(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0020】
図1は、一実施形態に係る温度計測システムの一例を示す構成図である。
図1に示すように、温度計測システム1は、測定対象物13の温度を計測するシステムである。温度計測システム1は、光干渉を利用して温度を計測する。温度計測システム1は、光源10、光サーキュレータ11、コリメータ12、分光器14及び演算装置15を備えている。なお、光源10、光サーキュレータ11、コリメータ12及び分光器14のそれぞれの接続は、光ファイバーケーブルを用いて行われる。
【0021】
光源10は、測定対象物13を透過する波長を有する測定光を発生させる。光源10として、例えばSLD(Super Luminescent Diode)が用いられる。なお、測定対象物13は、例えば板状を呈し、第1主面13a及び第1主面13aに対向する第2主面13bを有している。以下では、必要に応じて、第1主面13aを表面13a、第2主面13bを裏面13bと称して説明する。計測対象とする測定対象物13としては、例えばSi(シリコン)の他にSiO
2(石英)又はAl
2O
3(サファイア)等が用いられる。Siの屈折率は、波長4μmにおいて3.4である。SiO
2の屈折率は、波長1μmにおいて1.5である。Al
2O
3の屈折率は、波長1μmにおいて1.8である。
【0022】
光サーキュレータ11は、光源10、コリメータ12及び分光器14に接続されている。光サーキュレータ11は、光源10で発生した測定光をコリメータ12へ出射する。コリメータ12は、測定光を測定対象物13の表面13aへ出射する。コリメータ12は、平行光線として調整された測定光を測定対象物13へ出射する。そして、コリメータ12は、測定対象物13からの反射光を入射する。反射光には、表面13aの反射光だけでなく裏面13bの反射光が含まれる。コリメータ12は、反射光を光サーキュレータ11へ出射する。光サーキュレータ11は、反射光を分光器14へ出射する。なお、光サーキュレータ11及びコリメータ12を備えて光伝達機構が構成される。
【0023】
分光器14は、光サーキュレータ11から得られた反射光のスペクトル(干渉強度分布)を測定する。反射光スペクトルは、反射光の波長又は周波数に依存した強度分布を示す。
図2は、分光器14及び演算装置15の機能ブロック図である。
図2に示すように、分光器14は、例えば、光分散素子141及び受光部142を備える。光分散素子141は、例えば、回折格子等であり、光を波長ごとに所定の分散角で分散させる素子である。受光部142は、光分散素子141によって分散された光を取得する。受光部142としては、複数の受光素子が格子状に配列されたCCD(Charge Coupled Device)が用いられる。受光素子の数がサンプリング数となる。また、光分散素子141の分散角及び光分散素子141と受光素子との距離に基づいて、波長スパンが規定される。これにより、反射光は波長又は周波数ごとに分散され、波長又は周波数ごとに強度が取得される。分光器14は、反射光スペクトルを演算装置15へ出力する。
【0024】
演算装置15は、反射光スペクトルに基づいて測定対象物13の温度を計測する。演算装置15は、光路長算出部16、温度算出部20及び温度校正データ21を備えている。光路長算出部16は、フーリエ変換部17、データ補間部18及び重心計算部19を備えている。フーリエ変換部17は、反射光スペクトルを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換する。例えば、時間領域におけるフーリエ変換であれば、周波数(単位時間あたりの振動数)に依存した強度分布を示す反射光スペクトルを、時間に依存した強度分布を示す反射光スペクトルへ変換する。また、例えば、空間領域におけるフーリエ変換であれば、空間周波数(単位長さあたりの振動数)に依存した強度分布を示す反射光スペクトルを、位置に依存した強度分布を示す反射光スペクトルへ変換する。データ補間部18は、フーリエ変換後の反射光スペクトルの所定のピーク値を含む範囲において、データ点を補間する。重心計算部19は、フーリエ変換後の反射光スペクトルの所定のピーク値の重心位置を計算する。光路長算出部16は、重心位置に基づいて光路長を算出する。
【0025】
