(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
シリコン系材料は、半導体デバイスや太陽電池等の製造に用いられる多結晶シリコンや単結晶シリコン或いはこれらを加工して得られたシリコンウェハや、光リソグラフィ用のフォトマスク或いはインプリントリソグラフィ用のモールドの作製に用いられる酸化ケイ素系基板などとして広く利用されている。これらシリコン系材料のエッチングには、一般に、フッ酸(HF)および硝酸(HNO
3)の少なくとも一方を含有する薬液が用いられる。例えば、シリコン系材料の表面の一定深さの表層部の除去を行うエッチングには、比較的高い濃度のフッ酸と硝酸の混合液が用いられる。
【0003】
半導体デバイスや太陽電池、或いは、フォトマスクやインプリントリソグラフィ用モールドの加工には高い精度が求められるため、その材料としてのシリコン系材料のエッチングにも高い精度が求められることとなる。
【0004】
ところで、このようなエッチングの反応は発熱反応であり、エッチング速度は薬液(エッチング液)の温度に依存し、エッチング液の温度が高くなるとエッチング速度が大きくなる。このため、連続的にエッチング処理を行う工程中にエッチング液の温度が上昇してしまうと、その分だけエッチング量が増えてしまい、製品ロスやウェハ表面の曇り(ヘイズ)、或いは、形状的な不適合等の不都合を生じる場合がある。従って、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有する薬液によりシリコン系材料を高い精度でエッチングするためには、エッチング液温度の適切な制御が必要となる。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2006−151779号公報)には、酸性エッチング液を用いたシリコン結晶基板のエッチングにおいて量産安定性に優れた製造方法およびその製造装置の実現が望まれていたという背景の下、シリコン結晶基板の製造装置に、硝酸とフッ酸を混合した混酸水溶液中のフッ酸濃度を検出する手段を備えることとし、当該フッ酸濃度検出によって連続生産安定性と品質の安定を可能とする発明が開示されており、この製造装置においては、エッチング槽で使用するエッチング液をチラーから送られる冷媒が循環される熱交換器に循環させ、エッチング反応により上昇した液温を低下させてエッチング液の温度を一定範囲に保つこととされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来から、シリコン系材料のエッチングに用いられるフッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有する薬液の温度制御は、チラーから送られる冷媒が循環される熱交換器による冷却によって行われている。このような設備において、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有する薬液を循環させるための配管等には、例えば、PFAやPVDF(登録商標)のような耐食性の高いフッ素樹脂やフッ素樹脂ライニングされた材質のものが用いられる。
【0008】
しかし、本発明者らの経験によれば、上述のような設備ではチラーを含む冷却系の劣化が早い。本発明者らがその原因について調査したところ、熱交換器に循環している冷媒にかなりの酸が溶出していることが判明した。そしてこのような酸溶出の現象は、エッチング液循環系に生じたピンホール等によるものではなく、フッ酸や硝酸が配管等に使用されている樹脂中に浸透乃至拡散することによる冷媒側への漏出であることが確認された。
【0009】
例えば、本発明者らによる実験では、比較的高い濃度のフッ酸と硝酸の混合液の冷却のための冷媒を1カ月以上連続使用すると、冷媒のpHは装置劣化を顕著に早める値であるpH=3以下となる。このため、装置劣化を防ぐためには冷媒の中和作業や高頻度での冷媒交換が必要となるが、このような対策に伴って発生する処理コストは無視できないほどに高いものとなってしまう。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有する薬液によりシリコン系材料をエッチングする際の処理コストを低減させ、しかも、長期間に渡る安定した運転が支障なく行える熱交換器およびこれを用いたシリコン系材料用エッチング液の除熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る熱交換器は、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有する薬液によりシリコン系材料をエッチングするためのシステムに用いられる熱交換器であって、
