【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、各例で得られた抗菌抗ウイルス性組成物の亜酸化銅粒子について、XRD測定により結晶ピーク帰属の測定を行った。当該XRD測定は、銅ターゲットを使用し、Cu−Kα1線を用いて、管電圧が45kV、管電流が40mA、測定範囲が2θ=20〜80deg、サンプリング幅が0.0167deg、走査速度が1.1deg/minで行った。測定には、Panalytical社製のX'PertPROを使用した。
また、各例で得られた抗菌抗ウイルス性組成物の亜酸化銅粒子についてのBET比表面積の測定は、(株)マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置「Macsorb,HM model−1208」を使用して行った。
【0049】
(実施例1)
蒸留水1000mLを50℃に加熱し、攪拌しながら、硫酸銅(II)五水和物52.25gを投入し、完全に溶解した。その後、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mLと、2mol/Lのヒドラジン水和物の水溶液28mLとを同時に投入した。1分間強く攪拌した後、亜酸化銅粒子が分散した分散液が得られた。その後、1.2mol/Lのグルコース水溶液300mLを投入し、1分間攪拌を行った。0.3μmのメンブレンフィルターでろ過して、1000mLの蒸留水で水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子100質量部に対しグルコースが1.5質量部共存した抗菌抗ウイルス性組成物を得た。
図1に抗菌抗ウイルス性組成物のSEM写真を示す。
なお、亜酸化銅粒子が分散した分散液からろ過して得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を窒素吸着法によって測定したところ、29m
2/gであった。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様にして、亜酸化銅粒子が分散した分散液を作製した。その後、グルコース水溶液を投入しないで、直接に0.3μmメンブレンフィルターをろ過して、水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子を得た。
得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を窒素吸着法によって測定したところ、29m
2/gであった。
【0051】
実施例1によって得られた抗菌抗ウイルス性組成物中のグルコースの定量は、下記のようにして求めた。すなわち、高周波加熱−赤外吸収法を用いて炭素量を測定し、炭素量から共存したグルコースの量を算出した。その際、比較例1に含まれる炭素量が、実験操作によって混入する炭素量とし、これを差し引くことで、残った炭素量が亜酸化銅粒子中に含まれるグルコース量とした。結果を下記表1に示す。なお、他の実施例についても同様にして求めた。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1で得られた抗菌抗ウイルス性組成物と、比較例1で得られた亜酸化銅粒子において、大気中に暴露した状態で1週間後、2週間後、1ヵ月後の状態をXRD測定により観察した。結果を
図2に示す。実施例1では、亜酸化銅(Cu
2O)のピーク強度に殆ど変化が見られないが(
図2(A))、比較例1では、亜酸化銅が酸化されることにより、酸化銅(CuO)のピークが出現してきている(
図2(B))。この実験により、グルコースがごく少量共存することによって、亜酸化銅の酸化が抑えられていることが確認できた。
【0054】
(実施例2)
蒸留水1000mLを50℃に加熱し、攪拌しながら、硫酸銅(II)五水和物52.25gを投入し、完全に溶解した。その後、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mLと2mol/Lのヒドラジン水和物の水溶液28mLを同時に投入した。1分間強く攪拌した後、0.3μmのメンブレンフィルターでろ過して、1000mLの蒸留水で水洗を行い、固形分を回収し、60℃で3h乾燥した後、メノウ乳鉢にて粉砕し、亜酸化銅粒子を得た。得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、5質量部のグルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子(抗菌抗ウイルス性組成物)を得た。
なお、窒素吸着法によって、実施例2で得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を測定したところ、28m
2/gであった。
【0055】
(実施例3)
亜酸化銅粒子100質量部に対して、10質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加した以外は実施例2と同様にして、10質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子(抗菌抗ウイルス性組成物)を得た。
なお、窒素吸着法によって、実施例3で得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積を測定したところ、28m
2/gであった。
【0056】
(実施例4)
アナターゼ型酸化チタン(商品名「FP−6」、昭和タイタニウム(株)製)を2−プロピルアルコール(以下、「IPA」という)に懸濁させ、固形分濃度5質量%の分散体を調製した。酸化チタン100質量部に対して2質量部に相当するトリトンX−100(オクチルフェノキシポリエトキシエタノール 関東化学製)を添加した後、酸化チタンに対して2質量部に相当するテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(40質量%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(関東化学(株)製)を使用した)を添加した。
