(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記乾燥工程において、上記乾燥温度に到達するまでの所要時間を[(500÷T)−0.5]分以内とすることを特徴とする請求項3記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
上記反応溶液の温度を20〜70℃、アンモニウムイオン濃度を5〜20g/Lの範囲に保持することを特徴とする請求項3又は4記載のニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの携帯機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型、軽量な二次電池が必要とされている。このような用途に好適な二次電池としては、リチウムイオン二次電池があり、研究開発が盛んに行なわれている。
【0003】
また、自動車の分野でも、資源、環境問題から電気自動車に対する要望が高まり、電気自動車用やハイブリット自動車用の電源として、小型、軽量で放電容量が大きく、サイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池が求められている。特に、自動車用の電源においては、出力特性が重要であり、出力特性が良好なリチウムイオン二次電池が求められている。
【0004】
リチウム含有複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。そして、この種のリチウムコバルト複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行なわれてきており、すでに様々な成果が得られている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、活物質さらには電池のコストアップの原因となり、活物質の改良が望まれている。このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高いため、適用される用途がかなり限定されている。したがって、現在普及している携帯機器用の小型二次電池についてだけではなく、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池についても、活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0006】
ここで、リチウムイオン二次電池用正極活物質の新たなる材料として、リチウムコバルト複合酸化物よりも安価な4V級正極活物質、すなわち、ニッケル、コバルト及びマンガンの原子比が実質的に1:1:1であるLi[Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3]O
2なる組成を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が注目されている。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、安価であるばかりか、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池よりも高い熱安定性を示すことから、開発が盛んに行なわれている。
【0007】
リチウムイオン二次電池が良好な電池特性を発揮するためには、正極活物質であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が適度な粒径と比表面積を有するとともに高密度であることが必要である。
【0008】
また、電解質とリチウムイオンが受け渡しされる正極活物質の表面性状も重要であり、不純物、特に炭素の付着が少ないことが要求される。このような正極活物質の性状は、前駆体であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の性状を強く反映されるため、複合水酸化物においても同様な性状が求められる。
【0009】
正極活物質の前駆体となる複合水酸化物に関しては、以下に述べるような種々の提案がなされている。しかしながら、いずれの提案においても十分に高密度の材料が得られていないばかりか表面性状については十分に考慮されていないという問題がある。
【0010】
例えば、特許文献1には、反応槽内に、不活性ガス雰囲気中又は還元剤存在下、コバルト塩及びマンガン塩を含むニッケル塩水溶液、錯化剤、並びにアルカリ金属水酸化物を連続供給し、連続結晶成長させ、連続に取り出すことにより、タップ密度が1.5g/cm
3以上であり、平均粒径が5〜20μm、比表面積が8〜30m
2/gの球状である高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケルを得ることが提案されている。得られるコバルトマンガン共沈水酸化ニッケルは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の原料として用いることが可能であるが、実施例によれば、共沈水酸化ニッケルのタップ密度は1.71〜1.91g/cm
3であり、2.0g/cm
3未満であることから十分に高密度であるとはいえない。
【0011】
一方、比表面積については具体的な数値は記載されず、比表面積の適正化については不明であり、複合酸化物の炭素含有量については何ら記載がない。したがって、この共沈水酸化ニッケルを前駆体として用いても、良好な電池特性を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は得られない。
【0012】
