特許第5806152号(P5806152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5806152セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法
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  • 特許5806152-セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806152
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/34 20060101AFI20151021BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20151021BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   E02D5/34 Z
   C04B28/02
   C04B14/10 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-60337(P2012-60337)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-194377(P2013-194377A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】荒木 一司
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正博
(72)【発明者】
【氏名】石橋 忠良
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 康夫
(72)【発明者】
【氏名】池本 宏文
(72)【発明者】
【氏名】和田 旭弘
【審査官】 富山 博喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−214438(JP,A)
【文献】 特開平09−208952(JP,A)
【文献】 特開2001−233645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34
C04B 14/10
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物であって、
85%粒径をG85とし、60%粒径をG60とし、10%粒径をG10としたときに、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
30%粒径をG30としたときのG302 /(G60×G10)が0.5以上である請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物を作製するセメント組成物の製造方法であって、
前記セメント組成物の85%粒径をG85とし、前記セメント組成物の60%粒径をG60とし、前記セメント組成物の10%粒径をG10としたときに、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上となるように前記セメント組成物を作製することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記底部の土壌の15%粒径をD15としたときのD15/G85が9.1以下となるように前記セメント組成物を作製する請求項3記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及びセメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
場所打ち杭は、地盤に杭孔を掘削し、該杭孔に鉄筋を設け、更に該杭孔にコンクリートを打設して該鉄筋を該コンクリートで覆うことにより形成される杭である。この場所打ち杭は、工場等で作製して現場に運ぶ必要のある他の杭と異なり、作製場所から現場まで移動させる必要がないので、大きくて高強度な杭が求められる構造物(高層ビルなど)を建築する際に用いられている。
【0003】
しかし、大きな場所打ち杭は、該杭を形成した後に該杭の上方から荷重がかかると、下記(a)〜(d)のような理由により、沈下するおそれがある。
(a)地中の地盤は上方に積層された土等の荷重により圧密されているが、杭孔を形成すると杭孔の底部の応力が開放されるため緩みが生じる。
(b)地盤に杭孔を形成している際に地下水が帯水した砂礫層を貫通した場合には、地下水が噴出して、砂礫が流出してしまい、砂礫が流出した部分に緩みが生じる。
(c)杭孔の形成は、通常、孔壁の崩落を防止するためにベントナイト含有水を杭孔内に満たしながら行うが、杭孔の底部には、該ベントナイト含有水と、地盤の掘削で生じた微細な土粒子とで構成された柔らかい不均質な部分(スライム)が生成されてしまう。
(d)杭孔が形成される地盤自体が場所によって不均質であり、地盤強度にはバラツキがある。
【0004】
斯かる観点から、鉄筋製のカゴと、該カゴを下側から覆う合成樹脂製のシートとで形成された袋体を杭孔の底部に設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材としてのセメントミルクを高圧で注入し硬化させて、該打ち杭を注入材の硬化物で支える方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−213673号公報
