特許第5816614号(P5816614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許5816614感染性C型肝炎ウイルス高生産HCV変異体及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816614
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】感染性C型肝炎ウイルス高生産HCV変異体及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20151029BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20151029BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20151029BHJP
   A61K 39/29 20060101ALI20151029BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20151029BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20151029BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N7/00
   C12N5/00 102
   A61K39/29
   A61P31/14
   !C07K19/00
【請求項の数】11
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-507076(P2012-507076)
(86)(22)【出願日】2011年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2011057271
(87)【国際公開番号】WO2011118743
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2013年11月13日
(31)【優先権主張番号】201010139886.X
(32)【優先日】2010年3月25日
(33)【優先権主張国】CN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業(スーパー特区[先端医療開発特区])、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512198637
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100170221
【弁理士】
【氏名又は名称】小瀬村 暁子
(72)【発明者】
【氏名】北村 義浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 洋子
(72)【発明者】
【氏名】青木 千恵
(72)【発明者】
【氏名】于 立娟
(72)【発明者】
【氏名】脇田 隆字
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/017818(WO,A1)
【文献】 J. Gen. Virol.,2010年 1月,Vol.91,P.122-132
【文献】 J. Med. Virol.,2010年 1月,Vol.82,P.41-48
【文献】 Virology,2008年,Vol.376,P.397-407
【文献】 Nat. Med.,2005年,Vol.11, No.7,P.791-796
【文献】 沖中記念成人病研究所年報 年報35(平成20年度),2009年,No.35,P.33-35
【文献】 平成19年度 政策創薬総合研究 研究報告書,2008年,P.181-191
【文献】 Virology,2010年 9月,Vol.405,P.361-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 7/00−7/08
C12N 5/10
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
〜14個のアミノ酸置換を含むC型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸であって、前記前駆体ポリプロテインは、少なくとも配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている、核酸。
【請求項2】
C型肝炎ウイルスJFH1株のゲノムの5'非翻訳領域と3'非翻訳領域とを含む、請求項1記載の核酸。
【請求項3】
前記前駆体ポリプロテインが、第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q862R)に加えて、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における、以下の(1)〜(13):
(1) 第31番目のバリンのアラニンへの置換(V31A)、
(2) 第74番目のリジンのスレオニンへの置換(K74T)、
(3) 第297番目のチロシンのヒスチジンへの置換(Y297H)、
(4) 第330番目のアラニンのスレオニンへの置換(A330T)、
(5) 第395番目のセリンのプロリンへの置換(S395P)、
(6) 第417番目のアスパラギンのセリンへの置換(N417S)、
(7) 第451番目のグリシンのアルギニンへの置換(G451R)、
(8) 第483番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D483G)、
(9) 第501番目のアラニンのスレオニンへの置換(A501T)、
(10) 第756番目のバリンのアラニンへの置換(V756A)、
(11) 第786番目のバリンのアラニンへの置換(V786A)、
(12) 第931番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q931R)、及び
(13) 第961番目のセリンのアラニンへの置換(S961A)、
のうち1以上のアミノ酸置換をさらに含む、請求項1又は2記載の核酸。
【請求項4】
前記前駆体ポリプロテインは、以下の(a)〜(f)からなる群から選択される前駆体ポリプロテインである、請求項1又は2記載の核酸。
(a) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンがスレオニンに、第297番目のチロシンがヒスチジンに、第330番目のアラニンがスレオニンに、第395番目のセリンがプロリンに、第417番目のアスパラギンがセリンに、第483番目のアスパラギン酸がグリシンに、第501番目のアラニンがスレオニンに、第862番目のグルタミンがアルギニンに、第931番目のグルタミンがアルギニンに、そして第961番目のセリンがアラニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(b) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(c) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(d) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(e) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(f) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンのみがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
【請求項5】
配列表の配列番号3、4又は5に示される塩基配列からなる、請求項2記載の核酸。
【請求項6】
レポータータンパク質をコードする核酸が、前記前駆体ポリプロテインのNS5Aタンパク質をコードする領域内に挿入されている、請求項1〜のいずれか一項記載の核酸。
【請求項7】
前記レポータータンパク質は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中に組み込まれて融合タンパク質として翻訳される、請求項記載の核酸。
【請求項8】
配列表の配列番号6又は7に示される塩基配列からなる、請求項記載の核酸。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項記載の核酸を含む、C型肝炎ウイルス粒子。
【請求項10】
請求項記載のC型肝炎ウイルス粒子を生産する、培養細胞。
【請求項11】
請求項記載のC型肝炎ウイルス粒子を不活化して得られる、免疫原性組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性C型肝炎ウイルス高生産HCV変異体、そのゲノム核酸及びそのゲノム核酸を導入された細胞に関する。さらに本発明は感染性HCV粒子を生産する方法、抗HCV薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus; HCV)は1989年、Chooらによって非A非B肝炎の原因ウイルスとして発見され同定された(非特許文献1)。HCV感染は、慢性肝炎となった後、HCVが持続感染したまま肝硬変、そして肝癌へと移行する。全世界で約1億7千万人、日本においても約200万人のHCV感染患者が存在すると言われている。HCVの主な感染経路は血液感染である。輸血用血液のスクリーニングが可能となってからは新たな感染者は激減したが、なお多くのウイルスキャリアー(virus carrier)が存在すると考えられている。
【0003】
現在の慢性C型肝炎の治療法は主としてペグ化インターフェロンの投与や、ペグ化インターフェロンと抗ウイルス薬リバビリンの併用によるものである。HCVは現在までに6つの遺伝子型に分類されており、日本では遺伝子型1b及び2aのHCV感染症例がメインである。特に遺伝子型1bのHCVはインターフェロンとリバビリンの投与によっては体内から完全なウイルス除去ができず、治療効果が十分ではないのが現状である(非特許文献2及び3)。このため、C型肝炎の発症予防やHCVウイルスの排除を目的とした新たな抗ウイルス薬やワクチンの開発が望まれている。
【0004】
ウイルスワクチンの種類には、抗原として、ウイルスタンパク質を用いる成分ワクチン、ウイルス粒子を用いるワクチン、及びウイルスタンパク質をコードする遺伝子を用いるDNAワクチンがある。ウイルス粒子を抗原とするワクチンとしては、弱毒化生ワクチンと不活化ワクチンがある。ウイルス粒子を抗原としたワクチンを製造する場合、高純度のウイルス粒子を製造するシステムが必要であり、そのシステムにはウイルス粒子の高生産培養系が必要である。
【0005】
C型肝炎ウイルス(HCV)は約9.6kbの+鎖の一本鎖RNAをゲノムとして有するウイルスである。HCVの一本鎖RNAゲノムは10種類のタンパク質(Core、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5B)を含む1本のポリプロテイン(前駆体ポリプロテイン(polyprotein precursor))をコードしている。HCV RNAゲノムから翻訳された前駆体ポリプロテインは個々のタンパク質に切断されてウイルスタンパク質として機能する。
【0006】
HCV RNAを培養細胞系で自律複製するレプリコンシステムが開発され、多くのHCV研究に使用されている。典型的なサブゲノムレプリコンはHCVゲノムの構造タンパク質領域を薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子に組換え、その下流にEMCV(脳心筋炎ウイルス)のIRESを挿入したものである。このサブゲノムレプリコンRNAを導入した培養細胞内ではHCV RNAの複製が認められる(特許文献1)。HCVサブゲノムレプリコンの複製の研究から、HCVゲノムの遺伝的変異がレプリコンの複製効率を上昇させる効果を示す場合があることが示されており、このような遺伝的変異は適応変異(adaptive mutation)と呼ばれる(特許文献1)。
【0007】
遺伝子型1bのCon1株由来のサブゲノムレプリコンpFK-I389neo/NS3-39/wt(Con1/wt)の変異体でありNS3-NS5A領域に適応変異を有するNK5.1株(Con1/NK5.1)は、野生型Con1/wtと比較して約10倍の増殖能力を持つことが示されている(非特許文献4)。一方、劇症肝炎患者より単離された遺伝子型2aに属するHCVのJFH1株由来のサブゲノムレプリコンを持つレプリコン複製細胞中に含まれるレプリコンの塩基配列を解析した論文(非特許文献5)には、6つのクローン中の5つでは、それぞれHCVゲノム由来領域にいくつかの変異を認めたもののそれらの変異の中に共通な変異は認められなかったこと、また残りの1つのクローンは、アミノ酸の変異を生じない塩基変異であったことが記載され、このことはJFH1株がHuh7細胞中で適応変異が無くても増殖可能な株であることを示していた。
【0008】
細胞培養系でのHCV生産については、Wakitaらによって、JFH1株に由来する全長ゲノムHCVレプリコンをHuh7細胞に導入して、感染性HCV粒子を生産できたことが示された(特許文献2及び非特許文献6)。また、Kaulらは、JFH1株のNS5Aタンパク質の変異が、野生型JFH1株よりも約10倍高いウイルス生産量をもたらすことを報告している(非特許文献7)。
【0009】
細胞培養系でのJFH1株のウイルス粒子生産能は4.6 x 104 FFU/mLであることが報告されており(非特許文献8)、細胞培養系でのインフルエンザウイルスについて報告されたウイルス粒子生産能についての約4x109 PFU/mL(非特許文献9)と比較して極めて低い。HCV粒子を抗原として用いるワクチン製造のためには、ウイルス粒子生産能がさらに高いHCV株の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO 2004/104198
