(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、パターンの更なる微細化のための研究開発が進められている。特に近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、あるいは、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求はますます高くなってきている。
【0003】
これに伴い、微細加工の際の光リソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術の分野においても、より微細でかつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
【0004】
一般に、光リソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。しかし、このことは、フォトマスクに形成されるパターンに求められる精度が半導体基板上に形成されるパターンに比較して緩やかになることを意味するものではない。寧ろ、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには、露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。
【0005】
今日の光リソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクのパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉等の影響によって、
半導体基板上のレジスト膜に本来の形状が転写されない結果となってしまう。
【0006】
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉等の影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)を施した形状がある。
【0007】
このように、回路パターンサイズの微細化に伴い、フォトマスクパターン形成のためのリソグラフィ技術においても、更なる高精度加工手法が求められる。リソグラフィ性能は限界解像度で表現されることがあるが、上述したとおり、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。このため、フォトマスクパターンを形成するための解像限界もまた、半導体基板上にパターン形成する際のリソグラフィに必要な解像限界と同等程度又はそれ以上の解像限界が求められることとなる。
【0008】
ところで、フォトマスクパターンを形成する際には、通常、透明基板上に遮光膜を設けたフォトマスクブランクの表面にレジスト膜を形成し、電子線によるパターンの描画(露光)を行う。そして、露光後のレジスト膜を現像してレジストパターンを得た後、このレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングして遮光(膜)パターンを得る。このようにして得られた遮光(膜)パターンが、フォトマスクパターンとなる。
【0009】
このとき、上述のレジスト膜の厚みは、遮光パターンの微細化の程度に応じて薄くする必要がある。これは、レジスト膜の厚みを維持したまま微細な遮光パターンを形成しようとした場合には、レジスト膜厚と遮光パターンサイズの比(アスペクト比)が大きくなって、レジストパターンの形状の劣化によりパターン転写がうまく行かなくなったり、レジストパターンが倒れたり剥れを起こしたりしてしまうためである。
【0010】
透明基板上に設けられる遮光膜の材料としては、これまでにも多くのものが提案されてきたが、エッチングに対する知見が多いなどの理由から、実用上、クロム化合物が用いられてきた。
【0011】
クロム系材料膜のドライエッチングは、一般に、塩素系のドライエッチングにより行われる。しかし、塩素系のドライエッチングは、有機膜に対してもある程度のエッチング能力を有することが多い。このため、薄いレジスト膜にレジストパターンを形成し、これをマスクとして遮光膜をエッチングすると、塩素系ドライエッチングにより、レジストパターンも無視できない程度にエッチングされてしまう。その結果、遮光膜に転写されるべき本来のレジストパターンが、正確には転写されないことになる。
【0012】
このような不都合を回避するためには、エッチング耐性に優れたレジスト材料が求められるところではあるが、かかるレジスト材料は未だ知られていない。このような理由から、高解像性の遮光(膜)パターンを得るための、加工精度の高い遮光膜材料が必要となる。
【0013】
従来の材料よりも加工精度に優れた遮光膜材料に関し、クロム化合物中に軽元素を所定の量だけ含有させることにより、遮光膜のエッチング速度を向上させる試みが報告されている。
【0014】
例えば、特許文献1(国際公開WO2007/74806号公報)には、主にクロム(Cr)と窒素(N)とを含む材料であって且つX線回折による回折ピークが実質的にCrN(200)である材料を用い、これを遮光膜材料とすることでドライエッチング速度を高め、塩素系ドライエッチング時のレジストの膜減りを低減する技術が開示されている。
【0015】
