特許第5809783号(P5809783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5809783ガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケット
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  • 特許5809783-ガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケット 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809783
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】ガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケット
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/08 20060101AFI20151022BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20151022BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20151022BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
   H01M2/08 S
   H01M2/08 W
   C08L81/02
   C08L83/04
   C08L101/12
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-142585(P2010-142585)
(22)【出願日】2010年6月23日
(65)【公開番号】特開2011-29167(P2011-29167A)
(43)【公開日】2011年2月10日
【審査請求日】2013年3月11日
【審判番号】不服2014-12272(P2014-12272/J1)
【審判請求日】2014年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-148583(P2009-148583)
(32)【優先日】2009年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】芳野 泰之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 豊
【合議体】
【審判長】 鈴木 正紀
【審判官】 池渕 立
【審判官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−302740(JP,A)
【文献】 特開2004−296447(JP,A)
【文献】 特開2003−077432(JP,A)
【文献】 特開平07−078603(JP,A)
【文献】 国際公開第02/013290(WO,A1)
【文献】 特開2008−075003(JP,A)
【文献】 特開2004−300270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M2/02
C08L81/02
C08L101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板、セパレータ、電解液、電池ケース、及び封口体を含む二次電池に用いられるガスケットであって、前記ガスケットは、前記正極板と電気的に接続されている正極端子との接点又は前記負極板と電気的に接続されている負極端子との接点に設けられており、前記ガスケットが熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有するガスケット用樹脂組成物からなり、
前記熱可塑性エラストマー(A)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1〜30質量部であり、
前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片が、一定条件下(23℃、10%歪み、試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm)での圧縮応力緩和試験において、100時間後圧縮応力の絶対値が10MPa以上であることを特徴とする二次電池用ガスケット。
【請求項2】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片を用いた引張試験(ASTM D638)において、10%以上の引張破断伸びを有することを特徴とする請求項1記載のガスケット。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、エステル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するものである請求項1または2記載のガスケット。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、α−オレフィン類、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸グリシジル及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれるモノマーを重合させた三元共重合体である請求項1〜3のいずれか一項記載のガスケット。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、エチレン−メタクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体又はエチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体である請求項1〜4のいずれか一項記載のガスケット。
【請求項6】
前記ガスケット用樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)に加え、さらにシリコーン化合物(C)を含有する請求項1〜のいずれか1項記載のガスケット。
【請求項7】
前記シリコーン化合物(C)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)、シリコーン化合物(C)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部である請求項記載のガスケット。
