特許第5813635号(P5813635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5813635アルキル変性ビニルアルコール系重合体、並びにこれを含む組成物、増粘剤、紙用塗工剤、塗工紙、接着剤及びフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5813635
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月17日
(54)【発明の名称】アルキル変性ビニルアルコール系重合体、並びにこれを含む組成物、増粘剤、紙用塗工剤、塗工紙、接着剤及びフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20151029BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20151029BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20151029BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20151029BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20151029BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20151029BHJP
   D21H 19/60 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   C08F216/06
   C08L29/04
   C08J5/18CEX
   C08F8/12
   C09J129/04
   C09K3/00 103E
   D21H19/60
【請求項の数】17
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-519422(P2012-519422)
(86)(22)【出願日】2011年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2011063182
(87)【国際公開番号】WO2011155546
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-63339(P2011-63339)
(32)【優先日】2011年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-52249(P2011-52249)
(32)【優先日】2011年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-14832(P2011-14832)
(32)【優先日】2011年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-223798(P2010-223798)
(32)【優先日】2010年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-132070(P2010-132070)
(32)【優先日】2010年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】新居 真輔
(72)【発明者】
【氏名】仲前 昌人
(72)【発明者】
【氏名】田岡 悠太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖知
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−209901(JP,A)
【文献】 特開昭53−074588(JP,A)
【文献】 特開平08−252975(JP,A)
【文献】 特開平08−217829(JP,A)
【文献】 特開平09−003424(JP,A)
【文献】 特開平07−188347(JP,A)
【文献】 特開平08−281092(JP,A)
【文献】 特開平09−003388(JP,A)
【文献】 特開平08−081664(JP,A)
【文献】 特開2002−285019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F16,116,216、C08J5/18
C08L29、C09J129、C09K3
D21H19/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される単量体単位(a)を含有し、粘度平均重合度が200以上5,000以下、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位(a)の含有率が0.05モル%以上5モル%以下であり、
カチオン基を含まないアルキル変性ビニルアルコール系重合体。
【化1】
(式(I)中、Rは、炭素数17〜29の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【請求項2】
上記式(I)におけるRが、炭素数17〜26の直鎖状又は分岐状アルキル基である請求項1に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項3】
けん化度が60モル%以上99.9モル%以下である請求項1又は請求項2に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項4】
下記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものである請求項1、請求項2又は請求項3に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体。
【化2】
(式(II)中、R及びRの定義は上記式(I)と同様である。)
【請求項5】
カルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率が0.1モル%未満である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を含む組成物。
【請求項7】
水及び油分をさらに含み、この油分100質量部に対する上記アルキル変性ビニルアルコール系重合体の含有量が0.1質量部以上50質量部以下である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を含む増粘剤。
【請求項9】
水又は水含有溶媒をさらに含む請求項8に記載の増粘剤。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を含む紙用塗工剤。
【請求項11】
請求項10に記載の紙用塗工剤が紙表面に塗工されてなる塗工紙。
【請求項12】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を含む接着剤。
【請求項13】
エチレン系不飽和単量体及びジエン系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体から得られる重合体をエマルジョン状態でさらに含む請求項12に記載の接着剤。
【請求項14】
フィラーをさらに含む請求項12又は請求項13に記載の接着剤。
【請求項15】
紙用又は木工用である請求項12、請求項13又は請求項14に記載の接着剤。
【請求項16】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアルキル変性ビニルアルコール系重合体を含むフィルム。
【請求項17】
水との接触角が70°以上である請求項16に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアルキル変性ビニルアルコール系重合体、並びにこれを含む組成物、増粘剤、紙用塗工剤、塗工紙、接着剤及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」ということもある。)は、数少ない結晶性の水溶性高分子として、優れた造膜性、界面特性及び強度特性を有する。このため、PVAは、増粘剤、紙用塗工剤、接着剤、繊維加工剤、バインダー、エマルジョン安定剤、フィルム及び繊維等の原料などとして重要な地位を占めている。
【0003】
さらに、PVAにおける特定の性能を向上させるために、結晶性の制御や官能基の導入等による変性PVAが種々開発されている。変性PVAの中でも、アルキル基が導入されたアルキル変性PVAは、水系溶媒中でアルキル基(疎水基)相互作用が発現し、増粘性が高まることが知られている(特開昭55−47256号公報参照)。上記アルキル変性PVAは、アルキル基の含有量が多いほど増粘性が高まるが、アルキル基の含有量が多すぎると水溶性が低下する。そこで、水溶性を高めること等を目的とし、イオン性官能基が導入されたアルキル変性PVAが提案されている(特開昭58−15055号公報、特開昭59−78963号公報及び特開平8−60137号公報参照)。また、エマルジョン安定剤としての性能を高めることを目的として、同様に、アルキル基とイオン性官能基(カルボキシル基)とを有する変性PVAが提案されている(特開平8−281092号公報参照)。
【0004】
しかし、アルキル変性PVAにイオン性官能基を導入すると、反対のイオン性を有する物質と共存した場合、この物質との結合により増粘性や保存安定性が低下するという不都合がある。また、イオン性官能基が導入されたアルキル変性PVAは、例えば、フィルムや接着剤等として用いた場合、イオン性官能基の存在により、耐水性が不十分になり、例えばフィルムにした場合には表面撥水性が低下するという不都合もある。
【0005】
また、上述の通りPVAは水溶性であるため、特に低温で乾燥する場合には、得られる塗膜の耐水性が十分ではないという問題があった。この点を改良するために、PVA又はこの組成物に対して、種々の改良が検討されている。この耐水性を高める方法としては、例えば、PVAをグリオキザール、グルタルアルデヒド、ジアルデヒド澱粉、水溶性エポキシ化合物、メチロール化合物等で架橋させる方法が知られている。しかしながら、この方法により得られる塗膜を十分に耐水化させるためには、100℃以上、特に120℃以上の高温で長時間熱処理することが必要である。
【0006】
また、低温乾燥でPVA塗膜を耐水化する方法としては、PVA水溶液を例えばpH2以下のような強酸性条件とすることも知られている。しかし、この場合には、PVA水溶液の粘度安定性が低下して使用中にゲル化する等の不都合があり、また、得られる塗膜の耐水性の点においても十分とは言えない。
【0007】
さらには、カルボキシル基含有PVAをポリアミドエピクロルヒドリン樹脂で架橋させる方法、アセトアセチル基含有PVAをグリオキザール等の多価アルデヒド化合物で架橋させる方法、多官能性エポキシ化合物、多官能性カルボキシ化合物、又はホウ素化合物で架橋させる方法(特開2010−111969号公報参照)等も検討されている。しかし、これらの各方法に使用される架橋剤を用いた場合、PVA水溶液(塗工剤)の粘度安定性が低下する等の不都合を有している。
【0008】
