特許第5816680号(P5816680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5816680粘性付与剤及びこれを用いた加水分解性セルロースの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5816680
(24)【登録日】2015年10月2日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】粘性付与剤及びこれを用いた加水分解性セルロースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20151029BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20151029BHJP
   C08F 216/06 20060101ALN20151029BHJP
   C08F 8/12 20060101ALN20151029BHJP
   C08F 220/56 20060101ALN20151029BHJP
【FI】
   C09K3/00 103G
   C12P19/14 A
   !C08F216/06
   !C08F8/12
   !C08F220/56
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-507470(P2013-507470)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2012057395
(87)【国際公開番号】WO2012133126
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-68607(P2011-68607)
(32)【優先日】2011年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-73322(P2011-73322)
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】秦 誠二
(72)【発明者】
【氏名】仲前 昌人
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平05−507615(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/124072(WO,A1)
【文献】 特開平10−295390(JP,A)
【文献】 特開2010−051308(JP,A)
【文献】 特開2008−274247(JP,A)
【文献】 特開平08−281092(JP,A)
【文献】 特開平10−338714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00、
C08F8/12、
C08F216/06、
C12P19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられる粘性付与剤であって、
素数が8以上である単量体単位を含むポリビニルアルコール系重合体を含有し、
上記単量体単位が炭素数29以下のアルキル基を有することを特徴とする粘性付与剤。
【請求項2】
上記単量体単位の炭素数が11以上であり、かつ、この単量体単位の側鎖における炭素数と酸素数との比(炭素数/酸素数)が2.5/1より大きい請求項1に記載の粘性付与剤。
【請求項3】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が100以上5,000以下、けん化度が60モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下である請求項1又は請求項2に記載の粘性付与剤。
【請求項4】
上記単量体単位が下記一般式(I)で表される請求項1、請求項2又は請求項3に記載の粘性付与剤。
【化1】
(式(I)中、Rは、炭素数8〜29の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【請求項5】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が200以上5,000以下、けん化度が60モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位の含有率が0.05モル%以上5モル%以下である請求項4に記載の粘性付与剤。
【請求項6】
上記ポリビニルアルコール系重合体が、下記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものである請求項4又は請求項5に記載の粘性付与剤。
【化2】
(式(II)中、R及びRの定義は上記式(I)と同様である。)
【請求項7】
上記単量体単位が下記一般式(III)で表されるポリオキシアルキレン基を有し、
上記単量体単位の含有率が0.1モル%以上10モル%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の粘性付与剤。
【化3】
(式(III)中、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基である。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である。0≦m≦10であり、5≦n≦40である。)
【請求項8】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が100以上4,000以下、けん化度が70モル%以上99.99モル%以下である請求項7に記載の粘性付与剤。
【請求項9】
上記ポリビニルアルコール系重合体が、下記一般式(IV)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものである請求項7又は請求項8に記載の粘性付与剤。
【化4】
(式(IV)中、R、R、m及びnの定義は上記式(III)と同様である。Rは、水素原子又は−COOMである。Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。Rは、水素原子、メチル基又は−CH−COOMである。Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。Xは、−O−、−CH−O−、−CO−、−CO−O−、−CO−NR−又は−CO−NR−CH−である。Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項10】
上記一般式(IV)で表される不飽和単量体におけるRが水素原子、Xが−CO−NR−又は−CO−NR−CH−、かつRが水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である請求項9に記載の粘性付与剤。
【請求項11】
ゲル状である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の粘性付与剤。
【請求項12】
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造方法であって、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の粘性付与剤及びセルロース系バイオマスを含む混合物を得る混合工程と、
上記混合物に剪断力を付加してセルロース系バイオマスを分断する分断工程と
を有することを特徴とする加水分解性セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられる粘性付与剤、及びこれを用いた加水分解性セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスとは、生物由来の再生可能な資源をいい、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義することができる。このバイオマスの中でも、間伐材等の木材、稲わら、麦わら、籾殻、トウモロコシやサトウキビ等澱粉系作物の茎、アブラヤシの空房(EFB)など、未利用の植物系バイオマスの有効活用が求められている。
【0003】
このような植物系バイオマスの成分の中でも、澱粉等の多くの多糖類は、酵素等により容易に単糖類に分解され、エネルギー源や食料等として利用されている。そこで、植物系バイオマスの有効活用のためには、植物細胞中の存在比率が高いセルロースをメタンや単糖類(グルコース)に分解し、エネルギー源や食料等として利用することが重要とされている。ただし、セルロースは細胞壁の大部分を形成していることからもわかるように、強固な構造を有し分解されにくいため、有効活用されていないのが実情である。
【0004】
具体的にはセルロースは、細胞壁中で以下のような多重構造を有している。細胞壁を形成するセルロースは、大部分がミクロフィブリルと言われる直線状に密着した準結晶構造を有している。この準結晶構造を有するこのセルロース(ミクロフィブリル)同士は、ヘミセルロースやリグニン等の非セルロース成分を介して互いに結合している。これらのセルロース成分(ミクロフィブリル)及び非セルロース成分は、一般的にフィブリルと言われる更に大きな構造体として配列されている。このフィブリルは、通常、シート状に積層されて、細胞壁を構成している。上述の準結晶構造を有するセルロース(ミクロフィブリル)において、セルロースのポリマー鎖は、水素結合によって強く結びついている。この水素結合により、植物は強固な細胞壁を備えることとなる。