【請求項8】
正極板、負極板、セパレータ、電解液、電池ケース、及び封口体を含む二次電池に用いられるガスケット用樹脂組成物であって、前記ガスケットは、前記正極板と電気的に接続されている正極端子との接点又は前記負極板と電気的に接続されている負極端子との接点に設けられており、前記ガスケット用樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有すること、
前記熱可塑性エラストマー(A)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1〜30質量部であること、
前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片が、一定条件下(23℃、10%歪み、試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm)での圧縮応力緩和試験において、100時間後圧縮応力の絶対値が10MPa以上であること、
を特徴とするガスケット用樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片を用いた引張試験(ASTM D638)において、10%以上の引張破断伸びを有することを特徴とする請求項記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、エステル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有するものである請求項8または9記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、α−オレフィン類、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸グリシジル及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群から選ばれるモノマーを重合させた三元共重合体である請求項8〜10のいずれか一項記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、エチレン−メタクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体又はエチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体である請求項8〜11のいずれか一項記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項13】
前記ガスケット用樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)に加え、さらにシリコーン化合物(C)を含有する請求項8〜12のいずれか1項記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項14】
前記シリコーン化合物(C)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)及びシリコーン化合物(C)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部である請求項13記載のガスケット用樹脂組成物。
【請求項15】
正極板、負極板、セパレータ、電解液、電池ケース、及び封口体を含む二次電池に用いられるガスケット用樹脂組成物の製造方法であって、前記ガスケットは、前記正極板と電気的に接続されている正極端子との接点又は前記負極板と電気的に接続されている負極端子との接点に設けられており、前記ガスケット用樹脂組成物が、熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を混合すること、
前記熱可塑性エラストマー(A)の配合量が、前記熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1〜30質量部であること、
前記樹脂組成物を射出成形して得られる試験片が、一定条件下(23℃、10%歪み、試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm)での圧縮応力緩和試験において、100時間後圧縮応力の絶対値が10MPa以上であること、
を特徴とするガスケット用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池のガスケットに用いられるガスケット用樹脂組成物、その製造方法及び二次電池用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型二次電池は、一般に正極板、負極板及び正極板と負極板との間に配置されたセパレータを含む極板群と、この極板群を浸漬するための電解液とを含む電池素子が一部開口されている電池ケース(外装体)の内部に収容され、電池ケースの開口を封口するための封口体により密閉されている。また、この密閉型二次電池において、例えば正極板と電気的に接続されている正極端子との接点や、負極板と電気的に接続されている負極端子との接点には一対の端子間での短絡防止や電解液の漏出防止のためにガスケットが設けられている。このガスケットには電解液に対する耐電解液性や優れた気密性が要求されている。
【0003】
これらの要求を満たすために、例えば、ガスケット材料として耐湿熱性を向上させたポリアミド樹脂を使用する技術が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、耐湿熱性を向上させたポリアミド樹脂の使用により耐湿熱性をわずかに改善することはできるものの、耐電解液性及び気密性の程度はまだ不十分なものであり、近年求められているリチウムイオン二次電池などに代表される密閉型二次電池(蓄電池)に対して要求されるレベルに至るものではなかった。
【0004】
一方、ガスケット材料として、ポリアリーレンスルフィド樹脂又はテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂を用いたガスケットが優れた気密性や耐電解液性を有することが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−78890号公報
【特許文献2】特開平8−321287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献2に記載された材料は、内部媒体の圧力に耐えられず、近年求められているリチウムイオン二次電池等の密閉型二次電池(蓄電池)に対して要求されるレベルに至らず、材料としては不十分であった。
