特許第5808107号(P5808107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808107細胞特異的能動集積性を有する光線力学療法剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808107
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】細胞特異的能動集積性を有する光線力学療法剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20151021BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20151021BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20151021BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20151021BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20151021BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20151021BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20151021BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   C08F8/00
   C08F230/02
   A61K31/409
   A61K45/00
   A61K47/48
   A61P35/00
   A61K39/395 C
   A61K39/395 L
   A61K9/127
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-543031(P2010-543031)
(86)(22)【出願日】2009年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2009071517
(87)【国際公開番号】WO2010071230
(87)【国際公開日】20100624
【審査請求日】2012年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2008-321500(P2008-321500)
(32)【優先日】2008年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 政和
(72)【発明者】
【氏名】荒井 恒憲
(72)【発明者】
【氏名】松田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彦
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−098676(JP,A)
【文献】 特表2004−522717(JP,A)
【文献】 特開2006−052400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00− 8/50
C08F 12/00− 34/04
C08L 1/00−101/14
A61K 9/127
A61K 31/409
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/48
A61P 35/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線力学療法用光感受性物質が内包された、表面に癌細胞特異的抗原に対する抗体が結合した癌細胞特異的高分子ポリマー化合物を含む組成物であって、高分子ポリマーが2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)n-ブチルメタクリレート及び活性エステル基を含有するモノマー化合物を共重合し製造したMPCポリマーである組成物。
【請求項2】
高分子ポリマーがリポソーム又はリポソーム様の高分子会合体である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
活性エステル基を含有するモノマー化合物がp-ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
癌細胞特異的抗原に対する抗体が抗EGFR抗体、抗EpCAM抗体及び抗c-erbB-2抗体からなる群から選択される、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
癌細胞特異的抗原に対する抗体が活性エステル基を含有するモノマー化合物の活性エステル基を介して結合している、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
光線力学療法用光感受性物質がベルテポルフィンである請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物を含む、光線力学療法剤。
【請求項8】
静脈注射製剤である、請求項記載の光線力学療法剤。
【請求項9】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、n-ブチルメタクリレート及び活性エステル基を含有するモノマー化合物を混合し、MPCポリマーを製造し、次いで、癌細胞特異的抗原に対する抗体と混合し、p-ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートの活性エステル基に前記抗体を結合させ、さらに、光線力学療法用光感受性物質を混合し、MPCポリマーに該光線力学療法用光感受性物質を内包させることを含む、光線力学療法剤の製造方法。