【特許文献2】国際公開WO 2005/080575
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Choo et al., Science (1989) 244(4902) p.359-362
【非特許文献2】Fried et al., N. Engl. J. Med. (2002) Vol. 347, No. 13 p.975-982
【非特許文献3】Lusida et al., J. Clin. Microbiol. (2001) 39(11) p.3858-3864
【非特許文献4】Krieger et al., J. Virol. (2001) 70:4614-4624
【非特許文献5】Kato et al., Gastroenterology (2003) 125:1808-1817
【非特許文献6】Wakita et al., Nat Med. (2005) 11(7) p.791-796
【非特許文献7】Kaul et al., J. Virol. (2007) 81(23) p.13168-13179
【非特許文献8】Zhong et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2005) 102(26) p.9294-9299
【非特許文献9】Tree et al., Vaccine (2001) 19(25-26) p.3444-3450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、細胞培養系でウイルス高生産能を示すHCV株を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、いくつかのアミノ酸変異がJFH1株のウイルス生産能を顕著に高めることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0015】
[1] 1以上のアミノ酸置換を含むC型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸であって、上記前駆体ポリプロテインは、少なくとも配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている、核酸。
【0016】
好ましい1つの態様では、本核酸は、C型肝炎ウイルスJFH1株のゲノムの5'非翻訳領域と3'非翻訳領域とを含みうる。
【0017】
[2] 上記前駆体ポリプロテインは、以下の(a)〜(f)からなる群から選択される前駆体ポリプロテインである、上記[1]の核酸。
【0018】
(a) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンがスレオニンに、第297番目のチロシンがヒスチジンに、第330番目のアラニンがスレオニンに、第395番目のセリンがプロリンに、第417番目のアスパラギンがセリンに、第483番目のアスパラギン酸がグリシンに、第501番目のアラニンがスレオニンに、第862番目のグルタミンがアルギニンに、第931番目のグルタミンがアルギニンに、そして第961番目のセリンがアラニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(b) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(c) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(d) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第786番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(e) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンがアラニンに、第74番目のリジンがスレオニンに、第451番目のグリシンがアルギニンに、第756番目のバリンがアラニンに、そして第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
(f) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンのみがアルギニンに置換されている前駆体ポリプロテイン
[3] 配列表の配列番号3、4又は5に示される塩基配列からなる、上記[2]の核酸。
【0019】
[4] レポータータンパク質をコードする核酸が、上記前駆体ポリプロテインのNS5Aタンパク質をコードする領域内に挿入されている、上記[1]又は[2]の核酸。
【0020】
[5] 上記レポータータンパク質は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中に組み込まれて融合タンパク質として翻訳される、上記[4]の核酸。
【0021】
[6] 配列表の配列番号6又は7に示される塩基配列からなる、上記[5]の核酸。
【0022】
[7] 上記[1]〜[3]に記載の核酸を含む、C型肝炎ウイルス粒子。
【0023】
[8] 上記[7]のC型肝炎ウイルス粒子を生産する、培養細胞。
【0024】
[9] 上記[7]のC型肝炎ウイルス粒子を不活化して得られる、C型肝炎ウイルスワクチン。
【0025】
また、本発明は以下の発明についても包含する。
【0026】
[10] 上記[4]〜[6]の核酸を含む、C型肝炎ウイルス粒子。
【0027】
[11] 上記[10]のC型肝炎ウイルス粒子を生産する、培養細胞。
【0028】
[12] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の核酸を含む、ベクター。
【0029】
[13] 被検物質の存在下で上記[4]又は[6]に記載の核酸を含むC型肝炎ウイルス粒子を生産する培養細胞を培養するステップと、得られた培養物中の上記レポータータンパク質を検出し、上記レポータータンパク質の発現量が低い場合に上記被検物質は抗C型肝炎ウイルス活性を有すると判定するステップと、を備える、抗C型肝炎ウイルス物質をスクリーニングする方法。
【0030】
[14] 上記[7]のC型肝炎ウイルス粒子を抗原として認識する、抗C型肝炎ウイルス抗体。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、感染性HCV粒子の高生産株が提供される。この感染性HCV粒子の高生産株を用いることにより高HCV生産系を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】JFH1適応変異体の取得のために行った実験スキームを示す。図中、“C”はCore(コア)タンパク質、“E1”はE1タンパク質、“E2”はE2タンパク質、“p7”はp7タンパク質、“2”はNS2タンパク質、“3”はNS3タンパク質、“4A”はNS4Aタンパク質、“4B”はNS4Bタンパク質、“5A”はNS5Aタンパク質、“5B”はNS5Bタンパク質をそれぞれコードする領域を表し、またC(Core)に隣接した5'末端部分は5'非翻訳領域を、5B(NS5B)に隣接した3'末端部分は3'非翻訳領域を表す(図5、9、10、及び15においても同じ)。
図2】JFH1ウイルス感染細胞を2年間継代培養して得られたJFH1適応変異体(JFH1a)の複製能を示す。
図3】JFH1a及び野生型JFH1wtの性状比較を示す。縦軸は、IFN-α無添加のコントロールと比較した相対複製率(relative replication)(%)である。白丸はJFH1wt、黒四角はJFH1aのデータである。
図4】JFH1aの6クローンの配列解析によって見出された野生型JFH1wtに対するアミノ酸変異を示す。図4中、6クローンのうちの2個以上のクローンに見出されたアミノ酸変異には*を付けた。
図5】複製能と感染性の解析に使用した野生型JFH1wt及びその変異体について、HCV全長ゲノム(前駆体ポリプロテインコード領域及び非翻訳領域)の構造及び変異導入部位を示した概略図である。変異解析を行った領域(制限酵素AgeI-SpeI断片)をグレーで示した。変異導入部位を星印で示した。
図6】野生型JFH1wt及びその変異体の感染性を比較した結果を示す。WTはJFH1wt、A/WTはJFH1-A/WT、B/WTはJFH1-B/WT、Mut5はJFH1-mut5を表す(本願明細書及び図面の他の部分でも同様)。A:トランスフェクション後の細胞内Coreタンパク質量の比較、B:培養上清中に放出されたCoreタンパク質量の比較、C:培養上清についての感染価の比較、D:比活性(相対比感染価;比活性=(培養上清における感染価)/(培養上清中のCoreタンパク質量))の比較。A〜Cの棒グラフは、左から右への順番で、それぞれ24時間後(24h)、48時間後(48h)、72時間後(72h)、及び96時間後(96h)のデータを示す。
図7】野生型JFH1wt及びその変異体の長期培養(長期感染)における感染価の経時的変化を示す。*:JFH1a、白三角:JFH1-B/WT、バツ印(cross mark):JFH1-Mut5、四角:JFH1-A/WT、ひし形:JFH1wt。
図8】野生型JFH1wt及びその変異体の細胞感染の72時間後に形成されるフォーカスのサイズを示す写真である。染色部分がフォーカスである。フォーカスのサイズが感染伝播力を示している。A:JFH1-A/WT、B:JFH1-B/WT、C:JFH1a、D:JFH1-Mut5、E:JFH1wt。
図9】JFH1-B/WTの6ヶ所のアミノ酸変異のうち1ヶ所のみ野生型のアミノ酸に戻した6種類の変異体のHCV全長ゲノム(前駆体ポリプロテインコード領域及び非翻訳領域)の構造図を示す。星印は、JFH1-B/WTのアミノ酸変異を保持する部位を示す。
図10】JFH1-B/WTの6ヶ所に見られるアミノ酸変異を1つずつ野生型JFH1wtに導入した6種類の変異体のHCV全長ゲノム(前駆体ポリプロテインコード領域及び非翻訳領域)の構造図を示す。星印は、JFH1-B/WT由来のアミノ酸変異を導入した部位を示す。
図11図9に示す変異体HCV(クローン)の感染価、及びウイルス生産量を示す。A:各変異体の培養上清における感染価を示し、これは感染性ウイルス粒子の細胞外放出レベルを表している。B:各変異体の培養上清中に放出された、細胞外Coreタンパク質量を示す。C:比活性(相対比感染価;比活性=(培養上清における感染価)/(培養上清中のCoreタンパク質量))を示し、WTの比活性を1としたときの値を示す。31-、74-、451-、756-、786-、862-、451+、WT及びB/WTは、それぞれ31-(A31V)、74-(T74K)、451-(R451G)、756-(A756V)、786-(A786V)、862-(R862Q)、451+(G451R)、JFH1wt及びJFH1-B/WTを表す(本願明細書及び図面の他の部分でも同様)。
図12図10に示す変異体HCV(クローン)の感染価、及びウイルス生産量を示す。A:各変異体の培養上清における感染価を示し、これは感染性ウイルス粒子の細胞外放出レベルを表している。B:各変異体の培養上清中に放出された、細胞外Coreタンパク質量を示す。C:比活性(相対比感染価;比活性=(培養上清における感染価)/(培養上清中のCoreタンパク質量))を示し、WTの比活性を1としたときの値を示す。31+、74+、451+、756+、786+、862+、WT及びB/WTは、それぞれ31+(V31A)、74+(K74T)、451+(G451R)、756+(V756A)、786+(V786A)、862+(Q862R)、JFH1wt及びJFH1-B/WTを表す(本願明細書及び図面の他の部分でも同様)。
図13図9に示す変異体HCV(クローン)の長期培養(長期感染)における細胞外Coreタンパク質量及び感染価の経時的変化を示す。これは各クローンの長期感染における増殖曲線をも示している。A:各変異体の培養上清中の細胞外Coreタンパク質量を示す。B:各変異体の培養上清における感染価を示す。
図14図10に示す変異体HCV(クローン)の長期培養(長期感染)における細胞外Coreタンパク質量及び感染価の経時的変化を示す。これは各クローンの長期感染における増殖曲線をも示している。A:各変異体の培養上清中の細胞外Coreタンパク質量を示す。B:各変異体の培養上清における感染価を示す。
図15】全長ゲノムHCV配列にレポーター遺伝子を組み込んだレプリコンの構造図を示す。レポーター遺伝子(Rluc)は、レプリコンの前駆体ポリプロテインコード領域(Core〜NS5B)内のアミノ酸2394位と2395位の間に挿入されている。
図16】レポーター遺伝子を組み込んだ野生型JFH1wt-Rluc、変異体JFH1-A/WT-Rluc及びJFH1-B/WT-Rlucの培養上清における感染価を示す。図中、WTはJFH1wtを表し、WT-Rluc、A/WT-Rluc及びB/WT-Rlucは、JFH1wt、JFH1-A/WT及びJFH1-B/WTにRluc遺伝子をそれぞれ組み込んだJFH1wt-Rluc、JFH1-A/WT-Rluc及びJFH1-B/WT-Rlucを表す(図18においても同じ)。
図17】Huh7.5.1細胞にJFH-A/WT-Rluc(図17A)及びJFH-B/WT-Rluc(図17B)を100FFU、50FFU、25FFU、12FFU、6FFU、3FFU及び0FFUで感染させ、72時間後のルシフェラーゼの活性を測定した結果、ウイルス量に依存したルシフェラーゼ活性が検出されたことを示す。