すなわち、近年、高い理論容量の活物質を電極物質として用いることによってリチウムイオン電池の高容量化が進んだ反面、充放電時に3〜4倍といった大きな体積変化を示すようになり、内部媒体の圧力が格段に高くなっている。さらには、ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)といった車載用途の比重が高くなった結果、従来よりも高い安全性が要求され、高温・高湿の過酷な条件下でのガスケットの気密性や耐電解液性に対する信頼性が極めて高いレベルで必要となってきている。
このような環境変化のなかで、特に「Li/(CF)n系のコイン型電池」を主として想定し発明された上記樹脂組成物のガスケットでは、気密性及び耐電解質性が不十分なものとなっていた。
本発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン二次電池等の密閉型二次電池(蓄電池)に用いられるガスケット用材料として、優れた耐電解液性及び気密性を兼備したガスケット用樹脂組成物及び二次電池用ガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、熱可塑性エラストマー及び特定範囲のピーク分子量を有したポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、「ポリアリーレンスルフィド」は「PAS」と略記することがある。)を含有した樹脂組成物が密閉型二次電池用ガスケットとして好ましい応力緩和特性を示し、当該樹脂組成物を用いた密閉型二次電池用ガスケットが優れた耐電解液性及び気密性を呈することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、正極、負極、封口体、ガスケット、セパレータ及び電解液から構成される二次電池に用いられるガスケットであって、前記ガスケットが熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有するガスケット用樹脂組成物からなることを特徴とする二次電池用ガスケットを提供する。
また本発明は、正極、負極、封口体、ガスケット、セパレータ及び電解液から構成される二次電池に用いられるガスケット用樹脂組成物であって、熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を含有することを特徴とするガスケット用樹脂組成物を提供する。
また本発明は、正極、負極、封口体、ガスケット、セパレータ及び電解液から構成される二次電池に用いられるガスケット用樹脂組成物の製造方法であって、熱可塑性エラストマー(A)及びゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量として28,000〜100,000であるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)を混合することを特徴とするガスケット用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスケット用樹脂組成物は、耐湿熱性及び耐電解液性に優れ、一定歪み下で圧縮されても応力緩和が起こりにくく、ガスケットとして重要な要求特性である気密性を長期間にわたって維持することができる。よって、本発明のガスケット用樹脂組成物は、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の電気機器用途、あるいはハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の車載用途に用いられる二次電池、特に高容量リチウムイオン二次電池用のガスケット等に特に有用である。従って、本発明のガスケットは、耐湿熱性及び耐電解液性に優れ、一定歪み下で圧縮されても応力緩和が起こりにくく、長期間にわたって気密性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は圧縮応力緩和試験に用いた試験片を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で用いる熱可塑性エラストマー(A)は、PAS樹脂(B)を混練する温度で、溶融し混合分散可能であることが好ましい。その点から、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するエラストマーが好ましい。また、耐熱性、混合の容易さ、耐衝撃性の向上の点でポリオレフィン系エラストマー類又はニトリル系エラストマー類が好ましい。
【0012】
前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、エステル基、ビニル基等の官能基を有するものが好ましい、
【0013】
さらに、これらの中でも、酸無水物、酸、エステル等のカルボン酸由来の官能基又はエポキシ基が特に好ましい。
【0014】
前記ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、α−オレフィン類と前記官能基を有するビニル重合性化合物類との共重合で得ることができる。前記α−オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8のα−オレフィン類等が挙げられる。また、前記官能基を有するビニル重合性化合物類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル類等のα,β―不飽和カルボン酸類及びそのアルキルエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素原子数4〜10の不飽和ジカルボン酸とそのモノ及びジエステル類、及びその酸無水物等のα,β―不飽和ジカルボン酸及びその無水物、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0015】
これらの官能基類を複数個、同時に含有した共重合体を用いることができる。これらの好ましい例としては、α−オレフィン類、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のモノマーを重合させた三元共重合体が挙げられる。
【0016】
前記ニトリル系エラストマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の様な不飽和結合を有するニトリルと共役二重結合を有するブタジエン、メチルブタジエン等との共重合により得ることができる。この共重合体は二重結合の一部又は全部を水素添加して耐熱性を高めたタイプはさらに好ましい。