また、特許文献2には、pH9〜13の水溶液中で錯化剤の存在下、ニッケルとコバルトとマンガンとの原子比が実質的に1:1:1であるニッケル塩とコバルト塩とマンガン塩との混合水溶液を不活性ガス雰囲気下でアルカリ溶液と反応、共沈殿させてニッケルとコバルトとマンガンとの原子比が実質的に1:1:1であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物及び/又はニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程と、ニッケルとコバルトとマンガンとの合計の原子比とリチウムの原子比が実質的に1:1となるように、前記水酸化物及び/又は酸化物とリチウム化合物との混合物を700℃以上で焼成する工程とからなるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の製造方法が提案されている。
【0013】
この特許文献2においても、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のタップ密度は1.95g/cm
3で2.0g/cm
3未満であり、比表面積は13.5m
2/gと非常に大きいものとなっている。また、複合水酸化物の炭素含有量については何ら記載がなく、炭素の付着による電池特性への悪影響についても記載されていない。
【0014】
リチウムイオン二次電池の容量は、電池内に充填される活物質の質量で決まるため、従来と比べてより高密度で電池特性に優れたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができれば、限られた容積で電気容量の大きい優れた電池を得ることができる。特に、スペースが限られる携帯機器用の小型二次電池や自動車用の電池では有利となる。
【0015】
以上のように、優れた熱安定性を示すリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等のニッケルコバルト複合酸化物において、高密度化と電池特性の向上を可能とする前駆体となるニッケルコバルト複合水酸化物が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を適用したニッケルコバルト複合水酸化物及びその製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明に係る実施の形態の説明は、以下の順序で行う。
1.ニッケルコバルト複合水酸化物
2.ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法
2−1.晶析工程
2−2.固液分離工程
2−3.乾燥工程
【0024】
<1.ニッケルコバルト複合水酸化物>
ニッケルコバルト複合水酸化物は、Ni
1−x−y−zCo
xMn
yM
z(OH)
2(0<x≦1/3、0≦y≦1/3、0≦z≦0.1、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される。このニッケルコバルト複合水酸化物は、窒素吸着BET法により測定される比表面積が1.0〜10.0m
2/g、好ましくは1.0m
2/g以上、8.0m
2/g未満であり、かつ高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%以下である。ニッケルコバルト複合水酸化物としては、高い熱安定を示すニッケル、コバルト及びマンガンを含むニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が好ましい。
【0025】
ニッケルコバルト複合水酸化物の比表面積が10.0m
2/gを超えると、最終的に得られる正極活物質の比表面積が大きくなり過ぎ、十分な安全性が得られない。また、比表面積が1.0m
2/g未満になると、正極活物質の比表面積が小さくなり過ぎ、電池に用いた場合に電解液との接触が不十分となり、出力が十分に得られない。したがって、比表面積を1.0〜10.0m
2/g、好ましくは1.0m
2/g以上、8.0m
2/g未満とすることによって、電池の十分な安全性及び出力を得ることができる。
【0026】
高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%を超えると、正極活物質表面に形成される不純物が多くなり、電池における出力が十分に得られない。したがって、炭素含有量を0.1質量%以下とすることによって、十分な出力を有する電池を得ることができる。
【0027】
添加元素のM元素(以下、添加元素Mという)は、サイクル特性や出力特性などの電池特性を向上させるために添加するものである。添加元素Mの原子比zが0.1を超えると、酸化還元反応(Redox反応)に貢献する金属元素が減少し、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、添加元素Mは、原子比zで0≦z≦0.1の範囲内となるように調整する。
【0028】
添加元素Mをニッケルコバルト複合水酸化物の粒子に均一に分布させることで、粒子全体で電池特性を向上させる効果を得ることができる。このため、添加元素Mの添加量が少量であっても効果が得られるとともに容量の低下を抑制できる。さらに、より少ない添加量で効果を得るためには、ニッケルコバルト複合水酸化物の粒子内部より粒子表面における添加元素Mの濃度を高めることが好ましい。
【0029】
以上のようなニッケルコバルト複合水酸化物は、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体として好適であり、窒素吸着BET法により測定される比表面積が1.0〜10.0m
