(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
表面性状測定装置に用いられる検出器は、揺動レバー先端に触針を設ける形式が多い。例えば、粗さ測定機は、触針をワークに当接させながら検出器をワークの表面に沿って走査して粗さデータを収集し、このデータに基づいてワークの表面粗さ解析を行う。そのため、粗さ測定機には、検出器を所定の軸方向(X軸等)に移動させる駆動手段が設けられている。真円度測定機や輪郭形状測定機においても、検出器を所定の軸方向に移動させる駆動手段を備えるものがある。
【0003】
このような駆動手段にはボールネジ等が使用される。直流モータの回転駆動でボールネジ等が駆動すると、その軸方向に検出器が直線移動する。所望速度で検出器を直線移動させるため、一般的にはタコジェネレータ等の速度発電機やエンコーダ等の位置検出器を用いてモータの回転数を検出して、その検出値をフィードバックして検出値が目標値と一致するようにモータへの供給電流を調整する方法がある。
【0004】
また、直流モータの回転制御には、そのモータの逆起電圧の検出値を用いるものがある。例えば、直流モータ内部の永久磁石による磁界中をロータ(電機子)が回転する場合、ロータを形成するコイルが磁界を横切ることでフレミングの右手の法則による逆起電力がモータに発生する。ロータに流れる電流は、モータへの印加電圧から逆起電力で生じた電圧を引いた電圧によって流れる。
【0005】
<逆起電圧による回転制御>
逆起電圧はモータの回転数に比例するため、検出される逆起電圧が目標の回転数で定まる逆起電圧(基準電圧)に一致するように、モータへの印加電圧が調整されれば、タコジェネレータやエンコーダ等を不要とする回転制御装置を実現できる(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に記載の直流モータの回転制御装置は、電源Ea、電源電圧を所定値まで降下させるトランジスタQ1、降下した電圧が印加される検出用抵抗ブリッジを有する。検出用抵抗ブリッジは、3つの抵抗(R1〜R3)と直流モータの内部抵抗Rmで構成され、具体的には、抵抗R1および抵抗R2の直列接続と、抵抗R3および内部抵抗Rmの直列接続とを並列に接続したブリッジ回路である。トランジスタQ1で降下された電圧は、抵抗R1、R2の直列接続の両端子、および、抵抗R3と内部抵抗Rmの直列接続の両端子に印加される。
【0007】
この検出用抵抗ブリッジにおいては、直流モータの正極端子は抵抗R3に接続され、負極端子は接地GNDに接続されている。また、抵抗R2の正極端子は抵抗R1に接続され、抵抗1の負極端子は、設定用電圧発生回路117を介して接地GNDに接続される。この設定用電圧発生回路117は、接地GNDを基準とする一定電圧Vrefを抵抗分圧した電圧Ec’を発生する。更に、バッファー101aで電圧Ec’の電流駆動能力が高められて、モータ回転数の設定用電圧Ecが生成され、抵抗R2に出力されるようになっている。この設定用電圧Ecは、可変抵抗を用いることにより調整可能になっている。
【0008】
<逆起電圧の検出>
検出用抵抗ブリッジの各抵抗は、設計上、R1:R2=R3:Rmの関係を満たす抵抗値を持ち、直流モータで発生する逆起電圧Emを検知可能なブリッジ回路を構成している。つまり、検出用抵抗ブリッジの差電圧(抵抗R1、R2の接続点電圧と、抵抗R3および内部抵抗Rmの接続点電圧との差)は、電圧誤差増幅回路(オペアンプ)で比較増幅されてトランジスタQ1へ出力される。トランジスタQ1では、オペアンプからの出力に応じて、差電圧が無くなるようにトランジスタQ1の降下電圧が制御される。これにより、モータの逆起電圧Emが、常時、モータ回転数の設定用電圧Ecに等しい値に維持されて、その結果、実際のモータ回転数は設定用電圧Ecに追従するようになっている。
【0009】
このように文献1の回転制御装置では、モータ回転数の設定用電圧(基準電圧)をブリッジ回路の抵抗R2の負極端子に付与し、モータの回転数に比例して生じる逆起電圧が基準電圧と等しくなるように、モータ印加電圧を帰還制御している。
発明者は、以上のような逆起電圧を用いた回転制御において、既存のモータドライバーICを利用して、印加電圧をPWM制御(パルス幅変調制御)できる回転制御装置の開発に取り組んできた。
