特許第5816679号(P5816679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816679
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】レンズ装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 9/02 20060101AFI20151029BHJP
   G02B 7/02 20060101ALI20151029BHJP
   G02B 7/08 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   G03B9/02 E
   G02B7/02 H
   G02B7/08 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-505932(P2013-505932)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2012056711
(87)【国際公開番号】WO2012128179
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-62963(P2011-62963)
(32)【優先日】2011年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100164758
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 博道
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正
【審査官】 辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−150288(JP,A)
【文献】 特開昭58−017427(JP,A)
【文献】 特開2003−101873(JP,A)
【文献】 特開2002−354339(JP,A)
【文献】 特開昭63−262633(JP,A)
【文献】 実開昭62−179703(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 9/02
G02B 7/02
G02B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置であって、
前記光学素子に印加する電圧を制御して前記光学素子の光透過率を制御する光学素子駆動部と、
前記光学素子に光を照射する発光素子と、
前記発光素子から照射された光のうちの前記光学素子を透過した光を受光する受光素子と、
前記光学素子駆動部によって光透過率を最大にした状態の前記光学素子の遮光された部分に、遮光された状態の前記発光素子から光を照射して、遮光された状態の前記受光素子により前記光学素子を透過した光を受光し、該受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーション処理を行う制御部と、
を備え、
前記光学素子駆動部は、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御し、
前記制御部は、前記レンズ装置の電源投入直後に前記キャリブレーション処理を行い、その後は、前記指示が前記倍率を1倍にする指示であった場合に、前記キャリブレーション処理を再度行うレンズ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレンズ装置であって、
前記制御部は、前記レンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録がなされている期間中は、前記キャリブレーション処理を禁止するレンズ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレンズ装置であって、
前記光学素子の一部を遮光する遮光部を備え、
前記発光素子及び前記受光素子は、前記遮光部によって遮光される領域に配置されるレンズ装置。
【請求項4】
請求項3記載のレンズ装置であって、
前記光学素子は、前記レンズ装置の光軸に対して垂直に設けられた板状の素子であり、前記遮光部によって遮光される部分と前記遮光部によって遮光されない部分との境界部分に光を透過しない非透過領域が形成されるものであるレンズ装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載のレンズ装置であって、
前記光学素子よりも被写体側に設けられる絞りを備え、
前記発光素子及び前記受光素子は、前記絞りよりも前記光学素子側に配置されており、
前記制御部は、前記キャリブレーション処理において、前記絞りを完全に閉じた状態、かつ、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して、前記基準透過率の設定を行うレンズ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のレンズ装置であって、
前記制御部は、前記キャリブレーション処理において前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して前記基準透過率を設定し、
前記発光素子は、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射したときの前記光学素子を透過した光を受光して得られる前記受光素子の出力が飽和しないように、その発光量が制限されるレンズ装置。
【請求項7】
電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置の制御方法であって、
