(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血漿を含む検体と、接触因子を活性化する第1化学物質が溶解した第1水溶液と、カルシウムイオンを供給する第2化学物質が溶解した第2水溶液とを混合することで、前記検体の血液凝固能を判定する血液凝固測定方法において、
少なくとも前記第2水溶液は独立し、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して前記流路を流れる状態に前記検体,前記第1水溶液,および前記第2水溶液を前記流路に導入する第1工程と、
前記流路を流れる流体の流速を測定する第2工程と、
測定された流速から前記検体における血液凝固能を判定する第3工程と
を少なくとも備え、
前記第1工程では、前記検体,前記第1水溶液,および前記第2水溶液を、少なくとも前記第1水溶液を2番目に導入する状態で各々個別に前記流路の一端より導入し、前記検体,前記第1水溶液,および前記第2水溶液が前記流路の延在方向に直列に配列して隣り合う各々が接触して流れる状態とする
ことを特徴とする血液凝固測定方法。
【背景技術】
【0002】
血液凝固活性(血液凝固能)は、例えば、経口で投与される抗凝血薬療法の監視に用いられる指標などを得るための重要な項目である。例えば、脳梗塞や心筋梗塞を代表とする各種血管梗塞の手術後の患者は、血栓再発防止として血液を凝固させないヘパリン等の抗凝固剤を投与する。抗凝固剤は、患者の体調(薬理代謝)や食環境に依存する日動状態によって投与量を調整する必要がある。
【0003】
もし薬剤の投与量が最適値よりも少ない場合、血栓が再発する恐れがあり、一方で、最適値よりも多い場合は日々体内で起きている内出血を止血することができない副作用が生じる。このため、患者は自身の血液凝固状態を把握するために1週間に1回程度で通院し、血液凝固活性の状態を検査している。また、外科手術後の傷口の止血として凝固剤を投与する場合があり、現在の止血度合いを監視するために、治療とは別に冗長の入院期間が必要となる。従って、血液凝固活性の状態が、より簡便に測定できる技術が求められている。
【0004】
ここで、血漿中における血液凝固の過程には、外因性血液凝固と内因性血液凝固の2つが存在する。この中で、内因性血液凝固は、血管内皮細胞下組織に接する際に受ける負電荷作用などを、凝固活性を上げる因子とし、初期にはプレカリクレインと高分子量キニノゲンが第XII因子を活性化することで内因性凝固反応が開始される。この後、血液凝固の過程に従い各種血液凝固因子の情報伝達を経由した後、最終的に可溶化状態であるフィブリノゲンを切断・架橋することで不溶化の重合フィブリンを生成し、血栓が形成される。
【0005】
上述した内因性凝固因子による血液凝固能を測定する検査方法として、一般にAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間:Activated Partial Thromboplastin Time)検査法が用いられている(非特許文献1参照)。この検査方法では、血液が凝固するタンパク質(トロンボモジュリンやエラグ酸)およびカルシウムイオンを、凝固反応を誘因させる物質として血漿に混合し、混合開始から凝固完了までの時間(凝固点)を測定し、標準血漿の結果と比較して遅延時間を見積もっている。
【0006】
例えば、誘因物質としてエラグ酸などの負電荷を帯びた生体物質を血漿サンプルに反応させて第XII因子を十分活性状態にした後、塩化カルシウムを添加し、この結果生成される最終産物である不溶化フィブリンの生成量を物理的に測定する。あるいは、各種血液凝固因子を合成基質法などで測定する。これらの検査は、病院内の大型分析装置を用いて実施されている。
【0007】
検査によって得られるAPTTが標準値よりも延長される場合、例えば、血友病などの血液凝固因子の異常、肝炎・肝硬変などの血液凝固因子を生産する肝機能の障害が主に考えられる。また、ビタミンK欠乏症や骨髄腫などによっても血液が固まるまでの時間は長くなる。このように、APTTによって、様々な病態異常を発見することが可能である。また、前述した抗凝固剤の投与量の最適値も、APTTによって判断できる。
【0008】