【0010】
<一般的なモータドライバーIC>
ここで、モータドライバーICとはモータを駆動するための専用回路であり、例えば、(株)東芝製のDCモータ用フルブリッジドライバTB6559FGのような市販のモータドライバーICがある(非特許文献2参照)。このモータドライバーICには、コンピュータから制御し易いように、制御回路やアンプ等が内蔵されている。通常、4つのMOSFETのスイッチング素子(Q1〜Q4)がH形のブリッジ状に接続されている。スイッチング素子Q1、Q2の直列接続と、スイッチング素子Q3、Q4の直列接続と、を並列につなげたブリッジ回路である。直流モータは、スイッチング素子Q1とQ2の接続点とQ3とQ4の接続点とを結ぶように接続される。外部からのPWM信号によりスイッチング素子が100kHz程度の周波数でオンオフ切換えすることで、モータへの供給電圧が一定周期でオンオフするパルス状となり、PWM信号のデューティ比(オン時間とオフ時間の比)に応じた直流電圧がモータに印加される。PWM信号のデューティ比を変えることで、モータ印加電圧を調整することができる。
【0011】
また、モータドライバーICを用いれば、スイッチング素子のオンオフ状態の組合せによって、モータの正転・逆転も容易に制御できるので、単一の電源でモータに加える電圧の向きを変えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述のような逆起電圧の帰還制御を用いて、最終的にモータ印加電圧をPWM制御させたい場合には、モータドライバーを含めたトランジスタレベルの回転制御回路の設計が必要になり、安価な市販のモータドライバーICをそのまま利用することが困難だった。
【0015】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は、簡単な部品構成で動作するオペアンプレベルのモータ回転制御装置を提供することにある。特に、モータの逆起電圧が目標回転数に比例する値と一致するように、モータへの印加電圧を制御する際に、市販のモータドライバー(フルブリッジ・モータドライバーIC)の入出力をそのまま利用して印加電圧を制御することができるモータ回転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために本発明にかかるモータ回転制御装置は、ブリッジ回路と、モータ駆動回路と、差電圧検出回路と、電圧制御回路とを備えている。まず、ブリッジ回路は、三辺に各々抵抗を設けて、残りの一辺に直流モータを設けた回路である。つまり、第1抵抗及び直流モータの直列接続と、第2抵抗及び第3抵抗の直列接続とを並列に接続してなっている。モータ駆動回路は、前記ブリッジ回路中の第1抵抗及び直流モータの直列接続の両端に直流電圧を印加する回路である。差電圧検出回路は、第1抵抗及び直流モータの接続点と、他の第2抵抗及び第3抵抗の接続点の二つの接続点の差電圧を検出する回路である。電圧制御回路は、検出された差電圧に基づいて前記モータ駆動回路の出力電圧値を制御する回路である。
【0017】
前記電圧制御回路は、基準電圧指令部、電圧減算部、及び、PWM信号発生部を有する。基準電圧指令部は、目標回転数
(Nm)で前記直流モータを回転させた際の前記ブリッジ回路の差電圧の計算値(Eb’)に基づく基準電圧(Vctl)を算出し、正の値で出力する。電圧減算部は、
オペアンプの加算回路からなり、前記基準電圧(Vctl)に前記差電圧の検出値(Eb)を加算した値を前記オペアンプの反転入力端子へ入力し、出力電位(Vpuls)を出力する。PWM信号発生部は、前記電圧減算部の出力電位に基づくデューティ比のPWM信号を発生する。
また、前記モータ駆動回路は、前記PWM信号で動作するスイッチング素子を有し、該スイッチング素子のオンオフ切換えによって前記デューティ比に応じた直流電圧を前記ブリッジ回路に印加する。
前記差電圧検出回路は、さらに、前記直流モータの逆回転の制御信号を受ける間だけ、前記ブリッジ回路の差電圧の検出値(Eb)の正負の値を反転させる反転アンプを含み、前記直流モータの逆回転の間も、反転により得られた負の値で前記ブリッジ回路の差電圧の検出値(Eb)を検出する。
【0018】
