【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0045】
(実施例1)
本実施例1では、プラスミド除去用組み換えプラスミドの作成方法に係る実施例について詳細に述べる。
【0046】
本実施例1では、プラスミド除去用組み換えプラスミドとしてpK18msr24、pK18msrAおよびpK18msr24Aを作成した例について詳細に述べる。これらのプラスミド除去用組み換えプラスミドのプラスミド安定遺伝子として、pK18msr24はpTi−SAKURA由来のtiorf24を、pK18msrAはpTiC58由来のietAを、pK18msr24Aはtiorf24およびietAの両方を有するよう作成した。
【0047】
これらのプラスミド除去用組み換えプラスミドの作成は、RP4からのoriTをもつpK18msrを出発材料とした。当該pK18msrのプラスミドは、大腸菌からアグロバクテリア菌だけでなく、グラム陽性およびグラム陰性の両方のバクテリアにも移動可能であるプラスミドである(特許文献1および非特許文献3参照)。
【0048】
当該プラスミド上に存在するsacB遺伝子は、細胞を高濃度のショ糖を含む培地で培養すると、細胞を死滅させる効果がある(Steinmetz M., et al., 1983, Mol. Gen. Genet. Syst. 77, 1-9およびGay P., et al., 1985, J. Bacteriol. 164, 918-921参照)。そのため、遺伝子を欠失した細胞の単離、すなわちカウンター選別に有用である。また、pK18msrは、pTi−SAKURAの複製遺伝子であるrepABC遺伝子を有しており、アグロバクテリア細胞内で多くのTiプラスミドと不和合なプラスミドとして維持される。
【0049】
次に、tiorf24を含むDNA断片(pTi−SAKURA(GenBankアクセッション番号AB016260)の全塩基配列中24,297〜25,118)およびietAを含むDNA断片(pTiC58(GenBankアクセッション番号AE007871)の全塩基配列中97,533〜98,938)を、末端にXbaI切断部位を付加したプライマーを用い、PCRで増幅後、XbaIで消化し、それぞれ前述したpK18msrのXbaI切断部位に挿入した。
【0050】
このように本実施例1に係るプラスミド除去用組み換えプラスミド、pK18msr24およびpK18msrAを作成した。なお、pK18msr24Aについては、pK18msr24のNheI切断部位にietAを含むXbaI切断DNA断片を挿入することによって作成した。
図4は、実施例1に係るpK18msr24Aの遺伝子地図を示す図である。これらの実施例1に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドを構成するプラスミド、DNA断片(tiorf24、repABC、ietAおよびsacB等)の塩基配列は全て公知であるため、GenBank等のデータベースを用いて前述のプラスミド除去用組み換えプラスミドを作成することは当業者であれば容易である。前述した通り、当該三つのプラスミドの塩基配列を配列表の配列番号1ないし3に示す。
【0051】
(実施例2)
本実施例2では、前述の実施例1のプラスミド除去用組み換えプラスミドの接合導入効率に係る実施例について詳細に説明する。
【0052】
本実施例2では、従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドと、本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドとの接合導入効率における比較について説明する。従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドとしては、pK18msrを用いた。
また、tiorf24−tiorf25およびietA−ietSを含むプラスミドであるpK18SCatと、
本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドとしては、前述したpK18msr24、pK18msrAまたはpK18msr24Aのプラスミドとを用いた。それぞれこれらのプラスミド除去用組み換えプラスミドを用い、種々のアグロバクテリア菌の菌株におけるTiプラスミド除去操作を行った(Uraji M., et al., 2002, Genes Genet. Syst. 77, 1-9参照)。