【特許文献2】特開2001−214438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、斯かる方法では、前記注入材を注入している際に前記袋体を構成するシートに何らかの原因で穴が生じた場合、該注入材が、袋体外に流出して地盤に浸透し、次々と袋体外へ流出してしまうおそれがある。
従って、地盤に浸透し難い注入材が望まれる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、地盤に浸透し難い注入材のためのセメント組成物、及び、セメント組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物であって、85%粒径をG85とし、60%粒径をG60とし、10%粒径をG10としたときに、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上であることを特徴とするセメント組成物にある。
【0009】
斯かるセメント組成物によれば、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上であることにより、得られる注入材を地盤に浸透し難いものとし得る。
なお、85%粒径については、レーザー回折散乱法に従って粒度分布を求めて全体積を100%としたときの粒径の累積曲線を体積基準で作成し、この累積曲線の粒径の小さい方から85%となる点の粒径を求め、この粒径を85%粒径とする。また、60%粒径については、前記累積曲線の粒径の小さい方から60%となる点の粒径を求め、この粒径を60%粒径とする。さらに、10%粒径については、前記累積曲線の粒径の小さい方から10%となる点の粒径を求め、この粒径を10%粒径とする。粒度分布は、例えば、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装社製、マイクロトラックMT3000)を用いて求めることができる。
【0010】
また、本発明に係るセメント組成物においては、好ましくは、30%粒径をG30としたときのG302 /(G60×G10)が0.5以上である。
【0011】
斯かるセメント組成物によれば、G302 /(G60×G10)が0.5以上であることにより、得られる注入材を地盤により一層浸透し難いものとし得る。
なお、30%粒径については、前記累積曲線の粒径の小さい方から30%となる点の粒径を求め、この粒径を30%粒径とする。
【0012】
また、本発明は、地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物を作製するセメント組成物の製造方法であって、前記セメント組成物の85%粒径をG85とし、前記セメント組成物の60%粒径をG60とし、前記セメント組成物の10%粒径をG10としたときに、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上となるように前記セメント組成物を作製することを特徴とするセメント組成物の製造方法にある。
【0013】
斯かるセメント組成物の製造方法によれば、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上となるように前記セメント組成物を作製することにより、地盤に浸透し難い注入材のためのセメント組成物を作製することができる。
【0014】
また、本発明に係るセメント組成物の製造方法においては、好ましくは、前記底部の土壌の15%粒径をD15としたときのD15/G85が9.1以下となるように前記セメント組成物を作製する。
【0015】
斯かるセメント組成物の製造方法によれば、D15/G85が9.1以下となるようにセメント組成物を作製することにより、地盤により一層浸透し難い注入材のためのセメント組成物を作製することができる。
なお、前記底部の土壌の15%粒径については、JIS A 1204:2009「土の粒度試験方法」に従って前記土壌をふるい分けし、ふるい分けられた土壌ごとの質量を測定して、この結果をもとに粒径加積曲線を作成し、この粒径加積曲線から通過質量百分率が15%であるときの粒径を求め、この粒径を15%粒径とする。
また、ふるい分けに供する土壌としては、杭孔の底部の土層あるいはそれと同等と認められる土層から採取したものを用いる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、地盤に浸透し難い注入材のためのセメント組成物を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】注入材の浸透性の確認試験に用いた装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態のセメント組成物は、地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物である。また、前記セメント組成物は、粉状である。
【0020】
また、前記セメント組成物は、セメントを備え、必要に応じて、粉状の混和材、及び、粉状の混和剤の少なくとも何れか一方を備えている。
前記セメントとしては、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントや、ジェットセメント、アルミナセメントなどの特殊セメントが挙げられる。
【0021】
前記セメント組成物は、混和材として分離低減材を備えていることが好ましい。該分離低減材を備えていることで、セメント組成物を用いて得られる注入材にブリーディングを生じさせ難くすることができるという利点がある。
前記分離低減材の材質としては、高炉スラグ、シリカフューム、石灰石、粘土鉱物等が挙げられる。
