特許第5808667号(P5808667)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808667シリカガラスルツボの三次元形状測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808667
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】シリカガラスルツボの三次元形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20151021BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20151021BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20151021BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   G01B11/24 B
   C03B20/00 H
   C30B15/10
   C30B29/06 502B
   G01B11/24 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-285295(P2011-285295)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-134177(P2013-134177A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠広
(72)【発明者】
【氏名】北原 賢
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−096618(JP,A)
【文献】 特開2005−249487(JP,A)
【文献】 特開平08−208376(JP,A)
【文献】 特開平05−248838(JP,A)
【文献】 特開平11−183125(JP,A)
【文献】 特開平11−211437(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3171574(JP,U)
【文献】 特開2000−284603(JP,A)
【文献】 特開平07−219263(JP,A)
【文献】 特開平02−112466(JP,A)
【文献】 特表2011−526692(JP,A)
【文献】 特開平01−212291(JP,A)
【文献】 特開2000−329531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 − 11/30
C03B 1/00 − 5/44
C03B 8/00 − 8/04
C03B 19/12 − 20/00
C30B 1/00 − 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスルツボの内表面に曇りを生じさせる工程と、
前記内表面に対して光を照射し、その反射光を検出することによって前記内表面の全周に渡って三次元座標を測定する工程とを備え
前記内表面の全周に渡って三次元座標を測定する工程では、
前記内表面に曇りを生じさせる工程により前記シリカガラスルツボの内表面が曇った状態でシリカガラスルツボの内表面の三次元形状を測定するとともに、前記三次元形状を測定することにより測定されたデータに従って、前記シリカガラスルツボの前記内表面に対してレーザー光を照射し、前記内表面からの反射光を検出することによって前記シリカガラスルツボの前記内表面までの距離を測定する内部測距部をルツボ内表面に沿って非接触で移動させることで、前記内表面の全周に渡って三次元座標を測定する、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法。
【請求項2】
前記シリカガラスルツボが有する透明層と気泡含有層との界面の全周に渡って三次元座標を測定する工程を備える、請求項1に記載のシリカガラスルツボの三次元形状測定方法。
【請求項3】
前記シリカガラスルツボの外表面の全周に渡って三次元座標を測定する工程を備える、請求項1又は2に記載のシリカガラスルツボの三次元形状測定方法。
【請求項4】
