特許第5818864号(P5818864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5818864赤から緑までのスペクトル領域において発光する新規の有機金属錯体中のトリフェニレン誘導体およびそのOLEDにおける使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5818864
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】赤から緑までのスペクトル領域において発光する新規の有機金属錯体中のトリフェニレン誘導体およびそのOLEDにおける使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/66 20060101AFI20151029BHJP
   C07D 213/16 20060101ALI20151029BHJP
   C07D 249/08 20060101ALI20151029BHJP
   C07D 231/12 20060101ALI20151029BHJP
   C07D 261/08 20060101ALI20151029BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20151029BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20151029BHJP
   C09K 11/06 20060101ALN20151029BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20151029BHJP
【FI】
   C07D277/66
   C07D213/16
   C07D249/08
   C07D231/12 C
   C07D261/08
   H05B33/14 B
   !C07F15/00 ECSP
   !C09K11/06 660
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2013-238049(P2013-238049)
(22)【出願日】2013年11月18日
(62)【分割の表示】特願2010-501522(P2010-501522)の分割
【原出願日】2008年4月4日
(65)【公開番号】特開2014-101366(P2014-101366A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2013年12月18日
(31)【優先権主張番号】07105649.3
(32)【優先日】2007年4月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト フリードリヒ ベルナー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ペーター レーブル
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ザルベック
(72)【発明者】
【氏名】エレーナ ポポヴァ
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/093466(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/029696(WO,A1)
【文献】 特開2007−001878(JP,A)
【文献】 特開2003−109765(JP,A)
【文献】 特表2010−524222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式IIa
【化1】
[式中、
1は、
【化2】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNである]の基であるか;または、

【化3】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNであり、Q’はCRa2、O、S、またはNRcである]の基であり、
a、RbおよびRcは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アミノ、CF3、CN、アルコキシ、またはFであり、
さらに、前述のR1基はベンゾ縮合をさらに有していてもよく、
2、R3、R4は、それぞれ独立して、1〜C4−アルキル、ハロゲン置換C1〜C4−アルキル、C1〜C4−アルコキシ、ハロゲンまたはCNであり、
oは、0〜3であり、前記R3基は、o>1の場合に同一または異なってもよく、
pは、0〜2であり、前記R4基は、p>1の場合に同一または異なってもよく、
nは、0であり、
2、CHまたはCR2であり、
3、CH、またはCR3であり、
4は、それぞれ独立して、CH、またはCR4である]のトリフェニレン誘導体。
【請求項2】
1は、式
【化4】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNであるか;
たは、式
【化5】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNであり、Q’はCRa2、O、S、またはNRcであり;
a、RbおよびRcは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アミノ、CF3、CN、アルコキシ、またはFである]の基である、請求項に記載のトリフェニレン誘導体。
【請求項3】
1が、ピリジルもしくはベンゾチアジル基、またはトリアゾリル基、イソオキサゾリル基、もしくはピラゾリル基であり、これらは置換または非置換であってもよい、請求項に記載のトリフェニレン誘導体。
【請求項4】
請求項に記載のトリフェニレン誘導体を製造するための方法であって、
(i)Y基で官能化された式IVの芳香族化合物を相当するホウ素化合物と反応させることによって、アリールボロン酸またはアリールボロン酸誘導体(V)を製造するステップと
【化7】
[式中、
Yは、ハロゲンであり、
5は、H、またはC1〜C6−アルキルであるか、あるいは2つのR5基が酸素原子間に二原子架橋を形成し、前記架橋の原子は置換または非置換であってもよい]、
(ii)1当量の前記式Vのアリールボロン酸またはアリールボロン酸誘導体と、2つのz基で官能化された式VIのビフェニル誘導体とのパラジウム触媒反応により、式VII
【化8】
[式中、zは、ハロゲンまたはOTfである]
の化合物を得るステップと、
(iii)前記式VIIの化合物のパラジウム触媒分子内環化反応により、前記式IIaの所望のトリフェニレン誘導体を得るステップと、を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも22000cm-1の三重項エネルギーを有する単位を有する少なくとも1つの配位子を有する有機金属錯体と、当該有機金属錯体を製造するための方法と、少なくとも1つの本発明の有機金属錯体を含有する混合物と、当該有機金属錯体または混合物の有機発光ダイオードにおける使用であって、有機金属錯体は好ましくは発光材料として用いられる使用と、特定の窒素またはリン置換トリフェニレン誘導体と、それらの製造のための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)は、材料が電流によって励起されたときに発光する特性を活用する。OLEDは、平面視覚表示装置を製造するための陰極線管および液晶ディスプレイに代わるものとして、また特に効率的な光源として、特に興味深い。その非常にコンパクトな設計と本質的に低い電力消費により、OLEDを備える装置は、携帯用の応用例、例えば携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラなどでの応用例に特に適している。
【0003】
OLEDが機能する方法の基本原理およびOLEDの適切な構造(層)は当業者に既知であり、例えばWO2005/113704号、およびその中で引用されている文献に明記されている。使用する発光材料(発光物質)は、蛍光性材料(蛍光エミッタ)だけでなく、リン光性材料(リン光エミッタ)であってもよい。リン光エミッタは、典型的には、一重項発光を示す蛍光エミッタとは対照的に、三重項発光を示す(三重項発光物質)有機金属錯体である(M.A. Baldow et al., Appl. Phys. Lett. 1999, 75, 4−6)。
【0004】
量子力学的理由により、三重項発光物質(リン光エミッタ)を使用する場合、最大4倍の量子効率、エネルギー効率、および電力効率が可能である。実際に有機金属三重項発光物質の使用の利点を実施するためには、良好な安定性、高いルミネセンス効率、高い色純度、および適切な溶解性が顕著な発光材料を提供することが望ましい。
【0005】
従来技術は、OLEDにおける発光材料として使用するための多数の異なる材料を提案している。提案されている材料の中には、リン光を示す遷移金属錯体もある。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2002/0034656(A1)号は、OLEDの量子効率を向上させるためのリン光性有機金属化合物を備えるOLEDの発光層に関する。特に適切な発光材料は、米国特許出願公開第2002/0034656(A1)号によると、白金、イリジウム、またはオスミウムのリン光性有機金属錯体であり、シクロメタル化リン光性白金、イリジウム、またはオスミウム錯体の使用が極めて好ましい。言及されている適切なリン光性遷移金属錯体の例には、ビス[2−(2−フェニル)ピリジナト−N,C2]、ビス[2(2’−チエニル)ピリジナト−N,C3]、またはビス[ベンゾ−(h)キノリナト−N,C]とのIr(ppy)3および白金(II)錯体がある。
