(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5812881
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】タンデム型質量分析装置及びその質量分析方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20151029BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
H01J49/42
G01N27/62 V
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-10805(P2012-10805)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-149554(P2013-149554A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 信二
(72)【発明者】
【氏名】安田 博幸
(72)【発明者】
【氏名】檜山 俊幸
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−523234(JP,A)
【文献】
特表2009−518631(JP,A)
【文献】
特表2010−505218(JP,A)
【文献】
特開2005−106537(JP,A)
【文献】
特開2008−058281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00−49/48
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料に電荷を与えるイオン源と、前記イオン源で生成したイオンを装置内に導入するインターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部の少なくとも3つの4重極電極部を有し、前記第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、前記第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、前記第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、前記第2の前記4重極電極部で前記第1の4重極電極部を通過した測定試料由来のイオンを解離してフラグメントイオンを生成し、前記第3の4重極電極部で前記フラグメントイオンを質量に応じて通過させてなるタンデム型質量分析装置において、
前記制御装置に、測定試料特性を表示する表示装置と、特性の具体値を入力する入力装置と、測定試料特性に対応したMSMS電圧データを収納した記憶部と、印加電圧設定回路を設け、前記表示装置に表示された測定試料特性の具体値を指定することにより、前記制御装置により前記第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出して設定し、前記記憶部は、測定試料の分子種に対応したMSMS電圧データを収納する分子種/電圧データベースと、分子量に対応したMSMS電圧データを収納する分子量/電圧データベースと、結合状態に対応したMSMS電圧データを収納する結合状態/電圧データベースを備えたことを特徴とするタンデム型質量分析装置。
【請求項2】
測定試料に電荷を与えるイオン源と、前記イオン源で生成したイオンを装置内に導入するインターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部の少なくとも3つの4重極電極部を有し、前記第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、前記第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、前記第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、前記第2の前記4重極電極部で前記第1の4重極電極部を通過した測定試料由来のイオンを解離してフラグメントイオンを生成し、前記第3の4重極電極部で前記フラグメントイオンを質量に応じて通過させてなるタンデム型質量分析装置において、