2/gであり、かつ高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%以下であることによって、優れた熱安定性を示し、高密度化と高い電池特性を有する正極活物質を製造することができる。
【0030】
ニッケルコバルト複合水酸化物を用いて非水系電解質二次電池の正極活物質を製造する場合には、通常の正極活物質の製造方法により正極活物質とすることができる。例えば、ニッケルコバルト複合水酸化物をそのままの状態か、800℃以下の温度で熱処理した後、リチウム化合物を、好ましくは複合水酸化物の金属元素に対してリチウムを原子比で0.95〜1.5となるように混合して800〜1000℃で焼成すればよい。得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池では、高容量でサイクル特性がよく安全性にも優れたものにできる。
【0031】
<2.ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法>
以上のようなニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、少なくともニッケル塩及びコバルト塩、更に必要に応じてマンガン塩等を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを混合するとともに、pHが11〜13の範囲に保持されるように苛性アルカリ水溶液を供給したものを反応溶液とし、反応溶液中でニッケルコバルト複合水酸化物粒子を晶析させる晶析工程と、晶析したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離し、水洗する固液分離工程と、水洗したニッケルコバルト複合水酸化物粒子を乾燥温度を100〜230℃として、乾燥温度をT(℃)としたときに、乾燥温度に到達するまでの所要時間を(500÷T)分以内として乾燥させる乾燥工程とを有する。このニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、得られるニッケルコバルト複合水酸化物の比表面積と炭素含有量を低減することができ、上述したように窒素吸着BET法により測定される比表面積が1.0〜10.0m
2/g、かつ高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%以下とすることができる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0032】
(2−1.晶析工程)
晶析工程は、少なくともニッケル塩及びコバルト塩、更に必要に応じてマンガン塩を含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを混合するとともに、好ましくはpHが11〜13の範囲に保持されるように苛性アルカリ水溶液を供給して反応溶液とし、反応溶液中でニッケルコバルト複合水酸化物粒子を晶析させる。
【0033】
晶析工程では、反応溶液の温度を20〜70℃に保持することが好ましい。これにより、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶が成長する。反応溶液の温度が20℃未満では、反応溶液における塩の溶解度が低く塩濃度が低いため、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶が十分に成長しない。また、反応溶液の温度が70℃を超えると、結晶核の発生が多く微細な粒子が多くなるため、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子が高密度とならない。したがって、結晶が十分に成長させ、粒子を高密度とするため、反応溶液の温度を20〜70℃とすることが好ましい。
【0034】
また、晶析工程では、反応溶液のpHを液温25℃基準で11〜13の範囲に制御する。pHが11未満では、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子が粗大になり、その平均粒子径が15μmを超えてしまう上に、反応後、液中にニッケルが残留し、ニッケルのロスが発生してしまう。また、pHが13を超えると、ニッケルコバルト複合水酸化物の晶析速度が速くなり、微細な粒子が多くなってしまう。微細な粒子が多過ぎると、これらが正極活物質の製造時に焼結して凝集粉を生ずるという問題がある。なお、pHを11.5以上とすることが特に好ましい。したがって、ニッケルのロスが少なく、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子が粗大にも微細にもならず、適度な大きさにし、凝集粉の発生を抑えるため、反応溶液のpHを液温25℃基準で11〜13の範囲にする。
【0035】
反応溶液のpHは、苛性アルカリ水溶液を供給することにより制御することができる。苛性アルカリ水溶液は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物を、直接、反応溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。苛性アルカリ水溶液の添加方法も特に限定されるものではなく、反応溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプで、pHが11〜13の範囲となるように添加すればよい。
【0036】
