(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816649
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】流体吐出デバイス内で流体をバイパス循環させる流体吐出デバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20151029BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/14 609
B41J2/18
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-87595(P2013-87595)
(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-230677(P2013-230677A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年2月26日
(31)【優先権主張番号】61/641,137
(32)【優先日】2012年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン フォン エッセン
(72)【発明者】
【氏名】ポール エイ. ホイジントン
【審査官】
鈴木 友子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/142889(WO,A1)
【文献】
特開2003−311984(JP,A)
【文献】
特開2010−241002(JP,A)
【文献】
特開2010−179602(JP,A)
【文献】
特開2003−039678(JP,A)
【文献】
特開2011−079251(JP,A)
【文献】
特開2009−018540(JP,A)
【文献】
特開2011−230411(JP,A)
【文献】
特開2010−214847(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/143362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − B41J 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体供給室及び流体回収室を有する流体マニホールドと、
流体を受け入れる流路入口と、流体の液滴を吐出するノズルと、吐出されなかった流体を流出させる流路出口と、をそれぞれ有する複数の流路を画成し、前記流体マニホールドに結合された、基板と、
前記流体マニホールドと前記基板との間に配設された流体分配構造体と、
を備える流体吐出デバイスであって、
前記流体分配構造体は、
前記流体供給室に流体的に結合された供給流路入口と、前記複数の流路の一つに流体的に結合された供給流路出口と、をそれぞれ有する複数の流体供給流路と、
前記複数の流路の一つに流体的に結合された回収流路入口と、前記流体回収室に流体的に結合された回収流路出口と、をそれぞれ有する複数の流体回収流路と、
前記流体供給室に流体的に結合されたバイパス入口と、前記流体回収室に流体的に結合されたバイパス出口と、をそれぞれ有する複数の流体バイパス流路と、
を備え、
前記複数の流体供給流路、前記複数の流体回収流路及び前記複数の流体バイパス流路は、同一平面内に配置され、
前記複数の流体供給流路の配列方向と、前記複数の流体回収流路の配列方向と、前記複数の流体バイパス流路の配列方向と、が前記平面に平行な第一の方向について平行であり、
前記複数の流体供給流路及び前記複数の流体回収流路のそれぞれの長手方向が、前記平面に平行な第二の方向について平行であり、
前記平面上で各流体供給流路と各流体回収流路とは互い違いに配置され、
各流体供給流路と各流体回収流路との前記供給流路出口と前記回収流路入口とは、前記平面上で前記第一の方向に沿って交互に隣り合って配置され、
各流体バイパス流路は、前記互い違いに配置された各流体供給流路と各流体回収流路との間に配置され、
各流体バイパス流路は、前記バイパス入口と前記バイパス出口との間で各流体バイパス流路に付加的な流動抵抗を与える括れ部を、前記交互に隣り合って配置された前記供給流路出口と前記回収流路入口との間に有する、
流体吐出デバイス。
【請求項2】
前記複数の流体バイパス流路及び前記複数の流体回収流路は、並列に前記流体回収室に接続される、請求項1に記載の流体吐出デバイス。
【請求項3】
