特許第5803491号(P5803491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5803491金属硫化物の塩素浸出方法、並びに金属の湿式製錬方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803491
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】金属硫化物の塩素浸出方法、並びに金属の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20151015BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/10
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-207755(P2011-207755)
(22)【出願日】2011年9月22日
(65)【公開番号】特開2013-67838(P2013-67838A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2013年12月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】福家 知尚
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
(72)【発明者】
【氏名】高石 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸弘
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭47−033003(JP,A)
【文献】 特開平04−301043(JP,A)
【文献】 特開昭63−259033(JP,A)
【文献】 米国特許第04828809(US,A)
【文献】 特開2008−240009(JP,A)
【文献】 特開2010−100938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物を原料として、銅イオンを含む塩化物溶液中で塩素浸出する金属硫化物の塩素浸出方法であって、
上記塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上70g/以下とし、ニッケル及び銅の合計濃度を270g/L以上350g/L以下とし、塩素浸出反応温度を112℃以上115℃以下にして、該塩化物溶液中の酸化還元電位を450mV〜610mVで塩素浸出することを特徴とする金属硫化物の塩素浸出方法。
【請求項2】
上記金属硫化物は、ニッケル酸化鉱の湿式製錬法により得られたニッケル混合硫化物であることを特徴とする請求項記載の金属硫化物の塩素浸出方法。
【請求項3】
金属硫化物を原料として銅イオンを含む塩化物溶液中で該金属硫化物に含まれる金属成分を浸出し、得られた浸出液から金属を回収する金属の湿式製錬方法であって、
上記塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上70g/以下とし、ニッケル及び銅の合計濃度を270g/L以上350g/L以下とし、塩素浸出反応温度を112℃以上115℃以下にして、該塩化物溶液中の酸化還元電位を450mV〜610mVで上記金属硫化物を塩素浸出する工程を含むことを特徴とする金属の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばニッケルやコバルトなどを含む金属硫化物から塩素ガスによりニッケルやコバルトなどの金属成分を浸出させる金属硫化物の塩素浸出方法、並びにその塩素浸出方法を利用した金属の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルトなどを含む金属硫化物からニッケル、コバルトなどの金属を回収する湿式製錬方法としては、ニッケル、コバルト、銅及び硫黄を含む金属硫化物から、金属を浸出させ、得られた浸出液から不純物を除去した後、電解採取により金属を回収する方法が実用化されている。
【0003】
金属硫化物から金属を浸出させる方法としては、例えば特許文献1に記載の技術のように、1価銅イオンを含む塩化物浴中にて、金属硫化物を含むスラリーに塩素ガスなどの酸化性ガスを吹き込んで、金属を酸化浸出させる方法がある。この方法は、塩化物浴中において、銅イオンが塩素を吸収する働きをしているため、銅イオン濃度があまりに低いと吹き込んだ塩素が液中に吸収されず、大気中に揮散され、浸出反応が進行しにくいことが知られている。そのため、この方法を用いた金属の製錬操業においては、従来、プロセス系内に保有する銅量を多く保つような操業が実施されていた。
【0004】