【0053】
アグロバクテリア菌の菌株は、MAFF301001、C58、Ch−Ag−10、Pch−Ag−2、Pl−Ag−1、Ch−Ag−2およびPch−Ag−4を使用した。各プラスミド除去用組み換えプラスミドの各アグロバクテリア菌株への導入は、それぞれのプラスミド除去用組み換えプラスミドを有する大腸菌S17−1λpirとの接合によって実施した。接合方法は当該分野にて一般的な方法を用いた(Simon R., et al., 1983, Bio/Technology 1, 784-794参照)。まず、ドナーの大腸菌と受け取り側のアグロバクテリア細胞の細胞密度を1.0OD
600となるまで培養し、0.9%(W/V)NaClを用いて洗浄した。
【0054】
次に、アグロバクテリア菌細胞を同量のドナーである大腸菌細胞と混合した後に、LB寒天培地上のナイロン膜フィルター(Amersham社製)に滴下した。その後、28℃で15時間インキュベートし、フィルター上の細胞混合物を0.9%NaClに懸濁し、リファンピシン(終濃度30μg/ml)およびカナマイシン(終濃度50μg/ml)を添加したLB寒天培地上に塗布した。
【0055】
なお、菌株にPch−Ag−2、Pl−Ag−1、Ch−Ag−2、Ch−Ag−10またはPch−Ag−4を用いた際には、細胞の洗浄および懸濁は0.9%NaClの代わりにYMA培地(1%Mannitol、0.4%Yeast extract、0.05%K
2HPO
4、0.01%NaClおよび0.02%MgSO
4)を、LB寒天培地の代わりにYMA寒天培地を用い、選択培地としてはナルジクス酸(終濃度30μg/ml)およびネオマイシン(終濃度50μg/ml)を添加したYMA寒天培地を使用した。その後、三日間の培養で生じたコロニー(接合体)を数え、実験に用いた細胞数当たりの比率(接合効率)として計算した。
【0056】
図5は、実施例2に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドのプラスミド安定化遺伝子の様子を示す図である。
図6は、実施例2に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドの導入による各種アグロバクテリア菌株の接合効率を示す図である。
図5において、+は該安定化遺伝子が該プラスミド除去用組み換えプラスミド上に存在していることを示し、−は該安定化遺伝子が該プラスミド除去用組み換えプラスミド上に存在していないことを示す。
図6において、ntは未実施であることを示している。
【0057】
図6に示すように、従来のプラスミド除去用組み換えプラスミド(pK18msr)と比較すると、特に、pK18msr24Aが大半のアグロバクテリア菌株において高い接合導入効率(Transconjugant efficiency)を示していた。
【0058】
(実施例3)
本実施例3では、従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドと、前述の実施例1のプラスミド除去用組み換えプラスミドとを比較した際の、Tiプラスミド除去効率に係る実施例について詳細に説明する。
【0059】
前述の実施例2における接合体細胞の中に、Tiプラスミドが存在するか否かを試験した。Tiプラスミドのvir領域は菌株間で高度に保存されているため、virC増幅プライマー(VCF3およびVCR3(塩基配列を配列番号4および5に示す))を用いるPCRによって、多くのアグロバクテリア菌の菌株が持つTiプラスミドは高感度に検出できる。すなわち、接合体細胞のゲノムDNAをテンプレートとし、配列番号4および5に示されるvirC増幅プライマーを用いてPCRを行った場合、Tiプラスミドを有している細胞でのみ約400bpのDNA断片の増幅が見られる。
【0060】
まず、このような方法によって各プラスミド除去用組み換えプラスミドによる接合体細胞のTiプラスミドの有無を確認し、Tiプラスミド除去率として算出した。
図7は、実施例3に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドの導入による各種アグロバクテリア菌株のTiプラスミド除去率を示す図である。
図6と同様に、ntは未実施を示す。
【0061】