【0007】
さらに、既知の発光材料は、American Dyesource社(www.adsdyes.com)製の一般式
【化1】
の適切なリン光性Ir錯体(化合物ADS 075REおよびADS 076RE)である。しかしながら、これらの錯体は、発光の強い赤方偏移を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/113704号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0034656号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
良好な熱安定性を示し、かつ良好な効率と高い色純度とを有するOLEDを作製するのに適した、OLED用の発光材料を提供することは、本発明の目的である。
【0010】
本目的は、一般式(I)
M[L1q[L2r[L3s (I)
[式中、
Mは、金属原子であり、
1は、非荷電の一価または二価アニオン性の単座または二座であってよい配位子であり、これは好ましくは、式(II)
【化2】
[式中、
1は、N含有基であり、
【化3】
は、少なくとも22000cm-1の三重項エネルギーを有する単位である]
の化合物に基づく一価アニオン性の二座配位子であり、
2は、単座または二座であってよい一価または二価アニオン性配位子であり、
3は、非荷電の単座または二座配位子であり、
qは、配位子L1の数であって、qは1、2、または3であり、配位子L1はq>1の場合に同一または異なってもよく、
rは、配位子L2の数であって、rは0〜4であり、配位子L2はr>1の場合に同一または異なってもよく、
sは、配位子L3の数であって、sは0〜4であり、配位子L3はs>1の場合に同一または異なってもよく、
q+r+sの和は、使用する金属Mの酸化段階と配位数、および配位子L1、L2、およびL3の配座数、ならびに配位子L1およびL2の電荷に依存する]
の有機金属錯体の提供によって達成される。
【0011】
本発明による式(I)の有機金属錯体は、OLEDに使用したときの傑出した効率を特徴とするが、これは特にこれらがOLEDの発光層中に高濃度で存在しうるためであり、また二量体の形成、ひいては励起状態の消滅の抑制が可能であるためである。
【0012】
さらに、本発明の有機金属錯体を使用した場合、高い色純度を有する発光を得ることができ、本発明による有機金属錯体は、高い熱安定性を有する。
【0013】
本発明の有機金属錯体は、少なくとも22000cm-1の三重項エネルギーを有し(低温光ルミネセンス測定によって判定)、好ましくは22000cm-1〜28230cm-1、より好ましくは22000〜25000cm-1の三重項エネルギーを有する少なくとも1つの単位を備える。本出願に関して、三重項エネルギーは、第1三重項準位のエネルギーを意味すると理解される。
【0014】
式(I)の本発明の有機金属錯体中の配位子L1は、好ましくは、少なくとも16000cm-1、好ましくは16000cm-1〜19500cm-1、より好ましくは16000〜18500cm-1の三重項エネルギーを有する。
【0015】
本発明の有機金属錯体は、一般に電磁スペクトルの可視領域、好ましくは400nm〜800nm、より好ましくは450nm〜800nm、最も好ましくは490nm〜750nmにおいて、エレクトロルミネセンスを示す。
【0016】
式(II)の化合物に基づく配位子L1中のR1基は、本発明によると、N含有基である。この基は、好ましくは置換または非置換であってもよい複素環基であり、より好ましくは少なくとも1つの窒素原子を含むN−複素環基である。最も好ましくは、R1基は、置換または非置換であってもよい単環式、二環式、または三環式の複素環式芳香族基である。R1基は、非常に好ましくは、ピリジルもしくはベンゾチアジル基、またはトリアゾリル基、イソオキサゾリル基、もしくはピラゾリル基であり、これらは置換または非置換であってもよい。R1基の適切な置換基は、以下に言及する適切な置換基である。極めて好適な実施形態において、R1基は非置換である、すなわちR1基の全ての置換可能な位置は水素原子で置換されている。
【0017】
式(II)の化合物に基づく配位子L1中の少なくとも22000cm-1の三重項エネルギーを有する単位は、当業者に既知のいかなる単位でもよく、言及した三重項エネルギーを有し、有機金属錯体を形成するのに適している。この単位は、配位子L1が基づいている式(II)の化合物が好ましくは一般式(IIa)
【化4】
[式中、R1基は上記にすでに定義されているとおりであり、さらなる基および添え字はそれぞれ以下のように定義される:
2、R3、R4は、それぞれ独立して、C1〜C20−アルキル、C0〜C20−アルキレン−C3〜C18−シクロアルキル、3〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロシクロアルキル、C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールオキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、5〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロアリール(前述の基は、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アミノ、−C(O)R’、−C(O)OR’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、もしくはアミノである)で置換または非置換でもよい)、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、ホスホン酸、リン酸、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホリル、スルホニル、スルホン酸、硫酸、アミノ、ポリエーテル、シリル−C1〜C20−アルキル、シリル−C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、シリル−C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、−C(O)R’、−C(O)R’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、もしくはアミノである)であり、
2、R3、およびR4は、好ましくはそれぞれ独立して、C1〜C20−アルキル、好ましくはC1〜C8−アルキル;C0〜C20−アルキレン−C3〜C18−シクロアルキル、好ましくはC0〜C6−アルキレン−C5〜C6−シクロアルキル;3〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロシクロアルキル、好ましくは5もしくは6個の環原子を有するC0〜C6−アルキレンヘテロシクロアルキル;C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、好ましくはC0〜C6−アルキレン−C1〜C8−アルコキシ;C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールオキシ、好ましくはC0−C8−アルキレン−C6−アリールオキシ;C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、好ましくはC0〜C6−アルキレン−C6−アリール;5〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロアリール、好ましくは5もしくは6個の環原子を有するC0〜C6−アルキレンヘテロアリールであり、前述の基は非置換または置換されていてもよく、好適な置換基は、アルキル、好ましくはC1〜C8−アルキル;アルコキシ、好ましくはC1〜C8−アルコキシ;ハロゲン、好ましくはF、Cl、Br、I、より好ましくはF、Cl;あるいは擬ハロゲン、好ましくはCN、SCN、OCN、N3、CNO、SeCN、より好ましくはCN、SCNであり、
oは、0〜3であり、R3基は、o>1の場合に同一または異なってもよく、
n、pは、それぞれ独立して0〜2であり、R2もしくはR4基は、nもしくはp>1の場合に同一または異なってもよく、
2は、N、CH、またはCR2であり、
3は、N、CH、またはCR3であり、
4は、それぞれ独立して、N、CH、またはCR4である]
を有するように、好ましくはトリフェニレンまたはその誘導体に基づく単位である。
【0018】
本出願に関して、アルキル、アルキレン、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリール、ヘテロアリール、ハロゲン、擬ハロゲン、アミノ、ホスホン酸、リン酸、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホリル、スルホニル、スルホン酸、硫酸、ポリエーテル、シリルアルキル、シリルアルキレンアリール、およびシリルアルキレンアルコキシという用語は、一般的にそれぞれ以下のように定義され、特に好適な定義は、個別の基の個々の定義において明記されている。
