特許第5819619号(P5819619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5819619インクジェットインク、表面金属膜材料及びその製造方法、金属パターン材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5819619
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】インクジェットインク、表面金属膜材料及びその製造方法、金属パターン材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20151104BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20151104BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20151104BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20151104BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20151104BHJP
【FI】
   C09D11/36
   B41M5/00 A
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
   H05K3/10 D
   H05K3/18 B
【請求項の数】10
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2011-56996(P2011-56996)
(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公開番号】特開2011-214001(P2011-214001A)
(43)【公開日】2011年10月27日
【審査請求日】2013年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-64901(P2010-64901)
(32)【優先日】2010年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】松下 泰明
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−007662(JP,A)
【文献】 特開2005−057038(JP,A)
【文献】 特開2009−049274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/36
B41J 2/01
B41M 5/00
H05K 3/10
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基と、アクリロイル基またはメタクリロイル基とを含有するポリマーと、
前記ポリマーを溶解又は分散させる、1種又は2種以上の溶媒と、を含み、
下記式(A)で表される、前記溶媒の沸点の平均値(T(b))が150℃以上である、インクジェットインクであって、
前記溶媒が、沸点が180℃未満である溶媒A、及び、沸点が180℃以上である溶媒Bを含有し、質量基準で溶媒Aが溶媒Bよりも多く含有される混合溶媒である、インクジェットインク。
【数1】

(式(A)中、Wiはインクジェットインクに含まれるi番目の溶媒の溶媒全量に対する質量分率を表し、Tbiはインクジェットインクに含まれるi番目の溶媒の沸点を表し、iは1〜nの整数を表す。)
【請求項2】
25℃における粘度が50mPa・s以下である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
25℃における表面張力が20〜40mN/mである、請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基が、非解離性官能基である、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記ポリマーが、式(4)で表されるユニット及び式(2)で表されるユニットを有するポリマーである、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットインク。
【化1】

【化2】

(式(4)中、R1は、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す。R2は、水素原子、又は、メチル基を表す。Tは、酸素原子、又はNR(Rは、水素原子又はアルキル基を表す。)を表す。Zは、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基を表す。L1は、置換又は無置換の二価の有機基を表す。
式(2)中、R5は、水素原子、又は置換若しくは無置換のアルキル基を表す。X及びL2は、それぞれ独立して、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基を表す。Wは、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する非解離性官能基を表す。)
【請求項6】
前記ポリマーの含有量が1〜20質量%で、前記溶媒の含有量が80〜99質量%である、請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項7】
めっき触媒又はその前駆体を受容するポリマー層の形成に用いる、請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットインク。
【請求項8】
インクジェット方式により請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットインクを基板上に付与して、加熱又は露光により付与されたインクを硬化してポリマー層を形成する層形成工程と、
前記ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
該めっき触媒又はその前駆体に対してめっきを行う工程とを備える、表面に金属膜を有する表面金属膜材料の製造方法。
【請求項9】
前記めっきを行う工程が無電解めっき工程であり、前記無電解めっき工程により得られた金属膜の厚みが、0.2〜2.0μmである、請求項8に記載の表面金属膜材料の製造方法。
【請求項10】
インクジェット方式により請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットインクを基板上にパターン状に付与して、加熱又は露光により付与されたインクを硬化させてパターン状にポリマー層を形成する層形成工程と、
前記ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
前記めっき触媒またはその前駆体が付与されたポリマー層に対してめっきを行う工程とを備える、表面にパターン状の金属膜を有する金属パターン材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、表面金属膜材料及びその製造方法、並びに、金属パターン材料及びその製造方法に関する。より詳細には、所定の官能基を有するポリマーと、所定の沸点を有する溶媒とを含有するインクジェットインクと、該インクジェットインクを用いて得られる表面金属膜材料、金属パターン材料、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁性基板の表面に金属パターンによる配線を形成した金属配線基板が、電子部品や半導体素子に広く用いられている。
かかる金属パターン材料の作製方法としては、主に、「サブトラクティブ法」が使用される。このサブトラクティブ法とは、基板表面に形成された金属膜上に、活性光線の照射により感光する感光層を設け、この感光層を像様露光し、その後現像してレジスト像を形成し、次いで、金属膜をエッチングして金属パターンを形成し、最後にレジストを剥離する方法である。
【0003】
この方法により得られる金属パターンにおいては、基板表面に凹凸を設けることにより生じるアンカー効果により、基板と金属膜との間の密着性を発現させている。そのため、得られた金属パターンの基板界面部の凹凸に起因して、金属配線として使用する際の高周波特性が悪くなるという問題点があった。また、基板表面に凹凸化処理するためには、クロム酸などの強酸で基板表面を処理するが必要であるため、金属膜と基板との密着性に優れた金属パターンを得るためには、煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、基板上に該基板と直接結合したグラフトポリマーを生成させてパターン状のポリマー層を形成し、このポリマー層に対してめっきを施して、ポリマー層上に金属膜を製造して金属パターン(導電性パターン)を得る方法が知られている(特許文献1)。該方法によれば、基板の表面を粗面化することなく、基板と金属膜との密着性を改良することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−503806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、基板表面に直接結合したグラフトポリマーを得る際に、インクジェット方式によって、ラジカル重合可能な不飽和化合物を含有する液体をパターン状に配置している。
一方、近年、半導体デバイスの低コスト化及び生産効率向上の要望の高まりに応じて、所定の金属パターンを備える基板をより生産性よく製造することが望まれている。特許文献1に記載されるインクジェット方式によって、基板と金属膜との密着を高めるグラフトポリマー層を連続的に製造する場合、インク吐出の際にノズルの目詰まりなどが起こると生産プロセス全体に影響を与えてしまうため、高い連続吐出安定性が要求される。
また、半導体デバイスの小型化及び高密度化に伴い、線幅が狭く、断線がない配線を製造することが要求されている。そのため、上記グラフトポリマー層を製造する際にも、均一な線幅を持ち、断線が生じていないパターン状のポリマー層を製造することが望まれている。
【0007】
本発明者らが、特許文献1に具体的に記載されるラジカル重合可能な不飽和化合物を含有する液体を用いて、連続吐出安定性に関して検討を行ったところ、該技術は昨今要求される連続吐出安定性のレベルを満たしておらず、更なる改良が必要であった。
また、該液体を用いて、グラフトポリマー層のパターン形成性について検討を行ったところ、線幅の広がりや、パターンが断線するなどと言った不具合が生じる場合があった。
さらには、近年、プリント配線板などの微細配線においては、配線(金属パターン)間においてより高い絶縁性が必要とされており、配線間の絶縁信頼性のより一層の向上が要求されている。
【0008】
本発明の第一の目的は、上記実情に鑑みて、金属膜(めっき膜)との密着性に優れたポリマー層を所望のパターン状に形成することができ、高い連続吐出安定性を示すインクジェットインクを提供することにある。
本発明の第二の目的は、該インクジェットインクを用いて基板との密着性に優れた表面金属膜材料、及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れた金属パターン材料、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、所定の官能基を有するポリマーと、所定の沸点を示す溶媒とを含有するインクジェットインクを使用することにより、上記課題を解決できることを見出した。
即ち、本発明者らは、上記課題が下記構成により解決されることを見出した。
【0010】
<1> めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基と重合性官能基とを含有するポリマーと、
前記ポリマーを溶解又は分散させる、1種又は2種以上の溶媒と、を含み、
後述する式(A)で表される、前記溶媒の沸点の平均値(T(b))が150℃以上である、インクジェットインク。
<2> 前記溶媒が、沸点が180℃未満である溶媒A、及び、沸点が180℃以上である溶媒Bを含有し、質量基準で溶媒Aが溶媒Bよりも多く含有される混合溶媒である、<1>に記載のインクジェットインク。
【0011】
<3> 25℃における粘度が50mPa・s以下である、<1>又は<2>に記載のインクジェットインク。
<4> 25℃における表面張力が20〜40mN/mである、<1>〜<3>のいずれかに記載のインクジェットインク。
<5> 前記めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基が、非解離性官能基である、<1>〜<4>のいずれかに記載のインクジェットインク。
<6> 前記ポリマーが、後述する式(1)で表されるユニット及び後述する式(2)で表されるユニットを有するポリマーである、<1>〜<5>のいずれかに記載のインクジェットインク。
【0012】
<7> 前記ポリマーの含有量が1〜20質量%で、前記溶媒の含有量が80〜99質量%である、<1>〜<6>のいずれかに記載のインクジェットインク。
<8> めっき触媒又はその前駆体を受容するポリマー層の形成に用いる、<1>〜<7>のいずれかに記載のインクジェットインク。