図18】JFH1-A/WT-Rluc及びJFH1-B/WT-Rlucウイルスの培養細胞感染増殖系を用いて、インターフェロン(IFN)の抗HCV作用を検討した結果を示す。Aの縦軸は、IFN-α無添加のルシフェラーゼ活性を100%としたときの阻害率(%)を示し、Bの縦軸は、IFN-α無添加の感染価を100%としたときの感染阻害率(%)を示している。IFN-αの用量(濃度)は、左から順に100 U/mL(白のバー)、20、4、1、0 U/mLである。A:ルシフェラーゼアッセイによるインターフェロン存在下でのルシフェラーゼ活性(RLU)の阻害率。B:インターフェロン存在下での感染価(FFU/mL)の阻害率。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者らは、JFH1株のHCV全長レプリコン複製系で2年間の長期間培養を行い、それらの培養細胞から、ウイルス粒子の増殖能力が向上した適応変異体をスクリーニングすることで、JFH1ウイルス高生産株を見出し、さらにレポーター遺伝子を発現する全長HCVゲノムを持つ高感染性ウイルス粒子を作製し、本発明を完成するに至った。
【0034】
本発明は、HCVの全長ゲノム配列を含み、持続的に全長ゲノム配列を複製し、感染性ウイルス粒子を産生するHuh7細胞から単離されうる高生産性HCV JFH1変異体に関する。
【0035】
本発明は、当該分野の技術の範囲内にある分子生物学及びウイルス学の従来技術を用いて実施できる。このような技術は文献に十分に説明されている。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (第3版, 2001)、 Mahyら、Virology: a practical approach(1985,IRL PRESS)を参照のこと。
【0036】
本明細書中に引用されている全ての刊行物、特許及び特許出願は、その全体が本明細書に引用により援用される。
【0037】
(1)HCV JFH1ゲノム配列由来の変異体核酸
本発明は、HCV JFH1の変異体であってそのウイルス粒子生産能を顕著に向上させる適応変異がゲノム中に導入された変異体ウイルスの、ゲノム配列を有する核酸に関する。本発明に係る核酸は、好ましくはHCV全長ゲノム配列を含む。
【0038】
本発明に係る核酸は、より具体的には、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテイン(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる前駆体ポリプロテイン)にアミノ酸変異が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸であり、さらに具体的には、前駆体ポリプロテインのCoreからNS2までの領域に1以上のアミノ酸置換を含むC型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸である。
【0039】
本発明に係る核酸にコードされる前駆体ポリプロテインは、HCVの構造タンパク質と非構造タンパク質とを含む。HCVの構造タンパク質は、Core、E1、E2及びp7であり、これらはHCVのウイルス粒子部分を構成する。Coreはコアタンパク質であり、E1及びE2はエンベロープタンパク質であり、p7は宿主細胞の膜上で働くイオンチャネルを形成するタンパク質である。HCVの非構造タンパク質は、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5Bであり、これらはウイルスゲノムの複製やHCVタンパク質のプロセシングに関与する活性を有する酵素タンパク質である。HCVには各種遺伝子型が知られているが、各種遺伝子型のHCVのゲノムが同様の遺伝子構造(例えば、図1を参照されたい)を有することが知られている。本発明に係る核酸によりコードされる前駆体ポリプロテインは、Core、E1、E2、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5Bタンパク質部分を、N末端からC末端へこの順番で含むことが好ましい。本発明に係る核酸によりコードされる前駆体ポリプロテインは、選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質をさらに含んでもよい。
【0040】
本発明に係る核酸に含まれる全長ゲノム配列は、5'末端に5'非翻訳領域、その3'側に前駆体ポリプロテインコード領域、その3'側かつ3'末端に3'非翻訳領域を含む。全長ゲノム配列は、5’側から3’側に順番に、5’非翻訳領域、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、NS2タンパク質コード配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’非翻訳領域からなるものであってよい。
【0041】
HCVの5'非翻訳領域(5'UTR又は5'NTRとも呼称する)は、タンパク質翻訳のための内部リボソーム結合部位(IRES)及び複製に必要なエレメントを提供している、全長HCVゲノムのN末端から約340ヌクレオチドの領域である。
【0042】
HCVの3'非翻訳領域(3'UTR又は3'NTRとも呼称する)は、HCVの複製を補助する機能を有し、ポリU領域に加えて約100ヌクレオチドの追加領域を含んでいる。
【0043】
本発明において「レプリコンRNA」とは、細胞内で自己複製(自律複製)する能力を有するRNAをいう。細胞に導入されたレプリコンRNAは、自己複製し、そのRNAコピーが細胞分裂後に娘細胞に分配されるため、レプリコンRNAを用いれば外来遺伝子の細胞への安定的な導入が可能である。本発明に係る核酸は、5'末端に5'非翻訳領域、その3'側に前駆体ポリプロテインコード領域、その3'側かつ3'末端に3'非翻訳領域を含む全長ゲノム配列からなるRNA(全長ゲノムRNA)である場合には、レプリコンRNAである。
【0044】
本発明において「核酸」には、RNA及びDNAを含むものとする。また本明細書では「タンパク質コード領域」「タンパク質をコードする配列」とは、所定のタンパク質のアミノ酸配列をコードし、開始コドン及び終止コドンは含んでも含まなくてもよい塩基配列をいう。「前駆体ポリプロテインコード領域」「前駆体ポリプロテインをコードする配列」も同様に理解される。
【0045】
本明細書において、核酸がRNAである場合に配列表の配列番号を引用してRNAの塩基配列又は塩基を特定するときは、その配列番号に示される塩基配列中のT(チミン)はU(ウラシル)に読み替えるものとする。
【0046】
本明細書において、「配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第“Y”番目のアミノ酸」とは、そのアミノ酸が、配列番号2に示されるアミノ酸配列においてN末端の第1アミノ酸(メチオニン)を第1番目としたときに第“Y”番目に位置するアミノ酸残基、又は配列番号2の配列とアラインメントした他のアミノ酸配列において配列番号2の第“Y”番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸であることを意味する。
【0047】
本発明において、C型肝炎ウイルスのJFH1株とは、Wakitaらによって劇症肝炎患者より単離された遺伝子型2aに属するHCV株である(例えば、WO 2005/080575)。HCVの「遺伝子型」とはSimmondsらによる国際分類に従って分類される遺伝子型を意味する。C型肝炎ウイルスのJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列は、好ましくは、GenBank Accession No. AB047639に開示された全長ゲノム配列によってコードされた配列(配列番号2)である。JFH1株の全長ゲノム配列は、好ましくは、GenBank Accession No. AB047639に開示された塩基配列(配列番号1)である。
【0048】
本発明に係る核酸は、好ましい態様では、1以上のアミノ酸置換を含むC型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸であって、上記1以上のアミノ酸置換が配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンの少なくとも1つのアルギニンへの置換を含むものである。すなわち、本発明に係る核酸は、1以上のアミノ酸置換を含むC型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸であって、上記前駆体ポリプロテインが、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンがアルギニンに置換されていることを特徴とする核酸であることが好ましい。この核酸は、5'末端に5'非翻訳領域、その3'側に前駆体ポリプロテインコード領域、その3'側かつ3'末端に3'非翻訳領域を含むことがより好ましい。この前駆体ポリプロテインコード配列は、選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質をコードする塩基配列をさらに含んでもよい。
【0049】
この前駆体ポリプロテインに導入されている1以上のアミノ酸置換は、上記の第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q862R)を少なくとも含むが、さらに、以下の(1)-(13):
(1) 第31番目のバリンのアラニンへの置換(V31A)、
(2) 第74番目のリジンのスレオニンへの置換(K74T)、
(3) 第297番目のチロシンのヒスチジンへの置換(Y297H)、
(4) 第330番目のアラニンのスレオニンへの置換(A330T)、
(5) 第395番目のセリンのプロリンへの置換(S395P)、
(6) 第417番目のアスパラギンのセリンへの置換(N417S)、
(7) 第451番目のグリシンのアルギニンへの置換(G451R)、
(8) 第483番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換(D483G)、
(9) 第501番目のアラニンのスレオニンへの置換(A501T)、
(10) 第756番目のバリンのアラニンへの置換(V756A)、
(11) 第786番目のバリンのアラニンへの置換(V786A)、
(12) 第931番目のグルタミンのアルギニンへの置換(Q931R)、及び
(13) 第961番目のセリンのアラニンへの置換(S961A)、
のうち1以上のアミノ酸置換を追加的に含むことも好ましい。
【0050】
本明細書において、例えばアミノ酸変異Q862Rは、第862番目のアミノ酸残基がQ(グルタミン)からR(アルギニン)に置換される変異を意味する。他のアミノ酸変異を示す表記も同様に理解される。なお、ここではアミノ酸は、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Edition, 1989)によって記載されている。
【0051】
本明細書においては、アミノ酸又はアミノ酸残基を、生物学分野で通常用いられるアミノ酸の1文字表記又は3文字表記で記載し、それは水酸化、糖鎖付加、硫酸化等の翻訳後修飾を受けたアミノ酸も包含するものとする。
【0052】
本発明に係る核酸を用いれば、ウイルス粒子生産能が顕著に向上したJFH1変異体ウイルスを生産可能なレプリコンRNAを作製することができる。
【0053】
本発明に係る核酸の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンのスレオニンへの置換、第297番目のチロシンのヒスチジンへの置換、第330番目のアラニンのスレオニンへの置換、第395番目のセリンのプロリンへの置換、第417番目のアスパラギンのセリンへの置換、第483番目のアスパラギン酸のグリシンへの置換、第501番目のアラニンのスレオニンへの置換、第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換、第931番目のグルタミンのアルギニンへの置換、及び第961番目のセリンのアラニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。この核酸の好ましい例を配列番号3に示す。
【0054】
本発明に係る核酸の別の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンのアラニンへの置換、第74番目のリジンのスレオニンへの置換、第451番目のグリシンのアルギニンへの置換、第756番目のバリンのアラニンへの置換、第786番目のバリンのアラニンへの置換、そして第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。この核酸の好ましい例を配列番号4に示す。
【0055】
本発明に係る核酸の別の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。この核酸の好ましい例を配列番号5に示す。
【0056】
本発明に係る核酸の別の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第74番目のリジンのスレオニンへの置換、第451番目のグリシンのアルギニンへの置換、第756番目のバリンのアラニンへの置換、第786番目のバリンのアラニンへの置換、第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。
【0057】
本発明に係る核酸の別の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンのアラニンへの置換、第74番目のリジンのスレオニンへの置換、第451番目のグリシンのアルギニンへの置換、第786番目のバリンのアラニンへの置換、第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。
【0058】
