(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、スケールが熱膨張のために寸法変化した場合でも、精度の高い測定を実施することができる。しかしながら、スケール以外の構成部材である、例えばコラムやサポータやラムが熱膨張した場合には対応しておらず、この場合、特に、Z軸方向での測定精度が低下するという問題があり、測定環境を正確に制御する必要があるという問題がある。例えば、三次元測定機の電源をON状態にした後、測定座標系の原点位置を示すマスターボールを、プローブを用いて連続測定した場合、測定子を駆動させるための駆動モーターの温度上昇により、コラムやサポータ、ラムでの熱膨張による寸法変化量がそれぞれ異なるため、電源ON直後のスタート時に対して、主にZ軸の値がシフトし、Z軸測定精度が低下してしまう。このようなZ軸測定精度の低下を防ぐために、熱膨張によるラムのZシフト量を正確に算出可能な産業機械が望まれている。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、熱膨張によるラムのZ軸シフト量を高精度に算出可能な産業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の産業機械は、ベース面に対して直交するZ軸に沿って立設されたコラムおよびサポータと、これらのコラムおよびサポータの間に設けられたビーム上を移動可能なスライダと、前記スライダに、Z軸方向に移動可能に保持されたラムと、前記コラム
の温度Tc、前記サポータ
の温度Ts、および前記ラム
の温度Trを検出する温度検出手段と、
前記ラムに設けられ、前記ラムのZ軸方向への移動量を測定するための目盛が設けられたZ軸スケールと、前記スライダに設けられ、前記Z軸スケールの目盛を検出するZ検出部と、前記コラム、前記サポータ、および前記ラムの温度変化による前記ラムのZ軸方向に沿ったZ軸シフト量を算出するシフト量算出手段と、を具備し、前記シフト量算出手段は、前記温度検出手段により検出された前記コラム
の温度Tc、前記サポータ
の温度Ts、および前記ラム
の温度Trと、前記コラム、前記サポータ、および前記ラムの温度を所定の基準温度に設定した状態での前記コラム、前記サポータ、及び前記ラムの位置関係を示す基準位置データと、温度変化による前記コラム、前記サポータ、及び前記ラムのZ軸方向への寸法変動量
△C,△S,△Zを算出するための補正係数と、
前記スライダの位置座標xと、に基づいて、前記Z軸シフト量を算出
し、前記基準位置データは、前記基準温度における前記ベース面から前記Z検出部までの距離L1、前記基準温度における前記ラムの前記ベース面に対向する先端部から前記ラムのZ軸スケールの固定位置まで距離L2、前記スライダを前記コラムに最も近接させた際の前記コラムの中心軸から前記スライダの中心軸までの距離X0、前記スライダを前記サポータに最も近接させた状態の前記サポータの中心軸から前記スライダの中心軸までの距離X1、および前記スライダがX軸方向への移動可能な距離X2を含み、前記補正係数は、前記コラムの熱膨張係数αc、前記サポータの熱膨張係数αs、および前記ラムの熱膨張係数αrを含み、前記シフト量算出手段は、次式により前記Z軸シフト量を算出することを特徴とする。
[数1]
(Z軸シフト量)=(X0+x)3×(△S−△C)/(X0+X1+X2)3+△C−△Z …(1)
ただし、 △C=(Tc−T0)×L1×αc
△S=(Ts−T0)×L1×αs
△Z=(Tr−T0)×L2×αr
T0:基準温度
【0007】
この発明では、温度検出手段により、コラム、サポータ、ラムのそれぞれの温度を検出する。そして、シフト量算出手段は、これらの温度検出手段により検出されたコラム、サポータ、およびラムの温度と、基準温度(例えば20度)におけるコラム、サポータ、およびラムの位置関係を示す基準位置データと、補正係数とに基づいて、コラム、サポータ、およびラムの温度が所定の温度の際のラムのシフト量を算出する。
このような構成では、コラム、サポータ、及びラムが、それぞれ異なる温度に変動し、それに伴う熱膨張によりそれぞれ異なる寸法だけ変動した場合であっても、これらのコラム、サポータ、及びラムに対応した補正係数と、それぞれの温度とを用いて、それぞれの寸法変動量を算出することができる。したがって、この寸法変動量と基準位置データに基づいてZ軸シフト量を正確に算出することができる。
【0008】