<9> インクジェット方式により<1>〜<8>のいずれかに記載のインクジェットインクを基板上に付与して、加熱又は露光により付与されたインクを硬化してポリマー層を形成する層形成工程と、
前記ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
前記めっき触媒またはその前駆体が付与されたポリマー層に対してめっきを行う工程とを備える、表面に金属膜を有する表面金属膜材料の製造方法。
<10> 前記めっきを行う工程が無電解めっき工程であり、前記無電解めっき工程により得られた金属膜の厚みが、0.2〜2.0μmである、<9>に記載の表面金属膜材料の製造方法。
【0013】
<11> <9>又は<10>に記載の表面金属膜材料の製造方法によって得られる表面金属膜材料。
<12> <11>に記載の表面金属膜材料中の金属膜をパターン状にエッチングする工程を有する金属パターン材料の製造方法。
<13> <12>に記載の金属パターン材料の製造方法より得られた金属パターン材料を備える配線基板。
<14> <11>に記載の表面金属膜材料を用いた装飾材料。
<15> インクジェット方式により<1>〜<8>のいずれかに記載のインクジェットインクを基板上にパターン状に付与して、加熱又は露光により付与されたインクを硬化させてパターン状にポリマー層を形成する層形成工程と、
前記ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
前記めっき触媒またはその前駆体が付与されたポリマー層に対してめっきを行う工程とを備える、表面にパターン状の金属膜を有する金属パターン材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属膜(めっき膜)との密着性に優れたポリマー層を所望のパターン状に形成することができ、高い連続吐出安定性を示すインクジェットインクを提供することができる。
本発明によれば、該インクジェットインクを用いて基板との密着性に優れた表面金属膜材料、及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、金属パターンの非形成領域の絶縁信頼性に優れた金属パターン材料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るインクジェットインク(インクジェット用インク)、表面金属材料及びその製造方法、並びに、金属パターン材料及びその製造方法について詳述する。
本発明のインクジェットインクには、所定の官能基を有するポリマーと、所定の沸点を示す溶媒が含有される。該溶媒が所定の沸点を有することによって、優れた連続吐出安定性やパターン形成性を示すインクが得られる。特に、該溶媒が、180℃未満の沸点を有する溶媒と180℃以上の沸点を有する溶媒とを含む混合溶媒である場合にその効果が顕著となる。その理由としては、まず、沸点の高い溶媒を含有することによって、ノズルの目詰まりが抑制される。さらに、沸点の低い溶媒を含有することによって、インクが基板上に着弾する際に、該溶媒の大部分が揮発してインク粘度が上昇するため、結果としてインクの広がりなどが抑制され、優れたパターン性能が得られる。
まず、インクジェットインクに含有されるポリマー、及び溶媒について詳述する。
【0016】
<ポリマー>
本発明のインクジェットインクに使用されるポリマーは、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基(以後、適宜「相互作用性基」とも称する)と重合性官能基とを含有するポリマーである。ポリマー中に相互作用性基が含まれることによって、後述するめっき触媒に対する優れた吸着性が達成され、結果としてめっき処理の際に十分な厚さのめっき膜(金属膜)を得ることができる。また、ポリマー中に重合性官能基が含まれることにより、後述する基板との優れた密着性が発現されると共に、膜中で架橋反応が進行し強度に優れたポリマー層を得ることができる。
【0017】
(相互作用性基)
相互作用性基としては、後述するめっき触媒などと相互作用を形成すれば、その種類は特に限定されない。例えば、極性基(親水性基)や、多座配位を形成可能な基、含窒素官能基、含硫黄官能基、含酸素官能基などの非解離性官能基(解離によりプロトンを生成しない官能基)が挙げられる。特に、上記インクを用いて得られるポリマー層の吸水性、吸湿性を低減するためには、金属イオン吸着能を示す部位として、非解離性官能基を用いることが好ましい。
【0018】
極性基としては、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有する官能基、又は、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、N−ヒドロキシ構造を含む基、フェノール性水酸基、水酸基などの負の荷電を有するか、負の荷電に解離しうる酸性基が挙げられる。これらは、解離基の対イオンの形で、または非解離状態の形でも金属イオンと吸着する。
【0019】
非解離性官能基としては、具体的には、金属イオンと配位形成可能な基、含窒素官能基、含硫黄官能基、含酸素官能基、含リン官能基などが好ましい。より具体的には、イミド基、ピリジン基、3級のアミノ基、アンモニウム基、ピロリドン基、アミジノ基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール基、ベンズイミダゾール基、キノリン基、ピリミジン基、ピラジン基、ナゾリン基、キノキサリン基、プリン基、トリアジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、ピロリジン基、ピラゾール基、アニリン基、アルキルアミン基構造を含む基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、シアネート基(R−O−CN)などの含窒素官能基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、N−オキシド構造を含む基、S−オキシド構造を含む基などの含酸素官能基、チオエーテル基、チオキシ基、チオフェン基、チオール基、スルホキシド基、スルホン基、サルファイト基、スルホキシイミン構造を含む基、スルホキシニウム塩構造を含む基、スルホン酸エステル構造を含む基などの含硫黄官能基、フォスフィン基、ホスフェート基、ホスフォロアミド基などの含リン官能基、塩素、臭素などのハロゲン原子を含む基などが挙げられる。また、隣接する原子又は原子団との関係により非解離性を示す態様であれば、イミダゾール基、ウレア基、チオウレア基を用いてもよい。さらに、シクロデキストリンやクラウンエーテルなどの包接能を有する化合物に由来する官能基であってもよい。
なかでも、極性が高く、めっき触媒などへの吸着能が高いことから、エーテル基(より具体的には、−O−(CH2)n−O−(nは1〜5の整数)で表される構造)、又は、シアノ基が特に好ましく、シアノ基がさらに好ましい。
【0020】
(重合性基)
重合性基としては、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基などが挙げられるが、後述する基板との反応性の観点からは、ラジカル重合性基が好ましい。ラジカル重合性基としては、例えば、アクリル酸エステル基、メタクリル酸エステル基、イタコン酸エステル基、クロトン酸エステル基、イソクロトン酸エステル基、マレイン酸エステル基などの不飽和カルボン酸エステル基、スチリル基、アリル基などが挙げられる。中でも、メタクリル酸エステル基(メタアクリロイル基)、アクリル酸エステル基(アクリロイル基)、アリル基、スチリル基が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましい。
【0021】
<ポリマーの好適態様>
(式(1)で表されるユニット)
上記ポリマーの好適態様の一つとして、基板との反応性により優れる点から、式(1)で表されるユニット(繰り返し単位)が含有されるポリマーが挙げられる。該ユニットは、重合性基を有するユニット(重合性基含有ユニット)である。
【0022】
【化1】
【0023】
式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。
1〜R4が、置換又は無置換のアルキル基である場合、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。より具体的には、無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、また、置換アルキル基としては、メトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0024】
なお、R1としては、水素原子、メチル基、又は、ヒドロキシ基若しくは臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
2としては、水素原子、メチル基、又は、ヒドロキシ基若しくは臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
3としては、水素原子が好ましい。
4としては、水素原子が好ましい。
【0025】
Y及びZは、それぞれ独立して、単結合、又は、置換若しく無置換の二価の有機基を表す。二価の有機基としては、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数1〜11)、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基(好ましくは炭素数6〜12)、−O−、−S−、−N(R)−(R:アルキル基)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、又は、これらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。該有機基は、発明の効果を損なわない範囲で、ヒドロキシ基などの置換基を有していてもよい。
【0026】
置換又は無置換の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキレン基)としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、又は、これらの基がメトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換されたものが好ましい。
置換又は無置換の芳香族炭化水素基としては、無置換のアリーレン基(フェニレン基)、又は、メトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)などで置換されたフェニレン基が好ましい。
【0027】
Y及びZとしては、エステル基(−COO−)、アミド基(−CONH−)、エーテル基(−O−)、置換又は無置換の芳香族炭化水素基などが好ましく挙げられる。
【0028】
1は、置換又は無置換の二価の有機基を表す。二価の有機基の定義は、上記Y及びZで表される有機基と同義であり、例えば、置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基、−O−、−S−、−N(R)−(R:アルキル基)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−、又は、これらを組み合わせた基などが挙げられる。
1としては、無置換のアルキレン基、又は、ウレタン結合若しくはウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、無置換のアルキレン基及びウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。なお、ここで、L1の総炭素数とは、L1で表される置換又は無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
1の構造として、より具体的には、式(1−1)、式(1−2)、又は、式(1−3)で表される構造であることが好ましい。
【0029】
【化2】
【0030】
式(1−1)及び式(1−2)中、Ra及びRbは、それぞれ独立して、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる群より選択される2つ以上の原子を用いて形成される2価の有機基である。好ましくは、置換若しくは無置換の、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、又はブチレン基や、エチレンオキシド基、ジエチレンオキシド基、トリエチレンオキシド基、テトラエチレンオキシド基、ジプロピレンオキシド基、トリプロピレンオキシド基、テトラプロピレンオキシド基が挙げられる。
一般式(1−3)中、nは1〜10の整数を表す。
【0031】
(式(4)で表されるユニット)
式(1)で表されるユニットの好適態様として、式(4)で表されるユニットが挙げられる。
【0032】
【化3】
【0033】
式(4)中、R1、R2、Z及びL1は、式(1)で表されるユニット中の各基の定義と同じである。Tは、酸素原子、又はNR(Rは、水素原子又はアルキル基を表し、好ましくは水素原子又は炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