本発明に係る核酸の別の好適例としては、C型肝炎ウイルスJFH1株の前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列)に、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第31番目のバリンのアラニンへの置換、第74番目のリジンのスレオニンへの置換、第451番目のグリシンのアルギニンへの置換、第756番目のバリンのアラニンへの置換、第862番目のグルタミンのアルギニンへの置換が導入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸が挙げられる。
【0059】
これら核酸は、レプリコンRNA として機能するために、5'末端に5'非翻訳領域、その3'側に前駆体ポリプロテインコード領域、その3'側かつ3'末端に3'非翻訳領域を含むことがより好ましい。
【0060】
以上のような本発明に係る核酸であるレプリコンRNA、又はその核酸から作製されるレプリコンRNA、特に全長ゲノムレプリコンRNA(全長ゲノムHCV RNA)は、野生型JFH1株のレプリコンRNAと比較して、顕著に向上したウイルス生産能を有する。本明細書においてウイルス生産能とは、好ましくは培養細胞系における、ウイルス粒子生産能(好ましくは感染性ウイルス粒子生産能)である。本発明に係る核酸又はその核酸から作製されるレプリコンRNAは、例えば、野生型JFH1株の全長ゲノムレプリコンRNAと比較して、2倍以上、好ましくは10倍以上、典型的には10倍〜10,000倍、例えば10倍〜1,000倍のウイルス生産能を有する。本発明に係る核酸である全長ゲノムレプリコンRNAはまた、配列番号2に示されるアミノ酸配列の第2440番目のバリンがロイシンに置換された前駆体ポリプロテインをコードするJFH1株由来の全長ゲノムレプリコンRNAと比較して、2倍以上、好ましくは10倍以上のウイルス生産能を有する。野生型JFH1株の全長ゲノム配列を、配列番号1に示す。配列番号2に示される配列は、配列番号1に示される野生型JFH1株の全長ゲノム配列によってコードされる前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列である。
【0061】
ウイルス生産能は、培養上清についての感染価を測定することにより決定することができる。感染価の測定は、任意の方法で行うことができるが、本明細書ではフォーカス法で培養上清について測定される感染価を基準とする。具体的には後述の実施例に記載の方法によって感染価を決定すればよい。
【0062】
本発明に係る核酸又はその核酸から作製されるレプリコンRNAは、高いウイルス粒子形成効率を示す。この性質も、ウイルスワクチン製造等のために必要なウイルスタンパク質の大量生産にとって有利である。このウイルス粒子形成効率は、比活性(=(培養上清における感染価)/(培養上清中のCoreタンパク質量);相対比感染価)を算出し、その値を指標とすることもできる。具体的には後述の実施例に記載の方法によって比活性を決定すればよい。
【0063】
本発明に係る核酸のうち、配列番号3〜5に示される塩基配列からなる核酸(全長ゲノムレプリコンRNA)は、ウイルス生産能の点で特に優れている。また、JFH1株の5'非翻訳領域と、配列番号3〜5に示される塩基配列によってコードされる変異型前駆体ポリプロテインをコードする配列と、JFH1株の3'非翻訳領域とからなる全長ゲノム配列を含む核酸(全長ゲノムレプリコンRNA)も、高いウイルス生産能を有する。
【0064】
本発明に係る核酸は、選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質をコードする塩基配列、例えばマーカー遺伝子、を含んでもよい。マーカー遺伝子は、その遺伝子が発現された細胞だけが選択されるような選択性を細胞に付与することができる選択マーカー遺伝子(選択マーカータンパク質をコードする塩基配列)と、その遺伝子発現の指標となる遺伝子産物をコードするレポーター遺伝子(レポータータンパク質をコードする塩基配列)とを包含する。本発明において好適な選択マーカー遺伝子の例としては、限定するものではないが、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ピリチアミン耐性遺伝子、アデニリルトランスフェラーゼ遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。本発明において好適なレポーター遺伝子の例としては、限定するものではないが、トランスポゾンTn9由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、大腸菌由来のβグルクロニダーゼ若しくはβガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クラゲ由来のイクリオン遺伝子、分泌型胎盤アルカリフォスファターゼ(SEAP)遺伝子等が挙げられる。
【0065】
本発明に係る核酸は、前駆体ポリプロテインコード領域内に、選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質をコードする塩基配列、例えばマーカー遺伝子、を含んでもよい。この場合、前駆体ポリプロテイン内に挿入される選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質は、限定されるものではないが、レポータータンパク質が好ましく、ルシフェラーゼがより好ましく、ウミシイタケルシフェラーゼがさらに好ましい。ウミシイタケルシフェラーゼをコードする遺伝子の塩基配列の例を配列番号9に示す。
【0066】
このウミシイタケルシフェラーゼを始めとする選択マーカータンパク質又はレポータータンパク質などの異種タンパク質(好ましくはレポータータンパク質、より好ましくはルシフェラーゼ)は、前駆体ポリプロテイン内に挿入される場合、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中に挿入されることが好ましい。具体的には、異種タンパク質は、前駆体ポリプロテイン内に挿入される場合、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目のアミノ酸残基と第2395番目のアミノ酸残基との間、第2395番目のアミノ酸残基と第2396番目のアミノ酸残基との間、又は第2396番目のアミノ酸残基と第2397番目のアミノ酸残基との間のいずれに挿入されてもよい。なお本発明において「異種タンパク質が配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中に挿入される(又は組み込まれる)」とは、その異種タンパク質をコードするDNA断片の実際の挿入部位にかかわらず、異種タンパク質を含むアミノ酸配列が挿入されたポリペプチドのアミノ酸配列と配列番号2のアミノ酸配列とのアラインメントにおいて、異種タンパク質を含むアミノ酸配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸残基からなる配列中のいずれかの位置に追加されていることを意味する。例えば異種タンパク質をコードするORFを含みその5'側及び3'側にXhoI認識部位(5'-CTCGAG-3')を含むDNA断片をXhoIで切断して、配列番号2のアミノ酸配列をコードするDNAのAbsI認識部位(5'-CCTCGAGG-3')に導入する場合、AbsI認識部位に相当する配列番号2の第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列(Pro-Leu-Glu-Gly)内に、XhoI認識部位に相当するアミノ酸配列Leu-Gluで始まるアミノ酸配列からなる異種タンパク質が組み込まれることになる。この場合の異種タンパク質の実際の挿入部位は、配列番号2の第2394番目のアミノ酸残基(Pro)と第2395番目のアミノ酸残基(Leu)との間の位置でありうるが、第2395番目のアミノ酸残基(Leu)と第2396番目のアミノ酸残基(Glu)との間、又は第2396番目のアミノ酸残基(Glu)と第2397番目のアミノ酸残基(Gly)との間の位置として規定することも可能であり、実際の挿入位置を厳密に特定することは適当でない。しかしこの場合も、配列番号2の第2394番目〜2397番目のアミノ酸配列中のいずれかの位置に異種タンパク質を含む追加的なアミノ酸配列が存在することが明らかであるため、当該異種タンパク質は同第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中に挿入され(又は組み込まれ)ているものとする。
【0067】
このようにして異種タンパク質が挿入された前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む全長ゲノム核酸を有するウイルス粒子は、野生型JFH1株のウイルス粒子と比較して、感染性(感染価)が5倍以上、好ましくは10倍又はそれ以上高い。異種タンパク質が配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中(第2394番目のアミノ酸残基と第2395番目のアミノ酸残基との間と規定することもできる)に挿入された前駆体ポリプロテインをコードするHCV全長ゲノム配列の好ましい例として、配列番号6及び7が挙げられる。
【0068】
本発明に係る核酸は、IRES配列をさらに含むことも好ましい。本発明における「IRES配列」とは、RNAの内部にリボソームを結合させて翻訳を開始させることが可能な内部リボソーム結合部位を意味する。本発明におけるIRES配列の好適な例としては、以下に限定するものではないがEMCV IRES(脳心筋炎ウイルスの内部リボゾーム結合部位)、FMDV IRES、HCV IRES等が挙げられる。IRES配列を含む場合は、HCVゲノム配列の5'非翻訳領域(5’NTR)とCoreタンパク質をコードする核酸配列の間に、レポーター遺伝子(レポータータンパク質をコードする核酸配列)、次いでIRES配列の順に挿入するのが好ましい。
【0069】
本発明に係る核酸は、上記の1以上のアミノ酸置換を引き起こす塩基置換を、HCV JFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸に当業者に公知の遺伝子工学的技術を用いて導入することにより作製することができる。HCV JFH1株の前駆体ポリプロテインをコードする配列を含む核酸は、限定するものではないが、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含むDNA、又はそれを含む組換えベクター(例えば組換えプラスミドベクター)であってよい。
【0070】
上記アミノ酸置換を引き起こす塩基置換は、生物学分野で周知の遺伝暗号表に基づいて置換先のアミノ酸のコドンと置換前のアミノ酸のコドンとを比較すれば、容易に特定することができる。
【0071】
本発明は、本発明に係る核酸を含むベクターも提供する。本発明に係る核酸を含むベクターは、組換えベクターであってよいが、発現ベクターであることがより好ましい。本発明に係る核酸はベクター中の転写プロモーターの下流に挿入されることが好ましい。本発明に係る核酸は、転写プロモーターに機能的に連結されることにより、転写プロモーターの制御下に組み込まれる。転写プロモーターとしては、限定するものではないが、T7プロモーター、SP6プロモーター、T3プロモーターなどが挙げられるが、T7プロモーターが特に好ましい。ベクターとしては、限定するものではないが、pUC19(TaKaRa社)、pBR322(TaKaRa社)、pGEM-T、pGEM-T Easy、pGEM-3Z(いずれもPromega社)、pSP72(Promega社)、pCRII(Invitrogen社)、pT7Blue(Novagen社)などを使用することができる。発現ベクターからのHCVレプリコンRNAの合成は、例えば、MEGAscript T7キット(Ambion社)などを用いて行うことができる。作製したHCVレプリコンRNAは、当業者には周知のRNA抽出法や精製法等により抽出、精製してもよい。
【0072】
(2)感染性HCV粒子生産細胞の作製
本発明は、(1)に記載された本発明に係る変異体核酸を用いて生産されるHCV粒子にも関する。このHCV粒子は、感染性ウイルス粒子であることが好ましい。
【0073】
本発明に係るHCV粒子(好ましくは感染性HCV粒子)は、上記(1)の核酸を含む全長ゲノムRNAを、細胞に導入し、培養することで作製することができる。すなわち本発明は、上記(1)に記載の本発明に係る核酸を含むHCV粒子も提供する。
【0074】
RNAを導入する細胞はHCV粒子形成を許容する細胞であれば良く、好ましくは培養細胞である。このような細胞としては、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞等又はそれらの派生株のような培養細胞が挙げられる。より好ましい例としてはHuh7細胞等の肝由来培養細胞が挙げられ、さらに好適にはHuh7細胞、及びHuh7細胞の派生株(例えばHuh7.5細胞、Huh7.5.1細胞等)が挙げられる。また、Huh7細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞又は293細胞にCD81遺伝子及び/又はClaudin1遺伝子を発現させた細胞も挙げることができるが、中でもHuh7細胞又はHuh7細胞の派生株が好適に使用される。本発明において「派生株」とは、当該細胞から誘導された細胞株をいい、一般的には当該細胞のサブクローン株である。
【0075】
RNAを細胞に導入する方法として、公知の任意の方法を用いることができる。そのような方法としては、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられるが、好適にはリポフェクション法及びエレクトロポレーション法が、さらに好適にはエレクトロポレーション法が挙げられる。
【0076】
細胞のウイルス粒子生産能は、培養液中に放出されたHCV粒子を構成する要素(例えば、Coreタンパク質、E1タンパク質又はE2タンパク質)に対する抗体を用いて検出することもできる。また、培養液中のHCV粒子が含有するHCVゲノムRNAを、特異的プライマーを用いたRT-PCR法により増幅して検出することによって、HCV粒子の存在を間接的に検出することもできる。
