【実施例】
【0090】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図を参照して説明する。ここでは、本発明を完全に理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
本実施例の分析方法を、分析対象の生体分子が核酸である場合を例にとり、
図1を用いて説明する。分析対象の核酸断片101に蛍光色素103が標識された捕捉用タグ102を結合させる。結合には、ライゲーション反応や、予め分析対象の核酸断片101と捕捉用タグ102にアミノ基やスクシンイミド基などの官能基を導入しておいて官能基同士のカップリング反応を用いることもできる。特に、分析対象の核酸断片101がマイクロRNAの場合には、捕捉用タグ102を10〜20塩基長程度のRNA分子とし、T4RNAリガーゼを用いて両者を結合する方法が有効である。分析対象の核酸断片101に蛍光色素103が標識された捕捉用タグ102を結合させた後、蛍光体105で標識された核酸分子(プローブ分子)104とハイブリダイゼーションを行う。核酸分子104は個々の核酸断片を識別するためのものであり、個々の遺伝子の配列を代表する塩基配列を有する必要がある。配列設計を行う場合には、核酸二本鎖の安定性の指標となる融解温度を個々の標識された核酸分子で一定の範囲に収める必要がある。その範囲は狭いほうが好ましいが、所定の温度±3℃程度に抑えることが好ましい。また、標識された核酸分子同士の塩基配列の相同性は低いことが好ましく、相同性を70%以下、より好ましくは60%以下に抑えることが好ましい。次に、実施例6に記載した方法を用いて、磁気微粒子108に捕捉用分子106を結合分子107を介して一分子だけ固定したものを予め作製しておき、これを加えてハイブリダイゼーションを行うことで、磁気微粒子108上に、分析対象の核酸断片101と蛍光体105で標識された核酸分子104のハイブリッドを一分子対形成したものを作製することができる。蛍光体105には、Cy3やCy5などの通常の蛍光色素分子や、Zn-Seなどからなる半導体微粒子、さらに、Genisphere社から製品として市販されているデンドリマーに蛍光色素を数百分子付けたものを用いることができる。
【0092】
次に、このハイブリッドを形成した磁気微粒子108を支持基体110上に磁石109を用いて収集・固定する。
【0093】
最後に、蛍光色素103と蛍光体105の蛍光を検出器111で測定し、蛍光色素103と、各蛍光体105の種類ごとの輝点数を算出する。蛍光色素103の輝点数は、分析対象の核酸断片101の総数に対応し、各蛍光体105の種類ごとの輝点数は各種類の核酸断片数に相当する。したがって、両者の比を算出することで、分析対象の総核酸断片数に対する各核酸断片数の割合を算出することができる。この比を算出することは、試料間の核酸断片の発現比較解析をする場合に特に有用である。例えば、健常者と特定の疾患の患者間で発現量の異なるマーカー遺伝子を探索する場合、両試料間で発現量の等しい遺伝子を見つけ出して、その発現量で規格化することが必要になるが、両試料間で発現量の等しい遺伝子を見つけることは実際上非常に困難である。特に、定量PCRではその困難性が指摘されている(Nature Methods 2010, Vol. 7, pp 687-692)。これに対して、本実施例の方法では、試料全体に対する割合が個々の生体分子に対して簡便に算出されるため、健常者と患者の比較も直接、試料中の全生体分子数に対する割合で比較することができる。この点は、特に、臨床検体での核酸分子の比較解析には有用となる。
【0094】
識別すべき生体分子の種類数が多い場合には、標識の蛍光体105として、蛍光体入り蛍光ビーズを用いることができる。例えば、2種類の蛍光体の含有量を各々10種のレベルとし、2種類の蛍光体の含有量のレベルを変えて混合することで、100種類の蛍光ビーズを作製することができ、蛍光体の数を3種類とすれば、1000種類の識別が可能なビーズセットを容易に作ることができる。例えば、ルミネックス社から2波長のレーザ光で励起することで100種類の識別ができる蛍光ビーズセットが市販されている。これらの蛍光ビーズの表面を化学修飾し、核酸分子と結合させることで蛍光体標識付核酸分子104を作製することができる。ハイブリダイゼーション後、適切な非特異吸着物の洗浄を行い、続いて蛍光検出を行うことで、分析対象の核酸断片101の分析を行う。蛍光体標識としてCy3やCy5などの通常の蛍光色素分子を一分子だけ付けた蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)104の場合には、支持基体110上の分析対象の核酸断片101を固定した箇所から、一分子蛍光が観察されることになる。この場合、蛍光が微弱であるため、電子増倍CCD(EM-CCD)など高感度の蛍光検出機が必要となる。蛍光体として蛍光ビーズを用いた場合には、一分子蛍光よりも強い蛍光が発せられるため、通常のCCDでも十分検出できる。
【0095】
一分子固定磁気微粒子108(10
8個)と核酸分子104(1.7nM)を液ボリューム10ulで攪拌しながら反応させた場合、反応時間が約3時間程度で反応効率が飽和値に到達した。この時間は、A molecular Cloning Manual DNA Microarrays 2002, Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp 228-239に記載されているDNAマイクロアレイの一般的なハイブリダイゼーションに要する時間(14〜16時間)に比べて非常に短く、結合反応が迅速に進行していることが明らかとなった。このことから、本発明により、生体分子とプローブ分子としての核酸分子との結合反応を迅速に行うことができ、生体分子分析を迅速に行うことができると言える。
【0096】
上記実施例では、分析対象の生体分子試料を一分子ずつ微粒子上に固定した例を示したが、一分子ずつ固定したほうが、計数する上で容易ではあるが、一分子ずつ固定することは必須の条件ではなく、二個又は三個ずつ固定されても、計数ができさえすれば、分析対象の生体分子試料の種類と存在量を分析するという、本発明の目的が達成される。