また、特許文献2(特開2007−33470号公報)には、クロム系化合物の遮光性膜の組成を従来の膜に比較して軽元素リッチ・低クロム組成とすることでドライエッチングの高速化を図りつつ、所望の透過率Tと反射率Rを得るための組成、膜厚、積層構造を適切に設計したフォトマスクブランクの発明が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
クロム系化合物に軽元素を添加した遮光膜用材料を用いる場合、遮光膜は光学膜であるために、そのエッチング速度の向上のみならず所定の光学特性も担保する必要があるが、両者を同時に満足する膜設計の自由度は必ずしも高くない。
【0018】
また、遮光膜用材料としてではなく、遮光膜を加工するためのハードマスク形成用の膜材料としてクロム系化合物に軽元素を添加したものを用いるような場合であっても、その機能面を担保するためには添加可能な軽元素量の範囲は自ずと限られることとなるため、やはり膜設計の自由度は必ずしも高くない。
【0019】
つまり、所定の光学特性を担保しつつエッチング速度の向上を図るという観点からは、軽元素添加といった従来の手法には限界があり、これとは異なる手法によるアプローチが望まれる。このような背景のもと、本発明者らは、クロムとの混合系とした場合に、当該混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素が添加されているクロム系材料を光学膜として用いることを検討してきた。
【0020】
このようなクロム系材料からなる光学膜をスパッタリングにより成膜する際、上記光学膜中でのクロム元素と上記添加金属元素の含有比率を適正な範囲として、所望の光学特性を得る必要がある。この場合、上記金属元素を多く含有しないクロムターゲットを準備し、このクロムターゲットを用いてスパッタ成膜するのが一般的である。しかし、このような成膜方法を採用すると、下記のような問題が生じる。
【0021】
通常、スパッタ成膜に用いるクロムターゲットは焼結により製造されるが、上記添加金属元素は、クロムとの混合系とした場合に液相となる温度が400℃以下である。このため、膜の光学特性が所望の値となり且つエッチング速度が向上する程度に上記金属元素をクロムターゲットに添加した場合には、その焼結温度は必然的に400℃以下とならざるを得ない。しかし、このような比較的低い温度で焼結を行っても、焼結は十分には進行しないおそれがある。その結果、焼結密度が不十分なターゲットとなったり、また、組成分布が不均一なターゲットとなったりなるおそれがある。
【0022】
焼結密度が不十分なターゲットを用いて成膜すると、ターゲットから発生する異物が、膜中の欠陥を発生させてしまうおそれがある。また、組成分布が不均一なターゲットを用いて成膜すると、膜の面内乃至面間の組成分布も不均一となって光学膜としての機能を充分に発揮することができないといった問題を引き起こすおそれがある。
【0023】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、光学濃度などの特性のバラツキが小さくかつ低欠陥高品質の光学膜(機能性膜)であって、且つ、高いエッチング速度を有する光学膜(機能性膜)の製造技術を提供し、当該技術を用いたフォトマスクブランクの製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述の課題を解決するために、本発明に係るフォトマスクブランクの製造方法は、透明基板上に機能性膜を少なくとも1層備えたフォトマスクブランクの製造方法であって、前記機能性膜は、クロム元素と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素と、を含有するクロム系材料からなり、前記機能性膜を成膜する工程において、クロムターゲット(ターゲットA)と、少なくとも1種の前記金属元素を主成分とするターゲット(ターゲットB)と、を同時にスパッタリング(コ・スパッタリング)する、ことを特徴とする。
【0025】
前記機能性膜の成膜工程において、前記ターゲットAおよびターゲットBの少なくとも一方を複数用いる態様としてもよい。
【0026】
好ましくは、前記ターゲットAの総表面積をS
Aとし、前記ターゲットBの総表面積をS
Bとしたときに、S
B<S
Aとする。
【0027】
このとき、好ましくは、前記総表面積S
AとS
Bの比(S
B/S
A)を0.7以下とする。
【0028】
また、好ましくは、前記総表面積S
AとS
Bの比(S
B/S
A)を0.01以上とする。
【0029】
前記機能性膜は、遮光膜、反射防止膜、エッチングマスク膜、およびエッチングストッパ膜のうちの少なくとも1つを含む。
【0030】
或いは、前記機能性膜は、遮光膜または反射防止膜の何れかを含む。
【0031】
若しくは、前記機能性膜は、遮光膜である。
【0032】
本発明に係るフォトマスクブランクは、上記方法により製造されたフォトマスクブランクであって、前記機能性膜中における、クロム元素(Cr)と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素(Me)と、の含有比率([Me]/[Cr])が原子比で0.7以下である、ことを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係るフォトマスクは、上記フォトマスクブランクにパターンを形成して得られたフォトマスクである。