一方、PVAを主成分とする接着剤は、安価でかつ優れた接着性を有しており、板紙、段ボール紙、紙管、襖、壁紙、木材等の接着に使用されている。また、各種エマルジョンとPVAとが混合された接着剤は、木工用、繊維加工用、紙用の接着剤等に使用されている。このようにPVAを含む水性接着剤(PVA系水性接着剤)は、広い用途に使用されている。しかしながら、PVA系水性接着剤においても、近年の高速塗工化等に対応すべく、初期接着性を始めとした接着性や、保存安定性(粘度安定性や分散安定性)等の更なる向上が求められている。
【0009】
このような中、(1)PVA、クレー及び水溶性ホウ素化合物を主成分とする接着剤(特開昭62−195070号公報参照)、(2)特定の金属塩を含有するPVA系接着剤(特開平4−239085号公報参照)、(3)エチレン単位を1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコール、澱粉及び糖類を含む接着剤(特開平11−21530号公報参照)、並びに(4)分子中に1,2−グリコール結合を1.8〜3.5モル%含有し、かつ、けん化度が90モル%以上のビニルアルコール系重合体及び無機充填剤を含む接着剤(特開2001−164219号公報参照)が提案されている。
【0010】
上記(1)の接着剤は、初期接着性が改善でき、段ボール紙の製造等で工業的に広く使用されている。しかし、環境への影響が懸念されるホウ素化合物の使用は、近年制限される流れにあり、その代替品が強く求められている。なお、同様に、PVAの架橋剤となりうる化合物(例えば、尿素−ホルマリン系樹脂等)を使用し、初期接着性を改善する試みも多数なされている。しかし、実質的に架橋剤として使用する化合物の安全性に懸念がある場合もあり、また、組成物の粘度安定性も十分ではない場合が多いのが現状である。
【0011】
また、上記(2)の接着剤は、初期接着性は改善されるものの、保存安定性に問題があり、工業的に十分満足できるものではない。さらに、上記(3)や(4)の接着剤も、接着性や保存安定性がある程度は改善されているものの、近年の高速塗工化に対する要望に十分に応えるものではない。
【0012】
なお、これらのPVA系接着剤は、固形分濃度増加等による接着性向上等を目的として、上述のように各種エマルジョンと混合して使用される場合もあるが、このような接着剤においても、上記性能(接着性及び保存安定性等)の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭55−47256号公報
【特許文献2】特開昭58−15055号公報
【特許文献3】特開昭59−78963号公報
【特許文献4】特開平8−60137号公報
【特許文献5】特開平8−281092号公報
【特許文献6】特開2010−111969号公報
【特許文献7】特開昭62−195070号公報
【特許文献8】特開平4−239085号公報
【特許文献9】特開平11−21530号公報
【特許文献10】特開2001−164219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高い水溶性を維持しつつ、優れた増粘性を発揮でき、特別な架橋剤を用いなくても硬化した状態において高い耐水性を有することができる新規なアルキル変性PVAを提供することを目的とする。また、このアルキル変性PVAを含む組成物、増粘剤、紙用塗工剤、塗工紙、接着剤及びフィルムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明のアルキル変性PVAは、
下記一般式(I)で表される単量体単位(a)を含有し、粘度平均重合度が200以上5,000以下、けん化度が20モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位(a)の含有率が0.05モル%以上5モル%以下である。
【化1】
(式(I)中、Rは、炭素数8〜29の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【0016】
当該アルキル変性PVAによれば、上記単量体単位(a)が有する疎水性のR及び親水性のアミド結合の存在により、水溶性を維持しつつ、優れた増粘性を発揮することができる。また、当該アルキル変性PVAは、上記単量体単位(a)を有することで、硬化した状態において高い耐水性(以下、硬化した状態における耐水性を、単に耐水性ということもある。)を有することができる。さらに、当該アルキル変性PVAにおいては、粘度平均重合度、けん化度及び上記単量体単位(a)の含有率を上記範囲とすることにより、上記特性を高めることができる。従って、当該アルキル変性PVAは、例えば増粘剤、紙用塗工剤、接着剤、フィルム等に好適に用いることができる。
【0017】
上記式(I)におけるRが、炭素数15〜26の直鎖状又は分岐状アルキル基であるとよい。このように長鎖のアルキル基をRに用いることで、上述の増粘性や耐水性等をさらに高めることができる。
【0018】
当該アルキル変性PVAのけん化度としては、60モル%以上99.9モル%以下が好ましい。このようなけん化度とすることで、当該アルキル変性PVAの疎水基同士の相互作用がより効果的に発現され、例えば耐水性を高めることができる。
【0019】
当該アルキル変性PVAは、下記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものであるとよい。
【化2】
(式(II)中、R及びRの定義は上記式(I)と同様である。)
【0020】
当該アルキル変性PVAにおいて、カルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率が0.1モル%未満であることが好ましい。このように、カルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率を低くすることで、当該アルキル変性PVAの耐水性等をより効果的に発揮させることができる。
【0021】
本発明の組成物は、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該組成物は、本発明のアルキル変性PVAを含むため、増粘剤、紙用塗工剤、接着剤、フィルム、塗料、バインダー、繊維糊剤等として好適に用いることができる。
【0022】
当該組成物が、水及び油分をさらに含み、この油分100質量部に対する当該アルキル変性PVAの含有量が0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。当該組成物は、粘性が高く、また、保存安定性にも優れる。
【0023】
本発明の増粘剤は、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該増粘剤は、当該アルキル変性PVAを含むため、少量の使用でも優れた増粘機能を発揮することができる。
【0024】
当該増粘剤が、水又は水含有溶媒をさらに含むとよい。このような増粘剤は、液体状の増粘剤として好適に用いることができる。
【0025】
本発明の紙用塗工剤は、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該紙用塗工剤によれば、上記アルキル変性PVAを含有するため、特別な架橋剤を用いなくても紙表面に塗工することによって得られる塗膜の強度及び耐水性を高めることができる。この理由は定かではないが、例えば、上記単量体単位(a)中のアルキル基(R)同士が会合した状態で乾燥することに起因すると考えられる。
【0026】
本発明の塗工紙は、上記紙用塗工剤が紙表面に塗工されてなるものである。当該塗工紙は、上記紙用塗工剤が表面に塗工されているため、表面の強度及び耐水性等に優れる。
【0027】
本発明の接着剤は、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該接着剤は、当該アルキル変性PVAを含有するため、初期接着性及び保存安定性等に優れる。この理由は定かではないが、例えば、上記単量体単位(a)中のアルキル基(R)同士が会合することで、架橋剤的な役割を果たし、その結果、初期接着性が高まること、また、単量体単位(a)の構造に由来する新水性と疎水性とのバランスで、保存安定性が高まることなどが考えられる。
【0028】
当該接着剤が、エチレン系不飽和単量体及びジエン系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体から得られる重合体をエマルジョン状態でさらに含むことが好ましい。当該接着剤は、このような重合体のエマルジョンと混合して用いることにより、優れた初期接着性及び保存安定性等を発揮しつつ、さらに乾燥性や接着後の強度を高めることができる。
【0029】
当該接着剤がフィラーをさらに含むことが好ましい。当該接着剤は、フィラーをさらに含むことで、乾燥性や接着後の強度等を高めることができる。
【0030】
当該接着剤は、紙用又は木工用として好適に用いることができる。
【0031】
本発明のフィルムは、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該フィルムは、当該アルキル変性PVAを含むため、表面撥水性等に優れる。
【0032】
当該フィルムの水との接触角としては、70°以上が好ましい。当該フィルムは、このような高い接触角を有することで、より優れた表面撥水性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明のアルキル変性PVAは、高い水溶性を維持しつつ、優れた増粘性を発揮でき、特別な架橋剤を用いなくても硬化した状態において高い耐水性を有することができる。従って、当該アルキル変性PVAは、例えば、増粘剤、紙用塗工剤、接着剤及びフィルム等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明のアルキル変性PVA、組成物、増粘剤、紙用塗工剤、塗工紙、接着剤及びフィルムの実施の形態について、順に詳説する。
【0035】
<アルキル変性PVA>
当該アルキル変性PVAは、下記一般式(I)で表される単量体単位(a)を含有する。すなわち、当該アルキル変性PVAは、上記単量体単位(a)と、ビニルアルコール単量体単位(−CH−CHOH−)との共重合体であり、さらに他の単量体単位を有していてもよい。
【0036】
【化3】
【0037】
式(I)中、Rは、炭素数8〜29の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。なお、上記R及びRは、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよいが、これらの置換基を有していないことが好ましい。
【0038】
上記Rで表される直鎖状又は分岐状のアルキル基に含まれる炭素数は8以上29以下であるが、10以上28以下が好ましく、12以上27以下がより好ましく、15以上26以下がさらに好ましく、17以上24以下が特に好ましい。この炭素数が8未満の場合、当該アルキル変性PVAにおけるアルキル基同士の相互作用が発現しないため、高い増粘性、耐水性、接着性、フィルムにした場合の表面撥水性等が十分に発揮されない。逆に、この炭素数が29を超える場合、当該アルキル変性PVAの水溶性等が低下する。
【0039】