一方で、銅イオンは、ニッケルやコバルトなどの金属の電解採取工程においては不純物として働くことになる。そのため、上述したような浸出工程以降において、銅イオンを塩化物浴の浸出液中から除去する工程が必要となる。
【0005】
塩化物浴から銅イオンを除去する方法としては、硫化物などの還元剤添加による硫化銅生成反応を利用する方法や、電解により銅を選択的に除去する方法、溶媒抽出により銅を選択的に除去する方法などが一般的に用いられる。しかしながら、いずれの方法においても、プロセス系内に保有される銅量の増加に伴い、硫化物、電力、溶媒などの必要資材量が増大するため、操業コストが増加することが懸念されている。したがって、不純物除去工程の観点から見れば、プロセス系内の銅量を低減させることが望ましいとされていた。
【0006】
しかしながら、上述のように金属の浸出工程においては、銅イオンが塩素を吸収する働きをしているため、プロセス系内に保有する銅量を低減させると、浸出工程において浸出反応が維持できなくなる。このため、増産などによりプロセス系内で処理するニッケル、コバルトなどの電解採取する金属が増加した場合は、それに伴って銅量も増加させる必要があり、その結果として不純物除去工程における操業コスト増加につながっていた。
【0007】
このような状況下、ニッケルやコバルトなどを含む金属硫化物から金属を回収する湿式製錬において、プロセス系内に必要な金属量を保ちつつ銅量を低減するとともに、浸出工程において塩素ガスの大気中への揮散を防いで浸出反応を維持する塩素浸出方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平07−91599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、金属の湿式製錬における不純物除去処理の処理コストを低減するために製錬プロセス系内に保有する銅量を低減させた状態で、塩素ガスの大気中への揮散を防いで、金属硫化物から高い浸出率で金属成分を浸出させることができる金属硫化物の塩素浸出方法、並びにその塩素浸出方法を利用した金属の湿式製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、金属硫化物の塩素浸出における塩素ガスの吸収量は塩化物溶液中の銅量ではなく銅イオン濃度に依存することがわかった。このことから、銅イオン濃度を所定の濃度以上に調整するとともに、銅を含めた塩化物溶液中の塩濃度を所定の濃度範囲に調整することによって、金属の湿式製錬プロセス系内の銅量を低減させることができるとともに、塩素ガスの揮散を防止して、高い浸出率で金属硫化物から金属成分を浸出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、金属硫化物を原料として、銅イオンを含む塩化物溶液中で塩素浸出する金属硫化物の塩素浸出方法であって、上記塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上70g/以下とし、ニッケル及び銅の合計濃度を270g/L以上350g/L以下とし、塩素浸出反応温度を112℃以上115℃以下にして、該塩化物溶液中の酸化還元電位を450mV〜610mVで塩素浸出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る金属の湿式製錬方法は、金属硫化物を原料として銅イオンを含む塩化物溶液中で該金属硫化物に含まれる金属成分を浸出し、得られた浸出液から金属を回収する金属の湿式製錬方法であって、上記塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上70g/以下とし、ニッケル及び銅の合計濃度を270g/L以上350g/L以下とし、塩素浸出反応温度を112℃以上115℃以下にして、該塩化物溶液中の酸化還元電位を450mV〜610mVで塩素浸出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩素浸出処理における塩化物溶液中の銅イオン濃度を所定の濃度以上に調整するとともに銅を含めた塩濃度を所定の濃度範囲に調整して塩素浸出を行うようにしているので、金属の湿式精錬プロセス系内に保有する銅量を低減させることができ、塩素ガスの大気中への揮散を防いで高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】塩素浸出反応温度に対する塩素浸出残渣中のニッケル品位の関係を示すグラフである。
図2】塩素浸出反応温度に対する塩(ニッケル及び銅)濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る金属硫化物の塩素浸出方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という)について、図面を参考にして詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲において適宜変更することができる。