前記制御装置に、測定試料特性を表示する表示装置と、特性の具体値を入力する入力装置と、測定試料特性に対応したMSMS電圧データを収納した記憶部と、印加電圧設定回路を設け、前記表示装置に表示された測定試料特性の具体値を指定することにより、前記制御装置により前記第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出して設定し、前記表示装置に表示する入力画面は、特定の分子種について分子量に応じて変化するMSMS電圧を表示するグラフを有し、任意のユーザー設定値を前記グラフ上に表示することを特徴とするタンデム型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたタンデム型質量分析装置において、前記表示装置に表示し指定する測定試料特性を、測定試料の分子種、分子量または結合状態の少なくとも1つから選択したことを特徴とするタンデム型質量分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載されたタンデム型質量分析装置において、前記表示装
置に表示し指定する測定試料特性に、前記第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を加えたことを特徴とするタンデム型質量分析装置。
【請求項5】
前請求項1乃至4のいずれかに記載されたタンデム型質量分析装置において、前記表示装置に表示する入力画面は、前記測定試料の分子種を選択するチェックボックス及び分子種を指定する指定ウィンドウと、分子量を選択するチェックボックス及び分子量を指定する指定ウィンドウと、結合状態を選択するチェックボックス及び結合状態を指定する指定ウィンドウと、前記第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を選択するチェックボックス及びMSMS電圧を指定する指定ウィンドウとを有することを特徴とするタンデム型質量分析装置。
【請求項6】
測定試料に電荷を与えるイオン源と、前記イオン源で生成したイオンを装置内に導入するインターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部の少なくとも3つの4重極電極部を有し、前記第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、前記第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、前記第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、前記第2の前記4重極電極部で前記第1の4重極電極部を通過した測定試料由来のイオンを解離してフラグメントイオンを生成し、前記第3の4重極電極部で前記フラグメントイオンを質量に応じて通過させてなるタンデム型質量分析装置の質量分析方法において、 前記制御装置の前記表示装置に、測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つからなる指定ウィンドウを表示し、
選択された指定ウィンドウに測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つの具体値を入力し、
入力された測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つの具体値に応じて前記タンデム型質量分析装置の前記第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出して決定し、
始めに前記測定試料の分子種を指定し、次に前記測定試料の分子量を指定し、最後に前記測定試料の結合状態を指定することを特徴とするタンデム型質量分析装置の質量分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載されたタンデム型質量分析装置の質量分析方法において、前記制御装置の前記記憶部は、分子種に対応したMSMS電圧データを収納する分子種/電圧データベースと、分子量に対応したMSMS電圧データを収納する分子量/電圧データベースと、結合状態に対応したMSMS電圧データを収納する結合状態/電圧データベースの少なくとも1つを備えたことを特徴とするタンデム型質量分析装置の質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム型質量分析装置及びこれを用いた質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、大きく定量分析を主に行う装置と定性分析を主に行う装置に分かれる。定量分析を主に行う代表的な質量分析装置には、装置内に4重極質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:QMS)を有する4重極型質量分析装置がある。
【0003】
一方、定性分析を主に行う質量分析装置には飛行時間質量分析計(以下TOF/MSと記載)があり、測定イオンを真空中で飛行させ、イオンが検出器まで到達する時間を計測することにより質量分離を行う。TOF/MSは観測可能な質量幅が広く、また高分解能を持つ質量スペクトルが得やすいことから定性分析性能が高くなる。しかし、測定イオンを断続的に飛行させるため定量分析性能はQMSと比較して劣る場合が多い。昨今は複数のQMSとTOF/MSを結合したハイブリッド型の質量分析装置が製品化されており、定性、定量分析の両方に対応している。
