【文献】
TSUJI, Jiro et al.,A Novel Synthetic Method for γ-Acetoxy-(E)-α,β-Unsaturated Esters by the Palladium Catalyzed Regi,TETRAHEDRON LETTERS,1981年,vol.22,pages 131-134,文献全体、特に、Summary、p132参照
【文献】
MITSUDOME Takato et al.,Convenient and Efficient Pd-Catalyzed Regioselective Oxyfunctionalization of Terminal Olefins by Usi,ANGEWANDTE CHEMIE INTERNATIONAL EDITION,2006年,vol.45,pages 481-485,p483左欄第9行−右欄第19行目、Table 3 参照
【文献】
BACKVALL Jan-E. et al.,Dual Stereoselectivity in the Nucleophilic Attack on (π-Allyl)palladium Complexes.,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,1985年,vol.107,pages 6892-6898,文献全体、特に、Results A. B.参照
【文献】
KOBATA, Kenji et al.,Capsaicinol: Synthesis by Allylic Oxidation and its Effect on TRPV1-Expressing Cells and Adrenaline,BIOSCIENCE, BIOTECHNOLOGY, AND BIOCHEMISTRY,2006年,vol.70, no.8,pages 1904-1912,文献全体、特に、Fig.1 参照
【文献】
BACKVALL, J. E. et al.,Stereocontrolled Synthesis of (R*R*)-and (R*S*)-5-Hydroxy-2-Methylhexanoic acid Lactones.,TETRAHEDRON,1985年,vol.41, no.24,pages 5761-5764,文献全体、特に、Results and Discussion参照
【文献】
HEUMANN, A. et al.,Allylic Acetoxylation of Cycloalkenes: 2-Cyclohepten-1-yl Acetate.,ORGANIC SYNTHESES,1990年,vol.68,pages 109-115,文献全体、特に、1.Procedure 参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明の
不飽和結合含有エステル化合物の製造方法は、下記式(1):
【0028】
(式(1)中、R
1は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R
2およびR
3はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはアリール基を表し、R
1とR
2がアルキル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表されるアミド系溶媒中、パラジウム触媒、塩基および分子状酸素の存在下で、分子内の末端以外の部位に1個以上の炭素−炭素二重結合を有する内部オレフィンまたは環状オレフィンとカルボン酸とを反応させて、前記炭素−炭素二重結合を構成する炭素原子および前記内部オレフィンまたは環状オレフィンのアリル位の炭素原子のうちの少なくとも1つの炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基を結合せしめる方法である。
【0029】
<オレフィン>
本発明に用いられるオレフィンは、分子内の末端以外の部位に1個以上の炭素−炭素二重結合を有する内部オレフィンまたは環状オレフィンである。また、本発明においては、分子内部に1個以上の炭素−炭素二重結合を有していれば、末端に炭素−炭素二重結合を有しているオレフィンも、有していないオレフィンも、内部オレフィンまたは環状オレフィンとして使用することができる。さらに、このような内部オレフィンおよび環状オレフィンは、ヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含有していてもよく、ヘテロ原子を含有する内部オレフィンおよび環状オレフィンとしては、エステル基(好ましくはカルボン酸エステル基、アルキルエステル基)などのヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含む官能基を有する内部オレフィンおよび環状オレフィンが挙げられる。
【0030】
このようなオレフィンとしては、下記式(2):
【0032】
(式(2)中、R
4〜R
7はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基およびアリール基からなる群から選択される1種を表し、R
4およびR
5のうちの少なくとも一方はアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれかであり、R
6およびR
7のうちの少なくとも一方はアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれかであり、R
4とR
6がアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよく、R
5とR
7がアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表される化合物が好ましい。
【0033】