【0017】
これらの官能基を有する熱可塑性エラストマー(A)は、PAS樹脂(B)との分散性が良好になり、均一混合された樹脂組成物を得ることが容易になり、耐電解液性及び気密性が向上する。
【0018】
より具体的な好ましい熱可塑性エラストマー(A)としては、エチレン−メタクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。
【0019】
また、熱可塑性エラストマー(A)の配合量は、熱可塑性エラストマー(A)及びポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の合計100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましく、4〜20質量部であることがより好ましい。
【0020】
次いで、本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(B)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた測定において分子量28,000〜100,000の範囲にピーク分子量を有するものであり、より好ましくは30,000〜70,000の範囲にピーク分子量を有するものである。ピーク分子量が28,000未満の場合、靱性不足となるため、一定歪み下での圧縮応力緩和の状況下でクラック等が発生して、気密性が保てない問題がある。一方、ピーク分子量が100,000を超える場合は押出機によるペレット化及び射出成形が困難となる問題がある。
【0021】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(B)の樹脂構造は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位として有するものであり、具体的には、下記構造式(1)で表される構造部位を繰り返し単位とする樹脂である。
【0022】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)
【0023】
ここで、前記構造式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂(B)の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記構造式(2)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記構造式(3)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0024】
【化2】
【0025】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記構造式(2)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂(B)の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0026】
また、前記PAS樹脂(B)は、前記構造式(1)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(4)〜(7)で表される構造部位を、前記構造式(1)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂(B)の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂(B)中に、上記構造式(4)〜(7)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0027】
【化3】
【0028】
また、前記PAS樹脂(B)は、その分子構造中に、下記構造式(8)で表される3官能性の構造部位、あるいは、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、1モル%以下であること、特に実質的には含まれないことがPAS樹脂(B)中の塩素原子含有量低減の観点から好ましい。
【0029】
【化4】
【0030】
前記PAS樹脂(B)は、例えば、下記(1)〜(4)の方法によって製造することができる。
(1)N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを反応させる方法。
(2)p−ジクロロベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法。
(3)p−ジクロロベンゼンを極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは水硫化ナトリウムと水酸化ナトリウム又は硫化水素と水酸化ナトリウムの存在下で重合させる方法。
(4)p−クロロチオフェノールの自己縮合による方法。
【0031】
これらの中でも(1)のN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを反応させる方法が反応の制御が容易であり、工業的生産性に優れる点から好ましい。
【0032】
また、リニアかつ高分子量のPAS樹脂(B)を工業的に効率よく製造できる点から前記方法(1)のなかでも、特に、固形のアルカリ金属硫化物、ジクロロベンゼン、アルカリ金属水硫化物、有機酸アルカリ金属塩を必須成分とする反応スラリーを調整し、これを加熱して不均一系で重合を行う方法が特に好ましい。かかる重合方法は具体的には、下記の2つの工程を必須の製造工程とする方法が生産性の点から好ましい。
【0033】
[工程1]
含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、N−メチルピロリドンと、非加水分解性有機溶媒とを、脱水させながら反応させて、スラリー(I)を製造する工程。
[工程2]
次いで、前記スラリー(I)中、ジクロロベンゼンと、前記アルカリ金属水硫化物と、前記N−メチルピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩とを、反応させて重合を行う工程。
【0034】
ここで用いる含水アルカリ金属硫化物は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%、特に35〜65質量%であることが好ましい。
【0035】
また、前記含水アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0036】