本発明の産業機械では、前記温度検出手段は、前記コラムの平均温度、前記サポータの平均温度、および前記ラムの平均温度をそれぞれ検出することが好ましい。
【0009】
この発明では、温度検出手段は、これらの温度検出センサーで検出された各温度の平均を算出する。これには、例えば、コラム、サポータ、及びラムに、Z軸方向に沿って互いに離間する温度検出センサーを設け、これらの温度検出センサーにより検出される温度の平均値を算出してもよく、例えばコラム、サポータ、及びラムに、Z軸方向の中心位置に1つの温度検出センサーを設け、この温度検出センサーから出力される温度を平均温度として取得してもよい。
コラムやサポータ、ラムにおけるZ軸方向の位置により温度が異なることがある。例えば、コラムをY軸方向に沿って移動させるための駆動モーターが、コラムの下部に設けられている場合、この駆動モーターからの距離によりコラムの各位置での温度が異なり、コラムの駆動モーターに近い領域では、熱膨張による寸法変動も大きくなり、駆動モーターから遠い位置では、熱膨張による寸法変動が小さくなる。ここで、コラムに伝達される熱は、駆動モーターからの距離に対して略比例するため、本発明のように、コラム全体の平均温度を求めることで、コラムの熱膨張による寸法変動量を容易に、かつ正確に算出することができる。サポータやラムに対しても同様であり、サポータの平均温度や、ラムの平均温度を算出することで、これらの寸法変動量を容易に算出でき、シフト量算出手段は、ラムのZ軸シフト量を精度良く、かつ容易に算出することができる。
【0010】
本発明の産業機械は、
上述のように、前記ラムに設けられ、前記ラムのZ軸方向への移動量を測定するための目盛が設けられたZ軸スケール、および前記スライダに設けられ、前記Z軸スケールの目盛を検出するZ検出部を備え、前記基準位置データは、前記基準温度における前記ベース面から前記Z検出部までの距離L
1、前記基準温度における前記ラムの前記ベース面に対向する先端部から前記ラムのZ軸スケールの固定位置まで距離L
2、前記スライダを前記コラムに最も近接させた際の前記コラムの中心軸から前記スライダの中心軸までの距離X
0、前記スライダを前記サポータに最も近接させた状態の前記サポータの中心軸から前記スライダの中心軸までの距離X
1、および前記スライダがX軸方向への移動可能な距離X
2を含み、前記補正係数は、前記コラムの熱膨張係数α
c、前記サポータの熱膨張係数α
s、および前記ラムの熱膨張係数α
rを含み、前記シフト量算出手段は、前記温度検出手段により検出された前記コラムの温度T
c、前記温度検出手段により検出された前記サポータの温度T
s、前記温度検出手段により検出された前記ラムの温度T
r、及び前記スライダの位置座標xに基づいて、次式により前記Z軸シフト量を算出すること
を特徴とする。
【0012】
本発明の産業機械では、コラムおよびサポータによりビームを保持するが、コラムやサポータの熱膨張により、ビームが傾斜する場合がある。特に、コラムがY軸方向に移動可能で、スライダがX軸方向に移動可能で、ラムがZ軸方向に移動可能な産業機械、例えば三次元測定機では、一般にサポータのベース面に対向する端部は自由端であり、この場合、サポータは、ベース面に対向する自由端がコラム側に移動し、ビームを保持する端部がコラムから離れる側に移動して、Z軸に対して傾斜し、これにより、ビームもベース面に対して傾斜する。この時、ビーム上のスライダのZ軸シフト量は、Z−X面状の面内で、上記式(1)に示すような三次曲線に略沿って変動する。すなわち、上記式(1)に基づいて、Z軸シフト量を算出することにより、ラムのZ軸シフト量をより精度良く算出することができる。
【0013】
本発明の産業機械は、前記ラムの先端に設けられた測定子を用いて、前記ベース面に載置された被測定対象を測定する測定機であり、前記シフト量算出手段により算出された前記Z軸シフト量に基づいて、前記測定子で測定された前記被測定対象のZ軸測定値を補正する補正手段を備えたことが好ましい。
【0014】
このような測定機では、ベース面に載置された被測定対象を測定する際、ラムのベース面に対向する先端に設けられた測定子を接触させて測定する。この時、コラムやサポータ、ラムが熱膨張して、ラムがZ軸方向にシフトした場合でも、上述のように、シフト量算出手段により、そのZ軸シフト量を正確に算出することができる。また、補正手段は、このZ軸シフト量に基づいて、被測定対象のZ測定値を補正することで、被測定対象の正確な寸法測定を実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、コラムやサポータ、ラムの熱膨張をも考慮した位置補正を行うことができ、産業機械におけるラムのZ軸シフト量をより精度良く測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施形態の三次元測定機(産業機械)について、図面に基づいて説明する。