APTTを物理的に測定する方法として、撹拌抵抗式,光散乱方式,熱伝導式,水晶振動子式などが発明されているが、現在一般には、撹拌抵抗および光散乱方式が多く用いられている。撹拌抵抗式の場合、サンプル(検体)を活性化剤と一緒に導入してフィンで撹拌し、フィンの抵抗の上昇から凝固時間を得る方法である。また、光散乱方式は、試験用容器内で、血漿に凝固活性化を促す成分を含む試薬を混合し、容器に対して光を入射し、入射した光の散乱光量変化を測定して凝固時間を得る方法である。散乱光から凝固時間を得るためには、散乱光量をこのまま利用する方法、散乱光量の微分値を利用する方法、あるいは散乱光量がある一定値に達するまでの時間を求める方法がある(特許文献1参照)。
【0009】
また、発明者らは、マイクロ流路を備える測定チップを使った表面プラズモン共鳴(SPR)測定法を用いた流速測定によるAPTT測定を提案している(特許文献2参照)。この測定では、まず、エラグ酸および塩化カルシウムなどの凝固活性化剤を対象となる血漿に混合した血漿サンプルを測定直前に調製する。次に、緩衝液を満たしてあるマイクロ流路に調製した血漿サンプルを導入する。このようにして導入した血漿サンプルが緩衝液と共に移送されるときの流速を測定し、測定された流速より凝固時間を求めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、現在一般に用いられているAPTT検査は、あまり高い再現性が得られないという問題が指摘されている。再現性が得られない要因として、APTTにおいては、刺激対象のトリガー物質が凝固の過程のより初期の段階で作用しているため、混合試料の活性を均一にすることが難しい点が挙げられる。
【0013】
従来のAPTT測定では、ある程度おおきな体積の容器内で各試薬を混合した後の試料を測定しているが、混合している容器内で反応ムラが発生し、測定点によって結果に誤差が生じる恐れがある。また時間測定を行うため、検体,エラグ酸,および塩化カルシウムとより多くの試薬を混合するAPTTでは、混合の順番などによって装置手技依存のタイムラグが発生するため、測定者や装置間で発生する検査誤差が問題となっている。
【0014】
また、特許文献2のSPR測定法を用いた流速測定によるAPTTの測定では、上述した従来のAPTT検査に倣い、例えば、検体,エラグ酸,および塩化カルシウムを混合した検査対象の試料を測定対象としており、前述同様に、流路内で凝固反応のムラが発生しやすいという問題が発生する。
【0015】
また、通常、APTTは30秒前後であり、100%を超える高活性血漿が対象の場合、血漿と凝固活性化剤とを混合してから流路内に導入するまでの間に凝固が進行し、流路に導入した直後に凝固反応により粘度が増加し、流速測定が困難になる場合が発生する。この粘度の増加は、緩衝液などで血漿を希釈した試料を用いて測定することである程度は解決できる。しかしながら、このように希釈して測定すると、CV(変動係数:Coefficient of Variation)が低下し、バラツキが増加して測定の精度が低下する。
【0016】
以上に説明したように、従来では、内因性凝固因子による血液凝固能が、簡便な方法で正確に測定できないという問題があった。
【0017】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、簡便な方法で正確に内因性凝固因子による血液凝固能が測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る血液凝固測定方法は、血漿を含む検体と、接触因子を活性化する第1化学物質が溶解した第1水溶液と、カルシウムイオンを供給する第2化学物質が溶解した第2水溶液とを混合することで、検体の血液凝固能を判定する血液凝固測定方法において、少なくとも第2水溶液は独立し、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に検体,第1水溶液,および第2水溶液を流路に導入する第1工程と、流路を流れる流体の流速を測定する第2工程と、測定された流速から検体における血液凝固能を判定する第3工程とを少なくとも備える。
【0019】
上記血液凝固測定方法において、第1工程では、検体
,第1水溶液
,および第2水溶液
を、少なくとも第1水溶液を2番目に導入する状態で各々個別に流路の一端より導入し、検体,第1水溶液,および第2水溶液が流路の延在方向に直列に配列して
隣り合う各々が接触して流れる状態と
する。
【0020】
上記血液凝固測定方法において、