【0077】
作製されたウイルスが感染能を有しているか否かは、HCV RNAを上記のような方法で導入した細胞を培養して得られた上清を、HCV許容性細胞(例えばHuh7)に処理(添加)して、例えば48時間後に細胞を抗Core抗体で免疫染色して感染細胞数を数えるか、細胞の抽出物をSDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、ウエスタンブロットにて、Core(コア)タンパク質を検出することで判断できる。なお、JFH1株のゲノムRNAが導入された細胞から生成される感染性HCV粒子を、ここではJFH1ウイルスとも呼称する。
【0078】
上記のようにして作製された、全長ゲノムRNAが導入された細胞を定期的に継代培養することで、感染性HCV粒子を持続的に産生する細胞を得ることができる。このような細胞株は長期間培養することが可能である。感染性HCV粒子を持続的に産生する長期間培養可能な細胞は、HCVワクチンに必要なHCV粒子を持続的に生産できる点で優れている。
【0079】
本発明は、上記のようにして作製されたJFH1変異体のHCV粒子を生産する細胞、好ましくは培養細胞にも関する。
【0080】
(3)適応変異の解析
上記(2)により作製したHCV粒子を持続的に生産する細胞株を継代培養し続けることで、HCVゲノムに適応変異が起こり、HCV粒子生産が著しく向上することが期待された。通常、継代は十数回(1〜2ヶ月)行うが、本発明では、適応変異の導入のため、1年間、更に好ましくは2年間継代培養し続けた。
【0081】
なお、適応変異の組み合わせによってはRNA複製の効率が200 倍以上になったり、逆に1/5 以下に抑制されてしまったりすることも示されており、適応変異の数を単に増やせばよいというわけではなく複雑な様相を呈している(Lohmann V et al. J Virol 77: 3007-3019, 2003.)。また、HCV株が違うと適応変異の効果も異なってくることから、適応変異がどのような理由によりHCV ゲノムの複製効率に影響を与えているかの詳細は分かっていない。(1)の本発明に係る核酸は、この適応変異の導入により得られた適応変異体であり得る。
【0082】
(4)HCV粒子の利用
(2)で得られたHCV粒子はワクチンとしての用途、抗HCV抗体作製のための抗原としての用途に好適である。
【0083】
具体的には、HCV粒子をそのままワクチンとして使用することもできるが、当該分野で既知の方法により弱毒化又は不活化して用いることができる。ウイルスの不活化は、ホルマリン、β−プロピオラクトン、グルタルジアルデヒド等の不活化剤を、例えば、ウイルス浮遊液に添加混合し、ウイルスと反応させることにより達成することができる(Appaiahgari, M. B. & Vrati, S., Vaccine, 22:3669-3675, 2004)。従って本発明は、(2)で得られたHCV粒子を不活化して得られる、HCVワクチンにも関する。
【0084】
本発明に係るワクチンは、通常は溶液又は懸濁液のいずれかの形態で、投与可能に調製される。本発明に係るワクチンはまた、液体中の溶解又は懸濁に適した固形物の形態で調製してもよい。調製物は乳濁液として調製され、又はリポソーム中にカプセル化され得る。HCV粒子などの活性免疫原性成分は、薬学的に受容可能であって活性成分に適合した賦形剤としばしば混合される。適切な賦形剤には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの混合物がある。さらに、所望であれば、ワクチンは、少量の補助剤(例えば加湿剤又は乳化剤)、pH緩衝剤、及び/又はワクチンの効能を高める1以上のアジュバントを含有し得る。
【0085】
アジュバントは、該免疫系の非特異的刺激因子である。それらは、HCVワクチンに対する宿主の免疫応答を増強する。有効であり得るアジュバントの例は、限定されないが、以下を包含する。水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP11637、nor−MDPと称せられる)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP19835A、MTP−PEと称せられる)、及びRIBI。RIBIは、バクテリアから抽出した3成分、すなわちモノホスホリルリピドA、トレハロースジミコレート、及び細胞壁骨格(HPL+TDM+CWS)を2%スクアレン/Tween(登録商標)80エマルジョン中に含有している。アジュバントの効能は、HCV粒子から構成されるワクチンを投与することにより生じる、抗体の量を測定することにより決定され得る。
【0086】
本発明に係るワクチンは、通常非経口的に、例えば皮下注射又は筋内注射等の注射により投与される。他の投与態様に適切な別の剤形としては、坐薬、及び場合により経口処方薬が挙げられる。
【0087】
例えば、皮下、皮内、筋肉内、静脈内に投与する注射剤において、本発明のHCVワクチンと医薬上許容される担体又は希釈剤の他の具体例には、安定化剤、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、グルコース、デキストラン)、アルブミン又はカゼインなどのタンパク質、ウシ血清又は脱脂乳などのタンパク質含有物質、及びバッファー(例えば、リン酸バッファー)などともに投与することができる。
【0088】
坐薬に使用される従来の結合剤及び担体には、例えば、ポリアルキレングリコール又はトリグリセリドが含まれ得る。このような坐薬は、活性成分を0.5%から50%までの範囲で、好ましくは1%から20%までの範囲で含有する混合物から形成され得る。経口処方薬は、通常用いられる賦形剤を含有する。この賦形剤としては、例えば、薬学的なグレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0089】
本発明のワクチンは、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出処方剤、又は粉末剤の形態をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性成分(ウイルス粒子又はその一部分)を含有する。
【0090】
本発明のワクチンは、投与剤形に適した方法で、そして予防及び/又は治療効果があるような量で投与される。投与されるべき量は、通常投与当たり抗原を0.01μgから100,000μgまでの範囲であり、これは、処置される患者、その患者の免疫系での抗体合成能、及び所望の防御の程度に依存し、経口、皮下、皮内、筋肉内、静脈内投与経路などの投与経路にも依存する。
【0091】
本発明ワクチンは、単独投与スケジュールで、又は好ましくは複合投与スケジュールで与えられ得る。複合投与スケジュールでは、接種の開始時期に1〜10の個別の投与を行い、続いて免疫応答を維持する及び/又は強化するのに必要とされる時間間隔で、例えば2回目の投与として1〜4ヵ月後に、別の投与を行い得る。必要であれば、数ヶ月後に引続き投与を行い得る。投与のレジメもまた、少なくとも部分的には、個体の必要性により決定され、医師の判断に依存する。
【0092】
さらに、本発明のHCV粒子を含有するワクチンは、他の免疫制御剤(例えば、免疫グロブリン)と共に投与され得る。
【0093】
さらに本発明のワクチンは、健常人に投与し、健常人にHCVに対する免疫応答を誘導し、新たなHCV感染に対し、予防的に使用する方法がある。更に、HCVに感染した患者に投与し、生体内にHCVに対する強い免疫反応を誘導することにより、HCVを排除する治療的ワクチンとしての使用方法がある。
【0094】
本発明のHCV粒子は、抗体作製のための抗原として有用である。本発明のHCV粒子を哺乳類又は鳥類に投与することで抗体を作製することができる。哺乳類動物として、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、モルモット、ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマなどを挙げることができる。ヒトコブラクダ、フタコブラクダ及びラマはH鎖のみからなる抗体を作製するには好適である。鳥類動物としては、ニワトリ、ガチョウ、ダチョウなどを挙げることができる。本発明のHCV粒子を投与された動物の血清を採取して、既知の方法に従って抗体を取得することができる。
【0095】
本発明のHCV粒子を免疫した動物の細胞を用いてモノクローナル抗体産生細胞を産生するハイブリドーマを作製することができる。ハイブリドーマを製造する方法は周知であり、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に記載された方法を用いることができる。
【0096】
モノクローナル抗体産生細胞は、細胞融合により生成してもよく、また癌遺伝子DNAの導入やEpstein-Barrウイルスの感染によりBリンパ球を不死化させるような他の方法で生成してもよい。
【0097】
これらの方法によって得られたモノクローナル抗体やポリクローナル抗体はHCVの診断や治療、予防に有用である。従って本発明に係るHCV粒子を抗原として認識する抗HCV抗体も、本発明の範囲に含まれる。
【0098】
本発明のHCV粒子を用いて作製された抗体は、医薬上許容される、溶解剤、添加剤、安定剤、バッファーなどとともに投与される。投与経路はいずれの投与経路でもよいが、好ましくは、皮下、皮内、筋肉内投与であり、より好ましくは、静脈内投与が好ましい。
【0099】
(5)抗HCV薬のスクリーニングへの利用
HCV治療薬の開発を進めるにあたり、チンパンジー以外にウイルス感染を反映する有効な動物がないこと、効率的なin vitroウイルス培養系が存在しなかったことから、薬物の評価が十分に行うことができないことが障害となっていた。しかし、近年、HCV-RNAの複製を評価できるサブゲノムHCVレプリコンシステムが開発され(Lohmann, V. et al., Science, 285:110-113,1999)、ウイルス複製阻害に関するHCV阻害薬のスクリーニング系として重要な進歩を遂げた。
【0100】
しかしながら、上記サブゲノムHCVレプリコンシステムでは、HCV構造タンパク質の機能を評価できないという問題点を有していた。実際、HCV構造タンパク質の一つであるCoreタンパク質は、宿主の転写因子に影響を及ぼすことが知られている。従って、HCVに感染した細胞に起こる事象を評価する場合、サブゲノムHCVレプリコンシステムだけでは不十分である。サブゲノムHCVレプリコンシステムを用いたスクリーニングで選択された薬物では、十分にHCVの複製を阻害できない場合もあることが予想される。
【0101】
そこで、上記サブゲノムHCVレプリコンシステムの問題点を解決するために、HCV N株(遺伝子型1b)、HCV Con-1(遺伝子型1b)、HCV H77株(遺伝子型1a)を用いて全長ゲノムHCVレプリコンシステムが開発された(Ikeda, M et al., J. Virol., 76: 2997-3006, 2002、Pietschmann, T et al., J. Virol.76: 4008-4021, 2002、Blight,KJ et al., J. Virol. 77: 3181-3190,2003)。しかしながら、これらのHCV株の構造タンパク質を含めた全長RNAを細胞に導入しても、培養液中へのウイルス粒子の放出は認められなかった(Blight, KJ. et al., J. Virol. 77:3181-3190,2003)。そのため、この全長ゲノムHCVレプリコンシステムでは、ウイルスの放出、感染の過程に作用する治療薬をスクリーニングできない問題点が生じた。
【0102】
HCVレプリコンを用いた抗HCV薬のスクリーニングでは、被検物質の存在下で感染性HCV粒子とHCV感染許容細胞、例えばHuh7細胞を培養し、HCVの複製及び/又は粒子生産を測定することで被検物質の抗HCV効果を評価する。HCVの複製及び粒子生産をモニターするためには、HCVゲノム量をPCRやノーザンブロット法にて測定するか、Coreタンパク質又は非構造タンパク質(例えばNS3タンパク質)をEIA法や細胞免疫染色により検出測定する(Aoyagi, K. et al., J. Clin. Microbiol., 37:1802-1808, 1999)必要がある。しかし、これらの測定法の操作は煩雑で、ハイスループット化が難しく、コストがかさむことから、抗HCV薬のスクリーニングには、簡便で安価な評価方法が望まれている。そのため、全長ゲノムHCVにレポーター遺伝子を組み込んだレプリコンを作製し、そのレプリコンが自己複製して、そのゲノム中のレポーター遺伝子から翻訳されるレポータータンパク質をモニターする方法が考案された。例として、JFH1、J6CF/JFH1(Jc-1)及びCon1/JFH1の5’NTRとCoreタンパク質をコードする遺伝子の間にレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子とEMCV IRES を挿入したベクター、Luc-JFH1、Luc-Jc1及びLuc-Con1が作製され、その機能が調べられている(Koutsoudakis, G., et al. J. Virol. 80: 5308-5320, 2006)。これらのレポーター選択的全長ゲノムHCVレプリコンを持つウイルスを作製し、Huh7細胞に感染させると、感染細胞では、レポーター遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子が発現し、ルシフェラーゼが合成される。従って、ルシフェラーゼ活性を測定することで感染の効果を測定できるため、HCVのゲノム量やタンパク質を測定する手間が省け、非常に便利である。
【0103】
