(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809968
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月11日
(54)【発明の名称】校正液
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20151022BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20151022BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20151022BHJP
G01N 27/403 20060101ALI20151022BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20151022BHJP
【FI】
G01N27/26 381A
G01N27/46 351B
G01N27/30 311A
G01N27/30 311C
G01N27/30 311D
G01N27/30 371Z
G01N27/30 331A
G01N27/30 331H
G01N27/30 331K
G01N27/26 381D
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-287803(P2011-287803)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137216(P2013-137216A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】岩本 恵和
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−025049(JP,A)
【文献】
特開2004−350861(JP,A)
【文献】
実開平03−127252(JP,U)
【文献】
特表平08−500679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンに対して選択的に反応するナトリウムイオン感応部と、カリウムイオンに対して選択的に反応するカリウムイオン感応部とを備え、尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンとの濃度比を測定するイオン選択性電極用の校正液であって、
ナトリウムイオンと、カリウムイオンと、電解質からなるイオン強度調整剤と、を含有し、
前記イオン選択性電極が、比較電極とともに用いるものであり、
前記イオン強度調整剤が、前記イオン選択性電極用の内部液及び前記比較電極用の内部液と同じイオンを含んでおり、
前記同じイオンが、尿中に含まれるイオンであることを特徴とする校正液。
【請求項2】
前記ナトリウムイオン感応部及びカリウムイオン感応部が、それぞれナトリウムイオノフォア又はカリウムイオノフォアが基材に担持されてなる液膜型のイオン感応膜であり、
前記イオン強度調整剤が、2価のカチオンを含むものである請求項1記載の校正液。
【請求項3】
前記イオン強度調整剤が、2価のカチオンを含む塩化物、2価のカチオンを含む硝酸塩、又は、2価のカチオンを含む硫酸塩である請求項1又は2記載の校正液。
【請求項4】
前記イオン選択性電極の内部液と前記比較電極の内部液とが、これらの内部液のイオン活量を調整するためのイオン強度調整剤を含有している請求項3記載の校正液。
【請求項5】
ナトリウムイオン感応膜が反応したナトリウムイオンと、カリウムイオン感応膜が反応したカリウムイオンとの濃度比を測定するイオン選択性電極の校正方法であって、
前記イオン選択性電極が、比較電極とともに用いるものであり、
ナトリウムイオンと、カリウムイオンと、前記イオン選択性電極用の内部液及び前記比較電極用の内部液と同じイオンを含んでいるイオン強度調整剤とを含有し、前記同じイオンが尿中に含まれるイオンである校正液を用いて校正を行うことを特徴とする校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンとの濃度比を測定するイオン選択性電極用の校正液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
尿中にはナトリウムイオンとカリウムイオンとが含まれているが、尿中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比は血圧と強く相関していると言われている。このため、尿中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を測定することにより、簡易に血圧を管理することができると考えられる(特許文献1)。
【0003】
