特許第5807615号(P5807615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許5807615-電気コバルト板の曲がり矯正方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807615
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】電気コバルト板の曲がり矯正方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 1/00 20060101AFI20151021BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20151021BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20151021BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20151021BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20151021BHJP
   C22F 1/02 20060101ALN20151021BHJP
【FI】
   B21D1/00 A
   C25C7/06 301Z
   C25C1/08
   C22F1/10 A
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 692Z
   !C22F1/02
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-128495(P2012-128495)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-252530(P2013-252530A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2014年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089222
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 康伸
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100175400
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 伸
(72)【発明者】
【氏名】北崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】青木 英和
(72)【発明者】
【氏名】竹中 和己
【審査官】 石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−280386(JP,A)
【文献】 特開平09−157734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 1/00− 1/14
C22F 1/00− 3/02
C25C 1/00− 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解採取により得られた複数枚の電気コバルト板の曲がり矯正方法であって、
前記複数枚の電気コバルト板には、種々の曲がりの大きさの電気コバルト板が混在しており、
前記複数枚の電気コバルト板を、そのうち曲がりが小さいものを最上段および最下段に配置し、曲がりが上に凸となる向きに積み重ねて、焼き鈍す
ことを特徴とする電気コバルト板の曲がり矯正方法。
【請求項2】
炉内温度を800〜1200℃で10〜15時間保持した後、200℃以下まで炉冷して、前記電気コバルト板を焼き鈍す
ことを特徴とする請求項1記載の電気コバルト板の曲がり矯正方法。
【請求項3】
前記電気コバルト板の焼き鈍しに要する時間を、電解採取において該電気コバルト板が得られる時間と略同一とする
ことを特徴とする請求項1または2記載の電気コバルト板の曲がり矯正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コバルト板の曲がり矯正方法に関する。電解採取により得られた電気コバルト板は切断機で切断して矩形の小片とされる。本発明は、電気コバルト板を切断機で切断する際に割れないように、その曲がりを矯正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルやコバルトを回収する湿式製錬においては、ニッケルマットやMS(Mix Sulfide:ニッケルとコバルトの混合硫化物)を原料として塩素浸出を行い、原料中のニッケルやコバルトを水溶液中に浸出させることが行われる。そして、ニッケルやコバルトが浸出された浸出液を用いて電解採取することにより電気ニッケルや電気コバルトを得ている(例えば、特許文献1)。