第1化学物質は、エラグ酸,カオリン,セライトより選択されたものであればよい。
【0021】
上記血液凝固測定方法において
、第2化学物質は、塩化カルシウムであればよい。また、流速は、表面プラズモン共鳴に基づく流速測定により測定するとよい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したことにより、本発明によれば、簡便な方法で正確に内因性凝固因子による血液凝固能が測定できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における血液凝固測定方法を説明するためのフローチャートである。
【0025】
まず、ステップS101で、血液など血漿を含む検体と、接触因子を活性化する第1化学物質が溶解している第1水溶液とを混合した混合液を作製する。検体に第1化学物質を混合して混合液としてもよい。
【0026】
次に、ステップS102で、作製した混合液を凝固活性化する第2化学物質が溶解している第2水溶液および混合液を流路に導入し、第2水溶液と混合液とが流路の延在方向に直列に配列して接触した状態で流れる状態とする(第1工程)。
【0027】
例えば、
図2の(a)に示すような、流路204を備える装置を用いればよい。この装置は、透明な基板201と、基板201の測定領域に形成された表面プラズモン共鳴測定を行うための金属層202と、基板201の上に配置された流路基板203とを備え、基板201と流路基板203との間に流路204が形成されている。
【0028】
図2の(a),
図3の(a)に示すように、流路204に、第2水溶液211を満たし、
図2の(b),(c),
図3の(b)に示すように、第2水溶液211が満たされている流路204の一端の導入口205より混合液212を導入し、流路204の他端の排出口206より、一定の圧力(負圧)で第2水溶液211を牽引すればよい。排出口206に負圧機構301を接続し、第2水溶液211を吸引すればよい。このようにすることで、流路204内で他端側(
排出口206側)に第2水溶液211が存在し、一端側(
導入口205側)に混合液212が存在し、第2水溶液211の終端と混合液212の先端とが接触する状態で、これらが流路204内を他端の方向に輸送される状態となる。
【0029】
ここで、接触している接触領域213では、混合液212に第2水溶液211が添加されることになり、接触領域213では、検体,第1化学物質,および第2化学物質が混合した状態となり、凝固反応が起こり得る状態となっている。このため、上述したように、第2水溶液211と混合液212が配列して流路204に流れる状態として接触領域213が形成された時点より、接触領域213では、凝固反応が開始されることになる。
【0030】
次に、ステップS103で、
図2の(b)に例示するように、混合液212の先端と第2水溶液211の終端とが接触して接触領域213を形成し、これらが
図2の(b),
図2の(c)に示すように流路204内を輸送されている状態で、流路204内の流体の流速を測定する(第2工程)。
図3の(c)に示す流路204内の所定の測定領域302において流速を測定する。この流速の測定においては、接触領域213が測定領域302を通過しているときの速度(流速)を測定すればよい。例えば、流速は、よく知られた表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく流速測定により測定すればよい(特許文献2参照)。
【0031】
例えば、測定領域302を接触領域213が通過するときのSPR屈折率を時系列的に測定領域302の全域で測定し、時間および測定位置に対するSRP屈折率変化の分布図を作成する。この分布図の中で、屈折率変化の大きな点が、接触領域に対応する。従って、作成したSPR屈折率分布図を用いて屈折率変化の大きな点(接触領域)の推移をプロットし、プロットの状態(形状,方向きなど)から流速を求める。
【0032】
次に、ステップS104で、測定により求められた流速から検体における血液凝固能を判定する(第3工程)。例えば、標準血漿を用いた同様の測定を予め行って標準値を得ておき、標準値と測定結果とを比較することで、検体におけるAPTTの遅延時間(血液凝固能)を見積もることができる。
【0033】
