(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭くなっている。
【0003】
半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。ここで、微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、電子ビームを用いた描画装置が用いられる。この装置は、本質的に優れた解像度を有し、また、焦点深度を大きく確保することができるので、高い段差上でも寸法変動を抑制できるという利点を有する。
【0004】
特許文献1には、電子ビームリソグラフィ技術に使用される可変成形型電子ビーム描画装置が開示されている。こうした装置における描画データは、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などの設計データ(CADデータ)に、補正や図形パターンの分割などの処理を施すことによって作成される。例えば、図形パターンの分割処理は、電子ビームのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で行われ、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のフレーム(主偏向領域)単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、主偏向領域のサイズにしたがった複数の帯状のフレームデータと、フレーム内で主偏向領域よりも小さい複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
【0005】
副偏向領域は、副偏向器によって、主偏向領域よりも高速に電子ビームが走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器により形成される。具体的には、電子銃から出射された電子ビームが、第1のアパーチャで矩形状に成形された後、成形偏向器で第2のアパーチャ上に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、副偏向器と主偏向器により偏向されて、ステージ上に載置されたマスクに照射される。
【0006】
ところで、マスクにパターンを描画する際、マスク面において、直交する2方向で像面が異なる非点収差が生じる場合がある。このため、非点を補正する処理が行われる。補正は、主偏向非点について行われ、副偏向非点については行われない。これは、副偏向領域は主偏向領域に比べて小さく、偏向非点によるパターン寸法の変動が小さいことによる。しかしながら、LSIの高集積化に伴うパターンの微細化によって、副偏向領域における偏向非点の影響が無視できないものとなる可能性がある。こうした点に鑑み、特許文献2には、主偏向非点と副偏向非点の両方を補正する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の方法によれば、方向によって異なる電子ビームの焦点位置が同じとなるように補正することができる。つまり、電子ビームの照射スポットのぼけを改善することができる。しかしながら、この場合、主偏向器による非点補正によって倍率に異方性が生じる。すなわち、方向によって像面の倍率に違いが生じ、電子ビームのショット形状が歪むという問題が起こる。こうした問題は、描画精度に対する要求が高まっている昨今にあっては、無視できないものとなっている。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、偏向位置によって電子ビームのショット形状が歪むのを抑制できる荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、荷電粒子ビームを集束する電磁レンズと、
荷電粒子ビームを偏向する主偏向器と、
主偏向器とは異なる四重極場を発生させる1つ以上の四重極場発生手段とを有し、
主偏向器と四重極場発生手段によって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と、荷電粒子ビームの像面の倍率の異方性とを補正することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【0012】
本発明の第1の態様は、主偏向器に印加する偏向信号の補正量であって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と荷電粒子ビームの像面の倍率の異方性とを補正する第1の補正量を算出する第1の演算部と、
四重極場発生手段に印加する偏向信号の補正量であって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と荷電粒子ビームの像面の倍率の異方性とを補正する第2の補正量を算出する第2の演算部と、
第1の補正量を用いて主偏向器に印加する偏向信号を生成するとともに、第2の補正量を用いて四重極場発生手段に印加する偏向信号を生成する偏向信号生成部とを有することが好ましい。