前記光透過率を最大にした状態の前記光学素子の遮光された部分に、遮光された状態の発光素子から光を照射して、遮光された状態の受光素子により前記光学素子を透過した光を受光し、該受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーションステップと、
前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力値が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御するステップとを備え、
前記レンズ装置の電源投入直後に前記キャリブレーションステップを行い、その後、前記指示が前記倍率を1倍にする指示であった場合に、前記キャリブレーションステップを再度行うレンズ装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7記載のレンズ装置の制御方法であって、
前記レンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録がなされている期間中は、前記キャリブレーションステップを禁止するレンズ装置の制御方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のレンズ装置の制御方法であって、
前記レンズ装置は、前記光学素子よりも被写体側に設けられる絞りを備え、
前記発光素子及び前記受光素子は、前記絞りよりも前記光学素子側に配置されており、
前記キャリブレーションステップでは、前記絞りを完全に閉じた状態、かつ、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して、前記基準透過率の設定を行うレンズ装置の制御方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項記載のレンズ装置の制御方法であって、
前記キャリブレーションステップでは前記光学素子の光透過率を最大にした状態で発光素子から前記光学素子に光を照射して前記基準透過率を設定し、
前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射したときの前記光学素子を透過した光を受光して得られる前記受光素子の出力が飽和しないように、前記発光素子の発光量を制限するレンズ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ等の光学系に用いられる光量調整装置においては、光路中にNDフィルタを挿入する装置を絞り装置とは別に設けて、撮像面に入射する光の光量を調整している。
【0003】
しかしながら、この調整方法においては、絞り装置とは別に光路中へのNDフィルタ挿入装置を設ける必要がある。このため、撮像面に入射する光の光量を調整する装置全体が大きく複雑になる。また、NDフィルタの挿入時及び脱出時に撮像面への入射光が遮断されるため、ムービーカメラにおいては、連続した画像が得られなくなる。
【0004】
そこで、下記特許文献1〜3に示されるように、光透過率を調整できる液晶素子やエレクトロ・クロミック(EC)素子等の光学素子を光路中に設け、この光学素子の光透過率を調整して、撮像面に入射する光の光量を調整するという提案が数多くなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2000−227618号公報
【特許文献2】日本国特開2004−93786号公報
【特許文献3】日本国特開平10−32832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3では、光学素子の光透過率をフォトインタラプタ等によって検出し、その検出透過率が所望透過率になるように、光学素子に印加する電圧を制御している。
【0007】
フォトインタラプタには安価な受光素子と発光素子を使用することが多く、そのような安価なフォトインタラプタでは経時変化が大きい。フォトインタラプタに経時変化があると、検出透過率が実際の透過率とはずれることになるため、光学素子の透過率を高精度に制御するのが難しくなる。
【0008】
特に、使用頻度が高い業務用のテレビカメラ等では、このような経時変化による光透過率の制御精度の低下を改善することが強く要求されている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電気的に光透過率を制御可能な光学素子の光透過率の制御を常に高精度に行うことが可能なレンズ装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のレンズ装置は、電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置であって、前記光学素子に印加する電圧を制御して前記光学素子の光透過率を制御する光学素子駆動部と、前記光学素子に光を照射する発光素子と、前記発光素子から照射された光のうちの前記光学素子を透過した光を受光する受光素子と、前記光学素子駆動部によって光透過率を最大にした状態の前記光学素子の遮光された部分に、遮光された状態の前記発光素子から光を照射して、遮光された状態の前記受光素子により前記光学素子を透過した光を受光し、該受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーション処理を行う制御部と、を備え、前記光学素子駆動部は、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御するものである。
【0011】