前記アルキル基および前記アルケニル基は、直鎖状のものであっても分枝状のものであっても環状のものであってもよい。また、アルキル基の炭素数としては1〜20が好ましく、4〜12がより好ましい。さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいてヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含有していてもよい。前記アルケニル基中のC=C結合の位置としては特に制限はなく、アルケニル基の末端であっても内部であってもよい。例えば、アルケニル基の末端にC=C結合を有するオレフィンは、分子内の末端と内部にC=C結合を有するポリエンとなり、アルケニル基の内部にC=C結合を有するオレフィンは、分子の内部に2個以上のC=C結合を有するポリエンとなる。前記アリール基としてはフェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基などが挙げられ、本発明の効果を損なわない限りにおいてヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含有していてもよい。ヘテロ原子を含有するアルキル基、アルケニル基およびアリール基としては、エステル基(好ましくはカルボン酸エステル基(−O−C(=O)−R)、アルキルエステル基(−C(=O)−O−R))などのヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含む官能基を有するものが挙げられる。
【0034】
また、R
4とR
6、および/または、R
5とR
7はそれぞれ互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、シクロアルケンおよびシクロアルカジエンといった環状オレフィン類などが挙げられる。この場合、環構造以外の部分(例えば、R
4とR
6とが結合して環構造を形成した場合にはR
5および/またはR
7)にC=C結合が存在していてもよい。
【0035】
このような内部オレフィンの具体例としては、2−ブテン、2−ペンテン、2−メチル−2−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−2−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、5−メチル−2−ヘキセン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、6−メチル−2−ヘプテン、2−ノネン、7−メチル−2−オクテン、1−フェニル−1−プロピレン、1−シクロヘキシル−1−プロピレン、2−デセン、3−デセン、4−デセン、5−デセン、8−メチル−2−ノネン、1−フェニル−2−ブテン、1−シクロヘキシル−2−ブテン、5−ウンデセン、6−ドデセン、7−テトラデセン、8−ヘキサデセンといったモノオレフィン類、1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、2,4−デカジエンといったジエン類などが挙げられる。また、これらの内部オレフィンは、シス型、トランス型といった異性体も区別なく使用できる。
【0036】
前記環状オレフィンの具体例としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロデセンといったシクロアルケン類、シクロオクタジエンに代表されるシクロアルカジエン類、およびこれらのシクロアルケン類やシクロアルカジエン類にアルキル基やアルケニル基などが置換したもの(例えば、ビニルシクロヘキセン、アリルシクロヘキセン)などが挙げられる。
【0037】
また、前記ヘテロ原子を含有する内部オレフィンの具体例としては、2−ブテン−1−アセテートといった前記モノオレフィン類のアセトキシル化物、1,3−ペンタジエン−1−アセテートといった前記ジエン類のアセトキシル化物、オレイン酸メチルといった不飽和カルボン酸エステル類などが挙げられる。これらの内部オレフィンは、シス型、トランス型といった異性体も区別なく使用できる。また、前記ヘテロ原子を含有する環状オレフィンの具体例としては、シクロヘキセン−1−アセテートといった前記環状オレフィンのアセトキシル化物などが挙げられる。
【0038】
これらの内部オレフィンおよび環状オレフィンは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、このような内部オレフィンおよび環状オレフィンのうち、
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が高くなるという観点から、2−ブテン、2−ペンテン、2−メチル−2−ブテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−2−ペンテン、2−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、5−デセン、6−メチル−2−ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンが好ましく、2−ブテンがより好ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの濃度としては、0.01〜5mol/Lが好ましく、0.05〜1mol/Lがより好ましい。前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの濃度が前記下限未満になると高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を得ることができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行せず、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を製造することができない傾向にある。