前記流体分配構造体はインターポーザ層を備え、前記複数の流体供給流路、前記複数の流体回収流路及び前記複数の流体バイパス流路は前記インターポーザ層の下面内の凹部である、請求項1又は2に記載の流体吐出デバイス。
【請求項4】
前記供給流路入口、前記回収流路出口、前記バイパス入口及び前記バイパス出口は、前記インターポーザ層の上面内の開口である、請求項3に記載の流体吐出デバイス。
【請求項5】
前記バイパス入口の前記開口は、前記供給流路入口の前記開口よりも小さい、請求項4に記載の流体吐出デバイス。
【請求項6】
前記インターポーザ層の上面は、前記流体供給室に露出されている供給部分と、前記流体回収室に露出されている回収部分と、を有する、請求項3乃至5のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項7】
前記流体分配構造体はモノリシックシリコン体である、請求項1乃至6のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項8】
前記複数の流体バイパス流路及び前記複数の流体供給流路は、並列に前記流体供給室に接続される、請求項1乃至7のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項9】
前記複数の流体バイパス流路は、前記流体供給室を通って流れる流体の過半を受け入れるように構成される、請求項1乃至8のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項10】
前記複数の流体バイパス流路は、前記流体供給室から流体を受け入れるように配置構成され、
前記括れ部は、各流体バイパス流路を通る流体の流量を調節して所定の実効熱抵抗を達成するように構成される、
請求項1乃至9のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項11】
前記基板に結合され、前記ノズルから液滴を吐出させる、アクチュエータと、
前記アクチュエータを制御するように構成されている回路と、を更に備え、
前記所定の実効熱抵抗は、前記回路及び前記アクチュエータが作動中に発生する熱を放散させて前記基板の温度上昇を所定の閾値未満とするのに十分なものである、
請求項10に記載の流体吐出デバイス。
【請求項12】
前記基板の温度上昇の所定の閾値は約2℃以下である、請求項11に記載の流体吐出デバイス。
【請求項13】
前記流体分配構造体の表面上において、前記バイパス入口は前記供給流路入口に対して平面方向にずれていて、前記バイパス入口は前記供給流路入口よりも前記表面の外辺に近い、請求項1乃至12のいずれかに記載の流体吐出デバイス。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の流体吐出デバイス内で流体を循環させる方法であって、
前記複数の流体供給流路に、前記流体供給室から流体の第1の流れを流すステップと、
前記基板の前記流路入口と前記ノズルと前記流路出口とをそれぞれ有する前記複数の流路に、前記複数の流体供給流路から流体の前記第1の流れを流すステップと、
流体の前記第1の流れを流すステップと同時に、前記複数の流体バイパス流路に、前記流体供給室から流体の第2の流れを流すステップと、
を含む方法。
【請求項15】
流体の前記第2の流れを流すステップは、流体の前記第2の流れを前記括れ部内に流すステップを含み、前記括れ部は流体の前記第2の流れの流量を調節する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
流体の前記第2の流れの前記流量は、所定の熱抵抗を達成するのに十分なものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
各流体バイパス流路における流体の前記第2の流れは、各流路において前記ノズルが最大の吐出頻度及び吐出滴径で動作するときに前記流路出口から流れ出る流体の前記第1の流れよりも大きい、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の流体回収流路に、流体の前記第1の流れのうち吐出されなかった部分を流すステップと、
流体の前記第1の流れのうち前記吐出されなかった部分を、前記複数の流体回収流路から前記流体回収室に流すステップと、