【0034】
(式(5)で表されるユニット)
式(4)で表されるユニットの好適態様として、式(5)で表されるユニットが挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
式(5)中、R1、R2、及びL1は、式(1)で表されるユニット中の各基の定義と同じである。T及びQは、それぞれ独立して、酸素原子又はNR(Rは、水素原子又はアルキル基を表し、好ましくは水素原子又は炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
【0037】
上記式(4)及び式(5)において、Tは、酸素原子であることが好ましい。
また、上記式(4)及び式(5)において、L1は、無置換のアルキレン基、又は、ウレタン結合若しくはウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、ウレタン結合を有する二価の有機基がより好ましく、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。
【0038】
ポリマー中における式(1)で表されるユニットの含有量は特に制限されないが、後述する基板との密着性、保存安定性、及び合成難易度の観点で、全ユニット(100モル%)に対して、5〜50モル%が好ましく、5〜40モル%がより好ましく、10〜40モル%が特に好ましい。5モル%未満の場合、反応性(硬化性、重合性)が低下することがあり、50モル%を超える場合、ポリマーの合成の際にゲル化が起きやすく、反応の制御が難しくなる。
【0039】
(式(2)で表されるユニット)
上記ポリマーの好適態様の一つとして、めっき触媒の優れた吸着性の点から、式(2)で表されるユニット(繰り返し単位)を有するポリマーが挙げられる。該ユニットは、相互作用性基を含有するユニット(相互作用性基含有ユニット)である。
【0040】
【化5】
【0041】
式(2)中、R5は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。R5で表される置換又は無置換のアルキル基は、上述したR1〜R4で表される置換又は無置換のアルキル基と同義である。
5としては、水素原子、メチル基、又は、ヒドロキシ基若しくは臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
【0042】
X及びL2は、それぞれ独立に、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基を表す。二価の有機基の定義は、上述の通りである。
【0043】
Xとしては、好ましくは、単結合、エステル基、アミド基、エーテル基であり、より好ましくは、単結合、エステル基、アミド基であり、最も好ましくは、単結合、エステル基である。
【0044】
2は、直鎖、分岐、若しくは環状のアルキレン基、芳香族基(好ましくは芳香族炭化水素基)、又はこれらを組み合わせた基であることが好ましい態様の1つである。該アルキレン基と芳香族基とを組み合わせた基は、更に、エーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基を含んでいてもよい。中でも、L2は、総炭素数が1〜15であることが好ましく、特に無置換であることが好ましい。なお、ここで、総炭素数とは、例えば、L2で表される置換又は無置換の二価の有機基に含まれる総炭素原子数を意味する。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、及びこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシル基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等で置換されたもの、更には、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0045】
Wは、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基を表す。Wはポリマー直鎖から直接結合してもよい。つまり、前述のXおよびL2が単結合となり、Wが直接炭素原子に結合してもよい。官能基の定義は、上述の通りである。
【0046】
式(2)で表されるユニットの好適態様の一つとして、式(6)で表されるユニットが挙げられる。
【0047】
【化6】
【0048】
式(6)中、R5、X及びL2の定義は、上記式(2)中の各基と同義である。
【0049】
式(2)で表されるユニットの他の好適態様として、式(7)で表されるユニットが挙げられる。
【0050】
【化7】
【0051】
式(7)中、R5及びL2の定義は、式(2)中の各基と同義である。Qは、酸素原子、またはNR’(R’は、水素原子、またはアルキル基を表し、好ましくは、水素原子、または炭素数1〜5の無置換のアルキル基である。)を表す。
【0052】
ポリマー中における式(2)で表されるユニットの含有量は特に制限されないが、めっき触媒又はその前駆体に対する吸着性、合成のしやすさの観点から、ポリマー中の全ユニット(100モル%)に対して、20〜90モル%が好ましく、更に好ましくは30〜80モル%である。
【0053】
(任意ユニット)
上記ポリマーは、水溶液に対する親和性が向上し、現像性がより向上する点から、さらに式(3)で表されるユニットを有していてもよい。該ユニットは、イオン性極性基を有するユニットに該当する。
【0054】
【化8】
【0055】
式(3)中、R7は、水素原子、又は、置換若しくは無置換のアルキル基を表す。R7で表される置換又は無置換のアルキル基は、上述したR1〜R4で表される置換又は無置換のアルキル基と同義である。
7としては、水素原子、メチル基、又は、ヒドロキシ基若しくは臭素原子で置換されたメチル基が好ましい。
【0056】
U及びL3は、それぞれ独立して、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基を表す。二価の有機基の定義は、上述の通りである。
Uの好ましい態様は、上記Xの好ましい態様と同じである。
3の好ましい態様は、上記L2の好ましい態様と同じである。
【0057】
Vは、イオン性極性基を表し、ポリマーの水溶液への現像性を付与しうるものであれば特に限定されない。具体的には、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ボロン酸基が挙げられる。中でも、適度な酸性(他の官能基を分解しない)という点から、カルボン酸基が好ましく、電気配線として必要な低吸水性と、を両立するという観点で、特に、ポリマー主鎖に直接結合しているカルボン酸基、脂環構造と直接結合しているカルボン酸基(脂環式カルボン酸基)、ポリマー主鎖から離れたカルボン酸基(長鎖カルボン酸基)が好ましく、最も好ましくは、ポリマー主鎖に直結しているカルボン酸基である。
【0058】
このようなイオン性極性基は、ポリマーの一部に付加・置換させることで、ポリマー中に導入していてもよいし、また、イオン性極性基がペンダントされたモノマーを共重合することで、ポリマー中に導入してもよい。
【0059】
式(3)で表されるユニットにおいては、適度な酸性(他の官能基を分解しない)、アルカリ水溶液中では親水性を示し、水を乾燥すると環状構造により疎水性を示しやすいという点から、Vがカルボン酸基であり、且つ、L3のVとの連結部に4員〜8員の環構造を有することが好ましい。ここで、4員〜8員の環構造としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、フェニレン基が挙げられ、中でも、シクロヘキシル基、フェニレン基が好ましい。即ち、この態様では、式(3)で表されるユニットの末端が脂環式カルボン酸基となる。
また、式(3)で表されるユニットにおいては、適度な酸性(他の官能基を分解しない)、アルカリ水溶液中では親水性を示し、水を乾燥すると長鎖アルキル基構造により疎水性を示しやすいという点から、Vがカルボン酸基であり、且つ、L3の鎖長が6原子〜18原子であることが好ましい。ここで、L3の鎖長とは、式(3)中のUとVとの距離を表し、UとVとの間が6原子〜18原子の範囲で離間していることが好ましいことを意味する。L3の鎖長として、より好ましくは、6原子〜14原子であり、更に好ましくは、6原子〜12原子である。
【0060】
一方、式(3)で表されるユニットにおいて、Vがカルボン酸基であり、且つ、U及びL3が単結合であることも好ましい態様の1つである。この態様であると、ポリマー主鎖でカルボン酸基が遮蔽されると予想され、その結果、疎水化でき、金属パターン形成直後において、基板と金属パターンとの密着性を高めることができ、また、ポリマー層の水に対する耐性を高めることができる。
【0061】
ポリマー中における式(3)で表されるユニットの含有量は特に制限されないが、水溶液による現像性と耐湿密着性の点から、ポリマー中の全ユニット(100モル%)に対して、5〜70モル%が好ましく、更に好ましくは20〜60モル%である。特に好ましくは30〜50モル%である。この範囲にて、より現像性と耐湿密着力を両立することができる。
【0062】
ポリマー中における上述したユニットの結合様式は特に限定されず、各ユニットがランダムに結合したランダム重合体であっても、各ユニットが同じ種類同士連結してブロック部を形成するブロックポリマーであってもよい。
【0063】
本発明のポリマーは、上記ユニット以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、他のユニットを含んでいてもよい。
ただし、後述するように重合性基をポリマーに反応させて導入する場合は、100%導入することが困難な際には少量の反応性部分が残ってしまうことから、これが他のユニットとなる可能性もある。
【0064】
本発明のポリマーの好ましい態様としては、式(1)で表されるユニットと式(6)で表されるユニットとを有するポリマー、式(1)で表されるユニットと式(7)で表されるユニットとを有するポリマー、式(1)で表されるユニット、式(2)で表されるユニット、及び式(3)で表されるユニットを有するポリマーなどが挙げられる。特に、該ポリマーを使用して得られる金属パターン材料のめっき密着性や絶縁信頼性などの観点からは、式(3)で表されるユニットを実質的に含まない、式(1)で表されるユニット及び式(2)で表されるユニットを含むポリマーが好ましい。
【0065】
本発明のポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、1000以上20万以下が好ましく、更に好ましくは2000以上10万以下である。特に、インクジェット吐出安定性、重合感度、密着性の観点から、本発明のポリマーの重量平均分子量は、8000以上5万以下であることが好ましい。
また、本発明のポリマーの重合度としては、10量体以上のものを使用することが好ましく、更に好ましくは20量体以上のものである。また、2000量体以下が好ましく、1000量体以下が特に好ましい。
【0066】
<ポリマーの合成方法>
上記ポリマーの合成方法は特に限定されず、使用されるモノマーも市販品又は公知の合成方法を組み合わせて合成したものであってもよい。なお、ポリマーの合成方法としては、以下の方法が好ましく挙げられる。
i)相互作用性基を有するモノマー、及び、重合性基を有するモノマーを共重合する方法、ii)相互作用性基を有するモノマー、及び、二重結合前駆体を有するモノマーを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基を有するモノマー及び二重結合導入のための反応性基を有するモノマーを共重合させ、得られた反応性基を有するポリマーに、該反応性基と反応しうる重合性基を有するモノマーを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)する方法が挙げられる。
合成適性の観点から、好ましい方法としては、上記ii)及び上記iii)の方法である。合成する際の重合反応の種類は特に限定されず、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などが挙げられるが、ラジカル重合で行うこと好ましい。また、上記のイオン性極性基を有するユニットを導入する場合は、イオン性極性基を有するモノマーを合わせて使用する。
なお、本発明のポリマーは、特許公開2009−280905号の段落[0097]〜[0125]に記載の方法などを参照して合成することができる。
【0067】
具体的には、上記ii)の合成方法において、二重結合前駆体を二重結合に変換するには、下記に示すように、B、Cで表される脱離基を脱離反応により除去する方法、つまり、塩基の作用によりCを引き抜き、Bが脱離する反応を使用する。
なお、下記式中、Aは重合性基を有する有機団、R1〜R3は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の有機基、B及びCはそれぞれ独立して脱離反応により除去される脱離基であり、B、Cのいずれか一方が水素原子であり、他方がハロゲン原子、スルホン酸エステル基、エーテル基、又はチオエーテル基を表す。ここでいう脱離反応とは、塩基の作用によりCが引き抜かれ、Bが脱離するものである。Bはアニオンとして、Cはカチオンとして脱離するものが好ましい。