温度算出部20は、光路長に基づいて、測定対象物13の温度を算出する。温度算出部20は、温度校正データ21を参照して測定対象物13の温度を算出する。温度校正データ21は、予め測定されたデータであり、温度と光路長との関係を示すものである。
【0026】
上記構成を有する温度計測システムによって、測定対象物13の表面13aと裏面13bとの光干渉を利用して温度を測定する(FFT周波数領域法)。以下、光干渉の原理について説明する。
図3は、入射光スペクトル及び反射光スペクトルを説明する概要図である。
図3に示すように、光源10からの測定光を入射光とする。入射光スペクトルの強度S(k)は、空間周波数1/λ(単位長さあたりの振動数)に依存する。光源10の波長をλとすると波数kは2π/λである。測定対象物13の厚さをd、屈折率をn、反射率をRとする。反射光Eは、複数の反射成分を重ねたものになる。例えば、E
1は、表面13aにおける反射成分である。E
2は、裏面13bにおける反射成分である。E
3は、表面13aで一回、裏面13bで2回反射された反射成分である。なお、E
4以降の反射成分は省略している。複数の成分が重なり、反射光スペクトルの強度I(k)が得られる。反射光スペクトルの強度I(k)は、入射光スペクトルの強度S(k)と以下の数式で示す関係がある。
【数3】
上記の式1において、第2項は表裏面干渉の項である。第3項は表裏面多重干渉の項である。式1をフーリエ変換すると、位置に依存した反射光スペクトルを得ることができる。
【0027】
図4は、反射光スペクトルI(k)のフーリエ変換を説明する概要図である。
図4に示すように、空間領域フーリエ変換により、空間周波数1/λを位置xに変換している。位置xに変換された反射光スペクトルの強度I(x)は、式1をフーリエ変換することにより、以下の通りとなる。
【数4】
上記の式2に示すように、2ndごとにピーク値が出現する。2ndは表裏面の光路差である。すなわちndは、表裏面間の光路長である。上述した通り、予め計測された光路長ndと温度との関係から、光路長ndを特定することで温度を算出することができる。なお、上記説明では空間領域フーリエ変換を用いたが、時間領域フーリエ変換を用いてもよい。周波数をvとすると位置xとは以下の関係を満たす。
【数5】
【0028】
ここで、FFT周波数領域法を用いて、測定対象物の厚さを測定する場合と、測定対象物の温度を測定する場合との違いを説明する。一般的には、FFT周波数領域法により測定される測定対象物の厚さは、数百μmのオーダーの精度で測定可能である。しかしながら、温度を1℃単位で測定する場合には、数百Åのオーダーの精度が必要となる。すなわち、単純に厚さ測定システムを温度計測システムとすることは困難であり、光源や分光器等、条件を満たす機器を用いて計測する必要がある。以下では各構成機器の条件について説明する。
【0029】
最初に、温度計測システム1の測定可能な最大の厚さ(最大計測厚さ)と反射光スペクトルのフーリエ変換後のデータ間隔について説明する。
図5は、反射光について説明する概要図である。
図5に示すように、厚さd、屈折率nの測定対象物13において、表面の位置を0、裏面の位置をxとしている。このとき、FFTにおける時間Δτと角周波数Δωとの関係は、以下のように表される。
【数6】
ここで、角周波数ω,Δωを、光源スペクトルの波長λ、半値半幅Δλで表現すると、以下のようになる。
【数7】
周波数は正の値であるから、
【数8】
従って、
【数9】
である。
【0030】
屈折率n(平均屈折率n
ave)の測定対象物13中を光が時間Δτで移動する距離をΔx’とすると、距離Δx’は、上記式3及び式5を用いて、以下のように表現される。
【数10】
表面を透過し裏面で反射するため、往復距離を考慮してΔx’=2Δxとする。以上より、FFT後の反射スペクトルのデータ間隔Δxは以下の通りとなる。
【数11】
周波数領域法では、実際のスペクトル強度I(k)は、波長軸方向のサンプリング数N
Sの離散的な値となる。従って、FFT後のデータは、Δx間隔のN
S/2個の離散的なデータとなる。従って、最大計測光学厚さx
maxは、以下の式で表すことができる。
【数12】
【0031】
これは実空間の座標に変換したときの値であり、FFT後の分光スペクトルのデータはこの値の2n
ave倍となる。従って、FFT後の空間における最大計測光学厚さX