を更に含む、請求項14乃至17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に流体吐出デバイス内での流体のバイパス循環に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの流体吐出デバイスにおいて、流体ポンプ室及びノズルを有する流路を基板内に形成することができる。印刷動作などにおいて、ノズルから液滴を媒体上に吐出させることができる。流体ポンプ室は、熱アクチュエータや圧電アクチュエータなどのトランスデューサによって駆動され、駆動時に、流体ポンプ室は、ノズルを介して液滴の吐出を生じさせることができる。媒体は、流体吐出デバイスに対して相対的に、例えば、媒体走査方向に移動させることができる。液滴の吐出と媒体の移動とのタイミングを合わせることにより、液滴を媒体上の所望の位置に配置することができる。流体吐出デバイスは、典型的には、対応する流体流路及び関連するアクチュエータを備える一列又は複数列の複数のノズルを有し、各ノズルからの液滴の吐出は、一つ又は複数のコントローラによって独立に制御することができる。いくつかの場合において、吐出されなかった流体の少なくとも一部を再循環させて、気泡、空気が混入したインク、異物、その他の汚染物質を基板から除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0148988号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0128335号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、流体吐出デバイス内で流体をバイパス循環させる流体吐出デバイス及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本明細書で開示されるシステム、装置及び方法は、流体吐出デバイスを特徴とする。流体吐出デバイスは、流体マニホールドと、流体マニホールドに結合された基板と、流体マニホールドと基板との間に配設された流体分配構造体と、を備える。流体マニホールドは、流体供給室及び流体回収室を備える。基板は、流体を受け入れる流路入口と、流体の液滴を吐出するノズルと、吐出されなかった流体を流出させる流路出口と、を有する流路を画成する。流体分配構造体は、流体供給室に流体的に結合された供給流路入口と、流路に流体的に結合された供給流路出口と、を有する流体供給流路を備える。流体分配構造体は、流体バイパス流路であって、流体供給室に流体的に結合されたバイパス入口と、流体回収室に流体的に結合されたバイパス出口と、バイパス入口とバイパス出口との間で流体バイパス流路に付加的な流動抵抗を与える流体バイパス流路の括れ部を含む流れ抑制部と、を有する流体バイパス流路も備える。
【0006】
様々な実施形態において、流体分配構造体は、流路に流体的に結合された回収流路入口と、流体回収室に流体的に結合された回収流路出口と、を有する流体回収流路を更に備える。流体バイパス流路及び流体回収流路は、並列に流体回収室に接続されることができる。
【0007】
様々な実施形態において、流体分配構造体はインターポーザ層を備え、流体バイパス流路はインターポーザ層の下面内の凹部である。供給流路入口、バイパス入口及びバイパス出口は、インターポーザ層の上面内の開口であってもよい。バイパス入口の開口は、供給流路入口の開口よりも小さくてもよい。
【0008】
様々な実施形態において、インターポーザ層の上面は、流体供給室に露出されている供給部分と、流体回収室に露出されている回収部分と、を有する。
【0009】
様々な実施形態において、流体分配構造体はモノリシックシリコン体である。
【0010】
様々な実施形態において、流体バイパス流路及び流体供給流路は、並列に流体供給室に接続される。
【0011】
様々な実施形態において、流体バイパス流路は、流体分配構造体によって画成される複数の流体バイパス流路の一つである。これら複数の流体バイパス流路は、流体供給室を通って流れる流体の過半を受け入れるように構成されてもよい。
【0012】
様々な実施形態において、流体バイパス流路は、流体供給室から流体を受け入れるように配置構成され、流れ抑制部は、流体バイパス流路を通る流体の流量を調節して所定の実効熱抵抗を達成するように構成される。流体吐出デバイスは、基板に結合され、ノズルから液滴を吐出させる、アクチュエータと、アクチュエータを制御するように構成されている回路と、を更に備えることができる。所定の実効熱抵抗は、回路及びアクチュエータが作動中に発生する熱を放散させて基板の温度上昇を所定の閾値未満とするのに十分なものである。基板の温度上昇の所定の閾値は約2℃以下とすることができる。
【0013】