前記シリカガラスルツボの内表面に曇りを生じさせる工程は、開口部が下向きになるように載置された前記シリカガラスルツボの内部空間に水蒸気を供給する工程を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載のシリカガラスルツボの三次元形状測定方法。
【請求項5】
前記曇りは、前記シリカガラスルツボを冷却することによって生じさせる、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記曇りは、前記シリカガラスルツボの周囲の空気中の水蒸気量を増大させることによって生じさせる請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカガラスルツボの製造方法は、一例では、回転モールドの内表面に平均粒径300μm程度のシリカ粉を堆積させてシリカ粉層を形成するシリカ粉層形成工程と、モールド側からシリカ粉層を減圧しながら、シリカ粉層をアーク熔融させることによってシリカガラス層を形成するアーク熔融工程を備える(この方法を「回転モールド法」と称する)。
【0003】
アーク熔融工程の初期にはシリカ粉層を強く減圧することによって気泡を除去して透明シリカガラス層(以下、「透明層」と称する。)を形成し、その後、減圧を弱くすることによって気泡が残留した気泡含有シリカガラス層(以下、「気泡含有層」と称する。)を形成することによって、内表面側に透明層を有し、外表面側に気泡含有層を有する二層構造のシリカガラスルツボを形成することができる。
【0004】
ルツボの製造に使用されるシリカ粉には、天然石英を粉砕して製造される天然シリカ粉や化学合成によって製造される合成シリカ粉があるが、特に天然シリカ粉は、天然物を原料としているので、物性・形状・サイズがばらつきやすい。物性・形状・サイズが変化すると、シリカ粉の溶融状態が変化するので、同じ条件でアーク熔融を行っても、製造されるルツボの三次元形状がばらついてしまう。
【0005】
このようなばらつきを低減させるようにアーク熔融を行ったり、このようなばらつきを考慮したシリコン単結晶の引き上げを行うには、全てのルツボについて、その三次元形状を把握することが必要である。
【0006】
シリカガラスルツボの形状を測定する方法としては、特許文献1の従来技術に記載されているように、被測定物にスリット光を照射する光切断法や、被測定物にパターン光を照射するパターン投影法などが知られている。
【0007】
ところで、光照射方式による三次元形状測定では、被測定物で反射された反射光を受光し、該反射光に由来するデータを解析することで被測定物の三次元形状データが求められる。従って、適確な反射光を受光することが重要になるのであるが、被測定物がシリカガラスルツボのように透明体である場合には、内部散乱光の影響で、三次元形状を適切に測定できない場合がある。
【0008】
このため従来は、透明体の測定には、その表面に白色パウダー等の反射コート材を塗布し、内部散乱光の発生を規制する方法が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−281399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の方法で、シリカガラスルツボの内表面の三次元形状を測定するには、反射コート材をルツボの内表面に塗布することになるが、ルツボの内表面に反射コート材を塗布すると、反射コート材が内表面を汚染したり、反射コート材が残留したりする場合があり、その場合、シリコン単結晶の収率に悪影響を与える可能性がある。従って、ルツボの内表面の三次元形状には、反射コート材を塗布する方法は、使用できない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ルツボの内表面を汚染することなくルツボの内表面の三次元形状の測定を可能とする、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、シリカガラスルツボの内表面に曇りを生じさせる工程と、前記内表面に対して光を照射し、その反射光を検出することによって前記内表面の三次元形状を測定する工程とを備える、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法が提供される。