【0019】
アルキルは、最長アルキル鎖中に1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜8個の炭素原子を有する基を意味すると理解される。このアルキル基は、分岐または非分岐であってよく、また場合によっては、1つ以上のヘテロ原子、例えばSi、N、もしくはS、好ましくはN、O、もしくはSが介在していてもよい。さらに、アルキル基は、以下にアリール置換基について明記されている1つ以上の置換基で置換されていてもよい。アルキル基は、より好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、およびCF3からなる群から選択される。
【0020】
シクロアルキル基は、3〜18個の炭素原子、好ましくは5〜8個の炭素原子、より好ましくは5もしくは6個の炭素原子の基本骨格を有する環状アルキル基を意味すると理解される。適切な基本骨格は、例えば、シクロペンチルまたはシクロヘキシルである。シクロアルキル基の基本骨格は、非置換でも(すなわち、全ての置換可能な炭素原子が水素原子を有する)、あるいは基本骨格の1つの、1つを超える、または全ての置換可能な位置において置換されていてもよい。適切な置換基は、アリール基について以下に明記されている置換基である。特に好適なシクロアルキル基は、シクロヘキシルおよびシクロペンチルである。
【0021】
ヘテロシクロアルキル基は、基本骨格中に3〜18個の環原子、好ましくは5もしくは6個の環原子を有する基を意味すると理解される。さらに、ヘテロシクロアルキル基は、N、O、およびSからなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む。ヘテロシクロアルキル基は、基本骨格の1つの、1つを超える、または全ての置換可能な位置において置換されていてもよい。適切な置換基は、アリール基について明記されている置換基である。
【0022】
アリールは、芳香環または複数の縮合芳香環から形成された、6〜18個、好ましくは6〜10個、より好ましくは6個の炭素原子の基本骨格を有する基を意味すると理解される。適切な基本骨格は、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、またはフェナントレニルである。この基本骨格は、非置換でも(すなわち、全ての置換可能な炭素原子が水素原子を有する)、あるいは基本骨格の1つの、1つを超える、または全ての置換可能な位置において置換されていてもよい。適切な置換基は、例えば、前述のアルキル基、アリール基、好ましくはC6−アリール基(さらに置換または非置換であってもよい)、ヘテロアリール基、好ましくは少なくとも1つの窒素原子を含むヘテロアリール基、より好ましくはピリジル基、またはドナー作用またはアクセプタ作用を有する基である。ドナー作用またはアクセプタ作用を有する適切な基は、以下に明記する。最も好ましくは、アリール基は、メチル、F、Cl、CN、アリールオキシ、およびアルコキシからなる群から選択される置換基を有する。アリール基は、好ましくはC6〜C18−アリール基、より好ましくはC6〜C10−アリール基、最も好ましくはC6−アリール基であり、これは前述の置換基のうちの0、1、もしくは2個で置換されていて、C6−アリール基の場合、1つの置換基がアリール基のさらなる結合部位のオルト位、メタ位、もしくはパラ位に配置され、2つの置換基の場合には、これらはそれぞれアリール基のさらなる結合部位のメタ位もしくはオルト位に配置されてもよく、あるいは1つの基がオルト位に、1つの基がメタ位に、または1つの基がオルト位もしくはメタ位に、さらなる基がパラ位に配置される。
【0023】
ヘテロアリール基は、5〜18個の環原子、好ましくは5もしくは6個の環原子を有する基を意味すると理解される。環原子のうちの少なくとも1つはヘテロ原子であり、好適なヘテロ原子は、N、O、およびSからなる群から選択されるものである。ヘテロアリール基は、好ましくは1個または2個のヘテロ原子を有する。基本骨格は、より好ましくはカルバゾール、ピリジン、ピロール、フラン、ピラゾール、イミダゾール、およびチオフェンから選択される。基本骨格は、基本骨格の1つの、1つを超える、または全ての置換可能な位置において置換されていてよい。適切な置換基は、アリール基についてすでに明記したものと同様である。
【0024】
アルコキシ基は、アルキル基が上記で明記されているように定義できるO−アルキル基を意味すると理解される。好適なアルコキシ基の一例は、OMeである。
【0025】
アリールオキシ基は、O−アリール基を意味すると理解され、適切なアリール基は上記に明記されている。適切なアリールオキシ基の一例は、フェノキシ基である。
【0026】
「C0〜C20−アルキレン」という表現は、相当する基または基が基本骨格に直接結合していてもよく(C0−アルキレン)、あるいは1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜6個、最も好ましくは1もしくは2個の炭素原子を有するアルキレン基を介して結合していてもよい(C1〜C20−アルキレン、好ましくはC1〜C10−アルキレン、より好ましくはC1〜C6−アルキレン、最も好ましくはC1〜C2−アルキレン)ことを意味すると理解される。アルキレン基は前述のアルキル基に相当するが、アルキレン基がさらなる基との2つの結合部位を有する点が異なる。例えば、好適なC0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール基は、ベンジル基である。
【0027】
本出願に関して、ドナー作用またはアクセプタ作用を有する基は、以下の基を意味すると理解される。
【0028】
ドナー作用を有する基は、+I効果および/または+M効果を有する基を意味すると理解され、アクセプタ作用を有する基は、−I効果および/または−M効果を有する基を意味すると理解される。ドナー作用またはアクセプタ作用を有する適切な基は、ハロゲン基、好ましくはF、Cl、Br、I、より好ましくはF、Cl、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボニル基、エステル基、オキシカルボニルおよびカルボニルオキシ、アミン基、アミド基、CH2F基、CHF2基、CF3基、CN基、チオ基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基、スルホキシド基、スルホニル基、スルフィド基、ニトロ基、OCN、ボラン基、シリル基、スズ酸基、イミノ基、ヒドラジン基、ヒドラゾール基、オキシム基、ニトロソ基、ジアゾ基、ホスフィンオキシド基、ヒドロキシル基、またはSCN基である。F、Cl、CN、アリールオキシ、およびアルコキシは極めて好ましい。
【0029】
擬ハロゲンは、CN、SCN、OCN、N3、CNO、およびSeCN、好ましくはCNまたはSCNから選択される基を意味すると理解される。
【0030】
ハロゲンは、F、Cl、Br、およびI、好ましくはFまたはClから選択される基を意味すると理解される。
【0031】
「アミノ」という表現は、各R基が、独立して、水素、C1〜C6−アルキル、C1〜C6−アルキレン−C65、およびC6〜C18−アリールから選択される−NR2基であって、2つのR基は、さらに窒素原子と一緒に4〜6員、好ましくは5〜6員の複素環を形成してもよく、これは場合によってはC1〜C6−アルキル基、好ましくはC1〜C6−アルキル、ベンジル、もしくはフェニルで置換されていてもよい。
【0032】
ホスホン酸は、R基が、それぞれ独立して、水素、アルキル、およびアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、およびベンジルから選択される、−P(O)(OR)2基を意味すると理解される。さらにR基は、カチオン、例えばNa+、K+、Mg2+、およびCa2+でもよい。
【0033】
リン酸は、R基が、それぞれ独立して、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、またはベンジルである、−OP(O)(OR)2を意味すると理解される。さらにR基は、例えばNa+、K+、Mg2+、およびCa2+から選択されるカチオンでもよい。
【0034】
ホスフィンは、R基が、それぞれ独立して、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、またはベンジルである、−P(R2)を意味すると理解される。
【0035】
ホスフィンオキシドは、R基が、それぞれ独立して、水素、アルキル、アリール、またはアミノ、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、ベンジル、または−NR’2(R’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、またはベンジルである)である、−P(O)R2を意味すると理解される。
【0036】
スルホニルは、Rが、水素、アルキル、アリール、またはアミノ、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、ベンジル、または−NR’2(R’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、またはベンジルである)である、−S(O)2Rを意味すると理解される。