様々な実施形態において、流体分配構造体の表面上において、バイパス入口は供給流路入口に対して平面方向にずれていて、バイパス入口は供給流路入口よりも表面の外辺に近い。
【0014】
別の態様では、本明細書で開示されているシステム、装置及び方法は、流体吐出デバイス内で流体を循環させる方法を特徴とする。この方法は、流体供給室に結合された流体分配構造体上に形成された流体供給流路に、流体供給室から流体の第1の流れを流すステップと、流体分配構造体に結合された基板の、流体を受け入れる流路入口と、流体の液滴を吐出するノズルと、吐出されなかった流体を流出させる流路出口と、を有する流路に、流体供給流路から流体の第1の流れを流すステップと、流体の第1の流れを流すステップと同時に、流体バイパス流路であって、流体バイパス流路に付加的な流動抵抗を与える流体バイパス流路の括れ部を含む流れ抑制部を備える流体バイパス流路に、流体供給室から流体の第2の流れを流すステップと、を順に含む。
【0015】
様々な実施形態において、流体の第2の流れを流すステップは、流体の第2の流れを流れ抑制部上に流すステップを含み、流れ抑制部は流体の第2の流れの流量を調節する。流体の第2の流れの流量は、所定の熱抵抗を達成するのに十分なものであってもよい。
【0016】
様々な実施形態において、流体の第2の流れは、ノズルが最大の吐出頻度及び吐出滴径で動作するときに流路出口から流れ出る流体の第1の流れよりも大きい。
【0017】
様々な実施形態において、本方法は、流体分配構造体内に形成された回収流路に、流体の第1の流れのうち吐出されなかった部分を流すステップと、流体の第1の流れのうち吐出されなかった部分を、回収流路から回収室に流すステップと、を更に含む。
【0018】
本明細書で説明されている発明の特定の実施形態は、以下の利点のうちの一つ又は複数を実現するために実施することができる。吐出される液滴の均一性を高めると共にプリントヘッドモジュールの温度を制御するように調節することができる流体のバイパス流を、プリントヘッドモジュールを通して循環させる、流体分配構造体を構成することができる。
【0019】
本明細書で説明されている発明の一つ又は複数の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の説明で述べられる。発明の他の特徴、態様及び利点は、本説明、図面、及び請求項から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1C】ノズル層を示すプリントヘッドダイの下面図である。
【
図2A】
図1Aに示す流体吐出デバイスの流体分配構造体の分離図である。
【
図2B】
図2Aに示す流体分配構造体の第2のインターポーザ層の部分的透視上面図である。
【
図2C】
図2Bに示す第2のインターポーザ層の下面図である。
【0021】
特徴、工程段階及び結果を見やすくするために、層及び形状の多くが誇張されている。様々な図面中の類似の参照番号及び指示記号は、類似の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
プリントヘッドモジュールを備える流体吐出デバイスによって、液滴の吐出を行うことができる。プリントヘッドモジュールは、液滴を印刷媒体上へ吐出するように構成された基板を備えることができる。プリントヘッドモジュール内に流体を循環させるために、流体分配構造体を設けることができる。例えば、流体分配構造体は、流体吐出のための流体が基板を循環するように設計することができる。流体分配構造体は、流体のバイパス流を循環させることもでき、このバイパス流は、吐出される液滴の均一性を高めると共にプリントヘッドモジュールの温度を制御するように調節することができる。
【0023】
図1A及び1Bに、流体吐出デバイス100を例示する。流体吐出デバイス100は、印刷媒体上に液滴を配置するためのプリントヘッドモジュール102と、プリントヘッドに結合されて流体吐出デバイス100をプリンタシステム(不図示)に電気的に接続するフレキシブル回路110と、を含む。例えば、フレキシブル回路110は、プリンタシステムのプロセッサからデータを受信して駆動信号をプリントヘッドモジュール102に送るように構成されることができる。
【0024】