【0013】
本発明者らは、ルツボの内表面を汚染することなくルツボの内表面の三次元形状の測定を可能とする方法について検討したところ、ルツボが曇って白っぽくなった状態であれば、ルツボ内表面で光が乱反射して拡散反射光を適切に検出することができ、従って、内表面の三次元形状を測定できるというアイデアを得て、実際に、市販の三次元形状測定機を用いて、実験を行ったところ、曇りのない状態では、ルツボ内表面からの反射光が適切に検出されず三次元形状の測定が不可能であったが、冷蔵室で十分に冷却したルツボを常温の室内に持ってきて表面に曇りが生じたところで、同じ三次元形状測定機を用いて測定を行ったところ、ルツボ内表面からの反射光が検出され、従って、ルツボ内表面の三次元形状を測定することができた。
【0014】
ルツボの曇りの成分は、空気中の水蒸気であるので、測定終了後は、単純にルツボを加温又は乾燥させるだけ、ルツボ表面から曇りや水分を除去することができ、従って、ルツボの内表面を汚染することがない。
【0015】
また、本発明の方法が優れている点は、ルツボの内表面全体の三次元形状が非破壊で決定できるため、実際の製品の三次元形状が分かることである。従来は、ルツボを切断してサンプルを作成し、このサンプルの三次元形状を測定していたが、この方法では、実際の製品のデータが取得できないこと、サンプル作成に時間とコストがかかるという問題があるので、本発明は、実際の製品の三次元形状を低コストで測定できる点で利点が大きい。また、本発明は、外径28インチ以上の大型ルツボや、40インチ以上の超大型ルツボにおいて特に利点がある。なぜなら、このようなルツボにおいては、サンプル作成にかかる時間とコストが小型ルツボに比べて非常に大きいからである。
【0016】
以上より、本発明によれば、ルツボの内表面を汚染することなくルツボの内表面の三次元形状を測定することができる。
【0017】
本発明は、非常に簡単な方法で透明体を実質的に非透明体にすることによって、その三次元形状の測定を可能にするものであるので、種々の光照射方式の三次元測定方法に適用可能である。
【0018】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下の実施形態は、互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記曇りは、前記シリカガラスルツボを冷却することによって生じさせる。
好ましくは、前記曇りは、前記シリカガラスルツボの周囲の空気中の水蒸気量を増大させることによって生じさせる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態のシリカガラスルツボの説明図である。
図2図2は、シリカガラスルツボの三次元形状測定方法の説明図である。
図3図3は、シリカガラスルツボの詳細な三次元形状測定方法の説明図である。
図4図4は、図3の内部測距部及びその近傍のシリカガラスルツボの拡大図である。
図5図5は、図3の内部測距部の測定結果を示す。
図6図6は、図3の外部測距部の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1図6を用いて、本発明の一実施形態のシリカガラスルツボの三次元形状測定方法を説明する。
【0021】
<1.シリカガラスルツボ>
以下、図1を用いて、本実施形態で使用されるシリカガラスルツボ11について説明する。ルツボ11は、一例では、回転モールドの内表面に平均粒径300μm程度のシリカ粉を堆積させてシリカ粉層を形成するシリカ粉層形成工程と、モールド側からシリカ粉層を減圧しながら、シリカ粉層をアーク熔融させることによってシリカガラス層を形成するアーク熔融工程を備える(この方法を「回転モールド法」と称する)方法によって製造される。
【0022】
アーク熔融工程の初期にはシリカ粉層を強く減圧することによって気泡を除去して透明シリカガラス層(以下、「透明層」と称する。)13を形成し、その後、減圧を弱くすることによって気泡が残留した気泡含有シリカガラス層(以下、「気泡含有層」と称する。)15を形成することによって、内表面側に透明層13を有し、外表面側に気泡含有層15を有する二層構造のシリカガラスルツボを形成することができる。
【0023】