本発明のレンズ装置の制御方法は、電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置の制御方法であって、前記光透過率を最大にした状態の前記光学素子の遮光された部分に、遮光された状態の発光素子から光を照射して、遮光された状態の受光素子により前記光学素子を透過した光を受光し、該受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーションステップと、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力値が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御するステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気的に光透過率を制御可能な光学素子の透過率の制御を高精度に行うことが可能なレンズ装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態を説明するためのカメラシステムの概略構成を示す図
図2図1に示されるカメラシステムの動作を説明するためのフローチャート
図3図1に示されるカメラシステムのレンズ装置におけるEC素子の変形例を示す図
図4図1に示されるカメラシステムの変形例を示す図
図5図4に示されるカメラシステムの動作を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を説明するためのカメラシステムの概略構成を示す図である。このカメラシステムは、業務用のテレビカメラシステムに好適である。
【0016】
図1に示すカメラシステムは、レンズ装置100と、レンズ装置100が装着されるカメラ装置200とを備える。
【0017】
カメラ装置200は、レンズ装置100の光軸L上に配置された撮像部201と、撮像部201により撮像して得られる撮像信号を処理して撮像画像データを生成する映像信号処理部202と、カメラ装置200全体を統括制御するCPU203と、レンズ装置100との通信を行うためのSCI(シリアルコミュニケーションインターフェース)204とを備える。
【0018】
レンズ装置100の撮影光学系は、フォーカスレンズ群101と、ズームレンズ群102,103と、電気的に光透過率を制御可能な光学素子であるエレクトロ・クロミック素子(EC素子)104と、絞り105と、マスターレンズ群106とを備え、これらが被写体側から順に並べて配置されている。
【0019】
EC素子104は、撮影光学系の光軸Lに対して垂直に配置された板状となっており、その下端部が光軸Lに平行な板状の遮光部107によって遮光されている。
【0020】
遮光部107によって遮光された領域(遮光部107よりも光軸Lとは反対側(下側)の領域)には、発光素子としての発光ダイオード(LED)108と、受光素子としてのフォトダイオード(PD)109とが設けられている。
【0021】
LED108とPD109は、EC素子104の遮光部107によって遮光された部分を挟んで対向して配置されている。LED108から出射されてEC素子104(遮光部107によって遮光された部分)を透過した光は、PD109によって受光される。
【0022】
レンズ装置100は、更に、PD109を制御するPD制御部110と、LED108を制御するLED制御部112と、EC素子104を駆動するEC駆動部(D/A)111と、PD109の出力信号をデジタル変換するAD変換部115と、これらを統括制御するシステム制御部(CPU)114とを備える。
【0023】
EC駆動部111は、EC素子104を構成する一対の電極間に印加する電圧値を制御することで、EC素子104の光透過率を制御する。
【0024】
CPU114には、SCI113が接続されている。SCI113には、レンズ装置100の操作を行うための操作部が接続されるインターフェースIFと、カメラ装置200に内蔵されるSCI204とが接続される。
【0025】
CPU114は、レンズ装置100の使用環境及び経時変化に影響されることなく、EC素子104の光透過率を精度良く制御するために、レンズ装置100の電源投入直後にキャリブレーション処理を実行する。
【0026】
このキャリブレーション処理は、EC駆動部111を制御してEC素子104の光透過率を最大にさせる処理と、当該処理によってEC素子104が最大透過率になった状態でLED制御部112にLED108を発光させる処理と、当該LED108を発光させる処理によってLED108から発光されEC素子104を透過した光を受光したPD109の出力信号を取得する処理と、取得した出力信号をEC素子104に対して外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定する処理とを含む。
【0027】
上記基準透過率の設定が行われた後に、ユーザによってEC素子104の光透過率の設定指示(具体的には、基準透過率に対する倍率を指定する指示)がなされると、この設定指示値(倍率)がレンズ操作部やカメラ装置200からSCI113を介してCPU114に送信される。CPU114は、この設定指示値(倍率)を受信すると、PD109の出力信号レベルが上記基準透過率に当該倍率を乗じた値になるように、EC駆動部111からEC素子104に供給させるべき電圧値を決定する。
【0028】
上記設定指示値は、基準透過率に対する倍率(基準透過率の何倍(1/N倍)かを示す値)で示される。EC素子104の最大透過率は、レンズ装置100の使用環境やEC素子104の製造ばらつき等によって設計値とおりにはならない場合があり、その正確な値を知ることは難しい。一方で、CPU114が設定した基準透過率は、EC素子104の最大透過率の実測値に相当する。このため、CPU114は、PD109の出力信号レベルがEC素子104の最大透過率に相当する上記基準透過率の(1/N)倍の値となるように、EC素子104に供給する電圧値を決定することで、EC素子104の光透過率を、EC素子104の最大透過率の(1/N)倍に制御することができる。
【0029】
従来では、EC素子104の透過率の制御方法として、PD109の出力信号レベルから現時点でのEC素子104の光透過率を推定し、その光透過率が目標とする光透過率になるように、EC素子104に印加する電圧を制御する方法が一般的である。この方法は、LED108とPD109の経時変化がほとんどない場合には有効であるが、LED108とPD109の経時変化が大きい場合には、PD109の出力信号レベルから推定した光透過率と実際の光透過率とのずれが大きくなり、EC素子104の光透過率を目標値に精度よく制御することができない。
