【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〜3、比較例1〜3〕シアル酸率の異なる糖鎖を有するトランスフェリンの判別(1)
実施例1〜3では、マイクロタイタープレートに固相化したシアル酸率の異なるトランスフェリンを、検出用レクチン及び競合用レクチン(表2に示すガラクトース結合レクチン)が混在する系で検出した。比較例1では、前記トランスフェリンを検出用レクチンのみが存在する系で検出した。比較例2〜3では、検出用レクチン及び非競合用レクチン(表2に示すマンノース結合レクチン)が混在する系で検出した。具体的な手順を以下に示す。
【0073】
1.レクチンの準備
ビオチン標識ニホンニワトコレクチン(Biotin−SSA)、レンズマメレクチン(LCA)、デイゴマメレクチン(ECA)及びコンカナバリンA(ConA)は(株)J−オイルミルズ製を使用し、キカラスウリレクチン−I(TJA−I)を生化学バイオビジネス社より、そしてニガウリレクチン(MCL)をシグマ社より購入した。
【0074】
セイヨウニワトコレクチン(SNA)を、Broekaert WF,et.al.,Biochem J.1984、221、163−9に記載の精製方法に従って得た。ムラサキモクワンジュレクチン(BPL)を、Yamamoto K,,et.al.,FEBS Lett.1991、281、258−62に記載の精製方法に従って得た。
【0075】
上記SNA及びTJA−Iのビオチニル化を、Gabius,H.J.Lectins and Glycobiology(ISBN:0387562117/0−387−56211−7)P.142に記載の方法に従って行った。ビオチン標識したSNA及びTJA−Iを、それぞれBiotin−SNA及びBiotin−TJA−Iと略す。
【0076】
2.シアル酸率の異なるトランスフェリンの調製
ヒト由来トランスフェリン(シグマ社製)を、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で2mg/mlになるように溶解した後、ここにClostridium perfringens由来のノイラミニダーゼ(和光純薬社製)を5mU/mgトランスフェリンになるように添加した。溶液を37℃の水浴で保温し、時間0分、1分、2分、5分、15分又は18時間後に一部をサンプリングした後、100℃で1分間加熱して酵素反応を停止した。ノイラミニダーゼ未添加の試料は、水浴で保温せずに100℃で1分間加熱し、ノイラミニダーゼ未処理とした。
【0077】
上記で得たトランスフェリン溶液をそれぞれ等電点電気泳動(Phast System :GEヘルスケア・ジャパン社製)をかけて、シアル酸数の異なるトランスフェリンに分離した。分離したトランスフェリンをタンパク染色後、デンシトメーター(アトー社製)で染色強度を測定した。ノイラミニダーゼ未処理のトランスフェリンのシアル酸量を100%として、染色強度から算出されたシアル酸量をトランスフェリンのシアル酸率(%)とした。ノイラミニダーゼ処理時間とシアル酸率との関係を表1に示す。上記シアル酸率の異なるトランスフェリンを、使用時まで冷凍保存した。
【0078】
【表1】
【0079】
3.レクチンELISA
シアル酸率の異なるトランスフェリンを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度5μg/mlにて添加した溶液50μlを、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)のウエルに添加した。マイクロタイタープレートを37℃で2時間、放置した後、250μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回、洗浄した。BSA(牛血清アルブミン、シグマ社製)2gをリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)198mlに溶解して得た1%BSA溶液(以下、「1%BSA−PBS」と略す)を150μl添加して、37℃で2時間おくことによりブロッキングを行った。
【0080】
Tween20(ナカライテスク社製)1gをPBS2000mlに添加した溶液(以下、「PBS−Tween20」と略す)250μlでウエルを3回洗浄後、前記ガラクトース結合レクチン又は前記マンノース結合レクチンを濃度1mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加して、室温で1時間放置した。
【0081】
前記検出用レクチンを濃度12.5μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間放置した。ウエルを250μlのPBS−Tween20で3回洗浄後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(ベクター社製)を濃度1μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを50μl添加して、室温で1時間放置した。ウエルを250μlのPBS−Tween20で3回洗浄後、TMB試薬(KPL社製)50μlを添加した。室温で5分放置後、1M リン酸を50μl添加して反応を停止した。マイクロプレートリーダー(製品名:POWERSCAN(登録商標)HT、DSファーマバイオメディカル社製)で波長450nmの吸光度で測定した。