【0097】
[実施例2]
本実施例の分析方法を、分析対象の生体分子がタンパク質である場合を例にとり、
図2を用いて説明する。
【0098】
分析対象のタンパク質204に特異的に結合する抗体202を結合分子203を介して磁気微粒子201表面に固定する。磁気微粒子201に特別な制約はないが、溶液中でタンパク質試料と反応する必要があるため、分散性が高いことが好ましい。直径は100ミクロン以下、より好ましくは10ミクロン以下が好ましい。抗体付き微粒子をタンパク質試料と溶液中で反応させることで、分析対象のタンパク質204が磁気微粒子201上に捕捉される。次に、蛍光色素標識を施した抗体(プローブ分子)205を反応させることで、磁気微粒子201に捕捉された分析対象のタンパク質204を蛍光標識することができる。次に、磁気微粒子201を支持基体206表面に、磁石207を用いて、簡便に、収集・固定することができる。次に、支持基体206の表面に集まった分析対象のタンパク質204に光を照射することで、蛍光輝点を検出器208で検出する。蛍光輝点数は、分析対象のタンパク質204の濃度に相関することから、輝点数を求めることで、分析対象のタンパク質204の濃度に関する情報を得ることができる。特に、実施例6に記載した方法を用いて、磁気微粒子201に抗体202を一分子だけ固定したものを予め作製しておき、これを用いることで、分析対象のタンパク質204の絶対濃度を求めることができる。
【0099】
[実施例3]
本実施例のデバイス構成及び分析方法を、
図3を用いて説明する。
【0100】
本実施例のデバイス構成は以下の通りである。支持基体301の上に接着パッド302が形成してある。支持基体301としては、石英等のガラス基板やシリコンウエハなどを用いることができる。接着パッド302としては、支持基体301と異なる材質であればよく、金属又は金属の酸化物を用いることができる。接着パッド302の作製方法は実施例5で詳細を述べる。接着パッド302は支持基体301上に規則性を持って形成されていることが好ましいが、詳細は実施例5で述べる。接着パッド302の上には微粒子303が固定されている。接着パッド1つ当たり固定される微粒子数は1個である。微粒子303には、捕捉分子304が結合分子305を介して一分子のみ固定されている。分析対象の核酸断片306の種類に依存して、捕捉用タグ分子307、捕捉分子304、結合分子305にはいろいろな組合せの分子群を用いることができる。例えば、分析対象の核酸断片306がRNAの逆転写物である場合には、捕捉用タグ分子307は逆転写反応時のプライマDNAを用いることができ、捕捉分子304として捕捉用タグ分子307の相補配列を有する核酸分子を用いることができる。あるいは、捕捉用タグ分子307として末端にビオチンを有する核酸分子とし、捕捉分子304として末端にアビジンを有する分子を用いることもできる。結合分子305には炭素数10程度以下のアルカン分子を用いることができ、化学結合を介して捕捉分子304に結合し、反対側の末端にはビオチンがついているものを用いることができる。その場合、微粒子303の表面にはアビジン、ストレプトアビジンなどが修飾されていることが望ましい。捕捉用タグ分子307と捕捉分子304の反応は、両者が相補配列を有する核酸分子の場合には、ハイブリダイゼーションが好ましい。また、ライゲーションにより両者を化学結合で結びつける方法を用いることも好ましい。結果として、支持基体301上には、規則的な配置で、分析対象の核酸断片306が一分子ずつ孤立した状態で固定されることになる。分析対象の核酸断片306の絶対数を求めるには、核酸断片306の数よりも接着パッド302及び微粒子303を多くすればよい。核酸断片306の総分子数は核酸断片306の総重量から推測できる。総重量は波長260nmの吸光度から求める。ここから算出された分子数が、接着パッド302の数よりも少なくなるように試料濃度を希釈する。分析対象の核酸断片306をより多く固定するには以下の方法で達成できる。例えば、接着パッド302表面に結合分子としてアルカン分子で覆い、ポリスチレンなどのポリマーで構成される微粒子303と分子間力により結合させることである。これにより、接着パッド302に対して微粒子303が接近することで速やかに結合が起こり一度接着すれば剥がれることはない。さらに微粒子303が接着パッド302に衝突する頻度を高めることで固定率が高まる。衝突頻度を高めるには、微粒子303を含む溶液を撹拌することが望ましい。具体的には、微粒子303を含む溶液を通す流路に溝又は突起物を配置し、流れを層流から乱流に変える方法である。このとき、接着パッド302を配置している支持基体301からの液厚は薄い方がよく、衝突頻度を上げることができる。この流路構造に関しては実施例9に詳細に記述する。すべての微粒子303が接着パッド302に結合したことを確認するためには、反応後の溶液を基板上に乾燥固定後、捕捉用タグ分子307をライゲーションにより結合させて検出されないことを確認すればよい。
【0101】
次に、固定した分析対象の核酸断片306の種類の同定と存在数を求める。蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308を分析対象の核酸断片306を固定した支持基体301に反応させる。分析対象の核酸断片306と相補的な核酸配列を蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308は含むことになる。蛍光体標識には、Cy3やCy5などの通常の蛍光色素分子やZn-Seなどからなる半導体微粒子を用いることができる。識別すべき評価目的の核酸断片の数が多い場合には、蛍光体標識として、蛍光体入り蛍光ビーズを用いることができる。例えば、2種類の蛍光体の含有量を各々10種のレベルとし、2種類の蛍光体の含有量のレベルを変えて混合することで、100種類の蛍光ビーズを作製することができ、蛍光体の数を3種類とすれば、1000種類の識別が可能なビーズセットを容易に作ることができる。例えば、ルミネックス社から2波長のレーザ光で励起することで100種類の識別ができる蛍光ビーズセットが市販されている。これらの蛍光ビーズの表面を化学修飾し、核酸分子と結合させることで蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308を作製することができる。