このように構成されたモータ回転制御装置を用いて、直流モータの停止状態でブリッジ回路の差電圧が零になるように、ブリッジ回路の各抵抗値を予め設定しておく。直流モータの内部抵抗および第1、第2、第3抵抗を、Ra、Rs、R1、R2とした場合、抵抗比がRs:Ra=R1:R2を満たすようにするとよい。
【0019】
モータの停止状態から回転を開始する際、まず、電圧制御回路の基準電圧指令部が電圧減算部へ基準電圧を指令する。この基準電圧は、直流モータを目標回転数で定まる値であり、正値をとる。そして、電圧減算部からPWM信号発生部へ基準電圧に基づく電位が出力される。PWM信号発生部では、オペアンプのコンパレータ等を使用して、電圧減算部の出力電位に基づくデューティ比のPWM信号が生成される。モータ駆動回路は、ブリッジ回路に対して直流電圧を前記PWM信号のデューティ比で印加する。
【0020】
また、直流モータがある回転数で駆動している状態では、その回転数に比例した逆起電圧が生じて、ブリッジ回路の平衡状態が崩れる。その結果、差電圧検出回路が、ブリッジ回路の差電圧を検出する。差電圧検出回路には、例えば、オペアンプによる差動増幅回路を採用してもよい。
【0021】
電圧減算部では、基準電圧から検出された差電圧の絶対値が差し引かれる。つまり、差電圧を電圧減算部の帰還利得に加えることにより、電圧減算部の出力電位は、実際にモータに生じている逆起電圧値が反映された値になる。この出力電位に基づいてPWM信号が生成され、ブリッジ回路にPWM信号のデューティ比の直流電圧が印加されるようになっている。この結果、検出される差電圧が目標回転数で回転した際の計算上の差電圧と一致するように、モータへの印加電圧を制御することができる。電圧減算部には、例えば、オペアンプによる加算回路を採用してもよい。
【0022】
本発明によれば、検出された差電圧の絶対値を基準電圧から差し引いたものを電圧減算部の出力電位とした。このため、電圧減算部の出力電位に基づくデューティ比のPWM信号を発生させる回路(PWM信号発生部)や、PWM信号に基づいてブリッジ回路にそのデューティ比の直流電圧を印加させる回路(モータ駆動回路)については、既存の回路を利用することができる。特に、モータ駆動回路については、モータドライバー(フルブリッジ・モータドライバーIC等)の入出力をそのまま利用できる。従って、逆起電圧を用いたモータ回転制御装置において、モータドライバーを含めたトランジスタレベルの制御回路を一から設計する必要がなく、簡単な部品構成で動作するオペアンプレベルのモータ回転制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明に係る直流モータ回転制御装置10の簡易ブロック図である。この制御装置10によって制御される直流モータは、例えば粗さ測定機の検出器を所定の軸方向に移動させる駆動装置に用いられる。制御装置10の主な構成は、ブリッジ回路1と、モータ駆動回路2と、差電圧検出回路3と、電圧制御回路4である。以下、これらの構成を具体的に説明する。
【0025】
まず、ブリッジ回路1は、三辺に各々抵抗Rs、R1、R2を有し、残りの一辺に直流モータMを有する回路である。
図1では、直流モータMの代わりに、モータの内部抵抗を表す抵抗Raとモータの逆起電圧Eaを表す電圧源の直列回路が、ブリッジ回路1の一辺に示されている。この抵抗Raと逆起電圧Eaの直列回路は、直流モータMの等価回路である。各抵抗値は、直流モータMの停止状態でブリッジ回路1の差電圧(Eb=E1−VM)が零になるように、予め設定されている。つまり、抵抗比がRs:Ra=R1:R2を満たす。
【0026】
モータ駆動回路2は、ブリッジ回路1中の第1抵抗Rs及び直流モータMからなる直列接続の両端に直流電圧を印加する回路である。本実施形態では、市販のフルブリッジ・モータドライバーICの入出力をモータ駆動回路2として採用し、ドライバーICの動作によって直流電圧が制御されるようになっている。モータドライバーICには、ロジック電源VDDとモータドライバー用電源Emとが各々接続されている。また、入力端子IN1、IN2には、正転CW、逆転CCW、停止STOPの各制御信号が入力され、これらの制御信号により、モータの回転方向の切換えと起動・停止を実行できる。