従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドであるpK18msrと比較すると
、pK18SCatおよび
本発明に係るpK18msr24Aを導入した接合体細胞で、大半のアグロバクテリア菌の菌株においてTi除去率(%)が大きく上昇していた。他の本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドに関しては、pK18msr24についてはMAFF301001接合体において、pK18msrAについてはC58接合体において、pK18msrよりも高いTi除去率(%)を示した。さらには、Ch−Ag−10、Pl−Ag−1およびPch−Ag−2については
pK18msrではTiプラスミドが除去された細胞は殆ど得られなかったが
、pK18SCatおよびpK18msr24Aでは、特に効率よく種々のTiプラスミド除去株を得ることができていた。
【0062】
(実施例4)
本実施例4では、従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドと、前述の実施例1のプラスミド除去用組み換えプラスミドとを比較した際の、sacBカウンター選別によるプラスミド除去用組み換えプラスミドの脱落率に係る実施例について詳細に説明する。
【0063】
前述の実施例3のTiプラスミド除去接合体細胞は、Tiプラスミドの代わりにプラスミド除去用組み換えプラスミドを含んでいる状態である。アグロバクテリア細胞を活用するには、プラスミド除去用組み換えプラスミドを除去する必要がある。
図4に示したように、pK18msr24Aはホスト細胞をショ糖高感受性にするsacB遺伝子を有している。図示していないが、他の実施例1にて述べた本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドにも同様にsacB遺伝子を持たせた。
【0064】
前述した実施例3のTiプラスミド脱落菌株を0.9%NaClで希釈後、ショ糖を添加したLB寒天培地(終濃度5%)に塗布し、2、3日培養後、コロニーを出現させた。出現したコロニーを、カナマイシン(終濃度50μg/ml)を加えたLB寒天培地に移植後、28℃で2、3日培養し、生育の有無を観察した。Ch−Ag−10、Pch−Ag−2、Ch−Ag−2、Pch−Ag−4およびPl−Ag−1由来の接合体細胞に関しては、Tiプラスミド脱落菌株の希釈には0.9%NaClの代わりにYMA培地を用い、塗布および移植にはLB寒天培地の代わりにYMA寒天培地を用い、カナマイシンの代わりにネオマイシン(終濃度50μg/ml)を用いた。
【0065】
このように培養を行った結果、カナマイシンあるいはネオマイシン添加固体培地上で生育しないものをプラスミド除去用組み換えプラスミドを失った細胞と判断した。
図8は、実施例4に係るsacBカウンター選別による各種アグロバクテリア菌株のプラスミド除去用組み換えプラスミド脱落率を示す図である。
図6および
図7と同様に、ntは未実施を示す。
【0066】
図8に示すように、安定化遺伝子全て(tiorf24、tiorf25、ietAおよびietS)を有しているプラスミド除去用組み換えプラスミドでは、MAFF301001およびC58で約30%、その他の菌株ではほぼ0%の脱落率となっていた。すなわち、前述のTiプラスミド除去率の結果では、従来のプラスミド(pK18msr)よりも優れていたが、本実施例4に係る脱落率では、従来のプラスミドには劣る結果となり、少々扱い難い点を有することも示唆される。その一方で、pK18msr24Aについては全ての菌株において極めて効率よく、プラスミド除去用組み換えプラスミドを脱落させた細胞を得ることができた。
【0067】
(実施例5)
本実施例5では、Tiプラスミドを除去し、プラスミド除去用組み換えプラスミドを脱落させたアグロバクテリア細胞菌株のその後の操作に係る実施例について詳細に説明する。
【0068】
なお、本実施例5に係る実験操作は、従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドを用いて作成したアグロバクテリア細胞菌株を用いて操作する場合と、本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドを用いて作成したアグロバクテリア細胞菌株を用いて操作する場合と同様である。アグロバクテリア菌のC58では従来のプラスミド除去用組み換えプラスミドpK18msrを用い、Pch−Ag−2では本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドpK18msr24Aを用い、前述の実施例3および実施例4の方法にてプラスミド脱落アグロバクテリア菌株を作成した。
