特許第5807056号(P5807056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807056
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】立体映像撮影用レンズシステム
(51)【国際特許分類】
   G03B 35/10 20060101AFI20151021BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20151021BHJP
   H04N 13/02 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   G03B35/10
   H04N5/232 E
   H04N5/232 A
   H04N13/02
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-505931(P2013-505931)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2012056710
(87)【国際公開番号】WO2012128178
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-61455(P2011-61455)
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100164758
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 博道
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正
(72)【発明者】
【氏名】三沢 充史
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−348621(JP,A)
【文献】 特開2002−112288(JP,A)
【文献】 特開平07−072600(JP,A)
【文献】 特開2006−107213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 35/10
H04N 5/232
H04N 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのレンズ装置を有し、前記2つのレンズ装置における基線長を変更することが可能な立体映像撮影用レンズシステムであって、
前記立体映像の立体感の度合いを指示するための立体感操作部と、
前記立体感操作部を介して指示された前記立体感の度合いを示す情報と前記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置の撮影条件とを利用して、前記撮影条件に適した立体映像データを、前記立体感操作部によって指示された度合いの立体感で得るのに最適な基線長を算出し、当該基線長の情報を出力する基線長算出部とを備え、
前記基線長算出部は、前記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録中は、前記カメラ装置の撮影条件が変更された場合でも、前記立体感操作部の操作の有無に関わらず、前記撮影画の記録開始直前に指示された前記立体感の度合を示す情報と、前変更された撮影条件とを利用して前記最適な基線長を算出する立体映像撮影用レンズシステム。
【請求項2】
請求項1記載の立体映像撮影用レンズシステムであって、
前記基線長算出部から出力された基線長の情報に基づいて当該基線長となるよう前記2つのレンズ装置の少なくとも一方の位置を制御するレンズ位置制御部を備える立体映像撮影用レンズシステム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の立体映像撮影用レンズシステムであって、
前記基線長算出部は、前記2つのレンズ装置を操作するためのレンズ操作部に設けられる立体映像撮影用レンズシステム。
【請求項4】
請求項3記載の立体映像撮影用レンズシステムであって、
前記立体感操作部は、前記レンズ操作部に設けられる立体映像撮影用レンズシステム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の立体映像撮影用レンズシステムであって、
前記基線長算出部から出力された前記基線長の情報を表示する表示装置を備える立体映像撮影用レンズシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体映像撮影用レンズシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、観察者に対して映像を立体的に見せることのできる所謂3D対応の薄型テレビの開発が盛んである。テレビ業界においても、視聴者に映像を立体的に見せることが可能な形式の立体映像データを作成する必要性が増しており、立体映像データを得ることが可能な3D撮影に対応したテレビカメラシステムの需要が今後増加すると予測される。
【0003】
立体映像データを得るには、視差のある2つの映像データを同時に得ることができればよく、2つの撮像部を左右に離して配置した3D撮影システムが一般的に用いられる(特許文献1〜3参照)。