【0005】
このような構造を有するセルロースをメタンに分解する手段としては、嫌気性微生物の分解消化による方法などがある。しかしながら、微生物を利用したセルロースの分解は、反応制御が複雑である等の理由から、実用性が十分ではない。
【0006】
一方、触媒や酵素を用いて、セルロースを単糖類に加水分解することも、化学的には可能である。セルロースの化学的分解により得られた単糖類は、例えば醗酵によってエタノールに変換され、既存の内燃機関やタービンにエネルギー源として用いることができる。しかしながら、植物由来のセルロース系バイオマスを化学的に直接加水分解することは、上述のような細胞壁におけるセルロースの分子構造上、効率的ではない。これはセルロースの強固な構造が、水及び酵素等の準結晶構造内部への進入を妨げ、セルロース分解酵素の作用を大きく遅らせることに起因すると考えられる。すなわち酵素は、水素結合によって強く結びついた準結晶構造の内部に容易には進入できないため、グリコシド結合を直接には分解することができない。従って、酵素はセルロースの準結晶構造の表面から徐々に分解していくことしかできないため、セルロース系バイオマスを直接、酵素によって加水分解することは効率が高くない。
【0007】
そこで、セルロース系バイオマスを酵素等による加水分解前に予め細かく分断して、加水分解しやすいセルロースを製造する方法が提案されている。この方法は、基本的には、準結晶構造を有するセルロースを徐々に水和させ、この水和によって隣接するセルロースのポリマー鎖間の水素結合を弱めるという化学的な作用と、セルロース系バイオマスに叩解、混練等により機械的に力を付与してセルロースポリマー鎖を分断するという物理的な作用とを利用するものである。この方法の具体的内容として、例えば(1)容器内でセルロース系バイオマス粒子を攪拌して粒子の浮遊体を生成した後、攪拌を継続しながら粒子の浮遊体の温度を上昇させると共に水を徐々に供給して水和させることによって微細な粉末を製造する技術(特表2004−526008号公報)、(2)セルロース系バイオマス粒子を粘性のある水溶性ポリマー水溶液と混ぜて撹拌することで、撹拌により生じる機械的な力を効率的にセルロースポリマー鎖に伝え、セルロースポリマー鎖を互いに引き離すように分断する技術(国際公開第2009/124072号パンフレット)等が提案されている。
【0008】
しかしながら、(1)の技術では、セルロース系バイオマスの微粒子を浮遊体として存在させるための装置が複雑なものとなり、また、この技術の使用の際に多大なエネルギーを消費するため、生産性が高いとは言えない。一方、(2)の技術では、水溶液に粘性を付与するための水溶性高分子の使用により、セルロース系バイオマスの一定程度の易加水分解性の向上が認められるものの、実用化に向けての加水分解性の向上のためには、更なる改良が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−526008号公報
【特許文献2】国際公開第2009/124072号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造の際に、セルロース系バイオマスを含む水溶液に好適な粘性を付与すること等により、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を容易に行うことができ、その結果、加水分解性セルロースを効率的に製造することができる粘性付与剤、及びこの粘性付与剤を用いた加水分解性セルロースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の粘性付与剤は、
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられる粘性付与剤であって、
炭素数29以下のアルキル基を有し、炭素数が8以上である単量体単位を含むポリビニルアルコール系重合体を含有することを特徴とする。
【0012】
当該粘性付与剤が含有するポリビニルアルコール系重合体は、上記単量体単位を含むため、水及びセルロースとの分子間相互作用を高めることができる。従って、本発明の粘性付与剤は、水溶液とした際にこの溶液の粘性を高めることができるとともに、この水溶液を粉末又は粒子状のセルロース系バイオマスと混ぜ合わせた際のセルロース系バイオマスの溶液中の均一分散性(混和性)を高めることができる。
【0013】
従って、当該粘性付与剤とセルロース系バイオマス粒子とを混ぜ合わせること等により、セルロース系バイオマスへ適当な剪断力を付加することができる。つまり、当該粘性付与剤を用いたセルロース系バイオマスの分断作業においては、粘性のある水溶液によってセルロースポリマー鎖同士が容易に引き離され、また、準結晶構造を有するポリマー鎖の内部に水及びポリビニルアルコール系重合体が効率的に進入することでポリマー鎖間の水素結合を弱めていくことができる。さらには、このように引き裂かれたポリマー鎖間に当該ポリビニルアルコール系重合体が進入することで、ポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができる。すなわち当該粘性付与剤によれば、セルロース系バイオマスにおけるセルロースポリマー鎖を効果的に分子レベルで分断し、酵素等によって容易に加水分解(糖化)されるセルロースを得ることができる。
【0014】
上記単量体単位の炭素数が11以上であり、かつ、この単量体単位の側鎖における炭素数と酸素数との比(炭素数/酸素数)が2.5/1より大きいことが好ましい。
【0015】
上記ポリビニルアルコール系重合体の平均重合度が100以上5,000以下、けん化度が60モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位の含有率が0.05モル%以上10モル%以下であることが好ましい。
【0016】
上記ポリビニルアルコール系重合体及び上記単量体単位が上記特定の構造を有することで、増粘作用や、セルロースポリマー鎖間への侵入作用をより効果的に発揮させることができる。
【0017】
上記単量体単位が下記一般式(I)で表されることが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
(式(I)中、Rは、炭素数8〜29の直鎖状又は分岐状アルキル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【0020】
このような単量体単位を有するポリビニルアルコール系重合体(A)を用いることで、増粘作用や、セルロースポリマー鎖間への侵入作用をより効果的に発揮させることができる。
【0021】
上記ポリビニルアルコール系重合体(A)の平均重合度を200以上5,000以下、けん化度を60モル%以上99.99モル%以下、上記単量体単位の含有率を0.05モル%以上5モル%以下とするとよい。上記ポリビニルアルコール系重合体(A)の平均重合度、けん化度及び上記単量体単位の含有率を上記範囲とすることで、水溶液としての当該粘性付与剤とセルロース系バイオマスとをより好適な粘性で、効率よく均一に混ぜ合わせることができ、かつ、このポリビニルアルコール系重合体(A)が引き裂かれたセルロースポリマー鎖間に容易に進入することができる。従って、このようなポリビニルアルコール系重合体(A)を用いることで、加水分解性がより高いセルロースを得ることができる。
【0022】
上記ポリビニルアルコール系重合体(A)が、下記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものであるとよい。
【0023】
【化2】
【0024】
(式(II)中、R及びRの定義は上記式(I)と同様である。)
【0025】
上記ポリビニルアルコール系重合体(A)を上記方法で得ることで、けん化度や上記単量体単位の含有率等の制御が容易になる。
【0026】
上記単量体単位が下記一般式(III)で表されるポリオキシアルキレン基を有し、
上記単量体単位の含有率が0.1モル%以上10モル%以下であることも好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
(式(III)中、Rは、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基である。Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である。0≦m≦10であり、5≦n≦40である。)
【0029】
このような単量体単位を上記含有率で有するポリビニルアルコール系重合体(B)は、水溶液とした際の粘性が高く、また、感温ゲル化性を有する。従って、当該増粘性付与剤の増粘作用や、セルロースポリマー鎖間への侵入作用をより効果的に発揮させることができる。
【0030】
上記ポリビニルアルコール系重合体(B)の平均重合度を100以上4,000以下、けん化度を70モル%以上99.99モル%以下とするとよい。上記ポリビニルアルコール系重合体(B)の平均重合度及びけん化度を上記範囲とすることで、当該粘性付与剤(ポリビニルアルコール系重合体(B)水溶液)とセルロース系バイオマスとをより好適な粘性で、効率よく均一に混ぜ合わせることができ、かつ、このポリビニルアルコール系重合体(B)が引き裂かれたセルロースポリマー鎖間に容易に進入することができる。従って、このようなポリビニルアルコール系重合体(B)を用いることで、加水分解性がより高いセルロースを得ることができる。