【0102】
ハイブリダイゼーション後、適切な非特異吸着物の洗浄後、蛍光検出を行うことで、分析対象の核酸断片306の分析を行う。蛍光体標識にCy3やCy5などの通常の蛍光色素分子を一分子だけ付けた蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308の場合には、支持基体301上の分析対象の核酸断片306を固定した箇所から、一分子蛍光が観察されることになる。この場合、蛍光が微弱であるため、EM-CCDなど高感度の蛍光検出機が必要となる。蛍光体として蛍光ビーズを用いた場合には、一分子蛍光よりも強い蛍光が発せられるため、通常のCCDでも十分検出できる。接着パッド302は支持基体301上に規則性高く、例えば格子状に形成されるため、蛍光画像においても、規則性を持った位置に蛍光の輝点が観測される。そのため、非特異的に蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308が支持基体301上に付着しても、蛍光画像の輝点位置から容易に識別・除去することができる。この点は、微量な試料の解析、微弱な蛍光観察において、実際上、非常に有用な特徴である。蛍光体又は蛍光ビーズの識別には、回折格子を用いて発光スペクトルを分光してCCDの感光面に照射し、波長方向に分けた各画素の強度を調べることで、蛍光体又は蛍光ビーズの種類を識別できる。あるいは、反射特性に大きな波長依存性を持たせたダイクロイックミラーを用いて、反射光と透過光の比率を用いて、蛍光体又は蛍光ビーズの種類を識別することもできる。個々の輝点の識別を行った後、それらを集計することで、分析対象の核酸断片306の種類と輝点数、すなわち、存在量(絶対濃度)の情報を最終的に得ることができる。例えば、接着パッド302を1μmピッチで作製した場合、1mm角の中に10
6個の接着パッドが存在するので、最大総分子数10
6の中で所定の種類の目的核酸断片が何分子存在するかを調べることができる。
【0103】
以下、具体的な分析対象としてマイクロRNAを例に取り、詳細を説明する。
【0104】
分析対象がマイクロRNAの場合には、既知のマイクロRNAの塩基配列データベース(例えばhttp://www.microrna.org/)から、個々のマイクロRNA分子の配列データを取得できる。これを基に、逆転写用のプライマを設計できる。プライマの塩基長は10〜15塩基程度が好ましく、5’端に捕捉用タグ分子307として10塩基のDNAを付加する。例えば、ヒトマイクロRNAを対象とし、1000種類のプライマを設計・合成する。合成した1000種類のプライマを等量ずつ混ぜたプライマのカクテルを作製し、トータルRNAを対象に、逆転写用プライマのカクテル、逆転写酵素を混合後、37〜40℃の環境下で逆転写反応を起こし、cDNAを合成することで分析対象の核酸断片306と捕捉用タグ分子307を結合させたものを得る。あるいは、分析対象の核酸断片306としてRNAを、捕捉用タグ分子307として10塩基程度のRNAを用い、両者をT4RNAリガーゼを用いて結合させることで分析対象の核酸断片306に捕捉用タグ分子307を結合させることもできる。微粒子303には、予め、捕捉用タグ分子307の10塩基の核酸に対する相補鎖DNAを捕捉分子304として一分子固定しておく。微粒子303に対する捕捉分子304の一分子固定に関しては、実施例8に詳細を記載した。cDNA(分析対象の核酸断片306と捕捉用タグ分子307を結合させたもの)を支持基体上で常套手段によりハイブリダイゼーションを行うことで、分析対象の核酸断片306を支持基体上に固定する。
【0105】
前記と同様に、既知のマイクロRNAの塩基配列データベースから、個々のマイクロRNA分子の配列データを取得し、この配列と同じ塩基配列で、5’端にビオチンを修飾した合成オリゴを1000種類合成する。
【0106】
蛍光ビーズに使う蛍光体として、例えば、Cy5、Cy5.5、Cy3を用いることができ、励起光には532nm、633nmの2種類で対応できる。各色素の濃度比が異なる溶液を作製し、スチレンモノマーからポリスチレンビーズを合成する段階で混合することで、所定の色素混合比のポリスチレンビーズを作製できる。ポリスチレン表面にアビジン等の修飾を施すには、アクリル酸/メタクリル酸とスチレンの共重合反応を用いることでビーズ表面にカルボキシル基を導入しておき、アビジンのアミノ基とカルボジイミドを架橋剤として反応させることで容易に修飾できる。
【0107】
アビジン修飾した蛍光ビーズと5’端にビオチンを修飾した合成オリゴを反応させることで、蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308を合成することができる。
【0108】
次に、分析対象の核酸断片306を固定した支持基体301に、蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308を通常の方法を用いてハイブリダイゼーションさせる。
【0109】
ドデシル硫酸ナトリウムを含む洗浄液で洗浄後、蛍光画像を取得し、各接着パッド302の蛍光輝点がどの種類の蛍光ビーズに相当するかを識別した上で輝点を計数することで、各種マイクロRNAの存在量を解析することができる。
【0110】