【0034】
さらに、本発明に係るパターン転写方法では、上記フォトマスクを用いて露光を行い、フォトレジストに前記パターンを転写する。
【発明の効果】
【0035】
本発明では、機能性膜を、クロム元素と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素と、を含有するクロム系材料で成膜することとし、該機能性膜を成膜する工程において、面積がS
Aのクロムターゲット(ターゲットA)と、少なくとも1種の上記金属元素を主成分とする面積がS
B(<S
A)のターゲット(ターゲットB)と、を同時にスパッタリング(コ・スパッタリング)することとしたので、ターゲットからの異物の発生が十分に抑制され、安定した品質の機能性膜を得ることができる。
【0036】
このような機能性膜は光学濃度などの特性のバラツキが小さくかつ低欠陥であり、しかも、高いエッチング速度を示すため、所定の光学特性を担保しつつエッチング速度の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0039】
本発明を説明するに先立ち、予め、本発明者らが本発明を成すに至った経過について説明しておく。
【0040】
上述したように、本発明者らは、クロムとの混合系とした場合に、当該混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素が添加されているクロム系材料を光学膜として用いることを検討してきた。
【0041】
本発明者らはその過程で、膜の光学特性が所望の値となり且つエッチング速度が向上する程度に上記金属元素をクロムターゲットに添加した場合には、その焼結温度は必然的に400℃以下とならざるを得ず、その結果、焼結密度が不十分なターゲットとなったり、組成分布が不均一なターゲットとなったりなるおそれがあることを解決すべき課題として認識することとなった。
【0042】
この課題解決のためには、クロムターゲット(ターゲットA)とは別に、上述の金属元素を主成分として少なくとも1種含有させたターゲット(ターゲットB)を準備し、これらを同時にスパッタリング(コ・スパッタリング)することで機能性膜を成膜する方法が有効であると考えられる。
【0043】
上記知見に基づき、本発明に係るフォトマスクブランクの製造方法では、透明基板上に機能性膜を少なくとも1層備えたフォトマスクブランクを製造するに際し、機能性膜を、クロム元素と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素と、を含有するクロム系材料からなるものとし、この機能性膜を成膜する工程において、クロムターゲット(ターゲットA)と、少なくとも1種の上記金属元素を主成分とするターゲット(ターゲットB)と、を同時にスパッタリング(コ・スパッタリング:Co-Sputtering)することとする。
【0044】
なお、本発明に係るフォトマスクブランクの製造方法は、上記ターゲットAおよびターゲットBを其々1つずつ用いる態様の他、何れか一方のターゲットを複数用いる態様や、双方のターゲットを複数用いる態様としてもよい。
【0045】
しかし、上述したようなコ・スパッタリングを行うこととした場合にも、クロムターゲット(ターゲットA)から飛来したクロム微粒子が金属元素含有ターゲット(ターゲットB)の表面に付着し、このクロム微粒子が核となってノジュール(ターゲットBに形成される塊状のもの)を発生させ、これが原因となって成膜中の機能性膜に欠陥を発生させる、といった新たな問題が起こり得る。
【0046】
このようなクロム微粒子は、ターゲットBに供給するスパッタ電力密度(W/cm
2)をある程度大きくすれば除去可能である。しかし、所望の光学特性を有する機能性膜を得るための該膜中での上記金属元素含有量は然程高くはないため、ターゲットBに供給するスパッタ電力(W)は比較的低い値に設定する必要がある。換言すれば、所望の光学特性を有する機能性膜を得ることと、クロム微粒子を除去して機能性膜の欠陥発生を抑制することとは、ターゲットBへのスパッタ電力の供給の観点からは相反する関係にある場合があり得る。
【0047】
従って、ターゲットAに供給するスパッタ電力密度(W/cm
2)とは無関係に、ターゲットBに供給するスパッタ電力密度(W/cm
2)を適正に制御することが求められる。
【0048】
しかし、ターゲットBに供給するスパッタ電力(W)を比較的低い値に設定するために供給電力密度(W/cm
2)を下げると、放電そのものが不安定になってしまうことが生じ得る。この問題を解決するためには、ターゲットBに供給するスパッタ電力(W)を比較的低い値に設定しても安定した放電が得られる供給電力密度(W/cm
2)を実現すればよい。
【0049】
そこで、本発明では、ターゲットBに供給するスパッタ電力(W)を比較的低い値に設定しても放電が不安定にならない供給電力密度(W/cm
2)を実現するために、ターゲットBの総表面積を小さくすることにより、ターゲットBへの適正な供給電力密度(W/cm
2)を実現する。つまり、ターゲットAの総表面積(S
A)とターゲットBの総表面積(S