【0031】
上記ポリビニルアルコール系重合体(B)が、下記一般式(IV)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものであるとよい。
【0032】
【化4】
【0033】
(式(IV)中、R、R、m及びnの定義は上記式(III)と同様である。Rは、水素原子又は−COOMである。Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。Rは、水素原子、メチル基又は−CH−COOMである。Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。Xは、−O−、−CH−O−、−CO−、−CO−O−、−CO−NR−又は−CO−NR−CH−である。Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0034】
上記ポリビニルアルコール系重合体(B)を上記方法で得ることで、けん化度や上記単量体単位の含有率等の制御が容易になる。
【0035】
上記一般式(IV)で表される不飽和単量体におけるRが水素原子、Xが−CO−NR−又は−CO−NR−CH−、かつRが水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール系重合体(B)が上記アミド構造等を有することで、水溶液とした際の粘性、セルロースとの親和性などの点から、セルロース系バイオマスの分断作業により好適なものとなる。
【0036】
当該粘性付与剤がゲル状であるとよい。このようなゲル状の粘性付与剤(ポリビニルアルコール系重合体水溶液)を用いることで、分断工程における当初段階から混合物を好適な粘性とすることができ、また、その粘性を一定程度維持することができるため効率のよい加水分解性セルロースの製造を行うことができる。さらにはゲル状であることで、分断されたセルロースポリマー鎖間にこのゲル状粘性付与剤が進入し、かつ留まることができるため、セルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができ、分断能が向上することとなる。また、当該ゲル状の粘性付与剤においては、水溶液中での粘性が高い上記ポリビニルアルコール系重合体を用いているため、ゲル化剤の使用量を減らすことができる。
【0037】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造方法であって、
当該粘性付与剤及びセルロース系バイオマスを含む混合物を得る混合工程と、
上記混合物に剪断力を付加してセルロース系バイオマスを分断する分断工程と
を有することを特徴とする方法である。
【0038】
当該加水分解性セルロースの製造方法によれば、当該粘性付与剤(上記ポリビニルアルコール系重合体の水溶液)とセルロース系バイオマスとを混合することで、適当な粘性を有する混合物とすることができる。また、当該製造方法によれば、この混合物に剪断力を付加することで粘り気のある水溶液によってセルロースポリマー鎖同士が容易に引き離され、また、準結晶構造を有するポリマー鎖の内部に水及びポリビニルアルコール系重合体が効率的に進入することでポリマー鎖間の水素結合を弱めていくことができる。すなわち、当該加水分解性セルロースの製造方法によれば、セルロース系バイオマスにおけるセルロースポリマー鎖を効果的に分子レベルで分断し、酵素等によって容易に加水分解(糖化)されるセルロースを得ることができる。
【0039】
ここで、「加水分解性セルロース」とは、セルロース系バイオマス等を原料とし、これを分断等して得られるセルロースであり、原料よりも加水分解性が高まったものである。「水溶液」とは、溶媒として水を用いた溶液をいい、流動性を失ったゲル状のものも含む概念である。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本発明の粘性付与剤によれば、セルロース系バイオマスを原料として加水分解性セルロースを製造する際に、セルロース系バイオマスを含む溶液に好適な粘性を付与すること等により、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を容易に行うことができ、その結果、加水分解性セルロースを効率的に製造することができる。また、本発明の加水分解性セルロースの製造方法によれば、セルロース系バイオマスを原料として、効率よく加水分解性セルロースを製造することができる。
【0041】
従って、本発明によれば、植物系のバイオマス原料を、効率よく食物やエネルギー資源として活用することができ、バイオマス活用の実現性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の粘性付与剤、及びこれを用いた加水分解性セルロースの製造方法の実施の形態を順に詳説する。
【0043】
〔粘性付与剤〕
本発明の粘性付与剤は、炭素数29以下のアルキル基を有する単量体単位を含むポリビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」ともいう。)を含有する。また、上記単量体単位が有する炭素の数は、8以上である。すなわち、上記PVAは、ビニルアルコール単位と、上記単量体単位とを含む重合体である。なお、上記PVAは、本発明の趣旨を損なわない範囲で、他の単量体単位を有していてもよい。
【0044】
上記炭素数29以下のアルキルとは、C2n+1(1≦n≦29)で表される基をいい、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ヘキサコシル基、オクタコシル基等を挙げることができる。上記アルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。上記単量体単位は、複数の上記アルキル基を有していてもよい。また、上記単量体単位は、エチレン基等のアルキレン基、アリール基、アリーレン基等を有していてもよい。
【0045】
上記炭素数29以下のアルキル基を有し、炭素数が8以上である単量体単位としては、例えば
ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン等のα−オレフィン;
ヘキシルビニルエーテル、ノニルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
オクチルアクリルアミド等のアルキル(メタ)アクリルアミド;
上記一般式(II)等で表されるN−アルキル(メタ)アクリルアミド;
上記一般式(IV)等で表されるオキシブチレンユニットやオキシプロピレンユニット等を有する不飽和単量体;
等に由来する単量体単位を挙げることができる。
なお、一般式(II)で表される単量体の場合、炭素数29以下のアルキル基とはRであり、一般式(IV)で表される単量体の場合、炭素数29以下のアルキル基とはRである。本発明では一般式(II)で表される単量体が有する長鎖アルキル基や、一般式(IV)で表される単量体が有するオキシブチレンユニット又はオキシプロピレンユニットのように、主鎖のビニルアルコール単位よりも疎水性の高い側鎖を有することにより、セルロースの加水分解温度において、適切な粘度を付与することができる。
【0046】
上記単量体単位の炭素数が11以上であり、かつこの単量体単位の側鎖における炭素数(炭素原子数)と酸素数(酸素原子数)との比(炭素数/酸素数)が2.5/1より大きいことが好ましい。なお、この比の上限としては、例えば100/1であり、50/1が好ましい。ここで言う側鎖とは、上記単量体単位を重合した際に主鎖を形成する炭素原子から枝分かれしている部分を意味する。また、上記単量体単位の炭素数は、側鎖のみならず、主鎖中の炭素数も含めた炭素数である。
【0047】
当該粘性付与剤が含有するPVAは、上記単量体単位を含むため、水及びセルロースとの分子間相互作用を高めることができる。従って、本発明の粘性付与剤は、水溶液とした際にこの溶液の粘性を高めることができるとともに、この水溶液を粉末又は粒子状のセルロース系バイオマスと混ぜ合わせた際のセルロース系バイオマスの溶液中の均一分散性(混和性)を高めることができる。
【0048】
従って、当該粘性付与剤とセルロース系バイオマス粒子とを混ぜ合わせること等により、セルロース系バイオマスへ適当な剪断力を付加することができる。つまり、当該粘性付与剤を用いたセルロース系バイオマスの分断作業においては、粘性のある水溶液によってセルロースポリマー鎖同士が容易に引き離され、また、準結晶構造を有するポリマー鎖の内部に水及びPVAが効率的に進入することでポリマー鎖間の水素結合を弱めていくことができる。さらには、このように引き裂かれたセルロース構造間に、セルロースとの高い相互作用を有する当該PVAが進入することで、引き裂かれたセルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができる。すなわち当該粘性付与剤によれば、セルロース系バイオマスにおけるセルロースポリマー鎖を効果的に分子レベルで分断し、酵素等によって容易に加水分解(糖化)されるセルロースを得ることができる。
【0049】
上記PVAにおける上記単量体単位の含有率の下限としては、0.05モル%が好ましく、0.1モル%、0.15モル%さらには0.2モル%がより好ましい。一方、この上限としては、10モル%が好ましく、8モル%、5モル%、2モル%さらには1モル%がより好ましい。上記範囲の含有率とすることで、増粘性等をより効果的に発現させることができる。