前記分離低減材は、前記セメント100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは50〜150質量部含有されている。
前記分離低減材が前記セメント100質量部に対して10質量部以上含有されていることにより、得られる注入材にブリーディングを生じさせ難くすることができるという利点がある。また、前記分離低減材が前記セメント100質量部に対して300質量部以下含有されていることにより、得られる注入材の流動性が高いものとなるという利点がある。
【0022】
前記セメント組成物は、細骨材を備えていることが好ましい。該細骨材を備えていることで、袋体が破裂した際に、得られる注入材が地盤に浸透するのを抑制でき、その結果、該袋体内の圧力が低下するのを抑制することができるという利点がある。
前記細骨材の材質としては、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、石炭灰、廃コンクリート殻、廃貝殻、廃瓦、廃ガラス、廃陶磁器、廃タイル、廃レンガ等を1種単独又は2種以上混合したものが挙げられる。
前記細骨材は、前記セメント100質量部に対して、好ましくは10〜60質量部、好ましくは18〜40質量部含有されている。
前記細骨材が前記セメント100質量部に対して10質量部以上含有されていることにより、袋体が破裂した際に、得られる注入材が地盤に浸透するのを抑制でき、その結果、該袋体内の圧力が低下するのを抑制することができるという利点がある。また、前記細骨材が前記セメント100質量部に対して60質量部以下含有されていることにより、得られる注入材の流動性が低下するのを抑制できるという利点、及び、該注入材を袋体に注入するのに袋体までホース等の輸送管を用いてポンプで圧送する場合には注入材の材料が分離するのを抑制することができるという利点がある。
【0023】
前記セメント組成物は、85%粒径をG85としたときに、G85が、70μm以上、好ましくは90〜200μm、より好ましくは110〜150μmである。
該G85が、70μm以上であることにより、該セメント組成物を有する注入材が地盤に浸透し難いものとなるという利点がある。
また、該G85が、200μm以下であることにより、注入材を袋体に注入するのに袋体までホース等の輸送管を用いてポンプで圧送する場合には注入材の材料が分離するのを抑制することができるという利点、及び、注入材にブリーディングを生じさせ難くすることができるという利点がある。
前記セメント組成物と水とを有する注入材に含まれる固体粒子の分布において、前記G85が70μm以上となっていればよい。なお、セメント組成物には、通常水に分散させた時に溶解する成分が、極わずかで無視できる、或いは、含まれていたとしても70μm以下であると考えられることができ、粉の状態で85%粒径を測定して70μm以上であればよい。
【0024】
また、前記セメント組成物は、60%粒径をG60とし、10%粒径をG10としたときに、G60/G10が7以上、好ましくは8〜50である。
該G60/G10が、7以上であることにより、該セメント組成物を有する注入材が地盤に浸透し難いものとなるという利点がある。
また、該G60/G10が、50以下であることにより、注入材を袋体に注入するのに袋体までホース等の輸送管を用いてポンプで圧送する場合には、該輸送管が閉塞し難くなるという利点、すなわち、施工性が向上するという利点がある。
【0025】
さらに、前記セメント組成物は、30%粒径をG30としたときのG302 /(G60×G10)が0.5以上、好ましくは1.0〜10.0である。
該G302 /(G60×G10)が、0.5以上であることにより、該セメント組成物を有する注入材が地盤に浸透し難いものとなるという利点がある。
【0026】
次に、本実施形態のセメント組成物の製造方法について説明する。
本実施形態のセメント組成物の製造方法では、地盤の杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置し、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成し、前記袋体内に注入材を注入し硬化させる場所打ち杭工法で用いられる前記注入材のためのセメント組成物を作製する。
また、本実施形態のセメント組成物の製造方法では、G85が70μm以上、且つ、G60/G10が7以上となるようにセメント組成物を作製する。また、前記底部の土壌の15%粒径をD15としたときのD15/G85が、好ましくは9.1以下、より好ましくは2.0〜9.1、さらに好ましくは2.4〜9.1となるように前記セメント組成物を作製する。
15/G85を9.1以下となるように前記セメント組成物を作製することにより、該セメント組成物から得られる注入材が地盤により浸透し難いものとなるという利点がある。
セメント組成物のD15/G85を所定範囲内にするには、例えば、まず、地盤の杭孔の底部の土壌の粒径加積曲線を作成し、この粒径加積曲線からD15を求める。そして、このD15の値から、D15/G85が所定範囲内となるようにセメント組成物の材料を混合し、セメント組成物を作製する。
【0027】
次に、前記セメント組成物と水とを混合して得られる注入材を用いて杭を作製する杭の作製方法について説明する。
該杭の作製方法は、杭孔を地盤に形成する孔形成工程と、杭孔の底部にシートで形成された袋体を設置する設置工程と、該袋体の上にコンクリートを打設し硬化させて場所打ち杭を形成する杭形成工程と、前記セメント組成物と、水とを混練して形成される注入材を前記袋体内に注入し硬化させる注入工程とを備えている。
【0028】
前記孔形成工程では、地盤を掘って孔を形成しつつ、ベントナイト含有水を杭孔に供給して杭孔内に満たす。