B)を異ならしめS
B<S
Aとし、両方のターゲットAとBそれぞれに最適な電力密度で電力印加する。ターゲットBの総表面積(S
B)を小さくすることにより、ターゲットBに供給するスパッタ電力(W)が比較的低い値に設定されても、放電が不安定にならない範囲での供給電力密度(W/cm
2)が実現される。
【0050】
このような総表面積S
AとS
Bの比(S
B/S
A)は0.7以下とすることが好ましく、0.01以上とすることが好ましい。
【0051】
このような方法で成膜される機能性膜は、例えば、フォトマスクブランクに設けられる、遮光膜、反射防止膜、エッチングマスク膜、およびエッチングストッパ膜のうちの少なくとも1つを含む。或いは、上記機能性膜は、遮光膜または反射防止膜の何れかを含む。若しくは、上記機能性膜は、遮光膜である。
【0052】
このような方法により、例えば、上記機能性膜中における、クロム元素(Cr)と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素(Me)と、の含有比率([Me]/[Cr])が原子比で0.7以下であるフォトマスクブランクを得ることができる。
【0053】
このようなフォトマスクブランクにパターンを形成して得られたフォトマスクを用いて露光を行い、フォトレジストにそのパターンが転写される。
【0054】
図1は、上記方法によりフォトマスクブランクを製造する際に用いられる装置の構成例を説明するための図である。
【0055】
[スパッタリング成膜系]
この図に示したスパッタリング成膜系100で用いられるチャンバ101内には、クロムターゲット(ターゲットA:102A)と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を主成分とするターゲット(ターゲットB:102B)がそれぞれ1つずつ配置されている。これらターゲット102Aおよび102Bのそれぞれには、電源103Aおよび103Bから独立に電力が供給される。なお、この図にはターゲットAとターゲットBは各1つずつ図示されているが、少なくとも一方のターゲットを複数配置するようにしてもよい。
【0056】
機能性膜の成膜用基板である透明基板104は、回転可能に構成されたホルダ105上に、成膜面がターゲットの表面に対向する状態で保持される。このような透明基板104としては、例えば、石英、CaF
2等の、露光光に対し透明な基板が例示される。チャンバ101には、スパッタリング用ガスを導入するためのガス導入ライン106、および、排気ライン107が設けられている。
【0057】
ターゲットBの表面積S
Bは、ターゲットAの表面積S
Aよりも小さく設計されている。ターゲットAが複数ある場合には上記S
AはこれらターゲットAの総表面積となる。同様に、ターゲットBが複数ある場合には上記S
BはこれらターゲットBの総表面積となる。
【0058】
ターゲットBの総表面積をS
B<S
Aとすることにより、ターゲットBに供給される電力(W)を小さくする必要がある場合であっても安定した放電が可能となるとともに、ターゲットBのノジュール発生を未然に防ぐことが可能となる。
【0059】
なお、上記総表面積の比(S
B/S
A)は0.7以下とすることが好ましく、0.01以上とすることが好ましい。総表面積比を0.7より大きな値とすると、ターゲットAを安定に放電させる条件とした場合、ターゲットBの放電が不安定となる可能性がある。一方、総表面積比を0.01より小さな値とすると、ターゲットAを安定に放電させる条件とした場合、ターゲットBの放電が過剰となり、ボンディング材が溶けるなどの不具合が生じ得る。
【0060】
[スパッタリング用ガス]
スパッタリングガスは、機能性膜の組成に応じて適宜選択される。スパッタリング用の不活性ガスとしては、ネオン、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスが好ましい。更に好ましくは、これら不活性ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス及び炭素含有ガスから選ばれる少なくとも1種の反応性ガスを導入する。スパッタリング用ガスとしてこのような反応性ガスを用いた場合は、反応性のコ・スパッタリングによる成膜となる。
【0061】
上述に酸素含有ガスとしてはCO
2、NO、O
2等がある。窒素含有ガスとしてはNO、NO
2、N
2等がある。炭素含有ガスとしてはCH
4、CO
2、CO等がある。何れの反応性ガスを用いるかは、目的とする機能性膜の組成による。
【0062】
例えば、クロム元素とクロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素とを含有するクロム系材料が軽元素を含まない場合には、スパッタリング用ガスとしてアルゴン等の不活性ガスのみを用いればよい。軽元素を含有する機能性膜を成膜する場合には、窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス、酸化炭素ガス、炭化水素ガス等の反応性ガスの1種類以上、あるいはそれらの反応性ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行えばよい(例えば、特許文献3(特開平7−140635号公報)を参照)。