【0030】
これに対し、レンズ装置100は、電源投入直後にキャリブレーション処理を実行して、レンズ装置100の使用環境、EC素子104の製造ばらつき、及びLED108とPD109の経時変化を全て含めた、電源投入時点でのEC素子104の最大透過率の実測値に相当する値を基準透過率に設定し、その後、基準透過率に対する倍率を指定する設定指示があったときは、この基準透過率をもとにEC素子104の光透過率を制御する。このため、レンズ装置100の使用環境や経時変化に影響されることなく、EC素子104の光透過率を正確に制御することができる。
【0031】
以下では、図1に示されるカメラシステムの動作について説明する。図2は、図1に示されるカメラシステムの動作を説明するためのフローチャートである。
【0032】
レンズ装置100の電源が投入されると、レンズ装置100のCPU114は起動に必要な処理を実行する(ステップS20)。
【0033】
次に、CPU114は、EC駆動部111を制御してEC素子104の光透過率を最大に設定する(ステップS21)。ここで言う“最大”とは、EC素子104に設定可能な透過率範囲のうちの最大値に限らず、最大値よりも僅かに低い値も含むものとする。つまり、ステップS21では、EC素子104の透過率の制御範囲内で実質的に最大の透過率を設定すればよい。
【0034】
次に、CPU114は、LED制御部112を制御してLED108を点灯させる(ステップS22)。LED118が点灯すると、LED108から出射されてEC素子104を透過した光がPD109にて受光され、PD109からは当該光に応じた信号が出力される。
【0035】
次に、CPU114は、PD109の出力信号をAD変換部115から取得し、この出力信号のレベルを基準透過率に設定する(ステップS23)。
【0036】
ステップS23の後、レンズ操作部やカメラ装置200からEC素子104の光透過率の設定指示値(基準透過率に対する倍率を示す値)をCPU114が受信すると(ステップS24)、CPU114は、PD109の出力信号のレベルが、ステップS23で設定した基準透過率に当該設定指示値を乗じた値(目標値)になるように、EC駆動部111を制御してEC素子104の光透過率を制御する(ステップS25)。ステップS25の後、CPU114は、LED108を消灯して、撮像シーケンスに移行する。
【0037】
以上のように、レンズ装置100によれば、電源が投入されるたびに基準透過率を設定するため、この基準透過率を、電源投入時点でのレンズ装置100の使用環境、EC素子104の特性、LED108及びPD109の特性等を考慮した値にすることができる。したがって、レンズ装置100の使用環境や経時変化に関わらず、EC素子104の光透過率を高い精度で制御することができる。
【0038】
また、レンズ装置100によれば、経時変化の影響を受けることなくEC素子104の光透過率の制御を精度良く行うことができるため、発光素子(LED108)及び受光素子(PD109)として安価なものを採用することができ、レンズ装置100の低価格化を実現することができる。
【0039】
なお、レンズ装置100における発光素子(LED108)は、EC素子104の光透過率が最大透過率に設定された状態で光をEC素子104に照射したときに、EC素子104を透過した光によってPD109の出力信号レベルが飽和レベルに達しないように、その発光量を制限しておくことが好ましい。発光量を制限する方法としては、LED108に供給する電流をCPU114によって制限する方法、LED108とEC素子104との間に機械的なスリットを設ける方法等が考えられる。
【0040】
また、レンズ装置100に搭載する光学素子としては、エレクトロ・クロミック素子に限らず、電圧を供給して光透過率を変えられるものであれば何であってもよい。例えば、電気泳動によって光透過率を変えることのできる素子であってもよい。
【0041】
また、レンズ装置100のCPU114は、キャリブレーション処理において、EC素子104を最小透過率にした状態でPD109から出力信号レベルを取得し、この出力信号レベルを基準透過率として設定してもよい。この場合、外部から入力可能な設定指示値は1以上の値になり、例えば、指示値が“2”であった場合は、PD109の出力信号レベルが、基準透過率を2倍にした値になるように、EC素子104に供給する電圧値を決定する。
【0042】
また、図2の説明では、ステップS21〜ステップS23からなるキャリブレーション処理を、レンズ装置100の電源投入直後にのみ行うものとしたが、電源投入後にキャリブレーション処理を複数回行ってもよい。
【0043】
例えば、CPU114は、電源投入直後にキャリブレーション処理を1回行った後は、EC素子104の光透過率の設定指示がなされてからその次の設定指示がなされるまでの時間が閾値を越えた場合にキャリブレーション処理を再度行う。このように、光透過率の設定指示が1回なされて以降、光透過率の設定指示が長い間なされなかった場合には、その間にレンズ装置100の使用環境が変化している可能性がある。
【0044】
そして、使用環境が変化している場合には、EC素子104、LED108、及びPD109の特性に変化が生じていることが考えられる。この特性に変化が生じていると、レンズ装置100の電源投入直後に設定した基準透過率の信頼性が低下する。そこで、このような場合には、キャリブレーション処理を再び行うことで、基準透過率を、現時点でのレンズ装置100の使用環境に応じた値に更新することができ、光透過率の制御の精度低下を防ぐことができる。
【0045】
また、CPU114は、電源投入直後にキャリブレーション処理を1回行った後は、倍率を“1”にする設定指示、つまりEC素子104の光透過率を最大に設定する指示がなされた場合に、キャリブレーション処理を再度行ってもよい。EC素子104の光透過率を最大に設定する指示がなされたときに、キャリブレーション処理を併せて行ってしまうことで、効率的に処理を行うことができる。