上記Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であるが、合成の容易性等の点から、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0040】
当該アルキル変性PVAにおける上記単量体単位(a)の含有率は、0.05モル%以上5モル%以下である。さらに、この含有率は、0.1モル%以上が好ましく、0.2モル%以上がより好ましい。また、この含有率は、2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。なお、この単量体単位(a)の含有率とは、アルキル変性PVAを構成する全構造単位に占める上記式(I)で表される単量体単位(a)の含有率である。また、当該アルキル変性PVAが、上記式(I)で表される単量体単位(a)以外に他のアルキル変性単量体単位を含まない場合、この単量体単位(a)の含有率が、いわゆるアルキル変性率となる。
【0041】
この単量体単位(a)の含有率が5モル%を超えると、アルキル変性PVA一分子あたりに含まれる疎水基の割合が高くなり、このアルキル変性PVAの水溶性が低下する。一方、この単量体単位(a)の含有率が0.05モル%未満の場合、アルキル変性PVAの水溶性は優れているものの、このアルキル変性PVA中に含まれるアルキルユニットの数が少ないため、増粘性、耐水性、接着性、保存安定性、塗膜にした場合の強度、フィルムにした場合の表面撥水性等のアルキル変性に基づく物性が十分に発現しない。
【0042】
この単量体単位(a)の含有率は、当該アルキル変性PVAの前駆体であるアルキル変性ビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求めることができる。具体的には、n−ヘキサン/アセトンでアルキル変性ビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のサンプルを作製する。このサンプルをCDClに溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定する。
【0043】
この際、例えば、上記単量体単位(a)以外のアルキル変性単量体単位を含まず、Rが直鎖状であり、さらにRが水素原子である場合、以下の方法にて算出できる。すなわち、アルキル変性ビニルエステル系重合体の主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とアルキル基Rの末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)とから、下記式を用いて、単量体単位(a)の含有率Sを算出する。
S(モル%)
={(βのプロトン数/3)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3))}×100
【0044】
当該アルキル変性PVAにおけるカルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率は、0.1モル%未満であることが好ましく、0.01モル%以下であることがより好ましい。単量体単位(b)の含有率が0.1モル%以上であると、接着性、耐水性、保存安定性、塗膜にした場合の強度等が低下したり、フィルムにした時に親水性が高くなって接触角が低下したりするおそれがある。なお、この単量体単位(b)の含有率とは、アルキル変性PVAを構成する全構造単位に占めるこの単量体単位(b)の含有率であり、上述した単量体単位(a)の含有率と同様に、プロトンNMRから求めることができる。
【0045】
当該アルキル変性PVAの粘度平均重合度は200以上5,000以下である。なお、粘度平均重合度を単に重合度と呼ぶことがある。この重合度が5,000を超えると、このアルキル変性PVAの生産性が低下するため実用的でない。逆に、この重合度が200未満の場合、増粘性、耐水性、初期接着性、塗膜やフィルムにした場合の強度等の当該アルキル変性PVAの各特性が十分に発揮されない場合がある。なお、この重合度の下限は、当該アルキル変性PVAを含有する塗膜やフィルムの強度を高める観点から、500が好ましく、1,000がさらに好ましい。
【0046】
この粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、アルキル変性PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0047】
上記アルキル変性PVAのけん化度は、20モル%以上99.99モル%以下である必要があり、40モル%以上99.9モル%以下が好ましい。この中でも、特に耐水性が要求される場合には、上記アルキル変性PVAのけん化度は、60モル%以上99.9モル%以下がより好ましく、70モル%以上99.9モル%以下がさらに好ましく、80モル%以上99.9モル%以下が特に好ましく、96モル%以上99.9モル%以下が最も好ましい。
【0048】
このけん化度が20モル%未満の場合には、当該アルキル変性PVAの水溶性等が低下すると共に、疎水基相互作用により発現する会合性能(架橋的性能)が低下することにより、増粘性、耐水性、接着性、塗膜にした場合の強度及びフィルムにした場合の表面撥水性も低下する。逆に、このけん化度が99.99モル%を超えると、アルキル変性PVAの生産が困難になるので実用的でない。なお、上記アルキル変性PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0049】
当該アルキル変性PVAによれば、上述のように、上記単量体単位(a)が有する疎水性のR及び親水性のアミド結合の存在により、水溶性を維持しつつ、優れた増粘性等を発揮することができる。また、当該アルキル変性PVAは、上記単量体単位(a)を有することで、硬化した状態において高い耐水性を有することができる。さらに、当該アルキル変性PVAにおいては、粘度平均重合度、けん化度及び上記単量体単位(a)の含有率を上記範囲とすることにより、上記特性を高めることができる。従って、当該アルキル変性PVAは、例えば増粘剤、紙用塗工剤、接着剤、フィルム等に好適に用いることができる。
【0050】
<アルキル変性PVAの製造方法>
当該アルキル変性PVAを製造する方法は特に制限されないが、下記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたアルキル変性ビニルエステル系重合体をけん化する方法が好ましい。ここで、上記の共重合はアルコール系溶媒中又は無溶媒で行うことが好適である。
【0051】
【化4】
【0052】
式(II)中、R及びRの定義は上記式(I)と同様である。
【0053】
上記式(II)で表される不飽和単量体として具体的には、N−オクチルアクリルアミド、N−デシルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ヘキサコシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、N−オクタデシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、及びN−ヘキサコシルメタクリルアミドが好ましく、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド及びN−オクタデシルメタクリルアミドがより好ましく、N−オクタデシルアクリルアミド及びN−オクタデシルメタクリルアミドがさらに好ましい。
【0054】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、これら中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0055】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用しうる単量体としては、例えば、
エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;
塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;
酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸イソプロペニル
等が挙げられる。
【0056】
また、一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られる共重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。この連鎖移動剤としては、
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;
トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;
ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類
等が挙げられ、これらの中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。
【0057】
上記連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするアルキル変性ビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定することができるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10質量%が好ましい。
【0058】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定する単量体単位(a)の含有率を満足するアルキル変性PVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0059】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を採用することができる。これらの中でも、無溶媒又はアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合体の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。
【0060】
上記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は2種類又はそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0061】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0062】
なお、一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するアルキル変性PVAの着色等が見られることがある。この場合には、着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤をビニルエステル系単量体に対して1〜100ppm程度添加することはなんら差し支えない。
【0063】