また、塩基としては、アルカリ金属類の水素化物、水酸化物又は炭酸塩、有機アミン化合物、金属アルコキシド化合物が好ましい例として挙げられる。
【0068】
【化9】
【0069】
また、上記iii)の合成方法において、二重結合導入のための反応性基を有するモノマーとしては、反応性基としてカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、又はイソシアネート基を有するモノマーが挙げられる。
また、反応性基を有するポリマーと反応させる重合性基を有するモノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、ハロゲン化ベンジル基などの反応性基を有することが好ましい。
ポリマー中の反応性基と、モノマー中の反応性基との組み合わせとしては、以下のようなパターンがある。
即ち、(ポリマーの反応性基、モノマーの反応性基)=(カルボキシル基、エポキシ基)、(カルボキシル基、イソシアネート基)、(水酸基、エポキシ基)、(水酸基、イソシアネート基)、(イソシアネート基、水酸基)、(イソシアネート基、カルボキシル基)、(エポキシ基、カルボキシル基)等を挙げることができる。
【0070】
なお、本発明のポリマーの合成方法として、側鎖にヒドロキシル基を有するポリマー、及び、イソシアネート基と重合性基とを有する化合物を用い、該ヒドロキシル基に該イソシアネート基を付加させることによりL1中のウレタン結合を形成することが好ましい。
また、本発明のポリマーの合成方法として、側鎖にカルボキシル基を有するポリマー、及び、ハロゲン化ベンジル基と重合性基とを有する化合物を用い、該カルボキシル基に該ハロゲン化ベンジル基を付加させることによりL1中のメチレン基を形成することも好ましい。
【0071】
<溶媒>
本発明のインクジェットインクには、式(A)で表される沸点の平均値を満たす溶媒類(液体類)が含有される。該溶媒は、上述したポリマーを溶解又は分散させることができる。本発明において、用いられる溶媒が所定の沸点を示すことにより、優れた連続吐出安定性や、ポリマー層の優れた形成性を示すインクを得ることができる。
【0072】
インクジェットインク中で使用される溶媒類(液体類)は、以下の式(A)で表される、沸点の平均値が150℃以上を示す。
【0073】
【数1】
【0074】
式(A)中、Wiはインクジェットインク中のi番目の溶媒の溶媒全量に対する質量比(i番目の溶媒質量/全溶媒質量)(質量分率%)を表す。
biはインクジェットインク中のi番目の溶媒の沸点(℃)(1気圧下)を表す。iは1〜nの整数を表す。
nはインクジェットインクに含有される溶媒の数を表し、具体的には、nは1以上の整数を表す。例えば、2種の溶媒を使用する場合はn=2となり、3種の溶媒を使用する場合はn=3となる。なお、nの上限は特に制限されないが、コストなどの観点より、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
式(A)中、Σは合計を表す。
【0075】
式(A)では、各溶媒の沸点値に、該溶媒の全溶媒中における質量分率を乗じて得た値を求め、それらを足した総和である。得られる値によって、インクジェット中の溶媒の揮発の程度を見積もることができる。
【0076】
より具体的には、1種の溶媒のみを使用する場合は、n=1となり、使用される溶媒の沸点値がT(b)に該当する。
また、溶媒を2種併用する場合(溶媒Xの沸点:TX、溶媒Yの沸点:TY)、T(b)は以下の式より求めることができる。
(b)={TX×(溶媒Xの質量/全溶媒質量)}+{TY×(溶媒Yの質量/全溶媒質量)}
さらに、溶媒を3種併用する場合(溶媒Xの沸点:TX、溶媒Yの沸点:TY、溶媒Zの沸点:TZ)、T(b)は以下の式より求めることができる。
(b)={TX×(溶媒Xの質量/全溶媒質量)}+{TY×(溶媒Yの質量/全溶媒質量)}+{TZ×(溶媒Zの質量/全溶媒質量)}
【0077】
本発明において、式(A)で表されるT(b)は、150℃以上を示すが、インクの連続吐出安定性、ポリマー層の形成性がより優れる点で、155℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましい。上限に関しては特に制限はないが、通常、270℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましい。
【0078】
使用される溶媒は、非重合性溶媒(非重合性液体)であっても、重合性基を含有する重合性溶媒(重合性液体)であってもよい。なお、重合性溶媒は、重合性基を有する液状モノマーを意味する。重合性溶媒は、吐出可能な粘度を有していれば特に限定されないが、溶解性の観点より、分子量300以下、重合性官能基数2以下のものが特に好ましい。
【0079】
より具体的に、使用される溶媒としては、例えば、アルデヒド系溶媒(例えば、2−アルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどの沸点180℃未満である溶媒)、エーテル系溶媒(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエチルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどの沸点180℃未満の溶媒、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどの沸点180℃以上の溶媒)、アミド系溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの沸点180℃未満の溶媒、N−メチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどの沸点180℃以上の溶媒)、アミン系溶媒(例えば、トリエチルアミン、ピリジンなどの沸点180℃未満の溶媒)、脂肪族炭化水素系溶媒(例えば、シクロヘキサン、ヘプタンなどの沸点180℃未満の溶媒)、芳香族炭化水素系溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの沸点180℃未満の溶媒、アニリン、クレソール、テトラリンなどの沸点180℃以上の溶媒)、アルコール系溶媒(例えば、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどの沸点180℃未満の溶媒、グリセロール、2−エチル−1−ヘキサノール、ベンジルアルコール、デカノールなどの沸点180℃以上の溶媒)、エステル系溶媒(例えば、エチルアセテート、プロピルアセテート、ジエチルカルボネート、エチルラクテートなどの沸点180℃未満の溶媒、2−エトキシエチルアセテート、エチルベンゾエート、プロピレンカルボネート、トリアセチンなどの沸点180℃以上の溶媒)、ケトン系溶媒(例えば、2−ブタノン、シクロヘキサノンなどの沸点180℃未満の溶媒、アセトフェノンなどの沸点180℃以上の溶媒)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリルなどの沸点180℃未満の溶媒、シアノエチルアクリレートなどの沸点180℃以上の溶媒)、ハロゲン系溶媒(例えば、トリクロロメタン、テトラクロロメタン)、硫黄系溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)、有機酸(例えば、酢酸)などが挙げられる。
なかでも、溶解性、インクジェットヘッド攻撃性、素材の選択性の観点より、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒(特に、(オリゴ)エチレングリコール誘導体、(オリゴ)プロピレングリコール誘導体)、重合性溶媒などが好ましい。
本発明では溶媒を1種のみ使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0080】
(好適態様)
使用される溶媒の好適態様の一つとして、沸点が180℃未満である溶媒A、及び、沸点が180℃以上である溶媒Bを少なくとも含有する混合溶媒が挙げられ、さらに好ましくは質量基準で溶媒Aが溶媒Bよりも多く含まれる混合溶媒が挙げられる。該混合溶媒を使用すると、優れた連続吐出安定性を保持しつつ、描画時のポリマー膜の面状が向上し、細線描画時の精度向上にも繋がる点で好ましい。
【0081】
該好適態様においては、溶媒A及び溶媒Bをそれぞれ2種以上含有していてもよい。
溶媒Aは、沸点(1気圧下)が180℃未満の溶媒を表す。溶媒Aの沸点としては、インクジェットヘッドから吐出後にいち早く揮発しインク成分を増粘させる点から、150℃以下がより好ましく、140℃以下が特に好ましい。その沸点の下限としては70℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
溶媒Bは、沸点(1気圧下)が180℃以上の溶媒を表す。溶媒Bの沸点としては、インクジェットヘッドの乾燥を抑制し、優れた連続吐出安定性を付与する点から、200℃以上がより好ましく、220℃以上が特に好ましい。その沸点の上限としては特に制限されないが、330℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0082】
溶媒Aと溶媒Bとの沸点の差は特に限定されないが、本発明の効果がより優れる点から、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。上限は特にないが、通常、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
なお、溶媒A(または溶媒B)が2種以上使用される場合は、全溶媒A量に対する各溶媒Aの質量分率に、各溶媒Aの沸点を乗じて得た値を足した値を、溶媒Aの沸点とする。溶媒Bの場合も同様である。より具体的には、各溶媒の沸点は、それぞれ下記式(B)又は式(C)で表される沸点である。
【0083】
【数2】
【0084】
式(B)中、WAiはインクジェットインク中のi番目の溶媒Aの溶媒A全量に対する質量比(i番目の溶媒A質量/全溶媒A質量)(質量分率)を表す。
Abiはインクジェットインク中のi番目の溶媒Aの沸点(℃)(1気圧下)を表す。iは1〜nAの整数を表す。
Aはインクジェットインクに含有される溶媒Aの数を表し、具体的には、nAは1以上の整数を表す。例えば、2種の溶媒Aを使用する場合はnA=2となり、3種の溶媒Aを使用する場合はnA=3となる。なお、nAの上限は特に制限されないが、コストなどの観点より、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
式(B)中、Σは合計を表す。
【0085】
式(C)中、WBiはインクジェットインク中のi番目の溶媒Bの溶媒B全量に対する質量比(i番目の溶媒B質量/全溶媒B質量)(質量分率)を表す。
Bbiはインクジェットインク中のi番目の溶媒Bの沸点(℃)(1気圧下)を表す。iは1〜nBの整数を表す。
Bはインクジェットインクに含有される溶媒Bの数を表し、具体的には、nBは1以上の整数を表す。なお、nBの上限は特に制限されないが、コストなどの観点より、5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0086】
該インクジェット中、質量基準で溶媒Aが溶媒Bよりも多く含有されることが好ましい。言い換えると、インクジェットインク中における溶媒Aと溶媒Bとの質量比(溶媒Aの質量/溶媒Bの質量)は1超が好ましい。
該質量比としては、連続吐出安定性と、描画時のポリマー膜の面状の両立の点から、2以上がより好ましい。上限としては、通常、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0087】
溶媒Bの好ましい態様としては、描画時のポリマー膜の面状良化の点から、重合性溶媒(重合性液体)が挙げられる。重合性溶媒(重合性基を有する溶媒)としては、分子量が比較的小さく、ポリマー成分への溶解性が高い分子量300以下で2官能以下のものが望ましく、更に、めっき触媒又はその前駆体と相互作用を形成する官能基(式(1)内のW基)を有する事が好ましい。
具体的には、イミド基、ピリジン基、3級のアミノ基、アンモニウム基、ピロリドン基、アミジノ基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール基、ベンズイミダゾール基、キノリン基、ピリミジン基、ピラジン基、ナゾリン基、キノキサリン基、プリン基、トリアジン基、ピペリジン基、ピペラジン基、ピロリジン基、ピラゾール基、アニリン基、アルキルアミン基構造を含む基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、シアネート基(R−O−CN)などの含窒素官能基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、N−オキシド構造を含む基、S−オキシド構造を含む基、N−ヒドロキシ構造を含む基、フェノール性水酸基、又は水酸基を含む、(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドなどが好ましい。
【0088】