【0046】
キャリブレーション処理において、EC素子104の光透過率を最小にして基準透過率を設定する場合、CPU114は、電源投入直後にキャリブレーション処理を1回行った後は、倍率を“1”にする設定指示、すなわちEC素子104の光透過率を最小にする設定指示がなされた場合に、キャリブレーション処理を再度行えばよい。
【0047】
また、CPU114は、電源投入直後にキャリブレーション処理を1回行った後は、ユーザから指示があるたびにキャリブレーション処理を行ってもよい。このようにすることで、ユーザが好きなときにキャリブレーションを実施することができ、使い勝手を向上させることができる。
【0048】
以上述べたいずれの形態においても、CPU114は、カメラ装置200による撮影画の記録がなされている期間中は、キャリブレーション処理を禁止することが好ましい。言い換えると、撮影画の記録がなされていない期間(記録の一時停止期間)にキャリブレーション処理を行うことが好ましい。撮影画の記録中にキャリブレーション処理を行うと、EC素子104が最大透過率に制御されるため撮影画の明るさが変化してしまい、画質劣化に繋がるためである。
【0049】
キャリブレーション処理により設定する基準透過率の信頼性を高めるために、LED108とPD109とこれらに挟まれるEC素子104の一部分とに、外部からの光が更に入らないようにすることが好ましい。例えば、EC素子104のうち、遮光部107によって遮光される部分(遮光部107よりも下側にある部分)と、遮光部107によって遮光されない部分(遮光部107よりも上側にある部分)との間の境界部分に、図3に示すように、光を透過させない非透過領域104aを設けておくことが好ましい。
【0050】
図3に示したEC素子104は、それぞれ単独でEC素子として機能する非遮光部と遮光部とを別々に製造し、非遮光部と遮光部とを黒色の接着剤等で貼り合わせることで形成することができる。この場合、黒色の接着剤の部分が非透過領域104aになる。
【0051】
図4は、図1に示されるカメラシステムの変形例を示す図である。図4に示されるカメラシステムは、レンズ装置100の絞り105とEC素子104の位置が逆になっている点、遮光部107が存在しない点、絞り制御部16が追加されている点を除いては図1に示されるカメラシステムと同じ構成である。
【0052】
絞り制御部116は、CPU114の制御により絞り105の開閉制御を行う。
【0053】
CPU114は、キャリブレーション処理に含まれるEC素子104の最大透過率(又は最小透過率)に相当するPD109の出力値を得るための処理を行う前に、絞り制御部116を制御して絞り105を完全に閉じる制御を行う。つまり、絞り105を完全に閉じて、EC素子104、LED108、及びPD109を完全に遮光した状態で、LED108からEC素子104に光を照射する。そして、当該光のうちのEC素子104を透過した光をPD108で受光して得られるPD108の出力信号レベルを基準透過率に設定する。
【0054】
このように、EC素子104、LED108、及びPD109を完全に遮光した状態で、EC素子104の最大透過率(又は最小透過率)に相当するPD109の出力値を得て基準透過率を設定する処理を行うことで、外光の影響を完全に排除することができ、基準透過率の信頼性を向上させることができる。
【0055】
図5は、図4に示されるカメラシステムの動作を説明するためのフローチャートである。図5において図2に示される処理と同じものには同一符号を付して説明を省略する。
【0056】
ステップS21においてEC素子104の光透過率を最大にした後、CPU114は、絞り制御部116を制御して絞り105を完全に閉じる(ステップS50)。以降、CPU114は、図2に示されるものと同じステップS22以降の処理を行う。
【0057】
以上のように、図5に示されるレンズ装置100によれば、EC素子104、LED108、及びPD109を完全に遮光した状態で基準透過率を設定するため、外光の影響を完全に排除して基準透過率を設定することができ、基準透過率の信頼性を向上させて、EC素子104の光透過率の制御を高精度に行うことができる。
【0058】
以上説明してきたように、本明細書には以下の事項が開示されている。
【0059】
開示されたレンズ装置は、電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置であって、前記光学素子に印加する電圧を制御して前記光学素子の光透過率を制御する光学素子駆動部と、前記光学素子に光を照射する発光素子と、前記発光素子から照射された光のうちの前記光学素子を透過した光を受光する受光素子と、前記光学素子の少なくとも一部分を遮光した状態かつ前記光学素子の光透過率を前記光学素子駆動部によって最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射し、当該光のうちの前記光学素子を透過した光を受光して得られる前記受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーション処理を行う制御部とを備え、前記光学素子駆動部は、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御するものである。
【0060】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記レンズ装置の電源が投入されてから少なくとも1回は前記キャリブレーション処理を行うものである。
【0061】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記レンズ装置の電源投入直後に前記キャリブレーション処理を行うものである。