上記共重合により得られたアルキル変性ビニルエステル系重合体のけん化反応には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒又はp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた公知の加アルコール分解反応又は加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、メタノール又はメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0064】
<組成物>
本発明の組成物は、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該組成物は、当該アルキル変性PVA、溶媒等を含む液体状のものであってもよいし、当該液体状の組成物が乾燥等により硬化した固体状のものであってもよい。なお、後に詳述する、増粘剤、紙用塗工剤やそれから得られる塗膜、接着剤及びフィルムも当該組成物に含まれる。以下、当該組成物が、液体状である場合について説明する。
【0065】
上記溶媒としては、特に限定されないが、通常は水であり、その他、後述するアルコール等の有機溶媒であってもよい。また、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0066】
当該液体状の組成物における当該アルキル変性PVAの濃度としては、特に限定されないが、例えば、溶媒が水である場合、1質量%以上10質量%以下とすることができる。当該組成物によれば、当該アルキル変性PVAの水溶性が高いため、比較的高濃度とすることができる。
【0067】
当該液体状の組成物は、当該アルキル変性PVAを含むため、例えば膜状にした後、乾燥して得られる皮膜の耐水性に優れる。この皮膜の耐水性としては、当該皮膜を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、その皮膜の溶出率を測定することで評価することができる。この溶出率としては、20質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましい。
【0068】
当該液体状の組成物は、公知の各種架橋剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を本発明の効果が損なわれない範囲で含有していてもよい。
【0069】
当該液体状の組成物は、耐水性が求められる各用途、例えば紙用塗工剤(クリアコーティング剤、顔料コーティング剤、内添サイズ剤、感熱紙のオーバーコート用バインダー等)、バインダー、接着剤、繊維糊剤等として好適に用いることができる。
【0070】
当該液体状の組成物は、当該アルキル変性PVAに加え、水及び油分を含むものであってもよい。当該組成物は、粘性が高く、また、保存安定性にも優れる。
【0071】
上記油分は、通常、水中に分散したエマルジョン状態で存在する。このような分散液としては、水性ポリアクリレート系分散液、オレフィン性不飽和モノマーの単独又は共重合体の水性分散液、水性ポリ酢酸ビニル系分散液、水性ポリウレタン系分散液、水性ポリエステル系分散液等の既存の水性エマルジョン分散液が挙げられる。
【0072】
このような当該組成物におけるアルキル変性PVAの含有量は、油分100質量部に対して0.1質量部以上50質量部以下が好ましく、0.3質量部以上5質量部以下がより好ましい。アルキル変性PVAの含有量を上記範囲とすることで、当該組成物の粘性及び保存安定性を共にバランス良く発揮させることができる。
【0073】
なお、この組成物の保存安定性を高めるためには、当該PVAの重合度及び単量体単位(a)の含有率を比較的高めることが好ましい。
【0074】
<増粘剤>
本発明の増粘剤は、当該アルキル変性PVAを含むため、優れた増粘性を発揮することができる。
【0075】
当該増粘剤は、上記アルキル変性PVAからなる粉末状の増粘剤であってもよいし、水又は水含有溶媒を含有する液体状の増粘剤であってもよい。この液体状の増粘剤は、塗料、接着剤等の水分散性エマルジョン含有物に対して用いる場合に好適である。
【0076】
上記水含有溶媒に含まれる水以外の溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、MTBE(メチル−t−ブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒;アセトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒等を挙げることができる。
【0077】
当該増粘剤が液体状である場合、上記アルキル変性PVAの配合量は溶媒100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、3〜30質量部がより好ましい。このような液体状の当該増粘剤は、水又は水含有溶媒に当該アルキル変性PVAを添加し、加熱混合することにより製造される。
【0078】
当該液体状の増粘剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種可塑剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を配合してもよい。
【0079】
また、当該増粘剤には、同様に本発明の効果を損なわない範囲で公知の各種PVA、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の他の水溶性高分子を配合してもよい。これらの他の水溶性高分子の配合量は、当該アルキル変性PVA100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましい。
【0080】
当該増粘剤は、少量で高い増粘性を奏する上、安定した増粘性を発揮する。そのため、当該増粘剤は、塗料、セメント、コンクリート、バインダー、接着剤、化粧品等の水系溶液及び水系エマルジョン溶液に用いる増粘剤として好適に使用できる。
【0081】
<紙用塗工剤>
本発明の紙用塗工剤は、当該アルキル変性PVAを含有する。当該紙用塗工剤は、通常、当該アルキル変性PVAの水溶液であり、その他の溶媒や添加剤が含まれていてもよい。
【0082】
当該紙用塗工剤における当該アルキル変性PVAの濃度としては、特に限定されないが、塗布性及び得られる塗膜の強度や耐水性等の点からは、アルキル変性PVA水溶液として、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0083】
当該紙用塗工剤に含有される上記添加剤としては、充填材、各種高分子、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0084】
上記充填材としては、カオリン、クレー、焼成クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、ケイソウ土、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、ポリスチレン微粒子、ポリ酢酸ビニル系微粒子、尿素−ホルマリン樹脂微粒子、沈降性シリカ、ゲル状シリカ、気相法により合成されたシリカ(以下、気相法シリカと称する)、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、タルク、ゼオライト、アルミナ、酸化亜鉛、サチンホワイト、有機顔料などが挙げられる。
【0085】
上記高分子としては、無変性PVA、スルホン酸基変性PVA、アクリルアミド変性PVA、カチオン基変性PVA、長鎖アルキル基変性PVAなどの各種の変性PVA、澱粉、変性澱粉、カゼイン、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子、スチレン−ブタジエンラテックス、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル−エチレン共重合体エマルジョン、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体エマルジョンなどの合成樹脂のエマルジョンなどが挙げられる。
【0086】
当該紙用塗工剤における固形分濃度としては特に制限されず、用途等に応じて適宜調整することができるが、塗布性等を考慮すると、1質量%以上65質量%以下が好ましく、1質量%以上40質量%以下がより好ましく、1質量%以上20質量%以下がさらに好ましく、2質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
【0087】
当該紙用塗工剤は、例えば感熱紙のオーバーコート層のような耐水性が求められる用途に好適に用いることができる。この場合、充填材に代表される添加剤の含有量は、アルキル変性PVA100質量部に対して、50質量部以上150質量部以下であることが好ましく、80質量部以上120質量部以下がより好ましい。また、当該紙用塗工剤(オーバーコート層用塗料)の固形分濃度は、例えば10質量%以上65質量%以下の範囲で適宜調整できる。
【0088】
また、当該紙用塗工剤は、インクジェット記録紙のインク受理層バインダーのような充填材バインダーとして用いることも好ましい。この場合、当該紙用塗工剤は、添加剤として上記充填材を含有することが好ましい。この際、シリカ等の充填材とアルキル変性PVAとの含有比は特に制限されるものではないが、充填材100質量部に対して、アルキル変性PVAが3質量部以上100質量部以下であることが好ましく、5質量部以上40質量部以下がより好ましく、10質量部以上30質量部以下がさらに好ましい。
【0089】
また、当該紙用塗工剤は、その他、例えばバリアー剤等として用いることもできる。この場合も、上記各添加剤を適宜含有して用いることができる。充填材、消泡剤等に代表される添加剤の含有量は特に制限されるものではないが、アルキル変性PVA100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下がより好ましい。また、当該紙用塗工剤の固形分濃度は、例えば1質量%以上20質量%以下の範囲で適宜調整できる。
【0090】
当該紙用塗工剤を紙表面に塗工する方法は特に限定されず、公知のコーター(サイズプレスコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーターなど)を用いればよい。紙表面への塗工後は、必要に応じて、乾燥工程、カレンダー工程などの任意の工程を経てもよい。
【0091】
<塗工紙>
本発明の塗工紙は、上記紙用塗工剤が紙表面に塗工されてなるものである。当該塗工紙は、上記紙用塗工剤が表面に塗工されているため、表面の強度及び耐水性に優れる。当該塗工紙は、公知の方法で製造することができる。当該塗工紙は、例えば感熱紙、インクジェット記録紙、剥離紙原紙等として好適に用いることができる。
【0092】
<接着剤>
本発明の接着剤は、当該アルキル変性PVAを含有する。当該接着剤は、通常、当該アルキル変性PVAの水溶液であり、その他の添加剤等が含まれていてもよい。
【0093】
当該接着剤における当該アルキル変性PVAの濃度としては、特に限定されないが、塗布性、接着性、接着部分の強度や耐水性等の点からは、アルキル変性PVA水溶液として0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0094】