【0050】
なお、単量体単位の含有率(変性率)とは、PVAを構成する全単量体単位のモル数に占める、各単量体単位のモル数の割合(モル%)である。
【0051】
本発明における上記PVAの単量体単位の含有率は、上記PVAから求めても、その前駆体であるビニルエステル系重合体から求めてもよく、いずれもプロトンNMRから求めることができる。例えば、ビニルエステル系重合体から求める場合、具体的には、n−ヘキサン/アセトンでビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のサンプルを作成する。このサンプルをCDClなどに溶解した後、プロトンNMRで測定すればよい。なお、ビニルエステル系重合体をけん化してPVAを得る場合、上記単量体単位の含有率は、通常、けん化前後で変化しない。
【0052】
上記PVAの平均重合度(粘度平均重合度)の下限としては、100が好ましく、500がより好ましく、1,000がさらに好ましい。一方、この上限としては、5,000が好ましく、4,000がさらに好ましい。平均重合度を上記範囲とすることで、水溶性と増粘性等とを両立させることなどができる。
【0053】
本発明における上記PVAの平均重合度は、JIS K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](デシリットル/g)から次式により求められる。
平均重合度=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0054】
上記PVAのけん化度の下限としては、60モル%が好ましく、70モル%、80モル%さらには96モル%がより好ましい。一方、この上限としては、99.99モル%が好ましく、99.9モル%がより好ましい。けん化度を上記範囲とすることで、良好な粘性や水溶性等を発揮させることができる。
【0055】
本発明における上記PVAのけん化度は、JIS K6726に準じて測定し得られる値である。
【0056】
上記PVAとしては、以下の特定の上記単量体単位を有するPVA(A)及びPVA(B)が好ましい。以下、PVA(A)及びPVA(B)について詳説する。
【0057】
〔PVA(A)〕
上記PVA(A)は、上記単量体単位として、上記一般式(I)で表される単量体単位(a)を有する。上記PVA(A)は、所定サイズのアルキル基及びアミド基を有する上記単量体単位(a)を含むため、水及びセルロースとの分子間相互作用を効果的に高めることができる。従って、上記PVA(A)は、当該粘性付与剤の増粘作用や、セルロースポリマー鎖間への侵入作用をより効果的に発揮させることができる。
【0058】
上記Rで表される直鎖状又は分岐状のアルキル基に含まれる炭素数は8以上29以下であるが、10以上25以下が好ましく、12以上24以下がさらに好ましい。この炭素数が8以上であることにより、アルキル基同士の相互作用が高まり、粘性の向上能がより一層向上する。一方、この炭素数が29を超える場合、PVA(A)の水溶性が低下し、セルロース系バイオマス粒子の均一な分散がされにくくなる。
【0059】
上記Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であるが、合成の容易性等の点から、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0060】
上記PVA(A)における上記単量体単位(a)の含有率は、0.05モル%以上5モル%以下が好ましく、0.1モル%以上がより好ましく、0.2モル%以上がさらに好ましい。また、この含有率は、2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。この単量体単位(a)の含有率が上記範囲にあることで、増粘性等をより効果的に発現させることができる。
【0061】
この単量体単位(a)の含有率は例えば、測定に供されるビニルエステル系重合体が上記単量体単位(a)以外の変性単量体単位を含まず、Rが直鎖状であり、さらにRが水素原子である場合、以下の方法にて算出できる。すなわち、ビニルエステル系共重合体の主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)の面積とアルキル基Rの末端メチル基に由来するピークβ(0.8〜1.0ppm)の面積とから、下記式を用いて、上記一般式(I)で表される単量体単位(a)の含有率を算出する。
上記単量体単位(a)の含有率(モル%)
=[(ピークβの面積/3)/{ピークαの面積+(ピークβの面積/3)}]×100
【0062】
変性ビニルエステル系重合体が上記構造以外の構造を有する場合であっても、算出の対象とするピークや算出式を適宜変更することにより上記単量体単位の含有率を容易に算出することができる。
【0063】
上記PVA(A)の平均重合度は200以上5,000以下が好ましく、500以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。上記PVA(A)の平均重合度を上記範囲とすることで、このPVA(A)を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よくかつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0064】
上記PVA(A)のけん化度は、60モル%以上99.99モル%以下が好ましく、80モル%以上99.9モル%以下がより好ましく、96モル%以上99.9モル%以下がさらに好ましい。上記PVA(A)のけん化度を上記範囲とすることで、このPVA(A)を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よくかつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0065】
(PVA(A)の製造方法)
上記PVA(A)を製造する方法は特に制限されないが、上記一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたアルキル変性ビニルエステル系重合体をけん化する方法が好ましい。ここで、上記の共重合はアルコール系溶媒中又は無溶媒で行うことが好適である。
【0066】
上記一般式(II)で表される不飽和単量体として具体的には、N−オクチルアクリルアミド、N−デシルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ヘキサコシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、N−ヘキサコシルメタクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、N−オクタデシルアクリルアミド、N−オクチルメタクリルアミド、N−デシルメタクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド、N−オクタデシルメタクリルアミド、及びN−ヘキサコシルメタクリルアミドが好ましく、N−オクタデシルアクリルアミド、N−ドデシルメタクリルアミド及びN−オクタデシルメタクリルアミドがより好ましい。
【0067】
上記ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、これら中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0068】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。使用しうる単量体としては、例えば、
エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;
塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;
酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0069】
但し、上記他の単量体の使用量は、共重合に使用する全単量体に対して20モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、0モル%がさらに好ましい。他の単量体単位の使用量が20モル%を超えると、所望するPVAの物性が発現され難くなる場合がある。
【0070】
また、一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際し、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、本発明の趣旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で共重合を行っても差し支えない。この連鎖移動剤としては、
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;
トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;
ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類等
が挙げられ、これらの中でもアルデヒド類およびケトン類が好適に用いられる。
