特許第5802024号(P5802024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5802024乗り物振動検出方法及び乗り物振動検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5802024
(24)【登録日】2015年9月4日
(45)【発行日】2015年10月28日
(54)【発明の名称】乗り物振動検出方法及び乗り物振動検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20151008BHJP
【FI】
   G01H17/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-46786(P2011-46786)
(22)【出願日】2011年3月3日
(65)【公開番号】特開2012-184958(P2012-184958A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 和朋
(72)【発明者】
【氏名】田代 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】渡井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】満倉 靖恵
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195218(JP,A)
【文献】 特開2010−131328(JP,A)
【文献】 特開2010−052690(JP,A)
【文献】 特開2010−190874(JP,A)
【文献】 特開2000−052979(JP,A)
【文献】 岡村昌浩, 小泉孝之, 辻内伸好,脳波の計測に基づく乗り心地評価,日本機械学会機械力学・計測制御部門講演会論文集,日本,2003年 9月15日,Vol.2003, No.Pt.13,Page.2066-2070
【文献】 川島豪,心地よい揺らぎと脳波に関する研究,日本機械学会環境工学総合シンポジウム講演論文集,日本,1999年 6月29日,Vol.9th,Page.38-41
【文献】 橋本竹夫, 波多野滋子, 野口義博, 斉藤晴輝,小型トラック車内音暴露時にシート振動が音質評価に与える影響について,日本機械学会環境工学総合シンポジウム講演論文集,日本,1998年 7月,Vol.8th,Page.30-33
【文献】 TOMITA Yohei, MITSUKURA Yasue, FUKAI Hironobu,Factor Analysis for EEG Response to Ride Quality,Information (Koganei),日本,2011年 2月,Vol.14, No.2,Page.593-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
A61B 5/0476
A61B 5/16
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員から取得可能な信号を用いて乗り物から乗員に伝わる振動数を検出する乗り物振動検出方法であって、
前記乗員の頭部の複数箇所に国際法10−20法に基づいて配置された電極から電気信号を取得する信号取得工程と、
振動中の前記乗り物に搭乗している前記乗員から取得された電気信号に基づいて、前記乗り物の振動数に影響を受ける周波数帯成分のスペクトルを抽出する信号解析を実行する解析工程と、
振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び前記振動の振動数に関連付けられた基準と、前記抽出されたスペクトルとに基づいて、振動数を特定する特定工程とを有する乗り物振動検出方法。
【請求項2】
前記信号取得工程では、国際法10−20法に基づくFp1,Fp2,F3,F4位置に配置される少なくともいずれかの電極から電気信号を取得する請求項1に記載の乗り物振動検出方法。
【請求項3】
前記解析工程では、β帯域の周波数帯成分のスペクトルを抽出する請求項1又は2に記載の乗り物振動検出方法。
【請求項4】
乗員から取得可能な信号を用いて乗り物から乗員に伝わる振動数を検出する乗り物振動検出装置であって、
国際法10−20法に基づいて、前記乗員の頭部の複数箇所に配置された電極から電気信号を取得する信号取得部と、
振動中の前記乗り物に搭乗している前記乗員から取得された電気信号に基づいて、前記乗り物の振動数に影響を受ける周波数帯成分のスペクトルを抽出する信号解析を実行する信号解析部と、