当該接着剤に含有される当該アルキル変性PVAは、水中において、特定のアルキル基(R)間の疎水基相互作用により擬似会合体を形成すると考えられる。これが、高粘度かつ濃度上昇に対して大きな増粘挙動という初期接着力発現に重要な特性を発現すると共に、分散安定性、フィラーの沈降安定性等の保存安定性が向上させると考えられる。さらには、この特定のアルキル基(R)同士が、疑似会合体を形成して乾燥することで、耐水接着性が高まると考えられる。
【0095】
なお、当該接着剤において上記耐水接着性をより高めるためには、当該アルキル変性PVAのけん化度を高めたり、単量体単位(b)の含有率を低下させたりすること等が好ましい。
【0096】
当該接着剤は、当該アルキル変性PVAに加えて、エマルジョン状態の重合体や、フィラーを含有することができる。さらには、当該接着剤は、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等のリン酸化合物の金属塩や水ガラスなどの無機物の分散剤;ポリアクリル酸及びその塩、アルギン酸ナトリウム、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体などのアニオン性高分子化合物とその金属塩;ポリエチレンオキサイド、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体などのノニオン界面活性剤;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体;その他、消泡剤、防腐剤、防黴剤、着色顔料、消臭剤、香料などが挙げられる。
【0097】
当該接着剤は、重合体をエマルジョン状態で含有することで、接着性の向上や、固形分増加による乾燥時の負荷を低減することができる。上記エマルジョン状態で含有される重合体(以下、重合体エマルジョンともいう)としては、特に限定されないが、エチレン系不飽和単量体及びジエン系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体から得られる重合体(共重合体を含む)が好ましい。
【0098】
上記エチレン系不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等を挙げることができる。
【0099】
また、上記ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等を挙げることができる。
【0100】
このような重合体エマルジョンとしては、具体的には、
酢酸ビニル重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の酢酸ビニル系エマルジョン;
メタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン;
スチレン系エマルジョン;
スチレン−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチルーブタジエン共重合体等のブタジエン系エマルジョン
等を挙げることができる。
【0101】
これらの中でも、酢酸ビニル系エマルジョン粒子又は(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン粒子が、当該接着剤の初期接着性及び保存安定性の観点から好ましい。
【0102】
上記重合体のエマルジョン粒子は、分散安定剤と共に含有されることで、エマルジョン状態の安定性を高めることができる。この分散安定剤としては、ビニルアルコール系重合体、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、各種界面活性剤等を用いることができ、中でもビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0103】
これらのエマルジョン(重合体エマルジョン粒子及び分散安定剤)の含有量としては、固形分基準でアルキル変性PVA100質量部に対し、通常、1,000質量部以下、好ましくは700質量部以下、さらに好ましくは500質量部以下100質量部以上で使用することができる。
【0104】
当該接着剤は、フィラーをさらに含有することで、固形分増加による乾燥時の負荷を低減したり、接着後の強度及び硬度の向上を図ることができる。
【0105】
上記フィラーとしては、
カオリナイト、ハロイサイト、パイロフェライト又はセリサイト等のクレー、重質、軽質又は表面処理された炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、石膏類、タルク、酸化チタン等の無機系フィラー;
澱粉、酸化澱粉、小麦粉、木紛等の有機系フィラー
等を挙げることができる。これらの中でも、各種クレー及び各種澱粉が好適に使用できる。
【0106】
上記フィラーの含有量としては、固形分基準でアルキル変性PVA100質量部に対して、1,000質量部以下が好ましく、500質量部以下がより好ましく、400質量部以下50質量部以上がさらに好ましい。上記フィラーの含有量が、上記上限を超える場合は、保存中にフィラーの沈降が生じ、保存安定性が低下する場合がある。
【0107】
当該接着剤の調製方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、アルキル変性PVAとフィラーなどの他の添加剤とをあらかじめ混合したものを水中に撹拌しながら投入するか、又は、各種添加剤、フィラー、アルキル変性PVAを逐次水中に撹拌しながら投入してスラリー液を調製した後、加熱溶解する等の方法を挙げることができる。この際の加熱方法としては、スラリー液に蒸気を直接吹き込む加熱方式や、ジャケットによる間接加熱方式等の公知の加熱方式を採用することができる。この調製は、バッチ方式又は連続方式のどちらで行ってもよい。
【0108】
当該接着剤は、水溶性や初期接着性に加えて、粘度安定性及び沈降安定性のような保存安定性に優れる。また、含有するアルキル変性PVAを調整することにより、接着後の耐水性をも高めることができる。従って、当該水溶性接着剤は、段ボール紙、紙袋、紙箱、紙管、壁紙等の製造時又は使用時などに用いる紙用接着剤や、木材同士、木材と繊維、木材と紙、木材とプラスチックスを接着する木工用接着剤として好適に使用される。また、布や不織布などの繊維、コンクリートなどのセメント成形物、各種プラスチックス、アルミ箔等を被着材とする用途にも使用できる。なお、本発明の接着剤の用途は、これらに限定されるものではない。
【0109】
当該接着剤の粘度は、用途によって任意に選ぶことができる。高速塗工性を意図した場合には、その貼り合わせ温度での粘度としては、B型粘度で100〜10,000mPa・sが好ましい。
【0110】
<フィルム>
本発明のフィルムは、当該アルキル変性PVAを含むものである。当該フィルムは、当該アルキル変性PVAを含むため、高い表面撥水性を有することができる。
当該フィルムにおける当該アルキル変性PVAの含有率としては、通常50質量%以上であり、90質量%以上がさらに好ましい。当該アルキル変性PVAの含有率を上記範囲とすることで、当該フィルムの撥水性を効果的に発現させることができる。
【0111】
当該フィルムは、本発明の効果が損なわれない範囲で、公知の各種可塑剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を含有していてもよい。
【0112】
また、同様に本発明の効果を損なわない範囲で、当該フィルムは、公知の各種PVA、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の他の水溶性高分子等を含有していてもよい。当該フィルムにおけるこれらの他の水溶性高分子の配合量としては、当該アルキル変性PVA100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましい。
【0113】
当該フィルムの水との接触角としては、70°以上が好ましく、80°以上がより好ましく、85°以上がさらに好ましい。当該フィルムにおいて、水との接触角が70°未満の場合、高い表面撥水性を発現しない場合がある。
【0114】
当該フィルムの製造方法としては、例えば、
(1)含水状態の当該アルキル変性PVAを溶融押出法により製膜する方法、
(2)当該アルキル変性PVAを溶媒に溶解した製膜原液を使用し、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(溶液を一旦冷却しゲル化した後、溶媒を抽出除去し、フィルムを得る方法)及びこれらの組み合わせによる方法
等を挙げることができる。
これらの製造方法の中でも、流延製膜法及び溶融押出製膜法が、良好なフィルムを得られることから好ましい。
【0115】
本発明のフィルムを作製する際に使用される、アルキル変性PVAを溶解する溶剤としては、例えばジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、水等を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、水または水とグリセリンの混合溶媒が好適に使用される。
【0116】
上記アルキル変性PVAを含有する当該フィルムは、このように高い表面撥水性を有しており、例えば、各種撥水コート材、表面被覆材等として好適に使用できる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0118】
なお、得られたPVA(アルキル変性PVA及び無変性PVA)の評価は以下の方法に従って行った。
【0119】
[変性率]
PVAにおける式(I)で表される単量体単位(a)の含有率(以下、「アルキル変性率」ともいう。)及びカルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率(以下、「イタコン酸変性率」ともいう。)を含む各変性率は、上述した、プロトンNMRを用いた方法に準じて求めた。
【0120】
[重合度]
PVAの重合度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0121】
[けん化度]
PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0122】
[水溶性]
蒸留水96gに対してPVA4gを室温で加え、30分間撹拌した。得られたPVA水溶液を90℃まで昇温し、そのまま1時間撹拌した後、室温まで冷却し、105mmφの金網を用いて濾過した。濾過後、金網を105℃で3時間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した後に質量を測定して、濾過の前後で増加した金網の質量を求めた。濾過後に増加した金網の質量をa(g)とし、下記式に従って不溶解分(%)を算出した。なお、不溶解分を算出するのに用いた式において、純分(%)とは下記式を用いて求めた値である。
純分(%)={105℃で3時間乾燥させたPVAの質量(g)/乾燥前のPVAの質量(g)}×100
不溶解分(%)={a(g)/4(g)}×{100/純分(%)}×100
上記式に従って算出した不溶解分(%)を以下の基準にしたがって判定した。
A:0.01%未満
B:0.01%以上0.1%未満
C:0.1%以上0.5%未満
D:0.5%以上1.0%未満
E:1.0%以上
【0123】
[PVAからなる皮膜の耐水性]