<インクジェットインク>
本発明のインクジェットインクには、上記ポリマーと上記溶媒とが含まれる。該インクジェットインクは種々の用途(例えば、コーティング用インク)に使用できるが、後述するめっき触媒又はその前駆体を受容するポリマー層の形成に用いられることが好ましい。つまり、ポリマー層形成用インクジェットインクとして使用されることが好ましい。
インクジェットインク中におけるポリマーの含有量は特に制限されないが、連続吐出安定性がより優れる点で、インク全量に対して、0.5〜25質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、4〜15質量%がさらに好ましい。
インクジェットインク中における上記溶媒の含有量は特に制限されないが、連続吐出安定性により優れる点で、インク全量に対して、70〜99質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましく、85〜96質量%がさらに好ましい。
【0089】
(任意成分)
本発明のインクジェットインク中には、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、ラジカル発生剤などを含有していてもよい。
【0090】
(界面活性剤)
本発明のインクジェットインクは、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含む場合、インクジェット吐出安定性、着弾時のレベリング性の点で好ましい。
界面活性剤の例として、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アンモニウムイオンを対イオンとするアニオン系界面活性剤、有機酸アニオンを対イオンとするカチオン系界面活性剤などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキルのベタイン類が挙げられる。アンモニウムイオンを対イオンとするアニオン系界面活性剤としては、例えば、長鎖アルキル硫酸アンモニウム塩、アルキルアリール硫酸アンモニウム塩、アルキルアリールスルホン酸アンモニウム塩、アルキルリン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸系高分子のアンモニウム塩などが挙げられる。
【0091】
インクジェットインク中の界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、インク全量に対して、0質量%以上5質量%以下が好ましく、0.01〜2質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、インクの他物性を損ねること無く、好ましい表面張力を得られる点で好ましい。
【0092】
(ラジカル発生剤)
本発明のインクジェットインクは、上記ポリマー中の重合性基の反応を促進する目的で、ラジカル発生剤(重合開始剤)を含有していてもよい。ラジカル発生剤は、ポリマーの種類にあわせて選択することができ、光ラジカル発生剤、熱ラジカル発生剤などが挙げられる。
なかでも、オキシムエステル類、アシルホスフィンオキサイド類、α―ヒドロキシアルキルケトン類、ロフィンダイマー類、及びトリハロメチルトリアジン類からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0093】
ラジカル発生剤の含有量は、インク全量に対して、0〜5質量%が好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。含有量が上述の範囲内であると、より良好な感度と強固な硬化部を形成することができる。
【0094】
(インクジェットインクの製造方法)
本発明のインクジェットインクの製造には、公知のインクジェットインクの製造方法を適用することが可能である。例えば、溶媒中に上記ポリマーを溶解させた後、任意成分(例えば、界面活性剤、ラジカル発生剤)を溶解させてインクジェットインクを調製することができる。
【0095】
<インクジェットインクの物性値>
本発明のインクジェットインクの物性値としては、インクジェットヘッドで吐出可能な範囲であれば特に限定されないが、インク粘度は安定吐出の観点から、25℃において50mPa・s以下であることが好ましく、2〜20mPa・sであることがより好ましく、2〜15mPa・sであることが特に好ましい。また、装置で吐出する際には、インクジェットインクの温度を20〜80℃の範囲でほぼ一定温度に保持することが好ましく、該温度範囲で粘度が20mPa・s以下となることがより好ましい。装置の温度を高温に設定すると、インクの粘度が低下し、より高粘度のインクを吐出可能となる。しかし、温度が高くなることにより、熱によるインクの変性や熱重合反応がヘッド内で発生したり、インクを吐出するノズル表面で溶剤が蒸発したりして、ノズル詰まりが起こりやすくなる為、50℃以下である事が好ましい。
【0096】
なお、上記粘度は、一般に用いられるE型粘度計(例えば、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いることにより測定される値である。
【0097】
また、インクジェットインクの25℃の表面張力(静的表面張力)としては、非浸透性の基板に対する濡れ性の向上、及び吐出安定性の点で、20〜40mN/mが好ましく、20〜35mN/mがより好ましい。
【0098】
上述の表面張力は、一般的に用いられる表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、表面張力計FACE SURFACE TENSIOMETER CBVB−A3など)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃、60%RHにて測定される値である。
【0099】
<表面金属膜材料、及びその製造方法>
次に、本発明のインクジェットインクを用いた表面金属膜材料の製造方法について説明する。本発明の表面金属膜材料の製造方法は特に限定されないが、以下の(1)〜(3)の工程を経て製造されることが好ましい。
(1)インクジェット方式により上記インクジェットインクを基板上に付与(吐出)して、加熱又は露光により付与されたインクを硬化してポリマー層を形成する層形成工程
(2)ポリマー層にめっき触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
(3)めっきを行い、ポリマー層上に金属膜を形成するめっき工程
ここで、(1)工程が、基板上に、上述したポリマーを直接化学結合させることにより行われることが好ましい。
以下、各工程について説明する。
【0100】
<層形成工程>
該工程は、上記インクジェットインクをインクジェット方式により基板上に付与して、インクを硬化させる工程である。該工程においては、ポリマー層中のポリマーが重合性基により基板に直接結合していることが好ましい態様である。
【0101】
インクジェット方式は、液体吐出孔から記録信号(デジタルデータ)に応じたピコリットルオーダーの液体を基材に向けて吐出させパターンを形成させるものであり、微細なパターン形成に優れた方法である。
該工程で使用されるインクジェット方式は特に限定されず、帯電したインクジェットインクを連続的に噴射し電場によって制御する方法、圧電素子を用いて間欠的にインクジェットインクを噴射する方法、インクジェットインクを加熱してその発泡を利用して間欠的に噴射する方法等の、各種の従来公知の方法を採用できる。つまり、インクジェット描画は、ピエゾインクジェット方式や、熱インクジェット方式等、従来公知のいずれの方式によって行なってもよい。また、通常のインクジェット描画装置はもちろん、ヒーター等を搭載した描画装置なども使用できる。
使用されるインクジェットヘッドとしては、コンティニュアス型やオンデマンド型のピエゾ方式、サーマル方式、ソリッド方式、静電吸引方式等の種々の方式のインクジェットヘッド(吐出ヘッド)を用いることができる。また、インクジェットヘッドの吐出部(ノズル)は、単列配置に限定されず、複数列としても千鳥格子状に配置としてもよい。
【0102】
上記インクジェット方式により、本発明のインクを基板上のポリマー層を形成すべき場所に滴下(吐出)する。このとき、基板の全面に滴下してもよいし、所望のパターン状に滴下してもよい。
吐出した後、溶媒の除去を行うため、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。このような乾燥処理は、例えば、ホットプレート、電気炉などによる処理の他、ランプアニールによって行うこともできる。
【0103】
(加熱又は露光)
次に、基板上に着弾したインクを、加熱又は露光により硬化する。パターン像の形成容易性の観点からは、露光が好ましい。
露光には、UVランプ、可視光線などによる光照射等が用いられる。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。
具体的な態様としては、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光、赤外線ランプ露光などが好適に挙げられる。露光時間としては、ポリマーの反応性及び光源により異なるが、通常、10秒〜5時間の間である。露光エネルギーとしては、使用される材料によって適宜選択されるが、30〜1500mW/cm2が好ましい。
なお、加熱を用いる場合、送風乾燥機、オーブン、赤外線乾燥機、加熱ドラムなどを用いることができる。温度条件は特に限定されないが、通常、100〜300℃で、5〜120分間の加熱条件で行われる。
上記のような加熱又は露光といったエネルギー付与が行われると、インクが付与された領域でのみポリマーの硬化反応が生起する。
【0104】
形成されるポリマー層の厚みは特に制限されないが、後述する金属膜との密着性がより優れるという観点から、0.1μm超10μm以下が好ましく、0.3〜5μmがより好ましい。
【0105】
(基板)
本工程で用いられる基板としては、形状保持性を有するものであればよく、その表面が、上述のポリマーと化学結合しうる機能を有することが好ましい。具体的には、基板自体が露光によりラジカルを発生しうるものであるか、基材上に、露光によりラジカルを発生しうる中間層(例えば、後述する密着補助層)を設け、この基材と中間層とで基板が構成されていてもよい。
【0106】
(基材、基板)
本発明に使用される基材は、寸度的に安定な板状物であることが好ましく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリイミド、エポキシ、ビスマレインイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等)、上記の如き金属がラミネート又は蒸着された、紙又はプラスチックフィルム等が含まれる。本発明に使用される基材としては、エポキシ樹脂、又はポリイミド樹脂が好ましい。
なお、これらの基材表面が、ポリマーが直接化学結合した状態を形成しうる機能を有している場合には、その基材そのものを基板として用いてもよい。
【0107】
また、本発明の金属パターン材料の作製方法により得られた金属パターン材料は、半導体パッケージ、各種電気配線基板等に適用することができる。このような用途に用いる場合は、絶縁性樹脂を含んだ基板、具体的には、絶縁性樹脂からなる基板、又は、絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板を用いることが好ましい。
【0108】
絶縁性樹脂からなる基板、絶縁性樹脂からなる層を得る場合には、公知の絶縁性樹脂組成物が用いられる。この絶縁性樹脂組成物には、主たる樹脂に加え、目的に応じて種々の添加物を併用することができる。例えば、絶縁層の強度を高める目的で、多官能のアクリレートモノマーを添加する、絶縁体層の強度を高め、電気特性を改良する目的で、無機、又は有機の粒子を添加する、などの手段をとることもできる。
なお、本発明における「絶縁性樹脂」とは、公知の絶縁膜や絶縁層に使用しうる程度の絶縁性を有する樹脂であることを意味するものであり、完全な絶縁体でないものであっても、目的に応じた絶縁性を有する樹脂であれば、本発明に適用しうる。
絶縁性樹脂としては、例えば、特開2008−108791号公報の段落[0024]〜[0025]に記載の樹脂を使用することができる。
【0109】
(密着補助層)
上述した基板と、その上に形成されるポリマー層との密着性を向上させる目的で、以下に示す密着補助層を形成することもできる。密着補助層は、基板とポリマー層との密着を確保する中間層であり、この層は基板とポリマー層に親和性があるものでもよく、硬化時にポリマーと反応し、化学結合を形成してもよい。
基材が板状物であれば、その両面に密着補助層を形成してもよい。密着補助層としては、上記ポリマーと光硬化時に化学結合を生じるものが好ましい。このような化学結合を生じる密着補助層には、光開始剤を導入することが好ましい。また、密着補助層は作業性の観点から水分散ラテックスを用いて形成されることも好ましい。
【0110】
密着補助層としては、基材との密着性が良好な樹脂組成物、及び、露光によりラジカルを発生しうる化合物(ラジカル発生剤)を用いて形成されることが好ましい。なお、該樹脂組成物を構成する樹脂が、ラジカルを発生しうる部位を有する場合には、ラジカルを発生しうる化合物を別途添加する必要はない。