【0003】
電解採取により電気コバルトは縦横が約1m×約0.8m、厚さが10〜12mm、重量が80〜90kgの電気コバルト板として得られる。このような電気コバルト板は、取り扱いを容易にするため、例えば25mm四方の矩形の小片に切断して製品とされる。電気コバルト板の切断は切断機により行われる。この切断機はシャーによる押し切りにより電気コバルト板を縦、横に切断して、所定寸法の小片にするものである(例えば、特許文献2)。
【0004】
ところで、電解採取により得られた電気コバルト板は、電気ニッケル板に比べて平坦性が悪くその中央が凸になるように曲るという性質を有する。これは、コバルトの電解採取においては、不導体であるオキシ水酸化コバルト(CoOOH)がアノード表面で発生しやすく、アノード側の電流密度分布が不均一になる。これに伴いコバルトが析出するカソード側も影響を受け、電気コバルト板が曲がるほどにカソード側の電流密度分布が不均一になる。一方、ニッケルの電解採取においては、アノード側でオキシ水酸化物は発生しないため、カソード側の電流密度分布は比較的均一であり、電気ニッケル板の曲がりは少ない。このように、電気ニッケル板に比べて電気コバルト板の方が、平坦性が悪くなるのが一般的である。
【0005】
曲がりが大きい電気コバルト板は、切断機で切断する際に割れてしまうという問題がある。電気コバルト板が割れると切断工程を中断して破片を除去しなければならないため生産効率が悪化する。
【0006】
特に、生産量を増加させるために電解採取の電流密度を高くすると、上記の問題は顕著となる。電解採取の電流密度を高くすると単位時間当たりの電着量が増加して電気コバルト板を厚くすることができ、その分生産量を増加させることができる。しかし、電気コバルト板を厚くするほど平坦性は悪化する傾向にあるからである。
【0007】
上記の問題を解決するためには、曲がりが大きい電気コバルト板を切断機に挿入する前に曲がりを矯正する必要がある。その方法として、電気コバルト板をプレス機で加圧して曲がりを矯正する方法が考えられる。
ところが、電気コバルトは硬く(ビッカース硬さ約200〜250HV)脆いため、プレス機で加圧すると割れてしまう場合がある。特に電解採取により得られた電気コバルト板は、溶解、凝固させて得られた金属コバルトの鋳造品に比べて組織が密となり、硬く割れやすいという性質を有する。そのためプレス機により電気コバルト板の曲がりを矯正する方法は効率的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−236630号公報
【特許文献2】特開2009−196039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、効率良く曲がりを矯正できる電気コバルト板の曲がり矯正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の電気コバルト板の曲がり矯正方法は、電解採取により得られた複数枚の電気コバルト板の曲がり矯正方法であって、前記複数枚の電気コバルト板には、種々の曲がりの大きさの電気コバルト板が混在しており、前記複数枚の電気コバルト板を、そのうち曲がりが小さいものを最上段および最下段に配置し、曲がりが上に凸となる向きに積み重ねて、焼き鈍すことを特徴とする。
第2発明の電気コバルト板の曲がり矯正方法は、第1発明において、炉内温度を800〜1200℃で10〜15時間保持した後、200℃以下まで炉冷して、前記電気コバルト板を焼き鈍すことを特徴とする。
第3発明の電気コバルト板の曲がり矯正方法は、第1または第2発明において、前記電気コバルト板の焼き鈍しに要する時間を、電解採取において該電気コバルト板が得られる時間と略同一とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、電気コバルト板を焼き鈍すことにより効率良く曲がりを矯正できる。また、最上段に曲がりが小さい電気コバルト板を配置するので、自重のみでも十分に曲がりを矯正できる。また、最下段に曲がりが小さい電気コバルト板を配置するので、その電気コバルト板の曲がりの上段の電気コバルト板への影響が少なくなる。さらに、電気コバルト板は曲がりが上に凸となる向きに積み重ねられているので、荷崩れを防止でき、自重で曲がりを矯正できる。