試料溶液中のイオン濃度を測定する方法には、分析対象イオンに対して選択的に反応する感応部を介して、試料溶液中の分析対象イオンの濃度(正確には、分析対象イオンの活量)の変化に応じた電極電位の変化を検出し、試料溶液中の分析対象イオンの濃度を得るイオン電極法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−350861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、イオン電極法による測定は、試料溶液のイオン強度の影響を受けることから、正確な測定値が得られない場合がある。そして、尿中に含まれるカリウムイオンはナトリウムイオンの1/20〜1程度の微量であるので、カリウムイオンを分析対象とした場合の測定値は特にイオン強度の影響を受けやすい。このため、ナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を高精度に測定するためには、試料溶液のイオン強度の影響を補正することが必要となる。
【0006】
そこで本発明は、尿のイオン強度の影響を補正して、尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンとの濃度比を高精度に測定することを可能とするイオン選択性電極用の校正液を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る校正液は、ナトリウムイオンに対して選択的に反応するナトリウムイオン感応部と、カリウムイオンに対して選択的に反応するカリウムイオン感応部とを備え、尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンとの濃度比を測定するイオン選択性電極用の校正液であって、ナトリウムイオンと、カリウムイオンと、電解質からなるイオン強度調整剤と、を含有することを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、尿のイオン強度と同程度のイオン強度となるように校正液にイオン強度調整剤を配合することにより、尿のイオン強度の影響を補正してイオン選択性電極の校正を行うことができる。このため、本校正液により校正を行ったイオン選択性電極を用いて尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンの分析を行うことにより、微量のカリウムイオンも正確に検出でき、ナトリウムイオンとカリウムイオンとの濃度比を高い精度で得ることができる。
【0009】
前記ナトリウムイオン感応部及びカリウムイオン感応部が、それぞれナトリウムイオノフォア(ナトリウムイオン選択性配位子)又はカリウムイオノフォア(カリウムイオン選択性配位子)が基材に担持されてなる液膜型のイオン感応膜である場合は、前記イオン強度調整剤が、2価のカチオンを含むものであることが好ましい。ナトリウムイオノフォア及びカリウムイオノフォアは、2価のカチオンに対する選択係数が低く、2価のカチオンはナトリウムイオノフォア及びカリウムイオノフォアとほとんど反応しないので、2価のカチオンが校正液に含まれていても校正に影響しない。
【0010】
前記2価のカチオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0011】
前記イオン選択性電極は、校正や測定の際には比較電極とともに用いるが、前記イオン強度調整剤は、前記イオン選択性電極用の内部液及び前記比較電極用の内部液と同じイオンを含んでいることが好ましい。前記イオン強度調整剤が、前記イオン選択性電極用の内部液及び前記比較電極用の内部液と同じイオンを含んでいることにより、校正液と比較電極用の内部液との液間電位差の変動を最小限に抑えることができ、かつ、イオン選択性電極の電位に及ぼすイオン選択性電極用の内部液と比較電極用の内部液との影響を相殺することができる。当該同じイオンとしては、例えば、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等のアニオンが挙げられ、なかでも、比較電極用の内部極が金属本体と金属本体を被覆するその金属の難溶性塩からなる難溶性塩膜とからなる場合は、当該難溶性塩を構成するアニオンが好ましい。
【0012】
このようなイオン強度調整剤としては、例えば、2価のカチオンを含む塩化物、2価のカチオンを含む硝酸塩、2価のカチオンを含む硫酸塩等が挙げられる。これらのイオン強度調整剤は、内部極の種類により適するものが異なり、例えば、(1)内部極としてAg/AgCl電極やHg/Hg
2Cl
2電極を用いる場合は、2価のカチオンを含む塩化物を用いることが好ましく、(2)内部極として所定のイオノフォアが基材に担持されてなる液膜型電極を用いる場合は、2価のカチオンを含む塩化物や、2価のカチオンを含む硝酸塩、2価のカチオンを含む硫酸塩を用いることが好ましく、(3)内部極としてHg/Hg
2SO
4電極を用いる場合は、2価のカチオンを含む硫酸塩を用いることが好ましい。
【0013】
なお、前記2価のカチオンを含む塩化物としては、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられ、前記2価のカチオンを含む硝酸塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等が挙げられ、前記2価のカチオンを含む硫酸塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等が挙げられ、このうち、水溶性の高い塩が好ましい。
