(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816620
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極および色素増感太陽電池ならびに色素吸着半導体電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20151029BHJP
【FI】
H01G9/20 111C
H01G9/20 111B
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-519222(P2012-519222)
(86)(22)【出願日】2011年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2011002753
(87)【国際公開番号】WO2011155131
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-129547(P2010-129547)
(32)【優先日】2010年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591222566
【氏名又は名称】相互薬工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100112771
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 勝
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】パンディ シャム スデル
(72)【発明者】
【氏名】成冨 祐二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晋介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明理
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−037377(JP,A)
【文献】
特開2000−195569(JP,A)
【文献】
特開2000−268892(JP,A)
【文献】
特開2002−047290(JP,A)
【文献】
特開平11−204821(JP,A)
【文献】
特表2001−510199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化3、化5〜7で示される化合物の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素と、該色素が吸着される
スズ(Sn)、ケイ素(Si)、鉛(Pb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)のいずれかの金属酸化物多孔質半導体を有し、
該金属酸化物多孔質半導体の金属原子−O−該金属錯体の金属原子の結合で化学吸着されてなることを特徴とする色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【化3】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項2】
前記色素とは別の色素が前記金属酸化物多孔質半導体に共吸着されてなることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【請求項3】
前記別の色素が、前記金属酸化物多孔質半導体の金属原子−O−前記金属錯体の金属原子−O−前記別の色素の結合で前記金属錯体の金属原子に結合してなることを特徴とする請求項2記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【請求項4】
前記金属錯体の金属と前記金属酸化物多孔質半導体の金属がいずれもスズであることを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【請求項5】
前記色素とは別の色素が前記スズ酸化物多孔質半導体に共吸着されてなることを特徴とする請求項4に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【請求項6】
前記別の色素が、前記スズ酸化物多孔質半導体のスズ原子−O−前記スズ錯体のスズ原子−O−前記別の色素の結合で前記スズ錯体のスズ原子に結合してなることを特徴とする請求項5記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極。
【請求項7】
請求項1に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項8】
請求項2に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項9】
請求項3に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項10】
請求項4に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項11】
請求項5に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項12】
請求項6に記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項13】
請求項1記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法であって、
スズ、ケイ素、鉛、ゲルマニウム、チタン、アルミニウム、ガリウム、インジウムのいずれかの金属酸化物多孔質半導体に、
下記化3、化5〜7で示される化合物の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素を含浸することを特徴とする色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法。
【化3】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項14】
請求項4記載の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法であって、
スズ酸化物多孔質半導体に、
下記化3及び/又は化5で示される化合物の
スズ錯体を含む色素を含浸することを特徴とする色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法。
【化3】