【0013】
本発明の第1の態様において、四重極場発生手段は、荷電粒子ビームを偏向する副偏向器とすることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、電磁レンズにより荷電粒子ビームを試料上に集束し、試料上における荷電粒子ビームの照射位置を主偏向器で制御する荷電粒子ビーム描画方法において、
主偏向器と、主偏向器とは異なる四重極場を発生させる1つ以上の四重極場発生手段とによって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と、荷電粒子ビームの像面の倍率の異方性とを補正することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第2の態様において、四重極場発生手段は、荷電粒子ビームを偏向する副偏向器であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、偏向位置によって電子ビームのショット形状が歪むのを抑制できる荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施の形態における電子ビーム描画装置の構成を示す概念図である。
【0019】
図1において、電子ビーム描画装置100は、可変成形型の電子ビーム描画装置の一例であり、描画部150と制御部160を備えている。
【0020】
描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。
【0021】
電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、成形偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208および副偏向器209が配置されている。照明レンズ202、投影レンズ204および対物レンズ207は、励磁を変えて結像位置を調節する電磁レンズである。
【0022】
描画室103の内部には、XYステージ105が配置される。
【0023】
XYステージ105上には、描画対象となるマスクなどの試料216が載置されている。試料216としてマスクを用いる場合、その構成は、例えば、石英などのマスク基板上に、クロム(Cr)膜やモリブデンシリコン(MoSi)膜などの遮光膜が形成され、さらにその上にレジスト膜が形成されたものとすることができる。そして、このレジスト膜上に、電子ビーム描画装置100を用いて所定のパターンを描画する。
【0024】
また、XYステージ105上で、試料216と異なる位置には、レーザ測長用の反射ミラー106が配置される。レーザ測長機145から出射されたレーザ光が反射ミラー106で反射され、これをレーザ測長機145が受光することで、XYステージ105の位置が求められる。得られたデータは、制御計算機110の描画データ処理部112に出力される。
【0025】
描画室103の上部には、試料216の高さ方向(Z方向)の位置を検出するZセンサ107が配置される。Zセンサ107は、投光器と受光器の組合せから構成され、投光器から照射された光を試料216の表面で反射させ、この反射光を受光器が受光することで、試料216の高さを測定することができる。Zセンサ107によって検出された高さデータは、検出器143に送られてデジタルデータに変換された後、制御計算機110の描画データ処理部112に出力される。
【0026】
ブランキング偏向器212は、例えば、2極または4極などの複数の電極によって構成される。成形偏向器205、主偏向器208および副偏向器209は、例えば、4極または8極などの複数の電極によって構成される。各偏向器には、電極毎に少なくとも1つのDAC(デジタル・アナログコンバータ)アンプユニットが接続される。
【0027】
制御部160は、制御計算機110、偏向制御回路120、DACアンプユニット132、134、メモリ142および磁気ディスク装置などの記憶装置144を有している。
【0028】
制御計算機110、偏向制御回路120、メモリ142および記憶装置144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御回路120とDACアンプユニット132、134も、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0029】
DACアンプユニット132は、副偏向器209に接続される。また、DACアンプユニット134は、主偏向器208に接続される。尚、図示を省略しているが、ブランキング偏向器212と成形偏向器205にも、それぞれDACアンプユニットが接続される。
【0030】
偏向制御回路120からは、各DACアンプユニットに対して、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。各DACアンプユニットでは、それぞれのデジタル信号がアナログ信号に変換され、さらに増幅される。その後、この信号は、偏向電圧として接続された偏向器に出力される。
【0031】