【0029】
前記設置工程で用いる袋体は、鉄筋製のカゴと、該カゴを下側から覆う合成樹脂製のシートとを備えている。
【0030】
該設置工程では、前記袋体を杭孔の底部に設置する際に、前記孔形成工程でのベントナイト含有水の供給により生じたスライムを杭孔外に排出するためのスライム用ホースを、一端が杭孔外に位置し且つ他端が前記袋体の下側に位置するように配する。また、前記袋体を杭孔の底部に設置する際に、前記注入材を注入するための注入材用ホースについて、一端を杭孔外に配し、他端を前記袋体内に配する。
【0031】
前記杭形成工程で用いるコンクリートは、セメント、細骨材、粗骨材及び水を備え、必要に応じて、混和材及び混和剤を備えている。前記杭形成工程で用いるコンクリートのセメントとしては、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメントや、ジェットセメント、アルミナセメントなどの特殊セメントが挙げられる。前記細骨材の材質、及び粗骨材の材質としては、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、廃コンクリート殻、廃貝殻、廃瓦、廃ガラス、廃陶磁器、廃タイル、廃レンガ等を1種単独又は2種以上混合したものが挙げられる。
前記杭形成工程では、杭孔に鉄筋を設け、該鉄筋をコンクリートが覆うようにトレミー管を用いて杭孔にコンクリートを打設する。
【0032】
前記注入工程で用いる注入材は、混和材(剤)を含まない場合には、セメント100質量部に対して、水が、好ましくは25〜50質量部、より好ましくは30〜40質量部である。
また、該注入材は、混和材(剤)を含む場合には、セメント及び混和材(剤)の総量100質量部に対して、水が、好ましくは30〜60質量部、より好ましくは38〜48質量部である。
【0033】
尚、本実施形態のセメント組成物及びセメント組成物の製造方法は、上記構成により、上記利点を有するものであったが、本発明のセメント組成物及びセメント組成物の製造方法は、上記構成に限定されず、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0034】
次に、実施例、比較例、及び、追加例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0035】
(実施例1)
下記のセメントと、粉状の混和材としての分離低減材とを表1の配合割合で混合してセメント組成物を作製し、該セメント組成物の85%粒径、60%粒径、30%粒径、及び、10%粒径を求めた。なお、セメント組成物の85%粒径、60%粒径、30%粒径、及び10%粒径は、上述した方法で測定し求めた。また、以下に示す他の実施例、比較例、及び、追加例についても同様にセメント組成物の85%粒径、60%粒径、30%粒径、及び10%粒径を求めた。
セメント:高炉セメント(住友大阪セメント社製、高炉セメントB種)(以下、「BB」ともいう。)
分離低減材:乾燥粘土(住友大阪セメント社製、スミクレー)(以下、「スミクレー」ともいう。)
次に、該セメント組成物と、下記の減水剤及び水とを下記表1の配合割合で混合して注入材を作製した。
減水剤:ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(花王社製、マイティー150)
水:水道水
【0036】
(実施例2)
スミクレーの量を下記表1のように変えたこと以外は、実施例1と同様に、セメント組成物を得、そして、注入材を作製した。
【0037】
(比較例1)
セメント組成物として、下記のセメントのみを用いた。
セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)(以下、「NC」ともいう。)
次に、該セメント組成物と、上記の減水剤及び水とを下記表1の配合割合で混合して注入材を作製した。
【0038】
(比較例2)
減水剤の量を下記表1のように変えたこと以外は、比較例1と同様にして、注入材を作製した。
【0039】
(比較例3)
セメントとしての上記のNCと、粉状の混和剤として下記の水中不分離性コンクリート用混和剤とを混合して、セメント組成物を得た。
水中不分離性コンクリート用混和剤:太平洋エルコン、太平洋マテリアル社製
次に、該セメント組成物と、水とを下記表1の配合割合で混合して注入材を作製した。
【0040】
実施例及び比較例の注入材の性状を確認するために、実施例及び比較例の注入材を以下の試験に供した。
【0041】
(Pロート流下時間の測定)
作製直後の注入材のPロート流下時間は、JSCE−F521のプレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法に準じて測定した。
【0042】
(ブリーディングの有無の確認)
JSCE−F522のプレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋法)に準じ、作製した注入材をすぐにポリエチレン袋に入れ、該注入材を袋内に静置して、袋に入れてから3時間後に、該注入材にブリーディングが生じているか否かを目視で確認した。
【0043】
(材齢28日の圧縮強度の測定)
内寸φ5×10cmの型枠に作製した注入材をすぐに打設して、供試体を作製した。そして、材齢28日の供試体の圧縮強さを測定した。圧縮強さは、JIS A 1216:2009の土の一軸圧縮試験方法に準じて測定した。
【0044】
実施例及び比較例の注入材の地盤への浸透性を確認するため、下記の試験に供した。
【0045】
(浸透性の確認試験:模擬地盤(15%粒径D15:627.4μm))