ルツボの製造に使用されるシリカ粉には、天然石英を粉砕して製造される天然シリカ粉や化学合成によって製造される合成シリカ粉があるが、特に天然シリカ粉は、天然物を原料としているので、物性・形状・サイズがばらつきやすい。物性・形状・サイズが変化すると、シリカ粉の溶融状態が変化するので、同じ条件でアーク熔融を行っても、製造されるルツボの内表面の三次元形状は、ルツボ毎にばらついてしまう。従って、製造したルツボの一つ一つについて、内表面の三次元形状を測定する必要がある。
【0024】
シリカガラスルツボ11は、円筒状の側壁部11aと、湾曲した底部11cと、側壁部11aと底部11cを連結し且つ底部11cよりも曲率が大きいコーナー部11bを備える。本発明において、コーナー部11bとは、側壁部11aと底部11cを連接する部分で、コーナー部の曲線の接線がシリカガラスルツボの側壁部11aと重なる点から、底部11cと共通接線を有する点までの部分のことを意味する。言い換えると、シリカガラスルツボ11の側壁部11aが曲がり始める点が側壁部11aとコーナー部11bの境界である。さらに、ルツボの底の曲率が一定の部分が底部11cであり、ルツボの底の中心からの距離が増したときに曲率が変化し始める点が底部11cとコーナー部11bとの境界である。
【0025】
<2.三次元形状測定方法>
上記方法で製造したルツボ11は、透明体であるため、従来の光照射方式による非接触式の三次元形状測定方法では、反射光を適切に検出することができず、従って、三次元形状測定が困難であった。そこで、本実施形態では、三次元形状測定を行う前に、ルツボの内表面に曇りを生じさせて内表面が白っぽくなった状態で形状測定用の光を内表面に対して照射する。曇りが生じていない状態では、ルツボ内表面からの表面反射光と、ルツボ内部からの内部散乱光が重畳されてしまって正確な三次元形状測定が困難であったが、曇りが生じている状態では、測定光の大部分が表面で拡散されてしまい、ルツボ内部にはほとんど侵入しないため、内部散乱光の影響を除外することができ、従って、適切な三次元形状測定が可能になる。
【0026】
本明細書において、「曇り」とは、冬に窓ガラスが白っぽくなるのと同様の現象を指しており、冷たい物体の周囲の空気が冷却されて、その空気中に含まれる水蒸気が凝縮されて得られた微粒子が物体の表面に多数付着して、表面が白っぽくなっている状態を意味する。
【0027】
曇りは、物体表面での空気の温度が露点以下になった場合に生じるが、露点は、周囲の空気中に含まれる水蒸気量が多くなるに従って高くなる。従って、曇りを生じやすくするには、物体を冷却するか、周囲空気中の水蒸気量を増大させればよい。水蒸気量を増大させる際に使用する水は、半導体製造等で用いられる超純水が好ましい。この場合、ルツボ内表面の清浄度を極めて高い状態に維持することができるからである。
【0028】
従って、ルツボ11の内表面に曇りを生じさせるためには、ルツボ11を冷蔵室で十分に冷却した上で常温の測定室内に持ってきてもよく、測定室内においてルツボ11に冷却体を接触させてルツボ11を冷却してもよい。また、別の方法では、測定室の温度を比較的低くしておき、その状態で、加湿器(超音波式、加熱式等)などを用いて測定室内の空気中の水蒸気量を増大させることによって、ルツボ11に曇りを生じさせてもよい。ルツボ11自体を冷却する方法と測定室内の水蒸気量を増大させる方法は併用してもよい。また、ルツボ11の開口部を下向きにした状態で載置した場合、ルツボ11の内部空間と外側の空間との間の空気の入れ替わりが少なくなる。この状態で、ルツボ11の内部空間に水蒸気を供給すれば、ルツボ11の内表面に接する空気中の水蒸気量を容易に増大させることができる。
【0029】
ルツボ11の表面の曇りは、最初はうっすらとしたものである。この状態では、内部散乱光の影響が十分に除外されず、適切な三次元形状測定ができない。時間が経つに従って段々とその白さが増して、水微粒子が均一に分散された状態で表面に付着した状態になる。この状態が三次元形状に適している。そして、さらに時間が経過すると、表面の付着している水の量が増えることによって隣接する水微粒子が接触して凝集したり、凝集した水滴が重力で落下したりしてさらに凝集が進む。この状態でも適切な三次元形状測定はできない。従って、三次元形状測定は、適切なタイミングで行う必要がある。そこで、三次元形状測定は、ルツボ11に曇りが発生する条件にした後、所定の間隔を空けて複数回行うことが好ましい。これによって、適切な曇り状態で三次元形状測定を行うことができる。