【化5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極および色素増感太陽電池ならびに色素吸着半導体電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、湿式太陽電池あるいはグレッツェル電池等と呼ばれ、シリコン半導体を用いることなくヨウ素溶液に代表される電気化学的なセル構造を持つ点に特徴がある。具体的には、透明な導電性ガラス板(透明導電膜を積層した透明基板:アノード基板)に二酸化チタン粉末等を焼付け、これに色素を吸着させて形成したチタニア層等の多孔質半導体(多孔質酸化物半導体電極)と導電性ガラス板(導電性基板:カソード基板)からなる対極の間に電解液としてヨウ素溶液等を配置した、簡易な構造を有する。透明な導電性ガラス板の側から色素増感太陽電池セル内に導入される太陽光が色素に吸収されることで電子が発生する。
色素増感太陽電池は、材料が安価であり、作製に大掛かりな設備を必要としないことから、低コストの次世代太陽電池として注目されている。
【0003】
色素増感太陽電池の光電変換効率は10%を超え、さらに15%を目指した研究が行われている。
光電変換効率を向上させるための課題のひとつに、タンデム型やハイブリッド型の高効率太陽電池の開発がある。
これらの高効率太陽電池の開発においては、電極構造等の電池の各構成要素の改良が求められるとともに、使用する色素の改良が大きな課題である。
すなわち、通常利用される可視光等だけでなく赤外域等の長波長を含む広い波長領域の光を効率的に利用することができる色素が求められる。
【0004】
一般的な色素増感太陽電池の色素として、例えば通称N3と呼ばれるルテニウム錯体が賞用されている。ルテニウム錯体のピリジン系配位子はカルボン酸基(−COOH)を持ち、このカルボン酸基がチタニア半導体粒子表面の水酸基(−OH基)とエステル結合を形成し、ルテニウム錯体はチタニア半導体粒子表面に固定される。このルテニウム錯体(色素)とチタニア半導体(多孔質半導体)の強固な結合により、ルテニウム錯体からチタニア半導体への電子の移動が効率的に行われる。
カルボン酸基のようないわゆるアンカー基には、このほかにリン酸基、スルホン酸基等がある。
【0005】
これに対して、光の近赤外域に感度を有する、チタニア半導体に吸着する色素として、配位結合する金属として亜鉛やアルミニウムを用いたフタロシアニン錯体が報告されており、上記の各アンカー基が例示されている(非特許文献1参照)。
【0006】
また、例えば、チタニア半導体に吸着する色素として、アルミニウムフタロシアニンとミリスチン酸(Myristic
Acid)を共吸着したものが報告されている(非特許文献2参照)。その報告の中で、アルミニウムフタロシアニンのみを用いた場合に比べてミリスチン酸を所定量共吸着したものは良好な特性を示すとされている。
【0007】
また、例えば、金属酸化物半導体等に吸着する色素として、配位結合する金属としてケイ素の誘導体を用いたポルフィン錯体が報告されており、ポルフィン錯体のピロールにはカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基等の酸性基ではなくて塩基性基が結合されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−193763号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】MD. K. NAZEERUDDINほか、Efficient Near-IR Sensitization ofNanocrystalline Ti O2 Film by Zinc and Aluminum Phthalocyanines、Journalof Porphyrins and Phthalocyanines 3、230−237(1999)
【非特許文献2】Yutaka Amaoほか、Dye−Sensitized Sollar Cell Using a TiO 2Nanocrystalline Film Electrode Modified by an Aluminum Phthalocyanine andMyristic Acid Coadsorption Layer、Langmuir 2003、19、8872−8875、Published on Web09/11/2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、長波長を含む広い波長領域の光を効率的に利用することができる色素のさらなる改良が求められている点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、ナフタロシアニンおよびこの化合物の誘導体の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素と、該色素が吸着される金属酸化物多孔質半導体を有し、酸素原子を介して該金属錯体の金属原子が該金属酸化物多孔質半導体の金属原子に結合して化学吸着されてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、好ましくは、前記金属錯体の金属と前記金属酸化物多孔質半導体の金属がいずれもスズであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、好ましくは、前記色素とは別の色素が前記金属酸化物多孔質半導体に共吸着されてなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、好ましくは、前記別の色素が酸素原子を介して前記金属錯体の金属原子に結合してなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る色素増感太陽電池は、上記の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極を備えてなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法は、上記の色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法であって、金属酸化物多孔質半導体に、ナフタロシアニンおよびこの化合物の誘導体の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素を含浸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、ナフタロシアニンおよびこの化合物の誘導体の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素と、色素が吸着される金属酸化物多孔質半導体を有し、酸素原子を介して金属錯体の金属原子が金属酸化物多孔質半導体の金属原子に結合して化学吸着されてなるため、長波長を含む広い波長領域の光を効率的に利用することができる。