以上のようにして、各偏向器に接続するDACアンプユニットから、各偏向器に対して偏向電圧が印加される。これにより、電子ビームを偏向させることができる。
【0032】
本実施の形態において、主偏向器208および副偏向器209は、それぞれ8極の電極によって構成される。各電極には、それぞれ少なくとも1つのDACアンプユニットが接続され、偏向制御回路120は、各偏向器を制御するための複数のデジタルデータをDACアンプユニットに同期をとりながら送信する。ここでいうデジタルデータは、各偏向器を構成する複数の電極への指示電圧信号(デジタル信号)である。各電極に対応して設けられた各DACアンプユニットは、偏向制御回路120から受信したデジタルデータをDA変換し、DA変換後のアナログデータを増幅し、さらにその増幅されたアナログデータを対応する偏向器の電極に送信する。
【0033】
図2は、
図1に示した主偏向器208における8極の電極130a〜130hと、各電極にアナログデータを印加する8個のDACアンプユニット232a〜232hを示す図である。8個の電極130a〜130hは、対向する4対の電極からなっており、それぞれ対応するDACアンプユニット232a〜232hからアナログ電圧が印加される。
【0034】
具体的には、電極130aには、DACアンプユニット232aから電圧「y」が印加され、電極130aの対極となる電極130eには、DACアンプユニット232eから電圧「−y」が印加される。また、電極130bには、DACアンプユニット232bから電圧「(x+y)/2
1/2」が印加され、電極130bの対極となる電極130fには、DACアンプユニット232fから電圧「(−x−y)/2
1/2」が印加される。また、電極130cには、DACアンプユニット232cから電圧「x」が印加され、電極130cの対極となる電極130gには、DACアンプユニット232gから電圧「−x」が印加される。さらに、電極130dには、DACアンプユニット232dから電圧「(x−y)/2
1/2」が印加され、電極130dの対極となる電極130hには、DACアンプユニット232hから電圧「(−x+y)/2
1/2」が印加される。
【0035】
例えば、
図1のDACアンプユニット134が、
図2のDACアンプユニット232a〜232hによって構成されるとする。この場合、
図1の偏向制御回路120から、主偏向器208の各電極130a〜130h制御用のデジタルデータが、各DACアンプユニット232a〜232hに送信されると、各DACアンプユニット232a〜232hから、各電極130a〜130hに、アナログ電圧が印加される。
【0036】
尚、主偏向器208および副偏向器209は、それぞれ4対(8極)の電極で構成される場合に限られるものではない。例えば、各偏向器を2対(4極)、6対(12極)、8対(16極)または10対(20極)などの電極で構成してもよい。
【0037】
図5は、電子ビームによる描画方法の説明図である。この図に示すように、試料216の上に描画されるパターン51は、短冊状のフレーム領域52に分割されている。電子ビーム200による描画は、
図1でXYステージ105が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域52毎に行われる。フレーム領域52は、さらに副偏向領域53に分割されており、電子ビーム200は、副偏向領域53内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域52は、主偏向器208の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域53は、副偏向器209の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0038】
副偏向領域53の基準位置の位置決めは、主偏向器208で行われ、副偏向領域53内での描画は、副偏向器209によって制御される。すなわち、主偏向器208によって、電子ビーム200が所定の副偏向領域53に位置決めされ、副偏向器209によって、副偏向領域53内での描画位置が決められる。さらに、成形偏向器205とビーム成形用のアパーチャ203、206によって、電子ビーム200の形状と寸法が決められる。そして、XYステージ105を一方向に連続移動させながら、副偏向領域53内を描画し、1つの副偏向領域53の描画が終了したら、次の副偏向領域53を描画する。フレーム領域52内の全ての副偏向領域53の描画が終了したら、XYステージ105を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域52を順次描画していく。
【0039】
副偏向領域53は、副偏向器209によって、主偏向領域よりも高速に電子ビーム200が走査されて描画される領域であり、一般に最小描画単位となる。副偏向領域内を描画する際には、パターン図形に応じて準備された寸法と形状のショットが成形偏向器205により形成される。具体的には、