【0071】
上記連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0072】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。共重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られにくい。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、本発明で規定する特定の単量体単位の変性率を有するPVAを得られにくい。共重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0073】
一般式(II)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を採用することができる。これらの中でも、無溶媒又はアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度のビニルエステル系重合体の製造を目的とする場合は乳化重合法が好適に採用される。
【0074】
上記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は2種類又はそれ以上の種類を混合して用いることができる。
【0075】
共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0076】
なお、一般式(II)で示される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を比較的高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解などに起因して、最終的に得られるPVAに着色等が見られることがある。このような場合には、着色を防止するために、重合系に酒石酸のような酸化防止剤をビニルエステル系単量体に対して1〜100ppm程度添加すればよい。
【0077】
上記共重合により得られたビニルエステル系重合体のけん化反応には、公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒又はp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応又は加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、メタノール又はメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0078】
〔PVA(B)〕
上記PVA(B)は、上記単量体単位として、上記一般式(III)で表されるポリオキシアルキレン基(POA基)を有する単量体単位(b)を含有する。上記PVA(B)は、上記単量体単位(b)を含むため、水溶液とした際の粘性が高く、また、感温ゲル化性を有する。従って、上記PVA(B)の水溶液を粉末又は粒子状のセルロース系バイオマスと混ぜ合わせた際のセルロース系バイオマスの溶液中の均一分散性(混和性)を高めることができる。なお、上記PVA(B)によれば、加水分解性セルロースの製造の際のゲル化剤の使用量を減らすことができる。
【0079】
上記Rは、メチル基又はエチル基から選ばれるアルキル基である。また、Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基であるが、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がさらに好ましい。
【0080】
上記一般式(III)中、m及びnは、それぞれのオキシアルキレンユニットの数を表し、0≦m≦10及び5≦n≦40の関係を満たす。ここで、数がmであるユニットをユニット1、数がnであるユニットをユニット2とする。ユニット1とユニット2の配置は、ランダム状又はブロック状のどちらの形態になっていてもよい。
【0081】
上記mは、0≦m≦10の関係を満たすが0≦m≦5が好ましい。また、上記nは、5≦n≦40の関係を満たすが、10≦n≦30が好ましい。m及びnを上記範囲とすることで、上記PVA(B)における親水性と疎水性とのバランスをとることができる。
【0082】
上記PVA(B)における上記単量体単位(b)の含有率は、0.1モル%以上10モル%以下が好ましく、0.15モル%以上8モル%以下がより好ましく、0.2モル%以上5モル%以下がさらに好ましい。上記単量体単位(b)の含有率を上記範囲とすることで、増粘性等をより効果的に発現させることができる。
【0083】
上記PVA(B)の平均重合度は100以上4,000以下が好ましく、500以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。上記PVA(B)の平均重合度を上記範囲とすることで、このPVA(B)を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よくかつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0084】
上記PVA(B)のけん化度は、70モル%以上99.99モル%以下が好ましく、80モル%以上99.9モル%以下がより好ましく、96モル%以上99.9モル%以下がさらに好ましい。上記PVA(B)のけん化度を上記範囲とすることで、このPVA(B)を水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よくかつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0085】
(PVA(B)の製造方法)
上記PVA(B)を製造する方法は特に制限されないが、上記一般式(IV)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合を行い、得られたビニルエステル系重合体をけん化する方法が好ましい。ここで、上記の共重合はアルコール系溶媒中又は無溶媒で行うことが好適である。
【0086】
上記Rは、水素原子又は−COOMであり、Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。上記アルカリ金属原子としては、ナトリウム原子等を挙げることができる。Rとしては、これらの中でも、水素原子が好ましい。
【0087】
は、水素原子、メチル基又は−CH−COOMであり、Mは、水素原子、アルカリ金属原子又はアンモニウム基である。上記アルカリ金属原子としては、ナトリウム原子等を挙げることができる。Rとしては、これらの中でも、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0088】
上記Xとしては、−O−、−CH−O−、−CO−、−CO−O−、−CO−NR−又は−CO−NR−CH−であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。これらの中でも、−CO−NR−又は−CO−NR−CH−が好ましい。当該POA変性PVAが上記アミド構造を有することで、水溶液とした際の粘性、セルロースとの親和性などの点から、セルロース系バイオマスの分断作業により好適なものとなる。なお、上記Rとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましい。上記Xが非対称である場合、その向きは特に制限されないが、POA基側を「*」としたときに上記Xとしては、−CONH−*、−CO−NH−CH−*又は−O−が好ましく、−CONH−*又は−CO−NH−CH−*がより好ましい。
【0089】
上記不飽和単量体としては、R及びRが水素原子のものとして、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリルアミド、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレンモノビニルエーテル、ポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアクリルアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリルアミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリルアミド、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリルアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノビニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノビニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノアクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンモノメタクリレート等を挙げることができる。
【0090】
が炭素数1〜8のアルキル基の場合の上記不飽和単量体としては、上述のRが水素原子の場合に例示した不飽和単量体の末端水酸基を炭素数1〜8のアルコキシ基に置換したものを挙げることができる。
【0091】
上記ビニルエステル系単量体としては、上述したものを挙げることができる。
【0092】