検出できる核酸種の数は、識別し得る蛍光ビーズの数に依存する。マイクロRNAの種類として凡そ1000種類が存在すると仮定した場合、1000種類の蛍光ビーズを作製すればよく、前述のように、蛍光体の含有量を各々10種のレベルとし、3種類の蛍光体の含有量のレベルを変えて混合することで、1000種類の識別が可能なビーズセットを容易に作ることができ、全マイクロRNA種のすべてを一度に検出することができる。また、特定のマイクロRNAだけの発現量を調べたい場合には、特定のマイクロRNA種に対応した蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308を作製し、蛍光ビーズもその数だけ用意する。特定のマイクロRNA種以外のマイクロRNA種に対しては、それら以外で同一の蛍光ビーズを用いることで、蛍光ビーズの種類として1000種類を用意しなくとも、全マイクロRNAの存在量を輝点の計数値として知ることができ、また、特定のマイクロRNAの全マイクロRNAに対する存在比を求めることができる。
【0111】
あるいは、捕捉用タグ分子307に、蛍光体標識付核酸分子308とは異なる発光波長又は発光強度を有する共通の蛍光色素標識を予め施しておき、捕捉用タグ分子307に標識した蛍光色素による蛍光輝点数を全核酸試料分子数に相当するもの、各種の蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)308に標識した蛍光体の蛍光輝点数を各種の核酸試料分子数に相当するものと判断し、両者の輝点数の比を各種の核酸試料分子の存在比率と判断することも、特定の核酸分子だけの発現量を調べたい時には、極めて、有効である。
【0112】
さらに、本発明の方法は、核酸試料のみならず、タンパク質などの核酸試料以外の生体分子の解析にも、捕捉分子304を最適化することで、適用できる。複数の生体分子種から構成される生体分子試料に対しては、分析対象の生体分子306を支持基体301上の規則性を有する位置に、適切な抗体などを捕捉分子304に用いることで各固定箇所一箇所に前記生体分子306を一分子ずつ固定し、特定の生体分子に結合することが既知であるプローブ分子308を前記支持基体301上に固定した生体分子306と反応させ、前記プローブ分子308を検出することで、核酸試料の場合と同様に分析することができる。したがって、分析対象の生体分子の種類と絶対数を評価でき、一分子の感度及び分解能で、生体分子を簡便かつ迅速に分析することができる。
【0113】
[実施例4]
本実施例のデバイスの構成を、
図4を用いて説明する。支持基体401の上に接着パッド402が規則正しく、例えば
図4に示すように格子状に形成されている。接着パッド402と微粒子403は、線状分子405を介して化学結合又は化学的相互作用により結ばれている。線状分子405の末端の官能基406と、接着パッド402とは化学的相互作用により結合していることが好ましい。その際、官能基406は、支持基体401との相互作用が弱く、接着パッド402との相互作用が強いことが好ましい。このような観点から、支持基体401としては、石英ガラス、サファイア、シリコン基板などを用いることができる。また、接着パッド402には、金、チタン、ニッケル、アルミから選ばれる材料で構成することができる。官能基406は、支持基体401と接着パッド402との組合せを考えて選択する必要があるが、例えば、スルホヒドリル基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、アルデヒド基等を用いることができる。線状分子405は、微粒子403と接着パッド402を結ぶ役割を果たし、長さに大きな限定はないが、低分子の場合には炭素数にして3から20程度の直鎖状分子が好ましい。線状分子405の末端の官能基407は、微粒子403との接着性をもたらす。また、線状分子405として高分子を用いる場合には、複数の側鎖を有し、官能基406を有する側鎖と官能基407を有する側鎖を併せ持つものを用いることができる。微粒子403としては、金属微粒子や半導体微粒子を用いることができる。例えば、金の微粒子として、直径5nm〜100nmのものが市販されており、利用することができる。また、半導体微粒子としては、直径が10nm〜20nm程度のCdSe等の化合物半導体が市販されており、利用することができる。官能基407として用いることができる官能基は、微粒子の種類によって異なるが、例えば金微粒子を用いた場合にはスルホヒドリル基、アミノ基等が好ましい。半導体微粒子を用いる場合には、ストレプトアビジンで表面が修飾された微粒子が市販されており、官能基407としてビオチンを用いることができる。さらに、微粒子403として、ポリスチレンなどの高分子材料からなる微粒子を用いることもできる。高分子材料の場合には、微粒子の粒径を揃えることができ、粒径の大きさも数十nmから数μmまで幅広く選択することができる。また、高分子材料が有する官能基を足場に表面修飾を施すことで、微粒子表面に固定する捕捉分子404の固定反応のための官能基の導入量を均一にすることができるという点で好ましい。特に、捕捉分子404を一分子だけ微粒子表面に固定する場合、固定率の再現性が非常に高く、好ましい。
【0114】
捕捉分子404には、DNAやRNAの核酸分子の一本鎖を用いることができる。核酸分子の末端を官能基407と同様に予め修飾しておき、微粒子403と反応させておく。一つの微粒子403に固定する捕捉分子404は一分子であることが好ましく、接着パッド402の上には捕捉分子404が一分子だけ固定されることになる。
【0115】
簡便な蛍光検出でプローブを識別する場合、回折限界を考慮するとプローブ間が1μm程度離れていることが好ましい。したがって、微粒子403のサイズは1μm以下であることが適している。
【0116】
接着パッド402を支持基体401上に形成する方法としては、半導体で既に実用化されている薄膜プロセスを活用することができる。例えば、マスクを通した蒸着・スパッタリング、あるいは蒸着・スパッタリングにより薄膜を形成した後、ドライ又はウエットエッチングにより製造することができる。規則正しく配置することは、薄膜プロセスを用いることで容易に実現できる。パッド間の間隔は任意に設定できるが、検出手段として光計測を行う場合、光検出の回折限界を考えると1μm以上が好ましい。
【0117】