【請求項10】
活性エステル基を含有するモノマー化合物がp-ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートである請求項記載の光線力学療法剤の製造方法。
【請求項11】
癌細胞特異的抗原に対する抗体が抗EGFR抗体、抗EpCAM抗体及び抗c-erbB-2抗体からなる群から選択される、請求項又は10に記載の光線力学療法剤の製造方法。
【請求項12】
光線力学療法用光感受性物質がベルテポルフィンである請求項11のいずれか1項に記載の光線力学療法剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学的治療に関し、光感受性物質を含み、表面に細胞特異的抗原に対する抗体を有する2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCと略記)に基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する共重合体からなる光線力学療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的治療法(PDT)とは、癌に集積性を示す光感受性物質とレーザー光照射による光化学反応を利用し、機能温存を考慮に入れた侵襲の少ない治療法で、安全にかつ有効に施行できる。また、放射線等に比して繰り返し施行可能であること、抗癌剤のように毒性もないという利点があり、新しい低侵襲治療として期待されている。
分子学的には、レーザー光線を癌部に照射すると、集積した腫瘍親和性光感受性物質は基底状態の一重項状態から分子内のエネルギーレベルが上昇し、励起状態の三重項状態に変換される。この状態に達すると、光感受性物質は光活性化され、直接的な活性フリーラジカルの生成、あるいは間接的な分子内エネルギー変換によって基底状態の三重項酸素()を高活性の一重項酸素()へ変換させる。これら2つの光活性化反応は同時に起こり、どちらの生成体とも直接細胞を傷害する作用を示す。
現在日本では、光線力学的治療剤として、フォトフリンとレザフィリンという2つの薬が認可されており、どちらの薬も腫瘍組織には正常組織のおよそ4倍取り込まれることが知られている。フォトフリンを用いた場合は投与の約48時間後、レザフィリンを用いた場合は投与の約4時間後にレーザー照射を行う。正常組織は癌組織と比べて早い時間に薬が排泄されるので、この時間差を利用して腫瘍を選択的に治療する。フォトフリンを使用したPDTは微少浸潤気管支内非小細胞性肺癌、部分的または完全閉塞の食道癌、他の肺腫瘍、中皮腫、バレット食道の早期食道癌、皮膚癌、乳癌、結腸直腸癌、婦人科悪性腫瘍等に応用されている。しかし、合併症として日光過敏症があり、このためフォトフリンで投与後2〜3週間、レザフィリンで約1週間は直射日光を避けるなど、遮光が必要である。
また、体内の構成成分では、水の吸収が200nm付近までと700nm付近より長波長にある。酸化ヘモグロビンの吸収は、400nm、600nm付近に二峰性のピークがある。もっとも生体由来の組織の影響が少ないのは650〜700nm近辺であり、より深部病変の治療を目指し、長波長領域での吸収端を有する光感受性物質の開発が望まれている。フォトフリンの吸収は630nm、レザフィリンは664nmである。一方、ベルテポルフィンは吸収が690nmにあり、より適していると言える(特許文献1〜3を参照)。ベルテポルフィンも光感受性物質であり商品名ビスダイン(登録商標)(NOVARTIS)として加齢黄斑変性症の治療に利用されているが、癌への応用は現在のところ認可されていない。しかし、ビスダインではヒトの血液を用いたin vitro試験において、10μg/mlの濃度で軽度〜中等度の補体活性が認められ、100μg/ml以上の濃度で有意な補体活性化が認められている。補体活性化によるアナフィラキシー反応発現の危険性を排除できない為、大量投与はできない。
光線力学的治療法において、光線力学的治療剤のための光感受性物質をリポソームに内包させて投与することが報告されていた(特許文献4及び5を参照)。しかしながら、現在までに、これらのリポソーム製剤を実際に静脈投与により生体に投与し、アクティブターゲッティングにより細胞特異的に癌組織に到達し、癌の光線力学的治療に成功したという報告はない。
一方、生体適合性の高いポリマーとして、MPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する共重合体である水溶性ポリマーが開発されている(特許文献6及び7を参照)。該ポリマーは、現在では発明以降すでに10年以上経過し、医療用材(人工膵臓、人工腎臓、人工心臓など)の構成医療材料として広く利用されており、安全性や安定性などは証明されている。このポリマーは、疎水性と親水性のユニットを有する。
【特許文献1】特表2006−507307号公報
【特許文献2】特表2007−522137号公報
【特許文献3】特表2008−501727号公報
【特許文献4】特開2006−56807号公報
【特許文献5】特開2007−277218号公報
【特許文献6】特開2003−137816号公報
【特許文献7】特開2004−175752号公報
【発明の開示】
【0003】
本発明は日光過敏症等の光線力学療法に伴う合併症を起こしにくいアクティブターゲッティングにより低濃度で癌組織に到達し得る光線力学的療法剤の提供を目的とする。