【0004】
4重極型質量分析装置に用いられる4重極型質量分析計はQマスもしくはマスフィルタとも呼ばれ、4本の円柱状電極からなる。円柱状電極は横断面において円の中心を正方形の頂点に置いて組み合わされる。
【0005】
固定された円柱状電極の隣り合った電極に、それぞれに正負の直流と高周波交流電圧を重畳して印加すると、円柱状電極の中を電荷を持ったイオンが通過する際に振動しながら通過し、電圧、周波数に応じてある特定のイオンのみが安定な振動をして電極内を通過する。一方、それ以外のイオンは電極内を通過中に振動が大きくなり、電極に衝突、通過することができなくなる。この直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ高周波交流電圧を直線的に変化させる事で質量スペクトルを得る。また電極に交流電圧のみを印加した場合には前記のイオン選択性が無くなり、多くのイオンが電極内を通過可能となる。
【0006】
質量分析装置の分析方法のひとつに、タンデム質量分析法(以下MSMS分析と記載)がある。MSMS分析とは、複雑系測定試料からある特定イオンのみを選択することにより、SN比を向上させたり測定試料の構造解析が可能となるなど、質量分析装置において非常に重要な分析法である。MSMS分析はたとえば4重極質量分析計を複数組み合わせて用いることで実現可能となる。
【0007】
MSMS定量分析を行う質量分析装置には、装置内に3つの4重極質量分析計を有するトリプル4重極型質量分析装置(以下Triple QMSと記載)がある。Triple QMSは、測定試料の特定イオンを連続的に通過させることが可能であり定量分析性能が高くなる。Triple QMSでは、第1の4重極質量分析計によって測定試料由来の特定イオンのみを取り出し、第2の4重極質量分析計(高周波交流電圧のみを印加)によって取り出したイオンをガス等に衝突させることで解離させ、フラグメントイオンを生成させる。次いで生じたフラグメントイオンを第3の4重極質量分析計によって質量分離し、質量スペクトルを得る。
【0008】
従来、MSMS定量分析を行う質量分析装置には、特許文献1に示す質量分析装置が知られている。特許文献1では、三連四重極質量分析装置において3つの四重極ロッドセットQ1、Q2、Q3を備え、第1ロッドセットQ1は前駆イオンを第2ロッドセットQ2に送り、第2ロッドセットQ2に衝突ガスが供給され、第3ロッドセットQ3でイオンをトラップしスキャンアウトして質量分析を行う。また、各ロッドセットへのDC電圧、AC電圧を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−524211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
昨今の質量分析装置の利用目的は、従来の低分子試料の測定から、プロテオーム解析に代表されるような生体分子の構造解析や、血中薬物の濃度測定等が増えており、複雑系測定試料となっている。そのため前記のMSMS分析は、質量分析装置の機能として特に重要視されるようになっている。利用目的の拡大から、質量分析装置で測定する試料種もアミノ酸、ペプチド、核酸、食品中の残留農薬、ポリフェノール、有機合成試料および医薬品の代謝物等々、多様化している。これらの測定試料をMSMS分析する際、分析者はそれぞれのMSMS分析の装置条件を検討し、測定試料に応じて適切な設定をする必要があった。
【0011】
MSMS分析時に必要となる装置条件に、第2の4重極質量分析計内に印加するMSMS電圧や導入するガスの種類、ガスの量等がある。従来の質量分析装置では、MSMS電圧をユーザーが測定試料毎に設定しMSMS分析を行っていた。しかしMSMS電圧値は、ガスの種類や量によって異なってくる。またMSMS電圧値は装置固有の値であるため、例えばMSMS分析法の実現方法が異なったり、質量分析装置のメーカが異なると、同一の測定試料でもまったく違う電圧となる場合があった。
【0012】
特許文献1の質量分析装置は、MSMS電圧のDC電圧を所定範囲でステップ状に上昇させ、その制御をソフトウェアプログラム又は所定線図に従って制御する。しかし、ユーザーが指定できるのは衝突エネルギーの拡がりのみで、設定の自由度がないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、測定試料に電荷を与えるイオン源と、イオン源で生成したイオンを装置内に導入するインターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部の少なくとも3つの4重極電極部を有し、第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、第2の4重極電極部で第1の4重極電極部を通過した測定試料由来のイオンを解離してフラグメントイオンを生成し、第3の4重極電極部でフラグメントイオンを質量に応じて通過させてなるタンデム型質量分析装置において、制御装置に、測定試料特性を表示する表示装置と、特性の具体値を入力する入力装置と、測定試料特性に対応したMSMS電圧データを収納した記憶部と、印加電圧設定回路を設け、表示装置に表示された測定試料特性の具体値を指定することにより、制御装置により第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出し設定することを特徴とする。