プリントヘッドモジュール102は、液滴を印刷媒体上へ吐出するように構成された基板104(本明細書の説明では「ダイ」と称する)を含む。液滴の吐出中に、ダイ104と印刷媒体とを相対運動させることができる。流体は、例えば、インク、化学的物質、又は他の好適な流体(例えば、生物学的液体)であってもよい。ダイ104は、微細加工された複数の流体流路を含むことができ、流体流路のそれぞれは、流体を受け入れる流路入口と、液滴を吐出するノズルと、吐出されなかった流体を流出させる流路出口と、を含むことができる。参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,157,352号が、そのような流路を説明している。流体を、一つ又は複数のポンプによってダイ104内の流路を介して循環させることができる。しかし、ポンプを用いて流体を流路に送り込むと、流体の流れに乱れを生じさせて印刷品質に影響を与える可能性がある。いくつかの例では、流体のバイパス流を利用して、流体に流路を流れさせるのに十分な圧力低下をダイ104に生じさせ、ポンプを不要にすることができる。いくつかの例では、流体のバイパス流を利用して、プリントヘッドモジュール102の流体供給部と流体回収部との間で流体の分配が不均衡になることによって生じることがある圧力の乱れを抑制することができる。特に、このような圧力の乱れは、ノズルからの吐出頻度が高いときに回収側に流体が不十分である場合に生じることがある。
【0025】
ダイ104は、例えば、流路本体部とノズル層とを含む多層構造体であってもよい。流路本体部は、流体ポンプ室を含むことができ、ノズルからの液滴の吐出を制御するために集積回路ウエハによって制御されるアクチュエータが設けられてもよい。アクチュエータ及び集積回路は、ダイ104全体に分散される熱を発生しうる。
図1Cに、ダイ104のノズル層103を示す。ノズル層103は、ノズル107を含むノズル面105を有する。Y方向は、ダイ104に対する印刷媒体の移動方向であり、X方向は、Y方向に垂直である。ノズル層103の長辺は、ダイ104の長手方向に沿ってV方向に配向される。V方向は、X方向に対して角度γを成す。ノズル層103の短辺は、ダイ104の幅方向に沿ってW方向に配向される。W方向は、Y方向に対して角度αを成す。
【0026】
図1A及び1Bに戻り、プリントヘッドモジュール102は、ハウジング106と、流体マニホールド108と、流体分配構造体112と、を更に含む。ハウジング106は、流体を流体容器から受け入れてダイ104に供給するように配置構成された入口流路(不図示)を含むことができる。流体マニホールド108は、ハウジング106の入口流路から流体を受け入れる流体供給室114と、ノズル107によって吐出されなかった流体を収容する流体回収室116と、を含む。流体マニホールド108は、例えば、成形や切削加工によって形成された凹部を下面に有するプラスチック体であってもよく、これにより、流体マニホールド108の下面が例えば接着剤によって流体分配構造体112の上部に固定されたときに、凹部の流体分配構造体112の上の体積部分が流体供給室114及び流体回収室116を画成する。例えば、流体容器内で一つ又は複数のポンプを用いることにより、又は流体容器内の液位を変化させることにより、流体供給室114と流体回収室116との間に圧力差を生じさせることができる。この圧力差により、流体をプリントヘッドモジュール102内で循環させることができる。
【0027】
流体分配構造体112は、第1のインターポーザ層118及び第2のインターポーザ層120を含む。インターポーザ層118及び120は、流体マニホールド108とダイ104との間に配置される。流体分配構造体112は、流体を流体供給室114から受け入れてダイ104内の複数の流路に分配することができる。流体の分配は、インターポーザ層118及び120によって構成される一つ又は複数の供給流路(例えば、
図2B及び2Cに示す供給流路130)によって行われることができる。流体供給流路は、ダイ104内の各流路と流体的に連通することができる。
【0028】
流体は、液滴がノズル107から吐出されているかどうかに関係なく、ダイ104内の流路を介して連続的に循環させることができる。ノズル107から液滴を吐出することなくダイ104内の流路を介して一定の流体の流れを維持することにより、非作動状態が長くてもノズル表面の乾燥を防ぐことができる。待機時間中にノズル表面を濡れたままにすることにより、インク固化物がノズル表面に堆積して印刷品質に影響を及ぼすことを防ぐことができる。ノズルから吐出されなかった流体は、流体分配構造体112のインターポーザ層118及び120によって構成される一つ又は複数の回収流路(例えば、