【0040】
<カルボン酸>
本発明に用いられるカルボン酸としては、カルボキシル基を有するものであれば特に制限されないが、目的とする
前記不飽和結合含有エステル化合物を高収率で得ることができる点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪族カルボン酸;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β−不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、飽和脂肪族カルボン酸がより好ましく、酢酸が特に好ましい。このようなカルボン酸は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の製造方法において、前記カルボン酸の濃度としては、0.01〜15mol/Lが好ましく、0.05〜10mol/Lがより好ましい。カルボン酸の濃度が前記下限未満になると前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行せず、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を得ることができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると経済性の面で問題が生じる傾向にある。
【0042】
<パラジウム触媒>
本発明に用いられるパラジウム触媒としては、パラジウム原子を含有する化合物であれば特に制限されない。このようなパラジウム触媒として具体的には、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび炭酸パラジウムといったパラジウムの無機塩類、ヘテロポリ酸パラジウム塩およびイソポリ酸パラジウム塩といったパラジウムを含有するポリオキソアニオン系化合物、塩化パラジウムおよび臭化パラジウムといったハロゲン化パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、テトラブロモパラジウム酸ナトリウム、テトラクロロパラジウム酸カリウムおよびテトラブロモパラジウム酸カリウムといったパラジウム酸塩類、テトラアンミンパラジウムジクロリドおよびジアンミンパラジウムテトラクロリドといったハロゲン化パラジウムのアンミン錯体、水酸化パラジウムおよび酸化パラジウムといった無機系パラジウム化合物および錯体、酢酸パラジウムおよびトリフルオロ酢酸パラジウム(II)といったパラジウム有機酸塩、パラジウムアセチルアセトナートおよびアルキルパラジウム化合物といったパラジウム含有有機化合物、ジアセトニトリルパラジウムジクロリドおよびジベンゾニトリルパラジウムジクロリドといったハロゲン化パラジウムのニトリル錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムに代表されるパラジウムホスフィン錯体、エチレンジアミン四酢酸パラジウムに代表されるパラジウムアミン錯体、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムのクロロホルム付加物およびシクロオクタジエンパラジウムジクロリドといった有機系パラジウム化合物および錯体、パラジウムコロイドおよび高分散パラジウム金属といった活性な金属パラジウムなどが挙げられる。また、これらの化合物の無水物、結晶水含有物も前記パラジウム触媒として使用することができる。これらのパラジウム触媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
これらのパラジウム触媒のうち、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応において
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が高くなるという観点から、ハロゲン化パラジウムおよびハロゲン化パラジウムのニトリル錯体が好ましく、ハロゲン化パラジウムがより好ましい。
【0044】
本発明において、パラジウム触媒は、後述するアミド系溶媒に溶解した状態であっても、均一または不均一に分散した状態であってもよく、これらの組み合わせでもよい。例えば、アミド系溶媒にパラジウム触媒の一部の成分(例えば、配位子)を溶解させ、残りの成分を均一または不均一に分散させてもよい。
【0045】
また、本発明において、パラジウム触媒の濃度としては、0.002〜1mol/Lが好ましく、0.001〜0.05mol/Lがより好ましい。パラジウム触媒の濃度が前記下限未満になると前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行せず、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を製造することができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると不活性種であるPd blackが生成し、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行しない傾向にある。
【0046】
<アミド系溶媒>
本発明においては、溶媒として前記式(1)で表されるアミド系溶媒を使用する。このようなアミド系溶媒を使用することによって、分子状酸素によりパラジウム触媒を効率よく再酸化することが可能となる。
【0047】
前記式(1)中、R
1は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R
2およびR
3はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはアリール基を表す。R
1とR