【0037】
スルホン酸は、Rが、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、またはベンジルである、−S(O)2ORを意味すると理解される。さらにRは、Na+、K+、Mg2+、またはCa2+から選択されるカチオンでもよい。
【0038】
硫酸は、Rが、水素、アルキル、またはアリール、好ましくは、水素、C1〜C6−アルキル、フェニル、またはベンジルである、−OS(O)2ORを意味すると理解される。さらにRは、Na+、K+、Mg2+、またはCa2+から選択されるカチオンでもよい。
【0039】
ポリエーテル基は、−(O−CHR)n−OH基および−(O−CH2−CHR)n−H基(Rは、独立して、水素、アルキル、アリール、ハロゲンから選択され、nは1〜250である)から選択される基を意味すると理解される。
【0040】
シリル−C1〜C20−アルキルは、R基がそれぞれ水素またはアルキル、好ましくはC1〜C6−アルキルまたは水素であるSiR3基を意味すると理解される。
【0041】
シリル−C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールは、Rが、独立して、アリール、好ましくはC6〜C18−アリール、より好ましくはフェニル(アリール基がSi(C0−アルキレン)に直接結合している)、およびC1〜C20−アルキレンアリール基、好ましくはC1〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、より好ましくはC1〜C6−アルキレンフェニルから選択される、−SiR3基を意味すると理解される。
【0042】
シリル−C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ基は、C0−アルキレン基が存在し、R基がC1〜C20−アルキル基、好ましくはC1〜C6−アルキル基である、−Si(OR)3基を意味すると理解される。さらに前述の基は、−Si−C1〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ基、好ましくは−Si−C1〜C6−アルキレン−C1〜C6−アルコキシ基を意味すると理解される。
【0043】
−C(O)R’、−C(O)R’’、−OC(O)R’’’、−C(O)OR’’’’基において、R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはアミノ、好ましくは水素、C1〜C6−アルキル、C3〜C8−シクロアルキル、3〜8個の環原子を有するヘテロシクロアルキル、C6〜C18−アリール、好ましくはフェニル、5〜18個の環原子を有するヘテロアリール、または上記に定義されたとおりのアミノと定義される。
【0044】
二座配位子は、2箇所で金属原子Mに配位した配位子を意味すると理解される。
【0045】
単座配位子は、配位子上の1箇所で金属原子Mに配位した配位子を意味すると理解される。
【0046】
使用する金属Mの配位数によって、また使用する配位子L1、L2、およびL3の性質および数によって、同じ遷移金属Mおよび同じ性質および数の配位子を用いて、相当する金属錯体の様々な異性体が存在しうる。本発明は、それぞれの場合に、式(I)の遷移金属錯体の個々の異性体、およびあらゆる所望の混合比での異なる異性体の混合物に関する。一般的に、式(I)の遷移金属錯体の様々な異性体は、当業者に既知の方法によって、例えばクロマトグラフィー、昇華、または結晶化によって分離することができる。
【0047】
式(IIa)の化合物において、添え字n、o、およびpは、それぞれ0、1、2、もしくは3(添え字o)、または0、1、もしくは2(添え字nおよびp)でよい。添え字n、o、およびpが0の場合、トリフェニレン骨格またはその誘導体の相当する置換可能な位置は、水素原子で置換される。
【0048】
2、R3、およびR4基の好適な実施形態は、上記に明記した。R2、R3、およびR4は、より好ましくは、それぞれC1〜C4−アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、i−ブチル、もしくはtert−ブチル、ハロゲン置換C1〜C4−アルキル、好ましくはF置換アルキル、例えばCF3、C1〜C4−アルコキシ、例えばOMe、OEt、OnPr、OiPr、OnBu、OsecBu、OiBu、OtertBu、ハロゲン、好ましくはF、または擬ハロゲン、好ましくはCNである。
【0049】
2、X3、およびX4基中のR2、R3、およびR4基は、それぞれ独立して、R2、R3、およびR4基について上記に明記した定義を有する。
【0050】
本発明の好適な実施形態において、式(II)のトリフェニレン誘導体中の基および添え字は、それぞれ以下:
1は、N含有基、好ましくは置換または非置換であってもよい複素環基、より好ましくは少なくとも1つの窒素原子を含むN−複素環基、最も好ましくは置換または非置換であってもよい単環式、二環式、または三環式の複素環式芳香族基、非常に好ましくはピリジルもしくはベンゾチアジル基、またはトリアゾリル基、イソオキサゾリル基、もしくはピラゾリル基であり、これらは置換または非置換であってもよく、
2、R3、R4は、それぞれ独立して、C1〜C20−アルキル、C0〜C20−アルキレン−C3〜C18−シクロアルキル、3〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロシクロアルキル、C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールオキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、5〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロアリール(前述の基は、ヒドロキシル、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、もしくはアミノで置換または非置換でもよい)、擬ハロゲン、またはハロゲンであり、さらなる好適なR2、R3、およびR4基は、上記に明記されており、
oは、0〜3であり、R3基は、o>1の場合に同一または異なってもよく、
n、pは、それぞれ独立して0〜2であり、R2もしくはR4基は、nもしくはp>1の場合に同一または異なってもよく、
2は、CHまたはCR2であり、
3は、CHまたはCR3であり、
4は、それぞれ独立して、CHまたはCR4であると定義される。
【0051】
式(II)の化合物において、X2、X3、およびX4は、最も好ましくは、それぞれCHである。さらなる極めて好適な実施形態において、添え字n、o、およびpはそれぞれ0である。
【0052】
一般式(I)の有機金属錯体中の金属原子Mは、好ましくは、相当する金属原子に可能なあらゆる酸化状態の、Fe、Cu、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、Re、Ag、Cu、Au、Hg、Cd、Nb、Zr、Ca、Cr、Mo、W、Mn、Tc、B、Al、Si、アルカリ金属類、およびアルカリ土類金属類、好ましくは、Ir、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Fe、Ru、Os、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Cu、およびAuからなる群から選択される金属原子である。金属原子Mは、より好ましくはIr、Rh、Ru、Pd、およびPtからなる群から選択され、最も好ましくはIr、Pd、およびPtの群から選択される。金属原子Mは、非常に好ましくはIr(III)である。
【0053】
1基は、より好ましくは、式
【化5】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNである。一般的に、前述のR1基は、合計1、2、3、もしくは4個の窒素原子、好ましくは1、2、もしくは3個の窒素原子、より好ましくは1もしくは2個の窒素原子を含む。前述のR1基のさらなる環員は、炭素原子である。Raは、独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アミノ、またはドナー作用またはアクセプタ作用を有する基である]の基であるか、
または、式
【化6】
[式中、Qは、それぞれの場合に独立してCRaまたはNであり、結合部位のオルト位にある少なくとも1つのQ基はNであり、Q’はCRa2、O、S、またはNRcである。一般的に、前述のR1基(a)は、合計1、2、3、もしくは4個の窒素原子、好ましくは1、2、もしくは3個の窒素原子、より好ましくは1もしくは2個の窒素原子を含む。前述のR1基(b)は、一般に合計1、2、3、もしくは4個の窒素原子、好ましくは1、2、もしくは3個の窒素原子、より好ましくは1もしくは2個の窒素原子を含む。R1基(b)が、合計1、2、もしくは3個の窒素原子および1個の酸素原子もしくは1個の硫黄原子、好ましくは1もしくは2個の窒素原子および1個の酸素原子もしくは1個の硫黄原子、より好ましくは1個の窒素原子および1個の酸素原子もしくは1個の硫黄原子を含むことも同様に可能である。前述のR1基(d)は、一般に合計1、2、3、もしくは4個の窒素原子、好ましくは1、2、もしくは3個の窒素原子、より好ましくは1もしくは2個の窒素原子を含む。前述のR1基のさらなる環員は、炭素原子である。Ra、Rb、およびRcは、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アミノ、CF3、CN、アルコキシ、またはFである]の基である。