【0014】
本発明では、前記イオン選択性電極の内部液と前記比較電極の内部液も、これらの内部液のイオン活量を調整するためのイオン強度調製剤を含有していることが好ましい。イオン選択性電極の内部液のイオン活量と、比較電極の内部液のイオン活量と、校正液のイオン活量の全てが略一定であると、等温交点(ゼロ点)を提示させうる校正液を構成することができるので、温度変化による影響を受け難くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明によれば、尿のイオン強度の影響を補正して、尿中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液膜型Na
+/K
+電極の構造を示す分解斜視図。
【
図2】同実施形態における平面センサの構成を示す縦断面図。
【
図3】同実施形態における平面センサの要部を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る液膜型Na
+/K
+電極1は、尿中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を測定するためのイオン選択性電極と比較電極とが一体となった複合型のものであり、
図1〜3に示すように、合成樹脂製の本体2と、本体2に内蔵されたマイクロコンピュータ等の演算処理部(図示しない。)と、本体2の上面に形成された表示・操作部3と、表示・操作部3に隣接して形成された電源部4と、合成樹脂からなると共に防水構造に形成された電極部5とを備えている。
【0019】
本体2内には、後述する平面センサ7のリード部21A、22A、23A、24A、25Aと、演算処理部を有する回路基板62との接続部63が設けられている。なお、回路基板62は筐体に繋がって支持されている。
【0020】
表示・操作部3は、表示部31と、パワーボタン32a、校正ボタン32b、ホールドボタン32c等の各種の操作ボタンを有する操作部32とからなり、電源部4は、ボタン電池41、42を備えている。
【0021】
電極部5は、一端側が電源部4を収容できるように開口した筒状部6と、筒状部6の他端側に連設された平面センサ7とからなり、電源部4を覆うように本体2に装着して本体2と一体的に接続したり、本体2から分離したりできるようにしてある。
【0022】
平面センサ7は、
図2及び
図3に示すように、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の電気絶縁性を有する材料からなり、互いに積層された基板11、12、13を備えている。各基板11、12、13の一部は円弧状に形成してあり、最上層の第3基板13と中層の第2基板12とは平面形状(外形)が同一で、下層の第1基板11は基板12、13とは円弧状部分は同形であるが、その反対側はこれらよりもやや長くしてある。また、第3基板13の周縁を囲むように、被検液ホルダ74が設けられている。
【0023】
第1基板11には、その上面に所定の前処理を施した後、例えばAgペーストをシルクスクリーン印刷等することにより導電部21、22、23、24、25が形成してあると共に、円形の貫通孔81が形成されている。そして、導電部21、22、23、24、25は次のように加工されている。すなわち、一方の外側の導電部21の先端はAgClで被覆されてNa
+電極71の円形の内部極26が形成され、その内側の導電部22の先端もAgClで被覆されてK
+電極72の円形の内部極27が形成されている。また、他方の外側の導電部25の先端もAgClで被覆されて基板11の一方の側端部に位置する細長い形状の比較電極73の内部極28が形成されている。更に、内側の二つの導電部23、24の先端にわたってサーミスタ等の温度補償素子29が設けられている。そして、各導電部21、22、23、24、25の他の部分はそのままリード部21A、22A、23A、24A、25Aを構成している。
【0024】
第2基板12には、貫通孔81に対応する位置に形成されたこれと同径の貫通孔82と、内部極26と内部極27とに対応する位置にそれぞれ形成された、これらよりやや大径の貫通孔83、84と、温度補償素子29に対応する位置に形成された、これとほぼ同寸の矩形状の貫通孔85とが、それぞれ設けられている。更に、比較電極の内部極28に対応する側端部に細長い切欠き部86が形成してある。
【0025】
第3基板13には、貫通孔81、82に対応する位置にこれと同径の貫通孔87と、貫通孔83、84に対応する位置にそれぞれ形成された、これらよりやや大径の貫通孔88、89と、貫通孔85に対応する位置に形成された、これと同寸の貫通孔91とが、それぞれ設けられている。更に、切欠き部86に対応する位置にこれと同寸の切欠き部92が形成してある。
【0026】