【0014】
また、タンデム型質量分析装置において、記憶部は、測定試料の分子種に対応したMSMS電圧データを収納する分子種/電圧データベースと、分子量に対応したMSMS電圧データを収納する分子量/電圧データベースと、結合状態に対応したMSMS電圧データを収納する結合状態/電圧データベースを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、タンデム型質量分析装置において、表示装置に表示し指定する測定試料特性を測定試料の分子種、分子量または結合状態の少なくとも1つから選択したことを特徴とする。
【0016】
また、タンデム型質量分析装置において、表示装置に表示し指定する測定試料特性に、第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を加えたことを特徴とする。
【0017】
また、タンデム型質量分析装置において、表示装置に表示する入力画面は、測定試料の分子種を選択するチェックボックス及び分子種を指定する指定ウィンドウと、分子量を選択するチェックボックス及び分子量を指定する指定ウィンドウと、結合状態を選択するチェックボックス及び結合状態を指定する指定ウィンドウと、第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を選択するチェックボックス及びMSMS電圧を指定する指定ウィンドウとを有することを特徴とする。
【0018】
また、タンデム型質量分析装置において、表示装置に表示する入力画面は、特定の分子種について分子量に応じて変化するMSMS電圧を表示するグラフを有し、任意のユーザー設定値をグラフ上に表示することを特徴とする。
【0019】
さらに、測定試料に電荷を与えるイオン源と、イオン源で生成したイオンを装置内に導入するインターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部の少なくとも3つの4重極電極部を有し、第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、第2の4重極電極部で第1の4重極電極部を通過した測定試料由来のイオンを解離してフラグメントイオンを生成し、第3の4重極電極部でフラグメントイオンを質量に応じて通過させてなるタンデム型質量分析装置の質量分析方法において、制御装置の表示装置に、測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つからなる指定ウィンドウを表示し、選択された指定ウィンドウに測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つの具体値を入力し、入力された測定試料の分子種、分子量、結合状態、MSMS電圧の少なくとも1つの具体値に応じてタンデム型質量分析装置の第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出し決定することを特徴とする。
【0020】
さらに、タンデム型質量分析装置の質量分析方法において、始めに測定試料の分子種を指定し、次に測定試料の分子量を指定し、最後に測定試料の結合状態を指定することを特徴とする。
【0021】
さらに、タンデム型質量分析装置の質量分析方法において、制御装置の記憶部は、分子種に対応したMSMS電圧データを収納する分子種/電圧データベースと、分子量に対応したMSMS電圧データを収納する分子量/電圧データベースと、結合状態に対応したMSMS電圧データを収納する結合状態/電圧データベースの少なくとも1つを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、イオン源と、インターフェイスと、直流電圧と高周波電圧とを重畳して印加される少なくとも3つの4重極電極部を有し、第3の4重極電極部を通過したイオンを検出する検出器と、第1の4重極電極部と第2の4重極電極部と第3の4重極電極部に印加する直流電圧と高周波電圧とを制御する制御装置を備え、第1の4重極電極部で測定試料由来の目的イオンのみを通過させ、第2の4重極電極部でフラグメントイオンを生成し、第3の4重極電極部でフラグメントイオンを質量に応じて通過させるタンデム型質量分析装置において、制御装置に、測定試料特性を表示する表示装置と、特性の具体値を入力する入力装置と、測定試料特性に対応したMSMS電圧データを収納した記憶部と、印加電圧設定回路を設け、表示装置に表示された測定試料特性の具体値を指定することにより、制御装置により第2の4重極電極部に印加するMSMS電圧を算出し設定して、ユーザーが任意且つ容易に測定試料を指定する様に構成したことによって、MSMS分析時の質量分析装置の条件設定が従来より大幅に簡略化され、使い勝手の良い質量分析装置および質量分析方法を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例におけるトリプル4重極型質量分析装置を示す模式図。