【0069】
当該アグロバクテリア菌株に、無毒化TiプラスミドpTi−SAKURA−Sを大腸菌S17−1λpirを介し、導入した。無毒化TiプラスミドpTi−SAKURA−Sは、pTi−SAKURAのT−DNA領域を削除し、代わりに大腸菌において働く複製起点oriV
pSC101、ゲンタマイシン耐性遺伝子Gm
R、アンピシリン耐性遺伝子Amp
Rおよび転移起点oriTを持たせた無毒化Tiプラスミドである(非特許文献1参照)。
【0070】
次いで、無毒化TiプラスミドpTi−SAKURA−Sを導入したアグロバクテリアC58およびPch−Ag−2に、バイナリープラスミドpBINGIを大腸菌S17−1λpirを介して導入した。バイナリープラスミドpBINGIは、T−DNA領域(LBとRBに挟まれた領域)に、レポーター遺伝子intron−GUSおよびカナマイシン耐性遺伝子nptIIを持つ(非特許文献1参照)。
【0071】
このように作成した、無毒化Tiプラスミドとバイナリープラスミドとを持つアグロバクテリアC58およびPch−Ag−2は、腫瘍または毛状根等の病気を引き起こすこと無く植物または菌類へ、遺伝子導入をすることが可能である。
図9は、実施例5に係る無毒化Tiプラスミドおよびバイナリープラスミドを持つアグロバクテリア菌株の作成方法を示す図である。なお、本実施例5では、カナマイシン耐性遺伝子nptIIを使用しているため、カナマイシンを含む植物用培地を利用することで遺伝子が導入された植物細胞のみを選択的に生育させることが可能である。また、レポーター遺伝子intron−GUSは、β−グルクロニダーゼをコードしている。これは、実施例6にて後述するが、形質転換操作を行った植物組織に含まれる当該タンパク質の活性(GUS活性)を測定することにより、遺伝子導入の効率を評価するためである。
【0072】
(実施例6)
本実施例6では、従来使用されていたアグロバクテリア菌株と、本発明での方法によって作出されたアグロバクテリア菌株との形質転換効率の比較に係る実施例について詳細に説明する。
【0073】
比較した菌株はいずれも無毒化TiプラスミドpTi−SAKURA−SとバイナリープラスミドpBINGIとを持つアグロバクテリア菌株であるということは同様であるが、当該アグロバクテリア菌株の作成方法(使用したプラスミド除去用組み換えプラスミド)が異なる。遺伝子導入のためのアグロバクテリア菌株は、それぞれ前述の実施例5の菌株と同様である。形質転換効率は、大根(Raphanus sativus L. cv. Aonosachi)の外植片を以て比較した。
【0074】
まず、無菌処理を施した大根の種子を発芽させ、その子葉、胚軸をそれぞれのアグロバクテリア菌液(0.4OD
660)に5分間浸漬した。その後、植物ホルモン(3μg/mlナフタレン酢酸および4μg/mlベンジルアデニン)を含むMS固体培地に移し、22℃において3日間照明下で共存培養した。次いで、形質転換細胞を選択的に生育させるため、セフォタキシム200μg/mlおよびカナマイシン25μg/mlを加えた前述と同様のMS固体培地上に移し、22℃において2週間照明下で培養した。その後、培地上の植物細胞を回収し、タンパク質を抽出後、GUS活性を測定し、形質転換効率を評価した。なお、GUS活性評価方法の詳細については、Jefferson R. A. et al., 1987, EMBO J. 6, 3901-3907を参照されたい。
【0075】
図10は、実施例6に係る大根に対する形質転換効率の比較を示す図である。
図10に示すように、本発明に係るプラスミド除去用組み換えプラスミドを利用し作成した遺伝子組み換え用アグロバクテリアPch−Ag−2では、従来のものを利用し作成した遺伝子組み換え用アグロバクテリアC58よりも、約1.7倍高い形質転換効率を示していた。
【0076】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0077】
本明細書の中で明示した論文および公開特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。