接着パッド402を支持基体401上に形成した後、微粒子403と接着パッド402を結ぶ線状分子405を供給し、接着パッド402上に線状分子405を固定する。この際、支持基体401上での非特異的吸着を防止する目的で、線状分子405を供給する前に、支持基体401との接着力の強い材料を支持基体401上に反応させる方法が有効である。例えば、シランカップリング剤等が利用できる。次に、捕捉分子404を固定した微粒子403を支持基体401上に供給して、微粒子403を接着パッド402上に固定させることにより、生体分子分析用デバイスを完成する。
【0118】
接着パッド402上に微粒子403を固定させる際、一つの接着パッド402に複数個の微粒子403が固定される可能性がある。複数個が固定されてしまうと、種類の異なる生体分子の情報が重なり合ってしまい、正確な分析ができなくなってしまう。そのため、一つの接着パッド402には、1個の微粒子403を固定する必要がある。そこで、発明者らは、種々の条件での固定実験を繰り返し、鋭意検討した結果、接着パッド402の直径dが微粒子403の直径Dに比べて小さい、という条件が成り立てば、一つの接着パッド402に1個の微粒子403を固定できることを見出した(例えばWO 2010/087121号)。接着パッド402に比べて同等以上の大きさの微粒子403が固定されると、未反応の線状分子が固定された微粒子に覆い隠されてしまい、別の微粒子と反応できなくなってしまうものと説明される。さらに、鋭意検討を続けた結果、微粒子403がその表面に電荷を有する場合には、微粒子間に静電的な反発力が働くため、接着パッド402の直径dが微粒子403の直径Dに比べて大きい場合にも接着パッドあたりの固定微粒子数が1個になることが判明した。したがって、微粒子403の表面電荷が小さく静電反発力が弱い場合には、接着パッド402の直径dが微粒子403の直径Dに比べて小さいことが好ましく、微粒子403の表面電荷が大きく静電反発力が強い場合には、接着パッド402の直径dは必ずしも微粒子403の直径Dよりも小さくなくてもよいことが明らかとなった。
【0119】
[実施例5]
本実施例の分析用デバイスの製造方法を、
図5を用いて説明する。平滑な支持基体501上に電子線用ポジ型レジスト502をスピンコート法により塗工する。平滑な支持基体501としては、ガラス基板、サファイア基板、シリコンウエハ等が用いられる。デバイスとしたときに、微粒子506を配列した面と反対側の裏面より励起光を照射する必要がある場合には、光透過性に優れた石英基板やサファイア基板を用いればよい。電子線用ポジ型レジスト502としては、例えば、ポリメチルメタクリレートやZEP-520A(日本ゼオン社製)を挙げることができる。支持基体501上のマーカーの位置を用いて位置合わせを行ったうえ電子線直描露光を行って、レジストにスルーホールを形成する。例えば、直径15nmのスルーホールを形成する。並行処理で分析できる生体分子の分子数に依存するが、スルーホールは1μm程度のピッチで形成することが、製造上の簡便さ、歩留まりの高さ、及び並行処理で分析できる生体分子の分子数を勘案すると、適している。スルーホール形成領域も、並行処理で分析できる生体分子の分子数によるが、検出装置側の位置精度や位置分解能にも大きく依存する。例えば、1μmピッチで反応サイト(接着パッド)を構成した場合、スルーホール形成領域を1mm×1mmとすると、100万反応サイトを形成できる。スルーホールを形成後、接着パッド503を構成する材料、例えば金、チタン、ニッケル、アルミをスパッタリングで製膜する。平滑な支持基体501としてガラス基板、サファイア基板を用い、接着パッド503の材料として金、アルミ、ニッケルを用いる場合には、支持基体材料と接着パッド材料との間に接着を補強する意味でチタンやクロムの薄膜を入れることが好ましい。次に、接着パッド503に線状分子504を反応させる。接着パッド503が金、チタン、アルミ、ニッケルの場合には、線状分子504末端の官能基505としては、各々、スルホヒドニル基、リン酸基、チアゾール基を用いることが好ましい。線状分子504の反対側の官能基506には、例えばビオチンを用いることができる。線状分子504を接着パッド503と反応させた後、レジストを剥離する。レジストを剥離後、接着パッド503を形成した以外の支持基体501表面に非特異吸着防止処理を施す。蛍光色素付きヌクレオチド(プローブ分子)に対する吸着防止を実現するには、負の電荷を帯びた官能基を有する非特異吸着防止用分子507でコートする。例えば、エポキシシランを表面にスピンコートで塗工し、加熱処理後、弱酸性溶液(pH5〜pH6程度)で処理することにより、エポキシ基を開環させOH基を表面に導入することで非特異吸着防止効果をもたらすことができる。
【0120】
微粒子508表面には、予めアビジン509を修飾しておくことが好ましい。金又は白金微粒子を用いる場合には、アミノチオールを反応させた後、ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS-Biotin)を反応させ、最後にストレプトアビジンを反応させることにより、アビジン修飾することが容易にできる。金又は白金以外の金属微粒子を用いる場合には、酸素雰囲気中で加熱処理することにより表面を酸化処理した後、アミノシランを反応させ、次にビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS-Biotin)を反応させ、最後にストレプトアビジンを反応させる。これにより、金属微粒子表面をアビジン修飾することが容易にできる。微粒子508として、半導体微粒子を用いる場合には、市販の微粒子を用いることができる。例えば、直径が15〜20nmである製品名「Qdot(R)ストレプトアビジン標識」(インビトロジェン社製)を利用することができる。また、微粒子508として、ポリスチレンビーズを用いることもできる。例えば、直径が40nmである製品名「フルオスフィア ニュートラビジン修飾」(インビトロジェン社製)を利用することができる。捕捉分子510としてオリゴヌクレオチドを用いる場合には、末端をビオチン修飾して合成しておくことにより、容易に微粒子508上に固定できる。捕捉分子510を固定した微粒子508を接着パッド503上に固定することにより、本実施例の分析用デバイスを製造することができる。
【0121】
[実施例6]