前記熱交換器は、前記薬液をエッチング槽から容器内に導き冷媒による除熱後に前記エッチング槽に返送する薬液循環部と、前記冷媒を除熱するための冷媒冷却剤を前記熱交換器とチラーとの間で循環させる流路部とを備え、前記熱交換器の容器内には前記冷媒が収容されており、前記熱交換器は、更に、前記冷媒を前記容器内に循環させる冷媒流路部を備えており、前記冷媒が前記冷媒冷却剤により除熱されるとともに、該除熱後の冷媒と前記冷媒冷却剤により前記薬液の除熱がなされる、ことを特徴とする。
【0013】
また、好ましくは、前記冷媒流路部は、前記冷媒の酸性度を調整するためのpH制御部を備えている。
【0014】
例えば、前記冷媒冷却剤は、アルコール類を含有する水性不凍液、又は、高水溶性塩の塩水溶液の何れかである。
【0015】
本発明に係る除熱方法は、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有するシリコン系材料のエッチング液の除熱方法であって、前記エッチング液を除熱する冷媒を冷媒冷却剤により除熱しながら前記エッチング液の除熱を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有するシリコン系材料のエッチング液の除熱に用いる冷媒を冷媒冷却剤により除熱することとし、この除熱された冷媒冷却剤により上記エッチング液を除熱することとした。
【0017】
このため、冷媒を除熱するための冷媒冷却剤を熱交換器とチラーとの間で循環させる流路部を備える熱交換器の構成とした。
【0018】
このような構成の熱交換器では、冷媒はチラーを含む冷却系には循環されないため、配管等に酸漏出が生じた場合でも熱交換器の容器内に収容された冷媒の交換乃至その再生処理を行うだけですむ。従って、チラー側の設備の大幅な設計乃至仕様の変更を行うことなく、エッチング処理工程のコストを低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明に係る除熱方法および熱交換器について説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る除熱方法(除熱システム)を説明するためのブロック図で、このシステムでは、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有するシリコン系材料エッチング用の薬液を溜めるエッチング槽200から、上記薬液の循環経路210aを介して熱交換器100の容器(シェル)内に導く。熱交換器100の容器内には薬液(エッチング液)を除熱するための冷媒が収容されており、除熱された薬液は循環経路210bを介してエッチング槽200へと返送されて再度エッチング液として使用される。上記冷媒は冷媒冷却剤により除熱され、この冷媒冷却剤によって除熱された冷媒によって薬液(エッチング液)の除熱が行われる。なお、図中に符号220で示したものは、エッチング液の循環予備槽である。
【0022】
また、熱交換器100内に収容された冷媒冷却剤は、循環流路130a、130bを介してチラー300との間を循環し、チラー300によって冷却された冷媒冷却剤によって冷媒の除熱が行われる。
【0023】
上述の冷媒冷却剤としては、アルコール類を含有する水性不凍液や、硫酸ナトリウムの塩水溶液、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム等の高水溶性塩を単独あるいは混合して溶解した塩水溶液などを例示することができる。
【0024】
また、熱交換器100の管理の利便性の観点から、冷媒を容器内に循環させる冷媒流路部110a、110bを備えていることが好ましい。このような冷媒流路部を設けておくと、冷媒の交換作業等が容易に行える。また、このような冷媒流路部に、冷媒の酸性度を調整するためのpH制御部120を設けるようにしてもよい。
【0025】