【
図2】本発明の実施例における、質量分析装置制御装置の構成を示すブロック図。
【
図3】本発明の実施例における、MSMS質量分析方法を示すフロー図。
【
図4】本発明の実施例における、MSMS条件を設定する画面を示す説明図。
【
図5】本発明における、分子種毎の分子量とMSMS電圧をしめすグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を実施例と図面について説明する。
【実施例】
【0025】
図1に示す質量分析装置MSにおいて、液体クロマトグラフ等のポンプより供給された測定試料を、イオン源100にてイオン化する。イオン源は大気圧下であり質量分析装置は真空雰囲気で動作する事から、大気と真空雰囲気間のインターフェイス200を通して、イオン110を質量分析装置内に導入する。質量分析装置MSは、4重極質量分析計からなる3つの4重極電極部400、410、420を持ち、各4重極電極部は各々4重極電極300、310、320を有する。
【0026】
TripleQMSによるMSMS分析は種々の方法があるが、代表的な測定法を以下に示す。
【0027】
イオン源から発生するイオンは様々な質量を持っているが、第1の4重極電極部400で測定試料の由来の目的イオンのみを選択通過させる。第2の4重極電極部410には、目的イオンを解離させるためのコリジョンガス800(窒素ガスやアルゴンガス等)が供給源から、ガスライン810を通して導入されている。第2の4重極電極部410の4重極電極310は、通常は交流電圧のみを印加し質量選択性を無くし、第1の4重極電極部400を通過してきた目的イオンとガスを衝突させる事でフラグメントイオンを生成する。MSMS条件のうち、MSMS電圧は、この第2の4重極電極部410に印加する電位差である。MSMS分析時、第2の4重極電極310には直流電圧を印加しても良い。
【0028】
生成したフラグメントイオンは、第2の4重極電極部410を通過し、第3の4重極電極部420に入る。第3の4重極電極320に、目的のフラグメントイオンを通過させる高周波電圧と直流電圧を印加すると、目的のフラグメントイオンのみが第3の4重極電極部420を通過する。通過した目的とするフラグメントイオンを検出器500で検出する。AMP、AD変換器等を実装した回路基板600から、データ処理部700へデータが送られることで、MSMS分析が行われる。10は上記各構成要素を制御する制御装置である。
【0029】
図2に、制御装置10の構成を示す。ユーザーは表示装置2を見ながら、入力装置3によって測定試料の分子種、分子量、結合状態の少なくとも1つを選択する。これに従い、選択回路4が分子種/電圧データベース5、分子量/電圧データベース6、結合状態/電圧データベース7のいずれかのデータベースから、所定の対応するMSMS電圧を読み出して印加電圧設定回路8に出力する。印加電圧設定回路8は指定されたMSMS電圧の値を電圧発生器9に指示して、MSMS電圧として出力させる。出力されたMSMS電圧は、
図1の第2の4重極電極部410に入力され、フラグメントイオンが形成される。
【0030】
ユーザーは表示装置2を見ながら、MSMS電圧の値を入力して直接指定しても良い。
【0031】
制御装置10は、代表的には、キーボード等の入力装置とディスプレイ等の表示装置、記憶装置を有するコンピュータと、コンピュータ上で実行される質量分析用プログラムから構成される。これらは専用のハードロジック回路から構成しても良い。
【0032】
図3は、本発明実施例におけるMSMS質量分析方法を示すフロー図である。
図3において、始めに、
図2の表示装置2に測定試料設定画面を表示させる。
【0033】
ユーザーがS20で分子種を選択すると、S21で分子種/電圧データベースが自動的に選択され、さらに、ユーザーがS22で特定の分子種を指定すると、S23でこれに対応するMSMS電圧が自動的に設定され、S60でMSMS電圧が出力され、S70で第2の質量分析計に印加され、フラグメントイオンが生成する。
【0034】
また、ユーザーがS30で分子量を選択すると、S31で分子量/電圧データベースが自動的に選択され、さらに、ユーザーがS32で特定の分子量を指定すると、S33でこれに対応するMSMS電圧が自動的に設定され、S60でMSMS電圧が出力され、S70で第2の質量分析計に印加され、フラグメントイオンが生成する。