max、及びデータ間隔ΔXは、以下の式で表すことができる。
【数13】
【数14】
【0032】
これらは媒質の屈折率によらない一般式であり、測定系の条件のみで決定される。実際の測定系においては、ΔλはFFTの最小周期と考えることができるため、ここでは、Δλは分光器の測定波長範囲、または波長スキャンレンジと考えることができる。波長スパンをΔw、分光器の中心波長をλ
0とすると、式10,11は以下の式で表される。
【数15】
【数16】
従って、分光器の波長範囲Δwを広くすれば、FFT後のデータ間隔ΔXを小さくすることができる。またサンプリング数N
Sを大きくすれば、より厚い媒質を計測することができる。これにより、データ間隔を小さくすることと、計測可能厚さを厚くすることとは、両立しないことがわかる。以上は、屈折率によらない一般式である。よって、屈折率n
aveの媒質中においての実スケールに変換する場合は、それぞれ2n
aveで除すればよい。
【0033】
ここで、最小空間分解能について考察する。
図6は、最小空間分解能を説明する概要図である。
図6の(b)は、ガウス関数で近似できる光源の波数kに依存した強度分布を示すスペクトルである。
図6の(b)に示すスペクトルの強度S(k)は、ピーク値の波数をk
0、ピーク値の強度を1/Δk・(π)
1/2、半値半幅をΔkとすると、以下の式で表すことができる。
【数17】
なお、
【数18】
である。また、
【数19】
との関係が成立する。式15,16を用いて半値半幅Δkは以下のように表現できる。
【数20】
【0034】
一方、
図6の(b)に示すスペクトルをFFT変換すると
図6の(a)に示すスペクトルとなる。
図6の(a)は、位置xに依存した強度分布を示すガウス関数のスペクトルである。
図6の(a)に示すスペクトルの強度S(x)は、ピーク値の位置を0、ピークの強度を1とすると、以下の式で表すことができる。
【数21】
なお、半値半幅Δkと、S(x)の半値半幅Δx
gは以下の関係を満たす。
【数22】
半値半幅をl
cとすると、式19に基づいて、S(x)の半値半幅Δx
gは以下の式で表現できる。
【数23】
強度S(x)のスペクトルの半値半幅l
cがコヒーレンス長となる。空間の最小分解能は、l
cであり、光源10のスペクトルの中心波長と半値幅で決定される。
【0035】
次に、上述した最大計測光学厚さx
maxに基づいて、分光器14に必要なサンプリング数N
sの条件を導出する。光源10の中心波長をλ
0、光源スペクトルの半値半幅をΔλ、分光器14の波長スパンをΔw、測定対象物13の屈折率をnとすると、式9に基づいて、最大計測光学厚さx
maxは以下の式で表される。
【数24】
ここで、最大計測厚さdと最大計測光学厚さx
maxとは、以下の条件を満たす必要がある。
【数25】
すなわち、以下の関係を満たすサンプリング数N
sが必要となる。
【数26】
例えば、最大計測厚さd=0.775mm、光源10の中心波長λ
0=1550nm、測定対象物13の屈折率n=3.7であれば、以下のようになる。
【数27】
なお、波長スパンΔw[m]をΔw’[nm]へ変換して表現すると、以下のようになる。
【数28】
温度計測システム1は、式25に示す関係を満たす波長スパンΔw’[nm]とサンプリング数N
sの分光器14を備える。例えば、波長スパンΔw’[nm]が40nmである場合には、サンプリング数N
sが200より大きい値を有する。すなわち、波長スパンΔw’[nm]が40nmである場合には、200よりも大きな数の受光素子を配列させた受光部142が必要となる。
【0036】
次に、前述したデータ間隔Δxに基づいて、光源10に必要な光源スペクトルの半値半幅Δλの条件を導出する。
図7は、コヒーレンス長を説明する概要図である。
図7の(a)は、波数に依存した強度分布を示すスペクトルである。波数k=1/e
2のピーク値の半値半幅をΔkとしている。
図7の(b)は、位置に依存した強度分布を示すスペクトルである。
図7の(b)は、
図7の(a)に示すスペクトルをフーリエ変換することにより得られる。半値全幅であるコヒーレンス長L
cは、光源10の中心波長をλ
0、光源スペクトルの半値半幅をΔλとすると、以下の式で表現される。
【数29】
ここで、上記のコヒーレンス長L