第2発明によれば、炉内温度が800℃より低いと焼き鈍しが不十分となり、炉内温度が1200℃を超え得ると曲がりの矯正には過剰なエネルギーを消費するため、炉内温度を800〜1200℃とすれば、電気コバルト板の曲がりを十分に矯正でき、かつ過剰なエネルギー消費を防止できる。また、200℃より高い温度で焼鈍炉を開けると炉壁のレンガが破損する恐れがあるので、200℃以下まで炉冷すれば、炉壁のレンガが破損することを防止できる。
第3発明によれば、焼き鈍しと電解採取の操業サイクルを同期できるので、電気コバルト板が滞留することなく、焼鈍炉の遊び期間がなく、効率的に操業できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】焼鈍炉の説明図である。
図2】電気コバルトの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、図2に基づき電気コバルトの製造工程について説明する。
電解採取により電気コバルト板が得られる。一般に電解採取は湿式製錬の一工程として実施される。例えば、ニッケルやコバルトを回収する湿式製錬においては、ニッケルマットやMS(Mix Sulfide:ニッケルとコバルトの混合硫化物)を原料として塩素浸出を行い、原料中のニッケルやコバルトを水溶液中に浸出させる。その浸出液を溶媒抽出により塩化ニッケル液と塩化コバルト液とに分離する。得られた塩化コバルト液を電解液として電解採取することにより電気コバルト板が得られる。なお、電解採取に用いられる電解液の液種としては硫酸浴と塩化物浴があるが、上記の湿式製錬においては塩化物浴での電解採取が採用されている。
【0014】
得られる電気コバルト板のサイズは電解採取の条件により変わり特に限定されないが、例えば縦横が約1m×約0.8m、厚さが10〜12mm、重量が80〜90kgである。また、電気コバルト板は電気ニッケル板に比べて平坦性が悪くその中央が凸になるように曲るという性質を有する。そして、曲がりが大きい電気コバルト板は、後工程で小片に切断する際に割れてしまう場合がある。例えば、電気コバルト板を水平面に静置させたとき、その電気コバルト板の一番高い部分の水平面からの高さが40mmを超えるくらい曲がりが大きいと、切断機で切断する際に割れる可能性が高くなる。そのため、切断機の挿入口を高さ40mmのスリット状として、それより曲がりの大きな電気コバルト板は切断機に挿入できないようにしている。しかし、曲がりが大きい電気コバルト板は切断機に挿入できず、作業が停滞してしまう。
【0015】
そこで、電解採取により得られた電気コバルト板のうち曲がりが大きいものは、その曲がりを矯正する。そのため、電気コバルト板を曲がりの大きいものと曲がりの小さいものとに選り分ける。例えば、電気コバルト板を水平面に静置させたとき、その電気コバルト板の一番高い部分の水平面からの高さが40mmを超えるものを曲がりの大きい電気コバルト板とし、40mm以下のものを曲がりの小さい電気コバルト板とするなど、所定の基準を設けて選り分ける。この基準は電気コバルト板の性質や切断機の性能など、種々の条件を考慮して最適値が定められる。
【0016】
曲がりの小さい電気コバルト板は直接切断機に挿入して小片に切断する。一方、曲がりの大きい電気コバルト板は焼き鈍しをして曲がりを矯正した後、切断機に挿入して小片に切断する。この電気コバルト板の曲がりを矯正する工程が本発明の適用箇所である。
【0017】
電気コバルト板は、取り扱いを容易にするため、例えば25mm四方の矩形の小片に切断して製品とされる。電気コバルト板を切断する切断機は、シャーによる押し切りにより電気コバルト板を縦、横に切断して、所定寸法の小片にするものである。
【0018】
つぎに、本発明の一実施形態に係る電気コバルト板の曲がり矯正方法について説明する。
図1に示すように、電気コバルト板Aを焼鈍炉1に装入して焼き鈍すことにより、その曲がりを矯正する。焼き鈍しに用いる焼鈍炉1は特に限定されないが、例えば、炉内に設けられた炭素棒11に通電して発熱させる電気炉などを用いることができる。また、炉内温度を測定する温度計12を有し炉内温度を制御できることが好ましく、真空排気口13やガス導入口14が設けられ炉内雰囲気を調整できることが好ましい。
【0019】
焼鈍炉1には複数枚の電気コバルト板Aを積み重ねて装入する。積み重ねられる電気コバルト板Aの枚数は、焼鈍炉1のサイズにより定まり特に限定されないが、例えば数枚から十数枚である。
【0020】
電気コバルト板Aは、曲がりが上に凸となる向きに積み重ねられる。このように積み重ねることで、その縁部分が接地し安定するので荷崩れを防止できる。また、電気コバルト板Aは縁近傍が大きく曲がる傾向があるが、その縁部分を接地させることにより自重で曲がりを矯正できる。