〔三次元測定機の概略構成〕
図1は、本発明に係る一実施形態の産業機械である三次元測定機の概略構成を示す図である。
図1において、三次元測定機1(産業機械)は、本体2と、本体2の駆動制御を実行する制御部3とを備えている。
【0018】
本体2は、ベース21と、ベース21に設けられるスライド機構22とを備える。
ベース21は、被測定物(図示略)を載置させるベース面211を有する矩形板状に形成されている。また、ベース21の−X軸方向側には、+Z軸方向側に向かって突出するとともに、Y軸方向に沿って直線状に形成され、スライド機構22をY軸方向に沿ってガイドするガイド部212が形成されている。さらに、ベース面211には、半径既知の真球に加工されたマスターボール213が固定されている。
なお、本実施形態においては、「Z軸方向」を「Z方向」、「Z軸」(例えば、「Z軸側」)、または「Z」(例えば、「Z側」)等と略して記載することがある。同様に「X軸方向」および「Y軸方向」をそれぞれ「X」、「Y」(例えば、「X側」、「Y側」)等と略して記載することがある。
【0019】
スライド機構22は、ガイド部212に取り付けられ、ガイド部212上をY軸方向に沿って移動可能に設けられるコラム221と、コラム221にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム222と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム222上をX軸方向に沿って移動可能に設けられるスライダ223と、スライダ223の内部に挿入され、スライダ223内をZ軸方向に沿って移動可能に設けられるラム224とを備える。また、ビーム222における+X軸方向側の端部には、Z軸方向に沿って延出するサポータ225が形成されている。さらに、ラム224における−Z軸方向側の端部には、被測定物を測定するための測定子227が取り付けられている。
そして、スライド機構22は、コラム221、スライダ223、及びラム224を駆動する駆動モーター228を備え、制御部3による制御の下で測定子227をX,Y,Z軸方向に沿って移動させる。なお、
図1において、コラム221をY軸方向に沿って移動させる駆動モーター228のみを図示する。
【0020】
また、本体2は、コラム221、スライダ223、及びラム224の各軸方向の位置を検出するための測定手段が設けられている。具体的には、ガイド部212には、Y軸方向に沿ったY軸スケール212Aが設けられており、コラム221には、このY軸スケール212Aの値を読み取るY軸スケールセンサー(図示略)が設けられている。また、ビーム222には、X軸方向に沿ったX軸スケール222Aが設けられており、スライダ223には、このX軸スケール222Aの値を読み取るX軸スケールセンサー(図示略)が設けられている。さらに、ラム224には、Z軸方向に沿ったZ軸スケール224Aが固定されており、ラム224をZ軸方向に移動可能に保持するスライダ223内に、Z軸スケール224Aの値を読み取るZ軸スケールセンサー223Aが設けられている。
【0021】
さらに、コラム221、ラム224、およびサポータ225には、それぞれ温度を検知する温度検出センサー226(226A,226B,226C,226D,226E)が設けられている。これらの温度検出センサー226は、本発明の温度検出手段を構成する。
温度検出センサー226Aは、コラム221の−Z側端部に設けられ、温度検出センサー226Bは、コラム221の+Z軸側端部に設けられ、それぞれZ方向に沿って互いに離間している。このとき、これらの温度検出センサー226A,226Bは、コラム221のZ軸方向における中心点からの距離が略等しくなるように設けられることが好ましい。
また、温度検出センサー226Cは、サポータ225のZ方向における中心点に設けられている。
さらに、温度検出センサー226Dは、ラム224の−Z側端部に設けられ、温度検出センサー226Eは、ラム224の+Z側端部に設けられ、それぞれZ軸方向に沿って互いに離間している。このとき、これらの温度検出センサー226D,226Eは、ラム224のZ軸方向における中心点からの距離が略等しくなるように設けられることが好ましい。