【0027】
モータ駆動回路2のPWM端子にはPWM信号が入力される。PWM信号は、任意のデューティ比Dpwm(オン時間とオフ時間の比)の連続パルス信号であり、このPWM信号に基づいてモータドライバーIC内のスイッチング素子がオンオフ動作を行う。その結果、出力端子M+、M−からブリッジ回路1へそのデューティ比Dpwmの直流電圧(Vcc)が印加される。本実施形態では、デューティ比Dpwmが50%の場合、出力端子M+、M−からモータドライバー電源Emの振幅レベルの半分の電圧が出力される。なお、スイッチング素子には、MOS型の電界効果トランジスタ(MOSFET)等を採用できる。
【0028】
差電圧検出回路3は、直流モータM及び第1抵抗Raの接続点VMと、その他の第2抵抗R1及び第3抵抗R2の接続点E1の二つの接続点VM、E1の差電圧(Eb=E1−VM)を検出する回路である。本実施形態では、オペアンプによる差動増幅回路を用いて差電圧検出回路3を構成した。なお、
図1中のVrefは、接地GNDを示す。
【0029】
電圧制御回路4は、基準電圧Vctlおよび差電圧Ebの検出値に基づく出力電位Vpulsを定め、この出力電位Vpulsに対応したデューティ比DpwmのPWM信号を生成する回路である。この本発明に特徴的な電圧制御回路4の構成について以降に詳しく説明する。
【0030】
<電圧制御回路4の構成>
電圧制御回路4は、基準電圧指令部41、電圧減算部42、PWM信号発生部43を有する。基準電圧指令部41は、目標回転数Nmで直流モータMを回転させた際の差電圧の計算値Eb’に基づいて、基準電圧Vctlを算出し、電圧減算部42へ出力する。説明の都合上、検出された差電圧Ebと区別するため、差電圧の計算値をEb’で表す。また、本実施形態では、基準電圧Vctlの設定範囲が0V〜5Vの正値の範囲になっている。
【0031】
ここで、差電圧の計算値Eb’の算出方法について説明する。まず、目標回転数Nmに直流モータMの逆起電圧定数Vnを乗じた値が逆起電圧Eaになる。直流モータMの逆起電圧定数Vnは、モータの仕様で決定される固定値である。
Ea=Vn・Nm/1000 ・・・(1)
また、接続点E1の電位は基準抵抗R1、R2による分圧電圧に相当し、次式になる。
E1=Vcc・R2/(R1+R2) ・・・(2)
一方、接続点VMの電位は、モータ両端電圧に相当し、次式になる。
VM=(Vcc−Ea)・Ra/(Rs+Ra)+Ea ・・・(3)
【0032】
式(2)、(3)を用いて、二つの接続点VM、E1の差電圧の計算値Eb’と逆起電圧Eaとの関係を整理すると次式のようになる。
Eb’=VM−E1
=Vcc・Ra/(Rs+Ra)−Ea・Ra/(Rs+Ra)
+Ea−Vcc・R2/(R1+R2) ・・・(4)
ここで、抵抗比はRs:Ra=R1:R2の関係があるので、式(4)の第1項と第4項とが打ち消し合って、次式になる。
Eb’=Ea−Ea・Ra/(Rs+Ra)
=Ea・Rs/(Rs+Ra) ・・・(5)
この結果、式(5)中の逆起電圧Eaは式(1)より与えられるので、差電圧Eb’の導出式は、目標回転数Nmのみを変数に持つようになり、目標回転数Nmから差電圧Eb’を算出することができる。本実施形態では、基準電圧指令部41が、式(5)を用いて算出された差電圧Eb’に基づいて、さらに基準電圧Vctlを取得しているが、基準電圧Vctlの算出方法については後述する。
【0033】
また、電圧減算部42は、基準電圧Vctlに検出された差電圧Eb(負の値)を加算した結果を出力電位Vpulsとしてパルス信号発生部43へ出力する。なお、
図1の制御装置は、モータの回転方向を正転のみさせる装置であるが、モータが正転している間、発生する逆起電圧Eaによって差電圧Eb(E1−VM)が負の値をとる。そのため、電圧減算部42は、基準電圧Vctlから検出された差電圧Ebの絶対値を差し引いた電圧を出力電位Vpulsとしてパルス信号発生部43へ出力するとも言える。この電圧減算部42には、例えばオペアンプによる加算回路を用いてもよい。
図1に示す電圧減算部42の構成では、次式の電位Vpulsが出力される。次式は、オペアンプの加算回路で差電圧Ebと基準電圧Vctlを加算する際の一般式であり、Rf、Re、Rdは加算回路を構成する各抵抗の抵抗値を表す。