本発明者らは、光線力学的療法(PDT)において生じる合併症である日光過敏症、及び光感受性物質としてベルテポルフィンを用いた場合の合併症であるアナフィラキシー反応発現を低減させる方法について鋭意検討を行った。本発明者らは、その結果、MPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する共重合体であるポリマーに光感受性物質を内包させ、表面に癌細胞に特異的に発現する抗原に対する抗体を結合させたものを光線力学的療法に用いてみた。
具体的には、親水性のMPC、疎水性のn−ブチルメタクリレート(MBA)及び活性エステルを持つp−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレート(MEONP)とで構成されているポリマーを使用した。本発明においては、該ポリマーをPMBN(poly[2−methacryloyloxyethylphosphorylcholine(MPC)−co−n−butylmethacrylate(BMA)−co−p−nitrophenyloxycarbonyl poly(ethyleneglycol)methacrylate(MEONP)])あるいはMPCポリマーという。該ポリマーは活性エステルを持ち、タンパク質と結合させることができる。タンパク質が結合し、ベルテポルフィンを内包したPMBN(MPCポリマー)は静脈内投与され、抗原抗体反応又はリガンドレセプター反応により癌部に集積する。そのことにより、より少ない投与量での最大の効果が期待できる為、日光過敏症の軽減又は短縮に効果があると思われる。また、ベルテポルフィンは吸収波長が690nmと長いため、進行胃癌、進行大腸癌、進行肺癌、脳腫瘍などより深部にある癌や進行した癌にも応用が期待できる。さらに、癌抗原に特異的な抗体を結合させたPMBN(MPCポリマー)は、選択的に癌部に到達するため、投与量も少なくて済み、アナフィラキシー反応の発現も抑えられる。
タンパク質結合ベルテポルフィンPMBN(MPCポリマー)を使ったPDTは、治療後の組織機能の低下や侵襲が少なく、また治療後の副作用に対する処置も短くて済むため、患者のQOLを高くする治療法として期待できる。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 光線力学療法用光感受性物質を含み、表面に癌細胞特異的抗原に対する抗体が結合した癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[2] 高分子ポリマーがMPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する共重合体である[1]の癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[3] 高分子ポリマーがMPCとn−ブチルメタクリレートの共重合体である[2]の癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[4] 高分子ポリマーがリポソーム又はリポソーム様の高分子会合体である[1]の癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[5] さらに、活性エステル基を含有するモノマー化合物を含む[1]〜[4]のいずれかの癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[6] 活性エステル基を含有するモノマー化合物がp−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートである[5]の癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[7] 癌細胞特異的抗原に対する抗体が抗EGFR抗体、抗EpCAM抗体及び抗c−erbB−2抗体からなる群から選択される、[1]〜[6]のいずれかの癌細特異的高分子ポリマー化合物。
[8] 癌細胞特異的抗原に対する抗体が活性エステル基を含有するモノマー化合物の活性エステル基を介して結合している、[1]〜[7]のいずれかの癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[9] 光線力学療法用光感受性物質がベルテポルフィンである[1]〜[8]のいずれかの癌細胞特異的高分子ポリマー化合物。
[10] [1]〜[9]のいずれかの癌細胞特異的高分子ポリマー化合物を含む、光線力学療法剤。
[11] 静脈注射製剤である、[10]の光線力学療法剤。
[12] MPC、n−ブチルメタクリレート及び活性エステル基を含有するモノマー化合物を混合し、PMBN(MPCポリマー)を製造し、次いで、癌細胞特異的抗原に対する抗体と混合し、p−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートの活性エステル基に前記抗体を結合させ、さらに、光線力学療法用光感受性物質を混合し、PMBN(MPCポリマー)に該光線力学療法用光感受性物質を内包させることを含む、光線力学療法剤の製造方法。
[13] 活性エステル基を含有するモノマー化合物がp−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレートである[12]の光線力学療法剤の製造方法。
[14] 癌細胞特異的抗原に対する抗体が抗EGFR抗体、抗EpCAM抗体及び抗c−erbB−2抗体からなる群から選択される、[12]又は[13]の光線力学療法剤の製造方法。
[15] 光線力学療法用光感受性物質がベルテポルフィンである[12]〜[14]のいずれかの光線力学療法剤の製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2008−321500号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)組織内分布の検討の結果を示す図である。図1Aは抗EGFR抗体を結合させたPMBN(MPCポリマー)の結果を示し、図1Bは抗EGFR抗体を結合させないMPCポリマーの結果を示す。