【0004】
この3D撮影システムにおいて、2つの撮像部の各々に含まれる光学系の光軸間の距離は基線長と呼ばれており、この基線長の大きさを変えることで、2つの撮像部から得られる2つの映像データの視差を調整することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、2つの撮像部を有する1台のカメラにおいて、ズームレンズ位置やフォーカスレンズ位置に応じて最適基線長を算出し、その基線長となるように2つの撮像部間の距離を制御することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、2つの光学系と1つの撮像素子によって3D撮影を行うカメラにおいて、焦点距離と被写体距離から2つの光学系の間の最適基線長を算出し、その基線長となるように2つの光学系間の距離を制御することが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、2台のカメラを有するシステムにおいて、ユーザが所望の被写体距離を設定すると、その被写体距離に基づいて、2台のカメラにおける輻輳角及び基線長を算出して表示部に表示すると共に、2台のカメラにおける輻輳角と基線長を変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2010−217410号公報
【特許文献2】日本国特開2002−112288号公報
【特許文献3】日本国特開2007−288229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に記載のシステムによれば、ズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、焦点距離、被写体距離等の被写体に応じて決まるカメラの撮影条件に応じて基線長を変更することができるため、撮りたい被写体に適した立体感を持つ立体映像データを得ることが可能である。しかし、映像の好みはカメラマンによって異なるため、被写体に応じて決まるカメラの撮影条件に応じて立体感が自動で決まってしまうシステムでは、カメラマンにとって使い勝手が良いとは必ずしも言えない。
【0010】
特許文献1,2には、基線長を手動で変更できる構成が記載されているが、被写体に応じて決まるカメラの撮影条件とは無関係に基線長を手動で変えて良好な立体映像データを得るにはかなりの熟練が必要であり、簡単な操作で良好な立体映像データを得られることが求められる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、所望の立体感を持つ良好な立体映像データを簡単な操作で得ることが可能な立体映像撮影用レンズシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の立体映像撮影用レンズシステムは、2つのレンズ装置を有し、上記2つのレンズ装置における基線長を変更することが可能な立体映像撮影用レンズシステムであって、上記立体映像の立体感の度合いを指示するための立体感操作部と、上記立体感操作部を介して指示された上記立体感の度合いを示す情報と上記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置の撮影条件とを利用して、上記撮影条件に適した立体映像データを、上記立体感操作部によって指示された度合いの立体感で得るのに最適な基線長を算出し、当該基線長の情報を出力する基線長算出部とを備え、上記基線長算出部は、上記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録中は、上記カメラ装置の撮影条件が変更された場合でも、上記立体感操作部の操作の有無に関わらず、上記撮影画の記録開始直前に指示された上記立体感の度合を示す情報と、上記変更された撮影条件とを利用して上記最適な基線長を算出するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の立体感を持つ良好な立体映像データを簡単な操作で得ることが可能な立体映像撮影用レンズシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を説明するための立体映像撮影システムの概略構成を示す図
図2図1に示される立体映像撮影システムにおけるフォーカスコントローラ31の内部構成を詳細に示す図
図3図1に示される立体映像撮影システムにおけるフォーカスコントローラ31とフォーカスノブ32の外観を示す図
図4図1に示される立体映像撮影システムにおけるレンズ装置10Rとカメラ装置20Rの内部構成を示す図
図5図1に示される立体映像撮影システムの動作を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態を説明するための立体映像撮影システムの概略構成を示す図である。
【0017】
この立体映像撮影システムは、電動リグ上に水平方向に並べて配置された2つのカメラ装置20R,20Lと、立体映像撮影用レンズシステムとを備える。カメラ装置20Rとカメラ装置20Lは、電動リグ上を少なくとも一方が水平方向に移動可能になっており、カメラ装置20Rとカメラ装置20Lの水平方向の間隔を変えられるようになっている。