濃度4%のPVA水溶液を調製し、これを20℃でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、厚み40μmの皮膜を得た。得られた皮膜を縦5cm、横5cmの大きさに切り出して試験片を作製し、質量(質量A)を測定した。この試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、回収し、表面に付着した水分をガーゼでふき取り、105℃で16時間乾燥した後、質量(質量B)を測定した。浸漬前の皮膜の含水率をC(質量%)とし、下記式に従って溶出率(%)を求め、以下の基準にしたがって判定した。浸漬前の皮膜の含水率は、別途切り出した浸漬前の皮膜を105℃、4時間で乾燥し、あらかじめ求めた。
溶出率(%)=[1−B/{(1−C/100)×A}]×100
A:5.0%未満
B:5.0%以上10.0%未満
C:10.0%以上20.0%未満
D:20.0%以上、または、試験片が溶解し、回収できなかった。
【0124】
実施例1(PVA1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g及びN−オクタデシルメタクリルアミド1.1gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてN−オクタデシルメタクリルアミドをメタノールに溶解して濃度5%としたコモノマー溶液を調製し、このコモノマー溶液を窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。上記反応器に、上記ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマーの総量は4.8gであった。また重合停止時の固形分濃度は29.9%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性酢酸ビニル系重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液771.4g(溶液中のアルキル変性PVAcは200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。ここで、けん化溶液におけるアルキル変性PVAcの濃度は25%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比は0.03であった。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。この白色固体にメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してアルキル変性PVA(PVA1)を得た。
【0125】
実施例2〜15及び比較例1〜5(PVA2〜15及びPVAi〜vの製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するアルキル基を有する不飽和単量体の種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるアルキル変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により各種のアルキル変性PVA(PVA2〜15及びPVAi〜v)を製造した。
【0126】
実施例16(PVA16の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、N−オクタデシルメタクリルアミド1.1g及びイタコン酸0.7gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液として、N−オクタデシルメタクリルアミドをメタノールに溶解して濃度5%としたコモノマー溶液と、イタコン酸をメタノール溶液に溶解して濃度25%としたコモノマー溶液とを調製し、これらのコモノマー溶液を窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3gを添加し重合を開始した。上記ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド及びイタコン酸の比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたN−オクタデシルメタクリルアミドの総量は4.8g、イタコン酸の総量は9.6gであった。また、重合停止時の固形分濃度は29.9%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル−イタコン酸変性酢酸ビニル系重合体(アルキル−イタコン酸変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル−イタコン酸変性PVAcのメタノール溶液706.9g(溶液中のアルキル−イタコン酸変性PVAcは200.0g)に、93.2gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。ここで、けん化溶液におけるアルキル−イタコン酸変性PVAcの濃度は25%、アルキル−イタコン酸変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比は0.1であった。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。この白色固体にメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してアルキル−イタコン酸変性PVA(PVA16)を得た。
【0127】
比較例6(PVAviの製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g及びオクタデシルビニルエーテル57.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.0gを添加し重合を開始した。60℃で2時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は30.4%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性酢酸ビニル系共重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液792.9g(溶液中のアルキル変性PVAcは200.0g)に、7.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。ここで、けん化溶液におけるアルキル変性PVAcの濃度は25%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比は0.0075であった。アルカリ溶液を添加後約12分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。この白色固体にメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してアルキル変性PVA(PVAvi)を得た。
【0128】
比較例7(PVAviiの製造)
アルキル基を有する不飽和単量体としてラウリルビニルエーテルを用いた以外は、比較例6と同様の方法によりアルキル変性PVA(PVAvii)を製造した。
【0129】
比較例8(PVAviiiの製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル900g及びメタノール100gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は31.0%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度30%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPVAcのメタノール溶液971.1g(溶液中のPVAcは200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。ここで、けん化溶液におけるPVAcの濃度は20%、PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比は0.03であった。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。この白色固体にメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して無変性PVA(PVAviii)を得た。
【0130】
得られた各PVAの重合度、変性率、けん化度、水溶性並びに皮膜の耐水性について、上記方法にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
1)比較例6及び7では、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1.0g使用した。実施例16では、AIBNを0.3g使用した。それ以外の実施例及び比較例では、AIBNを0.25g使用した。
2)アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウム(NaOH)のモル比。
3)酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド、イタコン酸を用いた重合を実施。
4)アルキル変性率/イタコン酸変性率
【0132】
表1に示されるように、本発明のアルキル変性PVAは水溶性に優れており、さらに同等の重合度を有する無変性PVAと比較して高耐水性を有する(実施例3、比較例8)。さらに、同様のアルキル鎖長を有するアルキル変性PVAに比べても、高い水溶性を有しており、取り扱い性に優れている(実施例5、比較例6)。しかしながら、けん化度が低い場合(比較例2)、変性率が高い場合(比較例3)やアルキル鎖の炭素数が29を超える場合(比較例5)においては、水溶液中に不溶解分が多く確認された。また、カルボキシル基を有する単量体単位(b)を導入したアルキル変性PVAは、水溶性に優れるものの耐水性が低い(実施例16)。
【0133】
実施例17〜32及び比較例9〜16(増粘剤及び組成物)
得られた各PVAを実施例17〜32及び比較例9〜16の増粘剤として用い、以下の評価を行った。また、この増粘剤(PVA)を含む組成物の評価を以下の方法にて行った。評価結果を表2に示す。
【0134】
[増粘性(PVA水溶液の粘度)]
上述と同様の方法で濃度4%のPVA水溶液を調製し、B型粘度計を用いてロータ回転数6rpmで温度が20℃における粘度を測定した。
【0135】
[増粘性(エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの増粘試験)]
エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(株式会社クラレ製OM−4200NT、濃度55%)100部に濃度4%のPVA水溶液20.6部(PVAの固形分はエマルジョン固形分100部に対して1.5部)及び水2.4部を添加し、濃度45%のPVAとエマルジョンの混合溶液を作製し、B型粘度計を用いてロータ回転数6rpmで温度が20℃における粘度を測定し、以下の基準で判定した。