適切なR1基の例は、
【化7】
[式中、R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれRaについて定義したとおりでよい]である。
【0054】
さらに、前述のR1基は縮合基をさらに有してもよく、これはベンゾ縮合が好ましい。適切なベンゾ縮合R1基の一例は、
【化8】
である。
【0055】
特に好適な式IIのトリフェニレン誘導体の例を以下に明記するが、トリフェニレン骨格は、場合によってはさらなる置換基を有していてもよく、および/またはトリフェニレン基本骨格の1つ以上のCH基は、Nで置換されていてもよい。
【0056】
【化9】
【0057】
一般式(II)の化合物に基づく配位子L1は、非荷電の一価アニオン性または二価アニオン性の単座または二座であってよい。一般式(I)の有機金属錯体中の配位子L1は、好ましくは一価アニオン性の二座配位子である。
【0058】
一般式(I)の有機金属錯体は、1、2、もしくは3個の配位子L1を含み、式(I)の有機金属錯体中に1つを超える配位子L1が存在する場合、配位子L1は同一または異なってもよい。本発明の一実施形態において、一般式(I)の有機金属錯体は、2つの配位子L1を含む。これは、一般式(I)の有機金属錯体におけるqが1、2、もしくは3、好ましくは1もしくは2、より好ましくは2であることを意味し、配位子L1は、q>1の場合に同一または異なってもよい。
【0059】
一般式(I)の有機金属錯体中の配位子L2は、単座または二座であってよい一価アニオン性または二価アニオン性の配位子である。
【0060】
適切な単座または二座であってよい一価アニオン性または二価アニオン性の配位子L2は、単座または二座の一価アニオン性または二価アニオン性配位子として通常使用されている配位子である。
【0061】
適切な一価アニオン性単座配位子は、例えば、ハロゲン化物、特にCl-およびBr-、擬ハロゲン化物、特にCN-、シクロペンタジエニル(Cp-)、水素化物、シグマ結合によって金属Mに結合したアルキル基、例えばCH3、シグマ結合によって金属Mに結合したアルキルアリール基、例えばベンジルである。
【0062】
適切な一価アニオン性二座配位子は、例えば、アセチルアセトネートおよびその誘導体、ピコリネート、シッフ塩基、アミノ酸、アリールアシル、例えばフェニルピリジン、ならびにWO02/15645号に明記されているさらなる二座一価アニオン性配位子であり、好ましくはアセチルアセトネートおよびピコリネートである。
【0063】
適切な二価アニオン性二座配位子は、例えば、ジアルコキシド、二炭酸、ジカルボン酸、ジアミド、ジイミド、ジチオレート、ビスシクロペンタジエニル、ビスホスホン酸、ビススルホン酸、および3−フェニルピラゾールである。
【0064】
特に好適な適切な配位子L2は、以下の配位子(a)〜(f)である。
【0065】
【化10】
[式中、
配位子(a)〜(f)のそれぞれにおけるR5は、独立して、水素、C1〜C20−アルキル、C0〜C20−アルキレン−C3〜C18−シクロアルキル、3〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロシクロアルキル、C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールオキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、5〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロアリール(前述の基は、それぞれ、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アミノ、−C(O)R’、−C(O)OR’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはアミノである)で置換または非置換であってもよい)、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、ホスホン酸、リン酸、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホリル、スルホニル、スルホン酸、硫酸、スルホン、アミノ、ポリエーテル、シリル−C1〜C20−アルキル、シリル−C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、シリル−C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、−C(O)R’、−C(O)OR’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはアミノである)であり;R5は、好ましくは水素、C1〜C6−アルキル、C0−C4−アルキレン−C3〜C8−シクロアルキル、C0−C4−アルキレン−C6〜C18−アリールであり、
X’は、それぞれ独立して、CR5またはNであり、
Y’は、C(R52、NR5、O、またはSであり、
Y’’は、N-であり、
n’は、1,2、3、もしくは4であり、
o’は、1、2、3、4、もしくは5であり、
p’は、1もしくは2である。]
配位子L2は、最も好ましくは、β−ジケトナート、例えばアセチルアセトネートおよびその誘導体、ピコリネート、アミノ酸アニオン、および一般式(b)の一価アニオン性二座配位子(式(b)中の全てのX’基は、より好ましくはNである)からなる群から選択される。
【0066】
一般式(f)の配位子中の波線は、全ての可能なシス/トランス異性体が一般式(f)に包含されることを意味する。
【0067】
式(I)の本発明の有機金属錯体は、0、1、2、3、もしくは4個の配位子L2を有してもよい。式(I)の有機金属錯体中に1つを超える配位子L2が存在する際、配位子L2は同一または異なってもよい。一般式(I)の有機金属錯体は、好ましくは1または2個の配位子L2を有する。これは、式(I)の有機金属錯体におけるrが0〜4、好ましくは1もしくは2であることを意味する。
【0068】
式(I)の有機金属錯体は、さらに場合によっては、1つ以上の非荷電の単座または二座配位子L3を有してもよい。
【0069】
適切な非荷電の単座または二座配位子L3は、好ましくは、ホスフィン(モノホスフィンおよびビスホスフィン);ホスホン酸(モノホスホン酸およびビスホスホン酸、ならびにそれらの誘導体);砒酸(モノ砒酸およびビス砒酸、ならびにそれらの誘導体);亜リン酸(モノ亜リン酸およびビス亜リン酸);CO;ピリジン(モノピリジンおよびビスピリジン);金属Mとπ錯体を形成する、ニトリル、ジニトリル、アリル、ジイミン、非共役ジエンおよび共役ジエンからなる群から選択される。特に好適な非荷電の単座または二座配位子L3は、ホスフィン(モノホスフィンおよびビスホスフィンの両方)、好ましくはトリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、もしくはアルキルアリールホスフィン、より好ましくはPAr3(Arは置換または非置換のアリール基であり、PAr3中の3つのアリール基は同一または異なってもよい)、より好ましくはPPh3、PEt3、PnBu3、PEt2Ph、PMe2Ph、PnBu2Ph;ホスホン酸およびその誘導体、砒酸およびその誘導体、亜リン酸、CO;ピリジン(モノピリジンおよびビスピリジン)であって、アルキル基もしくはアリール基で置換されていてもよいピリジン;金属Mとπ錯体を形成するニトリルおよびジエン、好ましくはη4−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン、η4−2,4−ヘキサジエン、η4−3−メチル−1,3−ペンタジエン、η4−1,4−ジブチル−1,3−ブタジエン、η4−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン、およびη2もしくはη4−シクロオクタジエン(それぞれの場合に1,3および1,5)、より好ましくは1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、ブタジエン、η2−シクロオクテン、η4−1,3−シクロオクタジエン、およびη4−1,5−シクロオクタジエンからなる群から選択される。極めて好適な非荷電単座配位子は、PPh3、P(OPh)3、CO;ピリジン、ニトリル、およびそれらの誘導体からなる群から選択される。適切な非荷電の単座または二座配位子は、好ましくは、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、η4−シクロオクタジエン、およびη2−シクロオクタジエン(それぞれの場合に1,3および1,5)である。
【0070】
式(I)の有機金属錯体は、0、1、2、3、もしくは4個の非荷電の単座または二座配位L3を有してもよい。式(I)の遷移金属錯体中に1つを超える配位子L3が存在する場合、配位子L3は同一または異なってもよい。好適な実施形態において、一般式(I)の有機金属錯体は、0個の配位子L3を含む。これは一般式(I)の有機金属錯体におけるsが、0〜4、好ましくは0であることを意味する。
【0071】
特に好適な実施形態において、本発明は、式(I)