【0111】
本発明における密着補助層としては、例えば、基材が、多層積層板、ビルドアップ基板、又はフレキシブル基板の材料として用いられてきた公知の絶縁樹脂からなる場合には、該基材との密着性の観点から、密着補助層を形成する際に用いられる樹脂組成物としても、絶縁樹脂組成物が用いられることが好ましい。
以下、基材が絶縁樹脂からなり、密着補助層が絶縁樹脂組成物から形成される態様について説明する。
【0112】
密着補助層を形成する際に用いられる絶縁樹脂組成物は、基材を構成する電気的絶縁性の樹脂と同じものを含んでいてもよく、異なっていてもよいが、ガラス転移点や弾性率、線膨張係数といった熱物性的が近いものを使用することが好ましい。具体的には、例えば、基材を構成する絶縁樹脂と同じ種類の絶縁樹脂を使用することが密着の点で好ましい。
【0113】
なお、本発明において、密着補助層に使用される絶縁樹脂とは、公知の絶縁膜に使用しうる程度の絶縁性を有する樹脂を意味するものであり、完全な絶縁体でないものであっても、目的に応じた絶縁性を有する樹脂であれば、本発明に適用しうる。
絶縁樹脂の具体例としては、例えば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもまたそれらの混合物でもよく、例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、イソシアネート系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルエーテル、ポリエーテルイミド、ABS樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0114】
また、密着補助層に用いられる絶縁樹脂としては、上記のポリマーと相互作用を形成し得る活性点を発生させる骨格を有する樹脂を用いることもできる。
密着補助層の形成には、ポリマーラテックスを使用してもよい。ポリマーラテックスとは、水に不溶なポリマーの微粒子が水に分散したものである。
【0115】
また、本発明における密着補助層には、必要に応じて各種添加剤(ゴム、SBRラテックスのような物質、膜性改良のためのバインダー、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、着色剤、難燃剤、接着性付与剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など)を加えてもよい。
【0116】
密着補助層には、前述のように、樹脂組成物と露光によりラジカルを発生しうる化合物(ラジカル発生剤)が含まれることが好ましい。ここで、露光によりラジカルを発生しうる化合物としては、従来公知の光重合開始剤が用いられる。
光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類;4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−エチルチオキサントンなどのケトン類;ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタールなどのベンジルケタール類;トリフェニルスルホニウムクロライドなどのスルホニウム塩、ジフェニルヨードニウムクロライドなどのヨードニウム塩などが挙げられる。
【0117】
密着補助層の厚みは、一般に、0.1μm〜10μmの範囲であり、0.2μm〜5μmの範囲であることが好ましい。密着補助層を設ける場合、厚みが上記一般的な範囲であれば、隣接する基材や、ポリマー層との十分な密着強度が得られる。
【0118】
また、密着補助層の表面は、形成されるめっき金属膜の物性を向上させる観点から、JIS B 0601(1994年)、10点平均高さ法で測定した表面粗さRzが500nm以下であるものが好ましく、Rzが100nm以下であることがより好ましい。密着補助層の表面平滑性が上記値の範囲内、即ち、平滑性が高い状態であれば、回路が極めて微細な(例えば、ライン/スペースの値が25/25μm以下の回路パターン)プリント配線板を製造する際に、好適に用いられる。
【0119】
密着補助層は基材表面に、塗布法、転写法、印刷法などの公知の層形成方法を適用して形成される。密着補助層は、所望により、印刷法や、現像法などでパターン化されてもよい。
【0120】
<触媒付与工程>
本工程では、上記工程において形成されたポリマー層に、めっき触媒又はその前駆体を付与する工程である(触媒付与工程)。本工程においては、ポリマー層を構成するグラフトポリマーが有する相互作用性基が、その機能に応じて、付与されためっき触媒又はその前駆体を付着(吸着)する。
ここで、めっき触媒又はその前駆体としては、後述するめっき工程における、めっきの触媒や電極として機能するものが挙げられる。そのため、めっき触媒又はその前駆体は、めっき工程におけるめっきの種類により決定される。
なお、ここで、本工程において用いられるめっき触媒又はその前駆体は、無電解めっき触媒又はその前駆体であることが好ましい。
【0121】
(無電解めっき触媒)
本発明において用いられる無電解めっき触媒は、無電解めっき時の活性核となるものであれば、如何なるものも用いることができる。具体的には、自己触媒還元反応の触媒能を有する金属(例えば、Niよりイオン化傾向の低い無電解めっきできる金属として知られるもの)などが挙げられ、具体的には、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、触媒能の高さから、Pdが特に好ましい。
この無電解めっき触媒は、金属コロイドとして用いてもよい。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができる。
【0122】
(無電解めっき触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には、上記無電解めっき触媒として挙げた金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンをポリマー層へ付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0123】
実際には、無電解めっき前駆体である金属イオンは、金属塩を用いてポリマー層上に付与される。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO3)n、MCl、M2/n(SO4)、M3/n(PO4)Pd(OAc)n(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、配位可能な官能基の種類数、及び触媒能の点で、Pdイオンが好ましい。
【0124】
本発明で用いられるめっき触媒又はその前駆体の好ましい例の一つとして、パラジウム化合物が挙げられる。このパラジウム化合物は、めっき処理時に活性核となり金属を析出させる役割を果たす、めっき触媒(パラジウム)又はその前駆体(パラジウムイオン)として作用する。パラジウム化合物としては、パラジウムを含み、めっき処理の際に核として作用すれば、特に限定されない。例えば、パラジウム塩、パラジウム(0)錯体、パラジウムコロイドなどが挙げられる。
【0125】
めっき触媒である金属、又は、めっき前駆体である金属塩をポリマー層に付与する方法としては、金属を適当な分散媒に分散した分散液、又は、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その分散液若しくは溶液をポリマー層上に塗布するか、又は、その分散液若しくは溶液中にポリマー層が形成された基板を浸漬すればよい。
【0126】
また、本発明のポリマーと、めっき触媒又はその前駆体とを含有する組成物を基板上に接触させて、所定のエネルギーを付与(加熱又は露光)することにより、相互作用性基を有し、且つ、基板と直接化学結合したポリマーと、めっき触媒又はその前駆体とを含有するポリマー層を形成することができる。なお、この方法を用いれば、膜形成工程と触媒付与工程とが1工程で行えることになる。
【0127】
上記のようにめっき触媒又はその前駆体を接触させることで、ポリマー層中の相互作用性基に、ファンデルワールス力のような分子間力による相互作用、又は、孤立電子対による配位結合による相互作用を利用して、めっき触媒又はその前駆体を吸着させることができる。
このような吸着を充分に行なわせるという観点からは、分散液、溶液、組成物中の金属濃度、又は溶液中の金属イオン濃度は、0.001〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.005〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、30秒〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0128】
(有機溶剤)
めっき触媒又はその前駆体を含有する液(めっき触媒液)には、有機溶剤を含有することができる。この有機溶剤を含有することで、ポリマー層に対するめっき触媒又はその前駆体の浸透性が向上し、相互作用性基に効率よくめっき触媒又はその前駆体を吸着させることができる。
めっき触媒液の調製に用いられる溶剤としては、ポリマー層に浸透しうる溶剤であれば特に制限は無いが、めっき触媒液の主たる溶媒(分散媒)として一般に水が用いられることから、以下に詳述する水溶性の有機溶剤が好ましい。
【0129】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤としては、水に1質量%以上溶解する溶剤であれば、特に限定されない。例えば、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、アミン系溶剤、チオール系溶剤、ハロゲン系溶剤などの水溶性の有機溶剤が挙げられる。
【0130】
(その他の触媒)
本発明において、後述のめっき工程において、ポリマー層に対して、無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、中でも、多座配位可能なものが好ましく、特に、相互作用性基(シアノ基)に対する吸着(付着)性、触媒能の高さから、Pd、Ag、Cuが好ましい。
【0131】
以上説明した触媒付与工程を経ることで、ポリマー層中の相互作用性基とめっき触媒又はその前駆体との間に相互作用を形成することができる。めっき触媒が付与されたポリマー層は、めっき処理が施されるめっき受容性層として用いられる。
【0132】
<めっき工程>
本工程は、めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、めっき処理を施すことで、めっき膜(金属膜)を形成する工程である。形成されためっき膜は、優れた導電性、及びポリマー層との間で優れた密着性を有する。
本工程において行われるめっきの種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、上記触媒付与工程において、ポリマー層との間に相互作用を形成しためっき触媒又はその前駆体の機能によって、適宜選択することができる。つまり、本工程では、めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、電気めっきを行ってもよいし、無電解めっきを行ってもよい。
中でも、本発明においては、ポリマー層中に発現するハイブリッド構造の形成性及び密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚のめっき層を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。以下、本工程において好適に行われるめっき処理について説明する。
【0133】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
また、無電解めっき触媒前駆体が付与された基板を、無電解めっき触媒前駆体がポリマー層に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬される。この場合には、無電解めっき浴中において、めっき触媒前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
なお、無電解めっき触媒前駆体の還元は、上記のような無電解めっき液を用いる態様とは別に、触媒活性化液(還元液)を準備し、無電解めっき前の別工程として行うことも可能である。触媒活性化液は、無電解めっき触媒前駆体(主に金属イオン)を0価金属に還元できる還元剤を溶解した液で、還元剤の濃度は液全量に対して0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%が好ましい。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボランのようなホウ素系還元剤、ホルムアルデヒド、次亜リン酸などの還元剤を使用することが可能である。
【0134】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、溶剤の他に、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、公知の添加物が含まれていてもよい。