【0030】
ここで、図2を用いて、本実施形態による、ルツボの内表面の三次元形状測定の一例を説明する。
測定対象であるシリカガラスルツボ11は、開口部が下向きになるように回転可能な回転台9上に載置される。ルツボ11は、図示しない冷蔵室から取り出された直後に回転台9に設置されたものであってもよく、回転台9が冷却機能を有していて、ルツボ11を冷却可能なものであってもよい。何れにしても、周囲温度よりも低温のルツボが回転台9上に設置される。基台1と回転台9の間の開口部12からはルツボ11の内部空間に水蒸気が供給される。これによって、ルツボ11の内部空間の空気中の水蒸気量が増大し、ルツボ11の内表面が曇りやすい状態になる。
【0031】
ルツボ11に覆われる位置に設けられた基台1上には、ロボットアーム4が設置されている。ロボットアーム4は、アーム4aと、このアーム4aを回転可能に支持するジョイント4bと、本体部4cを備える。本体部4cには図示しない外部端子が設けられており、外部とのデータ交換が可能になっている。ロボットアーム4の先端にはルツボ11の内表面の三次元形状の測定を行う三次元形状測定部6が設けられている。三次元形状測定部6は、ルツボ11の内表面が曇った状態でルツボ11の内表面に対して測定光を照射し、内表面からの反射光を検出することによって、ルツボ11の内表面の三次元形状を測定する。本体部4c内には、ジョイント4b及び三次元形状測定部6の制御を行う制御部が設けられている。制御部は、本体部4c設けられたプログラム又は外部入力信号に基づいてジョイント4bを回転させてアーム4aを動かすことによって、三次元形状測定部6が測定光8を照射する方向を変化させる。具体的には、例えば、ルツボ11の開口部近傍に近い位置から測定を開始し、ルツボ11の底部11cに向かって三次元形状測定部6を移動させ、移動経路上の複数の測定点において測定を行う。
【0032】
ルツボの開口部から底部11cまでの測定が終わると、回転台9を少し回転させ、同様の測定行う。この測定は、底部11cから開口部に向かって行ってもよい。回転台9の回転角は、精度と測定時間との考慮して決定される。回転角が大きすぎると測定精度が十分でなく、小さすぎると測定時間が掛かりすぎる。回転台9の回転は、内蔵プログラム又は外部入力信号に基づいて制御される。回転台9の回転角は、ロータリーエンコーダ等によって検出可能である。
【0033】
以上によって、ルツボの内表面全体の三次元形状を測定することができる。ルツボの内表面全体の三次元形状測定後は、ルツボ11の内部空間に乾燥した空気を供給してルツボ11の内表面を乾燥させてもよい。
【0034】
得られた三次元形状は、種々の用途に利用可能である。例えば、測定された三次元形状と、設計値での三次元形状とを比較することによって、個々のルツボの内表面形状が設計値からどの程度ずれているのかをできる。設計値からのズレが基準値を超えている場合は、ルツボの形状を修正する工程を行ったり、出荷を停止したりするといった対応を行うことができ、出荷されるルツボの品質を向上させることができる。また、個々のルツボの形状と、その製造条件(アーク熔融の条件等)とを関連付けることによって、ルツボの形状が基準範囲になった場合に、製造条件にフィードバックさせることができる。さらに、ルツボ内表面の三次元形状上の複数の測定点において、ラマンスペクトル、赤外吸収スペクトル、表面粗さ、気泡含有率等を測定することによって、これらの測定値の三次元分布を得ることができ、この三次元分布をルツボの出荷検査に利用することができる。また、三次元形状や、三次元形状上の種々の測定値の三次元分布のデータをシリコン単結晶引き上げのパラメーターにすることができる。これによって、シリコン単結晶引き上げをより高精度に制御することが可能になる。
【0035】
ここでは、ルツボの内表面の三次元形状の測定方法について詳細に説明したが、ルツボの外表面の三次元形状についても、同様の方法で測定することができる。
【0036】
ところで、上記方法で求まった三次元形状は、ルツボの内表面及び界面の三次元形状を詳細に測定する際の基礎となる三次元形状データとして利用することもできる。以下、ルツボの内表面及び界面の三次元形状をさらに詳細に測定する方法について詳細に説明する。