上記共重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲で他の単量体を共重合しても差し支えない。この他の単量体としては、PVA(A)の共重合の場合として上述したものを挙げることができる。また、上記他の単量体の使用率も、PVA(A)の場合と同様である。
【0093】
上記共重合に際し、上記PVA(A)の場合と同様に連鎖移動剤を用いることができる。また、上記共重合の際の温度、重合方式、並びに用いる開始剤及び酸化防止剤も上述したPVA(A)の場合と同様である。得られた共重合体のけん化方法も同様である。
【0094】
(粘性付与剤の形態等)
当該粘性付与剤は、上記PVAのみからなる粉末であってもよいし、このPVAの水溶液等であってもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分が含有されていてもよい。上記他の成分としては、他の水溶性重合体やゲル化剤等を挙げることができる。
【0095】
当該粘性付与剤がゲル状であるとよい。このようなゲル状の粘性付与剤(PVA水溶液)を用いることで、分断工程における当初段階から混合物を好適な粘性とすることができ、また、その粘性を一定程度維持することができるため効率のよい加水分解性セルロースの製造を行うことができる。さらにはゲル状であることで、分断されたセルロースポリマー鎖間にこのゲル状粘性付与剤(PVA)が進入し、かつ留まることができるため、セルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができ、分断能が向上することとなる。また、当該ゲル状の粘性付与剤においては、水溶液中での粘性が高い上記PVAを用いているため、ゲル化剤の使用量を減らすことができる。
【0096】
〔加水分解性セルロースの製造方法〕
セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造方法は、当該粘性付与剤(以下、「PVA水溶液」ともいう。)及びセルロース系バイオマスを含む混合物を得る混合工程と、上記混合物に剪断力を付加してセルロース系バイオマスを分断する分断工程とを少なくとも有する。なお、混合工程に先駆けて、セルロース系バイオマス原料を切断して、セルロース系バイオマスを適当なサイズの粒子とするセルロース系バイオマス原料切断工程、粘性付与剤(PVA水溶液)を調製する水溶液調製、及び粘性付与剤(PVA水溶液)をゲル状にするゲル化工程を有することが好ましい。以下加水分解性セルロースの製造工程に沿って順に説明する。
【0097】
(1)セルロース系バイオマス原料切断工程
本工程においては、以降の工程における処理を効率的にするために、セルロース系バイオマス原料を切断し、適当なサイズの粒子とする。ここで用いられるセルロース系バイオマス原料としては特に限定されず、植物由来のバイオマスを好ましく用いることができ、具体的には、例えば、間伐材等の木材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、トウモロコシやサトウキビ等澱粉系作物の茎、アブラヤシの空房(EFB)、ヤシの実の殻などを挙げることができる。このようなセルロース系バイオマス原料を、可能な限り土等の不要分を取り除いた後、剪断、叩解等の各種切断手段により、粒子状に小さくする。この切断工程においては、例えば、特表2004−526008号公報に記載の分断器や、パルプチップを製造する際に用いられる装置等を好適に採用することができる。
【0098】
この切断工程を経たセルロース系バイオマス粒子のサイズとしては、平均粒径2mm以下が好ましく、1mm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましく、20μm以上70μm以下がさらに特に好ましい。セルロース系バイオマス粒子の平均粒径を2mm以下とすることで、以降の混合工程や、特に分断工程を効率よく行うことができ、短時間で加水分解性の優れたセルロースを得ることができる。
【0099】
(2)水溶液調製工程
本工程においては、上記PVA(粘性付与剤)を水に溶解して水溶液(水溶液状の粘性付与剤)とする。このPVA水溶液の濃度としては、特に限定されないが、3質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。PVA水溶液の濃度を上記範囲とすることで、水溶液に適当な粘性を付与することができる。従って、水溶液の濃度を上記範囲とすることで、混練の際に、水溶液を介してセルロース系バイオマスへ物理的な力が効果的に伝わり、その結果、この水溶液によってセルロースポリマー鎖が引き剥がされ、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を効果的に行うことができる。PVA水溶液の濃度が3質量%未満の場合は、水溶液が適当な粘性を有さず物理的な作用による分断機能が十分に発揮されないおそれがある。逆に、PVA水溶液の濃度が30質量%を超えると、水溶液の粘性が高すぎて混練しにくくなるため、分断工程における作業性が低下するおそれがある。
【0100】
なお、このPVA水溶液には、上記PVA以外のPVAを含有してもよい。この場合、上記PVAを含むPVA全体としての濃度が上記濃度範囲となっていることが好ましい。また、このPVA水溶液(当該粘性付与剤)には、PVA以外の他の化合物等が溶解又は分散されていてもよい。
【0101】
(3)ゲル化工程
上述したセルロース系バイオマス原料切断工程によって得られたセルロース系バイオマスの粒子と、当該粘性付与剤(PVA水溶液)とを混合するに先駆けて、このPVA水溶液をゲル化すると好ましい。このようなゲル状のPVA水溶液を用いることで、後の分断工程において混合物が混練の初期段階から高い粘性を有するため、混練の物理的作用がセルロース系バイオマスに効果的に伝わり、このセルロース系バイオマスを分子レベルで効率的に分断することができる。さらには、ゲル状のPVA水溶液を用いることで、分断されたセルロースポリマー鎖間にこのゲル状水溶液が進入し、かつ留まることができるため、セルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができ、分断能が向上することとなる。
【0102】
このPVA水溶液のゲル化の方法としては、例えば、ホウ酸塩、チタニウム酢酸塩、その他の金属塩等様々な化学物質(ゲル化剤)を添加し、PVAを架橋させる方法などを挙げることができる。
【0103】
なお、当該粘性付与剤(上記PVA)は、水溶液中での増粘性に優れているため、上記ゲル化剤の添加量を減らしても、又は、ゲル化剤を用いなくとも、この水溶液に適度な粘性を付与することができる。すなわち、当該粘性付与剤によれば、ゲル化剤の使用量を減らすことができる。
【0104】
ホウ酸塩を添加してPVA水溶液をゲル化させる場合には、例えば5質量%のPVA水溶液100質量部に対して、四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液を0質量部以上10質量部以下、好ましくは0.1質量部以上5質量部以下加えて混ぜ合わせることで行うことができる。このようにしてゲル状にされたPVA水溶液は、当該製造において好適な粘性を有し、また、セルロース系バイオマスと混ぜ合わされて混練され続けても粘度が上昇(硬化)しにくいため容易かつ効率的に混練を行うことができる。
【0105】
なお、このゲル状のPVA水溶液は、酸性であることが好ましく、具体的にはpHが4以上6以下であることが好ましい。
【0106】
(4)混合工程
上記工程にて得られたPVA水溶液、好ましくは上記ゲル化工程においてゲル状にされたPVA水溶液、及び上記切断工程にて好ましいサイズに切断されるなどしたセルロース系バイオマスを混合して、これらを含む混合物を得る。
【0107】
セルロース系バイオマスの混合量としては、特に限定されないが、混合物全体に対するセルロース系バイオマスの混合量が5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。セルロース系バイオマスの混合量が5質量%未満の場合は、混合物の粘性が低く物理的な作用による分断機能が十分に発揮されないおそれがあると共に、セルロース系バイオマスの処理量が低いため、作業効率が低下する。逆にセルロース系バイオマスの混合量が50質量%を超えると、バイオマスによる吸水性が強く、混合物の粘性が高すぎて、混練しにくくなるため、作業性が低下する。この混合物の粘度としては、例えば5.0×10mPa・s以上1.0×10mPa・s以下が好ましい。
【0108】
(5)分断工程
上述の混合工程にて得られた混合物に剪断力を付加することによって、セルロース系バイオマスを分子レベル(準結晶構造レベル)で分断する。つまり、準結晶構造を有するセルロースが部分的に水和され、また、上記PVAが進入し、このセルロース分子間の水素結合が弱まり、加えて、剪断力の付加による物理的な力により、分子間の結合が弱まった状態でセルロースポリマー同士が互いに引き離されることで、細胞壁の微視的な構造が分断されることとなる。
【0109】
ここで、本発明の粘性付与剤を用いることで、上記PVAと、水及びセルロースとの高い親和性により、混合物に適度な粘性を付与できるため、セルロース分子間の水素結合の低下という化学的な作用と、剪断力の付加という機械的な操作によってセルロース分子同士を物理的に引き離す作用とを共に効果的に発揮することができる。また、当該粘性付与剤を用いることで、物理的に引き離されたセルロースポリマー鎖の隙間にこのPVAが進入し、付着しやすくなる。従って、上記PVAを用いた当該製造方法によれば、セルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができ、より効率的に加水分解性セルロースを製造することができる。