基板11、12、13のそれぞれ対応する位置に形成された貫通孔81、82、87には、これらを挿通するようにポリエチレン製の多孔体からなる比較電極73の液絡部17が装填されている。当該液絡部17は、最上層の第3基板13の上面とほぼ面一になるようにして装填してある。
【0027】
第2基板12に形成された貫通孔83、84内には、それぞれゲル状内部液14a、14bが装填されている。当該ゲル状内部液14a、14bは、CaCl
2を含むpH緩衝液に、ゲル状内部液14aではナトリウムイオンをゲル状内部液14bではカリウムイオンを加えてなる内部液に、更にゲル化剤として寒天とゲル蒸発防止剤としてグリセリンとを添加して円盤状に形成してものである。なお、内部液の塩化物イオン濃度は1Mに調整してある。これらのゲル状内部液14a、14bは、その上面が第2基板12の上面よりやや突出した状態で貫通孔83、84内に装填されており、この貫通孔83、84を介して第1基板11の上面に形成された内部極26及び内部極27と接触している。
【0028】
第3基板13に形成された貫通孔88、89内には、それぞれ円盤状に形成されたナトリウムイオン感応膜15とカリウムイオン感応膜16とが装填されており、ゲル状内部液14a、14bに接触すると共に、第3基板13の上面とほぼ面一になるように固定してある。
【0029】
ナトリウムイオン感応膜15は、ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤とナトリウムイオノフォアとしてBis(12−crown−4)を加えた後、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒で溶解したものを、ポッティングやインクジェット印刷法等によって、貫通孔88内に充填し、その後、加熱して有機溶媒を蒸発させて固体状のナトリウムイオン感応膜15に形成したものである。
【0030】
カリウムイオン感応膜16は、カリウムイオノフォアとしてBis(benzo−15−crown−5)を用いたこと以外はナトリウムイオン感応膜15と同様にして形成する。
【0031】
比較電極73のゲル状内部液14cは、筒状部6に連設されたケース61において最下層の第1基板11の下方から最上層の第3基板13の上方にわたって設けられている。ゲル状内部液14cの上部及び下部は、基板11〜13の比較電極73の内部極28側の側部とケース61との間の隙間を介して互いに連通するように装填されており、比較電極73の内部極28の表面及び液絡部17の下端部と接触している。比較電極73のゲル状内部液14cは、1M NH
4Cl水溶液からなる内部液にゲル化剤として寒天とゲル蒸発防止剤としてグリセリンとを添加したものである。
【0032】
液膜型Na
+/K
+電極1を用いて尿中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を測定するには、まず、ナトリウムイオン感応膜15及びカリウムイオン感応膜16の上に適量の尿を滴下する。すると、ナトリウムイオン感応膜15及びカリウムイオン感応膜16に、ゲル状内部液14a、14bと尿との間の各イオン濃度の差に応じた起電力が生じる。この起電力を、Na
+電極71の内部極26及びK
+電極72の内部極27と、比較電極73の内部極28の電位差(電圧)として検出し、次いで、当該電位差から演算処理部によりナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を算出して、表示部31に表示する。
【0033】
このような液膜型Na
+/K
+電極1を校正するための校正液は、ナトリウムイオン及びカリウムイオンに加えて、イオン強度調整剤として塩化カルシウムを含有している。そして、イオン強度調整剤の配合量は本校正液の塩化物イオン濃度が0.2Mになるように調整されている。ここで、比較電極73のゲル状内部液14cの塩化物イオン濃度が1Mであるのに対して、本校正液の塩化物イオン濃度が0.2Mであるのは、比較電極73のゲル状内部液14cにはグリセリンが添加されており、グリセリンには塩化物イオンの活量を低下させる作用があるからである。
【0034】
このように構成した本実施形態に係る校正液によれば、尿のイオン強度と同程度のイオン強度となるようにイオン強度調整剤が配合されているので、尿のイオン強度の影響を補正して液膜型Na
+/K
+電極1の校正を行うことができる。このため、本校正液により校正を行った液膜型Na
+/K
+電極1を用いて尿中のナトリウムイオンとカリウムイオンの分析を行うことにより、微量のカリウムイオンも正確に検出でき、精度の高いナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を得ることができる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではなく、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・液膜型Na
+/K
+電極
15・・・ナトリウムイオン感応膜
16・・・カリウムイオン感応膜
71・・・Na
+電極
72・・・K
+電極