図1に示す電子銃201から出射された電子ビーム200が、第1の成形アパーチャ203で矩形状に成形された後、成形偏向器205で第2の成形アパーチャ206に投影されて、そのビーム形状と寸法を変化させる。その後、電子ビーム200は、上述の通り、主偏向器208と副偏向器209により偏向されて、XYステージ105上に載置された試料216に照射される。
【0040】
本実施の形態において、主偏向器208は、1つのDACアンプユニット134によって偏向電圧を印加され、この印加電圧に応じて磁界を発生させて電子ビーム200を偏向する。このとき、光学系の像は、理想的には点像となるべきであるが、直交する2方向で結像点が異なる非点収差によってぼけが生じる。非点収差の原因としては、主偏向器を構成する2つの偏向器における物理的な要因(組み立て誤差)と、電子ビーム光学系を構成するレンズの収差とが挙げられる。そこで、主偏向器208に補正電圧を印加して、X方向とY方向の結像位置がずれた状態から、X方向とY方向の結像位置が一致した状態になるように調整する。
【0041】
例えば、
図2において、電極130a、130b、130e、130fには、値が同じで符号も同じ、例えば、プラスの電圧が印加される。一方、これらの電極に対して、90度回転させた位置に配置された電極130c、130d、130g、130hには、上記電圧の符号を反転させた逆電圧、例えば、マイナスの電圧が印加される。これにより、非点を補正する方向に進めることができる。
【0042】
上記のようにすることで、方向によって異なる電子ビームの焦点位置を、主偏向領域で補正することができる。つまり、電子ビームの照射スポットのぼけを、主偏向領域において改善することができる。しかしながら、この補正により、方向によって像面の倍率に違いが生じ、電子ビームのショット形状が歪むという問題が生じる。尚、以下では、方向による像面の倍率の違いに起因した像の歪みを「XY差」ということがある。これは、「方向によって倍率が異なる」といったときの「方向」が、装置のX軸とY軸に一致している特別な場合にあたる。
【0043】
図3および
図4を用いてXY差を説明する。尚、これらの図において、符号200a〜200eおよび符号200a’〜200e’は、電子ビームのショットを示している。
【0044】
図3は、XY差が生じていない例である。
図3において、ショット200a〜200eは、互いに異なる偏向位置にショットされたものである。但し、ショット200aについては偏向が行われていない。
図3では、いずれのショットも形状に歪みがなく、XY差は生じていない。
【0045】
図4は、XY差が生じている例である。
図4において、ショット200a’〜200e’は、互いに異なる偏向位置にショットされたものである。偏向が行われていないショット200a’の形状には歪みがない。しかし、Y方向と−Y方向にそれぞれ偏向されたショット200b’とショット200d’では、Y方向の倍率がX方向の倍率より低くなっているため、形状に歪みが生じている。また、X方向と−X方向にそれぞれ偏向されたショット200c’とショット200e’では、X方向の倍率がY方向の倍率より低くなっている。したがって、これらのショットにも形状に歪みが生じている。
【0046】
図6は、XY差を説明する概念図である。主偏向器208に印加された補正電圧によって非点補正された電子ビーム200は、対物レンズ207を透過した後、試料216に照射される。このとき、偏向された電子ビーム200は、偏向非点を補正した影響で、X方向とY方向で開き角が異なるようになる。例えば、X方向の開き角をθ1、Y方向の開き角をθ2とすると、θ1≠θ2となるため、X方向とY方向で角倍率が異なり、方向によって像面の倍率に違いが生じる結果となる。
【0047】
XY差があると、所望とする形状のパターンを試料上に描画することができなくなる。特に、高い描画精度が要求される場合にあっては、XY差によるショット形状の歪みは無視できないものとなる。そこで、本実施の形態では、主偏向非点の補正に加えて、像面の倍率が方向によって異なること(倍率の異方性)により歪んだ像の形状を補正する。具体的には、主偏向器とは別に四重極場を発生させる手段を1つ以上設ける。つまり、主偏向器を構成する偏向器によって発生する四重極場以外の四重極場を発生させる手段を設け、主偏向器と合わせた2箇所以上の四重極場発生領域によってXY差を補正する。
【0048】
四重極場発生手段は、四重極の電極であってもよく、偏向器であってもよい。本実施の形態では、副偏向器を四重極場発生手段として用いる。これにより、電子ビーム描画装置の空間利用効率を高めることができる。一方、四重極の電極を四重極場発生手段とする場合、この電極は、主偏向非点とXY差を補正するための補正電極としてのみ用いることができる。つまり、この電極に電子ビームを偏向するなどの機能は不要であり、また、印加電圧も偏向電圧に比較して低くなることから、簡単な回路構成の電極で済むという利点がある。
【0049】
以下では、電子ビーム描画装置100において、主偏向非点の補正とともに、XY差も補正して得られた偏向電圧を、主偏向器208と副偏向器209に印加し、試料216上に所望のパターンを描画する方法について述べる。
【0050】
図1において、制御計算機110には、記憶装置144が接続される。また、制御計算機110の内部には、描画データ処理部112が配置される。