【0110】
更には、ゲル状とされたPVA水溶液を用いることで、剪断力の付加の最初の段階から常に好ましい粘性を有した混合物とすることができ、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を効率的に行うことができる。
【0111】
この分断工程における混合物に剪断力を付加する方法としては特に限定されず、例えば混合物を練り混ぜる方法などが挙げられる。また、この分断工程に用いられる装置としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の成形の際に一般的に使用される二軸押出成形機等が好適に用いられる。この分断工程に要する時間としては、混合物の量等に応じて適宜設定されるが、例えば30分以上10時間以内程度である。なお、この分断工程の際、粘度が減少した場合は、適宜、四ホウ酸ナトリウム水溶液の添加などによって、粘性を調整するとよい。
【0112】
この加水分解性セルロースの製造方法によれば、上述の各工程を経ることで、セルロース系バイオマスは、準結晶構造が分断された容易に加水分解されるセルロースとなる。
【0113】
(6)後工程
なお、このようにして得られた加水分解性セルロースは、混合物中にセルラーゼ等の加水分解酵素を添加することで容易に糖化され、生じたグルコースが水溶液中に溶け出す。上記加水分解酵素としては、例えば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルカナーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、アミラーゼ、メイセラーゼ、アクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ)等を挙げることができる。また、糖化の際、セルロース系バイオマス中に含まれるヘミセルロース由来のキシロース等も、併せて水溶液中に溶け出す。この際、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンが不溶な粒子として存在することがあるが、このリグニンは、例えば、ろ過や遠心分離によって分離することができる。このようにして得られた可溶性のグルコース等の糖類は、醗酵によってエタノールとし、燃料資源などとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0115】
下記の製造例により得られたPVAについて、以下の方法にしたがって評価を行った。
【0116】
[PVAにおける、炭素数29以下のアルキル基を有す単量体単位の含有率(以下、「変性率」ともいう。)]
上述したプロトンNMRを用いた方法に準じて求めた。なお、溶媒にはCDClを用い、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を使用した。
【0117】
[PVAの平均重合度]
PVAの平均重合度は、JIS K6726に記載の方法により求めた。
【0118】
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS K6726に記載の方法により求めた。
【0119】
<PVAの製造>
製造例1−1(PVA1−1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、単量体滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、及びN−オクタデシルメタクリルアミド(アルキル基を有する不飽和単量体)1.1gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてN−オクタデシルメタクリルアミドをメタノールに溶解して濃度5%とした単量体溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルとN−オクタデシルメタクリルアミドとの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えた単量体の総量は4.8gであった。また重合停止時の固形分濃度は29.9質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性ビニルエステル系共重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液771.4g(溶液中のアルキル変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のアルキル変性PVAc濃度25質量%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、アルキル変性PVA(PVA1−1)を得た。PVA1−1の平均重合度は1,700、けん化度は98.5モル%、変性率は0.4モル%であった。
【0120】
製造例1−2〜1−18(PVA1−2〜1−18の製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するアルキル基を有する不飽和単量体の種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるアルキル変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1に示すように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により各種のアルキル変性PVA(PVA1−2〜1−18)を製造した。
【0121】
製造例1−19(PVA1−19の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、オクタデシルビニルエーテル57.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.0gを添加し重合を開始した。60℃で2時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は30.4質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、アルキル変性ビニルエステル系共重合体(アルキル変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したアルキル変性PVAcのメタノール溶液792.9g(溶液中のアルキル変性PVAc200.0g)に、7.0gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のアルキル変性PVAc濃度25質量%、アルキル変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.0075)。アルカリ溶液を添加後約12分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、アルキル変性PVA(PVA1−19)を得た。PVA1−19の平均重合度は1,700、けん化度は88.0モル%、変性率は0.8モル%であった。
【0122】
製造例1−20(PVA1−20の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル900g、メタノール100gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は31.0質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、無変性ポリ酢酸ビニル(無変性PVAc)のメタノール溶液(濃度30質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製した無変性PVAcのメタノール溶液971.1g(溶液中の無変性PVAc200.0g)に、27.9gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液の無変性PVAc濃度20質量%、無変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.03)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、無変性PVA(PVA1−20)を得た。PVA1−20の平均重合度は3,000、けん化度は98.5モル%であった。
【0123】
【表1】
【0124】
[実施例1−1]
蒸留水にPVA1−1を添加し、撹拌しながら90℃まで加熱することで10質量%のPVA水溶液を調製した。このPVA水溶液は水より僅かに粘性を有するものであった。この水溶液100gを室温まで冷却した後、ホウ酸(HBO)の飽和水溶液1mLを加えて混合した。得られた水溶液のpHは5.0であった。更にこの水溶液に四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液0.5mLを加えて混合することで、水溶液を粘性のあるゲル状体とした。このゲル状体のpHは6.5であった。次に、セルロース系バイオマス粒子としてEFB(直径20〜70μmの粒子)50gをこのゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜた。