【0016】
本実施の形態に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、銅イオンを含む塩化物溶液中で金属硫化物を塩素浸出する方法であって、その塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上とし、かつ、塩濃度を270g/L以上350g/L以下に管理して塩素浸出することを特徴とする。
【0017】
金属硫化物とは、ニッケルやコバルト、銅などの金属混合物を含有する硫化物であり、例えば、低品位ラテライト鉱石などのニッケル酸化鉱から、高温高圧下で硫酸浸出することによって産出されたニッケル混合硫化物などが挙げられる。このニッケル混合硫化物など金属硫化物は、例えば硫酸浸出などによって産出された後、塩化物溶液中にてレパルプ処理されてスラリーとなる。塩素浸出処理においては、このスラリーとなった金属硫化物を原料として浸出処理が行われる。なお、以下では、主として、金属硫化物としてニッケル混合硫化物を用いる場合を例示して説明する。
【0018】
ここで、例えばニッケルやコバルトなどの非鉄金属の湿式精錬法では、ニッケル混合硫化物を原料として、ニッケル、コバルト、銅などの金属の大部分を塩素浸出し、浸出して得られた溶液から金属不純物を除去した後に、電解採取によって電気ニッケルや電気コバルトを製造する。具体的に、これらの金属の湿式精錬プロセスは、原料であるニッケル混合硫化物から金属成分を塩素で浸出する塩素浸出工程と、浸出液に含まれる銅を固定除去するセメンテーション工程と、銅が除去された溶液から不純物成分を除去する浄液工程と、不純物を除去した溶液を用いてニッケルやコバルトなどの金属を電解採取する電解工程とを有している。
【0019】
この金属を電解採取する精錬プロセスにおいて、ニッケル混合硫化物を塩素浸出する塩素浸出工程では、上述したように、ニッケル混合硫化物を原料として、その原料を含有する塩化物溶液(スラリー)中に塩素ガスを吹き込み、ニッケルや銅などの金属成分を銅イオンを含む塩化物溶液中で酸化浸出する。そして、塩素浸出工程では、塩素浸出液としての銅を含有する塩化ニッケル溶液(以下、含銅塩化ニッケル溶液ともいう)を生成する。
【0020】
具体的には、この塩素浸出工程におけるニッケル混合硫化物の浸出処理では、例えば下記の(1)〜(3)式に示す反応が生じる。
Cl+2Cu→2Cl+2Cu2+ ・・・(1)
NiS+2Cu2+→Ni2++S+2Cu ・・・(2)
CuS+2Cu2+→4Cu+S ・・・(3)
【0021】
すなわち、上記式に示されるように、塩素浸出処理においては、原料としてのニッケル混合硫化物のスラリーが送液されると、ニッケル混合硫化物中に含まれる硫化ニッケル及び硫化銅などの金属成分を、塩素ガスにより酸化された2価銅イオンによって酸化浸出し、塩素浸出液としての含銅塩化ニッケル溶液を生成する。このようにして塩素浸出処理によって生成した塩素浸出液は、セメンテーション工程において浸出液中の銅が固定除去される。一方で、この塩素浸出処理では、硫黄を主成分とした塩素浸出残渣が固相に残存する。
【0022】
このように、例えば電気ニッケルの製造プロセスでは、塩素浸出工程におけるニッケル混合硫化物を原料とした塩素浸出によって含銅塩化ニッケルを生成し、その含銅塩化ニッケルから電気ニッケルを製造することになる。このとき、品質の良い電気ニッケルを製造するためには、含銅塩化ニッケル溶液中の銅を効果的に除去することが重要となる。
【0023】
塩素浸出工程にて生成した含銅塩化ニッケル溶液中の銅は、上述のように、セメンテーション工程において含銅塩化ニッケル溶液から固定除去され、再び塩素浸出工程に戻されることになる。そして、塩素浸出工程においては、戻された銅と新たなニッケル混合硫化物中の銅とを塩素ガスによって2価銅イオンとし、ニッケルやコバルトなどの金属成分を浸出することとなる。つまり、塩素浸出工程とセメンテーション工程では、ある所定の濃度を保った状態で銅が循環することになる。したがって、電気ニッケルの増産を目的として、例えば湿式製錬から産出されたニッケル混合硫化物の処理量を増加させた場合、必然的に電気ニッケル製造プロセス系内に循環される銅量も増加することとなり、電気ニッケルの電解採取における不純物が増えることとなる。この不純物である銅を除去する観点からみれば、プロセス系内の銅量を低減させることが望ましい。
【0024】
ここで、上述のように塩素浸出工程における浸出処理では、原料中の金属成分が、塩素ガスによって酸化された2価銅イオンによって塩化物溶液中で酸化浸出されるものである。そのため、塩素ガスの吸収は塩化物溶液中の銅量ではなく銅イオン濃度に支配されることになる。したがって、浸出反応を効果的に維持させるためには、銅量ではなく銅イオン濃度を必要性最低限の濃度に維持することが重要となる。