さらに、前記アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが工程1の脱水処理が容易である点から好ましい。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0037】
また、前記PAS樹脂(B)のピーク分子量及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、次の条件で、6種類の単分散ポリスチレンを校正に用いて、測定することができる。
【0038】
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定条件]
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC−7000」)
カラム:UT−805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1−クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
で6種類の単分散ポリスチレンを校正に用いて分子量分布とピーク分子量を測定する。
【0039】
この方法により測定された分子量が、28,000〜100,000の範囲にピークを有するものが好ましく、30,000〜70,000の範囲にピークを有するものがより好ましい。
【0040】
また、前記PAS樹脂(B)の非ニュートン指数は、次の条件で測定することができる。すなわち、前記PAS樹脂(B)をキャピラリーレオメーターにて、温度300℃の条件下、直径1mm、長さ40mmのダイスを用いて100〜1000( sec−1 )の剪断速度に対する剪断応力を測定し、これらの対数プロットした傾きから計算した値である。
本発明で用いるPAS樹脂(B)は、この方法により測定された非ニュートン指数が、1.0〜1.7のものを用いることができるが、特に、1.10〜1.70のものを用いることが好ましい。
【0041】
以上詳述したPAS樹脂(B)は、さらに、残存金属イオン量を低減して耐湿特性を改善するとともに、重合の際副生する低分子量不純物の残存量を低減できる点から、該PAS樹脂(B)を製造した後に、酸で処理し、次いで、水で洗浄されたものであることが好ましい。
【0042】
ここで使用し得る酸は、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸、プロピル酸がPAS樹脂(B)の分解することなく残存金属イオン量を効率的に低減できる点から好ましく、なかでも酢酸、塩酸が好ましい。
【0043】
酸処理の方法は、酸又は酸水溶液にPAS樹脂を浸漬する方法が挙げられる。この際、必要に応じさらに攪拌又は加熱してもよい。
【0044】
ここで、前記酸処理の具体的方法は、酢酸を用いる場合を例に挙げれば、まずpH4の酢酸水溶液を80〜90℃に加熱し、その中にPAS樹脂(B)を浸漬し、20〜40分間攪拌する方法が挙げられる。
【0045】
このようにして酸処理されたPAS樹脂(B)は、残存している酸又は塩等を物理的に除去するため、次いで、水又は温水で数回洗浄する。このときに使用される水としては、蒸留水又は脱イオン水であることが好ましい。
【0046】
また、前記酸処理に供せられるPAS樹脂(B)は、粉粒体であることが好ましく、具体的には、ペレットのような粒状体でも、重合した後のスラリー状態体にあるものでもよい。
【0047】
さらに、本発明のガスケット用樹脂組成物は、図1に示すような圧縮応力緩和用試験片(試験片厚さ3mm、圧縮面側表面積60mm)に成形した後、恒温槽を備えたオートグラフによって10%歪み下(温度条件:23℃)で圧縮応力緩和を測定した際の100時間後における圧縮応力の絶対値は、10MPa以上である。通常、圧縮応力は経時的に大きく低下するが、本発明においては、PAS樹脂(B)及び熱可塑性エラストマー(A)を含有する樹脂組成物を用いることにより、現行ガスケットとして用いられているPFAよりも圧縮応力が大きいため、二次電池に必要とされる気密性(シール性)を十分に維持することができる。
【0048】
また、本発明のガスケット用樹脂組成物は、オートグラフによる引張試験(ASTM D638)において、引張破断伸びが10%以上であるものがより好ましい。引張破断伸びが10%以上であれば、さらに高い靱性を有することになり、靱性不足によるクラック等の発生を防止でき、ガスケットの気密性を維持することができる。
【0049】
また、本発明のガスケット用樹脂組成物に、組成物としてシリコーン化合物(C)を配合すると、引張破断伸びが向上するため、より信頼性の高い気密性を維持できるため好ましい。このシリコーン化合物(C)としては、主鎖にシロキサン結合を有する下記一般式(9)で表されるポリオルガノシロキサンが好ましい。
【0050】
R−〔SiR−O〕−R (9)
(式中、Rは水素原子、有機基を表し、nは2以上の整数である。)
【0051】
これらの中でも、特に上記一般式(9)中のRが総てメチル基であるポリジメチルシロキサンが好ましく、該ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部を、水素原子又はその他の置換基に置き換えたものも好ましい。
【0052】
ここで、その他の置換基としては、炭素原子数2以上のアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シリルアルキル基、ポリオキシアルキレン基及び反応性官能基が挙げられ、複数のメチル基を置換する場合は、これらの中から、互いに同一あるいは異なるものを選択可能である。
【0053】
炭素原子数2以上のアルキル基としては、例えばエチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられる。アリール基としては例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0054】
ハロゲン化アルキル基としては例えば、フルオロプロピル基、クロロプロピル基等が挙げられる。
【0055】
シリルアルキル基は、下記一般式(10)で表されるものがその代表的な具体例として挙げられる。
【0056】
−(CH−Si(OCH (10)
(式中、nは1以上の整数である。)
【0057】
ポリオキシアルキレン基は、下記一般式(11)で表されるものがその具体例として挙げられる。
【0058】
−〔CH−O−〔CO〕−〔CO〕−R (11)
(式中、k、l、mは、0又は正の整数であり、l、mは同時に0でない整数をとる。また、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、シリルアルキル基及び後述する反応性官能基からなる群から選ばれる1種以上の置換基である。)