【0022】
制御部3は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリなどを備えて構成され、記憶部31と、各温度検出センサー226で検出された温度を取得する温度検出部32と、各スケールセンサーで検出された測定子の座標位置、および温度検出センサー226で検出された温度に基づいて、ラム224のZシフト量を算出するシフト量算出部33(シフト量算出手段)と、算出されたZシフト量から、Z軸の測定値を補正する補正部34とを備える。なお、本実施形態では、温度検出部32および各温度検出センサー226により、本発明の温度検出手段が構成されている。
【0023】
記憶部31は、制御部3で用いられる情報を記憶するものであり、三次元測定機1の製造時に予め測定した、基準温度(例えば20度)における基準位置データや、コラム221、ラム224、及びサポータ225の熱膨張係数(補正係数)などのパラメータを記憶している。
ここで、基準位置データとしては、基準温度におけるベース面211からZ軸スケールセンサー223Aまでの距離L
1(
図2参照)、基準温度におけるラム224の測定子227が固定される端部から、Z軸スケール224Aの固定位置までの距離L
2(
図2参照)、スライダ223を最もコラム221側に移動させた(x=0に設定した)際のコラム221の中心軸とスライダ223の中心軸との距離X
0(
図2参照)、スライダ223を最もサポータ225側に移動させた(x=x
maxに設定した)際のスライダ223の中心軸とサポータ225の中心軸との距離X
1、スライダ223の移動可能距離X
2(=x
max)が記録されている。
また、記憶部31には、制御部3にてラム224の熱膨張によるZ軸方向のシフトを補正するためのZシフト補正プログラムが記憶されている。
【0024】
温度検出部32は、各温度検出センサー226の温度を検出するとともに、これらの温度から、コラム221、ラム224、及びサポータ225における平均温度を算出する。ここで、温度検出センサー226Aの温度をT
1、温度検出センサー226Bの温度をT
2、温度検出センサー226Cの温度をT
3、温度検出センサー226Dの温度をT
4、温度検出センサー226Eの温度をT
5とすると、温度検出部32は、次式により、コラム221の平均温度T
c、ラム224の平均温度T
r、及びサポータ225の平均温度T
sを算出する。
【0025】
[数2]
T
c=(T
1+T
2)/2 …(2)
T
r=(T
4+T
5)/2 …(3)
T
s=T
3 …(4)
【0026】
シフト量算出部33は、測定環境の変化によりコラム221、ラム224、及びサポータ225が熱膨張した際に発生するラム224(測定子227)のZシフト量を算出する。
図2は、シフト量算出部33によるZシフト量の算出方法を説明するための図である。
図2に示すように、基準温度におけるベース面211からZ軸スケールセンサー223Aまでの距離がL
1、基準温度におけるラム224の測定子227が固定される端部から、Z軸スケール224Aの固定位置までの距離がL
2に設定されたコラム221、ラム224、及びサポータ225が熱膨張により、それぞれ△C、△Z、△Sだけ寸法が変動する。このとき、これらのパラメータ△C、△Z、△Sは、基準温度T
0を20度、コラム221、ラム224、及びサポータ225の熱膨張係数をそれぞれ、α
c、α
r、α
sとすると、上述した式(1)の条件式から、以下のように算出することができる。
【0027】
[数3]
△C=(T
c−20)×L
1×α
c …(5)
△S=(T
s−20)×L
1×α
s …(6)
△Z=(T
r−20)×L
2×α
r …(7)
【0028】
また、スライド機構22が熱膨張により寸法変動を起こす場合、コラム221を駆動するための駆動モーター228がコラム221の−Z側に位置しているため、コラム221への熱影響が、サポータ225への熱影響よりも大きくなり、熱膨張による変動値も大きくなる。ここで、サポータ225のベース面211側の端部は、自由端となっているため、上記のようにコラム221、サポータ225がそれぞれ熱膨張により変形すると、ビーム222の自重等により、サポータ225の自由端(−Z側端部)が−X側に変位し、ビーム222は、
図2の下図に示す直線Aに示すように、+X方向に向かうに従って、−Z側にシフトするように傾斜する。この時、ビーム222上で、スライダ223をX軸方向に沿って移動させると、ラム224(測定子227)のZシフト量は、スライダ223の位置、すなわちx座標の3次関数に従って、上述した式(1)のように変位する。
