
5系では、乳酸の転化率は高かったが、目的とするアクリル酸の収率は低いことがわかった。また、CaNO
3系では、触媒量を1.0gとしたが、乳酸の転化率もアクリル酸の収率も非常に低かった。
【0037】
図1には載せていないが、活性炭担持NaNO
3は触媒使用量0.05gで乳酸の転化率は30.0%、アクリル酸の収率は17.2%であった。また、担体として用いたシリカゲル単独でも上記と同じ実験を行ったところ、乳酸の転化率は66.7%と高かったが、アクリル酸の収率は2.3%と非常に低かった。
【0038】
実験例2(Ca/Pの影響)
次に、アパタイト化合物におけるCa/Pを変える実験を行い、その影響について検討した。実験例1における水熱反応時のCa源とP源の使用比率を変えて、Ca/Pが1.5,1.6,1.8の触媒を合成した。
【0039】
使用した触媒量を1gにした以外は、実験例1と同様にして、6時間のアクリル酸合成反応を行った。Ca/Pが1.67のCa
10(PO
4)
6(OH)
2は、乳酸の転化率が91.4%、アクリル酸の収率が72.0%であり、最も高い結果を示した。Ca/Pが1.5,1.6,1.8の場合も、いずれもアクリル酸の収率が50%を超えており、触媒性能としては充分であった。また、Sr
10(PO
4)
6(OH)
2についても触媒量を1gにして同様の実験を行ったところ、転化率は54.3%、アクリル酸の収率は33.6%であることが確認できた。
【0040】
実験例3(触媒量による影響)
Ca/Pが1.67のCa
10(PO
4)
6(OH)
2を用いて、触媒量を変え、その影響について検討した。使用した触媒量を変えた以外は、実験例1と同様にして、6時間のアクリル酸合成反応を行った。結果を
図2に示す。乳酸の転化率、アクリル酸の収率共に、1gまでは触媒量の増加に伴って増大した。触媒量を2gにしたときは、乳酸の転化率は100%となったが、アクリル酸の収率は1gの場合とほとんど変わらず、触媒の効果が頭打ちとなった。
【0041】
実験例4(経時変化)
Ca/Pが1.67のCa
10(PO
4)
6(OH)
2を1g用いて、実験例1と同様にしてアクリル酸の合成反応を行い、時間毎の状態を追跡した。結果を
図3に示した。3時間目以降はアクリル酸の収率に大きな変化がないことがわかった。
【0042】
実験例5(経時変化)
Ca/Pが1.67のCa
10(PO
4)
6(OH)
2を1g用いて、実験例1と同様にしてアクリル酸の合成反応を行い、60時間の経時変化を追跡した。乳酸の転化率は経時によってさほど低下しなかったが、アクリル酸の選択率や収率は次第に低下することがわかった。しかし、60時間の連続反応を行ってもアクリル酸の収率は50%を超えており、本発明で用いたアパタイト化合物系触媒が長時間の使用に耐えられることが確認できた。
【0043】
実験例6
乳酸エチルを原料化合物として用いたアクリル酸エチルの合成実験を行った。乳酸水溶液に変えて乳酸エチル(100%)を用いたこと、Ca/Pが1.67のCa
10(PO
4)
6(OH)
2を1g用いたこと以外は、実験例1と同様にして、6時間反応させた。
【0044】
反応生成物を、実験例1と同様にして分析した。GC−MSとGC−FIDでは、メタノールで10倍希釈してから分析した。
【0045】
流通6時間後の乳酸エチルの転化率は55%で、反応生成物中には、アクリル酸エチルとアクリル酸とが含まれていた。両者の合計収率は18%であった。