【0082】
検出用レクチンとしてのBiotin−SNAに競合用レクチンとしてのECA(実施例1)、MCL(実施例2)又はBPL(実施例3)が混在する系において、シアル酸率の異なるトランスフェリンを検出したときの吸光度の変化を
図1に示す。また、競合用レクチンが非混在(比較例1)の系の吸光度の変化も
図1に示す。
【0083】
図1において、検出用レクチンのみが存在する比較例1では、トランスフェリンのシアル酸率が低い場合は、シアル酸率に依存して吸光度が増大する。しかし、シアル酸率が73%以上となると、吸光度はほぼ一定となる。すなわち、競合用レクチンが非混在の系では、シアル酸率が73%以上のトランスフェリンのシアル酸率の違いを区別できない。一方、検出用レクチンと競合するガラクトース結合レクチンが混在する実施例1〜3では、シアル酸率73%以上であっても、シアル酸率に依存して吸光度が増加している。検出用レクチンと競合するレクチンが存在する実施例1〜3では、シアル酸率が高いトランスフェリンのシアル酸率の違いを容易に区別できる。
【0084】
シアル酸率が91%及び73%のトランスフェリンの吸光度比(OD91%/OD73%)を、測定3回の平均値と標準偏差で表2に示す。さらに、それぞれの検出用レクチンにおいて、比較例1との有意差検定(t検定)の結果を示す。表中、**はp<0.01を意味し、そして*はp<0.05を意味する。
【0085】
【表2】
【0086】
表2で、比較例1〜3の吸光度比は1に近い。一方、実施例1〜3の吸光度比は、1よりも有意に増大している。このことから、検出用レクチンに競合するレクチンを混在させた実施例のみで、トランスフェリンのシアル酸率の変化、特に高いシアル酸率での差を判別しやすくなることが実証された。
【0087】
〔実施例4、比較例4〕シアル酸率の異なる糖鎖を有するトランスフェリンの判別(2)
シアル酸率の異なるトランスフェリンを、抗体を介して固相化する以外は、実施例1と同様の手順で、トランスフェリンを競合用レクチン及び検出用レクチンが混在する系で反応させた。比較例4では、競合用レクチンが非混在の系で反応させた。以下に、具体的な手順を示す。
【0088】
1.レクチンELISA
抗ヒトトランスフェリン抗体(LNM社製)を0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度5μg/mlにて溶かした溶液を50μl、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)のウエルに添加し、4℃で一晩、固相化させた。次いで、ブロッキングを実施例1と同様に行った。
【0089】
固相化マイクロタイタープレートのウエルを、250μlのPBS−Tween20で3回、洗浄した。シアル酸率の異なるトランスフェリンを濃度4μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを50μl添加し、室温で1時間保温した。
【0090】
ウエルを250μlのPBS−Tween20で3回、洗浄後、ECAを濃度1mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加し、室温で1時間保温した。更に、Biotin−SSAを濃度12.5μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間反応させた。HRP反応と発色を実施例1と同様に行った。
【0091】
検出用レクチンに競合用レクチンとしてのECAが混在する系において、シアル酸率が73%及び91%のトランスフェリンをそれぞれ検出したときの吸光度を
図2に示す。また、競合用レクチンが非混在の系(比較例4)の吸光度も
図2に示す。吸光度の有意差検定を行った。**は、P<0.01を意味する。
【0092】
図2に示すとおり、競合用レクチンが非混在で反応させた比較例4では、シアル酸率91%と73%のトランスフェリンの吸光度に有意差が見られない。一方、検出用レクチンに競合するガラクトース結合レクチンが混在する実施例4では、吸光度に有意差が見られた(p<0.01)。本発明によれば、トランスフェリンを、抗体を介して固相化した場合でも、高シアル酸率のトランスフェリン同士を判別できることが判明した。
【0093】
〔実施例5〜7、比較例5〜7〕シアル酸率の異なる糖鎖を有するハプトグロビンの判別
実施例5〜7では、マイクロタイタープレートに固相化したシアル酸率の異なるハプトグロビンを、検出用レクチン及び競合用レクチン(表4に示すガラクトース結合レクチン)が混在する系で検出した。比較例5では、前記ハプトグロビンを検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系で検出した。比較例6〜7では、検出用レクチン及び非競合用レクチン(表4に示すマンノース結合レクチン)が混在する系で検出した。以下に、具体的な手順を示す。
【0094】
1.シアル酸率の異なるハプトグロビンの調製