このため、シフト量算出部33は、上記式(1)に基づいて、ラム224(測定子227)のZシフト量を算出することで、正確な値を算出することが可能となる。
【0029】
補正部34は、シフト量算出部33にて算出されたZシフト量に基づいて、Z軸スケールセンサー223Aにより測定されたZ測定値を補正する。
【0030】
図3は、シフト量算出部33により算出されたZシフト量により、補正部34で補正を行った場合のマスターボール213のZ位置測定結果(x=40)、およびコラム221、ラム224、及びサポータ225の各平均温度検出結果を示すグラフである。一方、
図4は、シフト量算出部33によるZシフト量の算出、および補正部34による補正を行わなかった場合のマスターボール213のZ位置測定結果(x=40)、および各温度検出センサー226の温度検出結果を示すグラフである。この
図4において、Tcbは、温度検出センサー226Aでの温度測定結果、Tctは、温度検出センサー226Bでの温度測定結果、Tsは、温度検出センサー226Cでの温度測定結果、Trbは、温度検出センサー226Dでの温度測定結果、Trtは、温度検出センサー226Eでの温度測定結果である。なお、
図3および
図4において、横軸は三次元測定機1における電源投入後の稼動時間を示す。また、縦軸は同じスケールである。
図4に示すように、Zシフト量による補正を行わない場合、稼動初期時間の範囲でマスターボール213のZ位置はシフトする。これに対して、
図3に示すように、シフト量算出部33により算出されたZシフト量で補正を行った場合、稼動開始からマスターボール213のZ位置は殆どシフトしておらず、その効果が確認できる。
【0031】
〔Z測定値補正の方法〕
次に、Z測定値補正の方法について説明する。
図5は、Z測定値補正の方法を示すフローチャートである。
制御部3は、記憶部31に記憶されたZシフト補正プログラムが実行されると、
図5に示すように、以下のステップS1〜S3を実行する。
【0032】
Zシフト補正プログラムが実行されると、温度検出部32は、各温度検出センサー226の温度を検出し、上述した式(2)〜(4)に基づいて、コラム221、ラム224、及びサポータ225の各平均温度をそれぞれ算出する(S1:温度検出ステップ)。
次に、シフト量算出部33は、記憶部31から、基準位置データ(L
1、L
2、X
0、X
1、X
2)を取得し、ステップS1の温度検出ステップにより算出された各平均温度、およびスライダ223の位置であるx座標を用い、上述した式(5)〜(7)に基づいて、Zシフト量を算出する(S2:Zシフト量算出ステップ)。
Zシフト量算出ステップS2でZシフト量が算出されると、補正部34は、Z軸スケール224AおよびZ軸スケールセンサー223Aにより測定されたZ測定値を、Zシフト量で補正する(S3:補正ステップ)。
以上のステップS1〜S3を実行することによって、制御部3は、Z測定値から、Zシフト量を加減算することで、正確なZ測定値を測定することができる。
【0033】
〔本実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態の三次元測定機1では、コラム221、ラム224、及びサポータ225にそれぞれ温度検出センサー226が設けられ、温度検出部32は、これらの温度検出センサー226から、コラム221、ラム224、及びサポータ225のそれぞれの平均温度を検出する。そして、シフト量算出部33は、検出された各平均温度(T
c,T
r,T
s)、基準温度における基準位置データ(L
1,L
2,X
0,X
1,X
2)、及び補正係数である熱膨張係数(α
c,α
r,α
s)に基づいて、ラム224(測定子227)のZ軸に沿うZシフト量を算出する。
このため、Z軸に沿うコラム221、ラム224、およびサポータ225が、例えば駆動モーター228の熱によりそれぞれ異なる温度に変動し、それに伴う熱膨張による寸法変動が生じた場合であっても、これらのコラム221、ラム224、およびサポータ225の熱膨張係数からそれぞれの寸法変動量を算出することができ、この寸法変動量に基づいてZシフト量を容易に算出することができる。また、このようなZシフト量に基づいて、補正部34でZ測定値を補正することで、適切に測定値を補正することができ、精度の高い測定を実施することができる。
【0034】