流路204の他端で第2水溶液211を牽引している速度(量)を一定としている状態では、流路204内で流体の粘度上昇を招く凝固反応が起きない状態に比較し、接触領域で凝固反応が起きて粘度が上昇すれば、測定される流速は遅いものとなる。従って、例えば、標準血漿を用いた測定による標準値より測定される流速が早い場合、検体における内因性血液凝固に異常があるものと判断できる。
【0034】
ここで、内因性血液凝固では、凝固の過程が比較的多いため、凝固の反応が完全に起こらない状態で、接触領域213が測定領域302を通過する場合も発生する。この場合、流路の断面積、牽引の条件、流路204の長さなどを適宜に設定変更し、接触領域213において凝固反応が完全に起きる状態で測定がなされるようにすればよい。例えば、導入口205から測定領域302までの距離をより長くすれば、接触領域213が測定領域302に到達した時点で、凝固反応が完全に起きている状態(十分な活性状態)が得られる。
【0035】
[実施例]
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。まず、測定に用いた測定チップ400について説明する。測定チップ400は、
図4に示すように、透明なプラスチックからなる基板401と、膜厚50nm程度のAu薄膜402と、流路基板403とから構成されている。プラスチックは、SPR測定に用いるSPR装置の測定面が構成されているプリズムと同じ屈折率を持つものから構成すればよい。例えば、三井化学株式会社製のアペル(登録商標)から基板401を構成すればよい。Au薄膜402は、例えば、スパッタリング法により形成すればよい。
【0036】
また、流路基板403は、流路404となる溝部,導入口405,および排出口406を備える。例えば、エポキシ樹脂(SU−8フォトレジスト)で鋳型を形成し、この鋳型を用いてPDMS(ポリジメチルシロキサン)から流路基板403を成型すればよい。流路404は、流路長10mm、流路幅0.5mm、流路高さは75μm程度とする。また、導入口405,排出口406の孔径は、0.8mmとし、高さは0.25mmとした。流路基板403と基板401とは個別に作製し、最後に、流路404が測定領域に重なるように測定チップ400を組み立てた。
【0037】
次に、測定について説明する。まず、測定チップ400の流路404内に0.02Mの塩化カルシウム溶液を充填した。塩化カルシウムは、カルシウムイオンを供給する第2化学物質であり、塩化カルシウム溶液が第2水溶液に対応する。次に、
図5に示すように、測定チップ400を、表面プラズモン共鳴測定装置(SPR)500の測定面504に設置する。プリズム503の測定面504と、測定チップ400の基板401との間には、マッチングオイルを配置し、光源501からの光の光軸に、検出領域が重なるように測定チップ400を載置する。この初期状態において測定されるSPR角度を初期状態とした。
【0038】
内因性血液凝固の接触因子活性化血漿(混合液)は、血液凝固用標準血漿を37℃で1分間加熱した後、第1化学物質として同量のAPTT試薬(コアグピアAPTT、積水化学工業株式会社製)を加えて再度37℃で4分間加熱することで調製した。ベースライン取得のため、塩化カルシウム溶液を充填してある初期状態でのSPR角度分布を30秒間測定した後、上述した混合液(3μリットル)を、SPR装置500の測定面504上にマウントしてある測定チップ400の導入口405より導入した。また、排出口406から、充填されている塩化カルシウム溶液を定圧牽引(吸引)した。
【0039】
これにより混合液と塩化カルシウム液とが、流路404の延在方向に直列に配列し、接触領域で接触した状態で流れる状態となる。また、前述したように、接触領域では、凝固反応が開始されることになる。なお、混合液における血漿の活性調整は、オーレンベロナール緩衝液(シスメックス)による希釈で行うことができる。例えば、100%活性の標準血漿に対して緩衝液で2倍に希釈した場合の混合液では、凝固活性が50%となる。
【0040】
この測定では、光源501から出射された光を入射側レンズ502で集光してプリズム503に入射させ、プリズム503の測定面504に密着させている測定チップ400の検出領域の金属層に照射する。測定チップ400の検出領域にはAu薄膜402が形成されており、このAu薄膜402表面を測定対象の流体が流れていく状態で、Au薄膜402の裏面に、測定チップ400の基板401を透過してきた集光光が照射される。このようにして照射された集光光は、Au薄膜402の裏面で反射し、いわゆるCCDイメージセンサなどの撮像素子よりなる光検出領域505で強度(光強度)が測定される。この測定において、例えば、Au薄膜402表面におけるエバネッセント波と表面プラズモン波との共鳴が起こる角度では、反射率が低くなる谷が観測される。