2がアルキル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、ピロリドン骨格、カプロラクタム骨格などが挙げられる。
【0048】
本発明に用いられる具体的なアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジプロピルアセトアミド、N−メチル−N−エチルアセトアミド、N−ブチル−N−フェニルアセトアミド、N,N−ジメチルプロパンアミド、N,N−ジエチルプロパンアミド、N−メチル−N−エチルプロパンアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−カプロラクタム、N−エチル−2−カプロラクタムなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、本発明においては、これらのアミド系溶媒と他の溶媒とを併用してもよい。
【0049】
このようなアミド系溶媒のうち、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応において
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が高くなるという観点から、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンが好ましく、N,N−ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0050】
本発明におけるアミド系溶媒の使用量は、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンおよび前記パラジウム触媒の濃度が前記範囲内となるように適宜設定される。
【0051】
<酸素>
本発明においては、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンを酸化的にカルボキシル基を結合させてエステル化した後のパラジウム触媒を、分子状酸素を用いて再酸化する。このとき、銅触媒などの共触媒を実質的に使用しないため、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が銅触媒により阻害されず、内部オレフィンまたは環状オレフィンから
前記不飽和結合含有エステル化合物を比較的高収率で製造することが可能となる。
【0052】
前記分子状酸素の供給源としては、酸素ガス、酸素富化空気、空気、空気または酸素ガスと希釈ガスとの混合ガスなど(これらをまとめて「酸素含有ガス」という)が挙げられる。希釈ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、二酸化炭素などが挙げられるが、通常、窒素ガスが用いられる。
【0053】
本発明においては、発明の効果を損なわない限りにおいて、これらの酸素含有ガスや希釈ガス以外のガスを併用することができる。また、このような酸素含有ガスは、必要に応じてアミド系溶媒などと混合して供給してもよい。
【0054】
本発明においては、酸素含有ガスを、0.1〜1MPa(より好ましくは0.3〜1MPa)の酸素圧で供給することが好ましい。酸素圧が前記下限未満になると不活性種であるPd blackが生成し、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を製造できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると一部の内部オレフィンまたは環状オレフィンにおいて、酸素化副生成物が生成する(例えば、シクロヘキセンの場合、アリル位が酸化された2−シクロヘキセン−1−オンが生成する)傾向にある。
【0055】
<塩基>
本発明においては、内部オレフィンまたは環状オレフィンとカルボン酸との反応を、塩基の存在下で実施する。これにより、目的とする
前記不飽和結合含有エステル化合物を効率よく製造することができる。このような塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムのような強塩基、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムのような弱塩基、前記飽和脂肪族カルボン酸や前記α,β−不飽和脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)が好ましく、内部オレフィンまたは環状オレフィンと反応させるカルボン酸のアルカリ金属塩(特に好ましくはナトリウム塩)がより好ましい。
【0056】
このような塩基の濃度としては、0.001〜1.5mol/Lが好ましく、0.005〜1mol/Lがより好ましい。塩基の濃度が前記下限未満になると前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行せず、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を得ることができない傾向にあり、他方、前記上限を超えると塩基が完全に溶解しないため、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応が十分に進行せず、高収率で
前記不飽和結合含有エステル化合物を得ることができない傾向にある。
【0057】
<エステル化反応>
本発明の
不飽和結合含有エステル化合物の製造方法においては、前記アミド系溶媒中、パラジウム触媒、塩基および分子状酸素の存在下で、前記内部オレフィンまたは環状オレフィン(該内部オレフィンおよび該環状オレフィンはヘテロ原子を含有していてもよい。)とカルボン酸を反応させ、このオレフィン中のC=C結合を構成する炭素原子およびこのオレフィンのアリル位の炭素原子のうちの少なくとも1つの炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基を結合させる。なお、「アリル位の炭素原子」とは、オレフィンが鎖状または環状に関わらず、C=C結合に隣接する炭素原子を意味する。例えば、2−ブテンでは1位−の炭素原子がアリル位の炭素原子であり、3−オクテンでは2位−と5位−の炭素原子がアリル位の炭素原子であり、4−オクテンでは3位−の炭素原子がアリル位の炭素原子であり、シクロヘキセンでは3位−の炭素原子がアリル位の炭素原子である。