[式中、
Mは、Ir(III)であり、
2は、一価アニオン性二座配位子であり(好適な一価アニオン性二座配位子は、すでに上記に明記した)、
qは、1もしくは2、好ましくは2であり、
rは、1もしくは2であり、
sは、0であり、
1は、式(IIa)のトリフェニレン誘導体に由来する一価アニオン性二座配位子であり(好適なトリフェニレン誘導体は、すでに上記に明記した)、
q+r=3である]
の有機金属錯体に関する。
【0072】
特に好適な式(I)の有機金属錯体は、以下の式(Ia)、(Ib)、および(Ic)、ならびに(Id)、(Ie)、および(If)
【化11】
【0073】
【化12】
【0074】
【化13】
の有機金属錯体である。
【0075】
本発明の有機金属錯体(I)は、当業者に既知の全ての方法によって製造することができる。
【0076】
好適な実施形態において、製造は、
(a)所望の金属Mを備え、また場合によっては1つ以上の配位子L3を備える金属塩または金属錯体を第1の配位子L1もしくはL2と反応させて、1つ以上の配位子L1あるいは1つ以上の配位子L2のいずれかを場合により1つ以上の配位子L3に加えて有する金属錯体を生じさせるステップと、
(b)ステップ(a)で得た金属錯体を、ステップ(a)で得た金属錯体が1つ以上の配位子L2を含む場合には第2の配位子L1と反応させ、あるいはステップ(a)で得た金属錯体が1つ以上の配位子L1を含む場合には1つの配位子L2と反応させて、式(I)の有機金属錯体を得るステップであって、式(I)の有機金属錯体がいかなる配位子L2も含まない場合、すなわち式(I)の有機金属錯体中のrが0である場合には省略されるステップ(b)と
によって実行される。
【0077】
適切な配位子から開始する有機金属錯体の製造のための反応条件は、当業者に既知である。
【0078】
式(I)の本発明の有機金属錯体は、特にOLEDに使用するための発光材料として適している。一般的に、発光材料は、1つ以上の適切な母体材料と一緒に使用される。本発明の遷移金属錯体の1つの利点は、その構造により、二量体の形成、ひいてはルミネセンス発生の消滅を伴わずに、OLED、特に発光層に高濃度で使用できることである。結果として、発光層の高いルミネセンス効率と長い寿命とを備えるOLEDを提供することが可能である。
【0079】
典型的には、1つ以上の式(I)の有機金属錯体は、OLEDの発光層中に、好ましくは1つ以上の母体材料と一緒に存在する。母体材料中の式(I)の有機金属錯体の濃度は、発光層に基づき、一般に>0〜≦100質量%、好ましくは≧5〜≦50質量%、より好ましくは≧10〜≦30質量%、また最も好ましくは≧11〜≦25質量%である。1つ以上の母体材料は、それに対応して、好ましくは濃度0〜<100質量%、好ましくは≧50〜≦95質量%、より好ましくは≧70〜≦90質量%、最も好ましくは75〜≦89質量%で存在する。
適切な母体材料は、当業者に既知である。適切な母体材料の例は、例えば、Organic Light−Emitting Materials and Devices(Optical Science and Engineering Series), Ed.: Z. Li, H. Meng, CRC Press Inc., 2006に公開されている。
【0080】
本出願は、式(I)の本発明の有機金属錯体、または少なくとも1つの式(I)の有機金属錯体を含む本発明の混合物の有機発光ダイオードにおける使用をさらに提供する。式(I)の有機金属錯体を有機発光ダイオードの発光層に使用することが好ましい。
【0081】
本発明は、式(I)の本発明の有機金属錯体の発光材料としての使用をさらに提供する。
【0082】
OLEDおよび適切なOLEDの構造は、当業者に既知である。
【0083】
本発明は、一般式(IIa)
【化14】
[式中、
1は、N含有基、好ましくは置換または非置換であってもよい複素環基、より好ましくは少なくとも1つの窒素原子を含むN−複素環基、最も好ましくは少なくとも1つの窒素原子を有し、置換または非置換であってもよい単環式、二環式、または三環式の複素環式芳香族基、非常に好ましくはピリジルもしくはベンゾチアジル基、またはトリアゾリル基、イソオキサゾリル基、もしくはピラゾリル基であり、これらは置換または非置換であってもよく、
2、R3、R4は、それぞれ独立して、C1〜C20−アルキル、C0〜C20−アルキレン−C3〜C18−シクロアルキル、3〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロシクロアルキル、C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリールオキシ、C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、5〜18個の環原子を有するC0〜C20−アルキレンヘテロアリール(前述の基は、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アミノ、−C(O)R’、−C(O)OR’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはアミノである)で置換または非置換でもよい)、ヒドロキシル、ハロゲン、擬ハロゲン、ホスホン酸、リン酸、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホリル、スルホニル、スルホン酸、硫酸、アミノ、ポリエーテル、シリル−C1〜C20−アルキル、シリル−C0〜C20−アルキレン−C6〜C18−アリール、シリル−C0〜C20−アルキレン−C1〜C20−アルコキシ、−C(O)R’、−C(O)OR’’、−OC(O)R’’’、−OC(O)OR’’’’(R’、R’’、R’’’、およびR’’’’は、それぞれ独立して、水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、またはアミノである)であり、
oは、0〜3であり、R3基はo>1の場合に同一または異なってもよく、
n、pは、それぞれ独立して0〜2であり、R2もしくはR4基はnもしくはp>1の場合に同一または異なってもよく、
2は、N、CH、またはCR2であり、
3はN、CH、またはCR3であり、
4は、それぞれ独立してN、CH、またはCR4である]
のトリフェニレン誘導体をさらに提供する。
【0084】
基ならびに添え字、R1、R2、R3、R4、n、o、p、X2、X3、およびX4の定義の好適な実施形態は、上記に明記した。
【0085】
本発明のトリフェニレン誘導体は、
(i)Y基で官能化された式IVの芳香族化合物の相当するホウ素化合物との反応、例えば触媒反応(例えばPd含有触媒を使用してもよい)によって、アリールボロン酸またはアリールボロン酸誘導体(V)を製造するステップと:
【化15】
[式中、
Yは、ハロゲンであり、
5は、HまたはC1〜C6−アルキルであるか、あるいは2つのR5基が酸素原子間に二原子架橋を形成し、架橋の原子は置換または非置換であってもよい]、
(ii)1当量のアリールボロン酸または式Vのアリールボロン酸誘導体と、2つのz基で官能化された式VIのビフェニル誘導体とのパラジウム触媒反応により、式VIIの化合物を得るステップと:
【化16】
[式中、zは、ハロゲンまたはOTfである]、
(iii)式VIIの化合物のパラジウム触媒分子内環化反応により、所望の式IIbのトリフェニレン誘導体を得るステップと、
を含む方法によって製造することができる。
【0086】
1が2−ピリジル基である、本発明のトリフェニレン誘導体を製造するための好適な方法を以下に例として示す。
【0087】
スキーム1
【化17】
【0088】
X、Y、Z、およびSは、それぞれ1つ以上の置換基を表わし、適切な置換基Y、Z、およびSは置換基(R2n、(R3o、および(R4pに相当するが、これらはそれぞれ上記に定義されている。X基は、R1基の置換基に相当し、好適な置換基は、上記に定義されているRaおよびRbである。適切な置換基X、Y、Z、およびSは、例えばMe、tBu、CF3、F、およびOMeである。
【0089】
スキーム1のステップA、B、およびCにおいて、適切なアリールボロン酸または適切なアリールボロン酸誘導体(V)を製造する。まず、Y基(この場合Br)で官能化された式(IV)の芳香族化合物を製造する。R1がピリジンである本スキームでは、ハロゲン(この場合Br)で官能化された相当するアリール基のピリジンとのアゾカップリングによって、式(IV)の化合物を製造する。得られた式(IV)の化合物(本スキームでは、2−(4−ブロモフェニル)ピリジン)を、好ましくはパラジウム触媒反応によって、相当するアリールボロン酸または相当するアリールボロン酸誘導体(V)に変換する。適切な反応は、当業者に既知である。本スキームでは、塩基であるKOAcの存在下、触媒量のPd(dba)3およびトリシクロヘキシルホスフィンの存在下で、2−(4−ブロモフェニル)ピリジンをビス(ピナコラト)ジボロンと反応させる。
【0090】
得られたアリールボロン酸または得られた式(V)のアリールボロン酸誘導体は、ステップD(本発明による方法のステップ(ii))において、2つのz基で官能化された式(VI)のビフェニル誘導体と反応させる。z基は、ハロゲンまたはOTfであり、スキーム1のこの例ではBrである。反応は、パラジウム触媒下で生じる。本スキーム1のステップDで使用するパラジウム触媒は、好ましくは、塩基であるNa2CO3存在下のPd(PPh)4である。
【0091】