【0062】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記レンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録がなされている期間中は、前記キャリブレーション処理を禁止するものである。
【0063】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示がなされてからその次の前記指示がなされるまでの時間が閾値を越えた場合に、前記キャリブレーション処理を再度行うものである。
【0064】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記指示が倍率を1倍にする指示であった場合に、前記キャリブレーション処理を再度行うものである。
【0065】
開示されたレンズ装置は、前記光学素子の一部を遮光する遮光部を備え、前記発光素子及び前記受光素子は、前記遮光部によって遮光される領域に配置されるものである。
【0066】
開示されたレンズ装置は、前記光学素子は、前記レンズ装置の光軸に対して垂直に設けられた板状の素子であり、前記遮光部によって遮光される部分と前記遮光部によって遮光されない部分との境界部分に光を透過しない非透過領域が形成されるものであるものを含む。
【0067】
開示されたレンズ装置は、前記光学素子よりも被写体側に設けられる絞りを備え、前記発光素子及び前記受光素子は、前記絞りよりも前記光学素子側に配置されており、前記制御部は、前記キャリブレーション処理において、前記絞りを完全に閉じた状態、かつ、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して、前記基準透過率の設定を行うものである。
【0068】
開示されたレンズ装置は、前記制御部は、前記キャリブレーション処理において、前記光学素子の少なくとも一部分を遮光した状態かつ前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して前記基準透過率を設定し、
前記発光素子は、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射したときの前記光学素子を透過した光を受光して得られる前記受光素子の出力が飽和しないように、その発光量が制限されるものである。
【0069】
開示されたレンズ装置の制御方法は、電気的に光透過率を制御可能な光学素子を有するレンズ装置の制御方法であって、前記光学素子の少なくとも一部分を遮光した状態かつ前記光学素子の光透過率を最大に駆動した状態で発光素子から前記光学素子に光を照射させ、当該光のうちの前記光学素子を透過した光を受光する受光素子の出力値を、外部から指示可能な光透過率の基準値である基準透過率に設定するキャリブレーションステップと、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示に応じて、前記受光素子の出力値が、前記基準透過率に対して前記倍率を乗じた値になるように、前記光学素子に供給する電圧を制御するステップとを備えるものである。
【0070】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記キャリブレーションステップを、前記レンズ装置の電源が投入されてから少なくとも1回は行うものである。
【0071】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記レンズ装置の電源投入直後に前記キャリブレーションステップを行うものである。
【0072】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記レンズ装置が装着されるカメラ装置による撮影画の記録がなされている期間中は、前記キャリブレーションステップを禁止するものである。
【0073】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記基準透過率に対する倍率を指定する指示がなされてからその次の前記指示がなされるまでの時間が閾値を越えた場合に、前記キャリブレーションステップを再度行うものである。
【0074】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記指示が倍率を1倍にする指示であった場合に、前記キャリブレーションステップを再度行うものである。
【0075】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記キャリブレーションステップでは、前記絞りを完全に閉じた状態、かつ、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射して、前記基準透過率の設定を行うものである。
【0076】
開示されたレンズ装置の制御方法は、前記キャリブレーションステップでは、前記光学素子の少なくとも一部分を遮光した状態かつ前記光学素子の光透過率を最大にした状態で発光素子から前記光学素子に光を照射して前記基準透過率を設定し、前記光学素子の光透過率を最大にした状態で前記発光素子から前記光学素子に光を照射したときの前記光学素子を透過した光を受光して得られる前記受光素子の出力が飽和しないように、前記発光素子の発光量を制限するものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、電気的に光透過率を制御可能な光学素子の透過率の制御を高精度に行うことが可能なレンズ装置及びその制御方法を提供することができる。
【0078】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2011年3月22日出願の日本出願(特願2011−62963)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0079】
100 レンズ装置
104 エレクトロ・クロミック素子
108 LED(発光素子)
109 PD(受光素子)
114 CPU
図1
図2
図3
図4
図5