【0059】
特にシリコーン化合物(C)には、反応性官能基を有することが好ましい。反応性官能基の具体例としては、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、カルボキシル基、水酸基、イソシアネート基、アミド基、アシル基、及びニトリル基、酸無水基等が挙げられる。これらの反応性官能基は主鎖に直接結合していても良く、あるいは主鎖に結合したアルキレン基、ポリオキシアルキレン基等の有機基の末端に結合していても良い。その中で特にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基とアミノ基は好ましく、エポキシ基とアミノ基はさらに好ましい。
【0060】
前記シリコーン化合物(C)は、樹脂組成物中で均一に分散されることにより電解液に対する耐久性向上に効果が発揮されるものであり、この観点からシリコーン化合物(C)の粘度(25℃)は、10〜100,000mPa・sが好ましく、特に10〜80,000mPa・sの範囲にあるオイル状のものが好適である。なお、本発明の樹脂組成物中にシリコーン化合物を均一に分散させるため、シリコーン化合物はシリカなどの無機粉体に担持させたものを用いてもよい。
【0061】
前記シリコーン化合物(C)中に反応性官能基を含有していると、樹脂組成物へのシリコーン化合物の分散を良好にし、そのため耐衝撃性の向上を計ることができる。さらにシリコーン化合物が成型品表面に滲み出る、いわゆるブリードアウトを抑制する効果がある点からも好ましい。
【0062】
シリコーン化合物(C)中の反応性官能基の含有率は、耐衝撃性、強靭性の付与により好ましい効果を与えることから、400g/当量(以下「g/eq」と略記する。)以上が好ましく、混合の容易さの点で50,000g/eq以下が好ましい。
【0063】
また、シリコーン化合物(C)の配合量は、PAS樹脂(B)、熱可塑性エラストマー(A)及びシリコーン化合物(C)の合計100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることがより好ましい。
【0064】
本発明のガスケット用樹脂組成物には、組成物としてシラン化合物を配合してもよい。シラン化合物としては、例えば、アミノアルコキシシラン、エポキシアルコキシシラン、ビニルアルコキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0065】
前記アミノアルコキシシランとしては、1分子中にアミノ基を1つ以上有し、アルコキシ基を2つ以上有するシラン化合物であれば用いることができ、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0066】
また、前記エポキシアルコキシシランとしては、1分子中にエポキシ基を1つ以上有し、アルコキシ基を2つ以上有するシラン化合物であれば用いることができ、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0067】
さらに、前記ビニルアルコキシシランとしては、1分子中にビニル基を1つ以上有し、アルコキシ基を2つ以上有するシラン化合物であれば用いることができ、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0068】
本発明では、さらに上記各成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で繊維状強化材又は無機質フィラーを添加してもよい。
【0069】
前記繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、PAN系又はピッチ系の炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真ちゅう等の金属の繊維状物の無機質繊維状物質、及びアラミド繊維等の有機質繊維状物質等が挙げられる。
【0070】
また、無機質フィラーは、例えば、マイカ、タルク、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、クレー、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ゼオライト、パイロフィライト等の珪酸塩や炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、アルミナ、酸化マグネシウム、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化鉄等の金属酸化物、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムなどが挙げられる。これらの繊維状強化材及び無機質フィラーは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0071】
さらに、本発明のガスケット用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、安定剤、加工熱安定剤、可塑剤、離型剤、着色剤、滑剤、耐候性安定剤、発泡剤、防錆剤、ワックスを適量配合してもよい。
【0072】
さらに、本発明のガスケット用樹脂組成物には、要求される特性に合わせてその他の樹脂成分を適宜配合してもよい。ここで用いることができる樹脂成分としては、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネ−ト、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエ−テルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリアリールエーテルなどの単独重合体、ランダム共重合体又はブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。
【0073】
本発明のガスケット用樹脂組成物の製造する方法としては、具体的には、前記PAS樹脂(B)及び熱可塑性エラストマー(A)を、さらに必要に応じてその他の配合成分をタンブラー又はヘンシェルミキサーなどで均一に混合、次いで、2軸押出機に投入し、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜0.2(kg/hr・rpm)なる条件下に溶融混練する方法が挙げられる。
【0074】