cを用いて、重心ピークを適切に求めるために必要なデータ間隔Δxを考察する。なお、半値全幅LcはFFT後の空間であるため、実スケールとは相違する。同様に、Δxは実空間スケールであるため、FFT後の空間に適合させるためにΔXを用いて計算する。ここで、ΔX=2nΔxとする。FFT後の信号は、光源10の半値半幅Δλと分光器14の波長スパンΔwで決定される。重心ピークを正確に求めるためには、FFT後の信号の半値全幅内に最低3点のデータ点が含まれる必要がある。例えば、
図8の(a)に示すように、データ点が3点含まれる必要がある。なお、
図8の(b)に示すように、半値全幅L
c>2ΔXという条件では、ピーク位置とデータ点とがずれたときに、半値全幅にはデータ点が2点しか含まれない。このため、最低4点のデータ点が含まれるとし、半値全幅L
c>3ΔXという条件を満たすようにすべきである。式26を用いて、半値全幅L
cとデータ間隔ΔXとの間に以下の不等式が成立する。
【数30】
光源10の半値半幅Δλについて式27を解くと、以下のようになる。
【数31】
なお、波長スパンΔwと光源10のスペクトルの半値半幅Δλが決定すれば、以下の式よりコヒーレンス長L
c内のデータ点数N
cを知ることができる。
【数32】
図9は、コヒーレンス長内のデータ数とスペクトル半値半幅との関係を示すグラフである。横軸が光源10のスペクトルの半値半幅Δλ、縦軸がコヒーレンス長L
c内のデータ点数N
cである。光源10の波長スパンΔw=42nmとすると、式29より、m>3を満たすためには、Δλ<6.18nmとなる必要がある。温度計測システム1は、式28に示す関係を満たす半値半幅Δλの光源10を備える。
【0037】
次に、温度計測システム1の温度計測動作について説明する。
図10は、温度計測システム1の動作を示すフローチャートである。
図10に示す制御処理は、例えば光源10及び演算装置15の電源がONされたタイミングから所定の間隔で繰り返し実行される。
【0038】
図10に示すように、反射光スペクトルの入力処理から開始する(S10)。光源10は、測定光を発生する。例えば、
図11の(a)に示すスペクトルの測定光となる。分光器14は、測定対象物13の表面13a及び裏面13bで反射した反射光のスペクトルを取得する。例えば、
図11の(b)に示すスペクトルの反射光となる。光路長算出部16は、分光器14から反射光のスペクトルを入力する。S10の処理が終了すると、座標変換処理へ移行する(S12)。
【0039】
S12の処理では、光路長算出部16が、S10の処理で得られたスペクトルの座標軸を、波長λから空間周波数(1/λ)へ変換する。例えば、
図11の(c)に示すスペクトルとなる。S12の処理が終了すると、第1データ補間処理へ移行する(S14)。
【0040】
S14の処理では、光路長算出部16が、S12の処理で得られたスペクトルのデータ補間を行う。例えば、サンプリング数をN
sとし、スペクトルのデータとして、空間周波数の配列を(x
0,x
1,x
2,…,x
N−1)とし、強度の配列を(y
0,y
1,y
2,…,y
N−1)とする。まず、光路長算出部16は、空間周波数の配列を等間隔に再配列する。例えば、再配列後の空間周波数の配列に含まれる空間周波数をX
iとすると、以下の式を用いて再配列を行う。
【数33】
次に、光路長算出部16は、再配列後の空間周波数X
iにおける強度を、線形補間で計算する。このときの強度をY
iとすると、以下の式を用いて算出する。
【数34】
ただし、jはX
i>x
jとなる最大の整数である。これにより、例えば
図12の(a)に示すスペクトルとなる。S14の処理が終了すると、FFT処理へ移行する(S16)。
【0041】
S16の処理では、フーリエ変換部17が、S14の処理で補間されたスペクトルをフーリエ変換する(フーリエ変換工程)。これにより、例えば、
図12の(b)に示すように、縦軸が振幅、横軸が位相のスペクトルとなる。S16の処理が終了すると、フィルタリング処理へ移行する(S18)。
【0042】
S18の処理では、光路長算出部16が、S16の処理で得られたスペクトルからX=0のピーク値をフィルタリングする。例えば、X=0からX=Z(所定値)までの範囲の強度データYに0を代入する。S18の処理が終了すると、抽出処理へ移行する(S20)。
【0043】