図2は、ヒト類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)・レーザー治療の検討の結果を示す図である。
図3は、培養細胞を用いたベルテポルフィンPMBN(MPCポリマー)の取込み試験の結果を示す図である。
図4は、ヒト大腸癌モデルを用いた抗体を結合したか又はしないベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)を用いたレーザー治療の結果を示す図である。
図5は、ヒト類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)・レーザー治療の検討の結果(マウス生存率)を示す図である。
図6は、ビスダイン、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体なし)(Ab(−)ベルテポルフィン−PMBN)およびベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)の1時間後の皮膚への取り込みを示す図である。
図7は、ビスダイン、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)の腫瘍への集積を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明はリポソーム又はリポソーム様の会合体を形成するポリマーを用いることができる。
リポソームは、通常、膜状に集合したリン脂質、糖脂質等の脂質層を有する閉鎖小胞を意味する。本発明のリポソームとしては公知のリポソームを用いることができる。本発明のリポソームが構成する脂質としては、例えば、フォスファチジルコリン類、フォスファチジルエタノールアミン類、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類、フォスファチジルグリセロール類、コレステロール類等が挙げられ、フォスファチジルコリン類としては、ジミリストイルフォスファチジルコリン、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、ジステアロイルフォスファチジルコリン等が挙げられ、フォスファチジルエタノールアミン類としては、ジミリストイルフォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン等が挙げられ、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類としては、ジミリストイルフォスファチジン酸、ジパルミトイルフォスファチジン酸、ジステアロイルフォスファチジン酸、ジセチルリン酸等が挙げられ、ガングリオシド類としては、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGD1a、ガングリオシドGT1b等が挙げられ、糖脂質類としては、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド、フォスファチド、グロボシド等が挙げられ、フォスファチジルグリセロール類としては、ジミリストイルフォスファチジルグリセロール、ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール、ジステアロイルフォスファチジルグリセロール等が挙げられる。このうち、フォスファチジン酸類、長鎖アルキルリン酸塩類、ガングリオシド類、糖脂質類、コレステロール類はリポソームの安定性を上昇させる効果を有する。リポソームは、薄膜法、逆層蒸発法、エタノール注入法、脱水−再水和法、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等の公知の方法により製造することができるが、このうち、超音波照射法、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等を用いて、リポソームの粒子径を調節することも可能である。本発明のリポソームの平均粒径は30〜500nm、好ましくは50〜300nm、さらに好ましくは70〜150nmである。
上記のように、MPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する高分子ポリマーをPMBNまたはMPCポリマーという。該ポリマーは、疎水性のユニット及び親水性のユニットを有し、疎水性のユニットでベルテポルフィン等の疎水性物質と結合しつつ、親水性のユニットにより水溶性を維持できるという特徴を有する。PMBN(MPCポリマー)は、MPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有し、MPCと疎水性単量体との構成モル比が20/80〜95/5であり、好ましくは30/70〜80/20であ。PMBN(MPCポリマー)については、特開2004−175752号公報に記載されており、該公報の記載に基づいて製造することができる。
MPCは、下記の式(1)で示される。
【化1】
MPCと共重合させる疎水性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の各種モノアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン等の反応性官能基含有(メタ)アクリレート;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルブチルウレタン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルウレタン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルウレタン等のウレタン変性(メタ)アクリレートジエチルフマレート、アクリロニトリル等が挙げられる。この中でも疎水性単量体としては、式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、さらに、n−ブチルメタクリレート(BMA)が好ましい。