本実施例では、捕捉用分子(分析対象の生体分子が核酸の場合には核酸、タンパク質の場合には抗体が好ましい)を一分子だけ固定した微粒子の製造方法の一例を、特に、微粒子一個につき一分子の捕捉用分子を固定する方法を
図6を用いて説明する。微粒子601の表面に捕捉用分子604を固定するための結合サイト602を結合させておく。例えば、結合サイトとしてストレプトアビジンを用いることができ、市販のストレプトアビジンコート微粒子(インビトロジェン社製)を微粒子として用いることができる。捕捉用分子604には予め、結合サイト603を修飾しておく。結合サイト603には微粒子601表面の結合サイト602と容易に結合するものを選択する。例えば、結合サイト602として前記のストレプトアビジンを用いた場合には結合サイト603としてビオチンを用いる。次に、微粒子601と捕捉用分子604を反応させることで、捕捉用分子604を微粒子601に結合させる。微粒子601一個につき一分子の捕捉用分子604を固定するには、単位体積中の捕捉用分子604の分子数を微粒子601の個数よりも少なくすることが好ましい。微粒子601よりも捕捉用分子604が過剰にあると微粒子601一個当たりの捕捉用分子数が一分子よりも多くなる可能性が高いからである。発明者らが検討した結果では、微粒子601の数を捕捉用分子604の数よりも10倍多くして反応させると、凡そ90%の微粒子601には捕捉用分子604は固定されず、約9%の微粒子601には捕捉用分子604が一分子固定されていた。この結果は、ポアソン分布を仮定した場合の予測結果と良く一致している。したがって、捕捉用分子604を捕捉した微粒子601のみを捕集すれば、捕集した微粒子601のうち90%以上は捕捉用分子604を一分子のみ固定した微粒子601となる。
【0122】
捕捉用分子604が核酸の場合には、捕捉用分子604の末端配列と相補的な配列を持ち末端に結合サイト606が修飾されたオリゴヌクレオチド605を用意し、結合サイト606と結合する結合サイト608を予め、回収用微粒子607の表面にコートしておく。こうして作製した回収用微粒子607を用いることで捕捉用分子604を固定した微粒子601を回収用微粒子607に結合することができる。捕集方法としては、例えば、水溶液609中で、ポリプロピレン等の比重の軽いポリマーからなる回収用微粒子607に捕捉用分子604を結合させて、捕捉用分子604が固定された微粒子601のみが浮遊するようにし、捕捉用分子604が固定されていない微粒子601は、容器の下に沈むようにすることで、捕捉用分子604が固定された微粒子601のみを分離・収集することができる。回収用微粒子607から微粒子601を単離するには、例えば、捕捉用分子604とオリゴヌクレオチド605の二本鎖を分離するディネイチャー処理(高温処理)を用いることができる。分離後、磁石610を用いることで、捕捉用分子604が固定された微粒子601を単離することができる。
【0123】
捕捉用分子604が抗体の場合には、捕捉用分子604と特異的に結合するアプタマー配列を有するオリゴヌクレオチド605を用意することで、上記の捕捉用分子604が核酸の場合と同様に、回収用微粒子607を用いて、捕捉用分子604を固定した微粒子601を90%以上と高い割合で分離、収集することができる。回収用微粒子607から微粒子601を単離するには、例えば、捕捉用分子604とアプタマーのオリゴヌクレオチド605を分離する加熱処理を用いることができる。
【0124】
[実施例7]
本実施例のデバイスの構成及び分析方法を、
図7を用いて説明する。分析対象の核酸断片701に蛍光色素703が標識された捕捉用タグ分子702を結合させる。結合には、ライゲーション反応や、予め分析対象の核酸断片701と捕捉用タグ分子702にアミノ基やスクシンイミド基などの官能基を導入しておいて官能基同士のカップリング反応を用いることもできる。特に、分析対象の核酸断片701がマイクロRNAの場合には、捕捉用タグ分子702を10〜20塩基長程度のRNA分子とし、T4RNAリガーゼを用いて両者を結合する方法が有効である。分析対象の核酸断片701に蛍光色素703が標識された捕捉用タグ分子702を結合させた後、蛍光体705で標識された核酸分子(プローブ分子)704とハイブリダイゼーションを行う。核酸分子(プローブ分子)704は個々の評価目的の核酸断片を識別するためのものであり、個々の遺伝子の配列を代表する塩基配列を有する必要がある。配列設計を行う場合には、核酸二本鎖の安定性の指標となる融解温度を個々の標識された核酸分子(プローブ分子)で一定の範囲に収める必要がある。その範囲は狭いほうが好ましいが、所定の温度±3℃程度に抑えることが好ましい。また、標識された核酸分子(プローブ分子)同士の塩基配列の相同性は低いことが好ましく、相同性を70%以下、より好ましくは60%以下に抑えることが好ましい。次に、実施例6に記載した方法を用いて、微粒子708に捕捉分子706を結合分子707を介して一分子だけ固定したものを予め作製しておき、これを加えてハイブリダイゼーションを行うことで、微粒子708上に、分析対象の核酸断片701と蛍光体705で標識された核酸分子(プローブ分子)704のハイブリッドを一分子対形成したものを作製することができる。蛍光体705には、実施例3で述べたように、蛍光体入り蛍光ビーズを用いることができる。
【0125】
次に、このハイブリッドを形成した微粒子708を支持基体710に形成しておいた接着パッド709上に固定する。固定反応条件は実施例3に記載した条件を適用することができる。
【0126】