このようなシステムでは、従来のようにチラーで冷却した冷媒で直接エッチング液を冷却することはせず、チラーでは冷媒冷却剤の除熱を行うこととし、この除熱された冷媒によってエッチング液の除熱が行われる。このため、当該冷媒がチラーを含む冷却系には循環されないから装置のメンテナンスの手間が軽減し、仮に熱交換器のエッチング液側の配管から酸が漏出して冷媒のpH値が低下したとしてもこの冷媒を抜き取り交換するだけで済む。その結果、装置管理が容易となることに加え冷媒の廃液量も抑えることができ、エッチングの処理コストを低減させ、且つ、長期間に渡る安定した運転が支障なく行えることとなる。
【0026】
一般に、シリコン結晶等の材料のエッチングに用いられる薬液のフッ酸濃度は、0.1質量%以上50質量%以下され、典型的には5質量%程度とされる。また、硝酸濃度は、一般には5質量%以上70質量%以下、典型的には63質量%程度とされる。フッ酸と硝酸の混酸をエッチング液とする場合、フッ酸の濃度は0.1質量%以上10質量%以下、典型的には5質量%程度であり、硝酸の濃度は5質量%以上70質量%以下、典型的には60質量%程度である。
【0027】
図2は、本発明に係る熱交換器100の構成の概略を説明するための図である。
容器(シェル)10内には、エッチング液循環用配管20および冷媒冷却剤循環用配管30が設けられており、これらエッチング液循環用配管20および冷媒冷却剤循環用配管30はそれぞれ、上述した薬液循環経路210a、210bおよび冷媒冷却剤循環流路130a、130bに接続されている。また、容器10内には冷媒40が収容されており、この冷媒40は、送液ポンプ115の動作によって冷媒流路部110a、110bを介して容器内へと循環するが、当該流路内に設けられたpH制御部120により酸性度が調整された後に容器内へと返送される。なお、ここでは冷媒40として純水が好ましく選択され、更に冷媒冷却剤を0℃より低い値で管理する場合には、塩溶液を用いることが好ましいが、この場合、特に、シリコン系材料の金属汚染可能性を回避するため、アンモニア塩、あるいは有機アンモニウム塩を用いることが好ましく、また後述するように緩衝液とすることもできる。この冷媒は、冷媒供給路410aから容器10内へと供給され、冷媒排出路410bから容器10外へと排出することができる。
【0028】
通常の冷却システムで用いられる熱交換器では、被冷却体と冷媒とを隔壁を隔てて通過させて被冷却体の冷却が行われるが、冷却効率を上げるためには熱交換が行われる隔壁の面積を比較的広くする必要がある。
【0029】
一方、金属汚染や有機物汚染を極力避ける必要のあるシリコン系材料のエッチング工程で用いられる装置の配管等には、PFAやPVDF(登録商標)のような耐食性に優れたフッ素樹脂が用いられるがこのような材料を用いて隔壁面積の広い構造の熱交換器を設計すると、浸透性の高いフッ酸や硝酸の漏出を完全に抑制することは難しい。本発明者らが検討実験で用いた従来構成の装置では管壁厚が0.8mmのPFAチューブを用いたが、純水を冷媒として4週間連続循環を行うと、冷媒のpHは3程度まで下がってしまった。このため、装置腐食を防止するためには、4週間未満の期間で冷媒の交換処理を行ったり、大量の冷媒の全てを中和処理したりすることが必要となる。
【0030】
更に、熱交換器による除熱効率を上げるためには、冷媒の温度はなるべく低い方がよいが、冷媒温度を下げるために冷媒にエチレングリコールと水の混合液を不凍液として用いてみると、エッチング液に硝酸が含まれている場合には硝酸エステルを経由して生成したものと思われる着色性の有機物がPFA配管の内面および外面に付着する現象が観察された。このような物質の生成は被エッチング材料の有機物汚染の原因となるだけではなく、硝酸エステル自体が危険であるため、その生成を避ける必要がある。また、硝酸エステル生成を防止するために中和作業を行いながら長時間使用した場合には、不凍液中では塩の析出等が起こる可能性もあり、送液ポンプにダメージを与える可能性がある。
【0031】
しかし、本発明のように、チラーで冷媒冷却剤の除熱を行い、この除熱された冷媒によってエッチング液の除熱が行われる構成を採用した場合には、これらの不都合を解消することができる。このような構成であれば、使用する冷媒の量は熱交換器のシェル容量に応じたものとすることができるため、従来構成のものに比較して少なくて済む。このため、高い頻度で全量を交換したとしても、処理コストは抑制されることになる。
【0032】