しかし、レポーター遺伝子等の外来遺伝子の挿入は、ゲノム長が増加するために複製効率が大幅に低下しやすい。実際、Luc-JFH1はJFH1と比較して、その複製能は5倍低く、さらに感染価も3〜10倍低い結果となっており(Koutsoudakis, G., et al. J. Virol. 80: 5308-5320, 2006)、レポーター遺伝子を発現する全長HCVゲノムを持つウイルス粒子をスクリーニングに使用するには、さらに高感染価のHCVウイルスを開発する必要があることが望まれている。
【0104】
これに対し本発明では、レポーター遺伝子を導入しつつも高い複製能を保持したJFH1変異体由来の全長ゲノムレプリコンの作製に成功した。この本発明に係る全長ゲノムレプリコンを用いることにより、効率的なスクリーニング方法を提供できる。このようなスクリーニング方法も本発明の範囲に含まれる。
【0105】
このスクリーニングには、上述の、前駆体ポリプロテインコード配列内、特に配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中(例えば配列番号2に示されるアミノ酸配列を基準とした場合における第2394番目のアミノ酸残基と第2395番目のアミノ酸残基との間)に相当する位置に、マーカー遺伝子が挿入された全長ゲノム配列を有するHCV RNA(全長ゲノムレプリコンRNA)を有利に使用できる。マーカー遺伝子としては、レポータータンパク質が好ましい。
【0106】
この本発明に係るスクリーニングに好適に用いられる、レポータータンパク質コード配列を組み込んだJFH1変異体由来の全長ゲノムレプリコンの構造は、5’側から3’側に順番に、本発明のJFH1適応変異体の5’非翻訳領域、レポータータンパク質コード配列、EMCV(encephalomyocarditis virus)のIRES配列並びにJFH1適応変異体のCoreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、NS2タンパク質コード配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質コード配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’非翻訳領域からなる核酸でありうる。
【0107】
上記レプリコンのより好ましい構造は、5’側から3’側に順番に、本発明のJFH1適応変異体の5’非翻訳領域、Coreタンパク質コード配列、E1タンパク質コード配列、E2タンパク質コード配列、p7タンパク質コード配列、NS2タンパク質コード配列、NS3タンパク質コード配列、NS4Aタンパク質コード配列、NS4Bタンパク質コード配列、NS5Aタンパク質中にレポータータンパク質が機能的(インフレームで)に挿入されたタンパク質をコードする配列、NS5Bタンパク質コード配列及び3’非翻訳領域からなる核酸であり得る。
【0108】
本発明のJFH1適応変異体としては、上記(1)に記載の本発明に係る核酸を好適に使用することができる。
【0109】
特に好ましい上記レプリコンの構造は、HCV前駆体ポリプロテインのN末端から第2394番目〜第2397番目のアミノ酸配列中(例えば2394番目のアミノ酸残基と2395番目のアミノ酸残基の間)にレポータータンパク質が機能的に(インフレームで)挿入されたタンパク質をコードする核酸でありうる。
【0110】
レポータータンパク質としては、ルシフェラーゼ、分泌型アルカリフォスファターゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼとルシフェラーゼの融合タンパク質等が挙げられる。ルシフェラーゼがより好ましく、ウミシイタケルシフェラーゼがさらに好ましい。ウミシイタケルシフェラーゼをコードする遺伝子の塩基配列の一例を配列番号9に示す。
【0111】
上記全長ゲノムHCVにレポーター遺伝子を組み込んだレプリコンで特に好ましい配列は、配列番号6又は7に示される塩基配列からなる核酸であり、ただし該核酸がRNAの場合は塩基配列中の塩基記号「T」は「U」に読み替えるものとする。本発明の感染性HCV粒子の製造には、HCVゲノムRNA又はHCVゲノムDNAを使用することができる。これらのような全長ゲノムレプリコンHCV RNAを用いることにより、ルシフェラーゼ活性を指標とした高感度なHCV感染測定系を提供することができる。
【0112】
本発明に係る全長ゲノムHCV RNAにレポータータンパク質をコードする配列を組み込んだレプリコンを用いたスクリーニング方法は、例えば、上記のようにして当該レプリコンを培養細胞に導入してC型肝炎ウイルス粒子を生産する培養細胞を作製し、(i)得られた、C型肝炎ウイルス粒子を生産する培養細胞、又は(ii)その細胞から培養上清中に放出されたC型肝炎ウイルス粒子と、C型肝炎ウイルス感受性細胞(HCV感染許容細胞)との組み合わせを、被検物質の存在下で培養し、得られる培養物中のレポータータンパク質を検出することを含む、抗C型肝炎ウイルス物質をスクリーニングする方法であってもよい。このようなスクリーニング方法は、薬物評価系として用いることもできる。
【0113】
そのような薬物評価系の具体例は、抗HCV作用を持つ物質をスクリーニングする方法であって、(1)被検物質の存在下で、上記のようにして全長ゲノムHCVにレポーター遺伝子を組み込んだレプリコンをゲノムとして含む感染性HCV粒子とHCV感染許容細胞、例えばHuh7細胞を培養し、(2)HCVの複製・粒子産生に伴って産生されるレポータータンパク質を測定し、(3)産生されたレポータータンパク質のレベルと被検物質を加えない対照におけるレポータータンパク質の検出レベルとを比較することで被検物質の抗HCV効果を評価する方法である。
【0114】
本発明に係るスクリーニング方法の別の例としては、(1)被検物質の存在下で上記のようにして全長ゲノムHCVにレポーター遺伝子を組み込んだレプリコンをゲノムとして含む感染性HCV粒子産生細胞を培養し、(2)HCVの複製・粒子産生に伴って産生されるレポータータンパク質を測定し、(3)産生されたレポータータンパク質のレベルと被検物質を加えない対照におけるレポータータンパク質のレベルとを比較することで被検物質の抗HCV効果を評価する方法である。
【0115】
このスクリーニング方法は、より具体的には、レポータータンパク質をコードする核酸が挿入されたJFH1変異体の全長ゲノムHCV RNAである本発明に係る核酸を含むC型肝炎ウイルス粒子を生産する培養細胞を、被検物質の存在下で培養するステップと、得られた培養物中の当該レポータータンパク質を検出し、上記レポータータンパク質の発現量が低い場合に上記被検物質は抗C型肝炎ウイルス活性を有すると判定するステップと、を含む、抗C型肝炎ウイルス物質をスクリーニングする方法であってよい。
【0116】
(6)配列番号の概要
配列番号1:野生型JFH1(JFH1wt)の全長ゲノム配列
配列番号2:野生型JFH1(JFH1wt)の全長ゲノム配列によってコードされる、前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列
配列番号3:変異体JFH1-A/WTの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜9442位までが前駆体ポリプロテインコード配列である。
【0117】
配列番号4:変異体JFH1-B/WTの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜9442位までが前駆体ポリプロテインコード配列である。
【0118】
配列番号5:変異体JFH1-Q862Rの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜9442位までが前駆体ポリプロテインコード配列である。
【0119】
配列番号6:変異体JFH1-A/WT-Rlucの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜10381位までがタンパク質コード配列である。
【0120】
配列番号7:変異体JFH1-B/WT-Rlucの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜10381位までがタンパク質コード配列である。
【0121】
配列番号8:変異体JFH1wt-Rlucの全長ゲノム配列。ヌクレオチド341位〜10381位までがタンパク質コード配列である。
【0122】
配列番号9:ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の全長配列
配列番号10〜18:PCRプライマー
【実施例】
【0123】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0124】
実施例1: JFH1ウイルス粒子を高生産するためのJFH1適応変異体の取得
劇症肝炎の日本人患者から分離した遺伝子型2aのC型肝炎ウイルス(HCV)JFH1株(GenBank Accession No.AB047639;JP 2002-171978 A)のゲノムRNA全領域のcDNA(全ゲノムcDNA(full-genome cDNA);配列番号1)をT7プロモーターが挿入されたpUC19プラスミドベクター中のT7プロモーター配列の下流のEcoRI-XbaI部位にクローニングしたプラスミドDNAであるpJFH-1(Wakita, T. et al., Nat. Med., 11 (2005) p.791-796及び国際公開WO 2004/104198)を、DNA源として用いた。pJFH-1をXbaIで切断し、その後、Mung Bean Nuclease 20 U(トータル反応液量 50μL)を加えて30℃で30分間インキュベートすることによりXbaI切断末端を平滑化した。次いで、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿を行い、切断末端のCTAGの4塩基が除去されたXbaI切断断片を得た。このDNA断片を鋳型として、MEGAscript T7キット(Ambion社)を用いてRNAを合成した。こうして合成されたJFH1株の全長ゲノムHCV RNA(full-length genomic HCV RNA)を、以下のようにして細胞に導入した。
【0125】
前日に1x106個のHuh7細胞を10cm培養ディッシュに播種し、抗生物質不含培地で培養した。1mlのOPTI-MEM(Invitrogen社)に懸濁した6μgのJFH1株の全長ゲノムHCV RNAを、30μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen社)とOPTI-MEM(Invitrogen社)の混合液に加え、室温で20分間反応させてRNA-リポフェクタミン複合体を形成させた。前日に準備したHuh7細胞にこのRNA-リポフェクタミン複合体を添加した。24時間後に上清を新しい培地に換えた。その後、継続培養を2年間続けて行った。この継代培養期間は適応変異体(culture-adapted variant)を得るための通常の培養期間である1〜2ヶ月(十数回の継代)よりもかなり長い。この継代培養完了後の細胞によって生産されたウイルス株をJFH1aと名付けた。一方、上記と同じ方法で合成したJFH1株の全長ゲノムHCV RNA(野生型JFH1株から合成した全長ゲノムHCV RNA)を、上記と同様にHuh7.5.1細胞へ導入した。培養開始直後の野生型JFH1株のRNA導入細胞によって生産されたウイルス株をJFH1wtと名付けた。図1は、本実施例で行った実験のスキームを示す。
【0126】
実施例2: JFH1適応変異体(adapted JFH1 variant)であるJFH1aの性状解析(characterization)
ウイルス感染24時間前に、24穴プレートにHuh7.5.1細胞を1穴あたり2x104個播種した。次に、実施例1で作製したJFH1wt及びJFH1aのウイルス粒子をHuh7.5.1細胞にM.O.I(multiplicity of infection)0.006で37℃、2時間感染させた。ウイルス液を除去して新しい培地を加え、37℃で、継続して7日間培養した。経時的に細胞を回収し、全RNA(total RNA)を抽出した。全RNAの抽出には、市販のRNA抽出試薬ISOGEN(ニッポンジーン社)を使い、添付のプロトコールに従って抽出を行った。RNAの定量は2ステップRT-PCRで実施し、cDNAへの変換にはReverTra Ace qPCR RT Kit(TOYOBO社)を使い、PCR反応はSYBR GreenI検出で行った。得られたPCR産物をLight Cycler(Roche社)を用いて解析することにより、細胞内のHCV RNAを定量した。JFH1aゲノムの検出に用いたプライマーの配列は、HCVのNS3領域を増幅するように設計されたプライマーであり、5’-CTTTGACTCCGTGATCGACC-3’(配列番号10)及び5’-CCCTGTCTTCCTCTACCTG-3’(配列番号11)であった。標準化用のアクチン遺伝子を増幅するプライマーとして、5’-TGGCACCCAGCACAATGAA-3’(配列番号12)及び5’-CTAAGTCATAGTCCGCCTAGAAGCA-3’(配列番号13)を用いて同様に2ステップRT-PCRにより定量し、得られたデータから、全RNA 100ngあたりのHCV RNAコピー数を算出した(図2)。その結果、培養6日目で、JFH1aはJFH1wtの約1,000倍高い複製能を示すことが示された。
【0127】
次に、JFH1wt及びJFH1aのインターフェロン感受性について解析を行った。ウイルス感染24時間前に、24穴プレートに1穴あたり3x104個のHuh7.5.1細胞を播種した。翌日、細胞にJFH1wt及びJFH1aを0.006のM.O.I.で2時間感染させた。感染後に細胞をPBS(-)で3回洗浄し、図3に記載した濃度(0、0.16、0.8、4、20、100 IU/mL)のインターフェロンα(IFN-α)(Universal Type I Interferon;PBL InterferonSource社)を含む培地で72時間培養した。図3に記載したIFN-α濃度で処理した細胞内のHCV RNA量を、上記の方法で定量的RT-PCRにより定量した。得られたデータから、インターフェロンα(IFN-α)無添加のコントロール(図3のIFN-αの0 IU/mLに相当)に対する相対複製率(%)を算出した。その結果、JFH1aは、野生型のJFH1wtと同様のインターフェロン感受性を示すことが判明した(図3)。