図2B及び2Cに示す回収流路140)を介して流体回収室116へ再循環させることができる。例えば、回収流路140は、各流路に関連する各ノズル出口を介して各流路と流体的に連通することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、再循環して流体回収室116内に集められた流体は、除去が容易でない汚染物質(気泡、乾燥したインク、異物など)を再循環した流体が含んでいる場合、廃棄することができる。いくつかの実施形態では、再循環した流体を更に循環させて流体供給室114に戻し、流体供給室114に新たに加えられた流体と共に、その後の流体吐出動作に再利用することができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、一つ又は複数のフィルタを流体回収室116及び/又は流体供給室114内の様々な場所に配置して、汚染物質(気泡、空気が混入した流体、乾燥したインク、異物など)を除去することができる。いくつかの実施形態では、単一のフィルタを流体供給室114内に配置して(流体回収室116内には配置しないで)、流体が流体分配構造体112に入る前に流体を濾過することができる。フィルタを一つだけ用いることは、流体吐出デバイス100の複雑さ及び費用を低減することに役立ちうる。更に、流体回収室116内でフィルタを使用しないことにより、気泡を、フィルタによって捕捉せずに、流体回収室116からより容易に除去又は放出することができる。いくつかの実施形態では、流体回収室116内でフィルタが用いられる場合、捕捉された気泡を放出するために放出弁(例えば、孔)を流体回収室に設けることができる。
【0031】
ダイ104内の流路に流入しそこから流出する流体の流れに加えて、プリントヘッドモジュール102を通る流体のバイパス流を流体分配構造体112が生じさせることができる。上述したように、流体のバイパス流を利用して、プリントヘッドモジュール102内の圧力の乱れを抑制又は防止することができる。プリントヘッドモジュール102内にバイパス流を循環させることにより、ダイ104の構成部品(例えば、ノズル107)を所望の温度に維持しやすくなる効果もある。ある特定の流体について、ノズルにおける流体の温度がある特定の温度又は温度範囲であることが望ましい場合がある。例えば、ある特定の流体は、ある所望の温度範囲内で物理的、化学的、又は生物学的に安定している場合がある。印刷品質に影響を及ぼす流体の様々な特性、例えば、粘度、密度、表面張力、及び/又は体積弾性率は、流体の温度によって変化しうる。流体の温度を制御することにより、流体の変化した特性が印刷品質に対して及ぼしうる悪影響の低減又は管理がしやすくなる。また、ある特定の流体は、ある所望の温度範囲内で、望ましい又は最適な吐出特性や他の特性を有する場合がある。流体の吐出特性は温度によって変化する場合があるので、ノズルにおける流体の温度を制御することにより、液滴の吐出を均一にしやすくもなる。
【0032】
ノズル107における流体の温度は、ノズル層103の温度制御によって制御される。所望の温度を維持するために、流体分配構造体112を介して循環する流体(例えば、吐出されなかった再循環流体及びバイパス流体)を、ノズル層103に熱的に結合させることができる。例えば、第1のインターポーザ層118及び第2のインターポーザ層120は、プラスチックなどの熱伝導率が低い材料ではなく、シリコンなどの熱伝導率が高い材料を含むことができる。したがって、ノズル107における流体の熱制御は、流体分配構造体112内の循環流体とノズル層103との間の熱交換率を調節することによってなされる。熱交換率は、循環流体の温度及び流量、更には流体分配構造体112がもたらす熱伝達表面積を含む、多くの特性に依存しうる。
【0033】
いくつかの実施形態では、流体の温度は、ダイ104、流体供給室114、流体回収室116、その他の好適な場所(図示されている場所、又は不図示の場所)の内側や外側に配置されたり取り付けられたりした温度センサ(不図示)によって監視することができる。加熱装置及び/又は冷却装置などの流体温度制御装置を、システム内に配置して、流体の温度を制御するように構成してもよい。制御回路が、温度センサによって読み取られた温度を検知及び監視し、それに応じて加熱装置及び/又は冷却装置を制御して、流体を所望又は所定の温度に維持するように構成してもよい。更に、流れ制御装置を用いて、流体供給室114と流体回収室116との間の圧力差を調節することにより、プリントヘッドモジュール内の様々な循環流路を通る流量を調節することができる。この流量が大きいほど、基板と温度が制御された流体との間の熱交換が増大し、基板の温度を所望の程度により近づけることができる。
【0034】