【0018】
立体映像撮影用レンズシステムは、電動リグ上に水平方向に並べて配置されたレンズ装置10R,10Lと、レンズ装置10Rとレンズ装置10Lの少なくとも一方の位置を制御してレンズ装置10Rとレンズ装置10Lにおける基線長(レンズ装置10Rの光軸KRとレンズ装置10Lの光軸KLとの間の距離)を変更するレンズ駆動部60と、レンズ装置10R,10L及びレンズ駆動部60を制御するコントローラが内蔵された、レンズ装置10R,10Lを操作するためのレンズ操作部30とを備える。
【0019】
レンズ装置10Rはカメラ装置20Rに装着され、レンズ装置10Lはカメラ装置20Lに装着されて用いられる。レンズ駆動部60によりレンズ装置10Rとレンズ装置10Lの少なくとも一方の位置が変更されると、この変更に連動してカメラ装置20R,20Lの位置も変わるようになっている。
【0020】
レンズ装置10R及びカメラ装置20Rによって撮影された画像と、レンズ装置10L及びカメラ装置20Lによって撮影された画像とには、レンズ装置10Rとレンズ装置10Lにおける基線長に応じた視差が発生する。このため、これら2つの画像を対応付けて記録することで、立体視可能な立体映像データを得ることができる。
【0021】
レンズ装置10Rとレンズ装置10Lは、それぞれレンズ操作部30とシリアル通信を行うためのインターフェース(IF)41,42を備える。
【0022】
レンズ操作部30は、レンズ装置10R,10Lの各々に含まれるフォーカスレンズ群を制御するフォーカスコントローラ31と、フォーカス位置を指示するためのフォーカスノブ32と、レンズ装置10R,10Lの各々に含まれるズームレンズ群を制御するズームコントローラ33と、ズーム位置を指示するためのズームノブ34とを備える。
【0023】
フォーカスコントローラ31は、レンズ駆動部60に接続されるIF35と、レンズ装置10RのIF41及びレンズ装置10LのIF42に接続されるIF36と、ズームコントローラ33のIF38に接続されるIF37とを備える。フォーカスコントローラ31は、IF36を介してレンズ装置10R,10Lと通信を行い、IF35を介してレンズ駆動部60と通信を行い、IF37を介してズームコントローラ33と通信を行う。
【0024】
図2は、図1に示される立体映像撮影システムにおけるフォーカスコントローラ31の内部構成を詳細に示す図である。図3は、図1に示される立体映像撮影システムにおけるフォーカスコントローラ31とフォーカスノブ32の外観を示す図である。
【0025】
図2に示されるように、フォーカスコントローラ31は、IF35,36,37の他に、制御部50と、基線長算出部52と、立体感入力部51と、立体感調整つまみ60とを備える。
【0026】
立体感調整つまみ60は、立体感の度合いを指示するための操作部であり、図3に示すように、フォーカスコントローラ31本体の外周面に設けられたダイヤル状のつまみである。
【0027】
ユーザが、立体感調整つまみ60の目盛り70を“標準”の状態から右に回すと、立体映像撮影システムによって撮影される立体映像データの立体感を強くする指示を行うことができる。また、ユーザが、立体感調整つまみ60の目盛り70を“標準”の状態から左に回すと、立体映像撮影システムによって撮影される立体映像データの立体感を弱くする指示を行うことができる。目盛り70を“強”に合わせたときが、立体感を最も強くする指示を行った状態であり、目盛り70を“弱”に合わせたときが、立体感を最も弱くする指示を行った状態である。
【0028】
なお、立体感調整つまみ60は、ダイヤル式に限らず、例えばスライドバーによって強弱を変更できるものであってもよいし、プラスマイナスのボタンにより強弱を変更できるものであってもよい。
【0029】
立体感入力部51は、立体感調整つまみ60の目盛り70の位置を読み取って、ユーザから指示された立体感の度合いの情報を基線長算出部52に入力する。
【0030】
制御部50は、フォーカスノブ32の操作信号をフォーカス位置指令信号に変換し、このフォーカス位置指令信号を、IF36を介してカメラ装置10R,10Lに送信すると共に、このフォーカス位置指令信号を用いて、被写体までの距離情報を算出する。
【0031】
また、制御部50は、ズームノブ34の操作信号をズームコントローラ33から受信し、受信した操作信号をズーム位置指令信号に変換し、このズーム位置指令信号を、IF36を介してカメラ装置10R,10Lに送信すると共に、このズーム位置指令信号を用いてレンズ装置10R,10Lの焦点距離を算出する。
【0032】
また、制御部50にはEEPROM等のメモリが内蔵されており、このメモリには、カメラ装置20R,20Lに関する情報(搭載する撮像素子のサイズ、立体映像データの想定表示サイズ等)が予め記憶されている。
【0033】
基線長算出部52は、立体感入力部51から入力された立体感の度合いを示す情報と、制御部50に内蔵されるメモリに記憶されているカメラ装置20R,20Lに関する情報と、制御部50によって算出された被写体までの距離情報及び焦点距離の情報(被写体に応じたカメラ装置20R,20Lの撮影条件)とを用いて、カメラ装置20R,20Lの撮影条件に適した立体映像データを、立体感調整つまみ60によって指定された立体感で得るために最適な、レンズ装置10R,10Lの基線長の値を算出する。