振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び前記振動の振動数に関連付けられた基準と、前記抽出されたスペクトルとに基づいて、振動数を特定する特定解析部と、を有する乗り物振動検出装置。
【請求項5】
前記信号取得部では、国際法10−20法に基づくFp1,Fp2,F3,F4位置に配置される少なくともいずれかの電極から電気信号を取得する請求項4に記載の乗り物振動検出装置。
【請求項6】
前記信号解析部では、β帯域の周波数帯成分のスペクトルを抽出する請求項4又は5に記載の乗り物振動検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物が走行する際に乗員に伝わる振動を乗員から取得可能な信号を用いて評価する乗り物振動検出方法、及び乗り物振動検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、自動二輪車、電車などの乗り物の製品開発において、車内における振動を検出する方法が開示されている。(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された技術では、車内に振動検出装置を設置して、車両の振動を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−299203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、車両の振動は、検出可能である。しかし、「振動」の感じ方は、乗員によって異なっているため、乗員の感じる「乗り心地」の評価には、車両の直接的な振動よりも、車両から乗員に伝わる振動が影響しているものと考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、振動する乗り物から乗員に伝わる振動数を、乗員から取得可能な信号を用いて検出できる乗り物振動検出方法、及び乗り物振動検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
出願人は、ヒトの感情変化に伴う脳活動を反映する脳波を、乗り物の「振動」の検出に使用可能であるという予測のもと、鋭意検討した結果、ヒトの頭部に配置された電極から取得された電気信号から抽出される特定の周波数帯域成分が、乗り物の振動に影響を受けるとの知見に至った。
【0007】
本発明は、乗り物から乗員に伝わる振動を、乗員から取得可能な信号を用いて検出することである。
【0008】
本発明の特徴は、乗員から取得可能な信号を用いて乗り物から乗員に伝わる振動数を検出する乗り物振動検出方法であって、前記乗員の頭部の複数箇所に国際法10−20法に基づいて配置された電極から電気信号を取得する信号取得工程と、前記取得された電気信号から前記乗り物の振動数に影響を受ける周波数帯成分のスペクトルを抽出する信号解析を実行する解析工程と、振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び前記振動の振動数に関連付けられた基準と、前記抽出されたスペクトルとに基づいて、振動数を特定する特定工程とを有することを要旨とする。
【0009】
本発明の特徴によれば、乗員の頭部から取得された電気信号から抽出されたスペクトルにより、振動する乗り物から乗員に伝わる乗り物の振動数を検出できる。すなわち、乗員が感じた乗り物の振動数を検出できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、振動する乗り物から乗員に伝わる振動数を、乗員から取得可能な信号を用いて検出できる乗り物振動検出方法、及び乗り物振動検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、乗り物振動検出装置を説明する模式図である。
図2図2は、乗り物振動検出装置を説明する構成図である。
図3図3は、乗り物の振動数を検出する検出方法を説明するフローチャートである。
図4図4は、変形例に係る乗り物の振動数を検出する検出方法を説明するフローチャートである。
図5図5は、乗り物振動検出装置を使用して行われる乗り物の振動を検出する試験装置を説明する模式図である。
図6図6は、有意差検定の結果を示す図である。
図7図7は、計測箇所とその計測箇所における分類率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る乗り物振動検出方法及び乗り物振動検出装置について、図面を参照しながら説明する。具体的には、(1)乗り物振動検出装置の構成、(2)評価方法の説明、(3)作用・効果、(4)指標となり得る周波数成分を特定する試験、(5)、その他の実施形態について説明する。
【0013】
(1)乗り物振動検出装置の構成