なお、冷媒冷却剤には、アルコール類を含有する水性不凍液、硫酸ナトリウムの塩水溶液、硫酸アンモニウムの塩水溶液、塩化ナトリウムの塩水溶液等を用いることができるが、本発明者が確認したところによれば、エチレングリコール、エタノール、メタノール等のアルコール類含有させた水を冷媒冷却剤として用いて冷媒温度を0℃以下に制御した場合にも、エッチング液の有機物汚染は生じることがなかった。
【0033】
上述の除熱システムにおいて、エッチング槽200から熱交換器100を経てエッチング槽200へとエッチング液を循環させる循環ライン(210a、210b)には高い耐酸性が求められるため、一部にエーテル鎖を有していてもよいフッ素化された飽和炭化水素樹脂を用いた配管等であることが好ましい。
【0034】
フッ素化された飽和炭化水素樹脂の具体例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4,6フッ化)(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)(PVDF(登録商標))、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のいわゆるテフロン(登録商標)樹脂と呼ばれる樹脂群を挙げることができる。
【0035】
エッチング液の循環流路に設けられるポンプは、エッチング槽の大きさや発熱に応じて選択すればよいが、一般に用いられるポンプのように、接液部は耐酸性の樹脂であることが好ましく、具体的には上述したようなテフロン(登録商標)樹脂製のものを選択することが好ましい。
【0036】
冷媒冷却剤を熱交換器とチラーとの間で循環させる循環系には、一般の冷却装置をそのまま使用することが可能である。なお、当該循環系のうち、熱交換器内の配管は、耐酸性に優れた金属配管であることが好ましく、耐酸性の高い樹脂でライニングされていてもよい。
【0037】
また、冷媒冷却剤を0℃以上の温度で使用(運転)する場合には水を用いることが好ましく、純水を用いた場合には長時間メンテナンスが不要となるという利点がある。冷却効率を上げるために冷媒冷却剤を0℃以下の温度で使用(運転)する場合には、エチレングリコール、エタノール、メタノールのようなアルコール類を添加した水や、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム等の塩水溶液(いわゆるブライン)を用いてもよい。冷媒冷却剤の循環系を金属配管とした場合には、仮に冷媒冷却剤にアルコール類やナトリウム系が含まれていても、熱交換器内で除熱されるエッチング液がこれらの含有物によって汚染されることを防止できる。
【0038】
例えば冷媒冷却剤としてエチレングリコール等を加えた不凍液を用い、これを0℃未満の温度で運転する場合、エッチング液除熱用の冷媒の凍結を防止する必要がある。このような冷媒としては塩溶液が好ましい。塩溶液は必要とする凝固点降下を得られるものであればよいが、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有するエッチング液中に含有された珪素と反応しても有害な物質を生成しないものが好ましい。このような冷媒としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の塩溶液を例示することができる。
【0039】
従来の除熱システムではシェルアンドチューブ型熱交換器が多用され、このタイプの熱交換器では、被冷却体であるエッチング液が熱交換器の容器(シェル)内に配置されるチューブ内を流れ、チラーと熱交換器との間で循環する冷媒と上記エッチング液との間で熱交換が行われる。これに対し、本発明の除熱システムでは、エッチング液の除熱を行う冷媒を熱交換器の容器内に収容し、冷媒を除熱するための冷媒冷却剤を熱交換器とチラーとの間で循環させる。
【0040】
本発明で用いられる熱交換器の容器や配管の形状に特別な限定はないが、容器内に配される配管としてテフロン(登録商標)製のものを採用した場合には、熱交換の効率を高める観点から、管壁の厚さは0.5mm〜2.0mmとすることが好ましい。また、配管の形状にも特別な制限はない。しかし、本発明者らの実験によれば、エッチング液循環用の配管は比較的経時的劣化を起こし易いため、装置のメンテナンスの観点から、比較的シンプルで交換等の作業が容易で、しかも熱交換面積が大きく除熱効率が高い形状であるスパイラル状のものとすることが好ましい。
【0041】