S20の処理では、光路長算出部16が、S18の処理で得られたスペクトルからX=2ndのピーク値を抽出する。例えば、ピークの最大値をY
iとした場合、Y
i−10からデータ点を20点抽出する。これは、ピークの中心から裾までのデータを抽出するためである。例えば、ピークの最大値を1としたときに、最大値から0.5までの範囲が含まれるように抽出する。例えば、
図12の(c)に示すスペクトルが抽出される。S20の処理が終了すると、第2データ補間処理へ移行する(S22)。
【0044】
S22の処理では、データ補間部18が、S20の処理で得られた2ndピークのデータを補間する(データ補間工程)。データ補間部18は、例えばデータ点間を補間数Nで等間隔に線形補間する。補間数N
Aは、例えば必要な温度精度に基づいて予め設定される。
【0045】
ここで、補間数N
Aについて概説する。例えば、測定対象物13が半径300mmのSi基板である場合には、FFT後のピーク間隔Δ2ndが0.4μm/℃となる。したがって、1℃の精度が必要な場合には、データ間隔が0.4μmとなるように補間数N
Aを設定する。システムが有するノイズレベルを考慮して補間数N
Aを決定してもよい。ここで、分光器14が、波長スパンΔw=42nm、サンプリング数N
s=640であるとする。また、光源10が、中心波長λ
0=1560nmであるとする。この場合、FFT後のデータ間隔は、式8を用いてΔx=56nmとなる。よって、0.4μmのデータ間隔となるように、各点の間隔を140点補間する必要がある(補間数N
A=140)。また、ノイズレベルが0.1℃程度の場合には、0.1℃以下の分解能は不要である。なお、Δx=56nmのまま計算すると、分解能が140℃となることからもデータ補間の重要性が理解できる。例えば、以下の数式を用いてデータ補間を行う。
【数35】
ここで、jは強度の配列に用いた指標である。データ補間部18は、上記式32をi=0〜N−1の範囲で実行する。すなわち、S20の処理で得られた20点の間隔全てを対象にして算出する。このように、フーリエ変換後のデータ間隔を、必要な分割数(補間数N)で分割し、分割数に応じたデータ数を線形補間する。S22の処理が終了すると、抽出処理へ移行する(S24)。
【0046】
S24の処理では、重心計算部19が、S22の処理で補間されたデータから重心の計算に利用するデータ範囲のみを抽出する。例えば、重心計算部19は、重心計算に使用する閾値をA%とし、ピークの最大強度Y
MAX×A以下の強度データYに0を代入する。S24の処理が終了すると、重心計算処理へ移行する(S26)。
【0047】
S26の処理では、重心計算部19が、S24の処理で補間されたデータから重み付け重心を計算する(重み付け重心計算工程)。例えば、以下の式を用いる。
【数36】
なお、Nは重心範囲抽出後のデータ点数である。式33を用いることで光路長ndを算出することができる。S26の処理が終了すると、温度計算処理へ移行する(S28)。
【0048】
S28の処理では、温度算出部20が、S26の処理で得られた光路長ndを用いて温度を算出する(温度算出工程)。温度算出部20は、例えば
図13に示す温度校正データ21を用いて温度を算出する。
図13は、横軸が光路長ndであり、縦軸が温度である。温度校正データ21は予め測定対象物13ごとに取得される。以下では、温度校正データ21の事前作成例について説明する。例えば、温度制御に黒体炉を使用して実測する。温度Tと、温度Tにおける光路長nd
Tを同時に計測する。温度Tは、熱電対等の温度計を用いて測定する。また、光路長nd
Tは、上述したFFTを利用した手法で測定する。そして、温度計の測定値が40℃の時の光路長nd
40を1000として光路長nd
Tを規格化する。そして、温度と規格化された光路長nd
Tを100℃ごとに区分して、3次式で近似することで、近似曲線の係数を導出する。
図13の左上に示す数式が3次式の数式である。なお、温度Tに依存した規格化された光路長nd
Tの関数を以下式で表す。
【数37】
また、f(T)の逆関数を以下のように示す。
【数38】
光路長nd
40は、イニシャル温度T0とその時の光路長nd
T0に基づいて以下の数式により算出される。
【数39】
式36に基づいて得られた光路長nd
40及び光路長nd
Tに基づいて、温度Tを上述した式35の数式を用いて導出する。S28の処理が終了すると、