図1を参照して、乗り物振動検出装置1について説明する。具体的には、(1−1)乗り物の振動を検出する試験、(1−2)乗り物振動検出装置の構成、(1−3)境界線を示す数式の導出、について説明する。
【0014】
(1−1)乗り物の振動を検出する試験
図1は、乗り物振動検出装置1を説明する図である。乗り物振動検出装置1は、評価装置本体10と、信号取得部20とを有する。乗り物振動検出装置1は、評価対象の乗り物(実施形態では、車両100とする)に乗車した乗員3から取得可能な電気信号を取得し、取得した信号から特徴となる周波数成分を抽出し、特徴量を解析する。特徴となる周波成分としてβ波の周波数成分が挙げられる。評価装置本体10の詳細は後述する。
【0015】
信号取得部20は、乗員3の頭部に配置された電極から電気信号を取得する。実施形態の乗り物振動検出装置1では、信号取得部20は、電極21と、電極22とを有する。電極21は、例えば、国際法10−20法に基づくF3位置に配置され、電極22は、国際法10−20法に基づくF4位置に配置される。
【0016】
また、乗り物振動検出装置1は、図示しないが、国際法10−20法に基づくFp1,Fp2,Cz,O3,O4などに配置する電極を複数備えている。また、図示しないが、例えば、耳たぶ等に配置される基準電極を備えている。電極21,22における電位と基準電極における電位との差を差動アンプにより増幅する。これにより、ノイズを除去し、微弱な脳波信号を正確に抽出することができる。
【0017】
(1−2)乗り物振動検出装置の構成
乗り物振動検出装置1は、評価装置本体10と、信号取得部20とを有する。信号取得部20は、上述の電極21,22を有し、乗員3の頭部に取り付けられる。具体的には、例えば、国際法10−20法に基づいて、Fp1,Fp2,F3,F4位置に配置する。
【0018】
評価装置本体10は、信号取得部20において取得された電気信号が供給される信号入力部11と、信号入力部11に供給された電気信号を解析する解析部12と、解析部12による電気信号の解析の結果を表示する表示部13とを有する。
【0019】
また、評価装置本体10は、使用者からの入力を受け付けるキーボード、マウス等の入力部14や、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等で構成される記憶部15を備える。記憶部15には、振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び被験者に与えられた振動の振動数に関連付けられた基準が記憶されている。
【0020】
解析部12は、本実施形態では、解析部12は、周波数解析演算部121と、特定解析部122とを有している。解析部12は、取得された電気信号の時間周波数解析を行う。解析部12は、電極21,22を切り替えながら(すなわち測定部位を変えながら)電気信号を取得し、取得された電気信号の時間周波数解析を行ってもよい(変形例参照)。
【0021】
周波数解析演算部121は、電気信号の時間周波数解析を行う。脳波は、周波数帯域によって、δ波、θ波、α波、β波の4つに大別される。例えば、δ波は、4Hz未満の周波数帯域の脳波である。δ波は、覚醒時には出現せず、深い睡眠状態の時に頻繁に出現する。θ波は、4Hz以上8Hz未満の周波数帯域の脳波である。浅い睡眠時に頻繁に出現する。α波は、8Hz以上13Hz未満の周波数帯域の脳波である。閉眼安静状態のとき、後頭部側に目立って出現し、開眼すると出現が抑制される。また、リラックスを評価する指標とされている。β波は、13Hz以上の周波数帯域の脳波であり、前頭部、側頭部に優勢に見られ、規則性も少ない。
【0022】
本実施形態では、Fp1,Fp2,F3,F4位置から取得される電気信号から、乗り物の振動数に影響を受ける周波数帯域の周波数成分のスペクトルを抽出する周波数解析を実行する。特に、β波に相当する周波数成分のスペクトルを抽出する周波数解析を実行することが好ましい。周波数解析としては、高速フーリエ変換、ウェーブレット変換等を用いることができる。本実施形態では、高速フーリエ変換を用いる。
【0023】
特定解析部122は、振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び被験者に与えられた振動の振動数に関連付けられた基準と、周波数解析演算部121によって抽出されたスペクトルに基づいて、振動数を特定する。具体的には、周波数解析演算部121によって求められた電気信号の周波数成分に対して多変量解析として因子分析(FA)を実行する。これにより、因子負荷量を算出する。算出された因子負荷量と、基準となる境界線を示す数式とにより算出された値に応じて、振動数に特定する。なお、因子分析とは測定された多数の変数の相関関係に基づいて、直接測定できない潜在因子を見いだす手法である。
【0024】