図2A〜2Cに、流体分配構造体112の様々な図を示す。
図2Aに示すように、第1のインターポーザ層118及び第2のインターポーザ層120は、ダイ104と平行な積層構成として配置することができる。第2のインターポーザ層120は積層の(流体マニホールド108に面する)上側に置かれ、ダイ104は積層の下側に置かれ、第1のインターポーザ層118はそれらの間に配置される。この例では、第1のインターポーザ層118及び第2のインターポーザ層120は、実質的に平坦なモノリシックシリコン体であり、(
図2Aに示す平面方向のY方向及びX方向の)幅及び長さに比べて(
図2Aに示す垂直方向のZ方向の)厚さが小さい。好適な微細加工技術(例えば、シリコンのエッチング)を利用して、第1のインターポーザ層118及び第2のインターポーザ層120内に様々な流体分配形状を形成することができる。
【0035】
第2のインターポーザ層120の上面122は、流体分配のために働く様々な形状を含む。特に、上面122の供給部分124は、流体分配構造体112が流体マニホールド108に接着されたときに流体供給室114に対して開いていて、供給流路入口126及びバイパス入口128の各配列を含む。供給流路入口126の配列は、上面122の供給部分124上に長手方向に延在する列状に配置された第1の一連の開口部である。
図2B及び2Cに示すように、供給流路入口126は、対応する供給流路130に対して開いている。供給流路130のそれぞれは、第2のインターポーザ層120の下面127内の凹部として形成される。供給流路130は、供給流路入口126の真下の位置から第2のインターポーザ層120の中央部まで平面幅方向に延在し、供給流路出口144で終端する。第1のインターポーザ層118は、供給流路130の供給流路出口144と位置合わせされた垂直流路(不図示)を備えることができる。第1のインターポーザ層118のこの垂直流路は、ダイ104の流路に至っていてもよい。
【0036】
バイパス入口128の配列は、供給部分124上の第2の一連の開口である。バイパス入口128は、供給流路入口126に対して平面外側方向にずらすことができる。例えば、バイパス入口128が、供給流路入口126よりも、上面122の外側縁125に近くてもよい。バイパス入口128は、対応するバイパス流路132に対して開いている。バイパス流路132のそれぞれは、第2のインターポーザ層120の下面127内に凹部として形成され(
図2B及び2C参照)、第2のインターポーザ層120上に平面幅方向に延在する。この例では、供給流路入口126及びバイパス入口128は、上面122上に長手方向に延在する交互のパターン状に配置され、対応する供給流路130及びバイパス流路132はそれらの流路が互いに平行になるように互い違いに配置される。バイパス入口128は、供給流路入口126よりも小さい開口であってもよい。一対の供給流路入口126の間に、二つのバイパス入口128を配置することができる。
【0037】
上面122の回収部分134は、流体回収室116に対して開いていて、供給部分124と同様に構成される。特に、回収部分134は、回収流路出口136及びバイパス出口138の各配列を含む。回収流路出口136の配列は、上面122の回収部分134上に長手方向に延在する列状に配置された第1の一連の開口部である。
図2B及び2Cに示すように、回収流路出口136は、対応する回収流路140に対して開いている。回収流路140のそれぞれは、第2のインターポーザ層120の下面127内の凹部として形成される。回収流路140は、第2のインターポーザ層120の中央部の回収流路入口146から回収流路出口136の真下の位置まで平面幅方向に延在する。第1のインターポーザ層118は、回収流路140の回収流路入口146と位置合わせされた垂直流路(不図示)を備えることができる。第1のインターポーザ層118のこの垂直流路は、ダイ104の流路から延びていてもよい。
【0038】
バイパス出口138の配列は、回収部分134上の第2の一連の開口である。バイパス出口138は、回収流路出口136に対して平面外側方向にずらすことができる。例えば、バイパス出口138が、回収流路出口136よりも、上面122の外側縁123に近くてもよい。バイパス出口138は、バイパス流路132に対して開いている(
図2B及び2Cを参照)。この例では、回収流路出口136及びバイパス出口138は、上面122上に長手方向に延在する交互のパターン状に配置される。対応する回収流路140及びバイパス流路132は、それらの流路が互いに平行になるように互い違いに配置される。バイパス出口138は、回収流路出口136よりも小さい開口であってもよい。一対の回収流路出口136の間に、二つのバイパス出口138を配置することができる。