【0063】
スパッタリングガスの流量は適宜調整される。ガス流量は成膜工程中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。
【0064】
なお、本発明で用いるスパッタリング方式には特別な制限はなく、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マグネトロンスパッタリングなどを採用し得る。なお、スパッタリングの工程中に、透明基板をターゲットに対向する被スパッタ面を回転させることとすると、得られる機能性膜の特性の面内均一性を高める効果が期待される。
【0065】
[ターゲットB]
これらの金属元素を含有する機能性膜を成膜するに際して用いられるターゲットBは、上記金属元素を主成分とするターゲットであって、インジウムターゲット、スズターゲット、ビスマスターゲット、インジウムスズターゲット、インジウムビスマスターゲットなどである。また、これらのターゲットには軽元素が含有されていてもよい。例えば、インジウムと酸素あるいはインジウムと窒素などからなるインジウムと軽元素のターゲットや、スズと酸素あるいはスズと窒素などからなるスズと軽元素からなるターゲット、或いは、ビスマスと窒素あるいはビスマスと酸素等のビスマスと軽元素からなるターゲットなどが挙げられる。このようなターゲットのうち最も好ましいのは、スズまたはスズと酸素からなるものである。
【0066】
なお、上記ターゲットに含有させる軽元素としては炭素などでもよい。また、ターゲットに含有させる軽元素は、窒素、酸素、炭素の1種以上を含むものでよい。
【0067】
クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素(Me)を少なくとも1種主成分として含有するターゲットB中における上記金属元素の含有量(MeとMe以外の元素の組成比:[Me]/[Me以外の元素])は、原子比で0.5以上であることが好ましい。この原子比は0.7以上であることがより好ましく、更に好ましくは1.00以上である。
【0068】
なお、この組成比の値に上限は無く、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素が複数種類含有される場合には、これら金属元素の総量が上記組成比を満足するようにターゲットBを作製する。
【0069】
このようなターゲットBは組成が異なるものを複数用いてもよい。例えば、インジウムターゲットとスズターゲットを用いたり、インジウムからなるターゲットとスズと酸素からなるターゲットを用いたりすることもできる。このように、ターゲットBを複数のターゲットとすることにより、機能性膜の厚み方向の組成分布を様々に設計し得る。
【0070】
[ターゲットへの印加電力]
ターゲットAとターゲットBのそれぞれに供給する電力密度(W/cm
2)は個別に制御可能であり、ターゲットAおよびターゲットBの何れについても、放電が安定する値に設定される。一般には、クロムターゲット(ターゲットA)への供給電力密度は、0.5W/cm
2以上で20.0W/cm
2以下である。クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である少なくとも1種の金属元素を主成分とするターゲット(ターゲットB)への供給電力密度も同様に、一般的には5W/cm
2以上で20.0W/cm
2以下である。
【0071】
ターゲットに供給する電力密度が上記範囲から下方に外れると、ターゲットの放電が不安定となり易く、機能性膜の欠陥が増加するおそれがある。一方、ターゲットに供給する電力密度が上記範囲から上方に外れると、ターゲットの放電が過剰となり異常放電が発生したりターゲットをバッキングプレートに固定しているボンディング材が溶けるなどの不都合が生じ易く、機能性膜の品質が低下するおそれがある。
【0072】
[機能性膜]
このようにして得られる機能性膜は、クロム元素と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素と、を含有するクロム系材料からなる。この機能性膜中における、クロム元素(Cr)と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素(Me)と、の含有比率([Me]/[Cr])は、原子比で0.7以下であることが好ましい。より好ましい原子比は0.4以下であり、さらに好ましくは0.3である。この原子比は0.2以下としてもよい。なお、この原子比の下限は、機能性膜をドライエッチングした際のエッチングレートが従来の機能性膜とほぼ同等となる原子比であり、含有比率が下限であり、通常は0.01以上である。
【0073】
なお、透明基板上に形成される機能性膜は1層構造のものに限られず、複数の層を積層させた機能性膜でもよい。
【0074】
また、機能性膜に含有されるクロムとの混合系が液相となる温度(T
L)が400℃以下である金属元素は1種類に限られず、上記金属元素を複数種含有していてもよい。
【0075】
このような金属元素としては、インジウム、スズ、ビスマス、タリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム
などを例示することができる。このうち、インジウム(T
L=157℃)、スズ(T
L=232℃)、ビスマス(T
L=271℃)、が好ましく、特に、インジウム(T
L=157℃)、スズ(T
L=232℃)が好ましい。
【0076】
本発明に係るクロム系材料からなる機能性膜は、クロム系材料にクロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有しているクロム系材料からなる。このようなクロム系材料としては、クロム金属のほか、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、クロム窒化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0077】
本発明に係るクロム系材料からなる機能性膜を遮光膜(特許文献1や2を参照)やハードマスク膜(特許文献4:特開2007−241060号公報)あるいはエッチングストッパ膜(特許文献5:特開2007−241065号公報)等として用いることとすれば、従来のクロム系材料膜と同等の特性を備え、しかも、ドライエッチング速度が向上した膜を得ることができる。その結果、クロム系材料膜に特別な設計変更を加えることなく、無機材料膜のパターニング精度を向上させることができる。
【0078】
[遮光膜]
本発明に係る機能性膜を遮光膜とする場合、その膜は、クロム元素とクロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素のみを含有するクロム系材料からなる膜であってもよいが、クロムと上述の金属元素との酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物又は窒化炭化物のクロム系材料からなることが好ましい。特に、酸素、窒素、炭素の含有量が化学量論量よりも少ないメタルリッチ組成の膜(不飽和金属化合物膜)であることが好ましい。
【0079】
上述のとおり、上記金属元素としては、インジウム、スズ、ビスマス、タリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム
などを例示することができる。このうち、インジウム(T
L=157℃)、スズ(T
L=232℃)、ビスマス(T
L=271℃)、が好ましく、特に、インジウム(T
L=157℃)、スズ(T
L=232℃)が好ましい。
【0080】
本発明者らの検討によれば、遮光膜中の上記金属元素の含有量は、0.01原子%以上であることが好ましい。このような遮光膜は、一般的な塩素系ドライエッチング条件下において、エッチング速度が有意に向上する。
【0081】
なお、一般的な条件で塩素系ドライエッチングした際の遮光膜のエッチング速度を向上させる目的のためには、厚み方向の特定の領域において、上記金属元素の含有量が0.01原子%以上であればよい。なお、金属元素の含有量は好ましくは0.5原子%以上であり、さらに好ましくは1原子%以上である。
【0082】
上記金属元素の含有量に特別な上限はないが、含有量が過剰となると所望の特性を得ることが困難となる。この値は一般には40原子%以下であるが、20原子%以下とすることが望ましい。
【0083】
また、遮光膜中での上記金属元素の厚み方向の分布(深さ方向プロファイル)は一定である必要はなく、膜の厚み方向(深さ方向)に濃度変化を有するプロファイルであってもよい。例えば、遮光膜の基板側から表面側にかけて、上記金属元素の濃度が徐々に低くなるプロファイルとすると、塩素系ドライエッチングを行った際の断面形状を良好なものとすることができる。
【0084】
遮光膜の構造には種々の態様があり得る。例えば、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有するクロム系材料からなる層と、該金属元素を含有しないクロム系材料からなる層を積層させたものを遮光膜として用いることもできる。
【0085】
例えば、上層をクロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有しないクロム系材料からなる層とし、下層をクロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有するクロム系材料からなる層とした積層構造とすれば、上層(表面側)のエッチング速度に対して下層(基板側)のエッチング速度のみを向上させ、塩素系ドライエッチング時の断面形状を良好にすることができる。
【0086】
このような積層構造にも種々のバリエーションがあり得る。例えば、上記金属元素の含有量が互いに異なるクロム系材料からなる複数の層を積層させた構造としてもよい。このような積層構造とする場合においても、ターゲットAとターゲットBに印加する電力は各ターゲットの放電が安定となる範囲で制御される。なお、ターゲットBのスパッタリングが一時的に不要となることがあり得るが、その場合には、ターゲットBへの電力供給を完全に停止することなく、放電が不安定とならない限度の電力を供給しておくこととしてもよい。これにより、一旦停止した電力供給を再度開始した際の異常放電の発生を防止することができる。
【0087】