(1−3)境界線を示す数式の導出
振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び被験者に与えられた振動の振動数に関連付けられた基準とは、乗員の感じた振動数を特定するための指標となるものである。本実施形態において、振動を与えられた被験者の頭部に国際法10−20法に基づいて配置された電極から取得された電気信号及び被験者に与えられた振動の振動数に関連付けられた基準、すなわち、境界線を示す数式は、以下の方法により導出される。なお、境界線を示す数式を導出するために、上述の乗り物振動検出装置1と同様の構成を持つものを用いることができる。
【0025】
被験者の頭部に電極を装着した状態で、被験者に所定の振動数を与える。所定の振動数が被験者に与えられている間に、被験者から電気信号が取得される。被験者に与える振動数を変えて、被験者からそれぞれの振動数に応じた電気信号を取得する。電極は、前頭部、特に、国際法10−20法に基づくFp1,Fp2,F3,F4位置に配置されることが好ましい。なお、乗員3と被験者とは同一であってもよい。また、複数の被験者からそれぞれの振動数に応じた電気信号を取得してもよい。
【0026】
信号取得部20から供給された電気信号の時間周波数解析を行う。具体的には、高速フーリエ変換により、所定の振動数が与えられた時刻からある時間経過した後に頭部(前頭部)から取得される電気信号から周波数帯域の脳波を分離する。すなわち、所定の周波数帯域の周波数成分のスペクトルを抽出する。このときの周波数帯域は、β帯域が好ましい。周波数解析工程によって求められた電気信号の周波数成分に対して多変量解析として因子分析を実行する。これにより複数の因子負荷量が算出される。複数の因子負荷量のうち、寄与率の高い因子負荷量から累積寄与率が60%以上となる因子負荷量を決定する。同様にして、被験者から得られた各振動数に対応する因子負荷量を決定する。これにより、抽出された複数のスペクトル(以下、基準スペクトル)と振動数とが対応付けられる。
【0027】
振動数に応じて基準スペクトルを複数のクラスに分類する。具体的には、クラスの範囲は、振動数の値に応じて任意に決定できる。例えば、0〜10Hz、10〜20Hz、・・・というように、クラスの範囲を決定することができる。そのクラスの範囲に応じて、基準スペクトルを分類する。例えば、7Hzの振動数を与えたときに得られた基準スペクトルは、0〜10Hzのクラスに分類される。15Hzの振動数を与えたときに得られた基準スペクトルは、10〜20Hzのクラスに分類される。
【0028】
基準スペクトルと分類されたクラスとから、クラスを分ける境界線の式を算出する。具体的には、線形判別(LDA)を用いて、クラス内分散を最小にし、かつ、クラス間分散を最大にする境界線の式を算出する。
【0029】
クラス内分散は、一のクラスに分類された基準スペクトルの因子負荷量に基づいて求められる。クラス間分散は、一のクラスに分類された基準スペクトルの因子負荷量と、他のクラスに分類された基準スペクトルの因子負荷量とに基づいて求められる。これにより、クラスを分ける境界線の式を表すパラメータを算出する。算出されたパラメータに基づいて境界線の式を導出する。すなわち、境界線を示す数式は、取得された電気信号と、振動数とに関連付けられている。
【0030】
境界線を示す数式を複数導出してもよい。例えば、検出したい振動数の範囲に応じて、境界線を示す数式を複数導出してもよい。具体的には、例えば、0〜10Hz、10〜20Hz、・・・、90〜100Hzのクラスに分類する場合には、境界線を示す数式を複数導出してもよい。
【0031】
(2)車両の振動数を検出する検出方法の説明
次に、車両の振動数を検出する検出方法について説明する。具体的に、(2−1)評価方法の全体説明、(2−2)ステップS1:乗員から電気信号を取得する処理、(2−3)ステップS2:解析処理、(2−4)ステップS3:表示処理、(2−5)変形例、について説明する。
【0032】
(2−1)評価方法の全体説明
図3は、評価方法を説明するフローチャートである。図3に示すように、自転車の乗り心地を評価する評価方法は、ステップS1,S2,S3を有する。ステップS1では、乗員3の頭部に配置された電極から電気信号が取得される。ステップS2において、電気信号を解析し、乗り物の振動数に影響を受ける周波数帯成分に対して多変量解析として因子分析を実行する。また、境界線を示す数式と、因子分析により得られた因子負荷量に基づいて、振動数を特定する。ステップS3において、特定された振動数を乗員に伝わる振動数として表示する。
【0033】
(2−2)ステップS1:乗員から電気信号を取得する処理