ヒト由来ハプトグロビン(BIODESIGN社製)を、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に2mg/mlになるように溶解した後、ここにArthrobacter ureafaciens由来のノイラミニダーゼ(ナカライテスク社製)を0.5mU/mgハプトグロビンになるように添加した。溶液を37℃の水浴で保温し、時間0分又は30分にサンプリングした後、10倍量の20mM炭酸ナトリウム溶液を加えて酵素反応を停止した。ノイラミニダーゼ未添加の試料は、水浴で保温せずに10倍量の20mM炭酸ナトリウム溶液を加えてノイラミニダーゼ未処理とした。
【0095】
上記で得たハプトグロビンの単糖組成分析を、ABEE糖組成分析キット プラスS((株)J−オイルミルズ製)を用いて行った。ノイラミニダーゼ未処理のハプトグロビンのシアル酸量を100%として、ノイラミニダーゼ処理のハプトグロビンのシアル酸率(%)として算出した。ノイラミニダーゼ処理時間とシアル酸率との関係を表3に示す。上記シアル酸率の異なるハプトグロビンを使用時まで冷凍保存した。
【0096】
【表3】
【0097】
2.レクチンELISA
シアル酸率の異なるハプトグロビンを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度5μg/mlにて添加した溶液を50μl、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)に添加し、4℃で一晩、固相化させた。次いで、ブロッキングを実施例1と同様に行った。
【0098】
250μlのPBS−Tween20でウエルを3回洗浄後、前記ガラクトース結合レクチン又は前記マンノース結合レクチンを濃度1mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加し、室温で1時間放置した。
【0099】
前記検出用レクチンを濃度12.5μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間放置した。HRP反応と発色を実施例1と同様に行った。
【0100】
検出用レクチンとしてのBiotin−SSAに競合用レクチンとしてのECA(実施例5)、MCL(実施例6)又はBPL(実施例7)が混在する系において、シアル酸率の異なるハプトグロビンを検出したときの吸光度を
図3に示す。また、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系(比較例5)の吸光度も
図3に示す。シアル酸率100%と85%のハプトグロビンの吸光度の有意差検定を行った。**は、P<0.01を意味する。
【0101】
図3において、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の比較例5では、シアル酸率100%と85%のハプトグロビンの吸光度に有意差が見られない。一方、検出用レクチンと競合するガラクトース結合レクチン(ECA、MCL又はBPL)を混在させた実施例5〜7では、吸光度に有意差が見られた(P<0.01)。以上のことから、本発明は、トランスフェリンだけでなく、ハプトグロビンのシアル酸量の判別にも応用できることが実証された。
【0102】
シアル酸付加率100%と85%のハプトグロビンの吸光度比(OD100%/OD85%)を、測定3回の平均値と標準偏差で表4に示す。さらに、比較例5に対する有意差検定(t検定)の結果を示す。表中、**はp<0.01を意味し、そして*はp<0.05を意味する。
【0103】
【表4】
【0104】
表4で、比較例5〜7の吸光度比は1に近い。一方、実施例5〜7の吸光度比は、1よりも有意に増大している。このことから、ハプトグロビンは、トランスフェリンと同様に、検出用レクチンに競合するレクチンを混在させた実施例のみで、ハプトグロビンのシアル酸率の変化、特に高いシアル酸率での差を判別しやすくなることが実証された。
【0105】
〔実施例8、比較例8〜9〕ガラクトース率の異なる糖鎖を有するトランスフェリンの判別
マイクロタイタープレートに固相化したガラクトース率の異なるトランスフェリンを、検出用レクチンに競合用レクチン(表6に示すN−アセチルグルコサミン結合レクチン)が混在する系で検出した。比較例8では、前記トランスフェリンを検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系で検出した。比較例9では、検出用レクチン及び非競合用レクチン(表6に示すマンノース結合レクチン)が混在する系で検出した。具体的な手順を以下に示す。
【0106】
1.試薬の準備
ビオチン標識デイゴマメレクチン(Biotin−ECA)は(株)J−オイルミルズ製を使用した。バンデリアマメレクチン−II(GSL−II)をDelmotte FM,et.al.,Eur J Biochem.1980、112、219−23に記載の精製方法に従って得た。
【0107】
2.ガラクトース率の異なるトランスフェリンの調製
ヒト由来トランスフェリン(シグマ社製)を、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に2mg/mlになるように溶解した後、ここにClostridium perfringens由来ノイラミニダーゼ(和光純薬社製)を10mU/mgトランスフェリンになるように添加した。この溶液を37℃で一晩保温した。
【0108】
次に、連鎖球菌由来β−ガラクトシダーゼ(生化学バイオビジネス社製)を0.5 mU/mgトランスフェリンになるように添加した。溶液を37℃の水浴で保温し、1分又は8分後に一部をサンプリングした後、等量の20mM炭酸ナトリウム溶液を添加して酵素反応を停止した。β−ガラクトシダーゼ未添加の試料は、水浴で保温せずに等量の20mM炭酸ナトリウム溶液を添加してβ−ガラクトシダーゼ未処理とした。