【0025】
そこで、本実施の形態においては、金属硫化物であるニッケル混合硫化物の塩素浸出処理において、銅イオン濃度に着目し、塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上に最低限維持するようにする。このように、銅イオンの濃度を考慮し、銅イオン濃度を30g/L以上に最低限維持するようにすることで、この必要最低限の銅イオンの濃度を維持する範囲において金属製錬プロセス系内の銅量を低減すると同時に液量を低減することができる。そして、このように銅イオン濃度を必要最低限の濃度で維持するようにしているので、プロセス系内の銅量を低減させても、塩素ガスが大気中へ揮散することなく塩素浸出反応を維持して効果的に金属成分を浸出させることができる。
【0026】
なお、塩化物溶液中の銅イオン濃度が30g/Lより低い場合には、塩化物溶液中の塩素が十分に吸収されず、大気中に揮散してしまうとともに効果的な浸出反応を維持できなくなる。一方で、銅イオン濃度の上限値としては、70g/L以下とすることが好ましい。塩化物溶液中の銅イオン濃度が70g/Lより高い場合には、十分な銅量の低減効果が期待できない。また、銅イオン濃度が70g/Lを超える場合には、経済性の観点からも好ましくない。
【0027】
一方、ニッケル、コバルトなどの電解採取される金属については、プロセス系内に必要量保持される。そのため、上述のように銅イオン濃度を30g/L以上に保持するようにしてプロセス系内の液量を低減させると、それら金属のイオン濃度が上昇して塩化物溶液中の金属濃度(塩濃度)が上昇する。浸出反応に供される塩化物溶液中の塩濃度が上昇すると、モル沸点上昇により沸点が上昇することとなる。塩化物溶液における浸出反応は、塩化物溶液の沸点付近の反応温度で管理するため、沸点上昇に伴って浸出反応の反応温度が上昇することになる。
【0028】
ここで、図1に、ニッケル混合硫化物(ニッケル:48%、硫黄:32%、コバルト:3%、銅:8%)の塩素浸出反応における反応温度に対する浸出残渣中のニッケル品位の関係を示す。この図1に示すグラフから分かるように、反応温度が109℃付近では浸出残渣中のニッケル品位のばらつきが非常に大きく、浸出残渣中に最大20%を超えるニッケルが残存する。これに対し、反応温度が112℃以上では浸出残渣中のニッケル品位が10%より小さい範囲となっており高い浸出率で浸出できることが分かる。つまり、沸点を上昇させて反応温度を上昇させることによって、高い浸出率でニッケルを浸出できることが分かる。
【0029】
また、図2に、ニッケル混合硫化物の塩素浸出反応における塩濃度と塩素浸出反応の反応温度との関係を示す。なお、ニッケル混合硫化物を原料とした場合において、この塩濃度とは、塩素浸出処理により主に浸出される金属成分であるニッケルの濃度と銅の濃度の合計濃度とすることができる。この図2に示すグラフから分かるように、上述した高い浸出率で金属成分の浸出を可能とする112℃以上の反応温度で浸出反応を生じさせるためには、塩濃度を約270g/L以上とすることが必要であることが分かる。
【0030】
そこで、本実施の形態においては、金属硫化物の塩素浸出処理において、上述のように銅イオン濃度を30g/L以上とするとともに、塩化物溶液中の塩濃度を約270g/L以上とする。金属硫化物としてニッケル混合硫化物を原料とした場合には、塩化物溶液中の塩濃度とはニッケル及び銅の合計濃度とすることができる。このようにして塩化物溶液中の塩濃度を上昇させることによって、モル沸点上昇により沸点が上昇することとなり、その沸点上昇に伴って浸出反応の反応温度が上昇し、浸出反応が促進されて高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。
【0031】
塩濃度が270g/Lより低い場合には、図1及び図2に示したように、浸出反応の反応温度が十分に上昇せず浸出反応が維持されなくなり、高い浸出率で浸出できない。一方で、塩濃度の上限については、約350g/L以下とすることが好ましく、320g/L以下とすることがより好ましい。塩濃度が350g/Lより高い場合には、塩化物溶液が過飽和状態となり、反応槽内に金属塩化物が析出し、還元ガス吹き込み管などの配管に詰まりが発生し、安定した操業が行えなくなる可能性がある。また、浸出液中に銅などの不純物が相対的に多くなり、電気ニッケル製造プロセスにおいて不純物除去処理の負荷が大きくなる可能性がある。したがって、塩化物溶液中の塩濃度は、270g/L以上350g/L以下とする。また、より好ましくは270g/L以上320g/L以下とすることにより、より効率的にかつ効果的に高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。
【0032】