ステップS1において、具体的に、乗員から電気信号を取得する処理について説明する。乗員は、頭部に電極を装着した状態で乗り物(車両)に搭乗する。例えば、車両が走行している間、停止している間を含む乗車中に、乗員から電気信号が取得される。
【0034】
(2−3)ステップS2:解析処理
ステップS2では、まず、ステップS21において、信号取得部20から供給された電気信号の時間周波数解析を行う。具体的に、取得された電気信号に対して、高速フーリエ変換が行われる。これにより、頭部から取得される電気信号から周波数帯域の脳波を分離する。すなわち、所定の周波数帯域の周波数成分のスペクトルを抽出する。このときの周波数帯域は、β帯域が好ましい。ステップS22において、ステップS21によって求められた電気信号の周波数成分に対して多変量解析として因子分析(FA)を実行する。これにより複数の因子負荷量が算出される。複数の因子負荷量のうち、寄与率の高い因子負荷量から累積寄与率が60%以上となる因子負荷量を決定する。
【0035】
ステップS23において、記憶部15に記憶された基準である境界線を示す数式と、決定された因子負荷量とに基づいて、振動数を特定する。具体的には、線形判別法(LDA)を用いて、ステップS22で決定された因子負荷量を境界線を示す式に代入する。その結果、得られた数値に応じて、抽出されたスペクトルを複数のカテゴリーのいずれかに特定する。複数のカテゴリーの範囲は、任意に決定することができる。
【0036】
例えば、0〜50Hzと50〜100Hzとの境界線を示す数式において、境界線を示す数式に因子負荷量を代入して得られた数値が0以上の場合は、「50〜100Hzの振動数」というカテゴリーに特定し、境界線を示す数式に因子負荷量を代入して得られた数値が0未満の場合は、「0〜50Hzの振動数」というカテゴリーに特定する。
【0037】
境界線を示す数式が複数導出されている場合は、複数の境界線を示す数式に因子負荷量を代入する。得られた数値の絶対値が最も大きくなる境界線を示す数式に基づいて、振動数が特定される。
【0038】
(2−4)ステップS3
特定されたカテゴリーの振動数を乗員に伝わった振動数として、振動数が表示部13に表示される。
【0039】
(2−5)変形例
本発明は、以下の変形例とすることも可能である。なお、上記実施形態と同様の部分は、適宜省略する。
【0040】
ステップ1において、乗員から電気信号を取得する。ここで、実施形態では、乗員の頭部に装着された電極全てから電気信号を取得していた。変形例では、乗員の頭部に装着された電極のうち、少なくとも1以上の電極から電気信号を取得する。
【0041】
ステップS2において、取得した電気信号に基づいて、解析処理を行うことにより、振動数を特定する。ステップS3において、特定した振動数は、表示部13に表示される。
【0042】
ステップS4において、乗員の頭部に装着された電極のうち、電気信号を取得していない電極、すなわち、未測定の電極が残されているかどうかを判別する。残されている場合には、ステップS5において未測定の測定位置から電気信号が取得できるように切り替える。その後、ステップS1の処理を繰り返す。ステップS4において、全ての電極から電気信号を取得した場合には終了する。
【0043】
変形例によれば、乗員の頭部に装着された電極全てから電気信号を取得しないため、評価装置本体10にかかる負荷を低減できる。
【0044】
(3)作用・効果
実施形態に係る乗り物振動検出装置1によれば、乗員の頭部から取得された電気信号から抽出されたスペクトルにより、乗り物の振動数を検出できる。このため、乗員から取得された乗り物の振動数は、例えば、「乗り心地」のような乗員の感覚に基づく評価を定量的に表すことを可能にする。
【0045】
また、信号取得工程では、国際法10−20法に基づくFp1,Fp2,F3,F4位置に配置される少なくともいずれかの電極から電気信号を取得することが好ましい。これにより、後述するように高い精度で振動数が検出可能になる。
【0046】
また、解析工程では、β帯域の周波数帯成分のスペクトルを抽出することが好ましい。これにより、後述するように高い精度で振動数が検出可能になる。
【0047】
(4)指標となり得る周波数成分を特定する試験
(4−1)試験の説明
乗り物の振動数を乗員を介して検出するために使用できる電気信号(脳波)から、体性感覚に関わる計測箇所と、周波数成分を見つけるために、下記の試験を行った。以下、測定条件を示す。
【0048】
図5は、乗り物振動検出装置1を使用して行われる乗り物の振動を検出する試験装置200を説明する模式図である。
【0049】
試験装置200は、車両100を積載でき、車両100に対して、所定の振動を与えることができる。乗員3は、頭部に信号取得部20を装着した状態で、試験装置200に積載された車両100に搭乗する。試験装置200によって、車両100に振動を与えている間、信号取得部20を介して、乗員3の頭部から脳波を取得可能な電気信号を取得する。