更に、晶析工程では、共沈殿によるニッケルコバルト複合水酸化物粒子の生成を酸素含有量が少ない環境下で行わせることが好ましい。不活性雰囲気あるいは還元剤の存在下で行うと、ニッケルコバルト複合水酸化物にマンガンを含有させる場合に、マンガンが酸化せず、上述した反応溶液の温度及びpHの条件では、混合溶液中におけるマンガンの溶解度が大きくなり過ぎ、板状の一次粒子が発達し、球状の二次粒子が成長せず、高いタップ密度のニッケルコバルト複合水酸化物粒子が得られない場合があるからである。
【0037】
本実施の形態における晶析工程では、微粉が少な過ぎたり多過ぎたりすることなく、高密度、好ましくはタップ密度が2.0g/cm
3以上、より好ましくはタップ密度が2.0〜3.0g/cm
3であるニッケルコバルト複合水酸化物粒子が得られる。タップ密度が3.0g/cm
3よりも大きいと、粒径が大きくなり過ぎて得られる正極活物質が電解液と接触する面積が低下するため、好ましい電池特性が得られにくくなることがある。したがって、タップ密度を2.0g/cm
3以上、好ましくはタップ密度を2.0〜3.0g/cm
3、さらに好ましくは2.0〜2.5g/cm
3とすることによって、高密度にでき、電池性能を向上させることができる。また、晶析工程では、平均粒径が5〜25μmであるニッケルコバルト複合水酸化物粒子が得られる。平均粒径が5μmよりも小さい場合には、比表面積が大きくなり過ぎることがある。また、正極活物質の製造時に焼結による凝集が発生することがある。一方、25μmよりも大きい場合には、比表面積が小さくなり過ぎることがある。また、正極活物質の集電体への塗布性が低下してしまう。したがって、平均粒径を5〜25μmとすることによって、比表面積を1.0〜10.0m
2/gの範囲とし、製造時の凝集を抑え、集電体への塗布性の低下を抑制できる。
【0038】
得られるニッケルコバルト複合水酸化物は、上述したように一般式:Ni
1−x−y−zCo
xMn
yM
z(OH)
2(0<x≦1/3、0≦y≦1/3、0≦z≦0.1、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるものであり、供給する混合水溶液の原子比とほぼ一致する。したがって、混合水溶液の原子比を上記一般式の原子比に調整することで、ニッケル、コバルト、マンガン及び添加元素Mの原子比を上記一般式に示す範囲とすることができる。
【0039】
ニッケル塩及びコバルト塩の混合水溶液、又は更にマンガン塩も混合した混合水溶液における塩濃度は、各塩の合計で1mol/L〜2.2mol/Lとすることが好ましい。1mol/L未満であると、塩濃度が低く、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶が十分に成長しない。一方、2.2mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して配管を詰まらせるなどの危険がある上、結晶核の発生が多く微細な粒子が多くなってしまう。したがって、混合水溶液中における塩濃度は、ニッケルコバルト複合水酸化物の結晶を成長させ、再析出させず、微細粒子の発生を抑えるため、各塩の合計が1mol/L〜2.2mol/Lとなるようにすることが好ましい。
【0040】
ここで使用可能なニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩は、特に限定されるものではないが、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
アンモニウムイオン供給体は、特に限定されるものではないが、アンモニア、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
アンモニウムイオン供給体の添加量は、反応溶液中のアンモニウムイオン濃度で5〜20g/Lの範囲とすることが好ましい。アンモニウムイオン濃度で5g/L未満では、反応溶液中のニッケル、コバルト及びマンガンの溶解度が低く、結晶成長が十分でないため、高密度のニッケルコバルト複合水酸化物が得られない。また、アンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると、晶析速度が低下して生産性が悪化するとともに、液中残留するニッケルなどの金属イオンが多くなり、コストが増加する。したがって、アンモニウムイオン供給体の添加量は、生成性が良く、高密度のニッケルコバルト複合水酸化物を得るために5〜20g/Lの範囲とすることが好ましい。
【0043】
添加元素Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素であり、晶析工程中の混合水溶液に添加するか、個別に反応溶液に添加することで、ニッケルコバルト複合水酸化物を一般式の組成とすることができる。添加元素Mは、水溶性の化合物として添加することが好ましく、例えば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0044】
添加元素Mをニッケルコバルト複合水酸化物粒子の内部に均一に分散させる場合には、混合水溶液に添加元素Mを含有する添加物を添加すればよく、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の内部に添加元素Mを均一に分散させた状態で共沈させることができる。
【0045】
また、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の内部に添加元素Mを添加するだけではなく表面を添加元素Mで被覆してもよく、その場合には、例えば添加元素Mを含んだ水溶液でニッケルコバルト複合水酸化物粒子をスラリー化し、所定のpHとなるように制御しつつ、1種以上の添加元素Mを含む水溶液を添加して、晶析反応により添加元素Mをニッケルコバルト複合水酸化物粒子表面に析出させれば、その表面を添加元素Mで均一に被覆することができる。この場合、添加元素Mを含んだ水溶液に替えて、添加元素Mのアルコキシド溶液を用いてもよい。