その後、0.1mmサイズのメディアを用いて懸濁液をビーズミル処理で分散処理を行い、分散液を得た(以下「FP−6のIPA分散体」という)。酸化チタン100質量部に対して3質量部となるように、実施例1で得られた「1.5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子」をFP−6のIPA分散体に分散させて、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0057】
得られた抗菌抗ウイルス性組成物分散液を固形分が1.5mg/25cm
2になるように、ガラス板(50mm×50mm×1mm)に塗布した。ガラス板上の溶媒を蒸発させて、ウイルス不活化能の評価(評価方法は後述)を行った。結果を
図3に示す。
図3中の「ブランク」とは、ガラス板のみのウイルス不活化能の評価結果である。「暗所」とは、分散液を塗布したガラス板の暗条件での評価結果である。「可視光照射」とは、分散液を塗布したガラス板の可視光照射下での評価結果である。
なお、可視光照射は、白色蛍光灯から、N−113光学フィルターを通し、400nm以下の光をカットした光を照射する条件で行った。光強度は800Luxである。
【0058】
図3から、ガラス板だけでは、ウイルス不活化能を示さなかった。分散液を塗布したガラス板では、暗所においてもウイルス不活化能を示した。また、可視光照射において、さらに高いウイルス不活化能を示した。このことから、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物が良好なウイルス不活化能を示すことがわかる。また、光触媒物質(FP−6酸化チタン)との併用で、暗所において光照射によるウイルス不活化能の向上効果があることを確認できた。
【0059】
(実施例5)
蒸留水1000mLに50gのブルッカイト型酸化チタン(NTB−01、昭和タイタニウム(株)製)を懸濁させて、酸化チタン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.133gCuCl
2・2H
2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾酸化チタンが得られた。FP−6の代わりに前記の銅(II)イオン修飾酸化チタンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0060】
(実施例6)
蒸留水1000mLに50gの酸化タングステン(和光純薬工業(株)製)を懸濁させて、酸化タングステン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.133gCuCl
2・2H
2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾酸化タングステンを調製した。FP−6の代わりに前記の銅(II)イオン修飾酸化タングステンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0061】
(実施例7)
10gの酸化チタン(ルチル型、テイカ(株)製)を20mLのエタノール(和光純薬工業(株)製)に懸濁させて、酸化チタン懸濁液を調製した。1gの六塩化タングステン(Aldrich製)を10mLのエタノールに溶解させて、タングステン溶液を調製した。1gの硝酸ガリウム(III)水和物(Aldrich製)を10mLのエタノールに溶解させて、ガリウム溶液を調製した。タングステン:ガリウム:チタンのモル比が0.03:0.06:0.91になるように、タングステン溶液、ガリウム溶液を酸化チタン懸濁液に混合し、攪拌しながら、エタノール溶媒を蒸発させた。得られた粉末を950℃、3時間で熱処理した。これにより、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンが得られた。次に、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタン5gを100gの蒸留水に懸濁させて、タングステンとガリウムを共ドープした酸化チタン100質量部に対して、0.1質量部の銅(II)イオンを担持するように、0.013gCuCl
2・2H
2O(関東化学(株)製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。洗浄、乾燥して、銅(II)イオン修飾したタングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンを調製した。FP−6の代わりにこの銅(II)イオン修飾したタングステンとガリウムを共ドープした酸化チタンを使用した以外は実施例4と同様にして、抗菌抗ウイルス性組成物分散液を得た。
【0062】
(比較例2)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、0.3質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、0.3質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。
【0063】
(比較例3)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、12質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、12質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。
【0064】
(比較例4)
市販の工業品亜酸化銅粒子(商品名:レギュラー、古河ケミカルズ(株)製 BET比表面積1m
2/g)1gを50mLエタノール溶液に懸濁し、亜酸化銅粒子100質量部に対して、1.5質量部グルコース量に相当するグルコース水溶液を添加し、溶媒を蒸発させて、1.5質量部のグルコースが共存した亜酸化銅粒子を得た。得られた亜酸化銅粒子1gを、エタノール100mlに分散させて分散液を得た。当該分散液を、塗布量が8mg/m
2になるように、ガラス板に塗布して亜酸化銅の塗膜を形成した。
【0065】
(比較例5)
塗布量を24mg/m
2とした以外は比較例4と同様にして亜酸化銅の塗膜を形成した。
【0066】