【0034】
基線長算出部52は、例えば以下の式(1)の演算を行うことによって、ユーザの望む立体感をもった立体映像データを得るための基線長Xを算出する。
【0035】
X=(k×L)/f ・・・(1)
ここで、k={(Pmax×Wf)/Ws}×D
Lは、被写体までの距離
fは、レンズ装置10R,10Lの焦点距離
Pmaxは、想定表示サイズにおける最大視差(人間の眼幅65mm付近)
Wfは、カメラ装置20R,20Lに搭載される撮像素子の横幅(2/3インチ撮像素子の場合9.58mm)
Wsは、想定表示サイズの横幅(業務用の3Dテレビ用途の場合2000mm前後)
Dは、立体感の度合に応じて決まる係数(例えば立体感調整つまみ60の目盛り70が標準に合わせられているときをD=1とすると、立体感調整つまみ60の目盛り70が“強”に向かうにしたがってDの値は増加し、立体感調整つまみ60の目盛り70が“弱”に向かうにしたがってDの値は減少する)
【0036】
Pmax、Wf、Wsは、制御部50の内部メモリに記憶されているデータである。
【0037】
なお、式(1)は、風景をバックに人物を撮影するような場合を想定した式であるが、遠い位置にいる人物と近い位置にいる人物とを含むシーンを想定した場合には、以下の式(2)にしたがって基線長を算出することができる。
【0038】
X=[{k×(Lmax×Lmin)}/(Lmax−Lmin)]/f
・・・(2)
Lmaxは、最も遠い被写体までの距離
Lminは、最も近い被写体までの距離
【0039】
式(2)を採用する場合には、フォーカスコントローラ31が基線長を算出するモードになったときに、ユーザが、まず最も遠い被写体に焦点があうようにフォーカスノブ32を操作して図示しない決定ボタンを押し、その後、最も近い被写体に焦点があうようにフォーカスノブ32を操作して図示しない決定ボタンを押す。フォーカスコントローラ31の制御部50は、決定ボタンが押された時点でのフォーカスノブ32の位置からLmaxとLminを算出すればよい。
【0040】
なお、式(1)において、“D”を“k”の式に含めない代わりに、“L”を“L×D”に変更したり、“f”を“f/D”に変更したりしてもよい。
【0041】
図4は、図1に示される立体映像撮影システムにおけるレンズ装置10Rとカメラ装置20Rの内部構成を示す図である。
【0042】
カメラ装置20Rは、レンズ装置10Rの光軸KR上に配置された撮像素子を含む撮像部201と、撮像部201により撮像して得られる撮像信号を処理して撮像画像データを生成する映像信号処理部202と、カメラ装置20R全体を統括制御するCPU203と、レンズ装置10Rとの通信を行うためのSCI(シリアルコミュニケーションインターフェース)204とを備える。
【0043】
レンズ装置10Rの撮影光学系は、フォーカスレンズ群101と、ズームレンズ群102,103と、絞り105と、マスターレンズ群106とを備え、これらが被写体側から順に並べて配置されている。
【0044】
レンズ装置10Rは、更に、フォーカスレンズ群101の位置を制御するフォーカスモータ115と、ズームレンズ群102,103の位置を制御するズームモータ116と、絞り105の開閉制御を行う絞りモータ117と、フォーカスモータ115、ズームモータ116、及び絞りモータ117を駆動するCPU114と、カメラ装置20Rと通信を行うためのSCI113と、IF41とを備える。
【0045】
レンズ装置10Lとカメラ装置20Lの内部構成は、図4において、IF41がIF42に変更されるだけであるため、詳細な説明は省略する。
【0046】
レンズ装置10R,10Lの各々に含まれるCPU114は、フォーカスコントローラ31から受信したフォーカス位置指令信号及びズーム位置指令信号にしたがって、フォーカスモータ115及びズームモータ116を駆動して、フォーカス位置制御、ズーム位置制御を行う。
【0047】
次に、以上のように構成された立体映像撮影システムの動作について説明する。
【0048】
図5は、図1に示される立体映像撮影システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【0049】
このシステムを利用するユーザは、準備段階として、まず、フォーカスコントローラ31に搭載される図示しない通信端子にコンピュータを接続し、このコンピュータを用いて、カメラ装置20R,20Lに関する情報(カメラパラメータ)の入力を行う。コンピュータに入力されたカメラ装置20R,20Lに関する情報は、フォーカスコントローラ31の制御部50にて受信され、制御部50内のメモリに記憶される。このカメラパラメータは、カメラ装置20R,20Lに搭載される撮像素子のサイズ、想定される立体映像データの表示サイズ、当該表示サイズ上での最大視差の情報等を含む。
【0050】
次に、ユーザは、レンズ装置10R,10Lの電源を投入し、ズームノブ34を操作してズーム位置を指定し、フォーカスノブ32を操作してフォーカス位置を指定する。また、ユーザは、立体感調整つまみ60を操作して、所望の立体感を指定する。
【0051】