所望の式(IIa)のトリフェニレン誘導体を製造するために、スキーム1のステップE(本発明による方法のステップ(iii))において、パラジウム触媒分子内環化反応を実施する。本スキーム1で使用するパラジウム触媒は、塩基であるK2CO3存在下の触媒量のPd(OAc)2である。
【0092】
ステップ(iii)で実施した所望の式(IIa)トリフェニレン誘導体を製造するためのパラジウム触媒分子内環化反応は、従来技術ではこれまで知られていなかった。縮合芳香族系(トリフェニレン誘導体)の直接合成がこのような方法で可能であることが発見された。
【0093】
一般スキーム2に示すように、2−トリフェニレンカルボン酸から開始して、本発明の式(IIa)のトリフェニレン誘導体を製造するさらなる経路が可能である。
【0094】
スキーム2
【化18】
【0095】
ステップ(i)において、当業者に既知の方法によって、2−トリフェニレンカルボン酸を相当する酸塩化物に変換する。反応は、当業者に既知のいかなる塩素化剤を用いて実施してもよく、例えば塩化チオニルを使用する。
【0096】
続いて、ステップ(ii)において、得られた酸塩化物を例えばo−アミノチオフェノールと反応させて、本発明の式(IIa)のトリフェニレン誘導体を得る。
【0097】
スキーム2は、単なる例に過ぎない。トリフェニレン骨格は、さらなる置換基を有してもよく、あるいはトリフェニレン骨格中に存在する炭素原子のうちのいくつかは、窒素原子で置換されていてもよい。
【0098】
使用するトリフェニレンカルボン酸は、当業者に既知の方法によって製造することができる。
【0099】
2−トリフェニレンカルボン酸を介した本発明のトリフェニレン誘導体の製造のさらなる経路をスキーム3に示す。スキーム3は、一例として、式(Id)および(Ie)の本発明のトリフェニレン誘導体を製造するための方法を示している。2−トリフェニレンカルボン酸の製造の経路は、同様にスキーム3に示す。
【0100】
スキーム3
【化19】
【0101】
適切な反応条件は、参考文献における類似する反応から選ぶことができる。スキーム3に明記する個々のステップに関して、適切な参考文献を以下に記載する。特に好適な反応条件は、そのあとの実施例の部分に明記する。
a)およびb) ジヒドロピレンに関する出版物と類似:D.M. Connor, S.D. Scott, D.M. Collard, Chr. L. Liotta, D.A. Schiraldi, J. Org. Chem. 1999, 64, 6888−6890
c)3−メチル−4−ニトロ安息香酸による出版物と類似:D.J. Sall, A.E. Arfesten, J.A. Bastian, M.L. Denney, C.S. Harms, J. Med. Chem., 1997, 40, 2843−2857
d)3−(1−メチル−1,2,4−トリアゾール−3−イル)アザビシクロ[2.2.2]オクタンによる出版物と類似:H.J. Wadsworth, S.M. Jenkins, B.S. Orlek, F. Cassidy, M.S.G. Clark, F. Brown, G.J. Riley, D. Graves, J. Hawkins, Chr. B. Naylor, J. Med. Chem. 1992, 35, 1280−1290
e)およびf)ヨード安息香酸に関する出版物に類似:S.E. Gibson et al. Chem. Eur. J. 2005, 11, 69−80
g)ベンズアルデヒドオキシムに関する出版物に類似:P. Aschwanden et al. Org. Lett. 2005, 7, 5741−5742
h)3−置換イソオキサゾールに関する出版物に類似:A. Baranski, Pol. J. Chem. 1982, 56, 1585−1589、およびR.G. Micetich, Can. J. Chem. 1970, 48, 467−476、およびS.−R. Sheng, X.−L. Liu, Q. Xu, C.−S. Song, Synthesis 2006, 14, 2293−2296
スキーム3は、一例に過ぎない。トリフェニレン骨格は、さらなら置換基を有してもよく、あるいはトリフェニレン骨格中に存在する炭素原子のうちのいくつかは、窒素原子で置換されていてもよい。
【0102】
トリフェニレン骨格から開始する本発明のトリフェニレン誘導体の製造のさらなる経路は、当業者に既知の方法と同じように、トリフェニレンの臭素化によって行なうことができる。スキーム4は、式(If)のトリフェニレン誘導体の製造の例としてこの経路を示す。
【0103】
スキーム4
【化20】
【0104】
適切な反応条件は、参考文献における類似する反応から選ぶことができる。スキーム4に明記する個々のステップに関して、適切な参考文献を以下に記載する。特に好適な反応条件は、そのあとの実施例の部分に明記する。
a) R. Breslow, Ronald B. Juan, Bernhard R.Q. Kluttz, C.−z. Xia, Tetrahedron 1982, 38, 863−867の出版物と類似
b) フェニルピラゾールに関する出版物と類似:J.C. Antilla, J.M. Baskin, T.E. Barder, S.L. Buchwald, J. Org. Chem, 2004, 69, 5578−5587
1) ジブロモクロロベンゼンに関する出版物と類似:K. Menzel, L. Dimichele, P. Mills, D.E. Frantz, T.D. Nelson, M.H. Kress, Syn. Lett. 2006, 12, 1948−1952
2) テトラブロモ芳香族化合物に関する出版物と類似:G. Dorman, J.D. Olszewski, G.D. Prestwich, Y. Hong, D.G. Ahem, David G. J. Org. Chem. 1995, 60, 2292−2297
3) 芳香族化合物の脱臭素化に関する出版物と類似:S. Arai, M. Oku, T. Ishida, T. Shioiri; Tetrahedron Lett. 1999, 40, 6785−6790
スキーム4は、一例に過ぎない。トリフェニレン骨格は、さらなる置換基を有してもよく、あるいはトリフェニレン骨格中に存在する炭素原子のうちのいくつかは、窒素原子で置換されていてもよい。具体的には、スキーム4による式(Id)および(Ie)の相当する本発明のトリフェニレン誘導体を製造することも可能である。
【0105】
さらに、本発明のトリフェニレン誘導体は、アリーンカップリングによっても得ることができる。一般スキーム5を以下に明記する。スキーム5aは、式(Id)、(Ie)、および(If)の化合物の製造の例を用いて、アリーンカップリングによる製造を示している。
【0106】
スキーム5
【化21】
【0107】
スキーム5a
【化22】
【0108】
反応条件は、例えば、Z. Liu, R. Larock, J. Org. Chem. 2007, 72, 223−232に開示されているような、メチルトリフェニレンの製造と類似している。特に好適な反応条件は、そのあとの実施例の部分に明記する。
【実施例】
【0109】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【0110】
実施例
スキーム1による式(IIa)のトリフェニレン誘導体の製造:
1. 2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)ピリジンの製造
Pd(dba)3 0.39g(0.4mmol)とトリシクロヘキシルホスフィン0.28g(1mmol)とを窒素雰囲気下で乾燥ジオキサン10mlに懸濁させる。得られた混合物を室温で30分間攪拌する。続いて、ビス(ピナコラト)ジボロン5.3g(15mmol)、KOAc2.1g(21mmol)、および2−(4−ブロモフェニル)ピリジン3.3g(14mmol)を徐々に加える。反応混合物を還流下で20時間煮沸し、冷却し、室温で水10mlを用いて処理する。生成物をジクロロメタンで抽出する。減圧下で溶媒を除去し、ショートシリカゲルカラムを用いて得られた粗生成物を精製する。シリカゲルカラム(ジクロロメタン/ヘキサン、3:1)を用いた精製後、82%の所望の生成物を得る。
【0111】
【0112】
2. 2つのBr基で置換した式(VI)のジフェニル誘導体の製造
置換二臭化物の製造は、o−ジブロモベンゼンから開始する。典型的な方法は、リチオ化/カップリングの反応シーケンスを含む。一般方法は、以下の参考文献に開示されている:H.S.M. Kabir et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 2001, 159−165(2,2’−ジブロモ−4,4’,5,5’−テトラメチルビフェニルの合成)。
【0113】
3. アリールボロン酸誘導体(V)と2つのBr基で官能化された式(VI)のビフェニル誘導体のカップリング
二臭化物(VI)6.4mmolとアリールボロン酸誘導体(V)(2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)ピリジン)6.4mmolとをトルエン25mlに溶解する。Pd(PPh34 0.4mmolとNa2CO3の4N溶液10mlとを加え、混合物を窒素下で加熱還流する。反応混合物を還流下で6時間加熱して冷却し、形成された相を分離し、水相をジクロロメタンで抽出して乾燥させる。減圧下で溶媒を除去し、ショートシリカゲルカラムを用いて粗生成物を精製する。カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン、2:1)による精製後、収率40〜50%で、所望のo−テルフェニル誘導体を得る。