(比較例6)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を大気中に30日間放置することによって酸化銅(II)に酸化させて、実施例4と同様に、FP−6のIPA分散体に混合し、酸化銅(II)/酸化チタン分散液を得た。
【0067】
(比較例7)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を、実施例4と同様に、FP−6のIPA分散体に混合し、亜酸化銅(I)/酸化チタン分散液を得た。
【0068】
(比較例8)
比較例1で得られた亜酸化銅粒子を、実施例5と同様に、銅(II)イオン修飾酸化チタンのIPA分散体に混合し、亜酸化銅(I)/銅(II)イオン修飾酸化チタン分散液を得た。
【0069】
≪ウイルス不活化能の評価:LOG(N/N
0)の測定≫
ウイルス不活化能は、バクテリオファージを用いたモデル実験により以下の方法で確認した。なお、バクテリオファージに対する不活化能をウイルス不活化能のモデルとして利用する方法は、例えばAppl.Microbiol Biotechnol.,79,pp.127-133,2008に記載されており、信頼性のある結果が得られることが知られている。
深型シャーレ内にろ紙を敷き、少量の滅菌水を加えた。ろ紙の上に厚さ5mm程度のガラス製の台を置き、その上に実施例1〜3の抗菌抗ウイルス性組成物、実施例4〜7の抗菌抗ウイルス性組成物分散液、及び比較例1〜3、6〜8の試料のそれぞれを、実施例1〜3及び比較例1〜3の場合は固形分が0.02mg/25cm
2、実施例4〜7及び比較例6〜8の場合は固形分が1.5mg/25cm
2となるように塗布したガラス板(50mm×50mm×1mm)を置いた。この上にあらかじめ馴化しておき濃度も明らかとなっているQBファージ(NBRC20012)懸濁液を100μL滴下し、試料表面とファージを接触させるためにPET(ポリエチレンテレフタレート)製のOHPフィルムを被せた。この深型シャーレにガラス板で蓋をしたものを測定用セットとした。同様の測定用セットを複数個用意した。
また、光源として15W白色蛍光灯(パナソニック(株)製、フルホワイト蛍光灯、FL15N)に紫外線カットフィルター(株)キング製作所製、KU−1000100)を取り付けたものを使用し、照度が800ルクス(照度計:TOPCON(製) IM−5にて測定)になる位置に複数個の測定用セットを静置した。所定時間経過後にガラス板上のサンプルのファージ濃度測定を行った。
【0070】
ファージ濃度の測定は以下の方法で行った。ガラス板上のサンプルを10mLの回収液(SM Buffer)に浸透し、振とう機にて10分間振とうさせた。このファージ回収液を適宣希釈し、別に培養しておいた大腸菌(NBRC13965)の培養液(OD
600>1.0、1×10
8CFU/mL)と混合して撹拌した後、37℃の恒温庫内に10分間静置して大腸菌にファージを感染させた。この液を寒天培地にまき、37℃で15時間培養した後にファージのプラーク数を目視で計測した。得られたプラーク数にファージ回収液の希釈倍率を乗じることによってファージ濃度Nを求めた。
初期ファージ濃度N
0と、所定時間後のファージ濃度Nとから、ファージ相対濃度(LOG(N/N
0))を求めた。
なお、比較例4及び5の塗膜については、そのままの状態でろ紙の上の厚さ5mm程度のガラス製の台の上に載置して、ファージ濃度測定を行った。
ウイルス不活化能の評価を種々の条件で行った結果を下記表2〜4に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
上記表2は、グルコースの量によって、合成した直後(合成後5日以内)の亜酸化銅粒子のウイルス不活化能と1ヵ月(30日間以上)放置後のウイルス不活化能を示す表である。塗膜量は8mg/m
2である。
【0073】
実施例1〜3において、グルコースの量の増加に従って、ウイルス不活化能は低下した。いずれにおいても、合成後の評価と1ヵ月後の評価結果から、ウイルス不活化能の変化が見られなかった。比較例3は、酸化防止効果はあるが、多量のグルコースが存在しているため、全体的にウイルス不活化能が低かった。
比較例1と比較例2においては、合成後のウイルス不活化能が高かったのに対して、1ヵ月後のウイルス不活化能が大幅に低下した。それは、グルコースの量が少なく、酸化防止が効いていないことによると考えられる。
【0074】
【表3】
【0075】
上記表3は、実施例1と比較例4、5のウイルス不活化能を比較した表である。
実施例1より合成した亜酸化銅粒子は、BET比表面積が大きいため、グルコースを添加した市販のBET比表面積が小さい工業品亜酸化銅より明らかに高い活性を示している。よって、本発明の抗菌抗ウイルス性組成物を使用することで、塗布量が少なくても、高いウイルス不活化能が期待できる。
【0076】
【表4】
【0077】
上記表4は、光触媒物質を組み合わせた材料を、合成直後及び大気中に1ヵ月(30日以上)放置後の抗ウイルス性能を示す表である。
実施例4〜7は、グルコースと亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物であり、比較例6〜8は、グルコースを含まず亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物である。
合成直後の評価と合成1ヵ月後の評価とを比較すると、暗所においても、可視光照射においても、グルコースが存在する実施例4〜7の方が、良好なウイルス不活化能を維持できることが確認できる。一方、グルコースのない比較例6〜8は、ウイルス不活化能が低下した。
実施例4〜7と比較例6〜8とにおいては、光触媒との組み合わせで、可視光照射条件では、暗所の場合よりも良好なウイルス不活化能を示している。これは、可視光照射下では、光触媒の酸化還元により、銅(I)が増加し、抗ウイルス性能に寄与すると考えられる。しかしながら、比較例6〜8では、光触媒と組み合わせても、ウイルス不活化能は実施例4〜7よりも低いレベルであった。
以上のことから、実施例4〜7のように、グルコースと亜酸化銅と光触媒との組合せに係る抗菌抗ウイルス性組成物によれば、時間が経過しても、高いウイルス不活化能を維持できることが確認できた。