ズーム位置が指定されると、フォーカスコントローラ31の制御部50が、ズームコントローラ33からズームノブ34の操作信号を受信し、この操作信号をズーム位置指令信号に変換し(ステップS1)、ズーム位置指令信号をレンズ装置10R,10Lに送信する。レンズ装置10R,10Lでは、ズームレンズ群102,103が、当該ズーム位置指令信号にしたがって移動される。
【0052】
次に、制御部50は、ステップS1で得たズーム位置指令信号を用いてレンズ装置10R,10Lの焦点距離を算出し(ステップS2)、算出した焦点距離の情報を基線長算出部52に入力する。レンズ装置10R,10Lの焦点距離とズームレンズ群102,103の位置とは対応しており、これらを対応付けたテーブルが制御部50のメモリに予め記憶されているため、ズーム位置指令信号により、焦点距離を算出することができる。
【0053】
なお、レンズ装置10R,10Lの焦点距離とズームレンズ群102,103の位置とを対応付けたテーブルは、立体映像撮影用レンズシステム10の製造者が、これを出荷する前に、実測によって求めて制御部50の内部メモリに記憶しておく。
【0054】
フォーカス位置が指定されると、制御部50は、フォーカスノブ32の操作信号を受信し、この操作信号をフォーカス位置指令信号に変換し(ステップS3)、フォーカス位置指令信号をレンズ装置10R,10Lに送信する。レンズ装置10R,10Lでは、フォーカスレンズ群101が、当該フォーカス位置指令信号にしたがって移動される。
【0055】
次に、制御部50は、ステップS3で得たフォーカス位置指令信号を用いて被写体距離を算出し(ステップS4)、算出した被写体距離の情報を基線長算出部52に入力する。被写体距離とフォーカスレンズ群101の位置とは対応しており、これらを対応付けたテーブルが制御部50のメモリに予め記憶されているため、ズーム位置指令信号により、被写体距離を算出することができる。
【0056】
なお、被写体距離とフォーカスレンズ群101の位置とを対応付けたテーブルは、立体映像撮影用レンズシステムの製造者が、これを出荷する前に、実測によって求めて制御部50の内部メモリに記憶しておく。
【0057】
次に、基線長算出部52は、カメラ装置20R,20Lに関する情報(カメラパラメータ)を制御部50の内部メモリから取得し(ステップS5)、立体感調整つまみ60によって指定された立体感の度合いの情報を、立体感入力部51から取得する(ステップS6)。
【0058】
次に、基線長算出部52は、制御部50から入力された焦点距離の情報及び被写体距離の情報と、制御部50の内部メモリから取得したカメラ装置20R,20Lに関する情報と、立体感入力部51から入力された立体感の度合いの情報とを用いて、例えば前述した式(1)の演算を行って基線長を算出し(ステップS7)、算出した基線長を示す情報をレンズ駆動部60に出力する(ステップS8)。
【0059】
レンズ駆動部60は、この情報を受信し、レンズ装置10R及びレンズ装置10Lの基線長が当該情報に基づく基線長となるように、レンズ装置10R及びレンズ装置10Lの少なくとも一方を電動リグ上で水平方向に移動させる(ステップS9)。
【0060】
ステップS9の後は撮影シーケンスに移行し、撮影シーケンス中にフォーカスノブ32、ズームノブ34、及び立体感調整つまみ60のいずれか1つが操作された場合には、再びステップS1〜S9の処理が行われて、基線長の再調整が行われる。
【0061】
以上のように、図1に示される立体映像撮影システムによれば、焦点距離と被写体距離等の被写体に応じたカメラ装置20R,20Lの撮影条件だけでなく、立体感調整つまみ60により指示された立体感の度合いをも考慮して基線長の算出を行うため、撮影条件に適した立体映像データを、ユーザが望む立体感を持ったものとして得ることができる。
【0062】
例えば、基線長を手動で変更することのできるカメラシステムでは、撮影条件に適した基線長を知るには、何度も基線長を変更して、基線長と立体映像データとの関係を経験的に知る必要があり、相当の熟練が必要になる。
【0063】
これに対し、図1に示される立体映像撮影システムによれば、基線長算出部52によって算出される基線長が、撮影条件に最適な基線長を基準にして、その基線長を、立体感調整つまみ60により指示された立体感の度合いにしたがって補正した値と同じになる(式(1)においてD=1とした場合、基線長Xは撮影条件に最適な基線長となる)。このため、撮影対象とする被写体を立体視するのに適した立体映像データをユーザの望む立体感で得ることができる。しかも、このような効果を、熟練を要することなく簡単な操作で得ることができる。
【0064】
また、図1に示される立体映像撮影システムによれば、カメラ装置20R,20Lの撮影条件が変更された場合でも、その撮影条件と立体感調整つまみ60により指示された立体感の度合いとにしたがって基線長が再計算される。つまり、ユーザは、立体感調整つまみ60を1度操作して所望の立体感を指示しておけば、その後に撮影条件が変わった場合でも、自動的にその立体感の立体映像データを得続けることができ、立体映像撮影システムの使い勝手を向上させることができる。
【0065】
なお、基線長算出部52は、カメラ装置20R,20Lによる撮影画の記録中は、立体感調整つまみ60の操作の有無に関わらず、前記撮影画の記録開始直前に立体感調整つまみ60によって指示された立体感の度合を示す情報と、カメラ装置20R,20Lの撮影条件とを利用して基線長を算出することが好ましい。