まず、浸透性の確認試験に用いる模擬地盤を構成する土壌としての日瓢製4号珪砂の15%粒径D15を上述した方法で測定し求めた。該15%粒径D15は、627.4μmだった。
そして、図1に示すように、注入材Aを円筒状の注入材用容器1(直径:106mm、高さ:300mm)に高さ250mmまで入れた。なお、該注入材用容器1としては、コンプレッサ2からの圧縮空気が第1ホース3を介して移送される開口が上面に形成され、且つ、該注入材用容器1内の空気圧を測定する第1圧力ゲージ4が接続される開口が上面に形成され、且つ、前記圧縮空気により圧力がかけられた注入材Aを注入材用容器1外に排出するための開口が底面に形成されているアクリル製容器を用いた。
また、模擬地盤Bを構成する土壌としての日瓢製4号珪砂(15%粒径D15:627.4μm)を円筒状の地盤用容器5(直径:106mm、高さ:300mm)に高さ170mmまで入れた。なお、該地盤用容器5としては、前記注入材用容器1から排出された注入材Aが第2ホース6を介して移送される開口が上面に形成され、且つ、該地盤用容器5内の空気圧を測定する第2圧力ゲージ7が接続される開口が上面に形成され、且つ、模擬地盤Bを浸透した水を地盤用容器5外に排出するための開口が底面に形成されているアクリル製容器を用いた。地盤用容器5の底面の上部には、注入材Aが外部に排出されやすいように底面の中央部に設置した排出孔から幅3mm・深さ3mmの溝が放射状に8本形成されている。
なお、地盤用容器5に模擬地盤Bを入れる前に、地盤用容器5の底面上にフィルター8(孔径:75μm)(材質:ステンレス)を敷き、該フィルター8上に濾紙9(2種)を敷いた。
次に、前記注入材用容器1の空気圧(ゲージ圧)が0.01〜0.1MPaとなるようにコンプレッサ2で圧縮空気を注入材用容器1に移送した。これにより、注入材用容器1の注入材Aが第2ホース6を介して地盤用容器5に移送された。地盤用容器5に注入材Aが模擬地盤B上に約1cmまで入った後、注入材用容器1の空気圧を1分間に0.1MPaの割合で1.6MPaまで増加させ、そして、注入材用容器1の空気圧が1.6MPaに到達してから15分間注入材用容器1の空気圧を1.6MPaに保持した。なお、注入材用容器1の空気圧が1.6MPaに到達する前に、注入材用容器1に入っていた注入材Aの略全量が模擬地盤Bを浸透し、地盤用容器5外に排出された時には、その時点で圧縮空気の移送を停止した。
注入材用容器1の空気圧を1.6MPaで15分間保持できた場合は、模擬地盤B上に注入材Aが残存しているか否か、すなわち、模擬地盤B上に注入材Aからなる不透水層が形成されているか否かを目視で確認した。
また、注入材Aが模擬地盤B中を浸透した深さ(浸透深さ)を、模擬地盤Bの表面からの距離で計測した(0〜17cmを0.5cm単位で計測した。注入材Aが模擬地盤Bの全層通過し、地盤用容器5外に排出された場合は「浸透深さ>17.0cm」とした。)。
さらに、コンプレッサ2による圧縮空気の移送を開始してから前記地盤用容器5内の空気圧(ゲージ圧)を第2ゲージ7で測定した。前記地盤用容器5内の空気圧の測定値が1.6MPaまで到達した場合は1.6MPaを最大圧力とし、注入材Aの略全量が模擬地盤B中を浸透して地盤用容器5外に排出され、前記地盤用容器5内の空気圧が1.6MPaまで達しなかったときは、測定値の最大値を最大圧力とした。
【0046】
実施例及び比較例の試験結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、本発明の範囲内である実施例1、2のセメント組成物を有する注入材は、セメント組成物のG85が45.1μm以下であり且つG60/G10が5.4以下である比較例1〜3に比して、最大圧力が高い値を示し、また、浸透深さが低い値を示し、さらに、不透水層が形成されていた。
以上のことから、本発明のセメント組成物は、地盤に浸透し難い注入材を提供しうることがわかる。
【0049】
<模擬地盤の土壌として、日瓢製3号珪砂(15%粒径D15:935.4μm)を用いた実験例>
模擬地盤の土壌として、日瓢製4号珪砂(15%粒径D15:627.4μm)の代わりに、日瓢製3号珪砂(15%粒径D15:935.4μm)を用いて、下記の追加例1−1〜1−10の注入材について、実施例及び比較例と同様な試験を行った。
【0050】
(追加例1−1)
セメント組成物の一部として下記の細骨材を用いたこと、及び、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
細骨材:珪砂(日瓢製、7号珪砂)
【0051】
(追加例1−2)
減水剤の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0052】
(追加例1−3、追加例1−5〜追加例1−7)
減水剤の量を表2に示すようにしたこと、及び、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0053】
(追加例1−4)
細骨材として、日瓢製7号珪砂及び日瓢製6号珪砂を用いたこと、並びに、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0054】
(追加例1−8)
細骨材として、日瓢製7号珪砂の代わりに日瓢製6号珪砂を用いたこと、及び、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0055】
(追加例1−9)
細骨材として、日瓢製7号珪砂の代わりに日瓢製5号珪砂を用いたこと、及び、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0056】
(追加例1−10)