最後に、蛍光色素703と蛍光体705の蛍光を検出器711で検出し、蛍光色素703と、各蛍光体705の種類ごとの輝点数を算出する。蛍光色素703の輝点数は、分析対象の核酸断片701の総数に対応し、各蛍光体705の種類ごとの輝点数は各種類の核酸断片数に相当する。このようにすべての分析対象とする核酸断片について輝点数をカウントすることによって試料に含まれる生体分子の絶対分子数を求めることができる。また、両者の絶対数の比を算出することで、分析対象の総核酸断片数に対する各核酸断片数の割合を算出することができる。この比を算出することは、試料間の発現比較解析をする場合に特に有用である。例えば、健常者と特定の疾患の患者間で発現量の異なるマーカー遺伝子を探索する場合、両試料間で発現量の等しい遺伝子を見つけ出して、その発現量で規格化することが必要になるが、試料間で発現量の等しい遺伝子を見つけることは実際上非常に困難である。特に、定量PCR法ではその困難性が指摘されている(Nature Methods 2010, Vol. 7, pp 687-692)。これに対して、本実施例の方法では、試料全体に対する割合が個々の目的生体分子に対して簡便に算出されるため、健常者と患者の比較も直接、試料中の全生体分子数に対する割合で比較することができる。この点は、特に、臨床検体での核酸分子の比較解析には有用となる。
【0127】
[実施例8]
実施例8では捕捉分子を一分子だけ固定した微粒子803の固定率を著しく向上させる方法とデバイスの構成を、
図8を用いて説明する。その方法の一つは捕捉分子を一分子だけ固定した微粒子803を含む溶液を接着パッド802を配置した支持基体801上に滴下して、乾燥しないように蓋をしてしばらく放置して反応させる方法である。このとき微粒子803はブラウン運動により、確率的に接着パッド802に接近する。例えば、接着パッド802表面に結合分子としてアルカン分子で覆い、ポリスチレンなどのポリマーで構成される微粒子803と分子間力が働くようにすることで、接着パッド802に対して微粒子803が接近することで速やかに結合が起こり一度接着すれば剥がれることはない。さらに能動的な衝突を促進するために、溶液を撹拌子で撹拌する、熱又はマイクロ波を加えて溶液を対流させる、などによって微粒子803が接着パッド802に衝突する頻度を高めることができる。さらに微粒子803の衝突頻度を積極的に高める効果的な方法として微粒子803を含む溶液を流路で撹拌する方法がある。この方法に関して
図8を用いて説明する。まず、
図8のAに示したように、支持基体801上に流路を配置し、流路の蓋には
図8のBで示すような溝を切った凹凸板804を使用する。流路形成部材としてはシランカップリング剤などで非特異的吸着防止処理をした石英やPDMS(Polydimethylsiloxane)などが好ましい。通常、微小な流路に溶液を一定方向に流すと、溶液は層流となって流路を通過する。そのため、支持基体801に近い層にある微粒子803のみが、接着パッド802に固定され、支持基体801から離れた層にある微粒子803は支持基体801に接近することができない。例えば、静置又は層流中で微粒子803を接着パッド802に分子間力で吸着させる場合、ポテンシャルエネルギーは距離の6乗に反比例するため、支持基体801の近傍、せいぜい数十マイクロメートル付近に存在する微粒子803のみが衝突の機会を得られる。微粒子803の接着パッドに対する衝突頻度は微粒子803の濃度に比例するため、支持基体801の表層の微粒子803は一定時間後にほとんどが接着パッド802に固定される。そのため、液層間の微粒子803の移動は拡散のみとなり、表層近傍とそれ以外の液層に濃度差が生じ、接着パッド802に対する実質的な微粒子803の濃度は著しく低下する。
【0128】
そこで
図8のBに示すような、凹凸板804を流体の進行方向に配置する。
図8の例では、支持基体801に対面するように配置した構成を示している。一定方向に進行する流体がこの凹凸板804を通過する過程でX方向を軸とする渦、又は乱流が発生して、Z軸方向にも流体が移動する。流れ方は凹凸板804の形状に依存する。こうした現象の一例はScience 2002, Vol. 295, pp 647-650で説明されている。
【0129】
以上の方法で上下方向の流れを発生させることによって、溶液内に含まれる微粒子803の接着パッド802に対する衝突頻度が著しく向上する。同時に、溶液を支持基体801上で静置して反応させる方法と比較して、時間を著しく短縮することができる。一般に、1マイクロメートルの微粒子の拡散速度は0.1〜1マイクロメートル毎秒であるのに対して、
図8のBのような凹凸板804を配置し、流速200マイクロメートル毎秒で溶液を流した場合、Z軸方向に約10マイクロメートル毎秒の流れが発生する。したがって、静置に比べて理論上、約10〜100倍反応速度が向上する。また、反応チャンバをダイヤフラムポンプなどで流路の出入口をチューブで接続することによって、流体の進行方向は一方向だけでなく、一定の周期で方向を転換させることができ、微量な液量でも繰り返し撹拌をすることもできる。このとき、接着パッド802を配置している支持基体801からの液厚は薄い方がよく、より衝突頻度を上げることができる。10
5分子の生体分子(すなわち微粒子)を10
6の接着パッドに対して、長さ10ミリメートル、幅5ミリメートル、高さ1ミリメートルの反応チャンバ内で反応させる場合、流速200マイクロメートル毎秒で溶液を15回往復させると約50%の生体分子が接着パッドに固定される計算になる。さらに約95%の生体分子(すなわち微粒子)を固定するには、約100回の往復が必要になるが、要する時間は約80分間程度である。実際に同程度の流れを10回程度発生させた場合、反応効率は静置条件に比べて約30%程度増加した。撹拌は微粒子803の固定率を上げるだけでなく、分析対象の生体分子と捕捉分子のハイブリダイゼーションや、検出用の蛍光体標識付核酸分子(プローブ分子)と分析対象の生体分子のハイブリダイゼーションの効率を上げる目的にも同様に利用することができる。
【0130】
[実施例9]
本実施例の分析方法を、