【化2】
[式中、RはHまたはCHであり、RはHまたは炭素数1から18のアルキル基である。]
また、本発明に用いる疎水性単量体としては前記の疎水性単量体の2種以上を混合して用いてもよい。
共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれの形態でもよく、ランダム共重合体が好ましい。
本発明に用いる共重合体において、MPCと疎水性単量体との構成モル比が20/80〜95/5であり、好ましくは30/70〜80/20である。MPCが20モル%未満では得られる共重合体の水への溶解性が低くなり、95モル%を超えるとMPCポリマーを含む組成物の再溶解性が悪くなるので好ましくない。
本発明に用いる共重合体の重量平均分子量は、好ましくは1000〜5000000、より好ましくは10000〜500000である。
前記共重合体は、前記単量体を、公知の溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の方法を用いて、必要に応じて重合系を不活性ガス、例えば、窒素、アルゴンで置換し、通常重合温度10〜100℃、重合時間10分間〜48時間の条件でラジカル重合させる方法等により調製することができる。重合にあたっては重合開始剤を用いることができ、重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチルアミド二水和物、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(商品名「パーブチルND」、日油(株)製)又はこれらの混合物等を用いることができる。前記重合開始剤には各種レドックス系の促進剤を用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100重量部に対して0.01〜20重量部が好ましい。生成した共重合体、再沈澱法、透析法、限外濾過法など一般的な精製法により精製することができる。
さらに、本発明の高分子ポリマーは、表面に癌細胞特異的抗原に対する抗体を結合させるための官能基を有している必要がある。官能基としては、例えば活性エステル基が挙げられる。「活性エステル基」とは、エステル基の片方の置換基に酸性度の高い電子求引性基を有しており求核反応に対して活性化されたエステル基をいう。活性エステル基としては、p−ニトロフェニル活性エステル基、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、フタル酸イミド活性エステル基、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド活性エステル基等が挙げられる。この中でも、p−ニトロフェニル活性エステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基が好ましく、特にp−ニトロフェニル活性エステル基が好ましい。本発明の高分子ポリマーを製造する際に、重合反応の際に活性エステル基を含有するモノマー化合物を混合し、共重合すればよい。
活性エステル基を含有する化合物としては、例えば、下記式(3):
【化3】
[式中、dは0.01〜0.30(好ましくは0.01〜0.20)であり、pは1〜10の整数を表す。]
で表される構成単位(p−ニトロフェニルオキシカルボニルオキシエチレンメタクリレート(MEONP))由来のポリマーが挙げられる。本発明の高分子ポリマーを製造する際に、上記式(1)又は(2)の共重合体に、さらに上記式(3)のモノマー構成単位を含有するよう重合させて共重合体を製造すればよい。上記式中、dの値は、共重合体を構成する全モノマー構成単位数に対する上記式(3)の構成単位数の比を示す。
癌細胞特異的抗原が発現する癌の種類は限定されず、例えば、脳・神経腫瘍、皮膚癌、胃癌、肺癌、肝癌、リンパ腫・白血病、結腸癌、膵癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、副腎癌、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、尿道癌、陰茎癌、精巣癌、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫等が挙げられる。
癌細胞の表面に発現する腫瘍細胞に特異的な抗原としては、例えば、EGFR(上皮細胞増殖因子)、EpCAM、c−erbB−2、CCR5、CD19、HER−3、HER−4、PSMA、CEA、βhCG、CD20、CD33、CD30、CCR8、TNF−α前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、Ly−6、CD63等が挙げられる。この中でもEGFR、EpCAM及びc−erbB−2が好ましい。EGFRは扁平上皮癌細胞に発現し、EpCAMは広く癌細胞に発現し、c−erbB−2は腺癌に発現する。
本発明の高分子ポリマーは、これらの癌細胞特異的抗原に対する抗体が表面に結合しており、アクティブターゲティングにより癌細胞を指向する。すなわち、細胞特異的能動集積性を有する。