【0037】
<3.詳細な三次元形状の測定方法>
以下、図3図6を用いて、ルツボの内表面の詳細な三次元形状の測定方法について説明する。本実施形態では、レーザー変位計などからなる内部測距部17をルツボ内表面に沿って非接触で移動させ、移動経路上の複数の測定点において、ルツボ内表面に対してレーザー光を斜め方向に照射し、その反射光を検出することによって、ルツボの内表面の三次元形状を測定する。以下、詳細に説明する。また、内表面形状を測定する際に、透明層13と気泡含有層15の界面の三次元形状も同時に測定することができ、また、内部測距部19を用いることによってルツボの外表面の三次元形状も測定することができるので、これらの点についても合わせて説明する。
【0038】
<3−1.シリカガラスルツボの設置、内部ロボットアーム、内部測距部>
測定対象であるシリカガラスルツボ11は、開口部が下向きになるように回転可能な回転台9上に載置されている。ルツボ11に覆われる位置に設けられた基台1上には、内部ロボットアーム5が設置されている。内部ロボットアーム5は、複数のアーム5aと、これらのアーム5aを回転可能に支持する複数のジョイント5bと、本体部5cを備える。本体部5cには図示しない外部端子が設けられており、外部とのデータ交換が可能になっている。内部ロボットアーム5の先端にはルツボ11の内表面形状の測定を行う内部測距部17が設けられている。内部測距部17は、ルツボ11の内表面に対してレーザー光を照射し、内表面からの反射光を検出することによって内部測距部17からルツボ11の内表面までの距離を測定する。本体部5c内には、ジョイント5b及び内部測距部17の制御を行う制御部が設けられている。制御部は、本体部5c設けられたプログラム又は外部入力信号に基づいてジョイント5bを回転させてアーム5を動かすことによって、内部測距部17を任意の三次元位置に移動させる。具体的には、内部測距部17をルツボ内表面に沿って非接触で移動させる。従って、制御部には、ルツボ内表面の大まかな形状データを与え、そのデータに従って、内部測距部17の位置を移動させる。この大まかな形状データが、<2.三次元形状測定方法>で測定した三次元形状データである。ルツボ11bのコーナー部等の曲がっている部分では、内部測距部17の、内表面に対する距離及び方向を適切に設定することが容易ではなかった。これに対して、本実施形態では、内表面の三次元形状を予め求めておき、その三次元形状に基づいて内部測距部を移動させるので、内部測距部の、内表面に対する距離及び方向を適切に設定することができる。
より具体的には、例えば、図3(a)に示すようなルツボ11の開口部近傍に近い位置から測定を開始し、図3(b)に示すように、ルツボ11の底部11cに向かって内部測距部17を移動させ、移動経路上の複数の測定点において測定を行う。測定間隔は、例えば、1〜5mmであり、例えば2mmである。測定は、予め内部測距部17内に記憶されたタイミングで行うか、又は外部トリガに従って行う。測定結果は、内部測距部17内の記憶部に格納されて、測定終了後にまとめて本体部5cに送られるか、又は測定の度に、逐次本体部5cに送られるようにする。内部測距部17は、本体部5cとは別に設けられた制御部によって制御するように構成してもよい。
【0039】
ルツボの開口部から底部11cまでの測定が終わると、回転台9を少し回転させ、同様の測定行う。この測定は、底部11cから開口部に向かって行ってもよい。回転台9の回転角は、精度と測定時間との考慮して決定されるが、例えば、2〜10度である。回転角が大きすぎると測定精度が十分でなく、小さすぎると測定時間が掛かりすぎる。回転台9の回転は、内蔵プログラム又は外部入力信号に基づいて制御される。回転台9の回転角は、ロータリーエンコーダ等によって検出可能である。回転台9の回転は、内部測距部17及び後述する外部測距部19の移動と連動してすることが好ましく、これによって、内部測距部17及び外部測距部19の3次元座標の算出が容易になる。
【0040】