【0109】
ガラクトース率の異なるトランスフェリンの単糖組成分析を、ABEE糖組成分析キット プラスS((株)J−オイルミルズ製)を用いて行った。β−ガラクトシダーゼ未処理のトランスフェリンのガラクトース量を100%として、β−ガラクトシダーゼ処理のトランスフェリンのガラクトース率(%)を算出した。β−ガラクトシダーゼ処理時間とガラクトース率との関係を表5に示す。上記ガラクトース率の異なるトランスフェリンを使用時まで冷凍保存した。
【0110】
【表5】
【0111】
3.レクチンELISA
ガラクトース率の異なるトランスフェリンを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度5μg/mlにて添加した溶液を50μl、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)に添加し、4℃で一晩、固相化させた。次いで、ブロッキングを実施例1と同様に行った。
【0112】
250μlのPBS−Tween20でウエルを3回洗浄後、前記N−アセチルグルコサミン結合レクチン又は前記マンノース結合レクチンを濃度1mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加し、室温で1時間放置した。
【0113】
Biotin−ECAを濃度5μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間保温した。HRP反応と発色を実施例1と同様に行った。
【0114】
検出用レクチンとしてのBiotin−ECAに競合用レクチンとしてのGSL−IIが混在する系において、ガラクトース率が異なるトランスフェリンを検出したときの吸光度を
図4に示す。また、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系(比較例8)の吸光度も
図4に示す。ガラクトース率が82%と75%のトランスフェリンの吸光度の有意差検定を行った。**は、P<0.01を意味する。
【0115】
図4において、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系である比較例8では、ガラクトース率が82%と75%のトランスフェリンの吸光度に有意差が見られない。一方、検出用レクチンと競合するN−アセチルグルコサミン結合レクチン(GSL−II)を混在させた実施例8では、吸光度に有意差が見られた(P<0.01)。以上のことから、本発明は、トランスフェリンのシアル酸だけでなく、ガラクトース量の判別にも応用できることが実証された。
【0116】
ガラクトース率が82%と75%のトランスフェリンの吸光度比(OD82%/OD75%)を、3回の平均値と標準偏差で表6に示す。さらに、比較例8との有意差検定(t検定)の結果を示す。表中、**はp<0.01を意味する。
【0117】
【表6】
【0118】
表6で、比較例8〜9の吸光度比は1に近い。一方、実施例8の吸光度比は1よりも有意に増大している。このことから、トランスフェリンのガラクトース率の判別は、シアル酸率と同様に、検出用レクチンと競合するレクチンを混在させることで容易になることが実証された。
【0119】
〔実施例9、比較例10〕シアル酸率の異なる糖鎖を有するトランスフェリンの判別(3)
マイクロタイタープレートに固相化したシアル酸率の異なるトランスフェリンを、検出用レクチンとしてのガラクトース結合レクチンに競合用レクチンとしてのシアル酸結合レクチンが混在する系で検出した。比較例10では、前記トランスフェリンを検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系で検出した。具体的な手順を以下に示す。
【0120】
1.試薬の準備
ニホンニワトコレクチン(SSA)は(株)J−オイルミルズ製を使用した。
【0121】
2.シアル酸率の異なるトランスフェリンの調製
ヒト由来トランスフェリン(シグマ社製)を、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で2mg/mlになるように溶解した後、ここにArthrobacter ureafaciens由来のノイラミニダーゼ(ナカライテスク社製)を5mU/mgトランスフェリンになるように添加した。溶液を37℃の水浴で3時間又は20時間で一部をサンプリングした後、10倍量の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)を加え、酵素反応を停止した。ノイラミニダーゼ未添加の試料は、水浴で保温せずに10倍量の0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)を加えノイラミニダーゼ未処理とした。
【0122】
シアル酸率の異なるトランスフェリンの単糖組成分析を、ABEE糖組成分析キット プラスS((株)J−オイルミルズ製)を用いて行った。ノイラミニダーゼ未処理のトランスフェリンのシアル酸量を100%として、ノイラミニダーゼ処理のトランスフェリンのシアル酸率(%)を算出した。ノイラミニダーゼ処理時間とシアル酸率との関係を表7に示す。上記シアル酸率の異なるトランスフェリンを使用時まで冷凍保存した。