【0058】
このような反応においては、内部オレフィンまたは環状オレフィンのアリル位の炭素原子にカルボン酸のカルボキシル基が結合して
前記不飽和結合含有エステル化合物が形成されるだけでなく、C=C結合を構成する一方の炭素原子にカルボン酸のカルボキシル基が結合し、且つ他方の炭素原子がカルボキシル基が結合した炭素原子とは別の隣接する炭素原子と二重結合を形成することによっても
前記不飽和結合含有エステル化合物が形成される。
【0059】
また、前記内部オレフィンおよび環状オレフィンがヘテロ原子を含有するものである場合には、このヘテロ原子を含む官能基を酸化させずに、オレフィン中のC=C結合を構成する炭素原子およびこのオレフィンのアリル位の炭素原子のうちの少なくとも1つの炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基を結合させることができる。
【0060】
例えば、前記式(2)で表される内部オレフィンまたは環状オレフィンとカルボン酸を上記のように反応させると、下記式(3):
【0062】
(式(3)中、R
8〜R
13はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基およびアリール基からなる群から選択される1種を表し、R
8〜R
11のうちの少なくとも1個はアルキル基、アルケニル基およびアリール基のうちのいずれかであり、R
8とR
12がアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよく、R
9とR
10またはR
11とがアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表される
不飽和結合含有エステル化合物が形成される。
【0063】
前記アルキル基および前記アルケニル基は、直鎖状のものであっても分枝状のものであっても環状のものであってもよい。また、アルキル基の炭素数としては1〜20が好ましく、4〜12がより好ましい。さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいてヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含有していてもよい。前記アルケニル基中のC=C結合の位置としては特に制限はなく、アルケニル基の末端であっても内部であってもよい。前記アリール基としてはフェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基などが挙げられ、本発明の効果を損なわない限りにおいてヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含有していてもよい。ヘテロ原子を含有するアルキル基、アルケニル基およびアリール基としては、エステル基(好ましくはカルボン酸エステル基(−O−C(=O)−R)、アルキルエステル基(−C(=O)−O−R))などのヘテロ原子(好ましくは酸素原子)を含む官能基を有するものが挙げられる。
【0064】
また、R
8とR
12、および/または、R
9とR
10もしくはR
11とは、それぞれ互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、シクロアルケンおよびシクロアルカジエンといった環状オレフィン類などが挙げられる。この場合、環構造以外の部分(例えば、R
8とR
12とが結合して環構造を形成した場合にはR
9〜R
11のいずれか)にC=C結合が存在していてもよい。
【0065】
ただし、前記式(3)中のR
8〜R
12の種類および炭素数は、前記式(2)で表される内部オレフィンまたは環状オレフィンの種類および前記カルボン酸のカルボキシル基が結合する部位によって決まるものである。また、前記式(3)中のR
13は前記カルボン酸によって決まるものである。
【0066】
例えば、前記式(2)中のR
4が−CR
4aR
4bR
4cであり、R
7が−CR
7aR
7bR
7cである場合、すなわち、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンが下記式(2a):
【0068】
(式(2a)中、R
5およびR
6はそれぞれ前記式(2)中のR
5およびR
6と同義であり、R
4a〜R
4cおよびR
7a〜R
7cはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基およびアリール基からなる群から選択される1種を表し、該アルキル基、該アルケニル基および該アリール基はヘテロ原子(好ましくは、ヘテロ原子を含む官能基)を含有していてもよく、R
4a〜R
4cのいずれかとR
6がアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよく、R
7a〜R
7cのいずれかとR
5とがアルキル基またはアルケニル基の場合には互いに結合して環構造を形成してもよい。)
で表される化合物である場合、この化合物と下記式(4):
R
13COOH (4)
(前記式(4)中のR
13は前記式(3)中のR
13と同義である。)
で表されるカルボン酸を反応させると、前記式(2a)中のC=C結合を構成する一方の炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基を結合せしめた、下記式(3a)〜(3b):
【0070】
(式(3a)〜(3b)中、R
4a〜R
4c、R
5、R
6およびR
7a〜R