後述するが、内部測距部17は、内部測距部17から内表面までの距離(内表面距離)、及び内部測距部17から透明層13と気泡含有層15の界面までの距離(界面距離)の両方を測定することができる。ジョイント5bの角度はジョイント5bに設けられたロータリーエンコーダ等によって既知であるので、各測定点での内部測距部17の位置の三次元座標及び方向が既知になるので、内表面距離及び界面距離が求まれば、内表面での三次元座標、及び界面での三次元座標が既知となる。そして、ルツボ11の開口部から底部11cまでの測定が、ルツボ11の全周に渡って行われるので、ルツボ11の内表面の三次元形状、及び界面の三次元形状が既知になる。また、内表面と界面の間の距離が既知になるので、透明層13の厚さも既知になり、透明層の厚さの三次元分布が求められる。
【0041】
<3−2.外部ロボットアーム、外部測距部>
ルツボ11の外部に設けられた基台3上には、外部ロボットアーム7が設置されている。外部ロボットアーム7は、複数のアーム7aと、これらのアームを回転可能に支持する複数のジョイント7bと、本体部7cを備える。本体部7cには図示しない外部端子が設けられており、外部とのデータ交換が可能になっている。外部ロボットアーム7の先端にはルツボ11の外表面形状の測定を行う外部測距部19が設けられている。外部測距部19は、ルツボ11の外表面に対してレーザー光を照射し、外表面からの反射光を検出することによって外部測距部19からルツボ11の外表面までの距離を測定する。本体部7c内には、ジョイント7b及び外部測距部19の制御を行う制御部が設けられている。制御部は、本体部7c設けられたプログラム又は外部入力信号に基づいてジョイント7bを回転させてアーム7を動かすことによって、外部測距部19を任意の三次元位置に移動させる。具体的には、外部測距部19をルツボ外表面に沿って非接触で移動させる。従って、制御部には、ルツボ外表面の大まかな形状データを与え、そのデータに従って、外部測距部19の位置を移動させる。より具体的には、例えば、図3(a)に示すようなルツボ11の開口部近傍に近い位置から測定を開始し、図3(b)に示すように、ルツボ11の底部11cに向かって外部測距部19を移動させ、移動経路上の複数の測定点において測定を行う。測定間隔は、例えば、1〜5mmであり、例えば2mmである。測定は、予め外部測距部19内に記憶されたタイミングで行うか、又は外部トリガに従って行う。測定結果は、外部測距分19内の記憶部に格納されて、測定終了後にまとめて本体部7cに送られるか、又は測定の度に、逐次本体部7cに送られるようにする。外部測距部19は、本体部7cとは別に設けられた制御部によって制御するように構成してもよい。
【0042】
内部測距部17と外部測距部19は、同期させて移動させてもよいが、内表面形状の測定と外表面形状の測定は独立して行われるので、必ずしも同期させる必要はない。
【0043】
外部測距部19は、外部測距部19から外表面までの距離(外表面距離)を測定することができる。ジョイント7bの角度はジョイント7bに設けられたロータリーエンコーダ等によって既知であるので、外部測距部19の位置の三次元座標及び方向が既知になるので、外表面距離が求まれば、外表面での三次元座標が既知となる。そして、ルツボ11の開口部から底部11cまでの測定が、ルツボ11の全周に渡って行われるので、ルツボ11の外表面の三次元形状が既知になる。
以上より、ルツボの内表面及び外表面の三次元形状が既知になるので、ルツボの壁厚の三次元分布が求められる。
【0044】
<3−3.距離測定の詳細>
次に、図4を用いて、内部測距部17及び外部測距部19による距離測定の詳細を説明する。
図4に示すように、内部測距部17は、ルツボ11の内表面側(透明層13側)に配置され、外部測距部19は、ルツボ11の外表面側(気泡含有層15側)に配置される。内部測距部17は、出射部17a及び検出部17bを備える。外部測距部19は、出射部19a及び検出部19bを備える。内部測距部17及び外部測距部19の測定範囲は、測定器の種類によるが、概ね±5〜10mm程度である。従って、内部測距部17及び外部測距部19から内表面・外表面までの距離は、ある程度正確に設定する必要がある。また、内部測距部17及び外部測距部19は、図示しない制御部及び外部端子を備える。出射部17a及び19aは、レーザー光を出射するものであり、例えば、半導体レーザーを備えるものである。出射されるレーザー光の波長は、特に限定されないが、例えば、波長600〜700nmの赤色レーザー光である。検出部17b及び19bは、例えばCCDで構成され、光が当たった位置に基づいて三角測量法の原理に基づいてターゲットまでの距離が決定される。