【0041】
このような表面プラズモン共鳴測定においては、例えば、CCDイメージセンサのx方向の1ライン毎に屈折率を反映したデータが観測されている。このため、検出領域の流路404を、混合液と塩化カルシウム溶液との接触領域が進行していくと、前述したように屈折率変化が起こり、CCDイメージセンサのライン毎にどのタイミングで接触領域進行による屈折率変化が起こったかが記録される。このように、測定チップ400の流路404内を流れる接触領域の時系列的な屈折率変化の測定の中で、屈折率変化の起こった時点(時刻)を読み取るようにすればよい。
【0042】
例えば、
図6の(a)に示すように、CCDイメージセンサのYライン毎に記録されている屈折率変化の時間変化から、屈折率のステップ変化が起こった時刻を読み取る。
図6の(b)に示すように、表面プラズモン共鳴角度に相当する最も光が吸収されたピクセル強度をカラープロファイルで表示することで、上述した読み取りの状態をより視覚的に表す。また、
図6の(c)に示すように、上述した読み取りにおけるxライン毎の時間変化をカラープロファイルの変化で表すようにしてもよい。
図6の(c)に示す矢印で示される傾きが、流速となる。Yラインのピクセルに対応する流路404上の実距離(約10μm)を代入して計算し、傾きである流速はμm/secの単位で記述される。なお、
図6では、カラープロファイルをグレースケールで簡略化して示している。
【0043】
このようにして得られる接触領域の流速は、例えば、流速とAPTTとの関係を示す検量線から、APTTに変換することができる。例えば、血漿活性化能およびAPTTが既知の複数の標準血漿を用いて上述同様の測定により複数の流速を求め、これらの結果より検量線を作製しておけばよい。
【0044】
実際に測定した結果(SPR屈折率分布)について
図7に示す。血漿サンプルとして、APTT測定用標準血漿I(100%活性)および標準血漿II(33%活性)を測定実験に用いた。また、標準血漿Iに対してオーレンベロナール緩衝液を用いて希釈することで活性が50%の血漿サンプルおよび活性が75%の血漿サンプルを調製し、測定実験に用いた。
図7に示すように、活性状態によって液−液界面(接触領域)の通過状態が変化する様子がわかる。また、
図7の(d)に示すように、100%活性では、下流に行くに従って、凝固反応の進行による増粘の影響に伴い流速が大きく変化していく様子が観測された。
【0045】
100%活性血漿と33%活性血漿から得られた各々の屈折率分布から流速を求めた結果を
図8に示す。100%活性血漿(100%active)の方が、33%活性血漿(33%active)に比較して、再現性良く流速が遅い結果が得られ、従来のAPTTの時間遅延と相関があった。これらの屈折率分布図および流速をデータベース化し、参照することにより、活性の不明な血漿を検体とした場合の活性能を測定することが可能となる。
【0046】
以上に説明したように、本発明では、少なくとも第2水溶液は独立し、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に検体,第1水溶液,および第2水溶液を流路に導入し、この状態で測定される流速から検体における血液凝固能を判定するようにしたところに特徴がある。なお、検体は、血漿を含むものであり、例えば血漿そのものでもよくまた、血液でもよい。ただし、全血の場合は、血球などを除去しておく。また、第1水溶液は、接触因子を活性化する第1化学物質が溶解したものであり、第2水溶液は、カルシウムイオンを供給する第2化学物質が溶解したものである。
【0047】
この方法によれば、少なくとも第2水溶液は、上述したように流路中で接触することで形成される接触領域で他の第1水溶液および検体と混合する状態となるので、検体,第1水溶液,および第2水溶液の全てが混合して血液凝固反応が起き得る領域が、接触領域に制限されるようになる。この結果、凝固反応のムラが抑制された状態で流速が測定できるようになるので、流速の測定という簡便な測定方法により、正確に内因性凝固因子による血液凝固能が測定できるようになる。