【0135】
めっき浴に用いられる有機溶剤としては、水に可能な溶媒である必要があり、その点から、アセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類が好ましく用いられる。
【0136】
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCuSO4、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤、トリアルカノールアミンなどが含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH3)4)Cl2、還元剤としてNH3、H2NNH2、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0137】
このようにして形成される無電解めっきによるめっき膜(金属膜)の膜厚は、めっき浴の金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、又は、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性、密着性の観点からは、0.2〜2.0μmであることが好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0138】
以上のようにして得られた無電解めっきによるめっき膜は、SEMによる断面観察により、ポリマー層中に無電解めっき触媒やめっき金属からなる微粒子がぎっしりと分散しており、更にポリマー層上にめっき金属が析出していることが確認された。基板とめっき膜との界面は、ポリマーと微粒子とのハイブリッド状態であるため、基板(有機成分)と無機物(触媒金属又はめっき金属)との界面が平滑(例えば、凹凸差が500nm以下)であっても、密着性が良好となる。
【0139】
(電気めっき(電解めっき))
本工程おいては、触媒付与工程において付与されためっき触媒又はその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対して、電気めっきを行うことができる。
また、前述の無電解めっきの後、形成されためっき膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これにより基板との密着性に優れた無電解めっき膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属膜を目的に応じた厚みに形成しうるため、本発明の金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0140】
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0141】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、又は電流密度などを調整することで制御することができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、1.0〜30μmであることが好ましい。
【0142】
本発明において、前述のめっき触媒、めっき触媒前駆体に由来する金属や金属塩、及び/又は、無電解めっきにより、ポリマー層中に析出した金属が、該層中でフラクタル状の微細構造体として形成されていることによって、金属膜とポリマー層との密着性を更に向上させることができる。
【0143】
<表面金属膜材料>
本発明の表面金属膜材料の製造方法の各工程を経ることで、基板とポリマー層と金属膜とを有する本発明の表面金属膜材料を得ることができる。
本発明の表面金属膜材料の製造方法により得られた表面金属膜材料は、高温高湿下であっても、金属膜の密着力の変動が少ないといった効果を有する。この表面金属膜材料は、例えば、電磁波防止膜、コーティング膜、2層CCL(Copper Clad Laminate)材料、電気配線用材料、装飾材料等の種々の用途に適用することができる。
【0144】
<金属パターン材料、及びその製造方法>
上記の表面金属膜材料における金属膜を、パターン状にエッチングする工程を行うことで、金属パターン材料を製造することができる。即ち、本発明の表面金属膜材料中の金属膜(めっき膜)をパターニングすることで配線(金属パターン)とすることができる。
このエッチング工程について以下に詳述する。
【0145】
<エッチング工程>
本工程は、上記めっき工程で形成された金属膜(めっき膜)をパターン状にエッチングする工程である。即ち、本工程では、基板表面全体に形成された金属膜の不要部分をエッチングで取り除くことで、所望の金属パターンを形成することができる。
この金属パターンの形成には、如何なる手法も使用することができ、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディティブ法が用いられる。
【0146】
サブトラクティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液で金属膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すればよい。作業の操作上、湿式エッチングが装置などの簡便性の点で好ましい。エッチング液として、例えば、塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
【0147】
また、セミアディティブ法とは、形成された金属膜上にドライフィルムレジスト層を設け、パターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気めっきを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングを実施し、金属膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジスト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気めっき手法としては上記記載の手法が使用できる。
以上の工程を経ることにより、所望の金属パターンを有する金属パターン材料が製造される。
【0148】
一方、膜形成工程で得られるポリマー層をパターン状に形成し、パターン状のポリマー層に対し、触媒付与工程及びめっき工程を行うことで、金属パターン材料を製造することもできる。
膜形成工程で得られるポリマー層をパターン状に形成する方法としては、具体的には、インクジェット方式により基板上にパターン状にインクを吐出して、加熱又は露光により該インクを硬化させればよい。
【0149】
<金属パターン材料>
本発明の金属パターン材料を構成するポリマー層は、吸水性が低く、疎水性が高いため、このポリマー層の露出部(金属パターンの非形成領域)は、絶縁信頼性に優れる。
本発明の金属パターン材料は、表面(密着補助層がある場合、該層上の凹凸)の凹凸が500nm以下(より好ましくは100nm以下)の基板上の全面又は局所的に、金属膜(めっき膜)を設けたものであることが好ましい。また、基板と金属パターンとの密着性が0.2kN/m以上であることが好ましい。即ち、基板表面が平滑でありながら、基板と金属パターンとの密着性に優れることを特徴とする。
【0150】
なお、基板表面の凹凸は、基板を基板表面に対して垂直に切断し、その断面をSEMにより観察することにより測定した値である。
より詳細には、JIS B 0601に準じて測定したRz、即ち、「指定面における、最大から5番目までの山頂のZデータの平均値と、最小から5番目までの谷底の平均値との差」で、500nm以下であることが好ましい。
また、基板と金属膜との密着性の値は、金属膜(金属パターン)の表面に、銅板(厚さ:0.1mm)をエポキシ系接着剤(アラルダイト、チバガイギー製)で接着し、140℃で4時間乾燥した後、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行うか、又は、金属膜自体の端部を直接剥ぎ取り、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行って得られた値である。
【0151】
<配線基板>
本発明の金属パターン材料の製造方法により得られた金属パターン材料は、例えば、半導体チップ、各種電気配線板、FPC、COF、TAB、アンテナ、多層配線基板、マザーボード、等の種々の用途に適用することができる。
なかでも、本発明の金属パターン材料の製造方法により製造された金属パターンを配線として有する配線基板は、平滑な基板との密着性に優れた配線が形成でき、高周波特性も良好であるとともに、微細な高密度配線であっても、配線間の絶縁信頼性に優れる。
本発明における配線基板を多層配線基板として構成する場合、金属パターン材料の表面に、さらに絶縁樹脂層(層間絶縁膜)を積層して、その表面にさらなる配線(金属パターン)を形成してもよく、又は、金属パターン材料表面にソルダーレジストを形成してもよい。
【0152】
本発明に用いうる層間絶縁膜としては、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂など挙げられる。
これらの中でも、上述したポリマー層との密着性、寸法安定性、耐熱性、電気絶縁性等の観点から、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、又は液晶樹脂を含有するものであることが好ましい。
【0153】
また、金属パターン材料表面における配線保護のために用いられるソルダーレジストとしては、公知の材料を使用でき、例えば、特開平10−204150号公報や、特開2003−222993公報等に詳細に記載される。ソルダーレジストは市販品を用いてもよく、具体的には、例えば、太陽インキ製造(株)製PFR800、PSR4000(商品名)、日立化成工業(株)製SR7200G、などが挙げられる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」「部」は質量基準である。
なお、後述する重量平均分子量の測定は、ポリマーをNMPに溶解させ、東ソー(株)製高速GPC(HLC−8220GPC)を用いて行った。なお、分子量はポリスチレン換算で計算した。また、ポリマーの構造は、1H−NMR(ブルカー製 400MHz)を用いて特定した。
【0155】
(合成例1:ポリマーP−1)
300mlの三口フラスコに、ジエチレングリコールジアセテート20gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3.77g、2−シアノエチルメタクリレート16.15g、及びV−601(和光純薬製)0.0668gのジエチレングリコールジアセテート20g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応液を冷却した。
上記の反応液に、ジターシャリーブチルハイドロキノン0.15g、U−600(日東化成製)0.29g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)8.82g、及びジエチレングリコールジアセテート27.82gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応液にメタノール1.86gを加え、更に1.5時間反応を行った。反応終了後、水で再沈を行い、固形物を取り出し、ポリマーP−1(重量平均分子量2.6万)を10g得た。なお、化学式中の数値は、各ユニット(繰り返し単位)のモル%を表す。
【0156】
【化10】
【0157】
(合成例2:ポリマーP−2)
300mlの三口フラスコに、ターシャリーブチルアミン(アルドリッチ社製)73g、水7.3gを入れ、反応液を45℃まで加熱した。そこへ、アクリロニトリル(和光純薬製)53gを滴下した。滴下終了後、3時間反応させた後、減圧蒸留にてN−ターシャリーブチル−シアノエチルアミンを81g得た。
次に、300mlの三口フラスコに、N−ターシャリーブチル−シアノエチルアミン80g、酢酸エチル500gを入れ、反応液を5℃まで冷却した。そこへ、アクリロイルクロライド(東京化成工業(株)製)43gを滴下した。滴下終了後、反応液を室温に戻し、3時間反応させた。その後、反応物を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を重曹水、塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで1晩乾燥させた。その後、エバポレーションにより酢酸エチルを揮発させて粗生成物を得て、イソプロピルアルコールにて再結晶し、N−ターシャリーブチル−シアノエチルアクリルアミドを44g得た。
【0158】
次に、300mlの三口フラスコに、ジメチルカーボネート22gを入れ、窒素気流下、65℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業(株)製)3.72g、N−ターシャリーブチル−シアノエチルアクリルアミド25.63g、及びV−65(和光純薬製)0.397gのジメチルカーボネート22g溶液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を更に3時間撹拌した。その後、室温まで反応液を冷却した。