また、本発明に係る色素増感太陽電池は上記の色素吸着半導体電極を備えてなるため、色素吸着半導体電極の効果を好適に得ることができる。
また、本発明に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法は、金属酸化物多孔質半導体に本発明に係る色素を含浸するため、簡易な製造方法で本発明に係る色素吸着半導体電極を好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は実施例1の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図2】
図2は実施例2の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図3】
図3は実施例3の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図4】
図4は比較例の錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図5】
図5は実施例7の吸着機構を説明するための図である。
【
図6】
図6は実施例7の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図7】
図7は実施例4の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図8】
図8は実施例5の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【
図9】
図9は実施例6の金属錯体の光波長と光電変換効率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
本実施の形態に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、ポルフィリン、フタロシアニンおよびナフタロシアニンならびにこれらの化合物の誘導体の金属錯体のなかから選ばれる1または2以上を含む色素と、色素が吸着される金属酸化物多孔質半導体を有する。色素は金属酸化物多孔質半導体の金属酸化物ナノ粒子表面に吸着される。
ポルフィリンの誘導体の金属錯体の例は、以下のものを挙げることができる。また、フタロシアニンの誘導体の金属錯体の例は実施例1、2に、ナフタロシアニンの誘導体の金属錯体の例は実施例3〜6に、それぞれ挙げる。
【0024】
色素の金属錯体の中心の金属と金属酸化物多孔質半導体の金属は、同一元素であってもよく、また、異なる元素であってもよい。
色素は、酸素原子を介して金属錯体の金属原子が金属酸化物多孔質半導体の金属原子に結合する。すなわち、M1(金属酸化物多孔質半導体の金属原子)−O−M2(金属錯体の金属原子)結合となる。酸素原子は金属酸化物多孔質半導体の表面に存在するOH基に由来するものと考えられるが、金属錯体の金属原子にOH基が結合したものの場合、このOH基に由来することも考えられる。
【0025】
金属錯体の中心の金属は、金属にハロゲン基または水酸基が結合したものを含む。金属錯体の中心の金属は、例えば価数を変えること等により上記の結合形態を実現することができるが、ハロゲン基等の結合物であると、より好適に上記の結合形態を得ることができる。
金属錯体は、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基等のアンカーを含んでいてもよい。ただし、錯体に例えばカルボン酸基を導入することは合成工程が煩雑であるので、その意味ではこれらのアンカーを含まないものが好適である。
また、金属錯体は、アルキル基、芳香族基、ハロゲン化アミド、ニトリル、ニトロ基等を含んでよいし、また、不飽和結合で共役長が伸びていてもよい。
【0026】
色素吸着半導体電極は、その機能を害さない限度で、色素および金属酸化物多孔質半導体材料として他の成分を含んでもよい。
【0027】
錯体が配位結合する金属および金属酸化物多孔質半導体の金属は、それぞれ、例えば、周期表の第13族および第14の、スズ(Sn)、ケイ素(Si)、鉛(Pb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等を挙げることができる。
例えば、錯体が配位結合する金属がスズやケイ素の場合、それぞれ金属酸化物多孔質半導体の金属としてスズやチタンを好適に用いることができる。
また、錯体が配位結合する金属および金属酸化物多孔質半導体の金属が同一元素の場合、金属種は、金属酸化物多孔質半導体として有用なものである限り特に限定するものではないが、スズが好適である。
上記のように構成される本実施の形態に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、上記の金属酸化物多孔質半導体に上記の色素を含浸する製造方法により得ることができる。含浸の際は適宜の溶媒を用い、また、含浸した後、適宜の方法で乾燥する。
この本実施の形態に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極の製造方法は、色素にカルボン酸等を導入することが必須でない点で製法が簡易である。
【0028】
また、本実施の形態に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、好ましくは、上記の色素とは別の色素が金属酸化物多孔質半導体に共吸着される。金属酸化物多孔質半導体上に吸着される新規な色素の層の上に2層目として例えば従来の色素を吸着することができ、これにより相乗効果を得ることができる。
このとき、上記別の色素が酸素原子を介して前記金属錯体の金属原子に結合するものであると、すなわち、M1(多孔質半導体の金属原子)−O−M2(金属錯体の金属原子)−O−(別の色素)の結合形態であると、より好ましい。
【0029】
本実施の形態に係る色素増感太陽電池の色素吸着半導体電極は、電子注入が起こるLUMOの電子は、フタロシアニン中心部に集まっており、色素が錯体の中心部で多孔質半導体の金属と結合することにより、色素から金属酸化物多孔質半導体に有効に電子が注入される。これにより、赤外域等の長波長を含む広い波長領域の光を効率的に利用することができ、例えば、タンデム型やハイブリッド型の高効率太陽電池に好適に用いることができる。
【0030】
つぎに、本実施の形態に係る色素増感太陽電池は、本実施の形態に係る色素吸着半導体電極を備えるものであり、色素吸着半導体電極とともに、アノード電極、カソード電極および電解液を有する。
本実施の形態に係る色素増感太陽電池は、本実施の形態に係る色素吸着半導体電極の作用効果を好適に得ることができる。