【0048】
これにより、例えば、検体における凝固過程途中に異常因子が存在する場合など、APTT延長原因因子の把握が、従来よりも容易となる。また、マイクロ流路を用いることで、検体や試薬の量をマイクロリットルスケールでごく少量とすることができ、また、装置も簡便な構成でよいため、検査装置の小型化が容易である。
【0049】
ここで、上述したように、「少なくとも第2水溶液は独立し、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に検体,第1水溶液,および第2水溶液を流路に導入」するために、前述した実施の形態では、まず、検体に第1水溶液を混合した混合液を作製し、この混合液を第2水溶液が満たされている流路に導入し、第2水溶液と混合液とが流路の延在方向に直列に配列して接触した状態で流れる状態としている。
【0050】
このようにすることで、検体,第1水溶液,および第2水溶液の全てが混合して血液凝固反応が起き得る領域は、第2水溶液と混合液とが接触した接触領域に限定されるようになる。
【0051】
また、次に示すようにすることで、「少なくとも第2水溶液は独立し、流路の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路を流れる状態に検体,第1水溶液,および第2水溶液を流路に導入」し、検体,第1水溶液,および第2水溶液の全てが混合して血液凝固反応が起き得る領域を限定してもよい。
【0052】
まず、
図9の(a)に示すように、第1工程では、検体902,第1水溶液903,および第2水溶液904を、少なくとも第1水溶液903を2番目に導入する状態で各々個別に流路901の一端より導入し、検体902,第1水溶液903,および第2水溶液904が流路901の延在方向に直列に配列して隣り合う各々が接触して流れる状態とする(第1工程)。例えば、流路901に緩衝液905が満たされている状態で、流路901の一端(
図9では左側)より、第2水溶液904,第1水溶液903,検体902の順に導入すればよい。この場合、第2水溶液904に加え、第1水溶液903および検体902も、独立して流路901の延在方向に直列に配列して隣り合う部分が接触して流路901を流れる状態となる。
【0053】
次に、流路901の他端(
図9では左側)より緩衝液905を吸引することで、緩衝液905を牽引する。これにより、
図9の(b)に示すように、検体902,第1水溶液903,および第2水溶液904は、流路901の他端側に輸送される。この輸送の過程で、検体902と第1水溶液903との接触領域911では、検体90
2と第1水溶液903とが混合する。また、第1水溶液903と第2水溶液904との接触領域912では、第1水溶液903と第2水溶液904とが混合する。
【0054】
引き続き牽引すると、
図9の(c)に示すように、各部分は、さらに流路901の他端側に輸送される。この輸送の過程で、接触領域911および接触領域912は輸送方向に拡散し、接触領域911と接触領域912とが接触する混合領域913が形成されるようになる。前述したように、接触領域911は、検体90
2と第1水溶液903とが混合しており、接触領域912は、第1水溶液903と第2水溶液904とが混合している。このため、混合領域913では、検体902,第1水溶液903,および第2水溶液904が混合した状態となり、凝固反応が起こりえる状態となる。このようにすることでも、凝固反応が起こりえる領域を混合領域913に限定されるようになり、凝固反応のムラが抑制できるようになる。
【0055】
なお、このようにする場合、第1水溶液903が、中央に配列された状態とすることが重要である。上述では、進行方向に第2水溶液904,第1水溶液903,検体902の順で配列させたが、進行方向に検体902,第1水溶液903,第2水溶液904の順で配列させてもよい。また、接触領域911と接触領域912とが混合する混合領域913が形成されやすくするためには、第1水溶液903の導入量を余り多くしない方がよい。第1水溶液903の導入量は、流路901において、導入初期に上記配列の状態が維持できる最小の量とすればよい。
【0056】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、第1化学物質は、エラグ酸,カオリン,セライトより選択されたものであればよい。