上記の反応液に、TEMPO(東京化成工業(株)製)0.093g、U−600(日東化成工業(株)製)0.277g、カレンズAOI(昭和電工(株)製)8.4g、及びジメチルカーボネート8.4gを加え、45℃、6時間反応を行った。その後、反応液に、水を1.1g加え、更に1.5時間反応を行った。反応終了後、酢酸エチル/ヘキサン=1/3で再沈を行い、固形物を取り出し、本発明のポリマーP−2(重量平均分子量:2.3万)を10g得た。
ポリマーP−2の構造の同定は、ポリマーをd−DMSOに溶解させ、50℃に加温した状態で1H−NMR(ブルカー製 400MHz)で確認した。なお、化学式中の数値は、各ユニット(繰り返し単位)のモル%を表す。
【0159】
【化11】
【0160】
(合成例3:ポリマーP−3)
500mLの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド9.4gを入れ、窒素気流下、65℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成製):5.8g、アクリロニトリル(東京化成工業(株)製)3.8g、アクリル酸(東京化成工業(株)製)9.0g、V−65(和光純薬工業(株)製)0.5gのN,N−ジメチルアセトアミド9.4g溶液を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、反応液を更に3時間撹拌した。その後、N,N−ジメチルアセトアミド56gを加え、室温まで反応液を冷却した。上記の反応液に、カレンズMOI7.6g、U−600(日東化成製)0.2g、TEMPO(東京化成工業(株)製)0.08gを加え、45℃に加熱し6時間反応させた。その後、反応液にメタノール1.6gを加え、1.5時間反応させた。反応終了後、水で再沈を行い、固形物を取り出し、ポリマーP−3(重量平均分子量:4.2万)を14g得た。なお、化学式中の数値は、各ユニット(繰り返し単位)のモル%を表す。
【0161】
【化12】
【0162】
(合成例4:ポリマーP−4)
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)30gをN,N−ジメチルアセトアミド200mLに溶解し、2−エチル−4−エチル−イミダゾール0.9g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン50mg、下記構造のモノマーA27gを添加し、窒素気流下、100℃、5時間反応させた。
その後、反応液を50gとり、氷浴中で4N NaOHを11.6mL加えた。その後、酢酸エチルで再沈を行い、濾取後に水で洗浄、乾燥し、ポリマーP−4(重量平均分子量:3.1万)を得た。なお、化学式中の数値は、各ユニット(繰り返し単位)のモル%を表す。
【0163】
【化13】
【0164】
【化14】
【0165】
(合成例5:ポリマーP−5)
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)18gをDMAc(ジメチルアセトアミド)300gに溶解し、そこにハイドロキノン0.41gと2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート19.4gとジブチルチンジラウレート0.25gとを添加し、65℃で4時間反応させた。得られたポリマーの酸価は7.02meq/gであった。1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でカルボキシル基を中和し、酢酸エチルに加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄し、ポリマーP−5(重量平均分子量:3.6万)を得た。なお、化学式中の数値は、各ユニット(繰り返し単位)のモル%を表す。
【0166】
【化15】
【0167】
<インクジェットインクの製造>
上記で合成されたポリマーP−1〜P−5を用いて、下記表1の組成比に従って、インクジェットインクを製造した。
インク調製に用いた各材料の詳細を以下に示す。
(溶媒)
・2−ブタノン(沸点:80℃)
・アセトニトリル(沸点:82℃)
・エチルラクテート(沸点:154℃)
・シクロヘキサノン(沸点:156℃)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:213℃)
・炭酸プロピレン(沸点:242℃)
・トリアセチン(沸点:260℃)
・2−シアノエチルアクリレート(沸点:300℃超)
・グリセロール(沸点:290℃)
・蒸留水(沸点:100℃)
・ジメチルスルホキシド(沸点:189℃)
【0168】
(界面活性剤)
・BYK−323(ビックケミー社製)
・F−781F(DIC社製)
(重合開始剤)
・IRGACURE379(チバスペシャルティケミカルズ社製)
・IRGACURE819(チバスペシャルティケミカルズ社製)
【0169】
<粘度、表面張力の測定>
上記で調製されたインクの粘度、及び、表面張力を測定した。インク粘度は、得られたインクを25℃に調温したまま、東機産業(株)製E型粘度計(RE−80L)を用いて以下の条件で測定した。結果を表1に示す。
(測定条件)
・使用ロータ:1° 34’×R24
・測定時間 :2分間
・測定温度 :25℃
【0170】
表面張力は、得られたインクを25℃に調温したまま、協和界面科学(株)製表面張力計(FACE SURFACE TENSIOMETER CBVB−A3)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0171】
表1中の溶媒沸点は、下記式(A)で表される溶媒の沸点の平均値(T((b))を指す。
【0172】
【表1】
【0173】
<連続吐出安定性>
上記で調製したインクを用いて、以下の方法に従って連続吐出安定性について評価した。
具体的には、富士フイルムDimatix社製インクジェットプリンターDMP−2831を用い、10ノズルを使用して4kHzの周波数で各インクの吐出を行い、20分後に10ノズル全てで異常なく吐出がされている場合を「◎」、1〜2ノズルにおいて不吐出又は飛翔曲がりが生じている場合を「○」、3〜5ノズルにおいて不吐出又は飛翔曲がりが生じている場合を「△」、6ノズル以上で不吐出又は飛翔曲がりが生じている場合、又は、すべてのノズルで吐出開始自体が不可能な場合を「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0174】
<ポリマーパターン形成性>
上記で調製したインクを用いて、以下の方法に従ってポリマーパターン形成性について評価した。
富士フイルムDimatix社製インクジェットプリンターDMP−2831を用いて、ノズルより各インクを吐出して、線幅100μm、線幅70μm、又は線幅40μmの3種の線幅において、長さ5cmの直線パターンを描画し、乾燥工程、露光工程を行った時に、ポリマーパターンが断線していない場合を「○」、断線は観察されないが、線幅が1.3倍以上、2倍未満に変化している場合を「△」、途中で断線している場合、線幅が2倍以上に太くなり、長さが減少してしまう場合を「×」と評価した。
また、上記線状パターンの他、10mm□(10mm×10mm)のベタパターンの描画も行い、ほぼ寸法通りに描画されている場合を「○」、液滴が濡れ拡がり、辺幅が1.3倍以上2倍未満に成ってしまう場合、又は、液滴が引けて、辺幅が0.5倍以上、0.8倍未満に減少してしまう場合を「△」、著しく濡れ拡がり、辺幅が2倍以上に拡がってしまう場合、また、液滴が引けて、辺幅が0.5倍未満に減少してしまう場合を「×」とした。
これらパターン形成性においては、上記評価基準において「×」が含まれないことが必要である。
なお、乾燥工程の条件は、80℃にて5分間乾燥を行った。また、露光工程では、メタルハライド光源露光機:U―0272(GS YUASA社製)を用いて、発光波長全体の光量累計が2000mJ/cm2の露光を行った。結果を表2に示す。
【0175】
【表2】
【0176】
表2の結果より、本発明のインクジェットインクにおいては、優れた連続吐出安定性及びポリマーパターン形成性を示すことが確認された。
一方、所定の重量平均沸点を示さない比較インク1〜3においては、これらの二つの性能を満足できなった。特に、特表2009−503806号公報の実施例欄で使用されるインクと同じ組成を有する比較インク3では、連続吐出安定性およびポリマーパターン形成性の両者において劣る結果となった。
【0177】
<表面金属膜材料の製造>
[基板の作製]
ガラスエポキシ基板上に、密着補助層として7質量%のABS樹脂(Aldrich社製)のシクロヘキサン溶液をスピンコート法(条件:250rpmで5秒、その後、750rpmで20秒)にて塗布し、乾燥して基板を得た。密着補助層の厚みは2.4μmで、表面粗さRzは0.4μmであった。
【0178】
[ポリマー層の作製]
上記で調製したインクを用いて、以下の方法に従ってポリマー層を作製した。
富士フイルムDimatix社製インクジェットプリンターDMP−2831を用いて、ノズルより各インクを吐出して、50mm□(50mm×50mm)のベタパターンを描画し、乾燥工程、露光工程を行った。なお、乾燥、露光の条件は先に記載の条件と同様である。得られたポリマー層は基板(特に、密着補助層)と直接結合しており、その層の厚みは表3に示す。また、インク吐出時のインクジェットヘッド温度(吐出を行う温度)は25℃であった。
【0179】
[めっき触媒の付与]
水:アセトン=80:20(質量比)の混合溶液に対し、溶液全量に対して0.5質量%の硝酸パラジウムを溶解させ、未溶解物をろ紙にて除去した溶液に、上記ポリマー層を有する被めっき体を、15分間浸漬した。
その後、そのポリマー層を有する被めっき体を、水:アセトン=80:20(質量比)の混合溶液中に15分間浸漬して洗浄した。
【0180】
[無電解めっき]
上村工業(株)製のスルカップPGTを用い、下記組成の無電解めっき浴を使用した。
なお、無電解めっき浴の温度を30℃、pHを水酸化ナトリウム及び硫酸で13.0に調整し、これを用いて無電解めっきを行った。無電解めっきの膜厚は、めっき浴への浸漬時間の変化により調節した。
【0181】
(無電解めっき浴の組成)
・蒸留水:79.2質量%
・PGT−A液:9.0質量%
・PGT−B液:6.0質量%
・PGT−C液:3.5質量%
・ホルムアルデヒド(和光純薬製):2.3質量%
【0182】
[電解めっき]
続いて、無電解銅めっき膜を給電層として、下記組成の電気銅めっき浴を用い、3A/dm2の条件で、電気めっきを15分間行った。得られた電気銅めっき膜の厚みはいずれのサンプルも15〜16μmであった。
【0183】
(電気めっき浴の組成)
・硫酸銅(和光純薬製)38g
・硫酸(和光純薬製)95g
・塩酸(和光純薬製)1mL
・カッパーグリームPCM(メルテックス社製)3mL
・水500g
【0184】
<密着性評価>
上記で得られためっき膜に対して、引張試験機((株)エー・アンド・デー製、RTM−100)を用いて、5mm幅について、引張強度10mm/minにて、90°ピール強度の測定を行った。その測定値が、0.5kN/mm以上であれば「◎」、0.35kN/mm以上0.5kN/mm未満であれば「○」、0.2kN/mm以上0.35kN/mm未満であれば「△」、0.2kN/mm未満であれば「×」と評価した。結果を表3に示す。
【0185】
<無電解めっき性評価>
上記の表面金属膜材料の製造において、被めっき体を無電解めっき液に浸漬した際に、無電解めっき膜が形成されれば「○」、無電解めっき膜が形成されない、又は、無電解めっき液内でポリマー膜が剥離してしまった場合を「×」とする。結果を表3に示す。
【0186】
<金属パターン材料の製造、及び絶縁信頼性試験>
得られためっき膜表面に、金属パターン(配線パターン)として残すべき領域にエッチングレジストを形成し、レジストのない領域のめっき膜を、FeCl3/HClからなるエッチング液により除去した。その後、エッチングレジストを3%NaOH液からなるアルカリ剥離液にて除去し、ライン・アンド・スペース=100μm/100μmの配線間絶縁信頼性を測定するための櫛形配線(金属パターン材料)を形成した。
この櫛形配線(各めっき膜のサンプル数:5個)を、ESPEC製HAST試験機(AMI−150S−25)にて、125℃−85%相対湿度(未飽和)、印加電圧10V、2気圧下で200時間放置し、配線間の絶縁性の評価を行った。外観に全く変化無く、絶縁性も全く問題無ければ「◎」、外観に僅かな結晶状の物質が確認されるが、絶縁性に問題が無ければ「○」、外観に結晶状の物質が散見されるが、サンプル数1個が絶縁不良となる場合を「△」、2個以上のサンプルにおいて絶縁不良を起こす場合を「×」と評価した。結果を表3に示す。
なお、上記絶縁性に関する評価においては、実用上「×」が含まれてないことが必要であり、種々の用途へ応用できる点から「○」以上であることがより好ましい。
【0187】
【表3】
【0188】
上記表3より、本発明のインクジェットインクを使用すると、無電解めっき性、めっき密着性、絶縁信頼性試験において優れた結果を示すことが分かった。なお、シアノ基を含むポリマーを用いた実施例においては、めっき密着性及び絶縁信頼性がより優れる結果が得られた。
比較例1においては、絶縁信頼性に関して劣る結果となった。