【実施例】
【0024】
実施例を具体的に説明するが、以下の説明は理解し易くするものであり、この説明により発明の本質が制限されるものではない。すなわち、発明に含まれる他の態様または変形を含有するものである。
【0025】
(材料の合成)
Nd:YAGレーザー(Quanta Ray、スペクトラフィジックス社製、パルス幅10ns,繰り返し周波数30Hz)をパルスレーザー照射用の光源として用いた。
1mgの市販の酸化チタンナノ粒子(Aldrich,25nmサイズ,粉末)を、まず4mlのアセトン(99.5%,和光純薬)中に超音波分散した。
分散液は密封した反応容器中に移し、これに非集光レーザービーム(133mJ/pulse・cm
2,波長 355nm)を30分間照射した。レーザー照射後、遠心分離により集められた粒子は希塩酸(3.5wt%)で数回洗浄し、回収した。
【0026】
レーザーのフルーエンスや照射時間がサイズ変化に及ぼす影響を調べるためにアセトン(0.2mg/ml)中の酸化チタンナノ粒子に、非集光のレーザービーム(67,83,100,117,133mJ/pulse・cm
2,波長 355nm)を20分〜30分間照射した。
次に、球状粒子生成に及ぼす液相の影響を調べるため、水(ミリポア,0.2mg/ml)中に分散させた酸化チタンナノ粒子に、非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm
2,波長 355nm)を20分間照射した。
【0027】
球状粒子生成に及ぼす原料濃度の影響は、アセトン(99.5%,和光純薬)中に異なる濃度(0.0625,0.125,0.25,0.5,1mg/ml)の酸化チタンナノ粒子を分散させたものに、非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm
2、波長 355nm)を照射することにより調べた。
【0028】
得られた粒子の結晶相、形態、微構造は、X線回折、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡でそれぞれ分析した。球状粒子の動的光散乱測定は、マルバーン社製Zetasizer Nano ZSを用いた。アセトン中に分散させたサブミクロン球状粒子分散液の光学消光スペクトルは可視紫外分光光度計(島津UV−2100PC)により測定した。
【0029】
太陽電池作製とその特性評価の方法は、以下の通りである。
10μm厚で大きさが5×5mm
2メソポーラス酸化チタン膜は、FTOガラス基板上に酸化チタンナノ粒子のペーストをスクリーンプリントし、これを500℃で1時間熱処理することで得た。これを利用してCdS/CdSe量子ドットで修飾したSiO
2で増感した酸化チタン膜を作製した。
【0030】
続いて、酸化チタン球状粒子(作製条件:アセトン中、133mJ/pulse・cm
2,波長 355nm、30分間、0.2mg/ml)からなる散乱層は、濃縮酸化チタン球状粒子水溶液(2.625mg/ml)を量子ドット増感酸化チタンメソポーラス膜電極上に設置した中心部に穴(5×5mm
2)が開いた四角いマスク内に滴下し、その後自然乾燥させることで得た。酸化チタン球状粒子散乱層の厚さは、異なる体積(6〜26.7μL)の濃縮酸化チタン球状粒子水溶液を滴下することで制御した。
【0031】
量子ドット増感光陰極は対極の白金コートFTOガラスでサンドイッチし、30μmのスペーサーによりシールされた。0.5M Na
2S,0.125M S,0.2M KClを含むポリサルファイド水溶液を電解質として用いた。
【0032】
個々の太陽電池の電気的特性及び光電特性は100mWcm
−2で模擬AM1.5太陽光照射を行いながら照射した。光源は200Wキセノンランプ電源(Model XPS 200,Solar Light Co.,アメリカ)を備えた紫外太陽光照射シミュレータ(Model 16S,Solar Light Co.,アメリカ)を用いた。
【0033】
図2は、室温での酸化チタンコロイド粒子へのパルスレーザー光照射による単結晶状球状粒子の生成を模式的に示したものである。高濃度のコロイド溶液のため、ナノ粒子は強く凝集して一つの構造体を形作るが、この際ナノ粒子間に多くの空隙(ボイド)が存在するものと考えられる。
パルスレーザー光照射により十分なエネルギーを凝集体が吸収すると、短時間(ナノ秒のオーダー)に凝集体の温度は融点をはるかに超えた温度にまで到達する。その後、溶融粒子は周りの液相により冷却され、粒子は再凝固する。
【0034】
ユニークな選択的パルス加熱により、凝集体表面は急速に加熱され、不定形から球状に変化する。この間の急速な温度上昇により、内部の孤立した空隙は顕著に膨張し、内部のナノ粒子は溶融した表面に接近する。凝集体内部の空隙は表面の急速な固化により外に逃げることができない。表面エネルギーを減少させるため、ばらばらに存在した空隙は徐々に凝集して一つの大きな空隙を形成する。