【0021】
また、積み重ねられる電気コバルト板Aのうち比較的曲がりが小さいものを最上段および最下段に配置する。最上段の電気コバルト板Aは、その上に他の電気コバルト板Aが載らないので上方から押さえつける力が働かず、自重のみで曲がりを矯正する必要がある。この点最上段に曲がりが小さい電気コバルト板Aを配置すれば、自重のみでも十分に曲がりを矯正できる。また、最下段に曲がりが大きい電気コバルト板Aを配置すると、その曲により上段の電気コバルト板Aが押し上げられ、上段の電気コバルト板Aの形状に影響する。この点最下段に曲がりが小さい電気コバルト板Aを配置すれば、上段の電気コバルト板Aへの影響が少なくなる。
【0022】
焼鈍炉1内の雰囲気調整は、まず真空排気口13に真空ポンプなどを接続して焼鈍炉1内を真空にし、つぎにガス導入口14から酸素濃度100ppm以下の窒素ガスを導入して焼鈍炉1内に封入することが好ましい。このようにすれば、電気コバルト板Aの表面の酸化を防止することができる。なお、酸素濃度が100ppmを上回ると、電気コバルト板Aの表面に薄い酸化層が形成されて色が黒ずんでしまうため外観不良となる。
【0023】
また、焼き鈍しの条件は、まず炉内温度を800〜1200℃まで昇温し、その温度で10〜15時間保持した後、200℃以下まで炉冷することが好ましい。炉内温度が800℃より低いと焼き鈍しが不十分となり電気コバルト板Aの曲がり矯正が不十分となる。また、炉内温度が1200℃を超え得ると曲がりの矯正には過剰なエネルギーを消費する。そのため、炉内温度を800〜1200℃とすれば、電気コバルト板Aの曲がりを十分に矯正でき、かつ過剰なエネルギー消費を防止できる。また、200℃より高い温度で焼き鈍しを終了し、焼鈍炉1を開けると炉壁のレンガが破損する恐れがある。200℃以下まで炉冷すれば、炉壁のレンガが破損することを防止できる。
【0024】
また、上記条件を満たしつつ、電気コバルト板Aの焼き鈍しに要する時間を、電解採取において電気コバルト板が得られる時間と略同一とすることが好ましい。このようにすれば、焼き鈍しと電解採取の操業サイクルを同期できるので、電気コバルト板Aが焼き鈍し工程で滞留することがなく、また焼鈍炉1の遊び期間がないので、効率的に操業できる。例えば、電解採取により電気コバルト板が得られる時間が7日間である場合、炉内温度、保持時間、焼鈍炉1を開ける温度などを調整し、電気コバルト板Aの焼き鈍しを約7日間とする。このように、焼き鈍しの条件を調整することにより焼き鈍しに要する時間を電解採取に要する時間に合わせることができる。
【0025】
以上のように電気コバルト板Aを焼き鈍しすれば、プレス機で加圧して曲がりを矯正する場合のように割れてしまうことがないので、効率良く曲がりを矯正できる。そして、電気コバルト板Aを切断機で小片に切断する際に割れることを防止できる。
なお、焼き鈍しをしても曲がりの矯正が不十分となる恐れもあるが、焼き鈍しをした後の電気コバルト板Aは軟化しているので、そのまま切断機で切断しても割れることなく、切断することができる。
【0026】
なお、上記のように電気コバルト板を曲がりの大きいものと曲がりの小さいものとに選り分けて、曲がりが大きいもののみ焼き鈍す以外に、電解採取で得られた全ての電気コバルト板を焼き鈍してもよい。しかし、選り分けた方が、焼き鈍しに必要なエネルギーを低減でき、作業員の手間も低減できるので好ましい。
【実施例】
【0027】
つぎに実施例について説明する。
(実施例)
上記実施形態のように、9枚の電気コバルト板を、曲がりが上に凸となる向きに積み重ねて焼鈍炉に装入した。つぎに、炉内雰囲気を酸素濃度100ppm以下の窒素ガスとした。つぎに、炉内温度を1100℃に昇温して15時間保持した後、炉冷した。そして昇温開始から156時間後に炉内温度が30℃まで冷却されていることを確認して、電気コバルト板を焼鈍炉から取り出した。
焼鈍炉から取り出した電気コバルト板を切断機に装入して小片に切断した結果、切断機で割れた電気コバルト板は1枚もなかった。
【0028】
(比較例)
9枚の電気コバルト板を、曲がりが下に凸となる向きに積み重ねて焼鈍炉に装入した。それ以外の条件は実施例と同条件として電気コバルト板の焼き鈍しを行った。
その結果、電気コバルト板の曲がりが十分に矯正されていなかった。そのため、プレス機により曲がりの矯正を行ったが、その過程において2枚の電気コバルト板が割れた。
【0029】
以上のように、電気コバルト板を、曲がりが上に凸となる向きに積み重ねることにより、曲がりが矯正されやすいことが分かった。
【符号の説明】
【0030】
A 電気コバルト板
1 焼鈍炉
11 炭素棒
12 温度計
13 真空排気口
14 ガス導入口
図1
図2