【0045】
内部測距部17の出射部17aから出射されたレーザー光は、一部が内表面(透明層13の表面)で反射し、一部が透明層13と気泡含有層15の界面で反射し、これらの反射光(内表面反射光、界面反射光)が検出部17bに当たって検出される。図4から明らかなように、内表面反射光と界面反射光は、検出部17bの異なる位置に当たっており、この位置の違いによって、内部測距部17から内表面までの距離(内表面距離)及び界面までの距離(界面距離)がそれぞれ決定される。好適な入射角θは、内表面の状態、透明層13の厚さ、気泡含有層15の状態等によって、変化しうるが例えば30〜60度である。
【0046】
図5は、市販のレーザー変位計を用いて測定された実際の測定結果を示す。図5に示すように、2つのピークが観察されており、内表面側のピークが内表面反射光によるピークであり、外表面側のピークが界面反射光によるピークに対応する。このように、透明層13と気泡含有層15の界面からの反射光によるピークもクリアに検出されている。従来は、このような方法で界面の特定がなされたことがなく、この結果は非常に斬新である。
【0047】
内部測距部17から内表面までの距離が遠すぎる場合や、内表面又は界面が局所的に傾いている場合には、2つのピークが観測されない場合がある。その場合には、内部測距部17を内表面に近づけたり、内部測距部17の傾けてレーザー光の出射方向を変化させて、2つのピークが観測される位置及び角度を探索することが好ましい。また、2つのピークが同時に観測されなくても、ある位置及び角度において内表面反射光によるピークを観測し、別の位置及び角度において界面反射光によるピークを観測するようにしてもよい。また、内部測距部17が内表面に接触することを避けるために、最大近接位置を設定しておいて、ピークが観測されない場合でも、その位置よりも内表面に近づけないようにすることが好ましい。
【0048】
なお、例えばコーナー部11bでは、内表面が曲がっているので、内部測距部17の位置及び方向を適切に設定することは容易ではないが、本実施形態では、ルツボ内表面の三次元形状を予め測定し、この三次元形状に基づいて内部測距部17を動かすことができるので、図4に示すように、内部測距部17を適切な位置及び方向に設定することが容易である。外部測距部19についても同様である。
【0049】
また、透明層13中に独立した気泡が存在する場合、この気泡からの反射光を内部測距部17が検出してしまい、透明層13と気泡含有層15の界面を適切に検出できない場合がある。従って、ある測定点Aで測定された界面の位置が前後の測定点で測定された界面の位置から大きく(所定の基準値を超えて)ずれている場合には、測定点Aでのデータを除外してもよい。また、その場合、測定点Aからわずかにずれた位置で再度測定を行って、得られたデータを採用してもよい。
【0050】
また、外部測距部19の出射部19aから出射されたレーザー光は、外表面(気泡含有層15)の表面で反射し、その反射光(外表面反射光)が検出部19bに当たって検出され、検出部19b上での検出位置に基づいて外部測距部19と外表面の間の距離が決定される。図6は、市販のレーザー変位計を用いて測定された実際の測定結果を示す。図6に示すように、1つのピークのみが観察される。ピークが観測されない場合には、外部測距部19を内表面に近づけたり、外部測距部19の傾けてレーザー光の出射方向を変化させて、ピークが観測される位置及び角度を探索することが好ましい。
【0051】
得られた内表面・界面・外表面の三次元形状の座標データを出力してもよい。座標データの形式は、特に限定されず、CSVなどのテキスト形式のデータであってもよく、種々のCAD形式のデータであってもよい。
【実施例】
【0052】
被測定物に対してパターン光を照射して、その反射光を測定することによって三次元形状を測定する三次元形状測定裝置を用いて、シリカガラスルツボの三次元形状測定を試みた。ルツボを曇らせていない状態では、ルツボ形状を検出することができなかったが、冷却したルツボを空気中に放置して表面が曇った状態で測定を行ったところ、ルツボの内表面形状を測定することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6