また、上述したように、コラム221には、2つの温度検出センサー226A,226Bが設けられ、ラム224にも、2つの温度検出センサー226D,226Eが設けられており、温度検出部32は、これらの温度検出センサー226A,226B,226D,226Eから検出された温度からコラム221の平均温度、ラム224の平均温度を算出する。
このような構成では、コラム221やラム224において、熱源である駆動モーター228からの距離により、温度差が生じる場合がある。ここで、熱源から伝達される熱量は、距離に略比例するため、コラム221やラム224の平均温度に基づいて、コラム221やラム224の熱膨張による寸法変動量を算出することができる。
また、サポータ225は、駆動源の駆動力が伝達されない部材であり、コラム221やラム224よりも駆動モーター228から遠い位置に設けられているので、サポータ225の−Z側端部と+Z軸側端部において温度差がほとんどない。このため、本実施形態では、サポータ225には1つの温度検出センサー226Cを、Z軸方向の中心点に設ける構成とした。これに対して、サポータ225の近傍に他の駆動源などの熱源がある場合、この熱源の影響によりサポータ225の各位置における温度に差が生じる場合がある。この場合では、コラム221やラム224と同様に、サポータ225にも複数の温度検出センサー226を設け、温度検出部32は、サポータ225に設置されたこれらの温度検出センサー226からサポータ225の平均温度を算出してもよい。
【0035】
そして、シフト量算出部33は、温度検出部32により検出された各平均温度(T
c,T
r,T
s)、基準位置データ(L
1、L
2、X
0、X
1、X
2)、及びスライダ223のx座標を用い、上述した式(1)に基づいて、ラム224(測定子227)のZシフト量を算出する。この式(1)は、コラム221の熱膨張により、−Z側端部が自由端であるサポータ225がベース面211に対して傾斜し、スライダ223のx座標位置に対するラム224のZシフト量が3次関数に従って変化する関係式を表すものであり、式(1)に基づいて、Zシフト量を算出することで、例えば
図3に示すように、より精度の高いZシフト量を算出することができる。
【0036】
〔変形例〕
なお、本発明は、上述した一実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
【0037】
例えば、上記実施形態において、産業機械として、三次元測定機1を例示したが、これに限定されない。すなわち、産業機械としては、ベース面に対して立設されるコラムおよびサポータと、これらのコラムおよびサポータ間のビーム上で移動可能なスライダと、このスライダにZ軸方向に移動可能なラムが設けられる装置であれば、いかなるものに対しても適用することができ、例えば、ラムの先端にワークを加工するための加工具などが取り付けられた作業ロボット等の産業機械などであってもよい。このような産業機械では、温度変化に伴うZシフト量を算出し、この算出されたZシフト量に基づいて、ラムの位置を調整することで、ワーク上の適切な位置を加工することが可能となる。
【0038】
また、上記実施形態において、シフト量算出部33は、式(1)に基づいて、Zシフト量を算出する構成としたが、これに限定されず、例えば下記式(8)(9)に示すようなxの1次式、xの2次式に基づいて、Zシフト量を算出するものであってもよい。
【0039】
[数4]
(Zシフト量)=(X
0+x)
2×(△S−△C)/(X
0+X
1+X
2)
2+△C−△Z …(8)
【0040】
[数5]
(Zシフト量)=(X
0+x)×(△S−△C)/(X
0+X
1+X
2)+△C−△Z …(9)
【0041】
また、コラム221及びラム224には、それぞれ2つの温度検出センサー226が設けられ、温度検出部32は、これらの温度検出センサー226により、コラム221の平均温度、ラム224の平均温度を算出するとしたが、これに限定されず、例えば、コラム221やラム224のZ軸方向の中心点にそれぞれ1つの温度検出センサー226を設ける構成としてもよい。また、コラム221及びラム224にそれぞれ2つずつ温度検出センサー226を設ける構成としたが、例えば、3つ以上の温度検出センサー226が設けられている構成としてもよい。また、上述したように、サポータ225に対しても複数の温度検出センサー226が設けられる構成としてもよい。
【0042】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。