抗体は、公知の方法で作製することができ、好ましくはモノクローナル抗体である。抗体は、高分子ポリマーの活性エステル基と抗体を構成するアミノ酸のアミノ基を共有結合によりPMBN(MPCポリマー)に結合させればよい。抗体の高分子ポリマーへの結合は、リン酸緩衝液等の緩衝液中で、高分子ポリマーと抗体を混合させればよい。反応は、例えば3〜37℃で1時間〜24時間行えばよい。高分子ポリマーと抗体との混合比は限定されないが、例えば、高分子ポリマー10mgに対して、抗体を0.1〜5mg混合すればよい。結合した抗体量は以下のようにして決定することができる。抗体結合の際に、抗体のアミノ基との反応により、リリースされるp−ニトロフェノールは紫外線400nmに吸収を持ち、これを測定すればおおよその結合量を数値化することができる。また、透析等によって未反応の抗体を分離した後に、抗体を直接定量することで結合量を求めることができる。さらに、未反応の抗体も含めた状態で、液体クロマトグラフィーによって分離することでおおよその結合量を求めることができる。
さらに、本発明の高分子ポリマーは、脂溶性(疎水性)のPDT治療用光感受性物質を含む。脂溶性の光感受性物質は、高分子ポリマーの疎水性部分と結合する。脂溶性の光感受性物質が高分子ポリマーの疎水性部分に結合することにより、高分子ポリマーは脂溶性の光感受性物質を内包した粒子状物質となる。
脂溶性のPDT治療用光感受性物質としては、プロトポルフィリン、ベンゾポルフィリン等のポルフィリン類、ベルテポルフィン等が挙げられる。また、これらの薬剤を混合して用いてもよい。この中でも、ベルテポルフィンが好ましい。本発明において、ベルテポルフィンを含み、抗体が表面に結合したPMBN(MPCポリマー)を,
例えばAb(+)ベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)と呼ぶ。
本発明は、光線力学的治療用光感受性物質を含み、表面に癌細胞特異的抗原に対する抗体が結合した腫瘍細胞特異的高分子ポリマー化合物であって、高分子ポリマーがMPCに基づく構成単位及び疎水性単量体に基づく構成単位を有する共重合体である癌細胞特異的高分子ポリマー化合物を含む光線力学療法剤である癌治療用医薬組成物を含む。該医薬組成物は、生理食塩水、リン酸緩衝塩溶液等の適当な緩衝液に溶解させ、必要に応じて医薬的に許容できる添加物を添加する。添加物としては、有機溶媒等の溶解補助剤、酸、塩基等のpH調整剤、アスコルビン酸等の安定剤、グルコース等の賦形剤、塩化ナトリウム等の等張化剤などが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、あらかじめ静脈注射により治療を受けようとする被験体に全身投与すればよいが、特定の癌組織部位に局所投与してもよい。医薬組成物の投与量は限定されず、例えば光線力学的治療用光感受性物質量で数μg/ml〜数mg/mlに調製した医薬組成物を数μl〜数ml投与するか、又は直接標的部位に注入等により投与すればよい。投与方法は、限定されず、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、経口投与等により投与すればよい。この中でも静脈注射が好ましい。本発明の光線力学療法剤は、静脈注射した場合でも、アクティブターゲティングにより癌組織に到達し、癌の治療効果を発揮し得る。すなわち、本発明の光線力学療法剤は、好ましくは静脈注射製剤である。
本発明の医薬組成物を投与すると、高分子ポリマーの癌細胞特異的抗原に対する抗体が癌細胞を指向し、癌細胞に結合し、ある場合は癌細胞中に取り込まれ、癌細胞中で光感受性物質を放出し、光感受性物質が癌細胞内に集積する。また、ある場合は癌細胞の周囲で光感受性物質を放出し、光感受性物質が癌細胞の周囲に集積する。
医薬組成物の投与後、0.5時間〜72時間後に被験体に光を照射し、光線力学的治療を行う。照射する光は、用いた光感受性物質に応じて適宜決定することができる。すなわち、光感受性物質の吸収波長の波長を有する光を照射すればよい。例えば、光感受性物質がベルテポルフィンの場合、690nmの波長の光を、フォトフリンの場合、630nmの波長の光を投与すればよい。投与する光としては、例えば半導体レーザー、色素レーザー等が発する光が挙げられる。具体的には、Nd−YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、COレーザー、アルゴン・ダイ・レーザー、エキシマ・レーザー等を用いることができる。被験体の全身に光を照射してもよいし、光ファイバーを含むカテーテルを血管等を通じて体内に挿入し、光ファイバーを通じて、腫瘍患部に局所的に光を照射してもよい。
本発明の光線力学療法剤は、例えば、内視鏡手術により粘膜の癌部を切除した粘膜の初期癌において、粘膜下に癌が残っている症例、すなわち、粘膜切除術断端陽性例に対する追加療法として有用である。
さらに、本発明の医薬組成物を投与した後に、光を照射する代わりに、超音波を照射してもよい。ベルテポルフィン等の光感受性物質に超音波を照射することにより、フリーラジカルが発生し、癌細胞の増殖を抑えることができる。超音波は体内の深部に到達するので、深部の癌の治療に有用である。例えば、本発明の医薬組成物を生体に投与した後、腫瘍患部に向け超音波を照射すればよい。限定されないが、超音波の強さは0.1〜10W/cm、好ましくは1〜5W/cmであり、超音波の照射時間は数秒から数百秒である。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
ベルテポルフィン封入PMBN(MPCポリマー)の作製
p−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレート(MEONP)の合成