積層構造とした遮光膜が反射防止層と遮光層を積層させた構造の場合(遮光性膜)においては、反射防止層についてのみ上記金属元素の含有量を0.01原子%以上としたり、逆に、遮光層についてのみ上記金属元素の含有量を0.01原子%以上とする等の態様も可能である。
【0088】
なお、本発明のクロム系材料からなる機能性膜をフォトマスクブランクを構成する遮光膜として用いる場合、従来の無機膜と同様に、所望の光学的機能や化学的機能を担保するべく、必要に応じて、酸素や窒素、更には炭素や水素等の軽元素が適宜添加される。
【0089】
この場合、ハーフピッチ40nmのノードのパターンを形成するため、遮光膜の膜厚を75nm以下とし、レジストの膜厚を150nm以下とすることができる。
【0090】
[ハードマスク膜]
クロム元素と、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素と、を含有するクロム系材料からなる機能性膜は、例えば、フォトマスクブランクの微細加工用のハードマスク膜として用いることができる。この場合、その好ましい態様として、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素1種以上を主成分とするクロム金属膜の他、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有するクロムと酸素、窒素及び炭素から選ばれる1種以上の軽元素を含有するクロム化合物の膜を例示することができる。
【0091】
このようなハードマスク膜に用いられるクロム系材料としては、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム酸窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、或いは、クロム酸窒化炭化物を挙げることができる。
【0092】
このようなクロム系材料からなる機能膜を、50nm以下のレジストパターンを形成するためのフォトマスク製造用のフォトマスクブランクに形成されるハードマスク膜として用いる場合には、膜厚が1〜30nmであることが好ましく、特に1〜10nmであることが好ましい。
【0093】
[エッチングストッパ膜]
本発明に係るクロム系材料からなる機能膜をフォトマスクブランクのエッチングストッパ膜として用いる場合、上述のハードマスク膜と同様な材料を選択することができる。
【0094】
また、そのような材料のエッチングストッパ膜の厚みを1〜30nmとすると、エッチングストッパ膜の加工において粗密依存性に起因する問題を発生させることがない。しかも、エッチングストッパ膜の下方に設けられた膜や透明基板を加工する際のエッチングマスク効果も良好である。従って、エッチングストッパ膜の下方に設けられた膜や透明基板のエッチング加工精度を高めることができる。なお、エッチングストッパ膜の厚みを2〜20nmとすると、更に良好なエッチングマスク効果を得ることができる。
【0095】
[ドライエッチング]
本発明により得られるクロム系材料からなる機能性膜は、クロムとの混合系が液相となる温度が400℃以下である金属元素を含有しない従来のクロム系材料膜と同様に、酸素を含有する塩素系ガスによりドライエッチングすることができる。この機能性膜の同一条件下でのエッチング速度は、従来のクロム系材料膜に比較して有意に高い。
【0096】
このようなドライエッチングは、例えば、塩素ガスと酸素ガスの混合比(Cl
2ガス:O
2ガス)を、体積流量比で1:2〜20:1とし、必要に応じてHeなどの不活性ガスを混合したガスを用いて行うことができる。
【0097】
以下に、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0098】
[実施例]本実施例では、一辺が152mmで厚みが6mmの矩形の石英基板上に、直径が6インチのクロム(Cr)ターゲット(ターゲットA)と、直径が5インチのスズ(Sn)ターゲット(ターゲットB)を準備した。従って、ターゲットAとターゲットBの総表面積の比(S
B/S
A)は、25/36(約0.694)である。これらのターゲットに異なる電力を印加してDCスパッタ法によるコ・スパッタリングを行い、Snを含有するCrON膜を厚み44nmで成膜した。このCrON膜の組成は、Cr:Sn:O:N=4:1:5:2(原子比)であった。従って、膜中における、CrとSnの含有比率([Sn]/[Cr])は原子比で0.25である。
【0099】
CrON膜中のスズ含有量は、クロムターゲットおよびスズターゲットの印加電力をそれぞれ、1000Wおよび400Wに設定することで制御した。なお、スパッタリングガスは、Ar:O
2:N
2=5:3:6の混合ガスである。スパッタリング時のチャンバ内のガス圧は0.1Paであった。
【0100】
上記CrON膜の成膜を10回実施し、得られた10サンプルにつき、光学濃度のばらつきと欠陥数について評価した。
【0101】
光学濃度のばらつきは、上記10サンプルについて、膜中央部の波長193nmにおける光学濃度を測定し、サンプル間のばらつきを評価した。その結果、光学濃度のばらつきは±0.02%であった。
【0102】
欠陥数の評価は、上記10サンプルについて、0.2μm以上の欠陥を日立電子エンジニアリング(株)製GM−1000にて計数し、平均値を求めた。その結果、欠陥数は0.8個/サンプルであった。