図9を用いて説明する。分析対象の核酸断片901に蛍光色素903が標識された捕捉用タグ分子902を結合させる。結合には、ライゲーション反応や、予め分析対象の核酸断片901と捕捉用タグ分子902にアミノ基やスクシンイミド基などの官能基を導入しておいて官能基同士のカップリング反応を用いることもできる。特に、分析対象の核酸断片901がマイクロRNAの場合には、捕捉用タグ分子902を10〜20塩基長程度のRNA分子とし、T4RNAリガーゼを用いて両者を結合する方法が有効である。分析対象の核酸断片901に蛍光色素903が標識された捕捉用タグ分子902を結合させた後、蛍光体905で標識された核酸分子(プローブ分子)904とハイブリダイゼーションを行う。核酸分子(プローブ分子)904は個々の評価目的の核酸断片を識別するためのものであり、個々の遺伝子の配列を代表する塩基配列を有する必要がある。配列設計を行う場合には、核酸二本鎖の安定性の指標となる融解温度を個々の標識された核酸分子(プローブ分子)で一定の範囲に収める必要がある。その範囲は狭いほうが好ましいが、所定の温度±3℃程度に抑えることが好ましい。また、標識された核酸分子(プローブ分子)同士の塩基配列の相同性は低いことが好ましく、相同性を70%以下、より好ましくは60%以下に抑えることが好ましい。次に、実施例6に記載した方法を用いて、微粒子908に捕捉分子906を結合分子907を介して一分子だけ固定したものを予め作製しておき、これを加えてハイブリダイゼーションを行うことで、微粒子908上に、分析対象の核酸断片901と蛍光体905で標識された核酸分子904のハイブリッドを一分子対形成したものを作製することができる。蛍光体905には、実施例1で述べたように、蛍光体入り蛍光ビーズを用いることができる。
【0131】
次に、このハイブリッドを形成した微粒子908を流路909中に流し、励起光を照射することで、蛍光色素903の蛍光と蛍光体905の蛍光強度を検出器910で検出する。流路909の直径を、微粒子908の直径の2倍以下とすることで、同時に複数個の蛍光色素903の蛍光を測定することなく、一個一個の微粒子908を識別して蛍光を測定できるため好ましい。蛍光色素903の蛍光輝点数をカウントし、総核酸断片数に相当する値を得る。一方、蛍光色素903の蛍光と蛍光体905の蛍光が同時に測定された場合にのみ、特定の蛍光体の輝点をカウントし、各種類の核酸断片数に相当する値を得る。すべての蛍光体の輝点をカウントすることで核酸断片数の絶対数が得られる。両者の絶対数の比を算出することで、試料中の総核酸断片数に対する各核酸断片数の割合を算出することができる。本実施例の方法では、個々の遺伝子の発現量が全遺伝子の発現量に対する発現量の比で得られるため、異なる試料間、例えば健常者と患者試料の比較も直接、比較することができる。この点は、特に、臨床検体での核酸分子の比較解析には有用となる。
【0132】
微粒子908として、ポリスチレンなどの高分子からなる微粒子を用いることも可能であるし、高分子中に磁性金属粉体を含有したような磁気微粒子を用いることも可能である。特に、磁気微粒子を用いた場合には、反応後の微粒子908を流路909に流す前に、反応液中に残っている微粒子908に固定されていない未反応の、蛍光色素903が標識された捕捉用タグ分子902や、蛍光体905で標識された核酸分子(プローブ分子)904を、容易に取り除くことができ、蛍光色素903の蛍光と蛍光体905の蛍光が同時に測定された場合にのみ、特定の蛍光体の輝点をカウントする際に、測定が容易になるという大きなメリットがあり、好ましい。
【0133】
[実施例10]
本実施例では、生体分子分析方法に用いる生体分子分析装置の好ましい構成の一例について、生体分子が核酸の場合を例にとり、
図10を参照しながら説明する。
【0134】
本実施例の核酸分析装置は、核酸分析用デバイス基板に対して、核酸試料溶液、蛍光標識付分子溶液及び洗浄液を供給する手段と、反応チャンバにおいてハイブリダイゼーションを行うための温度調節手段と、核酸分析用デバイス基板に光を照射する手段と、蛍光標識付分子の蛍光体の蛍光を測定する発光検出手段、を備える。より具体的には、核酸分析用デバイス基板1001を温調プレート1003上に置き、流路1004を設けた流路部材1002をその上に貼り合せることで反応チャンバを形成する。流路部材1002には、例えばPDMS(Polydimethylsiloxane)を使用することができる。
【0135】
注入口1014には送液ユニット1005が接続されており、送液ユニット1005中に保管されている、核酸試料溶液、蛍光標識付分子溶液及び洗浄液が順次、核酸分析用デバイス基板1001上の反応チャンバへ供給される。核酸試料溶液及び蛍光標識付分子溶液が反応チャンバへ供給された後、流路1004中で溶液は核酸分析用デバイス基板1001上の反応チャンバに保持され、温調プレート1003で30℃から80℃の温度範囲でハイブリダイゼーションが行われる。ハイブリダイゼーション後、磁石ユニット1016によって反応チャンバ内の磁気微粒子が核酸分析用デバイス基板1001上に収集・固定された後、送液ユニット1005から洗浄液が反応チャンバに供給され、未反応物が洗浄される。
【0136】
洗浄後、蛍光検出が行われる。励起光源は、用いる蛍光体の種類によって適切なものを選択できる。例えば、蛍光ビーズに使う蛍光体として、Cy5、Cy5.5、Cy3を用いる場合には、励起光には532nm(YAGレーザ)、633nm(He-Neレーザ)の2種類で対応できる。YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)1007及びHe-Neレーザ光源(波長633nm,出力20mW)1013から発振するレーザ光をダイクロイックミラー1015によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ1008を通過させ、ダイクロイックミラー1009によって対物レンズ1006に導き、核酸分析用デバイス基板1001上に照射される。蛍光標識付分子から発せられる蛍光は、励起光と同軸光路を逆に進み、対物レンズ1006で集められた後ダイクロイックミラー1009を通過し、結像レンズ1011により2次元CCDカメラ1012の感光面上に結像される。励起光の散乱光は光学フィルタ1010によって除去される。
【0137】
上記のように、送液ユニット、温調プレート、励起光源及び蛍光検出ユニットで核酸分析装置を組上げることにより、自動でハイブルダイゼーションによる核酸分析を行うことが可能となり、従来技術に対して大幅なスループットの改善が図れる。
【0138】
なお、生体分子がタンパク質の場合にも、同じ装置構成の分析装置で分析できる。