0.01molのエチレングリコールモノメタクリレートを20mLのクロロホルムに溶解させ、−30℃まで冷却した。溶液を−30℃に保ち、予め作製しておいた0.01molのp−ニトロフェニルクロロフォーメート及び0.01molのトリエチルアミン及びクロロホルム20mLの均一溶液を滴下した。−30℃にて1時間反応させ、室温でさらに2時間溶液を攪拌した。次いで、反応液から塩をろ過により除去し、溶媒を留去してp−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレート(MEONP)を得た。
MPCポリマーの作製
MPC、疎水性のn−ブチルメタクリレート(MBA)及び活性エステルを持つp−ニトロフェニルオキシカルボニルエチレングリコールメタクリレート(MEONP)をモル比60/20/20で混合し、さらに重合開始剤としてAIBNを用い、エタノールで希釈し、反応系をアルゴンで置換した後、60℃にて5時間反応させ、共重合体を作製した。ポリマーの精製には、再沈殿法と膜透析法を用いた。
得られたポリマー10mgを1mgの抗EGFR抗体(528、ATCC登録番号:HB8509))を加えたPBSでfinal 5mlになるように溶解し、4℃一晩反応させた。その後、20mg/mlベルテポルフィン100μlを加え、ベルテポルフィンが内包され、表面に抗EGFR抗体が結合したPMBN(MPCポリマー)を得た。
【実施例2】
【0007】
類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)組織内分布の検討
1×10個のヒト類上皮癌細胞A431を6週齢のBALB/cヌードマウスの皮下に投与した。皮下腫瘍が直径5mm程度まで増殖した時点で実施例1で作製したベルテポルフィンを含むPMBN(MPCポリマー)300μlを静脈注射し、組織を採取した。採取した組織を凍結乾燥し、乾燥重量を測定した。凍結乾燥組織にN,N−ジメチルホルムアミドを加え組織をホモジナイズし、ベルテポルフィンを溶出させた後OD686nmで吸光度を測定、取り込み量を算出した。この際、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーと抗EGFR抗体を結合させないPMBN(MPCポリマー)を用いた。
結果を図1に示す。図1Aは抗EGFR抗体を結合させたPMBN(MPCポリマー)の結果を示し、図1Bは抗EGFR抗体を結合させないPMBN(MPCポリマー)の結果を示す。図1に示すように、抗EGFR抗体を結合させないMPCポリマーは腫瘍組織にはほとんど取り込まれなかったが、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーは腫瘍組織に大量に取り込まれた。
【実施例3】
【0008】
ヒト類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)・レーザー治療の検討
1x10個のヒト類上皮癌細胞A431を6週齢のBALB/cヌードマウスの皮下に投与した。皮下腫瘍が5mm程度まで増殖した時点で実施例1で作製したベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)300μlを静脈注射した。静脈注射1時間後に640nmFiber Coupled LD model(SONY)にて75J/cmのレーザー照射を行い、その後腫瘍径を測定した。この際、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーと抗EGFR抗体を結合させないMPCポリマーを用いた。
図2に結果を示す。図2中、コントロールは、PMBN(MPCポリマー)を投与しなかったヌードマウスを示す。図2に示すように、コントロールでは腫瘍容積は経時的に増殖した。抗EGFR抗体を結合させないPMBN(MPCポリマー)を投与した場合には、コントロールに比較すると腫瘍容積の増加は少なかったが、ある程度の増加が認められた。抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーを投与した場合は、腫瘍容積の増加はほとんど認められなかった。
ベルテポルフィンの取込みの観察
培養用24well dishにA431をまき、接着するまで約24時間おいた。
1mlの培地中に抗体あり、あるいはなしのベルテポルフィンPMBN(MPCポリマー)100μlを加え、10分、20分及び30分後にPBSで3回洗浄し、新しい培地を加えたのち1時間後に共焦点レーザー顕微鏡Leica TCS−SP5を用い、励起488nm、蛍光650−700nmにて観察した。
図3に蛍光観察像を示す。図3中、「Ab(+)」は、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーを投与した場合の結果、「Ab(−)]は、抗EGFR抗体を結合させないMPCポリマーを投与した場合の結果を示す。それぞれ、10分、20分及び30分間A431細胞とベルテポルフィンMPCポリマーを接触させた場合の細胞像を示す。図3に示すように、抗EGFR抗体を結合させたPMBN(MPCポリマー)を用いた場合に、蛍光が強く染色され、ベルテポルフィンが大量に取り込まれた。
比較例1 ヒト大腸癌細胞WiDrを用いたベルテポルフィンPMBN(MPCポリマー)・レーザー治療の検討
EGFR低発現の株であるヒト大腸癌細胞WiDrを用いて検討を行った。
1x10個のヒト大腸癌細胞WiDrを6週齢のBALB/cヌードマウスの皮下に打った。
皮下腫瘍が5mm程度になった際に実施例1で作製したベルテポルフィンMPCポリマー300μlを静脈注射した。この際、抗EGFR抗体を結合させたPMBN(MPCポリマー)と抗EGFR抗体を結合させないMPCポリマーを用いた。
静脈注射1時間後に640nmFiber Coupled LD model(SONY)にて75J/cmのレーザー照射を行い、腫瘍径を測定した。
図4に抗EGFR抗体を結合させたか、又は結合させないMPCポリマーを投与した場合の結果を示す。
