【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂に、少なくとも特定のエチレン系共重合体、エポキシ樹脂、特定の熱伝導性フィラーを含んでなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、高い熱伝導性、金属との接合性に優れると共に、成形流動性に優れ電気絶縁性となる樹脂組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は
表面を化学処理した金属部材と、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部、並びに、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%であ
り、レーザー回折散乱法による平均粒子径が1〜500μmである高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆され
、レーザー回折散乱法による平均粒子径が1〜500μmである被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有
し、レーザー回折散乱法による平均粒子径が3〜30μmである鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を一体化してなる複合体に関するものである。
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、エチレン系共重合体(B)5〜50重量部、エポキシ樹脂(C)1〜15重量部及び熱伝導性フィラー(D)100〜400重量部を含んでなるものである。
【0012】
該ポリアリーレンスルフィド(A)(以下、PAS(A)と記すことがある。)としては、一般にポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであればよく、該PASとしては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該PASの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0013】
そして、該PAS(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が50〜2000ポイズのPASであることが好ましく、特に機械的強度と薄肉流動性に優れるPAS樹脂組成物となることから100〜1000ポイズのPASであることが好ましい。
【0014】
該PAS(A)の製造方法としては、PASの製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロビフェニル等を挙げる事ができる。
【0015】
また、PAS(A)としては、直鎖状のものであっても、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したものであっても、PASの分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性されたものであっても、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。また、該PAS(A)は、加熱硬化前又は後に脱イオン処理(酸洗浄や熱水洗浄など)、あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってイオン、オリゴマーなどの不純物を低減させたものであってもよい。さらに、重合反応終了後に不活性ガス又は酸化性ガス中で加熱処理を行い硬化を行ったものであってもよい。
【0016】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するエチレン系共重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属との接合性を改良するものであり、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3),エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)からなる群より選択される少なくとも1種以上のエチレン系共重合体である。
【0017】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:40〜1:10〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(b1)の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインTX8030(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインAX8390(アルケマ(株)製)等が挙げられる。
【0018】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位(重量比)=85〜99:15〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(b2)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0019】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニル残基単位(重量比)=50〜98:15〜1:35〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(b3)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0020】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=50〜98:10〜1:40〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(b4)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0021】
該無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が耐冷熱性等に優れることから、エチレン残基単位:α−オレフィン残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:45〜1:5〜1の範囲からなるものであることが好ましく、具体的には無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレンゴム等が挙げられる。該無水マレイン酸グラフト変性エチレン−α−オレフィン共重合体(b5)は、例えばエチレン−α−オレフィン共重合体、過酸化物、無水マレイン酸を共存し、グラフト化反応を進行することにより入手することが可能である。
【0022】
そして、エチレン系共重合体(B)を構成するα−オレフィンとは、炭素数が3以上のα−オレフィンを言い、例えばプロピレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。また、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0023】
該エチレン系共重合体(B)の配合量としては、金属との接合性、成形性に優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、5〜50重量部であり、より好ましくは8〜30重量部である。ここで、エチレン系共重合体(B)の配合量が5重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は金属との接合性に劣るものとなる。一方、配合量が50重量部を超える場合、成形加工時の金型汚染がひどくなり好ましくない。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂(C)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と金属との接合性を改良するものであり、該エポキシ樹脂(C)としては、一般にエポキシ樹脂と称すものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でもとりわけ取扱いに優れ金属との接合性に優れたPAS樹脂組成物となることからエポキシ当量300〜2500の固形状ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。該エポキシ当量300〜2500の固形状ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば(商品名)エピクロン7050(DIC(株)製)、(商品名)エピクロン3050(DIC(株)製)等が挙げられる。
【0025】
該エポキシ樹脂(C)の配合量は、特に金属との接合性、成形流動性が優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、1〜15重量部である。ここで、該エポキシ樹脂(C)の配合量が1重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は金属接合性に劣るものとなる。一方、配合量が15重量部を超える場合、成形流動性に劣るものとなる。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を構成する熱伝導性フィラー(D)は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末(d1)、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末(d2)、及び、六方晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)からなる群より選択される少なくとも1種以上の熱伝導性フィラーである。
【0027】
該高純度酸化マグネシウム(D1)としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種以上の表面処理が施され、かつ、酸化マグネシウム含有率が97〜99.99重量%である高純度酸化マグネシウム粉末であれば如何なるものを用いることも可能である。該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤で表面処理が施されたものであり、該シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、該チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、該アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)は、機械的特性、熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D