図10に示す制御処理を終了する。
【0049】
以上で
図10に示す制御処理を終了する。
図10に示す制御処理を実行することで、少ないデータ点であっても高精度に温度を測定することができる。例えば、2ndのピーク値の近似曲線を求めて位置xを求める手法も考えられる。しかし、この手法では、光源10のスペクトルの形状や、分光器14の波長スパンΔwと光源10との関係から、FFT後の信号の形がピーク中心に対して左右非対称となるおそれがある。例えば、光源10が対称的なガウス関数となることは少なく、FFT後の信号も対称的なガウス関数となることは少ない。このため、近似曲線を用いた手法では、正確にピーク位置を求めることが困難である。これに対して、
図10に示すデータ補間工程にて直線補間をすることで、FFT後の信号プロファイルに依存することなく、重心位置を決定することができる。また、温度精度に合わせてデータ点を補間することができるので、精度よく安定な温度計測をすることができる。
【0050】
以上、一実施形態に係る温度計測システム1及びその方法によれば、フーリエ変換後のデータ間隔ΔX、及び計測可能な最大の厚さdを定めることで、要求される精度の温度測定に必要なスペックを有する光源10及び分光器14を備えている。すなわち、波長スパンΔwに基づいた条件を満たす光源10、並びに、波長スパンΔw及び計測可能な最大の厚さdに基づいた条件を満たす分光器14を有することで、光干渉を利用して温度を適切に測定することができる。
【0051】
なお、上述した実施形態は温度計測システム及び温度計測方法の一例を示すものであり、実施形態に係る装置及び方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0052】
例えば、基板処理装置に一実施形態で説明した温度計測システム1を搭載させてもよい。
図14は、基板処理装置の一例である。ここでは,例えばプラズマエッチング装置などの基板処理装置における測定対象物13の例としてウエハTwの温度測定に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0053】
測定光の元になる光源10としては、測定対象物であるウエハTwの両端面S
1,S
2を透過し反射する光であって、ウエハTwの両端面S1,S2で少なくとも2回以上往復反射可能な光を照射可能なものを使用する。例えばウエハTwはシリコンで形成されるので、シリコンやシリコン酸化膜などのシリコン材を透過可能な1.0〜2.5μmの波長を有する光を照射可能なものを光源10として使用する。
【0054】
基板処理装置300は、
図14に示すように、例えばウエハTwに対してエッチング処理や成膜処理などの所定の処理を施す処理室310を備える。すなわちウエハTwは、処理室310に収容される。処理室310は図示しない排気ポンプに接続され、真空排気可能に構成されている。処理室310の内部には、上部電極350と、上部電極350に対向する下部電極340とが配設されている。下部電極340は、ウエハTwを載置する載置台を兼ねている。下部電極340の上部には、例えばウエハTwを静電吸着する静電チャック(図示しない)が設けられている。また、下部電極340には、冷却手段が設けられている。この冷却手段は、例えば、下部電極340に冷媒流路は略環状に形成される冷媒流路342に冷媒を循環させて下部電極340の温度を制御する。これにより、ウエハTwの温度を制御する。ウエハTwは、例えば処理室310の側面に設けられたゲートバルブ(図示しない)から処理室310内に搬入される。これら下部電極340、上部電極350にはそれぞれ所定の高周波電力を印加する高周波電源320、330が接続されている。
【0055】
上部電極350は、最下部に位置する電極板351を電極支持体352で支持するように構成されている。電極板351は例えばシリコン材(シリコン、シリコン酸化物など)で形成され、電極支持体352は例えばアルミ材で形成される。上部電極350の上部には、所定の処理ガスが導入される導入管(図示しない)が設けられている。この導入管から導入された処理ガスが下部電極340に載置されたウエハTwに向けて均一に吐出するように、電極板351には多数の吐出孔(図示しない)が穿設されている。
【0056】