【0046】
他の方法としては、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に対して、添加元素Mを含んだ水溶液あるいはスラリーを吹き付けて乾燥させることによっても、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面を添加元素Mで被覆することができる。または、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子と1種以上の添加元素Mを含む塩が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる、あるいはニッケルコバルト複合水酸化物粒子と1種以上の添加元素Mを含む塩を固相法で混合するなどの方法により被覆することができる。
【0047】
なお、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mで被覆する場合には、混合水溶液中に存在する添加元素イオンの原子数比を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる複合水酸化物粒子の金属イオンの原子数比と一致させることができる。また、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mを被覆する工程は、ニッケルコバルト複合水酸化物を熱処理する場合においては熱処理後の粒子に対して行ってもよい。ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面に添加元素Mを被覆することで、正極活物質の粒子内部より粒子表面における添加元素Mの濃度を高めることができる。
【0048】
晶析工程における反応方式は、特に限定されるものではなく、バッチ方式を採ってもよいが、混合水溶液、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液及び苛性アルカリ水溶液をそれぞれ連続的に供給して、反応槽からニッケルコバルト複合水酸化物粒子を含む反応溶液を連続的にオーバーフローさせてニッケルコバルト複合水酸化物粒子を回収する連続方式を採ることが、生産性、安定性の面から好ましい。
【0049】
連続方式の場合には、温度を一定に保持しながら、混合水溶液とアンモニウムイオン供給体を反応槽に一定量供給するとともに、苛性アルカリ水溶液を添加してpHを制御し、反応槽内が定常状態になった後、オーバーフローパイプより生成粒子を連続的に採取することが好ましい。また、混合水溶液と苛性アルカリ水溶液を予め混合してから反応槽に供給することも可能であるが、苛性アルカリ水溶液との混合時に混合水溶液中にニッケルコバルト複合水酸化物が生成することを防止するため、混合水溶液と苛性アルカリ水溶液は、個別に反応槽に供給することが好ましい。また、ニッケルやコバルトなどの金属塩は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよく、例えば、混合すると反応して化合物が生成される金属塩を用いる場合、全金属塩水溶液の合計の濃度が1mol/L〜2.2mol/Lの範囲となるように、個別に金属塩水溶液を調製して、個々の金属塩の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
【0050】
いずれの反応方式を用いる場合においても、晶析中は均一な反応を維持するために、十分に攪拌することが好ましい。しかしながら、過度に撹拌すると、雰囲気中の酸素を多量に巻き込み、水溶液中の塩が酸化し過ぎることがあるので、反応を十分均一に維持できる程度に撹拌することが好ましい。また、晶析工程に用いる水は、不純物混入防止のため、純水などの可能な限り不純物含有量が少ない水を用いることが好ましい。酸化を抑制するため、混合水溶液は、例えば、反応溶液中に供給口となる注入ノズルを差込み、混合水溶液が反応溶液中に直接供給されるようにすることが好ましい。
【0051】
(2−2.固液分離工程)
次に、晶析によって得られたニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離した後、水洗する固液分離工程を行う。この固液分離工程では、例えば、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を濾過した後、水洗し、濾過物を得る。なお、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を洗浄した後に濾過を行ってもよい。
【0052】
固液分離の方法としては、通常用いられる方法でよく、例えば、遠心機、吸引濾過機等を用いることができる。また、水洗は、通常行なわれる方法でよく、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子に含まれる余剰の塩基、アンモニアを除去できればよい。水洗で用いる水は、不純物の混入を防止するため、可能な限り不純物含有量が少ない水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
【0053】
(2−3.乾燥工程)
次に、固液分離工程後のニッケルコバルト複合水酸化物粒子を乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥工程では、乾燥温度を100〜230℃とし、乾燥温度をT(℃)としたときに、乾燥温度に到達するまでの所要時間を(500÷T)分以内、好ましくは{(500÷T)−0.5}分以内とする条件で乾燥する。