7cはそれぞれ前記式(2a)中のR
4a〜R
4c、R
5、R
6およびR
7a〜R
7cと同義であり、R
13は前記式(4)中のR
13と同義である。)
で表される
不飽和結合含有エステル化合物、および/または、前記式(2a)中のアリル位の炭素原子の一方の炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基を結合せしめた、下記式(3c)〜(3d):
【0072】
(式(3c)〜(3d)中、R
4a〜R
4c、R
5、R
6およびR
7a〜R
7cはそれぞれ前記式(2a)中のR
4a〜R
4c、R
5、R
6およびR
7a〜R
7cと同義であり、R
13は前記式(4)中のR
13と同義である。)
で表される
不飽和結合含有エステル化合物が生成する。
【0073】
なお、前記式(3a)においては、R
4aおよびR
4bが前記式(3)中のR
8およびR
9に相当し、R
5が前記式(3)中のR
12に相当し、R
6および−CR
7aR
7bR
7cが前記式(3)中のR
10およびR
11に相当する。また、前記式(3b)においては、R
7aおよびR
7bが前記式(3)中のR
8およびR
9に相当し、R
6が前記式(3)中のR
12に相当し、−CR
4aR
4bR
4cおよびR
5が前記式(3)中のR
10およびR
11に相当する。
【0074】
さらに、前記式(3c)においては、−CR
4aR
4bR
4cおよびR
5が前記式(3)中のR
8およびR
9に相当し、R
6が前記式(3)中のR
12に相当し、R
7aおよびR
7bが前記式(3)中のR
10およびR
11に相当する。また、前記式(3d)においては、−CR
7aR
7bR
7cおよびR
6が前記式(3)中のR
8およびR
9に相当し、R
5が前記式(3)中のR
12に相当し、R
4aおよびR
4bが前記式(3)中のR
10およびR
11に相当する。
【0075】
また、上記のようなオレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応により
不飽和結合含有モノエステル化合物を生成させた後、さらに、この酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応を進行させると、
前記不飽和結合含有モノエステル化合物とカルボン酸が反応し、
前記不飽和結合含有モノエステル化合物中のC=C結合を構成する炭素原子およびアリル位の炭素原子のうちの少なくとも1つの炭素原子に前記カルボン酸のカルボキシル基が結合して、
不飽和結合含有ジエステル化合物が生成する。
【0076】
本発明において、オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応の方式としては前記パラジウム触媒と前記内部オレフィンまたは環状オレフィンとを接触させることができる限り、特に制限はなく、例えば、使用する内部オレフィンまたは環状オレフィンとパラジウム触媒の種類などに応じて、気液反応および/または液液反応のいずれでも実施することが可能であり、また、回分式、半回分式、半連続式、連続流通式、またはこれらの組み合わせを採用することができる。さらに、各成分の供給方法も特に制限はなく、液体状で供給しても気体状で供給してもよい。
【0077】
具体的な製造方法としては、前記パラジウム触媒と前記アミド系溶媒とを混合して調製した触媒溶液またはこれに前記内部オレフィンまたは環状オレフィンを混合した混合溶液と、前記酸素含有ガスとを回分式反応装置に仕込んで反応させる回分式、前記触媒溶液中に前記内部オレフィンまたは環状オレフィンと前記酸素含有ガスとを連続的に供給したり、前記混合溶液中に前記酸素含有ガスを連続的に供給する半回分式または半連続式、前記触媒溶液と前記内部オレフィンまたは環状オレフィンと前記酸素含有ガスとを同時に反応領域に流通させる連続流通式などが挙げられる。
【0078】
本発明において、前記触媒溶液中に前記内部オレフィンまたは環状オレフィンと前記酸素含有ガスとを連続的に供給する場合、前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの供給速度としては、パラジウム1mol当り10〜5000mol/hが好ましい。前記内部オレフィンまたは環状オレフィンの供給速度が前記下限未満になると単位時間当たりの
前記不飽和結合含有エステル化合物の生産量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると不活性種であるPd Blackが生成し、
前記不飽和結合含有エステル化合物を高収率で得ることができない傾向にある。なお、前記酸素含有ガスの供給速度については、反応系内の酸素圧が前記範囲内となるように適宜調整される。
【0079】
本発明において、前記酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応を実施する際の反応温度としては、0〜200℃が好ましく、20〜100℃がより好ましい。反応温度が前記下限未満になると反応速度が遅くなり、他方、前記上限を超えるとオレフィンの異性化などの副反応が起こり、いずれの場合にも
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が低下する傾向にある。
【0080】
また、本発明においては、従来のワッカー法で用いられる銅触媒の濃度が0.03mol/L以下であることが好ましく、0.01mol/L以下であることがより好ましく、0.003mol/L以下であることが特に好ましい。銅触媒の濃度が前記上限を超えると
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が低下する傾向にある。このような観点から本発明においては銅触媒の非存在下で前記内部オレフィンまたは前記環状オレフィンを酸化的にカルボキシル基を結合させてエステル化することが最も好ましい。銅触媒は、従来のワッカー法においてはパラジウム触媒の再酸化を促進していたものであるが、本発明のような内部オレフィンまたは環状オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応においては、銅触媒の共存により