【0125】
この混合物は、混練当初は比較的柔軟性を有していたが、混練を続けるうちに、EFB(セルロース系バイオマス粒子)が水を吸収し、若干粘度が向上した。この混合物はローラで容易に伸ばし、練ることができた。一定時間混練を行う毎に、混合物の一部を取り出し、顕微鏡によって粒子サイズを確認した。この分断工程を進めるにつれて、粒子のサイズが減少すること、及び細胞構造が分断されることが観察できた。
【0126】
混練によるセルロースの分断が十分にされたことを顕微鏡により確認し、加水分解性セルロースの水溶液を得た。この後、混合物に蒸留水を添加し、粘性を低下させた。加水分解酵素の至適pHに調整するため、この混合物に更に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に調整した。この混合物は、溶けたチョコレート程度の粘性を有していた。この混合物に、加水分解酵素として、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)及びアクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ:明治製菓株式会社製)をEFB100質量部に対してそれぞれ0.5質量部ずつ添加し、50℃の温度で反応容器内で撹拌した。酵素を加えて数十分で、この混合物の粘性は目立って減少した。この撹拌を6時間行い、グルコース溶液を得た。
【0127】
[実施例1−2〜1−18、比較例1−1〜1−2]
PVAをPVA1−1から表2の他のPVAに替えたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−2〜1−18及び比較例1−1〜1−2を行い、加水分解性セルロース水溶液を得て、最終的にグルコース溶液を得た。
【0128】
[評価]
(混和性)
実施例1−1〜1−18、比較例1−1〜1−2において、EFBをゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜてから1時間後に混合物の一部を取り出した。顕微鏡を用いて、取り出した混合物におけるEFBの凝集を目視て観察し、該粒子が凝集していない場合を「良好」、若干凝集している場合を「やや凝集」、激しく凝集している場合を「凝集」と判定した。評価結果を表2に示す。
【0129】
(糖化効率)
得られたグルコース溶液に蒸留水を加えて400mLとした後、このグルコース溶液のサンプル溶液を2mL(全溶液の0.5%)採取し、100℃にて5分間殺菌した。サンプル溶液を冷却した後、遠心分離器を用いて3,000rpmで30分間遠心分離し、ろ過して、固形物を取り除いた後、ろ液を液体クロマトグラフィーに供して単糖類(グルコースなど)を検量した。用いたEFB(50g)に占めるセルロース及びヘミセルロースの質量比を50%と定めて、以下の計算式にて糖化効率(%)を求めた。測定結果を表2に示す。
糖化効率=〔サンプル溶液中の単糖類質量(g)/{50(g)×0.005×0.5}〕×100(%)
【0130】
【表2】
【0131】
表2に示されるように、実施例1−1〜1−16は、特定の単量体単位を有するアルキル変性PVAを用いているため、いずれも糖化効率が80%を超え、セルロースが容易に加水分解される状態に分断されていることがわかった。一方、比較例1−1は、用いたPVAが無変性であるためセルロースが容易に加水分解される状態にまで十分に分断されていないことがわかった。
【0132】
<PVAの製造>
製造例2−1(PVA2−1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、単量体滴下口及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル750g、メタノール250g、POA基を有する不飽和単量体(表4に示す単量体A、ユニット1とユニット2の配置はブロック状であり、ユニット1のブロックがユニット2のブロックに対して上記X側に位置する。)3.3gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてPOA基を有する不飽和単量体(単量体A)をメタノールに溶解して濃度20質量%とした単量体溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと単量体Aとの比率)が一定となるようにしながら、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えた上記単量体溶液の総量は75mlであった。また重合停止時の固形分濃度は24.4質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、POA変性ビニルエステル系重合体(POA変性PVAc)のメタノール溶液(濃度35質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製したPOA変性PVAcのメタノール溶液453.4g(溶液中のPOA変性PVAc100.0g)に、55.6gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液のPOA変性PVAc濃度質量20%、POA変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.1)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、POA変性PVA(PVA2−1)を得た。PVA2−1の平均重合度は1,740、けん化度は98.5モル%、変性量は0.4モル%であった。
【0133】
製造例2−2〜2−24(PVA2−2〜2−24の製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するPOA基を有する不飽和単量体の種類(表4)や添加量等の重合条件、けん化時におけるPOA変性PVAcの濃度、酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表3及び表4に示すように変更した以外は、製造例2−1と同様の方法により各種のPOA変性PVA(PVA2−2〜2−24)を製造した。
【0134】
製造例2−25(PVA2−25の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管及び開始剤の添加口を備えた3Lの反応器に、酢酸ビニル700g、メタノール300gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25gを添加し重合を開始し、60℃で3時間重合した後冷却して重合を停止した。重合停止時の固形分濃度は17.0質量%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、無変性ポリ酢酸ビニル(無変性PVAc)のメタノール溶液(濃度30質量%)を得た。さらに、これにメタノールを加えて調製した無変性PVAcのメタノール溶液544.1g(溶液中の無変性PVAc120.0g)に、55.8gのアルカリ溶液(水酸化ナトリウムの10質量%メタノール溶液)を添加してけん化を行った(けん化溶液の無変性PVAc濃度20質量%、無変性PVAc中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.1)。アルカリ溶液を添加後約1分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール2,000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置して乾燥し、無変性PVA(PVA2−25)を得た。PVA2−25の平均重合度は1,760、けん化度は98.8モル%であった。
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
[実施例2−1〜2−24、比較例2−1]
PVAをPVA1−1から表5の他のPVAに代えたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例2−1〜2−24及び比較例2−1を行い、加水分解性セルロース水溶液を得て、最終的にグルコース溶液を得た。
【0138】
[評価]
上記方法にて、混和性の評価と糖化効率の測定とを行った。結果を表5に示す。
【0139】
【表5】
【0140】
表5に示されるように、実施例2−1〜2−19は、特定の単量体単位を有するPOA変性PVAを用いているため、いずれも糖化効率が78%を超え、セルロースが容易に加水分解される状態に分断されていることがわかった。一方、比較例2−1は、用いたPVAが無変性であるためセルロースが容易に加水分解される状態にまで十分に分断されていないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上説明したように、本発明の粘性付与剤は、セルロース系バイオマスを原料として加水分解性セルロースを製造する際に好適に用いることができる。従って、本発明によれば、植物系のバイオマス原料を、効率よく食物やエネルギー資源として活用することができ、バイオマスの活用の実現性を高めることができる。