【実施例】
【0031】
実施例を挙げて本発明を説明する。なお本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0032】
<光電変換素子(色素増感太陽電池)の作製>
(実施例1)
酸化スズ粉末(シーアイ化成社製NanoTek(登録商標))6gに純水1mlおよび酢酸1mlを加え、超音波照射を24時間行った後、エタノール100mlを加えさらに3時間超音波照射を行った。さらにエチルセルロース1.5g、α-テルピネオール10ml添加し十分に撹拌を行った後、ロータリエバポレーターで濃縮し酸化スズペーストを調整した。フッ素をドープした酸化スズ膜付き透明導電性ガラス基板上に酸化スズペーストをスキージ塗布し室温乾燥後、450℃で30分焼成を行い、導電性支持体(酸化スズ膜付き透明導電性ガラス基板)上に膜厚5μmの多孔質の酸化スズ膜を形成した。
N-メチル-2-ピロリドン30ml中に、下記式の金属錯体を0.1mM溶解した溶液を調製し、上記酸化スズ膜付き半導体層を支持体ごと浸漬し、6時間、80℃、大気下にて保持した。反応後、酸化スズ膜をエタノールで洗浄し室温乾燥を3回繰り返し、光電変換層(色素吸着半導体電極)を作製した。
対向電極として、酸化スズ膜付き透明導電性ガラス基板上に、白金を担持した透明導電性ガラス板を用い、両者の間に三井デュポン社製ハイミラン25μmを熱圧着し、アセトニトリル溶媒に、4-tert-ブチルピリジン580mM、沃素50mM,沃化リチウム500mMを溶解したレドックス電解質を入れた電荷移動層を作製して、光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0033】
【化1】
【0034】
(実施例2)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0035】
【化2】
【0036】
(実施例3)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0037】
【化3】
【0038】
(実施例4)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0039】
【化5】
【0040】
(実施例5)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0041】
【化6】
【0042】
(実施例6)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0043】
【化7】
【0044】
(比較例)
下記式の金属錯体を用いたほかは実施例1と同様の方法で光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0045】
【化4】
【0046】
<光電変換素子(色素増感太陽電池)の評価>
上記で得られた実施例1〜6および比較例の光電変換素子を、AM1.5,100mW/cm2のソーラーシミュレータを用いて、太陽電池特性を測定して得られた短絡電流密度Jsc(mA/cm2)および開放電圧値Voc(V)を表1に示す。これらの値は、同様の方法で作製した4サンプルの光電変換素子についての測定結果の平均値である。なお、標準偏差はいずれも0.1以下であった。
なお、実施例1〜3および比較例の光電変換素子で用いた金属錯体(色素)の光波長(横軸:単位 nm)と光電変換効率(縦軸:単位 %)の関係をこの順でそれぞれ
図1〜
図4に示す。また、実施例4〜6の光電変換素子で用いた金属錯体(色素)の光波長(横軸:単位 nm)と光電変換効率(縦軸:単位 %)の関係をこの順でそれぞれ
図7〜
図9に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、実施例1〜6は光電変換素子の特性が優れており、吸収波長領域も800nm以上に分光感度を有していることがわかる。
【0049】
<光電変換素子(色素増感太陽電池)の作製および評価>
(実施例7)
酸化スズ粉末(シーアイ化成社製NanoTek(登録商標))6gに純水1mlおよび酢酸1mlを加え、超音波照射を24時間行った後、エタノール100mlを加えさらに3時間超音波照射を行った。さらにエチルセルロース1.5g、α-テルピネオール10ml添加し十分に撹拌を行った後、ロータリエバポレーターで濃縮し酸化スズペーストを調整した。フッ素をドープした酸化スズ膜付き透明導電性ガラス基板上に酸化スズペーストをスキージ塗布し室温乾燥後、450℃で30分焼成を行い、導電性支持体上に膜厚5μmの多孔質の酸化スズ膜を形成した。
N-メチル-2-ピロリドン30ml中に、実施例1で用いた金属錯体を0.1mM溶解した溶液を調製し、上記酸化スズ膜付き半導体層を支持体ごと浸漬し、6時間、80℃、大気下にて保持した。この操作を3度くり返した。反応後、酸化スズ膜をエタノールで洗浄し室温乾燥を3回繰り返し、光電変換層を作製した。さらに、本基板(光電変換層)を0.1mMのRu色素(N719 ソラロニクス社製)に浸漬した。
対向電極として、フッ素をドープした酸化スズ膜付き透明導電性ガラス基板上に、白金を担持した透明導電性ガラス板を用い、前記導電性支持体と対向電極との間に三井デュポン社製ハイミラン25μmを熱圧着し、アセトニトリル溶媒に、4-tert-ブチルピリジン580mM、沃素50mM,沃化リチウム500mMを溶解したレドックス電解質を入れた電荷移動層を作製して、光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の短絡電流は12 mA/cm2で、N719のみを吸着させた場合の8mA/cm2、実施例1で用いた金属錯体のみを吸着させた場合の4mA/cm2よりも高かった。
なお、光電変換層を作製する際の浸漬時間を変化させ、実施例1で用いた金属錯体の吸着量とN719の吸着量を比較したところ、実施例1で用いた金属錯体は時間経過とともに吸着量が増加したが、これに伴うN719の吸着量の減少は少なかった。これは、実施例1で用いた金属錯体が金属酸化物の吸着サイトを満たしたとしても、吸着サイトが新しく生まれることでN719の吸着量が減らないことを意味するものと考えられる。このときの吸着機構は、
図5に示すものが考えられる。実施例1で用いた金属錯体の中心金属に酸素原子を介してN719が結合する。なお、
図5中、Ruはルテニウムを、NCSはN=C=Sを、TBAはTetrabutyl ammoniumを、それぞれ示す。
金属錯体(色素)の光波長(横軸:単位 nm)と光電変換効率(縦軸:単位 %)の関係を
図6に示す。
図6中、点線(SPC6)は実施例1で用いた金属錯体、破線(N719)はN719および実線(SPC6(N719))は実施例7を、それぞれ示す。