上部電極350は、冷却手段が設けられている。この冷却手段は、例えば上部電極350の電極支持体352内に形成される冷媒流路に冷媒を循環させることにより、上部電極350の温度を制御するものである。冷媒流路は略環状に形成されており、例えば上部電極350の面内のうち外側を冷却するための外側冷媒流路353と、内側を冷却するための内側冷媒流路354の2系統に分けて形成される。これら外側冷媒流路353及び内側冷媒流路354はそれぞれ、
図5に示す矢印で示すように冷媒が供給管から供給され、各冷媒流路353、354を流通して排出管から排出されて、外部の冷凍機(図示せず)へと戻り、循環するように構成されている。これら2系統の冷媒流路には同じ冷媒を循環させてもよく、また異なる冷媒を循環させてもよい。なお、上部電極350の冷却手段としては、
図5に示す2系統の冷媒流路を備えるものに限られず、例えば1系統のみの冷媒流路を備えるものであってもよく、また1系統で2分岐する冷媒流路を備えるものであってもよい。
【0057】
電極支持体352は、外側冷媒流路353が設けられる外側部位と、内側冷媒流路354が設けられる内側部位との間に、低熱伝達層356が設けられている。これにより、電極支持体352の外側部位と内側部位との間は低熱伝達層356の作用により熱が伝わり難いため、外側冷媒流路353と内側冷媒流路354との冷媒制御によって、外側部位と内側部位とが異なる温度になるように制御することも可能である。こうして、上部電極350の面内温度を効率よく的確に制御することが可能となる。
【0058】
このような基板処理装置300では、ウエハTwは例えば搬送アームなどによりゲートバルブを介して搬入される。処理室310に搬入されたウエハTwは、下部電極340上に載置され、上部電極350と下部電極340には高周波電力が印加されるとともに、上部電極350から処理室310内へ所定の処理ガスが導入される。これにより、上部電極350から導入された処理ガスはプラズマ化され、ウエハTwの表面に例えばエッチング処理などが施される。
【0059】
上記温度計測システム1における参照光は、コリメータ12に設けられた光ファイバFを介して、下部電極340から測定対象物であるウエハTwへ向けて照射する測定光照射位置まで伝送されるようになっている。具体的には、光ファイバFは下部電極340の例えば中央部に形成された貫通孔344を介して、測定光がウエハTwへ向けて照射されるように配設される。なお、光ファイバFを配設するウエハTwの面内方向の位置としては、測定光がウエハTwへ照射される位置であれば、
図5に示すようなウエハTwの中央部でなくてもよい。例えば測定光がウエハTwの端部へ照射されるように光ファイバFを配設してもよい。
【0060】
以上、基板処理装置300に温度計測システム1を搭載することで、エッチング処理中の測定対象物であるウエハTwの温度を計測することができる。なお、上述したイニシャル温度T0は、ウエハTwを下部電極340に静電吸着させ、所定の処理ガスの圧力が安定したときに測定する。例えば、下部電極340に熱電対を装着し、下部電極340の温度をウエハTwの温度とし、この時の光路長ndをイニシャル厚さとしてもよい。また、下部電極340に接触式の温度計を備え、ウエハ搬送時に測定してもよい。また、ここではウエハの温度を計測する例を説明したが、処理室内に収容されている上部電極やフォーカスリング等のチャンバー内パーツが測定光に対して透過性を有する材質の場合は、該チャンバー内パーツの温度を計測してもよい。この場合、チャンバー内パーツの材質として、シリコン、石英又はサファイア等が用いられる。
【0061】
また、上述した実施形態では、サンプリング数をCCDの受光素子の数として説明したが、分光器14の種類によっては別なもので規定されてもよい。例えば、分光器14が、1つの受光素子と波長選択フィルタであるチューナブルフィルタを備え、ピーク値の中心波長を含む範囲をスキャンすることで反射光のスペクトルを得る構成とされている場合もある。この場合には、サンプリング数が波長選択フィルタ及び受光素子によって行われる計測ステップの数に基づいて規定されてもよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、光サーキュレータ11を備える例を説明したが、2×1又は2×2のフォトカプラであってもよい。2×2のフォトカプラを採用する場合、参照ミラーは備えなくてもよい。