細骨材として、日瓢製7号珪砂の代わりに日瓢製5号珪砂及び日瓢製6号珪砂を用いたこと、並びに、細骨材の量を表2に示すようにしたこと以外は、追加例1−1と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0057】
追加例1−1〜1−10の試験結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、追加例1−1〜1−10のセメント組成物を有する注入材は、最大圧力が高い値を示し、また、不透水層が形成されていた。
また、追加例1−1〜1−4、1−8、1−10のセメント組成物を有する注入材は、D15/G85が10.4を越える追加例1−5〜1−7、D15/G85が1.7以下の追加例1−9に比して、浸透深さが低い値を示した。このことから、D15/G85が9.1以下で2.0以上であることが好ましいことがわかる。
【0060】
<模擬地盤の土壌として、日瓢製2号珪砂(15%粒径D15:1028.1μm)を用いた実験例>
模擬地盤の土壌として、日瓢製4号珪砂(15%粒径D15:627.4μm)の代わりに、日瓢製2号珪砂(15%粒径D15:1028.1μm)を用いて、下記の追加例2−1〜2−14の注入材について、実施例及び比較例と同様な試験を行った。
【0061】
(追加例2−1)
比較例3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0062】
(追加例2−2)
細骨材として、日瓢製7号珪砂及び日瓢製6号珪砂を用いたこと、並びに、細骨材の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0063】
(追加例2−3)
細骨材の量、及び、減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0064】
(追加例2−4)
追加例1−3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0065】
(追加例2−5)
細骨材として、日瓢製7号珪砂及び日瓢製6号珪砂を用いたこと、並びに、細骨材の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−3と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0066】
(追加例2−6、2−7)
細骨材の量、及び、減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、実施例2と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0067】
(追加例2−8、2−9)
細骨材の量、水の量、及び、減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、実施例2と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0068】
(追加例2−10)
スミクレーの量、及び、減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−6と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0069】
(追加例2−11)
減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−6と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0070】
(追加例2−12)
スミクレーの量、及び、減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−6と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0071】
(追加例2−13)
減水剤の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例1−7と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0072】
(追加例2−14)
細骨材として、日瓢製7号珪砂の代わりに日瓢製5号珪砂を用いたこと、及び、細骨材の量を表3に示すようにしたこと以外は、追加例2−13と同様にして、セメント組成物及び注入材を作製した。
【0073】
追加例2−1〜2−14の試験結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示すように、追加例2−2〜2−14のセメント組成物を有する注入材は、セメント組成物のG85が45.1μm以下であり且つG60/G10が5.4以下である追加例2−1と異なり、不透水層が形成されていた。
以上のことから、85%粒径が45.1μmを超え且つG60/G10が5.4を越えるセメント組成物は、地盤の土壌の粒径が大きく注入材が透過しやすい条件下において、地盤に浸透し難い注入材を提供しうることがわかる。
また、追加例2−2〜2−9のセメント組成物を有する注入材は、D15/G85が11.5以上の追加例2−10〜2−13、D15/G85が1.5以下の追加例2−14に比して、浸透深さが低い値を示した。このことから、D15/G85が9.1以下で2.0以上であることが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1:注入材用容器、2:コンプレッサ、3:第1ホース、4:第1圧力ゲージ、5:地盤用容器、6:第2ホース、7:第2圧力ゲージ、8:フィルター、9:濾紙、A:注入材、B:模擬地盤
図1