【0035】
この過程は、Kirkendall効果の場合と同様であり、
図2のように模式的に表される。間欠的なレーザー加熱により粒子全体が融解するため、酸化チタンナノ粒子は外に向かって拡散し、これとバランスするように空孔の内部に向かった流れが生じ、最終的には安定な固体/気体界面を形成する。
多数回のパルス加熱サイクルにより、球状粒子全体が酸化チタンの融点以上で溶融、冷却時に固化・再結晶化を繰り返すことで結晶性球状粒子が得られる。
【0036】
図3は、原料と本発明の方法で得られた酸化チタン球状粒子の比較をしたものである。
図3aは、酸化チタン原料ナノ粒子(Aldrich,25nm)の走査型電子顕微鏡像であり、ナノ粒子は強く凝集している。
図3aの左下の挿入図は、一つのナノ粒子凝集体を示したものである。対応するX線回折パターン(
図3b)から原料はアナターゼ相であり、比較的広いピーク幅から粒子サイズは小さいことが分かる。
【0037】
波長355nmの非集光レーザー光(133mJ/pulse・cm
2)を用いてアセトン中に分散したナノ粒子に30分間照射すると多くの球状粒子が生成した(
図3c)。
500nmサイズの単一粒子の走査型電子顕微鏡写真(
図3c左下の挿入図)から粒子は真球状であり、平滑な表面をもち、ナノ粒子から組み上がった粒子とは形態的に異なることが分かった。
【0038】
400個以上の粒子のサイズ分布から(
図3c右上の挿入図)、得られた球状粒子は平均サイズが540nmであった。
図3dに示された粒子のXRDパターンからレーザー照射後の粒子はルチル相に変わったことがわかる。
明らかに減少した回折ピーク幅(
図3d)を原料のデータ(
図3b)と比較すると、得られた球状粒子はもはや原料ナノ粒子の集合体ではないことを示している。
【0039】
透過型電子顕微鏡により得られた球状粒子の微細構造をさらに分析した。興味深いことに、これらの球状粒子は多くは中空粒子であるが(
図4)、中空部分は粒子の中心では必ずしもなく、ランダムに分布していた(
図5a)。
球状粒子のサイズは数百nmであることから高分解能透過型電子顕微鏡像は粒子の端でしか観察することはできない。球状粒子の端からの格子像(
図5b)は、酸化チタンルチル相(110)面の面間隔に対応していた。
また、
図5bの挿入図の対応するフーリエ変換パターンは中空粒子の単結晶的構造を示していた。中空粒子の端の数カ所をランダムにチェックしたところ、共鳴高速フーリエ変換パターンと格子像(
図5b、5c、5d)からその単結晶性が確認された。
【0040】
入射レーザーフルーエンスを変化させることにより得られる酸化チタン球状粒子のサイズを制御できることも分かってきた。
図6aはレーザーフルーエンス変化による酸化チタン球状粒子サイズ変化を示したものである。50mJ/pulse・cm
2のフルーエンスで酸化チタンナノ粒子にレーザー光を照射した時は形態に変化がなかったことから、25nmの平均粒子サイズは原料とほぼ同じものと考えられる。
【0041】
波長355nmの非集光レーザー光(67〜133mJ/pulse・cm
2)で20分間照射後、得られた粒子は球状になり、平均サイズは255〜442nmとなった。他の条件は変えずに、照射時間を30分間に延ばしたとき、平均粒子サイズは295〜483nmへと少し大きくなった。このような、フルーエンスと時間に依存したサイズの増加は以前の結果と同様であった(特許文献2)。
【0042】
レーザー波長や液相、原料粒子の濃度が酸化チタン球状粒子の合成に影響を及ぼす。波長355nmの非集光レーザー光を用いた場合低フルーエンス(例えば67mJ/pulse・cm
2)でも球状粒子の生成が認められた。
しかし、波長532nmの非集光レーザー光の場合333mJ/pulse・cm
2を超えるフルーエンスによってのみ酸化チタン球状粒子が生成した(
図6b)。
アナターゼのバンドギャップが3.2eVであることを考えれば、紫外光レーザー(355nm)の光学吸収が有効であることは明らかである。
【0043】
水中で同様にして得られた球状酸化チタンコロイド溶液を、分析のためにシリコン基板上に滴下・乾燥させると、常に球状粒子を覆う薄膜が観察された(
図6c)。
この薄膜は水を含んだ溶媒の場合にレーザー照射により形成されることから水酸化チタンのゲル状物質と考えられた。
このゲル状薄膜は希塩酸(3.5wt%)によって除去された。アセトン中であっても微量の混入した水の存在のため、このようなゲル状薄膜の生成が起こることから、得られた酸化チタン球状粒子の塩酸洗浄が必要となる。
【0044】
原料粒子の濃度も球状粒子の形態に影響を及ぼす。濃度が高いほど球状粒子サイズは増加する。しかし、さらに高い濃度の原料コロイド溶液(例えば1mg/ml,