【0051】
設計者(ユーザ)が作成したCADデータは、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データに変換される。設計中間データには、レイヤ(層)毎に作成されて、試料上に形成される設計パターンデータが格納される。ここで、一般に、電子ビーム描画装置は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、電子ビーム描画装置の製造メーカー毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各電子ビーム描画装置に固有のフォーマットデータに変換されてから装置に入力される。
【0052】
図1では、記憶装置144を通じて、電子ビーム描画装置100にフォーマットデータが入力される。
【0053】
設計パターンに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものであるので、入力部には、例えば、図形の基準位置における座標(x,y)、辺の長さ、長方形や三角形などの図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置などを定義した図形データが格納される。
【0054】
さらに、数十μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。クラスタデータまたはセルデータは、さらにフレームまたはストライプと称される、幅が数百μmであって、長さがフォトマスクのX方向またはY方向の全長に対応する100mm程度の短冊状領域に配置される。
【0055】
図形パターンの分割処理は、電子ビームのサイズにより規定される最大ショットサイズ単位で行われ、併せて、分割された各ショットの座標位置、サイズおよび照射時間が設定される。そして、描画する図形パターンの形状や大きさに応じてショットが成形されるように、描画データが作成される。描画データは、短冊状のフレーム(主偏向領域)単位で区切られ、さらにその中は副偏向領域に分割されている。つまり、チップ全体の描画データは、主偏向領域のサイズにしたがった複数の帯状のフレームデータと、フレーム内で主偏向領域よりも小さい複数の副偏向領域単位とからなるデータ階層構造になっている。
【0056】
図1において、制御計算機110によって記憶装置144から読み出された描画データは、描画データ処理部112で複数段のデータ処理を受ける。これによりショットデータが生成される。ショットデータは、偏向制御回路120の偏向量演算部121へ送られる。
【0057】
偏向量演算部121は、描画データ処理部112から、ショットデータ、XYステージ105の位置情報および試料216の高さ情報を送られて、主偏向器208と副偏向器209の各偏向量を演算する。得られた各偏向量は、主偏向補正量演算部(本願明細書において、第1の演算部とも言う。)122と副偏向補正量演算部(本願明細書において、第2の演算部とも言う。)123へ送られる。
【0058】
メモリ142には、偏向非点補正とXY差補正を同時に満たすテーブルが格納されている。
【0059】
XY差を生じない偏向非点テーブルの取得は、例えば、次のようにして行うことができる。
【0060】
電子ビーム描画装置100において、対物レンズ207によって試料216上で電子ビーム200の焦点が合わされる位置において、主偏向器208で電子ビーム200を複数の位置に偏向する。そして、各偏向位置で発生した非点を測定し、偏向位置と非点のマップを作成する。同様に、各偏向位置で発生したXY差を測定し、偏向位置とXY差のマップを作成する。これらの非点とXY差を主偏向器208と副偏向器209への印加電圧によって補正する。具体的には、X方向とY方向で電子ビーム200の結像位置がずれた状態から一致した状態になるように、主偏向器208に印加する電圧を調整する。そして、非点が補正された状態を維持しながら、主偏向器208と副偏向器209に印加する電圧を調整する。これにより、主偏向非点とXY差を同時に補正することのできる、主偏向器と副偏向器への各補正電圧の組合せのテーブルが得られる。
【0061】
偏向非点とXY差の補正は、上述の方法に限られるものではなく、例えば、補正係数を用いて行ってもよい。具体的には、電子ビーム描画装置100において、対物レンズ207によって試料216上で電子ビーム200の焦点が合わされる位置に、主偏向器208で電子ビーム200を複数の位置に偏向する。そして、偏向量と、これに対応する偏向非点とXY差の補正量をプロットし、各偏向器について補正量のフィッティングを行って、近似式の係数を求める。こうして得られた係数が、各偏向器の補正量の補正係数である。
【0062】
尚、XY差を主偏向器と四重極の電極によって補正する場合には、次のようにして、XY差を生じない偏向非点テーブルを得ることができる。
【0063】