上記の製造方法について、さらに詳述すれば、前記した各成分を2軸押出機内に投入し、設定温度330℃、樹脂温度350℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が挙げられる。この際、樹脂成分の吐出量は回転数250rpmで5〜50kg/hrの範囲となる。なかでも特に分散性の点から20〜35kg/hrであることが好ましい。よって、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、特に0.08〜0.14(kg/hr・rpm)であることが好ましい。
【0075】
このようにして溶融混練されたガスケット用樹脂組成物は、通常ペレット状にカッティングされる。また、得られたペレットを成形機に供給して溶融成形することにより、最終的に目的とする形状の成形物が得られる。
【0076】
ここで溶融成形する方法は、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられるが、このうち二次電池用ガスケットを成形する方法としては、射出成形が特に好ましい。
【0077】
本発明のガスケット用樹脂組成物は、例えば、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラ等の電気機器用途、あるいはハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の車載用途に用いられる二次電池、特に高容量リチウムイオン二次電池用のガスケット等に特に有用である。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1〜8及び比較例1〜4
表1及び表2に記載する配合量にしたがい、PAS樹脂であるポリフェニレンスルフィド、熱可塑性エラストマー及びその他配合材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM−35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。次いで、このペレットを用いて以下の各種評価試験を行った。試験及び評価の結果は、表1及び2に示す。
【0079】
[引張破断伸びの測定]
測定対象樹脂配合物の試験片をASTM4号ダンベル形状で作成し、ASTM D638に従って、株式会社島津製作所製「オートグラフ AG−5000C」にて測定し、引張破断伸びを測定した。
【0080】
[圧縮応力緩和試験]
樹脂組成物ペレットを射出成形機を用いて成形し、射出成形機により縦8mm×横8mm×厚さ3mmの平板を成形し、図1に示すような圧縮応力緩和用試験片を作製した。この試験片を用い、恒温層を備えた株式会社島津製作所製「オートグラフ AG−50KNX」により10%歪み下(温度条件:23℃及び60℃)で圧縮応力緩和を測定し、100時間後の圧縮応力を求めた。
【0081】
[気密性の評価]
樹脂組成物ペレットを射出成形機を用いて成形し、形状が縦8mm×横8mm×高さ10mmで厚さ0.8mmの箱形成型品を作成した。次いで、この箱形成型品に電解液(1mol/LのLiPF/エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)(容量1:1混合溶液)溶液、キシダ化学株式会社製)を入れ、圧縮応力緩和試験で用いた縦8mm×横8mm×厚さ3mmの平板で一定応力(10%歪み下)で封をした気密試験用サンプルを作成する。これを60℃の乾熱下で放置し、液の漏れ具合について確認した。なお、評価結果は以下のように表示した。
◎:200時間後に液の漏れを生じない。
○:100時間後に液の漏れが生じない。
×:100時間後に液の漏れが生じる。
【0082】
なお、表1及び表2中の配合樹脂、材料は下記のものである。
(1)PPS−1:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LD−10G」;ピーク分子量 35,000、非ニュートン指数 1.56)
(2)PPS−2:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP ML−320」:ピーク分子量 41,000、非ニュートン指数 1.27)
(3)PPS−3:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−2G」;ピーク分子量 34,000、非ニュートン指数 1.12)
(4)PPS−4:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−100G」;ピーク分子量 20,000、非ニュートン指数 1.05)
(5)PPS−5:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP HC−270」;ピーク分子量 30,000、非ニュートン指数 1.62)
(6)PPS−6:ポリフェニレンスルフィド(DIC株式会社製「DSP LR−300G」;ピーク分子量 25,000、非ニュートン指数 1.08)
(7)ELA−1:エチレン−メタクリル酸グリシジル−アクリル酸メチル共重合体(住友化学工業株式会社製「ボンドファースト7L」)
(8)ELA−2:エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体(住友化学工業株式会社製「ボンダインAX8390」)
(9)Si−1:アミノ基含有シリコーン(信越化学工業株式会社製「KF−868」)
(10)PFA:テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(ダイキン工業株式会社製の「ネオフロンAP−201」)
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1に示した評価結果より、本発明のガスケット用樹脂組成物は、ガスケットとして用いた場合、優れた気密性を有し、二次電池に必要とされる気密性を維持することができることが分かった。
【0086】
一方、表2に示した評価結果より、比較例1及び2は、熱可塑性エラストマー(A)を配合しなかった例であるが、引張破断伸びが低く、気密性が不十分であることが分かった。また、比較例3及び4は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が28,000未満であるPAS樹脂を用いた例であるが、引張破断伸びが低く、気密性が不十分であることが分かった。さらに、比較例5は、従来、ガスケットとして用いられてきているPFA樹脂の例であるが、引張破断伸びは高いが、10%歪み下(温度条件:23℃、60℃)での100時間後圧縮応力の絶対値は、6MPa及び5MPaとなり、本発明のガスケット用樹脂組成物の20〜40MPaと比較して大幅に低く、結果として気密性が不十分であることが分かった。
図1