A:10,000mPa・s以上
B:5,000mPa・s以上10,000mPa・s未満
C:1,000mPa・s以上5,000mPa・s未満
D:500mPa・s以上1,000mPa・s未満
E:500mPa・s未満
【0136】
[エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの保存安定性]
増粘試験に使用した溶液を50℃の乾燥機中に保管し、エマルジョン層と水層が分離するのに要した日数を観察し、以下の基準で判定した。
A:30日間以上
B:15日間以上30日間未満
C:7日間以上15日間未満
D:3日間以上7日間未満
E:3日間未満
【0137】
【表2】
1)エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョンの増粘試験
2)粘度の測定限界は100,000mPa・s
3)酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド、イタコン酸を用いた重合を実施。
4)アルキル変性率/イタコン酸変性率
【0138】
なお、表2中「−」は、PVAが完全に溶解せず、増粘剤として好ましくなかったことを示す。
【0139】
表2に示されるように、本発明の増粘剤に含有されるアルキル変性PVAは、同等の重合度を有する無変性PVAと比較して高い増粘性を有する。そのため、エマルジョン(組成物)の増粘効果及び保存安定性において非常に優れた性能を有する。さらに、同様のアルキル鎖長を有するアルキル変性PVA(比較例14)に比べても、高い水溶性を有しており、増粘剤としての取り扱い性に優れている。しかしながら、アルキル鎖の炭素数が29を超える場合(比較例13)等においては、水溶液中に不溶解分が多く残り、増粘剤としては不適当であることが確認された。
【0140】
[木材の接着試験]
クラレ社製「ポバール」PVA−217で安定化されたPVAcエマルジョン(PVAc100部に対して、7.5部のPVA−217を添加)、上記PVA14を添加して、総固形分が35%、20℃、6rpmにおける粘度が10,000mPa・sの、フェノキシエタノールをPVAc100部に対して4部含有する水性エマルジョン接着剤を作製した。
米ツガ材に、上記水性エマルジョン接着剤を200g/m塗布し、ただちに同種の米ツガ材を貼り合わせ、7kg/cmの圧力で24時間圧締した。その後、解圧し、20℃、65%RH下で7日間養生してテストピース10個を作製し、そのうちの5個を使用してJIS K−6852に従って圧縮せん断強度を測定したところ、接着強度は118.3kg/cmであり、使用したテストピースはすべて材料破壊した。また、残りのテストピース5個を30℃の水に3時間浸漬した後、同様にして圧縮せん断強度を測定したところ、接着強度は21.4kg/cmであった。
【0141】
また、PVA15を添加せず、フェノキシエタノールを4部含有するPVAcエマルジョンを単独で使用した以外は上記の方法と同様にして木材の接着試験を行ったところ、接着強度はそれぞれ113.0kg/cm(すべて材料破壊)、22.8kg/cmであった。
【0142】
通常、ウレタン系やセルロース系の化合物をエマルジョンに添加すると耐水接着強度が低下する。しかし、このように本発明のアルキル変性PVAをエマルジョンに添加しても、耐水接着強度の低下はほとんどなかった。
【0143】
実施例33〜48及び比較例17〜24(紙用塗工剤)
得られた各PVAを用いて下記の方法で実施例33〜48及び比較例17〜24の紙用塗工剤を得た。得られた各紙用塗工剤を以下の方法にて評価した。評価結果を表3に示す。
【0144】
[感熱紙オーバーコート層の作製]
水酸化アルミニウム粉末(昭和電工社製、ハイジライトH42)90gを蒸留水210gに投入し、手動にて撹拌した。この後、ホモミキサー(IKA−Labortechnik社製、タイプT−25−SI)を用いて回転速度13,500rpmで5分間撹拌して、水酸化アルミニウムの分散液(水酸化アルミニウム濃度30%)を調製した。これとは別に、得られた各PVAを95℃の熱水に溶解させて、濃度4%のPVA水溶液を調製した。次に、PVA水溶液150gを上記水酸化アルミニウムの分散液20gに加え、両者を均一に混合した後、固形分濃度が4%となるように蒸留水を加えて塗工剤を得た。次に、塗工剤を、市販の感熱紙(コクヨ社製)の紙面に、ワイヤーバーのNo.60(ETO社製)を用いて手塗りした後、熱風乾燥機を用いて、塗工面を50℃で1時間乾燥させた。次に、乾燥後の感熱紙を、20℃、65%RHに調整した室内に3時間放置して、塗工剤により形成された感熱紙オーバーコート層の特性(耐水性、耐ブロッキング性)を評価するためのサンプルとした。
【0145】
[耐水性]
上記サンプルを20℃の水に10分間浸漬させた後、塗工面を指で10回擦って、当該面に生じた剥がれの状態を観察した。塗工剤により形成された層の耐水性は、観察した状態を以下の基準により5段階で評価した。
耐水性の判定基準
5:表面の剥がれが全くなかった。
4:表面の剥がれがごく少しあった。
3:表面の剥がれが少しあった。
2:表面の剥がれが多かった。
1:表面の大部分が剥がれた。
【0146】
[耐ブロッキング性(表面耐水性)]
上記サンプルを40℃の雰囲気下に72時間放置した後、5cm角に裁断した。次に、塗工面に一滴(約30μL)の水を垂らした後、その上に、水滴を垂らしていない別のサンプルを塗工面同士が接触するように重ね、自然乾燥させた。乾燥後、サンプル同士を引き剥がして、その剥がれ方の状態を観察した。塗工剤により形成された層の耐ブロッキング性は、観察した状態を以下の基準により3段階で評価した。
耐ブロッキング性の判定基準
3:特に力を加えることなく、自然に離れた。
2:表面同士が部分的に付着していたが、サンプルに破れなどは生じなかった。
1:表面同士が付着しており、引き剥がしによってサンプルに破れが生じた。
【0147】
[インクジェット記録紙の作製]
得られた各PVAについて固形分濃度4%の水溶液1,000gを調製し、該PVA水溶液を、気相法シリカ(アエロジルA300:日本アエロジル社製)の固形分濃度20%の分散液1,000gに加え、よく混合撹拌して分散液を得た。その後、蒸留水を添加して固形分濃度12質量%の塗工液(紙用塗工剤)を調製した。この塗工液の溶液粘度を、B型粘度計を用いてロータ回転数6rpm、温度20℃の条件で測定したところ、100mPa・sであった。コロナ処理を施したPETフィルムの表面に、メイヤーバーを用いて乾燥後の塗工量が15g/mとなるように30℃で上記塗工液を塗工し、熱風乾燥機にて150℃で3分間乾燥してインクジェット記録紙を製造した。
【0148】
[インクジェット記録紙の評価]
上記方法により、インクジェット記録紙を製造し、そのインク受理層のひび割れを以下の基準で評価した。
【0149】
[ひび割れ]
インク受理層の表面を光学顕微鏡により拡大倍率100倍で観察し、以下の基準により5段階で評価した。
5:表面にひび割れが全く観察されない。
4:表面にひび割れがほとんど観察されない。
3:表面に部分的にひび割れが発生。
2:表面に多数のひび割れが発生。
1:表面全体にひび割れが発生。
【0150】
[剥離紙原紙の作製]
坪量80g/m、透気度140秒のセミグラシン紙に、濃度4%のPVA水溶液(紙用塗工剤)を、塗布量が0.1g/mになるようMayerBarを用いて手塗り塗工し、110℃で1分間熱風乾燥機を用いて乾燥させた後に、20℃、65%RHで72時間調湿し、150℃、250Kg/cm、10m/分の条件でスーパーキャレンダー処理を1回実施した。得られた剥離紙原紙について、下記に示す方法で、透気度試験を実施した。
【0151】
[剥離紙原紙の透気度試験]
JIS−P8117に準じて、王研式滑度透気度試験機を用いて剥離紙原紙の透気度を測定し、下記基準により5段階で評価した。
5:50,000秒以上
4:30,000秒以上、50,000秒未満
3:10,000秒以上、30,000秒未満
2: 1,000秒以上、10,000秒未満
1: 1,000秒未満
【0152】
[紙用塗工剤総合評価]
総合評価:上記4つの評価項目の合計得点から総合評価を実施し、その評価結果をPVAの性能評価としたところ、PVA1を用いたもの(実施例33)は15点となった。なお、この得点が10点以上のものを合格品、10点未満のものを不合格品と判定した。
【0153】
【表3】
1)酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド、イタコン酸を用いた重合を実施。
2)アルキル変性率/イタコン酸変性率
【0154】
なお、表3中「−」は、PVAが完全に溶解せず、紙用塗工剤として好ましくなかったことを示す。
【0155】
本発明の紙用塗工剤に含有されるアルキル変性PVAは水溶性に優れており、さらに同等の重合度を有する無変性PVAと比較して高耐水性を有する(実施例35、比較例24)。さらに、同様のアルキル鎖長を有するアルキル変性PVAに比べても、高い水溶性を有しており、紙用塗工剤としての取り扱い性に優れている。(比較例22)。また、けん化度が低い場合(比較例18)、アルキル変性率が高い場合(比較例19)やアルキル鎖の炭素数が29を超える場合(比較例21)においては、水溶液中に不溶解分が多く残り、紙用塗工剤には不適当であることが確認できた。
【0156】
実施例49〜64及び比較例25〜32(接着剤)
表4に記載の各PVA40部を、イオン交換水960部に常温で添加し、撹拌しながら1時間で95℃まで昇温した。95℃で2時間保持した後、撹拌しながら常温まで冷却し、4%のPVA水溶液をそれぞれ得た。
【0157】
これらを実施例49〜64及び比較例25〜32の接着剤とし、下記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0158】
[初期接着性]
日本たばこ産業社製の初期接着試験機を用いて、以下の条件で初期接着力を測定した。
条件;クラフト紙/クラフト紙接着
塗布速度 0.5m/秒
せん断速度 300mm/秒
オープンタイム 1秒
圧着時間 2秒
養生時間 1秒、3秒、5秒、10秒
接着面積 1mm×25mm×8ヶ所(計2cm
温湿度 20℃、65%RH
【0159】
[保存安定性]
接着剤を40℃で7日間放置した後の状態を観察し、保存前後の状態変化を以下の指標で評価した。
A;分離、沈降なく、粘度変化もなし。
B;分離、沈降がわずかに認められるが、流動性はあり。
C;分離、沈降が認められる。あるいは、流動性がない。
【0160】
[耐水接着性]
クラフト紙上に接着剤を固形分で10g/mになるようにワイヤーバーを用いて塗工し、その上にクラフト紙を貼り付けた。このクラフト紙を20℃、65%RHで24時間養生した後に30℃の水に30秒間浸漬した。水を含んだクラフト紙の水分をろ紙を用いて軽くふき取った後に、接着層の180°剥離強度をオートグラフを用いて測定し、以下の指標で評価した。
A;クラフト紙の材破
B;1kg/cm以上
C;1kg/cm未満
【0161】
【表4】
1)酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド、イタコン酸を用いた重合を実施。
2)アルキル変性率/イタコン酸変性率
【0162】
なお、表4中「−」は、PVAが完全に溶解せず、接着剤として好ましくなかったことを示す。
【0163】