【0066】
カメラ装置20R,20Lによる撮影画の記録中に、立体感調整つまみ60の操作による立体感の度合いの変更を受け付けてしまうと、撮影中に基線長が大きく変更される可能性があり、見苦しい立体映像データとなってしまう。そこで、カメラ装置20R,20Lによる撮影画の記録中には、撮影画の記録開始直前に立体感調整つまみ60によって指示された値と、撮影条件とを用いて基線長を算出することで、基線長が大幅に変更されるのを防ぐことができる。
【0067】
また、以上の説明では、基線長算出部52により算出された基線長にしたがって、レンズ装置10R,10Lの基線長が自動的に変更されるものとなっているが、これに限らない。例えば、基線長算出部52により算出された基線長の情報を、IF35に接続された表示装置に表示し、この表示装置を見たユーザが、表示された基線長となるように、レンズ装置10R,10Lの位置を手動で移動させる構成としてもよい。
【0068】
また、基線長算出部52により算出された基線長にしたがって、レンズ装置10R,10Lの基線長が自動的に変更される構成においても、基線長算出部52により算出された基線長の情報を、IF35に接続された表示装置に表示することで、ユーザに基線長を通知するようにしてもよい。このようにすることで、レンズ駆動部60が故障してレンズ装置10R,10Lの位置制御が行われない場合でも、表示装置に表示される基線長によってレンズ装置10R,10Lを手動で移動させることができ、撮影を継続して行うことができる。
【0069】
また、基線長算出部52は、レンズ装置10R又はレンズ装置10L内に設けておいてもよい。この場合、レンズ装置10R又はレンズ装置10L内の基線長算出部52が、フォーカスコントローラ31から焦点距離、被写体距離、カメラパラメータ、立体感の度合いの情報を取得し、これらを利用して基線長を算出し、算出した基線長をフォーカスコントローラ31を介してレンズ駆動部60に出力したり、表示装置に出力したりすればよい。
【0070】
フォーカスコントローラ31は、比較的大きな筐体であるため、ここに基線長算出部52と立体感調整つまみ60を設けることで、システム全体のスペースを有効活用することができる。
【0071】
以上説明してきたよう、本明細書には以下の事項が開示されている。
【0072】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、2つのレンズ装置を有し、前記2つのレンズ装置における基線長を変更することが可能な立体映像撮影用レンズシステムであって、前記立体映像の立体感の度合いを指示するための立体感操作部と、前記立体感操作部を介して指示された前記立体感の度合いを示す情報と前記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置の撮影条件とを利用して、前記撮影条件に適した立体映像データを、前記立体感操作部によって指示された度合いの立体感で得るのに最適な基線長を算出し、当該基線長の情報を出力する基線長算出部とを備えるものである。
【0073】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、前記基線長算出部から出力された基線長の情報に基づいて当該基線長となるよう前記2つのレンズ装置の少なくとも一方の位置を制御するレンズ位置制御部を備えるものである。
【0074】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、前記基線長算出部は、前記2つのレンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録中は、前記立体感操作部の操作の有無に関わらず、前記撮影画の記録開始直前に指示された前記立体感の度合を示す情報と前記撮影条件とを利用して前記最適な基線長を算出するものである。
【0075】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、前記基線長算出部は、前記2つのレンズ装置を操作するためのレンズ操作部に設けられるものである。
【0076】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、前記立体感操作部は、前記レンズ操作部に設けられるものである。
【0077】
開示された立体映像撮影用レンズシステムは、前記基線長算出部から出力された前記基線長の情報を表示する表示装置を備えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、所望の立体感を持つ良好な立体映像データを簡単な操作で得ることが可能な立体映像撮影用レンズシステムを提供することができる。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2011年3月18日出願の日本出願(特願2011−61455)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0080】
10R,10L レンズ装置
20R,20L カメラ装置
52 基線長算出部
60 立体感調整つまみ
図1
図2
図3
図4
図5