塩化物溶液中の塩濃度の調整方法としては、上述のように、銅イオン濃度を30g/L以上に保持するようにしながらプロセス系内の液量を低減させることによって行う。具体的に、プロセス系内の液量の低減方法としては、特に限定されないが、供給スラリー濃度を上昇させる方法や、高圧蒸気などによって外熱を供給する方法、高温加圧反応容器を用いて処理する方法、又はモル沸点上昇によって浸出処理における水分を蒸発させる方法などが挙げられる。その中でも、余剰設備を必要としない点や浸出工程温度上昇により浸出反応が促進される点などから、モル沸点上昇によって水分を蒸発させる方法を利用することが望ましい。
【0033】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、塩化物溶液中の銅イオン濃度を30g/L以上とし、かつ、塩濃度を270g/L以上350g/L以下となるように管理して、この塩化物溶液中で金属硫化物の塩素浸出を行う。
【0034】
このような塩素浸出方法によれば、プロセス系内の銅量を低減すると同時に液量を低減することができ、銅量を低減させても塩素ガスが大気中へ揮散することなく、塩素浸出反応を維持して高い浸出率で効果的に金属硫化物から金属成分を浸出させることができる。
【0035】
そしてまた、このようにプロセス系内の銅量や液量を低減させることができることにより、ニッケルやコバルトなどの金属の電解採取処理において不純物となる銅量を減少させることができ、高価な設備などを用いた不純物除去処理などを行うことなく、質の高い電気ニッケルや電気コバルトなどを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
先ず、ニッケル混合硫化物(ニッケル:48%、硫黄:32%、コバルト:3%、銅:8%)と塩化ニッケル水溶液(ニッケルイオン:80g/L、塩化物イオン:110g/L)とを混合してスラリーを作製した。
【0038】
次に、容量120Lの反応槽3槽を直列につなげた装置を用い、作製したスラリーを装置内の銅イオン濃度が35g/Lであり、ニッケルイオン濃度が270g/L、したがって塩(ニッケル及び銅)濃度として305g/Lとなるように、装置の第1槽目に供給して塩素浸出処理を行った。なお、各反応槽への塩素ガスの供給は、各反応槽内の溶液の酸化還元電位が450〜610mVになるように調節した。
【0039】
その結果、反応槽内の反応温度は115℃となっており、浸出残渣のニッケル品位は1.9%、浸出率は98.7%とニッケルが十分浸出していることが確認された。また、各反応槽ともに大気中への塩素ガスの揮散は確認されなかった。また、装置内へ供給された液量は37L/Hr、浸出されたニッケル量は10kg/Hr、銅量は1.3kg/Hrであり、効果的に銅量を低減させることができ、不純物除去工程における負荷を減らすことができた。
【0040】
[比較例1]
装置内の銅イオン濃度が35g/Lであり、ニッケルイオン濃度が220g/L、したがって塩濃度が255g/Lとなるようにスラリーを供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で塩素浸出処理を行った。
【0041】
その結果、反応槽内の反応温度は109℃となり、浸出残渣のニッケル品位は2.7%、浸出率は98.8%とニッケルが十分浸出していることが確認された。また、各反応槽とも大気中への塩素ガスの揮散は確認されなかった。しかしながら、装置内へ供給された液量は45L/Hrとなり、浸出されたニッケル量は10kg/Hrに対して銅量は1.6kg/Hrと実施例1と比較しておよそ1.2倍となり、次工程の不純物除去工程における負荷が増大してしまった。
【0042】
[比較例2]
装置内の銅イオン濃度が22g/Lであり、ニッケルイオン濃度が280g/L、したがって塩濃度が302g/Lとなるようにスラリーを供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で塩素浸出処理を行った。
【0043】
その結果、反応温度は111℃となったものの、大気中の塩素ガス濃度が10ppmとなり、塩素ガスが液中に十分吸収されずに揮散してしまった。また、これにより、浸出残渣のニッケル品位は7.2%、浸出率は93.9%となり、浸出率が大幅に悪化した。
【0044】
[比較例3]
装置内の銅イオン濃度が43g/Lであり、ニッケルイオン濃度が320g/L、したがって363g/Lとなるようにスラリーを供給したこと以外は、実施例1と同様の条件で塩素浸出処理を行った。
【0045】
その結果、反応温度は118℃となり、浸出残渣のニッケル品位は3.4%、浸出率は97.1%とニッケルが十分浸出していることが確認された。また、各反応槽とも大気中への塩素ガスの揮散は確認されなかった。しかしながら、反応槽内の塩濃度が過飽和になり、析出した塩化ニッケル結晶による塩素ガス吹き込み管などの閉塞が多発し、操業を安定して継続することが困難となった。
図1
図2