【0050】
乗員3の頭部から検出できる電気信号を国際法10-20法に基づく測定位置のそれぞれにおいて測定し、各位置において検出された電気信号を解析して得られるスペクトルの特徴を分析した。
【0051】
・被験者(乗員):20代男性 4名
・計測箇所:国際法10−20法に基づくFp1、Fp2、F3、F4、C3、C4、Cz、O1、O2、T3、T4
・負荷条件:振動数7Hz及び40Hzの振動を与えた。
【0052】
被験者は、上記計測箇所に脳波測定用電極を装着し、車両に乗車した。その後、車両に対して決まった振動数を与えたときの乗員の脳波を解析し、与えた振動数に対する脳波のスペクトルパターンを検出した。
【0053】
なお、ISOにより、7Hzの振動数は、「乗り心地が悪い」加振周波数とされ、40Hzの振動数は、「乗り心地が良い」加振周波数とされている。
【0054】
(4−2)結 果
(4−2−1)評価に有効な周波数帯域の検証
検出された脳波に、短時間フーリエ変換(窓サイズ:1秒間、シフト量:0.2秒)を適用し、脳波信号の振幅スペクトルを算出した。θ帯域(4−6[Hz])、α帯域(8−13[Hz])、β帯域(14−26[Hz])における振幅スペクトルを解析に用いた。
【0055】
上記2種類の振動を与えた際に取得した脳波データに有意差検定を施した。7Hzの振動が与えられた時に検出された電気信号と、40Hzの振動が与えられた時に検出された電気信号との間に5%以上の乖離、すなわち差があった場合には、「有意差あり」と判断した。結果を図6に示す。図6は、有意差検定結果を示す図である。図6において、被験者4名のうち、4名に有意差が認められた場合には、「◎」を、3名に有意差が認められた場合には、「○」を、2名に有意差が認められた場合には、「□」を、1名に有意差が認められた場合には、「△」を、有意差が認められなかった場合には、「×」を付した。
【0056】
図6に示されるように、周波数帯域が高い方が、有意差が認められた。具体的には、θ帯域よりもα帯域の方が、α帯域よりもβ帯域の方が、有意差が認められた。従って、β帯域の脳波データを用いて、乗員が感じる振動を検出することが好ましいことが判った。
【0057】
(4−2−2)評価に有効な周波数帯域の検証
次に、図6の結果から、β帯域に最も有意差が認められたため、β帯域の脳波データを用いて解析を行った。解析には、マハラノビス距離を用いた識別器を適用した。この識別器を用いて、与えられた脳波データが7Hzの振動時のものか、40Hzの振動時のものかの判定した。分類に使用する脳波データが計測された各計測箇所の組み合わせを1点ずつ判定した。これにより、評価に有効な計測箇所の特定を行った。結果を図7に示す。図7は、計測箇所とその計測箇所における分類率との関係を示す図である。括弧内の数値は、分類率を示す。分類率が高いほど、判定の正答率が高いことを示す。また、括弧内の下線は、各被験者において、最大の分類率を表す。図7に示されるように、いずれの計測箇所においても50%を超えた分類率であることが判った。特に、4名中3名の被験者(被験者1,3,4)において、Fp1・Fp2・F3・F4の前頭部に位置する計測箇所から計測された脳波データを用いることによって、脳波データの分類率が70%以上と高い精度で行えることが判った。従って、特に、前頭部(Fp1・Fp2・F3・F4)の計測箇所から乗員が感じる振動を検出することが好ましいことが判った。
【0058】
今回の結果から、取得された脳波データは、振動数の影響が明確に表れているデータだと仮定できるため、単純な識別機を用いて分類することができる。このため、非常に計算量が少なくて済む線形判別(LDA)を用いた場合であっても、乗員が感じる振動を検出することができると考えられる。
【0059】
(5)その他の実施形態
本実施形態では、多変量解析として因子分析を行うとして説明した。しかし、多変量解析としては、重回帰分析、判別分析がある。また、判別分析としては、因子分析、主成分分析などがある。この何れかの分析方法を適用することができる。
【0060】
本実施形態では、車両100の振動数を検出したが、これに限られない。乗り物であればいずれでもよく、例えば、電車の振動数を検出してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…乗り物振動検出装置、3…乗員、10…評価装置本体、11…信号入力部、12…解析部、13…表示部、14…入力部、15…記憶部、20…信号取得部、21…電極、22…電極、100…自転車、121…周波数解析演算部、122…特定解析部、200…試験装置
図1
図2
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図5
図6
図7