Vpuls=Rf・(Eb/Re+Vctl/Rd) ・・・(6)
【0034】
次に、PWM信号発生部43は、任意のデューティ比DpwmのPWM信号を生成する回路であり、三角波発振器44およびコンパレータ45より構成される。三角波発振器44はロジック電源VDDで動作するため三角波のピーク電圧はVDDである。例えばピーク電圧VDDが5Vの三角波が発振される。三角波の電圧はコンパレータ45で電圧減算部の出力電位Vpulsと比較される。コンパレータ45は三角波の電圧がVpulsより小さい区間をオン、Vpulsより大きい区間をオフとする矩形波を形成し、これをPWM信号としてモータ駆動回路2へ出力する。この矩形波のオン区間の電圧はVDDに等しく、オフ区間の電圧は零となる。PWM信号発生部43の入力側から見た電圧減算部の出力電位Vpulsと、三角波のピーク電圧(ロジック電源VDD)との関係を次式に示す。
Dpwm=Vpuls/VDD ・・・(7)
【0035】
なお、モータ駆動回路2が供給する直流電圧Vccは、モータドライバー電源EmにPWM信号のデューティ比Dpwmを乗じた値になり、次式で示される。
Vcc=Dpwm・Em ・・・(8)
従って、式(6)を基準電圧Vctlについて展開し、式(7)、式(8)を代入すると、基準電圧Vctlは次式のようになる。
Vctl=(Vpuls−Rf・Eb/Re)・Rd/Rf
=(Dpwm・VDD−Rf・Eb/Re)・Rd/Rf
=((Vcc/Em)・VDD−Rf・Eb/Re)・Rd/Rf
・・・(9)
【0036】
式(9)の基準電圧Vctlについては、例えば、モータ仕様書のパラメータから得られるDpwmの値を用いて、算出することができる。具体的な仕様の一例を用いて、これを説明する。次表のモータ仕様は、定格電圧Emのときの最大回転数がN1またはN2になることを意味している。
【0037】
(表1)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
項目 記号 モータ仕様
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
定格電圧 Em 12 (V) :ドライバ電源電圧
定格回転数 N2 11600(rms)
定格トルク T2 30 (gf・cm)
無負荷回転数 N1 14000(rms)
逆起電圧定数 Vn 0.86 (V/10
3rpm)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0038】
(無負荷時の場合)
デューティ比Dpwmが100%であるとき、回転数は最大となり、N1の値となる。モータ回転数を目標回転数Nmにするためのデューティ比Dpwmは、次式で表される。
Dpwm=Nm/N1 ・・・(10)
ここで、目標回転数Nmを、式(1)の逆起電圧Eaで表すと、
Dpwm=(Ea/Vn)・1000/N1 ・・・(11)
となる。直流電圧Vccの式(8)に、上式を代入すると
Vcc=((Ea/Vn)・1000/N1)・Em ・・・(12)
となり、基準電圧Vctlの式(9)は、以下のように表される。
Vctl=((Vcc/Em)・VDD−Rf・Eb/Re)・Rd/Rf
=(((Ea/Vn)・1000/N1)・VDD−Rf・Eb/Re)
・Rd/Rf ・・・(13)
【0039】
式(13)の変数は逆起電圧Eaと差電圧Ebであるが、どちらも目標回転数Nmから式(1)及び式(5)より求めることができる。従って、基準電圧Vctlを具体的なモータ仕様書のパラメータから算出することができる。
【0040】
なお、負荷時には、最大回転数Nmaxは負荷トルクにより変化するため、予めモータ負荷となる機構部の負荷トルクを試算しておく。負荷トルクと最大回転数とは反比例の関係にあるので、負荷トルクが大きくなると、最大回転数が無負荷回転数N1を基準に減少する。表1のモータ仕様の例では、1gf・cm当りの回転数の変化量Ntは、
Nt=(N2−N1)/T2=(11600−14000)/30
=−80(rpm/(gf・cm)) ・・・(14)
となる。そして、モータ出力から見た機構部の負荷トルクTmが10gf・cmであるとすると、最大回転数Nmaxは、
Nmax=N2−Tm・Nt=14000+10・(−80)