図4に示すように、EGFR低発現株である、ヒト大腸癌細胞WiDrを用いた場合は、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーの治療効果は認められなかった。
【実施例4】
【0009】
ヒト類上皮癌モデルを用いたベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)・レーザー治療の検討(生存率の検討)
1x10個のヒト類上皮癌細胞A431を6週齢のBALB/cヌードマウスの皮下に投与した。皮下腫瘍が5mm程度まで増殖した時点で実施例1で作製したベルテポルフィン−PMBN(MPCポリマー)300μlを静脈注射した。静脈注射1時間後に640nmFiber Coupled LD model(SONY)にて75J/cmのレーザー照射を行い、その後マウスの生存率を経時的にモニタした。この際、抗EGFR抗体を結合させたMPCポリマーと抗EGFR抗体を結合させないPMBN(MPCポリマー)を用いた。
図5にマウスの生存率の結果を示す。図5中「Ab(+)」及び「Ab(−)」は、それぞれ、抗EGFR抗体を結合したPMBN(MPCポリマー)及び抗EGFR抗体を結合しないポリマーの結果を示す。また、NCはPMBN(MPCポリマー)を投与しないコントロールを示す。図5に示すように、抗EGFR抗体を結合したPMBN(MPCポリマー)を投与したマウスで生存率が改善された。
【実施例5】
【0010】
抗体を結合したPMBN(MPCポリマー)とビスダインとの効果の比較
以下の方法でPMBN(MPCポリマー)の組織内分布を検討した。
1×10個のヒト類上皮癌細胞A431を6週齢のBALB/cヌードマウスの皮下に投与し、皮下腫瘍が直径5mm程度まで増殖した時点で実施例1で作製したベルテポルフィンを含むPMBN(MPCポリマー)300μlを静脈注射し、組織を採取した。採取した組織の重量を測定した後凍結乾燥し、組織にN,N−ジメチルホルムアミドを加え組織をホモジナイズし、ベルテポルフィンを溶出させた後OD686nmで吸光度を測定、取り込み量を算出した。
用いた薬剤は、ビスダイン、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体なし)(Ab(−)ベルテポルフィン−PMBN)、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)であり、これらの正常組織(皮膚・筋肉)への取り込み及び腫瘍への集積を調べた。ビスダインは加齢黄斑変性症に対する治療薬で成分・含量1バイアル中ベルテポルフィン15mg、添加物として乳糖690mg、エッグホスファチジルグリセロール48.75mg、ジミリストイルホスファチジルコリン70.50mg、パルミチン酸アスコルビン酸0.15mg、ジブチルヒドロキシトルエン0.015mgを加えて疎水性のベルテポルフィンを可溶化したものである。なお、ビスダイン、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体なし)(Ab(−)ベルテポルフィン−PMBN)、ベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)の効果の比較実験においては、ベルテポルフィンの使用量を合わせた。
結果を図6および7に示す、図6は、1時間後の皮膚への取り込みを、図7は経時的な腫瘍への集積を示す。
図6に示すように、同量のベルテポルフィンを投与した場合、ベルテポルフィンを含むポリマーを用いることにより、抗体の有る無しに拘らず、皮膚への取り込みがビスダインと比較して半分に抑えられている。この結果、光過敏症が起こりにくくなると考えられる。これは、ビスダインと比べた場合の粒径が、抗体なしで40〜60nm、抗体ありで100〜120nmと大きくなっているためだと考えられる。
また、図7に示す腫瘍への集積の結果からわかるように、EGFR高発現のA431細胞に対する取り込みはビスダインとベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)で高く、一方、EGFR陰性のH69細胞ではベルテポルフィンを含むポリマー(抗体あり)(Ab(+)ベルテポルフィン−PMBN)は、ほとんど取り込まれていなかった。この結果は、腫瘍への取り込み、集積はEnhanced Permeability and Retention(EPR;特定のサイズを持った粒子が血管壁の隙間を通過し、腫瘍に蓄積すること)効果ではなく、抗体によるものであることを示す。
腫瘍(A431)への取り込みと正常組織への取り込みの比を計算すると、腫瘍への取り込み/皮膚への取り込みの比は、ビスダインを用いた場合には30分後で4.24であるのに対し、Ab(+)ベルテポルフィン−PMBNを用いた場合は30分後で50.00、1時間後ではビスダインを用いた場合が5.96であるのに対し、Ab(+)ベルテポルフィン−PMBNを用いた場合は7.26と高くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の光線力学療法剤は、光感受性物質を内包し、表面に、癌細胞の表面に特異的に発現する抗原に特異的な抗体が結合している。そのため、光線力学療法剤を静脈注射により全身投与する場合でも、アクティブターゲティングにより少ない投与量で効率的に癌組織に光感受性物質を到達させることができる。本発明の光線力学療法剤を癌の治療に用いた場合、日光感受性の合併症が起こりにくくなる。また、光感受性物質としてベルテポルフィンを用いた場合、投与量を少なくすることができ、体内濃度も低く維持できるため、アナフィラキシー反応を誘発するおそれも少なくなる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図4
図6
図7
図3
図5