図3Aおよび
図3Bはそれぞれ、本発明の熱交換器の容器内に配置される冷媒冷却剤循環用配管およびエッチング液循環用配管の構成例を説明するための図で、何れもスパイラル状の配管とされている。
図3Bに示したエッチング液循環用配管のスパイラル部を、
図3Aに示した冷媒冷却剤循環用配管のスパイラル部内に挿入された態様で熱交換器の容器内に配置すると、熱交換の効率が高く好ましい。
【0042】
なお、
図3Aに示した冷媒冷却剤循環用配管は上方からスパイラル部へと送液された後に下方から上方へと返液される構成とされているが、スパイラル部の下部から直接容器外に返液する構成としてもよい。また、
図3Bに示したエッチング液循環用配管はスパイラル部の中央に位置する直胴部の上方から送液された後にスパイラル部の下方から上方へと送液されて返液される構成とされているが、スパイラル部の下部から直接スパイラル部に送液する構成としてもよい。
【0043】
エッチング液除熱用の冷媒の交換頻度が高くなる場合には、冷媒処理コストを抑制するべく、なるべく少量の冷媒で十分な除熱効果が得られるようにシェルの大きさが設計される。また、冷媒として水を用いる場合には、漏出したフッ酸乃至硝酸をトラップするために、シェル内にイオン交換樹脂を設けるようにしてもよい。
【0044】
また、図中に符号120で示したように、冷媒中に漏出したフッ酸乃至硝酸による循環系の劣化防止のため、アルカリにより中和することで冷媒のpHの管理を行ってもよい。当該目的のために用いるアルカリは、アンモニア水、或いは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのようなアンモニウム類の水酸化物が好ましい。また、イオン交換樹脂を使用して酸を捕捉するようにしてもよい。本発明の除熱システムでは、シェル内に循環される冷媒のみをpH管理すればよく、チラー側でのpH管理は不要であるため、装置のメンテナンスが効率化される。
【0045】
なお、熱交換器の容器内での温度差はなるべく生じないことが好ましい。容器を縦型のものとすると、容器内での冷媒冷却剤と冷媒との間での熱交換および冷媒とエッチング液との間での熱交換に起因する自然対流による容器内温度の均一化が図られ易くなる。
【0046】
更に、熱交換効率を向上させるため、容器内の冷媒は強制循環させてもよい。この場合、例えば
図2に示したように、シェル上部から冷媒をポンプで抜き、シェル底部に送ることで循環流を作ることができる。なお、シェル中に冷媒攪拌用のスクリュ等を設置することとしてもよい。
【実施例】
【0047】
[予備実験]:耐酸性樹脂配管からのHF/HNO
3の漏出の確認
50質量%のHF水溶液と70質量%のHNO
3水溶液を体積比で1:9とした混合液をエッチング液として用いた。このエッチング液をエッチング槽200に118L、循環予備槽220に70L入れ、ポンプにより、毎分40Lの流速で熱交換器100とエッチング槽200との間で循環させた。
【0048】
熱交換器100には、チラー(不図示)で直接冷却して7±1℃に温度設定した純水を冷媒として循環させ、エッチング液の除熱を行った。なお、エッチング液の送液に用いた配管は管壁厚が0.8mmのPFAチューブ(旭硝子株式会社製 Ultra Pure Fluon(登録商標)PFA P/802UP)であり、容器内での配管全長は約5mである。
【0049】
上記の条件の下で、1日600kgの金属級シリコンをエッチングし、エッチング液の温度および冷媒のpH変化を計測した。なお、冷媒としての純水を冷却するチラーの腐食防止のため、冷媒のpHが約3となった段階で全量交換した。このような実験を6回繰り返した。
【0050】
表1は、上述の6回の繰り返し実験のそれぞれについて、1週間毎の冷媒のpH変化を纏めた表である。なお、7±1℃で管理された冷媒で除熱したエッチング液の温度は、初期温度が20℃であるのに対し、最高時の温度は31℃であった。
【0051】
【表1】
【0052】
この表に示したとおり、冷媒のpHは4乃至5週間で約3となった。つまり、PFAチューブからの酸の浸透・拡散により、長時間のチューブ使用により冷媒中の酸濃度が増加することが確認できる。
【0053】
念のため、温度が0℃に管理された純水を冷媒とし、金属級シリコンの処理量を1日660kgとして同様の実験を行った結果、エッチング液の初期温度が15℃であるのに対し、最高時温度が26℃となったが、冷媒のpH変化に関しては、表1に示した結果と実質的な差異は認められなかった。