【0128】
実施例3: JFH1aの変異の解析
本実施例では、JFH1aの高いウイルス粒子生産能にとって重要な適応変異を調べる目的で、まず、JFH1aのゲノム配列の解析を行った。実施例2で得たJFH1aウイルス感染細胞から、ISOGEN-LS(ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを合成した。このcDNA合成の逆転写反応は特異的プライマーA9482: 5’-GGAACAGTTAGCTATGGAGTGTACC-3’(配列番号16)を使って、Transcriptor first Strand cDNA Synthesis Kit(Roche社)を用いて行った。逆転写の手順は、添付のプロトコールに従って行った。得られたcDNAを鋳型として、PCR反応によって、Coreタンパク質からNS3タンパク質までをコードする配列を増幅した。PCR用プライマーとしてはS58: 5’-TGTCTTCACGCAGAAAGCGCCTAG-3’(配列番号17)及びAS4639: 5’-CTGAGCTGGTATTATGGAGACGTCC-3’(配列番号18)を使用した。PCR反応により得られたDNA断片をpGEM-T Easyベクター(Promega社)中にライゲーションし、大腸菌DH5αに形質転換し、アンピシリン含有LB寒天培地上で培養し、形質転換大腸菌を選択した。6個のコロニーを取り出しLB培地中で一晩培養し、プラスミドをWizard Plus SV Miniprep DNA Purification System(Promega社)を用いて抽出精製し、PCR増幅したDNA断片の塩基配列を確認した。
【0129】
その結果、JFH1aの前駆体ポリプロテインのCoreタンパク質からNS3タンパク質に及ぶ領域(前駆体ポリプロテインのN末端側の半分)には、JFH1の前駆体ポリプロテイン配列(配列番号2)と比較して、多くのアミノ酸置換(変異)が見出された(図4)。6クローン中の2個以上のクローンに共通するアミノ酸変異(図4中、*で示す)の存在も示された。
【0130】
実施例4: 変異体プラスミドの構築
実施例3で示した、JFH1aの高いウイルス粒子生産能に必要な適応変異を持つプラスミドの構築を行った。図4に示すように6つのクローンの塩基配列に共通して見出される変異アミノ酸のパターンから、JFH1aは少なくとも2つの変異株から構成されていることが判明した。ここでは、それぞれをグループA、グループBと呼称する。グループAとしてClone5-2、グループBとしてClone5-4を選び2種類の変異体キメラの作製を行った。Clone5-2及びClone5-4を、制限酵素AgeI及びSpeIを用いて消化し、PCRで増幅した5’側の変異を含む領域のDNA断片を得た。これらのDNA断片と、同様にAgeI及びSpeIで酵素処理して得られたpJFH-1ベクターの断片とをライゲーション反応により結合させることにより、それぞれpJFH1-A/WT、pJFH1-B/WTを得た。
【0131】
図5は、変異体プラスミドから作製されるHCV変異体全長ゲノム中の変異導入部位を示す概略図である。変異体プラスミドpJFH1-A/WTから発現されるHCV変異体JFH1-A/WTは、野生型JFH1(JFH1wtとも呼称される)ウイルスの前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(配列番号2)のN末端側半分(CoreからNS3の一部まで)にK74T、Y297H、A330T、S395P、N417S、D483G、A501T、Q862R、Q931R、及びS961Aの10個のアミノ酸置換が導入されたタンパク質をコードする、全長ゲノム配列(配列番号3)を有する。変異体プラスミドpJFH1-B/WTから発現されるHCV変異体JFH1-B/WTは、野生型JFH1(JFH1wtと呼称される)ウイルスの前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列(配列番号2)のN末端側半分(CoreからNS3の一部まで)にV31A、K74T、G451R、V756A、V786A及びQ862Rの6個のアミノ酸置換が導入されたタンパク質をコードする、全長ゲノム配列(配列番号4)を有する。
【0132】
なおコントロールとして、JFH1wtの前駆体ポリプロテインのアミノ酸配列にV2440Lアミノ酸置換が導入されたHCV変異体JFH1-mut5の全長ゲノム配列をT7 RNAプロモーターの制御下にクローン化したプラスミドを使用した。このウイルスJFH1-mut5については、JFH1wtと比べてウイルス生産能が10倍高いことが報告されている(Kaul et al., J. Virol. (2007) 81:13168-13179)。
【0133】
実施例5: HCV適応変異体のHCV粒子生産能の解析
野生型JFH1wtとその3種類の適応変異体JFH1-A/WT、JFH1-B/WT及びJFH1-mut5の、ウイルス粒子生産能について比較した。
【0134】
まず、上記4種類のウイルスJFH1wt、JFH1-A/WT、JFH1-B/WT及びJFH1-mut5の全長ゲノムHCV RNAを、pJFH-1及び実施例4で作製した変異体プラスミドを鋳型として、実施例1に示した方法により合成した。次に、合成した4種類のHCV RNA各4μgをMicroporation kit(Degital Bio社)に含まれるBuffer Rで5x106細胞/mlに懸濁したHuh7.5.1細胞100 μLと混ぜ合わせ、MicroPorator(Digital Bio社)を用いて、1350 V(pulse voltage)、30ms(pulse width)で1回のパルスをする条件で、エレクトロポレーションを行った(トランスフェクション)。細胞を10mlの培地に懸濁し、6穴プレートに1穴あたり2mL (2x105細胞)播種した。トランスフェクション後、4、24、48、72、96時間に細胞と培養上清を回収し、新たに産生した細胞内Coreタンパク質量をオーソHCV抗原IRMAテスト(Aoyagi et al., J. Clin. Microbiol., 37 (1999) p1802-1808)を用いて定量した(図6A)。同様にして、各時点の培養上清中のCoreタンパク質量も測定した(図6B)。トランスフェクション効率の補正は、4時間後の細胞内Coreタンパク質量を用いて行った。
【0135】
また、JFH1wt、JFH1-A/WT、JFH1-B/WT及びJFH1-mut5の各時点の培養上清中のウイルス感染価を、ウイルス力価測定法(focus forming assay)により測定した。より具体的には、96穴プレートに1穴あたり6x103個のHuh7.5.1細胞を播種し、翌日、培地で段階希釈した培養上清を細胞に感染させ、37℃、72時間培養した。ウイルス感染細胞の検出は抗原抗体反応による免疫染色法により行った。感染72時間後の細胞を室温で20分にわたり10%ホルマリン-PBS(-)溶液中で固定化した後、室温で10分間、0.5% Triton X-PBS(-)で処理した。その後、1次抗体として5%スキムミルク-PBS(-)で希釈した抗HCV-Core(クローンCP14)モノクローナル抗体(300倍希釈物)を加えて室温で1時間反応させた。さらに、PBS(-)で3回洗浄後、HRP標識ヤギ抗マウス抗体(300倍希釈物)を加えて室温で1時間反応させた。PBS(-)で3回洗浄した後に、コニカイムノステインHRP-1000(コニカミノルタ社)を加え、青色に染色したウイルス抗原陽性細胞集団(免疫フォーカス;フォーカスとも呼ぶ)の数を顕微鏡下で測定した(図6C)。
【0136】
得られたCoreタンパク質量と感染価に基づき、以下の式で比活性(相対比感染価(relative specific infectivity))を算出した:比活性=(培養上清における感染価)/(培養上清中のCoreタンパク質量)。この結果を図6Dに示す。
【0137】
JFH1-A/WT及びJFH1-B/WTは、Huh7.5.1細胞において、野生型JFH1wtと比べて100倍以上、JFH1-mut5と比べて10倍以上も高い感染価を示した(図6C)。JFH1-A/WT及びJFH1-B/WTの感染価が高いこと及び細胞外へのウイルスタンパク質の放出量が高いことを示すこれらの結果は、これらのウイルスが培養上清に感染性ウイルス粒子を大量に放出したことを意味する。すなわち、JFH1-A/WT及びJFH1-B/WTが非常に高い感染性ウイルス粒子生産能を有していることが示された(図6B、C)。
【0138】
また図6Dに示されるように、JFH1-B/WTの比活性が顕著に高いことも示された。この結果は、JFH1-B/WTは感染力が強いことあるいは非常に効率よくウイルス粒子を形成できることを示している。このように高効率なウイルス粒子形成能は、ワクチン製造等を目的としたHCV粒子生産において有利に利用できる、非常に優れた性質である。
【0139】
実施例6: 適応変異体ウイルスの感染伝播(infection transmission)の解析
次に、JFH1wt、JFH1a、JFH1-A/WT、JFH1-B/WT及びJFH1-mut5の5種類のHCVの感染伝播力を解析した。ウイルス感染20〜24時間前に、6穴プレートに1穴あたり1x105個のHuh7.5.1細胞を播種した。翌日、これら5種類のウイルスを0.001のM.O.I.(100 FFU/mL, 1 mL)で37℃、2時間感染させた。2時間後にウイルス液を除去し新しい培地2mlを加え、細胞を37℃で23日間継続培養した。細胞は3〜4日おきに20%程度を採取して継代し、その都度、上清を回収し-80℃で保存した。回収した培養上清中のウイルス感染価を実施例5に記載のウイルス力価測定法(focus forming assay)により測定した。その結果、JFH1aとJFH1-B/WTは感染後に急速にウイルス感染価が上昇し、感染の伝播が速かったことから、この2種類のウイルスは高い感染伝播力を有することが示された(図7)。
【0140】
JFH1-B/WTの感染伝播力が高いことを確認するため、5種類のウイルス(各50 FFU)をHuh7.5.1細胞(6x103細胞)に感染させ、感染の72時間後に形成されるフォーカスの大きさを比較した。フォーカスは実施例5に記載のウイルス力価測定法(focus forming assay)の手順に従って染色して観察した。その結果、図8に示すように、JFH1a、JFH1-B/WTのフォーカスのサイズは特に大きく、感染伝播力がとりわけ高いことが示された。
【0141】
実施例7: 適応変異体ウイルスJFH1-B/WTの解析
ウイルス高生産能を有し、かつ感染伝播力の高いJFH1適応変異体ウイルスJFH1-B/WTの持つ6ヶ所のアミノ酸変異(アミノ酸置換)について詳細に解析した。遺伝子の点変異導入には、サイトダイレクトミュータジェネシス法を使用するのが一般的である。変異体の作製は、QuickChange II XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用い添付のプロトコールに従って、JFH1-B/WT又はJFH1wtの全長ゲノム配列をクローン化したプラスミドを鋳型として、点変異導入用プライマーを用いて行った。このようにしてHCVゲノム配列に導入した点変異は、DNAシークエンサーを用いて配列決定することにより確認した。
【0142】
作製した6ヶ所のアミノ酸変異(V31A、K74T、G451R、V756A、V786A及びQ862R)のいずれか1つを野生型のアミノ酸に戻した変異体、及びその6ヶ所のアミノ酸変異のいずれか1つをJFH1wt(野生型)に導入した変異体を、それぞれ図9及び図10に示した。
【0143】
JFH1-B/WTの6ヶ所のアミノ酸変異のうち1ヶ所のアミノ酸変異を野生型アミノ酸に戻す塩基変異を、JFH1-B/WT全長ゲノム配列に導入して得た6種類のHCV変異体は、31-(A31V)、74-(T74K)、451-(R451G)、756-(A756V)、786-(A786V)及び862-(R862Q)と名付けた(図9)。それぞれ、31-(A31V)はアミノ酸置換A31V、74-(T74K)はアミノ酸置換T74K、451-(R451G)はアミノ酸置換R451G、756-(A756V)はアミノ酸置換A756V、786-(A786V)はアミノ酸置換A786V、862-(R862Q)はアミノ酸置換R862Qが、それぞれJFH1-B/WTに導入された変異体である。これら変異体の全長ゲノム配列がクローン化された変異体プラスミドを、実施例4と同様にして作製した。
【0144】
また、JFH1-B/WTの6ヶ所のアミノ酸変異のうち1ヶ所のアミノ酸変異を引き起こす塩基変異を、野生型JFH1wt全長ゲノム配列に導入して得た6種類のHCV変異体は、31+(V31A)、74+(K74T)、451+(G451R)、756+(V756A)、786+(V786A)及び862+(Q862R)と名付けた(図10)。それぞれ、31+(V31A)はアミノ酸置換V31A、74+(K74T)はアミノ酸置換K74T、451+(G451R)はアミノ酸置換G451R、756+(V756A)はアミノ酸置換V756A、786+(V786A)はアミノ酸置換V786A、862+(Q862R)はアミノ酸置換Q862Rが、それぞれJFH1wtに導入された変異体である。これら変異体の全長ゲノム配列がクローン化された変異体プラスミドを、実施例4と同様にして作製した。
【0145】
さらに、作製した変異体プラスミドを鋳型として、実施例1に示した方法により全長ゲノムHCV RNAを合成した。
【0146】