【0114】
4. 式(IIa)のトリフェニレン誘導体への分子内環化反応
o−テルフェニル誘導体2.87mmolと、Pd(OAc)2 0.14mmolと、K2CO3 5.7mmolとをDMA7ml中で、窒素雰囲気下、135℃で24時間加熱する。反応混合物を冷却し、水5mlで処理し、ジクロロメタンで抽出する。有機相を乾燥させ、減圧下で溶媒を除去し、ショートシリカゲルカラム(ジクロロメタン)を用いて残留物を精製する。カラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/ヘキサン、2:1)後、収率35〜40%で、所望のトリフェニレン誘導体(IIa)を得る。
【0115】
5. スキーム2による式(IIa)の本発明のトリフェニレン誘導体の製造
2−トリフェニレンカルボン酸0.8g(2.9mmol)(当業者に既知の方法によって製造)をクロロホルム15mlに懸濁させる。続いて、塩化チオニル4mlを加え、反応混合物を窒素雰囲気下で還流させる。還流下で3時間攪拌したあと、澄明液を減圧下で取り除き、固体残留物をヘキサン/クロロホルム(10/1)から再結晶させる。得られた酸塩化物2を乾燥1−メチルピロリジノン10mlに溶解し、o−アミノチオフェノール0.32ml(2.9mmol)を加える。反応混合物を100℃で3時間攪拌する。冷却後、溶液を冷水に加え、混合物を7Nアンモニア水でpH8〜9に調整する。形成した沈殿物を濾過し、水で洗浄し、ショートシリカゲルカラム(ジクロロメタン)を用いて精製して、0.82g(78%)の所望のトリフェニレン誘導体(IIa)3を得る。
【0116】
m.p.:230〜231℃。
【0117】
6. 本発明の遷移金属錯体の製造
【化23】
【0118】
【化24】
は、複素環式R1基であり、適切な複素環式R1基は、上記に明記した。
【0119】
一般的方法
配位子1 0.83mmolを窒素雰囲気下で加熱しながら2−エトキシエタノール30mlに懸濁させる。IrCl3・3H2O 0.38mmolを加え、得られた懸濁液を還流させる。30分以内に、有色沈殿物が生じる。反応混合物を24時間還流下に維持し、その後室温に冷却する。遠心分離機での沈降によって沈殿物を収集し、メタノール(6×15ml)で徹底的に洗浄する。加熱しながら(T=80℃)高真空下で乾燥させたあと、収率80〜90%で、ジクロロ架橋二量体2を得る。これらの錯体は、常用の有機溶媒に難溶性であり、それ以上精製せずにさらに使用する。
【0120】
ジクロロ架橋二量体2 0.16mmolを窒素雰囲気下で2−エトキシエタノール10mlに懸濁させる。アセチルアセトン0.4mmolとNa2CO3 85〜90mgとを加え、反応混合物を100℃で5時間攪拌する。得られた懸濁液を室温に冷却し、水で希釈し、遠心分離機での沈降によって有色沈殿物を収集し、水/メタノール(4/1.6×15ml)で徹底的に洗浄し、加熱しながら(T=100℃)高真空下で乾燥させる。カラムクロマトグラフィーによる精製後、収率70〜80%で、有色固体として錯体3を得る。
【0121】
Ir錯体IaおよびIbは、上記に明記した方法によって得る。
【0122】
【化25】
【0123】
7. 本発明の遷移金属錯体IaおよびIbのOLEDにおける使用
ダイオード構造は以下の通りである。
【0124】
・ 120nmのインジウムスズ酸化物を含むガラス基板
・ 正孔注入層(PEDOT−PSS)200nm
・ 非ドープのMTDATAから構成される正孔輸送層;100nm
・ ドープされた9%(質量)のイリジウム錯体Ia(実施例1)またはIb(実施例2)を含む、α−NPDから構成される発光層;250nm
・ 正孔遮断のためおよび電子輸送のための層、TPBI、100nm
・ 電子注入層(フッ化リチウム)、450nm
・ アルミニウムから構成される陰極、70nm
結果は、下表にまとめる。Ir錯体Iaは実施例1において、Ir錯体Ibは実施例2において使用した。
【0125】
【表1】
【0126】
8.スキーム3による式(IIa)の本発明のトリフェニレン誘導の製造
8.1 2−トリフェニレンカルボン酸の製造
ステップa)
トリフェニレン(1当量)をCH2Cl2中、0℃で2.1当量のAlCl3および21.0当量のCH3COClと反応させる。室温で3時間攪拌したあと、反応生成物(アセチルトリフェニレン)を収率97%で得、これをステップb)で使用する。
【0127】
ステップb)
ステップa)で得た反応生成物をピリジン溶媒中、2.2当量のI2(アセチルトリフェニレンの粗収率に基づく)と室温で混合する。その後、混合物を45分間還流下に維持し、その後さらなる分量のI2(1.0当量)を加える。さらに1時間の還流後、NaOHと、EtOHと、水とを加え、反応混合物を2時間加熱還流させる。収率76%(アセチルトリフェニレンの粗収率に基づく、あるいはトリフェニレンに基づき74%)で、2−トリフェニレンカルボン酸を得る。
【0128】
8.2 式IIdのトリフェニレン誘導体の製造
ステップc)
ステップb)による1当量の2−トリフェニレンカルボン酸をキシレン中でPCl5(2.1当量)および1.2当量のp−トルエンスルホンアミドと反応させ、反応中の温度は17時間120℃に維持する。190℃で、溶媒および試薬を蒸留除去する。5℃まで冷却後、ピリジンを加え、混合物に水性後処理を行なう。収率52%で得た反応生成物をステップd)で使用する。
【0129】
ステップd)
ステップc)で得た反応生成物(1当量)を0℃でエタノール中の気体HClと混合する。混合物を室温でさらに24時間攪拌する。溶媒をほぼ完全に除去する。続いて、溶媒としてのエタノールと、1.3当量のMeNHNH2と、2.5当量のNEt3とを加える。混合物を室温で24時間攪拌する。0℃で反応体積を4分の1まで減らし、HCO2Hを加え、EtOHを完全に取り除く。続いて、室温でさらにHCO2Hを加え、混合物を2時間還流させたあと、式IIdのトリフェニレン誘導体を得る。
【0130】
8.3 式IIeのトリフェニレン誘導体の製造
ステップe)
ステップb)による1当量の2−トリフェニレンカルボン酸を2.0当量のBH3THFとともにTHF中、室温で16時間攪拌する。反応生成物をステップf)における水性後処理後、さらに変換する。
【0131】
ステップf)
ステップe)による反応生成物を溶媒としてのCHCI3中で、還流下3日間、MnO2(2−トリフェニレンカルボン酸に基づき25.0当量)と反応させる。セリットによる濾過後、反応生成物をステップg)においてさらに変換する。
【0132】
ステップg)
ステップf)による反応生成物を3.3当量(2−トリフェニレンカルボン酸に基づく)のH2NOH・HClおよび9.0当量のNaOHとともに、EtOH中、室温で1時間、還流下で30分攪拌する。収率80〜90%で得た反応生成物(2−トリフェニレンアルドキシム)をステップh)において、水性後処理後さらに変換する。
【0133】
ステップh)
ステップg)による反応生成物を1.0当量(2−トリフェニレンアルドキシムに基づく)のNCSとともに、CHCl3中で30分間攪拌する。その後、混合物を臭化ビニル(2−トリフェニレンアルドキシムに基づき1.0当量)と混合し、NEt3(1.1当量)を滴下して加えて、室温で12時間攪拌し、水性後処理をおこなったあと、式IIeのトリフェニレン誘導体を得る。あるいは、臭化ビニル、酢酸ビニル、またはフェニルビニルセレニドを用いてもよく、その場合、酢酸ビニルを用いる際は後処理の前にさらに還流ステップを追加し、一方ビニルセレニドの使用では、後処理前に0℃で30%のH22の添加が必要となる(この場合、還流ステップは省略する)。
【0134】
9. スキーム4による式(IIa)の本発明のトリフェニレン誘導体の製造
ステップa)
トリフェニレン(1当量)をニトロベンゼン中で、触媒量の鉄の存在下、8当量のBr2を用いて臭素化して、80%の臭素化トリフェニレン誘導体を得る。
【0135】
ステップb)
臭素化トリフェニレン誘導体(1当量)を続いて5〜10mol%のCul、20mol%のアミン(N,N−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミンもしくはフェナントロリン)、1.0当量のピラゾール、および2.1当量の塩基(K2CO3、CsCO3、またはNaOtBu)とともに、トルエン中、110℃で24時間攪拌する。
【0136】
ステップc)
ステップb)で得た反応生成物を続いてステップc1)、ステップc2)、またはステップc3)において、式IIfのトリフェニレン誘導体に変換する。
1)iPrMgCl・LiCl;HCl;c2)H2、NEt3、Pd(OH)2/C;c3)HCO2H、NEt3、P(oTol)3、Pd(OAc)2、DMF、50℃、24時間。
【0137】
10. スキーム5aによる式(IIa)の本発明のトリフェニレン誘導体の製造
1−トリフルオロメタンスルホナト−2−トリメチルシリルベンゼン(3当量)を、5mol%のPd(OAc)2、5mol%のdppf、および4当量のCsFの存在下、トルエン/アセトニトリル中で1当量の適当なヨード芳香族化合物(スキーム5aを参照)と反応させて、式IId)、IIe)、およびIIf)の所望の配位子を得る。