前記不飽和結合含有エステル化合物の収率が低下する傾向にあることから、分子状酸素により効率的に進行するパラジウム触媒の活性を阻害するものと推察される。
【0081】
このようにして得られた
前記不飽和結合含有エステル化合物は、常法に従って分離精製することにより所望の純度または組成の単独化合物または混合物として得ることができる。本発明の製造方法においては、オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応時の副反応が少ないため、未反応の原料は回収して再度
前記不飽和結合含有エステル化合物の製造に使用することができる。また、アミド系溶媒やパラジウム触媒も分離回収して繰り返し使用することができる。このとき、パラジウム触媒は必要に応じて適宜再生してもよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
耐圧容器に、塩化パラジウム(62mg、0.35mmol)、酢酸ナトリウム(410mg、5mmol)、酢酸(3.1g(3ml)、50mmol)およびジメチルアセトアミド(DMA、5ml)を仕込んだ。容器内を減圧にし、2−ブテン(450mg、8mmol)を加えた後、酸素ガスを供給して容器内を0.6MPaに加圧して80℃で4時間エステル化反応を行なった。
【0084】
反応終了後、生成物をFID検出器を装着したガスクロマトグラフ((株)島津製作所製「GC−2014」、カラム:KOCL 3m)を用いて分析したところ、2−ブテンのC=C結合中の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基(AcO−)が結合され、2−ブテン−1−アセテートと3−ブテン−2−アセテートが生成していることが確認された。従って、2−ブテンは、下記反応式(I):
【0085】
【化10】
【0086】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、2−ブテンの転化率、2−ブテンの仕込量に対する2−ブテン−1−アセテートと3−ブテン−2−アセテートの収率、および2−ブテン−1−アセテートと3−ブテン−2−アセテートの異性体比を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
2−ブテンの代わりにトランス−3−ヘキセン(84mg、1.0mmol)を用い、塩化パラジウムの量を8.8mg(0.05mmol)、酢酸ナトリウムの量を16.4mg(0.2mmol)、酢酸の量を0.2g(0.2ml、3.3mmol)に変更し、孔径3Åのモレキュラーシーブ(0.2g)を添加し、反応時間を24時間に変更した以外は実施例1と同様にしてエステル化反応を行なった。
【0088】
生成物を実施例1と同様に分析したところ、トランス−3−ヘキセンのC=C結合中の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基(AcO−)が結合され、3−ヘキセン−2−アセテートと4−ヘキセン−3−アセテートが生成していることが確認された。従って、トランス−3−ヘキセンは、下記反応式(II):
【0089】
【化11】
【0090】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、トランス−3−ヘキセンの転化率、トランス−3−ヘキセンの仕込量に対する3−ヘキセン−2−アセテートと4−ヘキセン−3−アセテートの収率を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
反応時間を40時間に変更した以外は実施例2と同様にしてエステル化反応を行なった。生成物を実施例2と同様に分析し、トランス−3−ヘキセンの転化率、トランス−3−ヘキセンの仕込量に対する3−ヘキセン−2−アセテートと4−ヘキセン−3−アセテートの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
酸素ガスを供給して容器内を0.1MPaに加圧した以外は実施例3と同様にしてエステル化反応を行なった。生成物を実施例2と同様に分析し、トランス−3−ヘキセンの転化率、トランス−3−ヘキセンの仕込量に対する3−ヘキセン−2−アセテートと4−ヘキセン−3−アセテートの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
トランス−3−ヘキセンの量を42mg(0.5mmol)に変更した以外は実施例3と同様にしてエステル化反応を行なった。生成物を実施例2と同様に分析し、トランス−3−ヘキセンの転化率、トランス−3−ヘキセンの仕込量に対する3−ヘキセン−2−アセテートと4−ヘキセン−3−アセテートの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0094】
(実施例6)
2−ブテンの代わりにトランス−4−オクテン(112mg、1.0mmol)を用い、塩化パラジウムの量を17.7mg(0.1mmol)に変更した以外は実施例2と同様にしてエステル化反応を行なった。
【0095】
生成物を実施例1と同様に分析したところ、トランス−4−オクテンのC=C結合中の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基(AcO−)が結合され、4−オクテン−3−アセテートと5−オクテン−4−アセテートが生成していることが確認された。従って、トランス−4−オクテンは、下記反応式(III):
【0096】
【化12】