次いで、図9に示す6種類の変異体ウイルス31-(A31V)、74-(T74K)、451-(R451G)、756-(A756V)、786-(A786V)及び862-(R862Q)の全長ゲノムHCV RNA、並びに図10に示す変異体ウイルス451+(G451R)の全長ゲノムHCV RNA、JFH1wt及びJFH1-B/WTの全長ゲノムHCV RNAの各4μgをHuh7.5.1細胞(1x106)に、実施例5と同様の方法でエレクトロポレーションし個別にトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を10mLの培地に懸濁し、6穴プレートに1穴あたり2mL(2x105細胞)ずつ播種した。トランスフェクション後24、48、72、96時間の培養上清中のウイルス感染価(FFU/mL)及びCoreタンパク質量(pg/穴 )を、実施例5に記載の方法で測定した。図11には72時間後の測定結果を示す。図11A、B及びCに示される通り、第451番目のアミノ酸を野生型のG(グリシン)に戻した場合、比活性が著しく低下した。なお、比活性(相対比感染価(relative specific infectivity))は、培養上清における感染価を培養上清中のCoreタンパク質量で除した値である。比活性の強さは、感染力が強いこと又は非常に効率よくウイルス粒子を形成できることを示す。このことから、G451Rの変異変異が感染力の向上又は効率的なウイルス粒子形成能に重要であることが示された。
【0147】
同様に、図10に示す6種類の変異体ウイルス31+(V31A)、74+(K74T)、451+(G451R)、756+(V756A)、786+(V786A)及び862+(Q862R)の全長ゲノムHCV RNA、並びにJFH1wt及びJFH1-B/WTの全長ゲノムHCV RNAの各4μgをHuh7.5.1細胞(1x106個)にエレクトロポレーションにより個別にトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を10mLの培地に懸濁し、6穴プレートに1穴あたり2 mL(2x105細胞)ずつ播種した。トランスフェクション後24、48、72、96時間の培養上清中のウイルス感染価(FFU/mL)、Coreタンパク質量(pg/穴)を測定した。図12には72時間後の測定結果を示す。培養上清における感染価から、K74T、G451R、Q862Rのアミノ酸変異をJFH1wtに個別に導入することにより感染性ウイルス粒子生産能が上昇したことが示された(図12A)。また、細胞外Coreタンパク質量は、Q862R変異の導入により、JFH1wtの10倍に増加した(図12B)。
【0148】
以上の測定結果から、G451R変異の導入により、JFH1wtと比較してウイルスの感染力と感染性ウイルス粒子生産能が向上したことが示された。またK74T変異及びQ862R変異も感染性ウイルス粒子生産能を向上させることが示された。しかし、これらの変異だけでは、JFH1-B/WTを超えることはできなかった。
【0149】
さらに、長期感染によるウイルス感染伝播力の経時的変化を調べるため、実施例6と同様の実験を行った。各変異体プラスミドから合成した全長ゲノムHCV RNAをHuh7.5.1細胞にトランスフェクションし産生された各感染性ウイルス粒子を、Huh7.5.1細胞に感染させ(M.O.I.=0.001)、長期間培養(細胞は3〜4日おきに20%程度を採取して継代)し、培養上清のウイルス生産量及び感染価を経時的に測定した。31-(A31V)、74-(T74K)、451-(R451G)、756-(A756V)、786-(A786V)、862-(R862Q)、451+(G451R)、JFH1wt及びJFH1-B/WTの結果を図13に、31+(V31A)、74+(K74T)、451+(G451R)、756+(V756A)、786+(V786A)、862+(Q862R)、JFH1wt及びJFH1-B/WTの結果を図14にまとめた。
【0150】
その結果、第451番目のアミノ酸残基を野生型のG(グリシン)に戻した変異体(451-(R451G))では、培養上清中のCoreタンパク質量の増加のタイミングが遅れたことから(図13A)、G451R変異が感染伝播力に関係していることが示された。また、第451番目のアミノ酸残基を野生型のG(グリシン)に戻した変異体(451-(R451G))、第74番目のアミノ酸残基を野生型のK(リジン)に戻した変異体74-(T74K)、第862番目のアミノ酸残基を野生型のQ(グルタミン)に戻した変異体(862-(R862Q))は、JFH1-B/WTと比較して感染価が減少していた(図13B)。
【0151】
また図14に示されるように、培養上清中のCoreタンパク質量及び感染価の増加のパターンから、K74T、G451R、Q862Rの変異は感染伝播力の向上に寄与していることが示された(図14A及びB)。特にG451R変異の導入により、JFH1wtと比較してCoreタンパク質量及び感染価の両方において顕著な増加を示し、長期感染(長期培養)においても、感染性ウイルス粒子生産能が大きく向上したことが示された。
【0152】
以上の解析に基づき、K74T、G451R、Q862Rの変異がHCV生産能を増強させる変異であることが示された。なお変異体862+(Q862R)(JFH1-Q862Rとも呼ぶ)の全長ゲノム配列を配列番号5に示した。
【0153】
実施例8: 全長ゲノム配列にレポーター遺伝子を組み込んだ変異体の作製
HCVの感染及び増殖を容易に検出するために、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだ全長HCVゲノム配列を含む変異体を作製した。図15に、作製した変異体の構造図を示す。
【0154】
具体的には、JFH1wt(野生型)、JFH1-A/WT及びJFH1-B/WT(適応変異体)の全長ゲノムに、該HCVの前駆体ポリプロテインのN末端の第1アミノ酸(メチオニン)から数えて第2394番目のアミノ酸残基(アミノ酸2394位)と第2395番目のアミノ酸残基(アミノ酸2395位)との間(2395位と2396位の間又は2396位と2397位の間であると規定することもできる)に311アミノ酸残基からなるウミシイタケ(Renilla reniformis)ルシフェラーゼが挿入されたHCV前駆体ポリプロテインをコードするDNA断片を、T7プロモーターの下流に機能的に連結したプラスミドベクター(pJFH1wt-Rluc、pJFH1-A/WT-Rluc、pJFH1-B/WT-RLuc)を、以下のようにして作製した。
【0155】
まず、プラスミドpGL4.27(Promega社)中に挿入されたウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(配列番号9)を鋳型として、XhoI認識部位(ctcgag)を末端に持つ2つのプライマー5'-ctcgagATGGCTTCCAAGGTGTACGACCCC-3'(配列番号14)及び5'-ctcgagCTGCTCGTTCTTCAGCACGCGCTC-3'(配列番号15)を用いて、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子断片を増幅した。増幅した遺伝子断片をXhoIで消化した。
【0156】
一方、JFH1wt、JFH1-A/WT及びJFH1-B/WTの全長ゲノム配列がクローン化されたプラスミド(それぞれpJFH-1、pJFH1-A/WT及びpJFH1-B/WT)を、塩基配列5'-CCTCGAGG-3'を認識する制限酵素AbsIで消化(消化位置は5'末端から7523/7527)し、その制限部位に上記で得たウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子増幅産物のXhoI消化断片を挿入し、クローニングし、ウミシイタケルシフェラーゼが機能的に連結されたベクターを有するクローンを選抜した。こうして得られたウミシイタケルシフェラーゼ(Rlucとも呼ぶ)遺伝子導入変異体を、それぞれJFH1wt-Rluc、JFH1-A/WT-Rluc、JFH1-B/WT-RLucと名付けた。ベクター中にクローン化されたJFH1-A/WT-Rlucの全長ゲノム配列(配列番号)、JFH1-B/WT-RLucの全長ゲノム配列(配列番号)及びJFH1wt-Rlucの全長ゲノム配列(配列番号)は塩基配列決定により確認した。
【0157】
なお、上記のように、JFH1wt-Rluc、JFH1-A/WT-Rluc、JFH1-B/WT-RLucを作製する際には、ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(933bp)の5'末端及び3'末端に、XhoI認識部位のctcgagが付加された遺伝子をXhoIで消化して、pJFH-1、pJFH1-A/WT又はpJFH1-B/WTのAbsI切断部位に挿入した。JFH1wt-Rluc、JFH1-A/WT-Rluc、JFH1-B/WT-RLucは、ウミシイタケルシフェラーゼタンパク質が、JFH1wt、JFH1-A/WT又はJFH1-B/WTの前駆体ポリプロテインのN末端の第1アミノ酸(メチオニン)から数えてアミノ酸2394位と2395位の間(2395位と2396位の間、又は2396位と2397位の間であると規定することもできるが)に挿入されている。
【0158】
次に、それらの配列がクローン化された組換えベクター(pJFH1wt-Rluc、pJFH1-A/WT-Rluc、pJFH1-B/WT-RLuc)をXbaIで消化してインサートを切り出し、Mung Bean Nucleaseで処理してから、MEGAscript T7 kit(Ambion社)を用いて全長ゲノム配列HCV RNAを合成した。なお、JFH1wt-Rluc、JFH1-A/WT-Rluc及びJFH1-B/WT-Rlucは、各HCV全長ゲノム配列(9678bp)に、ウミシイタケルシフェラーゼの933bpと6bpのXhoI認識部位(ctcgag)が付加された10617bpとなっている。pJFH1wt、pJFH1wt-Rluc、pJFH1-A/WT-Rluc及びpJFH1-B/WT-Rlucから合成されたHCV RNAを、実施例5と同様の方法で、HuH7.5.1細胞にトランスフェクションし、その72時間後に培養上清における感染価を測定した。感染価の測定は、実施例5と同様の方法で、抗HCV-Core(CP14)モノクローナル抗体を用いて細胞染色し、フォーカス数を計測することにより行った。
【0159】
その結果、野生型JFH1wtにRluc遺伝子を組み込むと、ウイルス生産能が野生型JFH1wtと比べて約10倍低くなった(図16)。一方、変異体JFH1-A/WT又はJFH1-B/WTにRluc遺伝子を組み込んだ場合には、JFH1wt-Rlucよりも感染価が約100倍高いことが示された(図16)。
【0160】
さらに、Rluc遺伝子を組み込んだ全長ゲノム配列から生産されるHCV粒子の量とルシフェラーゼ活性との相関について解析した。48穴プレートにHuh7.5.1細胞を1.0 x 104個/穴で播種し、24時間後にJFH-A/WT-Rluc及びJFH-B/WT-Rlucを100、50、25、12、6、3 及び0 FFU(フォーカス形成単位)で2時間感染させた。感染後に細胞を2回PBS(-)で洗浄し、新鮮培地を1穴当たり200μL加えた。ウイルス感染72時間後、プレートから細胞を回収し、ルシフェラーゼの活性を測定した。ルシフェラーゼの活性は、Renilla Luciferase Assay System(Promega社)を用い、添付のプロトコールに従って行った。具体的には、培養上清を除去し、200μLのPBS(-)で2回洗浄し、キットに含まれる溶解バッファー(lysis buffer)(Renilla Luciferase Assay system;Promega社)を200μL加え、室温で15分間撹拌し細胞を溶解させた。20μLの溶解液をルシフェラーゼアッセイプレートに移し、100μLの基質を加え、Glomax luminometer(Promega社)で発光を測定した。その結果、ウイルス量に依存したルシフェラーゼ活性を検出できた(図17)。
【0161】
実施例9: HCV感染及び増殖に対するインターフェロンの抑制効果
HCV感染及び増殖に対する抑制効果が公知のインターフェロンを被検薬として、全長HCVゲノム配列にレポーター遺伝子を組み込んだJFH1変異体(実施例8)を用いた抗HCV物質のスクリーニング系の有効性を確認する実験を行った。
【0162】
ウイルス感染の24時間前に、2セットの48穴プレートに1穴あたり1.2x104個のHuh7.5.1細胞を播種した。翌日、細胞に100 FFUのJFH-A/WT-Rluc又はJFH-B/WT-Rlucウイルスを加え、2時間感染させた。感染後に細胞をPBS(-)で2回洗浄し、図18に記載した濃度(0、1、4、20、100 U/mL)のインターフェロンα(IFN-α)(Universal Type I Interferon;PBL InterferonSource社)を含む培地で72時間培養した。上記2セットのウイルス感染プレートの1セットについては、実施例5に記載のウイルス力価測定法(focus forming assay)によりウイルス感染価を、もう1セットについては実施例8に記載の方法でルシフェラーゼ活性を測定した。図18にその結果を示した。
【0163】
インターフェロンαは用量依存的にHCVの感染を阻害した(図18B)。またルシフェラーゼアッセイでは、示されたルシフェラーゼ活性と感染価との高い相関が示された(図18A)。この結果から、Rluc遺伝子を組み込んだJFH1wt及びその変異体を用いれば、インターフェロンなどの抗HCV物質を、ルシフェラーゼ活性を指標として感染阻害率を測定することにより効率良くスクリーニングできることが示された。
【配列表フリーテキスト】
【0164】
配列番号3〜8はJFH1変異体である。
【0165】
配列番号10〜18はプライマーである。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]