図6d)を用いると、粒子同士の融合によって生じたと思われる不定形の非球状粒子が観測されるようになる。その理由は入射レーザーフルーエンスによって構造全体を溶融して球状構造を形成させることができないためである。
【0045】
図7aは、
図6aに示された異なるサイズの酸化チタン球状粒子分散液から得られた消光スペクトルである。410nm以下の吸収は、バンドギャップエネルギー,3.02eVに対応したルチル相の光学吸収である。得られた粒子分散液の消光ピーク位置は明らかに粒子サイズの増加とともに440nmから760nmレッドシフトしたが、ピーク幅もこれとともに増加した。
【0046】
ナノ粒子の場合、レッドシフトとピーク幅の増加はともにナノ粒子サイズの増加によって引き起こされることが知られている。しかし、
図7aに示された消光ピークのレッドシフトはバンド間吸収によるものではない。なぜなら、得られた酸化チタン球状粒子の消光ピークは410nmよりも大きいからである。
この現象は粒子サイズが入射光の波長相当になったときに起こる共鳴散乱によるものだと説明できる。この考えは、なぜピーク位置がレッドシフト(大きい粒子が長い波長の光を散乱する)を示すかも説明できる。ピーク幅の広がりは得られたサブミクロン球状粒子の広いサイズ分布に起因すると考えることができる。
【0047】
図7bは、消光ピークと平均粒子サイズの関係を示したものであり、ほぼ線形の関係にあった。
図7bに示された回帰直線からその傾きは1.5であった。このように平均サイズd
p粒子は1.5d
pの波長で共鳴吸収を起こすことになるが、この係数値は理論計算の結果2d
pよりも小さかった。この原因は今のところはっきりしないが、球状粒子の広いサイズ分布によるものかもしれない。
【0048】
典型的な量子ドット増感太陽電池の配置では、膜厚と光浸透深さが、高効率太陽電池の構築に非常に重要になる。薄膜デバイスでは、光によって生成したキャリアの効率的な電荷移動と電解質中でのレドックス対拡散に関して有利である。
しかし、薄膜層中の量子ドットは完全に可視光を吸収しない。吸収されなかった光は対極に到達し入射太陽光が十分に利用されないことになる。
【0049】
酸化チタン酸化チタンサブミクロン球状粒子分散液の光散乱特性の結果から、酸化チタン球状粒子(平均サイズ483nm)を薄膜化して散乱層を量子ドット増感太陽電池に導入して光電変換特性向上が可能かどうか検討した。
図8aに示されるように、酸化チタン球状粒子を被覆した量子ドット増感酸化チタンナノ粒子薄膜を白金被覆ガラスとFTOガラスを対電極としてサンドイッチセル中にシールした。太陽光が量子ドット増感増感酸化チタンメソポーラス薄膜通過した後、余った光は光散乱効果により後方散乱され量子ドットによる二次的な吸収を引き起こす。
【0050】
図8bは、酸化チタン球状粒子によって覆われた量子ドット増感太陽電池の断面写真を示す。この場合では、6μm厚のCdS/CdSe量子ドットで増感された酸化チタンナノ粒子薄膜が1.5μm厚の酸化チタン球状粒子層により被覆されている。
酸化チタン球状粒子層をもつ量子ドット増感太陽電池は標準AM1.5模擬太陽光照射下でアパーチャーサイズ0.25cmの領域で電流電圧特性を測定することにより評価した。散乱層の有無の場合の典型的な試料の電流電圧特性曲線を、
図8cに示す。
【0051】
散乱層なしの酸化チタン電極では短絡電流密度11mAcm
−2、エネルギー変換密度2.31%であったが、散乱層有りの酸化チタン電極では電流密度が11.5mAcm
−2で変換効率が2.58%であった。この結果は変換効率の10%増加を意味している。
両方の場合の量子収率スペクトルを散乱層の有無による酸化チタン電極の光電変換特性を比較するために測定した。散乱層有りの太陽電池の場合大きな量子収率(
図8cの挿入図)を示した。さらに、散乱層がある太陽電池の量子収率スペクトルは赤外領域までテールを引くようになり、これは酸化チタンサブミクロン球状粒子の広い範囲での光散乱に起因するものと考えられた。
【0052】
量子ドット増感酸化チタンメソポーラス薄膜電極上に落とした酸化チタン球状コロイド溶液の体積が太陽電池効率に影響を及ぼすことが明らかとなった(
図8d)。
コロイド溶液の体積を変化させると散乱層の厚さが異なることになることから、この現象は定性的に後方散乱光のトラッピングと散乱層によって引き起こされる電解質溶液中のレドックス対の電荷移動障壁とのバランスによるものと考えられる。
【0053】
すなわち、厚い光散乱層は強い後方散乱効果を持つが電解質への光誘起電子移動を強くブロックすることになる。加えて酸化チタン粒子の広いサイズ分布は広波長範囲の可視光を散乱して有効利用することを容易にする。効率は散乱層の球状粒子サイズの最適化によって改善されるものと考えられる。