【0054】
[実施例]
上記の予備実験と同様、50質量%のHF水溶液と70質量%のHNO
3水溶液を体積比で1:9とした混合液をエッチング液として用い、このエッチング液をエッチング槽200に118L、循環予備槽220に70L入れ、ポンプにより、毎分40Lの流速で熱交換器100とエッチング槽200との間で循環させた。
【0055】
熱交換器100は、
図2に示した構造のものを用い、容器10内に100Lの冷媒を収容し、当該冷媒中に
図3Aに図示した態様のスパイラル状の冷媒冷却剤用の配管(SUS304製、配管全長約5m)を浸漬させ、さらにその内側に
図3Bに図示した態様のスパイラル状のエッチング液用配管であるPFAチューブ(旭硝子株式会社製 Ultra Pure Fluon (登録商標) PFA P/802UP)を収容させた。また、容器内循環流により熱交換効率を向上させるため、容器10の底部より上部へ毎分80Lで冷媒をポンプで循環させた。
【0056】
用いる冷媒は、冷媒冷却剤の管理温度(管理精度は±2℃)に応じて選定した。具体的には、冷媒冷却剤の管理温度が0℃より高い場合には純水を選択し、冷媒冷却剤の管理温度が0℃以下の場合にはエチレングリコール水溶液を選択した。エチレングリコール水溶液の濃度は、管理温度0℃で5質量%、−5℃で10質量%、−10℃で20質量%、−15℃で40質量%である。
【0057】
更に、冷媒として緩衝液を使う場合、および、イオン交換樹脂を用いて中和を行う場合についても検討した。
【0058】
緩衝液としては原子半径の大きいカリウムを緩衝剤として含有するリン酸若しくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を用いた。具体的には、リン酸緩衝液としては、1モルのK
2HPO
4と1モルのKH
2PO
4を61.5:38.5で混合し、これを15分の1に希釈して用いた。また、TMAHとしては50ppmの濃度のものを用いた。なお、エッチング液の金属汚染レベルを極力下げることを目的として、TMAHとリン酸で緩衝液を調製してもよい。
【0059】
なお、緩衝液を用いた場合には、モル凝固点降下の作用により、冷媒冷却剤の温度を−15℃で管理したとしても冷媒の凍結は認められなかった。また、イオン交換樹脂を用いて中和を行う際には、強塩基性陰イオン交換樹脂であるオルガノ製IRA−400(1000g)を冷媒中に分散させ、冷媒の循環用吸引口にはフィルタを設置した。
【0060】
表2に条件1〜12毎の結果をまとめた。なお、冷媒のpH変化は4週間後の値である。
【0061】
【表2】
【0062】
従来の除熱方法では、エッチング液除熱用の冷媒をチラーにより冷却し、この冷媒との熱交換によりエッチング液の除熱(温度管理)を行っていた。これに対し、本発明では、冷媒冷却剤を用いて冷媒を冷却し、この冷却された冷媒によりエッチング液を冷却する除熱方法を採用する。このような除熱方法では、チラーユニットへの酸によるダメージが回避され、安定的な運転が可能となる。また、冷媒冷却剤として取り扱いの容易な純水を用いた場合でも、従来の除熱方法と遜色のないエッチング液の除熱(温度管理)が行える。しかも、冷媒のpH調整を行わなくても、4週間程度の連続使用が可能である。
【0063】
また、冷媒として塩溶液を用いた場合には、冷媒冷却剤の温度を0℃未満の低い温度で管理しても冷媒凍結が回避できるため、エッチング液の冷却効率を高めることができる。このため、シリコン系材料のエッチング処理量が増量された場合でも、エッチング液の温度上昇抑制効率を高めることができる。
【0064】
以上説明したように、本発明では、フッ酸および硝酸の少なくとも一方を含有するシリコン系材料のエッチング液の除熱に用いる冷媒を冷媒冷却剤により除熱することとし、この除熱された冷媒冷却剤により上記エッチング液を除熱することとした。このため、冷媒を除熱するための冷媒冷却剤を熱交換器とチラーとの間で循環させる流路部を備える熱交換器の構成とした。
【0065】
このような構成の熱交換器では、冷媒はチラーを含む冷却系には循環されないため、配管等に酸漏出が生じた場合でも熱交換器の容器内に収容された冷媒の交換乃至その再生処理を行うだけですむ。従って、チラー側の設備の大幅な設計乃至仕様の変更を行うことなく、エッチング処理工程のコストを低減させることができる。