【0097】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、トランス−4−オクテンの転化率、トランス−4−オクテンの仕込量に対する4−オクテン−3−アセテートと5−オクテン−4−アセテートの収率を表1に示す。
【0098】
(実施例7)
反応時間を40時間に変更した以外は実施例6と同様にしてエステル化反応を行なった。生成物を実施例6と同様に分析し、トランス−4−オクテンの転化率、トランス−4−オクテンの仕込量に対する4−オクテン−3−アセテートと5−オクテン−4−アセテートの収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0099】
(実施例8)
2−ブテンの代わりにシクロヘキセン(504mg、6.15mmol)を用い、塩化パラジウムの量を55mg(0.31mmol)、酢酸ナトリウムの量を902mg(11mmol)、酢酸の量を1.2g(1.2ml、19.8mmol)に変更した以外は実施例1と同様にしてエステル化反応を行なった。
【0100】
生成物を実施例1と同様に分析したところ、アセトキシル基(AcO−)が結合した生成物(2−シクロヘキセン−1−アセテート)が生成していることが確認された。従って、シクロヘキセンは、下記反応式(IV):
【0101】
【化13】
【0102】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、シクロヘキセンの転化率、2−シクロヘキセン−1−アセテートの収率を表1に示す。
【0103】
(比較例1)
酢酸ナトリウムを用いなかった以外は、実施例1と同様にしてエステル化反応を行なった。生成物を実施例1と同様に分析したが、2−ブテン−1−アセテートと3−ブテン−2−アセテートの生成は確認されず、原料である2−ブテンがそのまま回収された。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示した結果から明らかなように、PdCl
2触媒および酢酸ナトリウムの存在下、DMA中で内部オレフィンと酢酸を反応させた場合(実施例1〜8)には、内部オレフィンのC=C結合の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基を結合させることができ、内部オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化が可能であることが確認された。特に、内部オレフィンとして2−ブテンを用いた場合(実施例1)には、高収率で2−ブテン−1−アセテートと3−ブテン−2−アセテートを製造できることがわかった。一方、酢酸ナトリウムを用いなかった場合(比較例1)には、内部オレフィンを酸化的にカルボキシル基を結合させてエステル化することは困難であった。
【0106】
(実施例9)
2−ブテンの代わりに実施例1で得られた2−ブテン−1−アセテート(354mg、3.1mmol)を用い、塩化パラジウムの量を28.3mg(0.16mmol)、酢酸ナトリウムの量を48.4mg(0.59mmol)、酢酸の量を0.63g(0.6ml、10.5mmol)およびジメチルアセトアミド(DMA)の量を15mlに変更した以外は実施例1と同様にして酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応を行なった。
【0107】
生成物を実施例1と同様に分析したところ、2−ブテン−1−アセテートのC=C結合中の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基(AcO−)が結合され、2−ブテン−1,1−ジアセテート、3−ブテン−1,2−ジアセテート、1−ブテン−1,3−ジアセテート、2−ブテン−1,3−ジアセテート、2−ブテン−1,4−ジアセテートが生成していることが確認された。従って、2−ブテン−1−アセテートは下記反応式(V):
【0108】
【化14】
【0109】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、2−ブテン−1−アセテートの転化率、全ジアセテートの選択率、各ジアセテートの異性体比を表2に示す。
【0110】
(実施例10)
2−ブテンの代わりにオレイン酸メチル(916.5mg、3.1mmol)を用い、塩化パラジウムの量を28.3mg(0.16mmol)、酢酸ナトリウムの量を48.4mg(0.59mmol)、酢酸の量を0.63g(0.6ml、10.5mmol)およびジメチルアセトアミド(DMA)の量を15mlに変更した以外は実施例1と同様にして酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化反応を行なった。
【0111】
生成物を実施例1と同様に分析したところ、オレイン酸メチルのC=C結合中の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基(AcO−)が結合され、オレイン酸メチル−8−アセテートとオレイン酸メチル−11−アセテートが生成していることが確認された。従って、オレイン酸メチルは下記反応式(VI):
【0112】
【化15】
【0113】
のように酸化的にカルボキシル基が結合してエステル化されたものと推察される。また、オレイン酸メチルの転化率、オレイン酸メチル−8−アセテートとオレイン酸メチル−11−アセテートの選択率を求めた。その結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示した結果から明らかなように、PdCl
2触媒および酢酸ナトリウムの存在下、DMA中で、ヘテロ原子を含む官能基を有する内部オレフィンと酢酸を反応させた場合(実施例9〜10)においても、ヘテロ原子を含む官能基を酸化させることなく、内部オレフィンのC=C結合の炭素原子またはアリル位の炭素原子にアセトキシル基を結合させることができ、内部オレフィンの酸化的にカルボキシル基を結合させるエステル化が可能であることが確認された。