まず、電子ビーム描画装置100において、対物レンズ207によって試料216上で電子ビーム200の焦点が合わされる位置において、主偏向器208で電子ビーム200を複数の位置に偏向する。そして、各偏向位置で発生した非点を測定し、偏向位置と非点のマップを作成する。同様に、各偏向位置で発生したXY差を測定し、偏向位置とXY差のマップを作成する。これらの非点とXY差を主偏向器208と四重極の電極への印加電圧によって補正する。具体的には、X方向とY方向で電子ビーム200の結像位置がずれた状態から一致した状態になるように、主偏向器208に印加する電圧を調整する。そして、非点が補正された状態を維持しながら、主偏向器208と四重極の電極に印加する電圧を調整する。これにより、主偏向非点とXY差を同時に補正することのできる、主偏向器と四重極の電極への各補正電圧の組合せのテーブルが得られる。
【0064】
また、主偏向器と四重極の電極を用いて補正する場合、補正係数は次のようにして得ることができる。例えば、電子ビーム描画装置100において、対物レンズ207によって試料216上で電子ビーム200の焦点が合わされる位置に、主偏向器208で電子ビーム200を複数の位置に偏向する。そして、偏向量と、これに対応する偏向非点とXY差の補正量をプロットし、主偏向器208と四重極の電極について補正量のフィッティングを行って、近似式の係数を求める。こうして得られた係数が、主偏向器208と四重極の電極の補正量の補正係数である。
【0065】
図1において、主偏向補正量演算部122は、メモリ142に格納された、偏向非点補正とXY差補正を同時に満たすテーブルを参照し、偏向量演算部121から送られた偏向量に応じた第1の補正量を求める。第1の補正量は、主偏向器に印加する偏向信号の補正量であって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と、電子ビームの像面の倍率の異方性を補正する補正量である。
【0066】
一方、副偏向補正量演算部123は、メモリ142に格納された、偏向非点補正とXY差補正を同時に満たすテーブルを参照し、偏向量演算部121から送られた偏向量に応じた第2の補正量を求める。第2の補正量は、副偏向器に印加する偏向信号の補正量であって、主偏向器の偏向量に依存して生じる非点と、電子ビームの像面の倍率の異方性を補正する補正量である。
【0067】
主偏向補正量演算部122で算出された第1の補正量は、偏向信号生成部124へ送られる。また、副偏向補正量演算部123で算出された第2の補正量も偏向信号生成部124へ送られる。
【0068】
偏向信号生成部124は、第1の補正量を用いて、主偏向器208の各電極に印加すべき偏向信号を生成し、これをDACアンプユニット134へ出力する。
【0069】
また、偏向信号生成部124は、第2の補正量を用いて、副偏向器209の各電極に印加すべき偏向信号を生成し、これをDACアンプユニット132へ出力する。
【0070】
DACアンプユニット134は、偏向信号生成部124から出力されたデジタル信号の偏向信号をアナログ信号に変換した後、増幅して偏向電圧を生成する。そして、この偏向電圧を主偏向器208へ印加する。また、DACアンプユニット132は、偏向信号生成部124から出力されたデジタル信号の偏向信号をアナログ信号に変換した後、増幅して偏向電圧を生成する。そして、この偏向電圧を副偏向器209へ印加する。これにより、主偏向非点と倍率の異方性が補正された電子ビーム200が試料216に照射される。
【0071】
図7は、本実施の形態により、電子ビームが試料に照射される様子を示す図である。この図に示すように、対物レンズ207によって、試料216上に電子ビーム200の焦点が合わされる。また、補正量と偏向量とから生成された偏向電圧が、副偏向器209と主偏向器208に印加され、電子ビーム200を偏向する。このとき、主偏向器208に印加される偏向電圧は、主偏向非点の補正量、XY差の補正量および偏向量を用いて生成される。同様に、副偏向器209に印加される偏向電圧も、主偏向非点の補正量、XY差の補正量および偏向量を用いて生成される。
【0072】
本実施の形態によれば、試料216に対する電子ビーム200の開き角をX方向とY方向で常に同じとなるようにすることができる。例えば、X方向の開き角をθ1、Y方向の開き角をθ2とすると、θ1=θ2となるため、X方向とY方向で像面の倍率が同じとなる。したがって、偏向位置によって電子ビーム200のショット形状が歪むのを抑制できる。
【0073】
本実施の形態では、主偏向器208によって発生する四重極場と、副偏向器209によって発生する四重極場とによって、主偏向非点とXY差を補正する。そして、これらの補正をリアルタイムで行うことで、電子ビーム200は、偏向位置に応じてその焦点位置と倍率が補正される。したがって、本実施の形態によれば、常に、所望のショット形状であって、且つ、ぼけが低減された電子ビーム200を所望の位置に偏向して試料216に照射することが可能となる。
【0074】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。
【0075】
例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた場合にも適用可能である。