50)1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に2〜100μmを有するものであることが好ましい。該高純度酸化マグネシウム粉末(D1)としては、(商品名)パイロキスマ5301K(協和化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0028】
該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)としては、ケイ素とマグネシウムの複酸化物及び/又はアルミニウムとマグネシウムの複酸化物で被覆された被覆酸化マグネシウム粉末であり、該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)の範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば特開2004−027177号公報に記載の方法より入手することが可能である。また、ケイ素とマグネシウムの複酸化物とは、フォルステライト(Mg
2SiO
4)等に代表されるケイ素、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化ケイ素の複合物である。一方、アルミニウムとマグネシウムの複酸化物とは、スピネル(Al
2MgO
4)等に代表されるアルミニウム、マグネシウム及び酸素を含む金属酸化物、又は、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの複合物である。該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)は、必要に応じてシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤でさらに表面処理されたものであってもよく、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、チタネート系カップリング剤としては、例えばイソプロピルトリイソステアロイルチタネート等が挙げられ、アルミネート系カップリング剤としては、例えばアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。また、該被覆酸化マグネシウム粉末(d2)は、特に機械的特性、熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D
50)1〜500μmを有するものであることが好ましく、特に2〜100μmを有するものであることが好ましい。
【0029】
該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、六方晶構造を有するものであり、該条件を満たすものであれば如何なるものを用いることが可能であり、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、例えば粗製窒化ホウ素粉末をアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩の存在下、窒素雰囲気中、2000℃×3〜7時間加熱処理して、窒化ホウ素結晶を十分に発達させ、粉砕後、必要に応じて硝酸等の強酸によって精製することにより製造することができ、この様にして得られた窒化ホウ素粉末は、通常、鱗片状を有するものである。そして、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)としては、本発明のポリアリーレンスルフィド組成物中における分散性に優れ、機械的特性の優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D
50)3〜30μmを有するものであることが好ましい。また、該鱗片状窒化ホウ素粉末(d3)は、高結晶性を示し、特に熱伝導性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物とすることが可能となることから、X線回折法で求められる、(102)回折線の積分強度値(I
(102))に対する、(100)回折線及び(101)回折線の積分強度値の和(I
(100)+(101))の比で示されるG.I値(G.I=(I
(100)+(101))/(I
(102)))が0.8〜10の範囲となるものであることが好ましい。
【0030】
該熱伝導性フィラー(D)の配合量は、特に熱伝導性、成形流動性、機械的強度が優れるPAS樹脂組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、100〜400重量部である。ここで、該熱伝導性フィラー(D)の配合量が100重量部未満である場合、得られる樹脂組成物は熱伝導性に劣るものとなる。一方、配合量が400重量部を超える場合、成形流動性に劣るものとなる。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、特に機械的強度に優れるものとなることから、さらに、ガラス繊維(E)を配合してなるものが好ましい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられる。これらのガラス繊維(E)は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該ガラス繊維の配合量としては、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましい。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素繊維、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ロックウール、ジルコニア、チタン酸バリウム、炭化珪素、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維、全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維が添加されたものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カーボンブラック、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークが添加されたものであっても構わない。
【0033】
また、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;アマイドワックスやカルナバワックスなどの離型剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;着色剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。
【0034】
さらに、本発明のPAS樹脂組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えば、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0035】
本発明のPAS樹脂組成物を製造する際の製造方法としては特に制限はなく、一般的な混合・混練方法として知られている方法を用いる事が可能であり、例えば全ての原材料を配合し溶融混練する方法;原材料の一部を配合した後で溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法;あるいは原材料の一部を配合後単軸又は二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法、など、いずれの方法を用いてもよい。また、小量の添加成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することで使用してもよい。そして、溶融混練を行う方法としては、従来から使用されている加熱溶融混練方法を用いることができ、例えば単軸又は二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなどによる加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことができる。
【0036】
本発明のPAS樹脂組成物は、とりわけ金属、金属部材との接合性に優れ、金属部材と一体化した複合体となることから、特に表面を化学処理した金属部材と一体化した複合体として使用することが好ましい。
【0037】
その際の金属、金属部材としては、金属の範疇に属するものであればいかなるものでもよく、その中でも得られる複合体が特に各種用途に適応可能となることから、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、銅、チタン、鉄及びそれらの合金並びにそれよりなる部材であることが好ましく、特にアルミニウム、マグネシウム、ステンレス、銅、鉄及びそれらの合金並びにそれよりなる部材が好ましく、特にアルミニウム及びアルミニウム合金並びにそれよりなる部材が好ましい。また、該金属は、展伸材であっても鋳造材でもかまわない。
【0038】
また、金属、金属部材は、複合体とした際のその接合強度が高いものとなることから、表面を化学処理したものであることが好ましく、その際の化学処理方法としては、金属表面を化学処理する方法であれば如何なる方法を用いて化学処理する事が可能であり、該化学処理方法としては、例えばトリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液、PH10以上のアルカリ性水溶液、PH1〜5の酸性水溶液、硫酸及び過酸化物の混合液、陽極酸化により化学処理する方法;特開平02−298284、特開平04−32585、特開2000−127199、特開平10−96088、WO2004/055248等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0039】
本発明のPAS樹脂組成物は、金属部材、好ましくは表面を化学処理した金属部材とPAS樹脂組成物とを一体化した複合体として好適に用いられる。PAS樹脂組成物は、射出成形機、圧縮成形機、押出成形機などを用いて任意の形状で、該金属部材と一体化した複合体とすることができ、とりわけ、化学処理をした金属部材を金型内にセットし、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形し一体化した複合体とする射出インサート成形が好適に用いられる。
【0040】
本発明のPAS樹脂組成物は、優れた熱伝導性、金属との良好な接合性、電気絶縁性、成形流動性をあわせもつことから、発熱性の高い半導体素子、抵抗などの封止用樹脂、あるいは高い摩擦熱が発生する部品に好適に用いられる。