【0039】
図2B及び2Cに示すように、バイパス流路132のそれぞれは、流れ抑制部142を備える。流れ抑制部142は、供給流路出口144と回収流路入口146との間に配置される。流れ抑制部142は、バイパス流路132に付加的な流動抵抗を与えることができる。したがって、流れ抑制部142が、バイパス流路132を通って流れることができる流体の量を制御する。いくつかの例において、バイパス流路132内の流動抵抗が供給流路130内の流動抵抗よりも大きくなるように流れ抑制部142を設計することにより、流体供給室114からの流体がダイ104の流路にも流れるようにする。この例では、流れ抑制部142は、バイパス流路132の幅が狭まった部分によって形成された、バイパス流路132の括れ部である。この括れ部の流路幅は、バイパス流路132の流れ抑制部142の上流側に接続する部分及び流れ抑制部142の下流側に接続する部分のどちらの流路幅よりも狭い。比較的広い熱伝達表面積を形成しながらも、この括れ部により、バイパス流路132を通る流量を厳密に制御することができる。
【0040】
バイパス流路132の設計に際して、所望の温度制御範囲、更には第2のインターポーザ層120及び循環流体によって生じる実効熱抵抗も考慮することができる。「総熱抵抗」は、プリントヘッドモジュール102が最小の温度上昇で出力を放散する能力の尺度である。この場合、循環流体の大部分がバイパス流路132を通って流れるので、「実効熱抵抗」を決めることができる。実効熱抵抗は、バイパス流路132を通る流体の流れについて、ノズル層103によって第2のインターポーザ層120に伝えられる発熱率(即ち、出力)単位当たりの予想温度変化を表す。実効熱抵抗Rは、
【0041】
(数1)
R=1.0/(流体の密度×流体の比熱×流体の流量×効率)
と定義することができる。ここで、効率とは、第2のインターポーザ120が循環流体(即ち、流体のバイパス流)との熱交換をどれだけよくできるかを示す尺度である。効率は、流体の熱伝導率、流体の密度、流体の比熱、流体の流量、更にはバイパス流路132によって形成される熱伝達表面積などに依存しうる。数学的には、効率は、
【0042】
(数2)
(流出流体温度−流入流体温度)/(インターポーザ温度−流入流体温度)
と定義される。ここで、流出流体温度は第2のインターポーザ層120から流出する流体の温度であり、流入流体温度は第2のインターポーザ層120に流入する流体の温度であり、インターポーザ温度は第2のインターポーザ層120の温度である。
【0043】
バイパス入口128、バイパス出口138及び流れ抑制部142は、ダイ104のノズル及び他の部分を所望の温度又は所望の温度範囲(例えば、約1℃から2℃の温度上昇)に維持するのに十分な効率及び熱抵抗を得るために適したバイパス流路132を通る流量を達成するように、特に設計又は調整されうる。
【0044】
バイパス入口128、バイパス出口138及び流れ抑制部142は、最小のバイパス流体流量の制約を考慮して設計することもできる。例えば、いくつかの実施形態では、回収流路140内の逆流を防ぐために、流体のバイパス流は、少なくともピーク噴射流量(例えば、全ノズルが液滴を吐出しているときにノズルから出る流量)よりも大きい程度に維持される。別の例として、流体をダイ104の流路に通すために、流体のバイパス流をある一定の程度に維持する必要がある場合がある。
【0045】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、「前」、「後」、「上」、「下」、「・・・の上」、「・・・より上」及び「・・・より下」などの表現は、システム、プリントヘッド及び本明細書で説明されている他の要素の様々な構成部品の相対的な位置を説明するために使用される。同様に、要素を説明するための水平や垂直という表現も、システム、プリントヘッド及び本明細書で説明されている他の要素の様々な構成部品の相対的な配向を説明するために使用される。特に断りのない限り、このような表現の使用は、地球の重力の方向、地球の地表面や、システム、プリントヘッド及び他の要素が操作、製造及び輸送の際に配置されうる他の特定の位置又は配向について、プリントヘッド又は他の構成要素の特定の位置や配向を意味するものではない。
【0046】
多くの実施形態が説明された。それにもかかわらず、説明されている思想及び範囲を逸脱することなく他の様々な変更がなされ得ることが理解されるであろう。