[実施例65]
実施例49で得られた4%のPVA1水溶液100部に対し、フィラーとしてクレー(Huber−900:カオリナイト系クレー、平均粒径0.6μm、Huber社製)8部を添加・撹拌し、クレーを十分分散させ、接着剤を調製した。該接着剤の固形分は12.0%、PVA1とクレーとの固形分質量比は100:200であった。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0164】
[実施例73]
PVA1水溶液に代えて、実施例64で得られたPVA16水溶液を用いた以外は実施例65と同様にクレーを添加し、接着剤を調製した。該接着剤の固形分は12.0%、PVA16とクレーの固形分質量比は100:200であった。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0165】
[比較例33]
PVA1水溶液に代えて、比較例32で得られたPVAviii水溶液を用いた以外は実施例65と同様にクレーを添加し、接着剤を調製した。該接着剤の固形分は12.0%、PVAviiiとクレーの固形分質量比は100:200であった。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0166】
[実施例66]
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口及びイカリ型撹拌翼を備えたガラス製重合容器に、イオン交換水450部とPVA−117(クラレ社製)を32部仕込み、95℃で溶解した。次に、このPVA−117水溶液を冷却、窒素置換後、140rpmで撹拌しながら酢酸ビニル40部を仕込み、60℃に昇温した後、過酸化水素/酒石酸のレドックス開始剤系の存在下で重合を開始した。重合開始15分後から酢酸ビニル360部を3時間にわたって連続的に添加し、重合を完結させて、酢酸ビニル重合体(PVAc)のエマルジョンを得た。使用した開始剤は、1%過酸化水素水30g、5%酒石酸水溶液10gであった。得られたPVAcエマルジョンの固形分濃度は46.8%であった。実施例49で得られた4%のPVA1水溶液100部とPVAcエマルジョン34.1部とを混合し接着剤を調製した(PVA1とPVAcの固形分質量比は100:400)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0167】
[実施例74]
PVA1水溶液に代えて、実施例64で得られたPVA16水溶液を用いた以外は実施例66と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVA16とPVAcの固形分質量比は100:400)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0168】
[比較例34]
PVA1水溶液に代えて、比較例32で得られたPVAviii水溶液を用いた以外は実施例66と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVAviiiとPVAcの固形分質量比は100:400)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0169】
[実施例67]
実施例49で得られたPVA1水溶液100部にクレー(Huber−900:カオリナイト系クレー、平均粒径0.6μm、Huber社製)8部を添加・撹拌し、クレーを十分分散させた。この分散液に実施例66で得られたPVAcエマルジョン34.1部を添加混合し、接着剤を調製した(PVA1とPVAcとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0170】
[実施例75]
PVA1水溶液に代えて、実施例64で得られたPVA16水溶液を用いた以外は実施例67と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVA16とPVAcとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0171】
[比較例35]
PVA1水溶液に代えて、比較例32で得られたPVAviii水溶液を用いた以外は実施例67と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVAviiiとPVAcとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0172】
[実施例68及び69]
クレーに代えて、炭酸カルシウム(ホワイトンP−30、重質炭酸カルシウム、平均粒径1.75μm、白石工業社製)又は酸化澱粉(MS−3800、日本食品加工製)をそれぞれ用いた以外は実施例67と同様の操作を行い、接着剤をそれぞれ得た。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0173】
[実施例70]
還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素吹込口を備えたガラス製重合容器に、イオン交換水500部、末端にメルカプト基を有するポリビニルアルコール(M−205:重合度550、けん化度88.2モル%、クラレ社製)28部を仕込み、95℃で溶解した。次に、メタクリル酸メチル20gとアクリル酸n−ブチル20gとを添加し、窒素置換後65℃まで昇温し、1%過硫酸カリウム水溶液12gを添加して重合を開始し、さらに2時間かけてメタクリル酸メチル180g、アクリル酸n−ブチル180gを連続的に添加した。重合は4時間で完結し、固形分濃度45.1%、粘度2800mPa・sのメタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体(ACR)エマルジョンを得た。実施例49で得られたPVA1水溶液100部にクレー(Huber−900:カオリナイト系クレー、平均粒径0.6μm、Huber社製)8部を添加・撹拌し、クレーを十分分散させ、それにACRエマルジョン35.4部を添加混合し接着剤を調製した(PVA1とACRとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0174】
[実施例71]
メタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体(ACR)エマルジョンに代えて、エチレン−酢酸ビニル共重合体(VAE)エマルジョン(OM−4200NT、固形分濃度55.0%、クラレ社製)を29.0部用いた以外は実施例70と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVA1とVAEとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0175】
[実施例72]
メタクリル酸メチル/アクリル酸n−ブチル共重合体(ACR)エマルジョンに代えて、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョン(ナルスターSR−107、固形分濃度48.0%、日本エイアンドエル社製)を33.3部用いた以外は実施例70と同様の操作を行い、接着剤を調製した(PVA1とSBRとクレーの固形分質量比は100:400:200)。これを用い、上記方法に従い、初期接着性、保存安定性及び耐水接着性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0176】
【表5】
【0177】
表4及び表5の結果から示されるように、本発明の接着剤は、初期接着性及び保存安定性に優れている。さらには、用いるアルキル変性PVAのけん化度、上記一般式(I)で表される単量体単位(a)の含有率(アルキル変性率)、カルボキシル基を有する単量体単位(b)の含有率(イタコン酸変性率)等を調整することで、優れた耐水接着性も発揮できることがわかる。
【0178】
実施例76〜90及び比較例36〜43(フィルム)
上記PVAの水溶性の試験と同様にして、表6に記載の各PVAを用い、濃度4%のPVA水溶液をそれぞれ調製した。各PVA水溶液をPETフィルム上に流延した後、20℃、65%RHの条件下で1週間乾燥させ、実施例76〜90及び比較例36〜43のPVAフィルムをそれぞれ得た。各PVAフィルムの厚みは100μmであった。得られた各フィルムについて、以下の方法にて評価した。評価結果を表6に示す。
【0179】
[フィルムの触感]
得られたPVAフィルムの触感を、クラレ社製「PVA−117」を用いて同様に製造したフィルムと比較し、以下の基準で判定した。
A:PVA−117と同様にしなやか
B:PVA−117より少し硬くもろい
C:PVA−117よりも著しく硬くもろい
【0180】
[フィルム接触角の測定]
得られたPVAフィルムの接触角を、協和界面科学社製固液界面解析装置 DropMaster500を用いて測定し、以下の基準で判定した。
A:90°以上
B:85°以上90°未満
C:80°以上85°未満
D:70°以上80°未満
E:70°未満
【0181】
【表6】
1)酢酸ビニル、N−オクタデシルメタクリルアミド、イタコン酸を用いた重合を実施。
2)アルキル変性率/イタコン酸変性率
【0182】
なお、表6中「−」は、PVAが完全に溶解せず、フィルムの材料として好ましくなかったことを示す。
【0183】
本発明のアルキル変性PVAを用いたフィルムは、無変性PVAと比べて、水に対して高い接触角を有している(実施例78、比較例43)。また、同様のアルキル鎖長を有するアルキルビニルエーテル変性PVAと比べて、高い水溶性を有しており、水溶液としての取り扱い性に優れている(実施例80、比較例41)。しかしながら、重合度が低い場合においては、フィルムの状態が悪く(比較例36)、アルキル鎖の炭素数が29を超える場合においては、水溶液中に不溶解分が多く確認された(比較例40)。また、イタコン酸単位を2.0モル%導入したアルキル変性PVAは、水溶性に優れるものの接触角が低い(実施例90)。
【産業上の利用可能性】
【0184】
以上説明したように、本発明のアルキル変性PVAは、水溶性を維持しつつ、優れた増粘性を発揮でき、また、硬化した状態において高い耐水性を有することができる。従って、当該アルキル変性PVAは、増粘剤、紙用塗工剤、接着剤及びフィルム等に好適に用いることができる。
【0185】
本発明の組成物は、例えば紙用塗工剤(クリアコーティング剤、顔料コーティング剤、内添サイズ剤、感熱紙のオーバーコート用バインダー等)、バインダー、接着剤、繊維糊剤等として好適に用いることができる。本発明の増粘剤は、塗料、セメント、コンクリート、バインダー、接着剤、化粧品等の水系溶液及び水系エマルジョン溶液に用いる増粘剤として好適に使用できる。本発明の紙用塗工剤は、例えば感熱紙、インクジェット記録紙、剥離紙原紙等の塗工紙の製造に好適に使用できる。本発明の接着剤は、段ボール紙、紙袋、紙箱、紙管、壁紙等の製造時又は使用時などに用いる紙用接着剤や、木材同士、木材と繊維、木材と紙、木材とプラスチックスを接着する木工用接着剤として好適に使用できる。また、本発明の接着剤は、布や不職布などの繊維、コンクリートなどのセメント成形物、各種プラスチックス、アルミ箔等を被着材とする用途にも使用できる。さらに、本発明のフィルムは、各種撥水コート材、表面被覆材等として好適に使用できる。