【0035】
さらに、ユーザーがS40で分子量を選択すると、S41で結合状態/電圧データベースが自動的に選択され、さらに、ユーザーがS42で特定の結合状態を指定すると、S43でこれに対応するMSMS電圧が自動的に設定され、S60でMSMS電圧が出力され、S70で第2の質量分析計に印加され、フラグメントイオンが生成する。
【0036】
さらに、ユーザーがS50で最終的MSMS電圧を指定すると、直ちにS60でMSMS電圧が出力され、S70で第2の質量分析計に印加され、フラグメントイオンが生成する。
【0037】
図3では、分子種、分子量、結合状態からなる測定試料特性の、いずれか1つを選択する場合のフロー図を示したが、この他に、上記測定試料特性の任意の2つまたは3つ全てを組み合わせる場合のフロー図もあり、測定試料特性の実施順序を選択することもできる。
【0038】
図4に、表示装置2に表示される、第2の4重極電極部410に印加するMSMS電圧を設定するための、測定試料設定用の入力画面1000を示す。
図4では、測定試料設定として、チェックボックス1010で分子種を選択しプルダウンメニューからなる指定ウィンドウ1011で特定の分子種を入力する。また、チェックボックス1020で分子量を選択し、指定ウィンドウ1021で特定の分子量を入力する。また、チェックボックス1030で結合状態を選択し、指定ウィンドウ1031で特定の結合状態を入力する。
【0039】
さらに、従来例と同じく、チェックボックス1040及び指定ウィンドウ1041で任意のMSMS電圧を直接設定することも可能としている。
【0040】
分子種には、例えばPeptideやSmall molecular、Sugar chain、Agricultural chemical等が選択可能である。この分子種のみを選択項目とすると、それぞれの分子種(具体値)に応じて、事前にデータベースに保存されたデータである代表的な定電圧がMSMS条件として設定される。
【0041】
分子量は、予め知られている測定試料のおおよその分子量の具体値をユーザーが入力する。分子量の大きさとMSMS電圧の関係は、通常は分子量が大きければ電圧も高くなる正の相関関係にあり、MSMS電圧は、事前に作成された分子量−MSMS条件の電圧のグラフに従い設定される。
【0042】
結合状態は、測定試料の目的イオンにおける、例えば二重結合、硫黄結合、リン酸結合等の解離させたい部位の結合状態をユーザーが入力する。化学結合の種類によって結合エネルギーが一意に決定されるため、予め作成した結合エネルギーに対応する定電圧がMSMS電圧として設定される。従来と同様に直接MSMS電圧を設定する事も可能である。
【0043】
実際のMSMS分析においては、始めに分子種を決定し、次に分子量を決定し、さらにこれら分子種と分子量が決定された測定試料の結合状態を決定すると、ターゲットが的確に絞り込まれるため、最も適切に効率よく測定試料のMSMS分析を行うことができる。
【0044】
図5は、表示装置2に表示された、分子種毎に分子量に対応してMSMS電圧を決定する入力画面に示されたグラフである。
【0045】
図5において、通常分子量が大きければMSMS電圧も高くなる傾向にあり、また分子種が異なるとMSMS電圧は大きく異なる事から、事前に準備したデータに基づいて分子種毎に電圧設定グラフが作成される。
図5では、分子種1では、最小分子量時V1s(V)、最大分子量時V1e(V)の電圧が設定される。また、分子種2では、最小分子量時V2s(V)、最大分子量時V2e(V)の電圧が設定される。
【0046】
上記の方式ではおおよそのMSMS電圧設定が可能となるが、すでにデータが十分に得られた分子種の場合には、ユーザーが分子量とMSMS電圧を入力する事によって、新たに設定カーブを作成する事も可能である。ユーザー設定カーブを作成する事により、MSMS電圧が最適化されMSMS測定時の測定感度が向上する。
【符号の説明】
【0047】
2・・・表示装置
3・・・入力装置
4・・・選択回路
5・・・分子種/電圧データベース
6・・・分子量/電圧データベース
7・・・結合状態/電圧データベース
8・・・印加電圧設定回路
9・・・電圧発生器
10・・・制御装置
100 ・・・イオン源
110 ・・・イオン源にて生成したイオンの流れ
200 ・・・インターフェイス
300 ・・・第1の4重極電極
310 ・・・第2の4重極電極
320 ・・・第3の4重極電極
400 ・・・第1の4重極電極部
410 ・・・第2の4重極電極部
420 ・・・第3の4重極電極部
500 ・・・検出器
600 ・・・AMP、AD変換、PC通信等の回路部
700 ・・・PC等のデータ処理部
800 ・・・MSMS分析用コリジョンガス
810 ・・・MSMS分析用ガスライン
1000・・・MSMS分析条件を設定するための測定試料設定画面