=13200rpm ・・・(15)
となる。従って、10gf・cmの負荷トルクの場合、13200rpm以上の回転はできず、デューティ比Dpwmが100%であるVCCを印加した時の最大回転数は13200rpmとなる。この最大回転数を用いれば式(13)と同様に、負荷時における基準電圧Vctlを算出することができる。
【0041】
<回転制御装置の動作説明>
まず、電圧制御回路4の基準電圧指令部41が電圧減算部42へ、目標回転数Nmに応じた基準電圧Vctlを指令する。例えば、直流モータMが停止している状態では、モータには逆起電圧Eaが生じないため、式(5)に基づき検出される差電圧Ebは零になる。よって、モータ駆動開始の際、電圧減算部42からPWM信号発生部43へは、式(6)により基準電圧Vctlに比例した電位Vpulsが出力される。そして、PWM信号発生部43では、出力電位Vpulsに基づくデューティ比のPWM信号が生成される。モータ駆動回路2は、ブリッジ回路1に向けてPWM信号のデューティ比Dpwmの直流電圧Vccを供給する。
【0042】
また、直流モータMがある回転数Nmで正転している状態では、式(1)のように回転数Nmに比例した逆起電圧Eaが生じる。すると、逆起電圧Eaによりブリッジ回路1の平衡状態が崩れて、差電圧検出回路3がその逆起電圧Eaに起因して生じるブリッジ回路1の差電圧Ebを検出する。この差電圧Eb(E1−VM)は負の値をとる。
【0043】
検出された差電圧Ebは、電圧減算部42で基準電圧Vctlに加算される。言い換えると、電圧減算部42では、基準電圧Vctlから検出された差電圧Ebの絶対値が差し引かれる。つまり、差電圧Ebが電圧減算部42の帰還利得に加えられる。これにより、電圧減算部42の出力電位Vpulsは、実際にモータMに生じている逆起電圧値Eaに起因する差電圧Ebが反映された値になる。この出力電位Vpulsを用いて、PWM信号を発生させて、ブリッジ回路1にそのデューティ比Dpwmの直流電圧が印加される。モータ速度が目標回転数Nmに向かって正転の回転数が増加していくと、検出される差電圧Ebの絶対値も増加して、出力電位Vpulsは減少する。そして、モータ速度が目標回転数Nmに達すると、電圧減算部42の出力電位Vpulsがある値になる。この出力電位Vpulsに基づくデューティ比Dpwmは、ちょうどモータを目標回転数Nmで回転するために必要な直流電圧を生じ得るデューティ比Dpwmになる。このようにブリッジ回路1の差電圧Ebの検出値を電圧減算部42の帰還利得に加えることによって、検出される差電圧Ebが目標回転数Nmで回転した際の計算上の差電圧Eb’と一致するように、モータに印加される直流電圧Vccを制御することができる。
【0044】
本実施形態によれば、基準電圧Vctlから検出された差電圧Ebの絶対値を差し引いたものを電圧減算部42の出力電位Vctlとして用いるようにしたので、PWM信号発生部43や、モータ駆動回路2を既存の回路のままとすることができる。特に、モータ駆動回路2は、ブリッジ回路1にそのPWM信号のデューティ比Dpwmの直流電圧を印加させる回路であるから、既存のモータドライバー(フルブリッジ・モータドライバーIC等)の入出力をそのまま利用できる。従って、モータドライバーを含めたトランジスタレベルの制御回路を一から設計する必要がなく、簡単な部品構成で動作するオペアンプレベルのモータ回転制御装置を提供できる。
【0045】
また、差電圧検出回路3の出力ラインに反転アンプ5を挿入するだけで、モータの逆転動作においても、同じ制御装置を用いて、直流モータMの回転制御を同様に実行することができる。モータが逆転する場合、ブリッジ回路1には正負が反対のVCCが印加される。そのため、差電圧検出回路で検出される差電圧Ebが正の値をとる。
図2に反転アンプ5を追加した制御回路110の構成を示す。反転アンプ5は、モータドライバーICに入力される正転、逆転の制御信号に応じて、オンオフすることが可能なスイッチSWを有する。このスイッチSWのオンオフに応じて、反転アンプ5が差電圧Ebの正負の符号を反転させるようになっている。その結果、モータMの回転方向が逆転の場合であっても、同じ差電圧検出回路3の検出値Ebを用いて、本発明の回転制御を行うことができる。