【0123】
【表7】
【0124】
3.レクチンELISA
シアル酸率の異なるトランスフェリンを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度5μg/mlにて添加した溶液を50μl、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)に添加し、37℃で2時間、固相化させた。次いで、ブロッキングを実施例1と同様に行った。
【0125】
250μlのPBS−Tween20でウエルを3回洗浄後、前記ニホンニワトコレクチン(SSA)を濃度0.13mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加し、室温で1時間放置した。
【0126】
Biotin−ECAを濃度3μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間保温した。HRP反応と発色を実施例1と同様に行った。
【0127】
検出用レクチンとしてのBiotin−ECAに競合用レクチンとしてのSSAが混在する系において、シアル酸率が異なるトランスフェリンを検出したときの吸光度を
図5に示す。また、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系(比較例10)の吸光度も
図5に示す。シアル酸率が0%と7%のトランスフェリンの吸光度の有意差検定を行った。**は、P<0.01を意味する。
【0128】
図5において、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系である比較例10では、シアル酸率が0%と7%のトランスフェリンの吸光度に有意差が見られない。一方、検出用レクチンに競合用レクチンでのニホンニワトコレクチン(SSA)を混在させた実施例9では、吸光度に有意差が見られた(P<0.01)。本発明の方法によりシアル酸率が0%と7%のトランスフェリンを区別できることは、本発明がシアル酸の微量な欠損だけでなく、微量な増加の判別にも応用できることを証明する。
【0129】
〔実施例10、比較例11〕シアル酸率の異なる糖鎖を有するムチンの判別
実施例10では、マイクロタイタープレートに固相化したシアル酸率の異なるムチンを、検出用レクチン(シアル酸結合レクチン)に競合用レクチン(ガラクトース結合レクチン)が混在する系で検出した。比較例11では、前記ムチンを検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系で検出した。以下に、具体的な手順を示す。
【0130】
1.シアル酸率の異なるムチンの調製
ムチン(ブタ胃由来 シグマ社製)を、50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に2mg/mlになるように溶解した後、ここにClostridium perfringens由来ノイラミニダーゼ(和光純薬社製)を0.1mU/mgムチンになるように添加した。溶液を37℃で17時間保温した。ノイラミニダーゼ未添加の試料も同様の処理を行い、これをノイラミニダーゼ未処理とした。
【0131】
上記で得たムチンのグリコシド結合型シアル酸を、生化学実験講座4 糖質の化学 下巻 P.382に記載の方法に従って定量した。ノイラミニダーゼ未処理のムチンのシアル酸量を100%として、ノイラミニダーゼ処理のムチンのシアル酸率(%)を算出した。ノイラミニダーゼ処理とシアル酸率との関係を表8に示す。
【0132】
【表8】
【0133】
2.レクチンELISA
シアル酸率の異なるムチンを0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.5)に濃度10μg/mlにて添加した溶液を50μl、マイクロタイタープレート(ヌンク社製)に添加し、37℃で2時間固相化させた。次いで、ブロッキングを実施例1と同様に行った。
【0134】
250μlのPBS−Tween20でウエルを3回洗浄後、BPLを濃度0.25mg/mlにて含有する1%BSA−PBSを40μl添加し、室温で1時間放置した。更に、Biotin−SSAを濃度12.5μg/mlにて含有する1%BSA−PBSを10μl添加し、室温で1時間反応させた。HRP反応と発色を実施例1と同様に行った。
【0135】
検出用レクチンとしてのBiotin−SSAに競合用レクチンとしてのBPL(実施例10)が混在する系において、シアル酸率の異なるムチンを検出したときの吸光度を
図6に示す。また、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の系(比較例11)の吸光度も
図6に示す。シアル酸率100%と81%のムチンの吸光度の有意差検定を行った。**は、P<0.01を意味する。
【0136】
図6において、検出用レクチンのみで競合用レクチンが非混在の比較例11では、シアル酸率100%と81%のムチンの吸光度に有意差が見られない。一方、検出用レクチンと競合するガラクトース結合レクチン(BPL)を混在させた実施例10では、吸光度に有意差が見られた(P<0.01)。以上のことから、本発明は、N結合型糖鎖だけでなく、O結合型糖鎖のシアル酸量の判別にも応用できることが実証された。