【0054】
乾燥工程において、上記条件で乾燥することにより、窒素吸着BET法により測定される比表面積が1.0〜10.0m
2/gであり、かつ高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%以下、好ましくは比表面積が1.0m
2/g以上、8.0m
2/g未満であるニッケルコバルト複合水酸化物を得ることができる。
【0055】
ここで、乾燥温度は、物温、即ち乾燥されるニッケルコバルト複合水酸化物粒子の最高温度であり、100〜230℃である。乾燥時においては、乾燥されるニッケルコバルト複合水酸化物粒子の昇温に時間を要するため、乾燥開始直後には雰囲気と温度は一致しないが、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子は、ほぼ雰囲気温度まで上昇して最高温度となる。比表面積は、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子が到達する最高温度と到達するまでの時間の制御が大きく影響するため、粒子の温度で制御することにより、比表面積を1.0〜10.0m
2/gの範囲にすることが可能となる。最高温度は、雰囲気温度と一致しない場合があるが、その差が10℃以下、好ましくは5℃以下であれば許容できる範囲といえる。
【0056】
乾燥温度が100℃未満であると、表面に微細な水酸化物粒子が新たに生成されるため、比表面積が10.0m
2/gを超えてしまう。また、乾燥温度が230℃を超えると、ニッケルコバルト複合水酸化物の分解が進み、酸化物の混入が多くなり過ぎてしまう。酸化物が多く混在すると、酸化物の混在量により質量あたりのニッケルなどの金属含有量が変動するため、正極活物質の製造工程においてリチウム化合物と正確に配合することが困難となり、得られる正極活物質の電池特性を十分なものとすることが困難となる。したがって、乾燥温度は、酸化物の混入が抑制され、比表面積が10.0m
2/g以下となるように、100〜230℃とする。
【0057】
乾燥温度に到達するまでの所要時間は、(500÷T)分以内であり、これを超えると、表面に微細な水酸化物粒子が新たに生成され、比表面積が10.0m
2/gを超えるとともに乾燥雰囲気中の炭酸ガス等の炭素含有ガスが複合水酸化物粒子表面に吸着されるため、炭素含有量が0.1質量%を超えてしまう。更に、比表面積を8.0m
2/g未満とするためには、所要時間を[(500÷T)−0.5]分以内とすることが好ましい。温度が高いほど、微細な水酸化物粒子の生成や炭素含有ガスの吸着が促進されるため、所要時間を短時間にする必要がある。上記乾燥時間の条件では、比表面積の下限は、1.0m
2/gとなる。所要時間は、例えば、静置式乾燥の場合、乾燥温度と水酸化物の層厚により制御できる。乾燥に供する水酸化物の量や水分率で異なるが、層厚を薄くすると所要時間が短くなる傾向にある。
【0058】
乾燥装置は、上記乾燥条件を満たすことができれば通常用いられる乾燥装置でよく、静置式、流動式、気流式のいずれの乾燥装置も用いることができる。加熱方式については雰囲気中の炭素含有ガスが増加しない電気加熱方式が好ましい。
【0059】
このような乾燥工程では、炭素含有ガスの吸着を抑制することができるため、高コストとなる不活性雰囲気を用いる必要はなく、通常の範囲で炭素含有ガスを含む大気雰囲気で乾燥することができる。乾燥時間を上記範囲内にするためには、雰囲気を流通させて発生した水蒸気を乾燥装置内から除去することが好ましい。真空雰囲気では、乾燥時間が長くなる傾向があるため、上記条件で乾燥ができるよう流動式等の装置を用いることが好ましい。
【0060】
以上のように、ニッケルコバルト複合水酸化物の製造方法は、ニッケル塩やコバルト塩、更には必要に応じてマンガン塩や添加元素Mを含む混合水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを混合するとともに、液温25℃基準でpHが11〜13の範囲に保持されるように苛性アルカリ水溶液を供給して反応溶液中でニッケルコバルト複合水酸化物粒子を晶析させ、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を固液分離して取出し、乾燥温度を物温の最高温度である100〜230℃とし、かつ乾燥温度に到達するまでの所要時間を(500÷T)分以内とすることによって、窒素吸着BET法により測定される比表面積が1.0〜10.0m
2/gであり、かつ高周波−赤外燃焼法により測定される炭素含有量が0.1質量%以下であるニッケルコバルト複合水酸化物を得ることができる。得られたニッケルコバルト複合水酸化物は、優れた熱安定性を示し、高密度化と電池特性を向上させることができる正極活物質の製造を可能とするものである。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたニッケルコバルトマンガン水酸化物及び非水系電解質二次電池用正極活物質の評価方法は、以下の通りである。
【0062】
(1)金属成分の分析:
ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いて、ICP発光分析法により分析した。
(2)アンモニウムイオン濃度の分析:
JIS標準による蒸留法によって測定した。
(3)BET比表面積の測定:
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、マルチソープ16)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。
(4)炭素含有量の測定:
炭素硫黄分析装置(LECO社製、CS−600)を用いて、高周波燃焼−赤外吸収法により測定した。
(5)平均粒径の測定及び粒度分布幅の評価:
レーザー回折式粒度分布計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて、平均粒径の測定及び粒度分布幅の評価を行った。
(6)形態の観察評価:
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6360LA、以下、SEMと記載)を用いて、形状と外観の観察評価を行った。
【0063】
[実施例1]
実施例1では、邪魔板を4枚取り付けた槽容積34Lのオーバーフロー式晶析反応槽に、工業用水32L、25質量%アンモニア水を1300mL投入して、恒温槽及び加温ジャケットにて50℃に加温し、24質量%苛性ソーダ溶液を添加して、反応槽内の反応溶液のpHを10.9〜11.1に調整した。このpHは、50℃におけるpHであるため、pH管理を正確に行うため、反応溶液を採取し25℃に冷却してpHを測定し、25℃でのpHが11.7〜11.9になるように、50℃でのpHを調整した。
【0064】
次に、50℃に保持した反応溶液を攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、ニッケル濃度1.0mol/L、コバルト濃度0.4mol/L、マンガン濃度0.6mol/Lの硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合水溶液(金属元素モル比で、Ni:Co:Mn=0.5:0.2:0.3、以下、混合水溶液と記載する。)を30ml/分で、併せて25質量%アンモニア水を2.5ml/分で連続的に供給するとともに、24質量%苛性ソーダ溶液を添加して、25℃でのpHが11.7〜11.9、アンモニウムイオン濃度を5〜15g/Lとなるように制御して、晶析反応を行った。
【0065】
この際の攪拌は、直径10cmの6枚羽根タービン翼を用いて、1200rpmの回転速度で水平に回転させることにより行った。また、混合水溶液の反応系内への供給方法としては、反応溶液中に供給口となる注入ノズルを差込み、混合水溶液が反応溶液中に直接供給されるようにして行った。
【0066】
晶析反応によって生成したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、オーバーフローにて連続的に取り出した。反応が安定した反応開始から48〜72時間にかけて取り出された上記粒子をブフナー漏斗及び吸引瓶を用いて固液分離した後、水洗し濾過物を得た。濾過物の水分率を120℃で24時間の乾燥減量法にて測定したところ、16.8質量%であった。
【0067】
この濾過物をバットに移してから、層厚3mmに広げて乾燥温度100℃に保持した大気乾燥機にセットした。濾過物中に熱電対を差し込み、物温の上昇をモニタリングし、(設定した乾燥温度−5)℃に到達するまでの時間を測定しつつ乾燥させた。乾燥温度に到達するまでの時間を含めて1時間の乾燥を行い、得られた乾燥物を回収した。
【0068】
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のニッケルの含有量は31.6質量%、コバルトの含有量は12.7質量%、マンガンの含有量は17.8質量%で、各元素比は49.9:20.0:30.1でほぼ原料水溶液の組成比に等しかった。また、比表面積は7.5m
2/g、炭素含有量は0.07質量%であった。平均粒径は、10.5μmであり、BET粒子をSEMにて観察したところ、略球状の粒子であり、該断面も同様に観察したところ、緻密な結晶からなる粒子であることが確認された。
【0069】
[実施例2〜6]
実施例2〜6では、実施例1で得られた濾過物を、表1に示す層厚、乾燥温度で乾燥処理を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。各々の乾燥温度{(設定乾燥温度−5)℃}までの到達時間、比表面積、炭素含有量(C品位)は表1に示すとおりであった。
【0070】
[比較例1〜6]
比較例1〜6では、実施例1で得られた濾過物を、表1に示す層厚、乾燥温度で乾燥処理を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た。各々の乾燥温度{(設定乾燥温度−5)℃}までの到達時間、比表面積、炭素含有量(C品位)は表1に示すとおりであった。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1〜6及び比較例1〜6より得られた、乾燥温度、乾燥温度までの到達時間、比表面積の関係を
図1に示す。また、
図1中に(500÷乾燥温度T)となる曲線を示す。
【0073】
図1中に○で示した実施例は、乾燥温度までの到達時間が(500÷乾燥温度T)よりも短くなっており、得られるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の比表面積は10m
2/g以下であるとともに炭素含有量が0.1質量%以下であることがわかる。
【0074】
一方、
図1中に×で示した乾燥温度が100℃よりも低い比較例1〜3と、乾燥温度までの到達時間が(500÷乾燥温度T)より長い比較例4〜6は、比表面積は10m
2/gを超え、炭素含有量も0.1質量%を超えている。
【0075】
したがって、この実施例及び比較例から、乾燥温度及び乾燥温度までの到達時間を(500÷T)分以内とすることにより、比表面積が1.0〜10.0m
2/gであり、炭素含有量が0.1質量%以下であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得られることがわかる。